Institute for Global Environmental Strategies Climate Change Group 国際協力による温室効果ガス削減 田村堅太郎 気候変動グループ (公財)地球環境戦略研究機関 アウトライン 1. 国際協力による温室効果ガス削減の重要性 2. これまでの取り組み 3. 今後の課題 2 1.国際協力による温室効果ガス 削減の重要性 3 国際協力による温室効果ガス削減の重要性(1) • 2度目標(産業革命前からの地球平均気温上昇を2度以下に 抑える)達成には、先進国の取り組みのみならず、急増する途 上国からの排出をも抑制する、世界規模の取り組みが急務 • ただし、先進国は、温暖化問題への歴史的な寄与及び相対的 に高い能力(経済力、技術力)から率先した役割を果たす義務 予測排出量と安定化排出経路 附属書I国(先進国) 非附属書I国 (途上国) • 現在、先進国と途上国の排 出の割合はおおよそ50:50 • 2050年、排出量の世界半減 とは、仮に先進国の排出が ゼロとなった場合でも、途 上国は排出を増やすことは できな • 先進国のみの努力では低レ ベル安定化達成不可能 550ppm安定化排出経路 450ppm安定化排出経路 (出典) Kainuma, et al 2009 4 国際協力による温室効果ガス削減の重要性(2) • 一国低炭素発展の限界 • 経済のグローバル化(財のサプライチェーンの多国籍化) • 一国が自国のエネルギー集約産業を縮小し経済の低炭素化を果たし ても、他国からの輸入によってその消費分を充てた場合、全体では変 化なし 領域内排出量の純変化及び各国と非附属書B 国間の純排出移転量の変化(1990‐2008年) • 貿易される商品及びサービスの 生産に伴う世界全体の排出量 は、1990年の43億トンCO2から 2008年には78億トンCO2に増加 • それに伴い、国際貿易による先 進国から途上国への排出移転量 は、1990年の4億トンCO2から 2008年の16トンCO2に増加してお り、これは京都議定書における 削減量を上回る *は京都議定書における削減目標を示す (出典)Peters, et al. 2011 5 国際協力による温室効果ガス削減の重要性(3) • 効率性 – 排出削減地点は問題ではないた め、低コスト削減機会を活用するメ リット 技術固定ケースの2020年排出量(2005 年時点の温暖化対策レベルが2020年ま で変化しないと想定した場合の排出量) からの削減可能性 – 先進国に比べ、途上国では安価な 排出削減余地が大きく、このような 削減機会を実現してくことが重要 – 海外オフセット • 海外で行った排出削減で、自 国の排出増を相殺(オフセット) する仕組み。例として、京都議 定書のもとでのクリーン開発メ カニズム(CDM) 途上国においては、0ドル以下の削減可能量が合 計160億トン、20ドル以下の削減可能量が合計 230億トンと、安価な削減費用の削減可能量は極 めて大きく、海外での削減は極めてコスト効率的 (出典)RITE DNE21+モデル 6 国際協力による温室効果ガス削減の重要性(4) • 低炭素発展を目指 す途上国の後押し – 労働集約型、資源 大量投入型発展パ ターンの限界の認 識(中国等) – 「中所得国の罠」に 陥らないための方 策としての位置づけ (タイ、ベトナム等) 7 2.これまでの取り組み ‐ 資金・技術支援 ‐ 市場メカニズム 8 何に取り組まなければいけないのか? • 国家開発計画の中に低炭素発展を長期的な視点で 主流化 – (2020年までの)「途上国の適切な緩和行動 (NAMA)」を長期開発計画に位置付ける • 法制度、規制導入等による「外部性の内部化」によ る市場の創出が必要 – 策定・導入のみならず実施・運用への支援 – 民間企業への投資環境整備、インセンティブが 必要 • 技術のロックイン(固定化)を回避するための早期 実施 9 資金支援(1) • 地球環境ファシリティ(GEF)が国連気候変動枠組条約 (UNFCCC)の資金メカニズムの運営主体 2030年に途上国で必要と – GEF信託基金 – UNFCCC下、2つの基金 合計 約51億ドル (UNFCCC枠外を含める と約270億ドル) される年間資金規模 緩和:680億ドル 適応:280~670億ドル • これまでの取り組みの評価 – 「基金はあっても資金はない」 – プロジェクト・ベース→制度づくり、知識の蓄積は限定的 • 不定期の国別報告書(排出インベントリ含む) • 行動計画等の策定支援 • 個別技術支援プロジェクト – 市場改革プログラム(技術規格やラベル表示の実施) → 市場整備のみで 十分か? 10 資金支援(2) • 資金に関する先進国のプレッジ(COP15、2009年) – 短期資金:2010‐2012年の3年間で300億ドル(日本は 174億ドルを実施) – 長期資金:2020年までに年間1,000億ドル(官民合わせ て)を動員 • 緑の気候基金(GCF)の設立(COP16) – 長期資金の主たるチャンネル – 具体的な制度設計や資金調達手法はこれから – 「民間セクターファシリティ」の設置:どのように民間事業者か らの投資を促進しうるか、議論が始まったところ • 途上国からの報告の定期化(COP16) – 4年毎の国別報告書、隔年更新報告書(インベントリ含む) 11 技術支援 • 途上国からは「UNFCCCの下での具体的な技術移転が 十分ではない」との評価 – 技術ニーズ評価の実施 – 技術移転の障壁の同定 - 情報システムの構築 • 技術メカニズムの設立へ(COP15、2009年) 締約国会議(COP) 年次報告 技術執行委員会 (TEC) • 技術ニーズの概要 及 び技術開発・移転に関 する政策等の分析提供 • 技術開発・移転の障害 に関する提言 • 技術ロードマップや行動 計画の活用促進 等 ガイダンス 気候技術センター・ネットワーク (CTCN) 気候技術センター (UNEPコンソーシアム) ネットワーク • 途上国の要請に基づき、技術開発・移転の推進 • 各国、地域における取り組みの連携促進 等 技術メカニズム 12 市場メカニズム • 京都議定書の下でのクリーン開発メカニズム(CDM) – GHG排出量の上限(総排出枠)が設定されていない途上国(非附 属書I国)において排出削減プロジェクトを実施し、その結果生じ た排出削減量に基づきクレジット(CER)が発行される。