マイナス金利:投資への5つの潜在的な影響(PDF/268KB)

マイナス金利:投資への5つの潜在的な影響
2016年 3月 7日
ゼーン・ E ・ブラウン
パートナー、債券ストラテジスト
マイナス金利は主要資産クラスにどのような影響をもたらすのでしょうか?以下に見ていき
ます。
要旨

世界各国の中央銀行によるマイナス金利政策導入の広がりは、意図しているかどうかを
問わず、以下の 5 つの重要な影響を招く恐れがあります。
1) マイナス金利政策を導入している諸国の通貨安が進む可能性があります。
2) マイナス利回りは信用力の高い社債にも及ぶ恐れがあります。
3) 株式とハイイールド債は恩恵を受けることが予想されます。
4) マイナス金利政策を導入していない諸国ではより良好な投資環境が予想されま
す。
5) 他の投資対象への影響は一様ではないと見込まれます。

鍵となる論旨 — マイナス金利政策導入の広がりは、中央銀行各行が金融政策の限界
に近付いていることを示唆しています。
世界の中央銀行各行によるマイナス金利政策導入の動きが広がりを見せる中、マイナス金利に
よる 5 つの投資への影響-意図的かどうかを問わず-がどう進んでいくかを検証してみることは
有益なことだと考えます。
1) 通貨安
マイナス金利政策を導入している中央銀行はこの政策が、多くの場合に通貨安を通じて、経済力
の強化とインフレの拡大をもたらすと考えています。実際、この政策の最初の意図的な効果は通
貨安でしょう。こうした効果は、日本がマイナス金利に踏み切った際に円に対して直ちには現れま
せんでしたが、ユーロ、スイスフラン、スウェーデンクローナ、デンマーククローネに関しては、そ
れぞれの中央銀行がマイナス金利政策を導入すると明らかにこれらの通貨は通貨安の特性を
帯びる形となりました。一般に、マイナス金利の国では債券投資の魅力が弱まり、海外の投資機
会に資金が引き寄せられてその国の通貨に売り圧力がかかるため、通貨は下落します。さらに
中央銀行がマイナス金利政策を進めること自体が、投資家から見れば、根本的な経済低迷と政
策効果のなさによる一種の絶望感を示していることになりかねないのです。
1
2) 信用力の高い債券にもマイナス金利が波及
2 番目の投資への影響は信用力の高い債券価格が上昇することです。これはこうした債券の利
回りがまずゼロに達し、しばしばマイナスの領域に突入するほどまで債券価格が上昇することに
より起こります。こうした動きは一般にまず国債で見られますが、ユーロ圏やスイスで見られるよ
うに信用力の高い社債にまで広がる可能性があります。例を挙げると、ロイターによればサノフィ
社やグラクソ・スミス・クライン社が発行した 2 年債は現在マイナス利回りで取引されています。マ
イナス金利政策導入諸国ではまずは短期債でマイナス利回りが観測され、それが長期債にも広
がっています。ドイツ銀行は最近のレポートでスイスの AA 格社債の利回りが期間 10 年に至る
までマイナスとなっていると報じています。
マイナス金利政策では、それに付随して講じられる量的緩和政策(QE)による債券買い入れが同
時に行われることが多いため、それぞれの政策による明確な影響を見極めることは難しいと言え
ます。しかしながら、マイナス金利政策を講じている全ての諸国の債務で時に 10 年という長期債
の間でもマイナス金利となっている一方で、積極的な量的緩和政策を講じながらもマイナス金利
となっていない米国のような非マイナス金利政策諸国が存在するという事実が、マイナス金利政
策の影響を浮き彫りにしています。
3)株式とハイイールド債にとっては追い風
マイナス金利の 3 番目の影響は株式と信用力の低いハイイールド債が上昇する可能性があると
いう点です。信用力の高い債券利回りがマイナスとなる中では、投資家が、リスクがより高い債
券であっても、より魅力的なリターンを追い求めることはもっぱら理にかなっていると言えるでしょ
う。行動経済学のリサーチでは、投資家の間での損失回避志向は投資姿勢を変化させるのに強
力な誘因となり得ることが示されています。投資家は他のあらゆる分野での損失がほぼ明らかと
なるなか、それを回避するためよりリスクの高い資産への投資意欲を示しています。
残念ながら、一国におけるマイナス金利政策動向と株式市場との間の相関関係を特定すること
は簡単ではありません。実際、ここ 1 年間のマイナス金利政策導入諸国の株式市場パフォーマ
ンスは不調に終わっています。政局の変化や世界需要の低下、輸出の減少、コモディティー(商
品)価格の下落といった他の要因が、たとえマイナス金利政策を起因とする株式や景気敏感債
券への乗り換えによって何らかのプラス効果があったとしても、それを打ち消してしまっている可
能性があります。
4) 非マイナス金利政策諸国にとって投資環境は良好
別の見方では、マイナス金利政策導入国は低迷経済からの脱却に躍起になっていると投資家が
判断している可能性があります。とりわけ通貨安も見込まれる中では、こうした国での株式や景
気敏感債券は魅力に乏しくリスクが大きすぎると捉えられる恐れがあります。しかしながら、経済
が堅調な別の国での同様の株式や景気敏感債券への投資は、特に通貨高も予想される中では
魅力的に映っているはずです。したがって、マイナス金利の 4 番目の投資への影響は、経済の
堅調な非マイナス金利政策導入国における厳選された投資にとってはより好ましい投資環境が
生み出されているということでしょう。
