計測自動制御学会論文集,Vol. 41, No. 10, pp. 797-802, 2005. 計測自動制御学会論文集 ( ) 等価入力外乱推定による外乱除去性能の向上 余 錦 華 ・大 山 恭 弘 小 林 裕 之 ・忻 欣 £ £ £ ££ えで,その推定値を融合した新しいサーボ系を構築し,外乱 はじめに 除去性能の向上を図る。 近年,制御系の制御性能を高めるために,外乱を推定す る手法が数多く提案されている ∼ 。しかし,提案手法の ほとんどは出力の微分値を必要としている。一方, ∼! は 出力の微分値が必要ではないが, ," は未知入力外乱にラ ンク条件を課し,# は外乱の最大値に関する情報が必要であ り,! は制御対象の逆モデルが外乱推定に直接用いられてい た。これらの問題点を解決するために,$ は外乱曲率モデル に基づく手法を提案した。この手法は出力の微分値を必要と しないだけではなく,不安定なゼロ・極消去を引き起こす恐 れのある制御対象の逆モデルも直接に用いていない。しか し,外乱推定に制御対象の状態が必要であった。 外乱抑制問題においては,制御入力を用いて外乱を抑制 しなければならないため,外乱そのものを推定するよりは, 新しいサーボ系 本章では,等価入力外乱を定義し,その存在性を示した 後,等価入力外乱の推定器を従来のサーボ系に挿入し,新し いサーボ系を構築する。 等価入力外乱 に示す以下のような線形時不変な制御対象を考 える。 % & % % & % 上式において, とする。 ' % ' % () 制御入力チャンネルにおいて,出力に同じ効果をもたらす等 d(t) Bd u(t) B 価的な入力信号(本論文ではこれを等価入力外乱とよぶ)を 推定することが望ましいと考えられる。 本論文では,まず,等価入力外乱を定義し,次に,制御対 . x(t) 象の出力を用いた外乱推定の新しい手法を提案する。そのう !" # $%& ' % ( )% * + " )% (,' %+ ) (,' %+ ) 東京工科大学バイオニクス学部 東京都八王子市片倉町 岡山県立大学情報工学部 岡山県総社市窪木 s−1I x(t) C y(t) A * − d(t) u(t) B . − x(t) −1 s I A − x(t) − y(t) C * - . & ' + /$( 0 d(t) Plant Internal Model . xR (t) xR (t) BR s−1I r(t) − Disturbance Estimator u f (t) u(t) KR − AR Bd ~ d(t) F(s) . x(t) B s−1I y(t) x(t) C A ^ d(t) T B BTB − . ^ x(t) B State Observer L −1 s I ^ x(t) − C ^ y(t) A KP $1 %&' % この制御対象に関して,以下の標準的な仮定をおいておく。 [仮定 ] % は可制御であり,% は可観測である。 本 論 文で は 1 入力 1 出 力(()(*)の 場合 ,す な わち , & と & の場合だけ考える。外乱は制御入力 と違うチャンネルから印加される可能性があるため, と の値および次元は違うこともあり,特に,外乱の入力チャ ンネルは 以上になる可能性もある。一方,外乱は制御入 力チャンネルより印加される( )とすると,制御対象 は以下となる。 +% & +% +% & +% ' % ' +% (") したがって,等価入力外乱を以下のように定義する。 & ,,状態 % & , とする。外乱 % に対する制御対象 % の出力を % とし,外乱 +% に 対する制御対象 %" の出力を +% とする。すべての , に対して,+% & % が成り立つならば, +% は % の等 価入力外乱と呼ぶ。 % により生じる出力が % と なるならば, という概念に基づいて, 制御入力チャンネルにおける等価入力外乱 +% もし,外乱 が構築できることが知られており,以下の補題を得る。 % に印加される外乱 % により に属す場合,その等価入力外乱 は必ず存在する。 生じる出力が +% -% & -% ' % ' .% -% / (#) +% および等価入 が成り立つ。また,制御対象 %" の状態 + 力外乱の真値 % について, +% & +% ' .% ' +% / (!) が成り立つ。ここで, +% & -% % (0) と分解し,それを式(!)に代入して整理すると -% & -% '% ' +% ' % % (1) 【定義】 制御入力 % [補題 ] 制 御 対 象 展開する。 # において,状態オブザーバに関して, 等価入力外乱の推定 本論文で提案する新しいサーボ系の構成を に示す。 を得る。一方,逆システムの実現アルゴリズム より状態 % を生成する制御入力 2 % は存在し,以下を満たす。 % & % ' 2 % 上式を式(1)に代入し,等価入力外乱の推定値を -% & +% ' 2 % (3) ($) として整理すると, -% & -% ' .