発行され たCERが、先進国(附属書I国)の総排出枠に移転されることで、 その先進国の総排出枠が増える。他方、途上国側は、事業の投 資、技術移転等のメリットを享受。 13 (出典)『IGES 図解京都メカニズム』 CDMの成果と限界(1) • CDMの成果 – 5,000を超える登録 済み案件(2012年末) – 合計削減量は22.7 億トン(2012年末) • 参考:日本の年間排出 量は約12~13億トン – CERの年間取引総額 は74億米ドル (2007)、65億ドル (2008) CDMプロジェクトの登録件数(累積) 6,000 5,000 4,000 3,000 2,000 1,000 0 • 参考:GEFの気候変動 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 緩和分野での資金供 (出典)『IGES CDMプロジェクト・データ分析』 与額は34億米ドル (1991-2010) – 途上国で市場メカニズムへの理解向上、国内制度導 入への関心(韓国、中国、インド、タイ、インドネシア、ベトナム等) 14 CDMの成果と限界(2) • CDMの限界 – プロジェクトベース 地域別CDMプロジェクト登録件数(累積) • スケールアップの必要性 – 地理的偏在 • アジアの突出 • 中国(2676件)、インド(959 件)、ブラジル(223件) • LDC49ヵ国中、19か国55件 プロジェクト偏在 – プロジェクトの偏在 • 風力(1515件)、水力(1468 件) • 交通(18件)、省エネ(144 件) (以上、登録案件ベース) アフリカ・中近東 アジア ラテンアメリカ その他 (出典)『IGES CDMプロジェクト・データベース』より作成 15 クレジット価格の推移 • クレジット価格の下落 – 需給不均衡(需要<供給)→需要の拡大が不可欠(不透明) 16 今後の需給バランス • 京都議定書第二約束期間(2013-2020年) – 需要拡大の見通しは立たない(最大30億トン) • EU排出量取引制度では買取り制限の設定(LDCプロジェ クト限定、特定プロジェクトタイプの不買) • 未批准の米国に加え、カナダが議定書から脱退、日本、 ロシア、ニュージーランドは第二約束期間に不参加 – 不参加の国は、CERを含む京都ユニットの他国からの取得(二次 取得)は不可、唯一CDM事業投資への参加によるCER取得(原 始取得)が可能 – 第一約束期間中、日本への京都ユニット移転の7割が二次取得 – 他方、40億~70億トン規模の供給量が予測(IGES, 世界 銀行、Point Carbon、UNEP Risø等) – 供給過多の状況が続く状況 17 今後の市場メカニズムのあり方 • 枠組条約の下で議論 市場メカニズムを含む 様々なアプローチ • 費用効率的な削減行動を促すあら ゆるアプローチを包括する広義の 概念 • 市場アプローチと非市場アプローチ 方を含む • 日本は二国間オフセット・クレジット 制度(JCM)を提案 • 分権型ガバナンス(二国間ベースで 運営管理)を志向 • ただし、COPのガイダンスと権限の下 で、様々なアプローチの枠組みを開 発(COP18決定) • 今後、「ガイダンスと権限」の強度が どの程度になるかが注目される 新市場メカニズム • COPのガイダンスと権限の下で運営さ れ、先進国の数値目標の達成に用い ることのできる市場メカニズムと定義 • EUは、セクトラル・クレジット・メカニズ ム(SCM)やセクトラル・トレーディン グ・メカニズム(STM)を提案 • 中央集権型ガバナンス(国連の下で の理事会等で運営管理)を志向 18 日本の二国間メカニズム (Joint Crediting Mechanism) • 背景 – CDMへの不満:1)煩雑さ、2)追加性基準などが厳格すぎ、3)省エ ネ、高効率石炭火力等が活かされず不公平 – インフラ輸出戦略としての性格 – 日本の中期目標の達成手段の必要性 (出典)環境省資料 19 JCMの今後の市場メカニズムの中での位置づけ 対象範囲 今後の市場メカニズム 政策 (利用可能な先進国の) 削減目標値の法的拘束性・ 遵守システム セクター プログラム CDM プロジェクト 中央集権型 法的拘束力なし 緩慢な遵守システム JCM 法的拘束力あり 厳格な遵守システム 分散型 ガバナンス (運営・管理) 20 今後の課題 • 資金・技術支援の課題 – 制度的アレンジメント(ハコもの)中心の議論 – 途上国のニーズを適切に反映し、パッケージとしての支援を提供 できるか – GCF民間セクターファシリティの制度設計 – 国レベルのみでなく、自治体間や途上国同士(南南協力)を促進 する仕組み • 市場メカニズムの課題 – CDM • 需給不均衡をどう是正するか – 新しいメカニズム • さまざまな技術的な課題:対象範囲はプロジェクトのみか、セクター全体、政 策も?クレジット発生の閾値は?削減量に関して投資国とホスト国とのダブ ルカウンティングをどう防ぐか? • 資金メカニズムによる、民間事業者の投資を促進するための制度基盤づく 21 り支援などと補完的に進めていく必要性
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