現在、米国は世界の主要経済国として抜きん出ており、持続的経済成長に向けた背景要因を提
供できる可能性があります。株式は適正価値水準にあるとともにハイイールド債は歴史的にも魅
力的な利回りスプレッドにあり、また通貨はマイナス金利政策採用諸国通貨のパフォーマンスを
上回る潜在力を秘めています。また信用力の高い社債でさえも米国の方が魅力的です。マイナ
ス金利政策導入国の多くの信用力の高い債券は、利回りがマイナスで、格付けも米国の同等社
債と比べて低く、しかも通貨安を伴うためです。こうした点を踏まえると、マイナス金利政策が他
の諸国に広がりしかもその内容がより積極的な形で遂行されている現状を考えた場合、この先
予想されるひとつの重要な結末は海外から米国市場への投資の拡大だと言えるでしょう。こうし
た海外からの投資拡大が、2015 年 12 月の米連邦準備理事会(FRB)による利上げ後もなぜ米
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国債利回りが全般に低く推移しているのかの説明に役立つかもしれません。とはいえ、これまで
のところ、米国ハイイールド債に対する海外投資家の関心は大きな影響をもたらすには至ってい
ないようです。米国ハイイールド債の利回りスプレッドは依然として歴史的に見て高い水準にあり
ます。
5) 他の投資対象への様々な影響
その他の投資対象もまたマイナス金利の影響を明らかにしています。 価値の保存対象とされる
金や不動産、商品といった投資先の魅力が増すかもしれません。マイナスの影響について言え
ば、ユーロ圏と日本の銀行株は、日銀がマイナス金利を導入した 2016 年 1 月末以降、特に大き
な圧力を受けています。マイナス金利は、それが預金者に転嫁されなければ銀行の収益に打撃
を与えます。これまでのところ、銀行は顧客や預金を失うことを恐れてこうした転嫁は行っていま
せん。もし欧州中央銀行(ECB)と日銀がマイナス金利を一段と推し進めるならば、銀行収益はさ
らなる打撃を受けかねないでしょう。銀行は一段と高い調達コストに直面する可能性があり、それ
が一層深刻な信用懸念につながりかねません。この先銀行が預金者にマイナス金利を転嫁する
決断をすることになれば、より魅力的な代替投資先は現金となり、その結果、銀行からの預金引
き出しによる金融危機、さらには信用危機を招く恐れがあります。
総括
こうした結末は極端なシナリオである一方で、現在のマイナス金利政策にほとんど修正を加えな
くともこうしたシナリオが現実に起こり得ることも事実です。繰り返しますが、結論は、我々は金融
政策の限界に近づきつつあるということなのです。恐らく潜在的な影響がより広範に検証され理
解されれば、マイナス金利政策がもたらす最良の結果は、金融政策が有効的なレベルの限界を
超えてしまっている事実が認識されることだと言えるでしょう。手腕が徐々に衰えつつある中央銀
行に頼るのではなく、むしろ政府は景気刺激財政政策に再び重点を置くことが、より力強い経済
成長と高インフレに向けた効果的な手段であるということに気付いていくはずでしょう。
リスクについての注記:債券の投資価値は金利変動によってまた市場動向に応じて変化します。
一般に、金利上昇時には債券価格は下落し、逆に金利低下時には債券価格は上昇します。ジ
ャンク債と時に称される高利回り債ではより高い価格変動リスク、流動性の低さ、適時の元利払
い不履行リスクを伴います。債券はまた期限前償還リスク、信用リスク、流動性リスク、金利リス
ク、そして全般的な市場リスクといった他のリスクも伴う可能性があります。通常では、より期間
の長い債券は金利変動に対してより敏感に反応します。つまり償還日までの期間が長いほど、
金利変動が債券価格にもたらす影響度は高くなります。低格付け債は高格付け債に比べて高
いリスクにさらされる可能性があります。いかなる投資戦略もすべての市場変動を克服すること
はできず、また将来の投資成果を保証することはできません。
見通しや予想は現在の市場情勢を基にしたものであり予告なく変更されることがあります。予想
を保証ととらえるべきではありません。
金融市場のトレンドに関する記述は現在の市場情勢を基にしたものでありこの先変動する可能
性があります。市場が将来同様の状況下で同じようなパフォーマンスを生む保証は一切ありませ
ん。
特定の証券と発行体についての記述は例示を目的としたものに留まり、それらの証券の購入や
売却への推奨を意図したものでなくまたそう捉えるべきではありません。ここに挙げた証券はロ
ードアベットが運用するポートフォリオに含まれる可能性もまた含まれない可能性もあります。ポ
ートフォリオに含まれる場合、その証券を将来も保有し続けることを表明するものではありません。
前述の経済レポートで示された見解は発表日現在のものであり、今後その内容が変更となる可
能性があります。また弊社の見解を表明するものではありません。本資料は特定の投資または
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一般的な市場に関する予測、リサーチ、投資アドバイスとしての利用を目的として作成されておら
ず、また法的・税務上の助言を提供するものでもありません。本資料は当社が信頼できると思わ
れる情報に基づいて作成されておりますが、当社はその正確性および完全性について保証する
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