不妊学級テキスト - 弘前大学大学院医学研究科/医学部医学科

不妊学級テキスト
弘前大学医学部附属病院産婦人科
2009年4月10日
目次
不妊症とは
3
妊娠が成立する過程
4
治療を始める前に
7
体外受精・顕微授精
8
治療のスケジュール
9
▼ 卵巣刺激
9
Ⅰ.GnRHアゴニスト−FSH−hCG法
9
Ⅱ.自然周期またはクロミフェン周期
14
Ⅲ.クロミフェン-FSH周期
15
Ⅳ. FSH-GnRHアンタゴニスト周期
15
Ⅴ.どの卵巣刺激法が良いか?
16
▼ 採 卵
17
▼ 媒精・顕微授精
17
▼ 培 養
18
▼ 胚移植
18
▼ 黄体補助
18
▼ 受精卵の凍結保存
18
▼ 凍結胚移植
19
▼ 重症男性不妊の検査・治療について
20
治療の可能性とリスク
21
カウンセリング・相談など
25
手続き・お願いなど
26
児の発育記録用紙
29
不妊症とは
不妊症とは
結婚後、一定の期間(約1年間)を経ても妊娠しない場合を不妊症といいます。およそ8組の夫婦
のうち1組が不妊といわれています。
そのうち、女性に原因がある場合が約⅓で、卵巣の働きが弱かったり、卵管の通過性が悪かったり、子宮
に問題がある場合などがあります。また、精子の数が少なかったり運動性が弱かったり、男性に原因がある
場合も約⅓あります。残りの⅓は夫婦の両方に原因がある場合や、いろいろ検査しても原因がわからない場
合です。男女とも不妊の原因がある確率は同じですので、夫婦そろって検査や治療を受けなければ意味があ
りません。次のような検査が必要です。
● ホルモンは適度に分泌されているか
● 卵管の通過性はよいか
● 子宮に異常はないか
● 排卵は規則的にあるか
● 子宮頚管粘液は正常か
● 精液中の精子数と運動性は正常か
自然の妊娠率はどのくらい?
避妊をしていないカップルでは、結婚後6か月を経過すると約60%、1年で約80%、2年で約90%
が妊娠するといわれています。この数値を累積妊娠率といいます。これらの数値をもとに、1回の性
周期(月経周期)あたりの妊娠率を、100組のカップルについて計算してみましょう。
結婚後6か月目には、60組のカップルが妊娠していることになります。妊娠のチャンス(排卵日)は
100(組) 6(か月)=600回程度ありますが、毎月10組ずつのカップルが妊娠するものと仮定すると、
そのチャンスは約450回となるので、妊娠率は60 450=0.13(約13%)となります。結婚後1年目に
は80 740=0.11(約11%)となり、自然の妊娠率が決して高くないことが理解できます。
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妊娠が成立する過程
妊娠が成立する過程
■ 排卵・月経が起こるには?
月経は、いくつもの器官が互いに働きあって起こる複雑な現象です。脳
の「視床下部」という場所から、ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)が分
泌されています。GnRHは視床下部の下方にある「下垂体前葉」に作用し
て、卵胞刺激ホルモン(FSH)と黄体形成ホルモン(LH)という2種類のホルモ
視床下部
GnRH
下垂体
ンの分泌を促します。そしてFSHとLHは、「卵巣」を刺激して卵子を排卵
FSH
LH
へと導きます。さらに、卵巣からは卵胞ホルモン(エストロゲン)と黄体ホ
ルモン(プロゲステロン)が分泌され、これらが「子宮」に働いて、月経を
起こさせたり妊娠を成立させたりしているのです。
順を追って説明しましょう。月経が始まると下垂体前葉からFSHの分泌
が活発になり、卵子の発育を促進します。卵子が発育するにつれて、卵子