% ' -% / (4) を得る。式($)と(4)は,等価入力外乱をもつ制御対象の 状態を常にオブザーバの状態と同じく, -% とした場合,実 状態との差は等価入力外乱の推定誤差に帰着できることを 意味する。 & ,,式 %# と %4 より テムにおいて, と は状態フィードバックゲイン, -% & .% -% / ' % % (,) が得られる。さらに, -% をローパスフィルタ % に通す。 ここで, % は外乱推定の周波数帯域を選定する働きを持 するローバスフィルタである。 5% このシステム構成は,従来のサーボ系(内部モデル,状態オ ブザーバおよび状態フィードバック)と等価入力外乱を推定 する外乱推定器とを融合したものと考えられる。このシス はオブザーバゲイン, % は外乱推定の周波数範囲を選定 以下では等価入力外乱を持つ制御対象 %" を対象に議論を つ。したがって,最終的に得られた等価入力外乱の推定値 は 5 % & % - % () 計測自動制御学会論文集 第 巻 第 号 年 月 F(s) G(s) ~ d(t) ^ d(t) A . ∆x(t) ∆x(t) s−1I B −1 u(t) B KP . x(t) s−1I BT BTB −C L C −BR x(t) . xR (t) A s−1I xR (t) AR KR '% ' -& 1 ' + 5 % と - % はそれ により与えられる。ただし,ここで, ぞれ信号 5% と -% のラプラス変換である。 備考:等価入力外乱を推定するので,得られた等価入力外 乱の印加チャンネルは,実際の外乱の印加チャンネルとは違 う。そのため,一般的に同一次元オブザーバを用いる必要が ある。また,外乱が存在する場合,その影響により推定され た等価入力外乱をもつ制御対象の状態は実際の制御対象の 状態とは異なる。 外乱除去 等価入力外乱の推定結果ともとのサーボ系の制御則を融 合すると,以下の制御則 & % 5% (") が得られる( #)。この新しい制御則はシステムの外乱 % 除去性能を向上させる。本制御則は従来の手法に見られない 以下の特徴がある。 スフィルタの設計に的を絞り具体的に検討する。 状態オブザーバのゲイン とローパスフィルタ % は, システムの安定性が保証されるように設計しなければなら ない。システムの安定性を考える場合,% % & , とおき,また,2% & -% % テムを ( " ) 外乱の推定結果を既存のサーボ系の制御則と直接 のように描きなおす。このとき,制御対象は % & % ' % となる。式 %# ,%" および上式より 2% & % 2% ' 5% 来のサーボ系に外乱推定器をプラグインした構造と考えら れるため,その構造自身は非常に簡単でわかりやすい。特徴 +% に収 束することを保証し,また,適切なローパスフィルタ % により -% 5% -% となることが保証される。した がって, 5% は +% (#) (!) を得る。一方,式 %, は -% & 2% ' 5% と等価であるため,%! と %0 より % 融合することにより,外乱除去性能が容易に向上できる。 特徴 について,本論文で提案する新しいサーボ系は従 が として,シス (0) 5% から -% までの 伝達関数が ( ) システム構成が非常にシンプルである。 " について,適切なオブザーバの設計は, -% & , および の適切な近似となる。 状態オブザーバとローパスフィルタの設計 このシステムでは,現代制御理論における分離定理(閉 ループ系の極を制御に関するものと観測に関するものに分 離できる) もそのまま成り立つ。すなわち,状態フィー ドバックゲインの設計がオブザーバのゲインおよびローパ スフィルタの設計と独立にできるという特徴も持っている。 以下では,状態フィードバックゲインがすでに設計されてい るとし,システム安定性の立場から状態オブザーバとローパ & . % / & % . % / (1) で与えられ,スモールゲイン定理 より以下の定理を得る。 《定理 》 状態フィードバックにより系を安定化するフィー ドバックゲイン . / に対して, % % (3) ならば,制御則 %" は制御系 # の安定性を保証する。 備考:提案するサーボ系の安定性は二つの部分に分けて考 えることができ,すなわち,状態フィードバックサーボ系の 安定性と条件 %3 である。条件 %3 におけるパラメータは と % だけであるため,ローパスフィルタで系全体の安 定性を保証しなければならない外乱オブザーバ の設計に 比べ,本論文で提案する手法は非常に簡単である。 外乱を除去する角周波数領域 6 & 7 /$( 0 において,ローパスフィルタ % は % 6 と選ぶことが望ましい。そのため,式 %3 を満たすような y(t) & & ' .6/ は電機 子コイルの抵 抗, .;/ はコイ ルのインダクタンス, .</ と .=/ は定数, % .=/ は電 機子を流 れる電流 ,% .</ はモー タに印 加 す る 制 御 電 圧 , % .