を包んでいる細胞がたくさんのエストロゲンを分泌するようになり、卵子
のまわりにはホルモンをたくさん含んだ液体が貯まって、「卵胞」という
袋ができあがります。また、エストロゲンが高くなってくると、下垂体前
エストロゲン
卵巣
プロゲステロン
子宮
葉からLHが多量に分泌され、卵胞を破裂させ卵子をお腹の中に排出させま
す。これを「排卵」といいます。したがって、排卵が起こるには、視床下
部、下垂体前葉、卵巣のすべてが正常に働き、ホルモンが正常に分泌されていなくてはなりません。
排卵を終えると、卵子を包んでいた細胞は「黄体」という細胞に変化し、エストロゲンとプロゲステロン
を分泌します。これらのホルモンの働きで子宮内膜が厚くなり、子宮は「受精卵」を受け入れる準備が整い
ます。妊娠が成立せず、エストロゲンとプロゲステロンの分泌が少なくなると、子宮内膜が剥がれ落ち、出
血とともに体外へ排出されます。これが「月経」で、通常は約28日毎に起こります。月経の5日目後頃には
新しい子宮内膜が再生されます。
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妊娠が成立する過程
■ 卵子と精子
◆ 卵子
卵子は胎児期に造られて原始卵として卵巣に蓄えられます。し
たがって年をとるとともに、卵巣の中にある原始卵の数は減って
ゆきます。排卵した直後の卵子は「透明帯」というゼリー状の殻
に包まれ、さらに透明帯の外側を「顆粒膜細胞」という柔らかい
細胞の固まりが覆っています。
排卵して腹腔内に排出された卵子は、卵管の端にあるひだ(卵管
采)でキャッチされて卵管に取り込まれます。
◆ 精子
精子は、下垂体から分泌されるホルモンの働きによって精巣の中
で絶えず造られています。精子が成熟するには約70日間という長
い時間が必要です。成熟精子は、受精に必要な酵素を含んだ頭部先
端の「先体」、遺伝子を入れた「核」、運動に必要なエネルギーを
産生する「ミトコンドリア」、そして激しく運動する「尾部」から
構成されています。
射精された精液の中には数千万∼数億匹の精子がいますが、形や
運動が異常な精子も数多く含まれています。正常な精子は活発に前
進運動をして卵子に向かいますが、運良く卵子と出会って受精する
ためにはたくさんの精子の力が必要です。
■ 受精とは?
「受精」は、精子と卵子が結合し、このふたつの細胞が融合
することです。受精が成立するには、精子と卵子はいくつもの
関門を乗り越えなくてはなりません。
射精直後の精子は、精液中に含まれる様々な物質に覆われて
いて、そのままでは受精することができません。精子は腟から
卵管までの約20 cmの距離を毎分約2 mmの速度で進み、この
間に精子に付着した物質が取り除かれ、卵子と接触できる状態
になります。これを精子の「受精能獲得」といいます。
精子が卵子に近づくと、精子の酵素によって顆粒膜細胞がばらばらになり、卵子の透明帯が露出されま
す。精子が卵子の透明帯と結合すると、精子の頭部(先体)の膜が破れて酵素が放出されます。これを「先体
反応」といいます。受精能獲得を終えた精子だけが、先体反応を起こすことができます。透明帯に到達した
精子はさらに激しく運動するようになり、透明帯に穴を開けながら卵子に近づきます。透明帯を通り抜けた
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妊娠が成立する過程
精子は、ようやく卵子にたどり着くことができます。しかし、卵子と結合することができるのは先体反応を
起こした精子だけです。このようにして1匹の幸運な精子だけが受精することができます。受精した卵子の
細胞膜と透明帯は性質が変化し、他の精子が受精できなくなります。
■ 着床とは?
卵管膨大部で精子と結合した受精卵は卵管の運動によって子宮
へ運ばれます。受精卵はその間に分割を繰り返し、2細胞期
胚、4細胞期胚、8細胞期胚、桑実胚、さらに胚盤胞を経て、
排卵の約1週間後に子宮内膜に定着、すなわち「着床」しま
す。着床した胚盤胞の内側の細胞は胎児へと発育し、外側の細
胞が「胎盤」を形成します。
左から1日目の前核期胚、2日目の4細胞期胚、3日目の8細胞期胚、4日目の桑実胚、4日目の初期胚
盤胞、5日目の胚盤胞、5日目の拡張胚盤胞
以上をまとめると、下図のようになります。この過程のどこが障害されても不妊になる可能性があり、原
因が多岐にわたることが理解できます。
受精
卵管通過
排卵
胚の発生
着床
精子形成
頚管通過
卵子形成
射精
妊娠が成立する過程
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治療を始める前に
治療を始める前に
近年、心の問題がからだの機能に少なからず影響を与えることがわかってきました。子供を求め
思い悩むことがストレスを生み、その心理的苦痛が妊娠をより難しくしているかもしれません。
残念ながら妊娠を妨げているストレスを和らげる特効薬はありません。治療によるストレスを軽くするた
めには、夫婦の間でよく話し合いわだかまりを残さないようにすること、通院や治療協力し合うことが大切
です。また、悩みを相談する相手を見つけることが必要です。
以下の点は誰にとっても必要なことですが、これから不妊治療を始めようとするカップルにとってはとて
も重要です。
時には自分自身にとって楽しいことに集中する時間をつくりましょう。
毎日の食事はバランスがとれていますか? 太り過ぎの方は体重を少し落とすだけで
妊娠しやすくなり、治療の成功率が高まります。
適量のアルコールはストレス解消に有効ですが、飲みすぎないようほどほどに。
禁煙するか、せめて本数を減らしましょう。
日常生活、職場、家庭内などでどのようなことがストレスになっているか考え、それ
に対処する方法を考えましょう。
十分な睡眠をとりましょう。
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体外受精・顕微授精
体外受精・顕微授精
妊娠が成立する過程はとても複雑です。「体外受精・胚移植」は、精子と卵子を体の外に取り出
して受精させ、培養して発育した受精卵(胚)を子宮に戻す、高度な治療法です。精子や卵子その
ものには人工的な操作を加えることがなく、受精する場所が体の外であることを除いては通常の
妊娠と変わりがありません。
しかし、体外受精を行っても受精が成立しないことがあります。このような受精障害に対する
治療として、顕微鏡下で卵子に操作を加えて受精を助ける方法を「顕微授精」といいます。
■ 体外受精・顕微授精の適応
体外受精・胚移植は、何らかの原因で精子と卵子が出会うことができない障害を持っている夫婦に対して行
われます。次のような不妊カップルが適応となります。
男性因子 ● 乏精子・無力精子・奇形精子症
女性因子 ● 卵管性不妊
● 免疫性不妊
● 子宮内膜症
原因不明
一方、顕微授精は、通常の体外受精を行っても受精が成立しないカップルに対する治療です。
男性因子 ●重症の乏精子・無力精子・奇形精子症
●受精能異常精子症
女性因子 ●免疫性受精障害
●卵の異常による受精障害
原因不明の受精障害
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治療のスケジュール
治療のスケジュール
体外受精はいろいろな薬を使いながら行う複雑な治療です。ひとつひとつのステップをきちんと
行わないと、良好な卵子や受精卵を得られません。以下のようなスケジュールで行われます。
卵巣刺激
採卵
媒精・顕微授精
培養
胚移植
黄体補助
▼ 卵巣刺激
Ⅰ.GnRHアゴニスト­FSH­hCG法
多数の卵子を獲得するために行われる、最もポピュラーな卵巣
刺激法です。これには、FSHが含まれたホルモン薬 (ゴナピュー
ル,フォリスチムなど)、LHが含まれたホルモン薬(hCG)、さら
にGnRHアゴニストというホルモン薬を使用します。GnRHアゴニ
ストには点鼻薬 (スプレキュア、ナサニール) と皮下注薬 (リュー
プリン) とがあり、当院では主にスプレキュアを使用していま
す。GnRHアゴニストを投与すると、卵子の成熟・排卵をコント
ロールしている体内のFSHとLHの分泌が止まり、排卵誘発薬だけ
で排卵をコントロールできる状態になります。点鼻薬は、鼻炎があ
ると吸収が悪くなり、薬の効果が得られません。そのような方には、皮下注薬を使用します。