</ は 電 圧 外 乱 で あ る 。状態 を % & . % % % / と選ぶと,式 % における ここで, (",) -1 + ' (4) を満たすように選べばよい。ここでシステム を構築し,それに対して,以下のようなスカラーパラメータ , を含む状態フィードバック & を考える。もし % が最小位相系ならば, . % / & , , , , & , & , , , ,, & , & 各パラメータは以下のようになる。 が成り立つ完全制御 を達成する は存在すること が知られている。ここで,. % / は % の 分子の一部であることに注目すると,十分に大きな は,す 6 に対して,% を十分に小さくすること べての ができることがわかる。したがって,完全制御という概念に 基づいて,条件 %3 を満たす適切な と % を求めるこ とができ,その設計手順を次節にまとめる。 設計手順 , この制御対象において,% & & & " & & & とし, 目標入力を単位ステップ信号とすると, 設計アルゴリズム: 従来の手法(たとえば,最適制御)により状態 外乱を除去する角周波数帯域 6 を選択し,式 式 %4 が成り立つように,十分に大きな を を満たすローパスフィルタ % を選択する。 % % 数値例 本章では,いままで説明した新しいサーボ系の設計法を二 本指ロボットハンド の位置決め制御に適用し,その有効 性を示す。二本指ロボットハンドは, に示すように, % & 二本の指の中,一本が固定され,もう一本がプーリベルト機 構と 89 モータにより駆動される。そのダイナミックスは 次式により与えられる。 % ' % & % ' % ただし,ここで, % ./ はハンドの移動距離, .:/ は 可動部の質量, .:/ は粘性摩擦係数, % ./ はモー タの駆動力, % ./ は力外乱である。モータの電機子の とする。 前章の , #, ("") , , #, ," "% , " % , '! % ", , #, ("#) " 0 節に示した設計手順に従い,新しいサーボ系 を設計する。まず,外乱を無視し,プラントと内部モデルを 含んだ以下の拡大系を構築する 。 Æ% Æ % 動特性が無視できない場合は,次式のように表せる。 ' % & % % ' % % & % (") , #, , 0 "% , ' "0 !% , & '"0 1% , 選択し,対応するオブザーバゲイン を計算する。 & % & , & となる。また,外乱を フィードバックゲイン と を設計する。 が最小位相系とな ンとローパスフィルタを設計することができる。ここで, 計アルゴリズムは以下となる。 , るため,前章で提案した設計法を用いてオブザーバゲイ 以上の議論をまとめると,本論文で提案するサーボ系の設 %$ Immobile finger Mobile finger オブザーバのゲイン は % % ., ' DC motor Belt-pulley mechanism ($) & ' % ただし,ここで, , , , Æ % Æ% Æ % ("!) |1/F(jω)| (solid), |G(jω)| (dotted) [dB] 計測自動制御学会論文集 40 第 0 −40 −2 10 10 −1 10 0 1 10 10 ω [rad/s] 2 3 10 & % %' Æ % & % %' & Æ % である。次の評価関数 Æ % & ,, ,, 4 10 と求められる。次に, ザーバゲイン & 00!44 ,#413 434,!, が得られる。ちなみに, % と % のゲイン特性は に示しており,明らかに,安定条件 %3 が満たされ, 設計されたサーボ系は安定である。 シミュレーション結果を Æ% Æ % ' Æ % , に示す。 3 にお & の時点より印加し, 出力が定常状態に入った後, & , の時点より外乱 %"" と %"# を系に印加した。 いて,ステップ目標入力信号を 外乱推定を行わない場合,従来のサーボ系は外乱をある程 & 度抑えることができるが,それを除去することはできない。 を最小にするフィードバックゲインが /&.44334 & % % ' % & , & を最小にするように設計する。 を式 %4 が満たされるよ うに調整した結果, & , となり,それに対応するオブ & % %' Æ % そのため,定常状態において大きな追従偏差(ピークピー 4#"!4 "$"##$ ,,,,,/ ク値:,,!!,)が残った。その場合の制御入力を同図に示 & ,, として 6 を選び, 1.5 r (dotted), y (solid) ローパスフィルタを 1.5 r (dotted), y (solid) ρ=1 ρ=1000 ρ=100000 −20 . に対して,次の評価関数 23 ' 23 号 年 月 ! & ,, % & ! ' 第 と選ぶ。