この卵巣刺激法には、GnRHアゴニストを使い始める時期や使う期間が異なる、さまざまな方法がありま
す。通常、以下のようなスケジュールで治療を進めていきます。
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治療のスケジュール
①スケジュールの確認・GnRHアゴニスト処方
まず、体外受精を行う予定の前の周期の月経開始時に来院してください。 体外受精の休止期間にぶつから
ないか、治療のスケジュールを確認します。計画を立てられたら、 GnRHアゴニストを処方します。
②GnRHアゴニスト開始:体内のLHとFSHを止める
次に、高温相の7日目頃(または次回の月経開始予定日の約7日前)に来院してください。通常は、超音波検
査で子宮が高温相の状態になっているかどうかを確認できたら、GnRHアゴニストを使用し始めます。GnRH
アゴニストの投与期間が長いこの方法を「ロング法」といいます。「ロング法」は日程をコントロールしや
すく、安定した成績が得られるため、当科では通常この方法で卵巣刺激を行っています。
GnRHアゴニストは、本来は1日3回、両鼻にスプレーして使用する薬ですが、通常は1日2回でも十分な効
果が得られます。1日2回投与だと約3週間で1本を使い切ってしまいますので、ロング法では点鼻薬が2本
必要です。 ロング法は以下のような順序で行います。
GnRHアゴニスト (スプレキュア)
FSH
⑦
黄体ホルモン
hCG
① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑧ ⑨
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
⑧
⑨
スプレキュア処方
スプレキュア開始
FSH開始
卵胞計測
hCG投与
採卵
黄体補助
胚移植
妊娠反応・hCG測定
低温期にスプレキュア2本を処方し、スケジュール確認
超音波で高温相を確認してスプレキュアを開始
超音波でスプレキュアの効果を確認した後、FSHを開始
排卵誘発8日目に卵胞発育を超音波で確認
最終FSHの翌日以降にhCGを投与して卵胞成熟を促進
hCG投与の約36時間後 (まだ排卵しない) に採卵
黄体ホルモンを投与
採卵の14日後に尿と血液で妊娠を確認
標準的なロング法のスケジュール
月経不順がある場合は、避妊用ピルの内服またはホルモン注射により人工的な高温相をつくります。同時
にGnRHアゴニストを使い始め、通常のロング法と同じ条件で治療を開始できます。
一方、加齢などにより卵巣の働きが低下していると、十分な数の卵胞が育たないことがあります。そのよ
うな場合は、月経開始日から数えて2∼5日目からGnRHアゴニストと排卵誘発剤をほぼ同時に使い始めるこ
とによって、排卵誘発剤の作用を強めることができます。これを「ショート法」といいます。ショート法
は、GnRHアゴニストの使用期間が短いので、点鼻薬は1本で足ります。
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治療のスケジュール
③FSH開始:卵胞を育てる
GnRHアゴニストを2週間以上投与すると、体内のホルモンが抑制されます。ロ
ング法の場合は月経開始日から数えて7日目頃、ショート法の場合は2∼5日目から
FSHを使い始めます。FSHには強力な排卵刺激作用があるため、多数の卵子が同時
に発育します。通常は7∼10日間の注射で十分な効果が得られますが、卵巣の反応
性は年齢などに左右され個人差があります。そのため、ホルモン検査や超音波検査
を行いながら、FSHの量を変えなくてはならない場合もあります。特に初めてFSH
を使う場合は、卵巣の反応が予想できないので、検査をしっかり受けなくてはなりません。卵胞の大きさが
18 mm程度になり卵子が十分発育したと判断できたら、FSHの注射を終了します。卵胞の発育が不十分だっ
た場合は、さらに2∼4日間FSHを追加します。
なお、排卵誘発薬を体外受精に使用する場合は保険適用外 (私費) になります。1日150単位のFSHを8日間
注射した場合の費用を下の表に示しました。
主な注射薬の価格
フォリスチム600(在宅自己注射が可能)
フォリスチム600カートリッジ 2本
再診料
ゴナピュール75(毎日通院が必要)
67232円
ゴナピュール75 16本
26480円
700円
再診料 8日分
5600円
注入用ペン
3000円
注射料 8日分
1440円
注射針
1350円
合計
72282円
合計
33520円