また,最適なフィルタゲイン は,システム %", |1/F(jω)| 20 Æ% 巻 1.0 0.5 1.0 0.5 0.0 −0.5 0.0 0 10 20 30 40 0 10 20 30 40 0 10 20 30 40 −0.5 0 10 20 30 40 10 ~ d d u (dotted), d f (solid) 10 5 0 0 −10 −5 −10 0 10 20 30 40 10 u u 10 0 0 −10 −10 0 10 20 30 40 t [s] % - ' + % t [s] % - ' + % /$( 0 す。一方,本論文で提案する手法を適用することにより,系 の追従特性に大きな改善が見られた。そのシミュレーション 結果( $)から,過渡応答および定常応答において,外 乱の影響は除去され,特に定常状態における定常追従偏差 のピークピーク値は ,,,"4 まで減少し,外乱推定しない 場合のわずか 3> となっている。推定された等価入力外乱を $ に示す。同図からも外乱を抑制する分だけ制御入力が 増加し,外乱を有効に抑えていることがわかる。 おわりに 本論文では,サーボ系の外乱除去性能を向上するために, 等価入力外乱を推定する手法を提案し,それに基づき,新し いサーボ系の構築手法を示した。従来の手法に比べ,本手法 28983 )岩井善太,井上昭,川路茂保:オブザーバ,コロナ社 28993 :)平井一正,池田雅夫:非線形制御システムの解析,オーム社 28963 )! - ' , 5 4D% >+ > A )&% , ' A )& % # 896 283 7)木村英紀,杉山治:完全制御と完全観測を用いたロバスト制御 系の設計法 計測自動制御学会論文集 87786 2893 6), = !- ' +5 $%+ /4$ ? - $ ' / >&& > -# ,+ !' &&' (( 9 2 3 )#A A-5 >&&' )&% $ E (% F ? ? E /%&%F ) * 2883 は以下の特徴がある。 出力測定値の微分情報は必要としない。 不安定なゼロ極消去は生じない。 システムの設計は,状態フィードバック,オブザーバと [著 余 錦 ローパスフィルタという二つの部分に分離して行うことが 提案した手法の有効性は二本指ロボットの位置決め制御によ り検証された。 文 ! " "# : :7:9 2 3 大 山 恭 弘 88 /#>$ 897 年東京工業大学大学院理工学研究科博士課 程修了。同年(株)アドバンストコントロールラ ボラトリ取締役就任。産業用ロボットコントロー ラ, コントローラ,制御工学学習機器の開発 に従事。 年東京工科大学工学部講師を経て,現 在東京工科大学バイオニクス学部教授。福祉制御 機器,ロボティクス,オンライン教育システムに 関する研究に従事。電気学会,日本 学 会の会員(工学博士)。 $ 8 A 小 # 6)@ B ' 4 5 ' 4' )+ % 2 3 )B $ # ' ' ? @ 5 > - + ' + + " $ : 9888 2 3 9)0! @ )% ' 4 5 > - >&& (% ' ," ? + % " : :9:97 2 73 8)A, ! C 4 ' , 5 / A % 6 96 28863 ) ? ? $ ' *'5 / ' ) & 8: 8 28863 )> /'5 % " ' (' & 8: /((( 献 )4 $ ' 0 5 ' /& (% $ % 6 76 28893 )4 ! ' ,0 *5 )&% # % - - /& : 78 28893 :)/; ! ' < )< = <5 > (% ' , + $ ? % 969 28883 ) ) 4 ' @ !5 (% ' 1 ' % % 9 7:67 2883 7)$ A ' ! *5 /?% ' ' ? + )+ A %/ % 89: システム構成は非常にシンプルである。 考 介] 年中国中南大学工学部制御工学卒業, 年東京工業大学大学院理工学研究科博士課程修了。 同年東京工科大学工学部講師, 年同助教授, 現在東京工科大学バイオニクス学部助教授。おも に制御理論応用,繰返し制御,エキスパート制御, ロボティックス,インターネットの制御応用に関 最優秀論文賞受賞。 する研究に従事。 年 の会員(博士(工学))。 電気学会, できる。 参 華 者 紹 林 裕 之 886 年東京工業大学大学院理工学研究科修士 課程終了, 年同大学大学院理工学研究科博 年東京工科大学バイオニクス 士課程修了。 学部助手,現在に至る。ロボット工学および制御 工学分野の研究に従事。電気学会,日本ロボット 学会の会員(博士(工学))。 忻 欣 : : 867 9 6 8: 9 年 月 日生。 年中国科学技術大学卒 業, 年東南大学大学院自動制御理論および応用 年東京工業大 専攻博士課程修了,工学博士。 学博士(工学)の学位取得。その間, 年大 阪大学留学。 年東南大学助教授, 年東京工 業大学 派遣研究員, 年同助手を経て 年岡山県立大学助教授となり,現在に至る。 非線形制御,ロバスト制御,ロボット工学に関す る教育研究に従事。 などの会員。 87 (?) 8 /((( 88: 86
© Copyright 2024 Paperzz