FSH投与中は、何日間も続けて病院に通わなくてはなりません。不妊外来の診療時間は以下のようになっ
ています。
不妊外来の診療時間
月曜日
火曜日
水曜日
木曜日
金曜日
休日(病棟)
診 察
午前
午前
­
午前
午前
15時
注 射
終日
終日
8時30分
終日
終日
11,14,19時
または16時
検 査
­
午後
­
午後
­
­
採 卵
午前
(午前)
­
午前
(午前)
­
胚移植
随時
随時
­
随時
随時
­
Page 11
治療のスケジュール
注射だけの日 (2∼7回目の投与日) は、近くの産婦人科医院や産婦人科のある総合病院に依頼することが
できます。その場合は、初回のFSHを注射した際に紹介状を書きますので、申し出てください。
県内と秋田県北の協力施設
FSHの注射を終了した日に採卵と移植の日程が決まります。通常、以下のような日程になります。
FSH
▼
▽
▽
▽
▽
▽
▽
▼
▽
▽
▼
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
▽
◎
☆
採
卵
移
植
▼:超音波またはホルモン検査を受ける日,▽:注射だけの日 (近所の病院で), :何もしない日
すなわち、「今日でFSHを終了します」といわれた日の3∼4日後が採卵、そ
の2∼5日後が胚移植になります。また、日程が決まった日に抗生物質の内服
薬 (フロモックス) と黄体ホルモンの腟錠 (プロゲステロン腟錠) を処方しま
す。抗生物質は採卵前日から1日間内服し、細菌感染を予防します。また、黄
体ホルモンは採卵当日の夜から2週間、1日2回腟内に挿入します。それぞれの
使用方法については、処方の際に説明します。
④hCG投与:卵子を成熟させる
FSHを最後に投与した日の1∼3日後にhCGを注射します。hCGによって、卵子は排卵直前の成熟した状態
になります。通常、hCGの注射から36時間以降に排卵が始まるので、卵子が十分に成熟し、かつ排卵が始ま
る直前、すなわちhCG投与の34∼36時間後に採卵することになります。採卵は午前中に行いますので、hCG
の注射は採卵の前々日の午後10時頃になります。hCGの注射も、近所の産婦人科クリニックや産婦人科のあ
る病院に依頼できます。
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治療のスケジュール
なお、当科では診療の都合上、なるべく月・木曜日に採卵を行うようにしています。月・木曜日が祝祭日
の場合は、その前後の曜日に行います。 胚移植は採卵を行った曜日によって以下のように割り振られます。
採卵が休日に当たりそうな場合は、FSHの量やhCGの投与日を調整して対応します。
採卵した曜日と胚移植の曜日の対応
月
火
水
木
金
土
日
月
火
◎
▶
▶
☆
(3日目)
◎
▶
▶
▶
☆
◎
▶
☆
(2日目)
◎
▶
▶
☆
(3日目)
◎
▶
▶
▶
☆
(4日目)
◎
▶
▶
▶
▶
☆
水
(4日目)
◎=
採卵
◎
▶
▶
☆
(3日目)
☆=
胚移植
◎
▶
▶
▶
☆
(5日目)
(4日目)
胚移植は、採卵の2∼3日後に行うのが一般的ですが、発生が進んだ胚を移植した方が成績が良くなると
考え、1998年から桑実胚∼胚盤胞 (4∼5日目) 移植を行い治療成績を検討してきました。その結果、胚移植
を何日目に行っても、その時点で順調に発育している胚を移植できれば妊娠率に差はありませんでした。
⑤GnRHアゴニストの終了
通常、GnRHアゴニストはhCGを注射する日から採卵日までの間に終了しますが、当科では妊娠判定まで
続けています。GnRHアゴニストをいつまで使用するかは担当医師の指示に従い、なくなりそうな場合は教
えてください。勝手に終了しないようにしてください。
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治療のスケジュール
Ⅱ.自然周期またはクロミフェン周期
排卵誘発剤を使用しない自然周期や、クロミフェン(クロミッド®またはセロ
フェン®)という内服薬による排卵誘発周期で採卵することもできます。GnRHア
ゴニストを使用しないため、卵胞発育を注意深くモニターし、卵胞がある程度
成熟し、かつ排卵が起こる前という微妙なタイミングで採卵しなくてはなりま
せん。採卵できる確率は約50%で、通常は1個だけですが、排卵誘発とその準備
に伴う時間的および経済的負担がありませんし、治療を毎月くり返し行えるというメリットもあります。た
だし、月経周期がある程度定まっており、排卵日を予想できることが最低条件です。以下のような場合が適
応となります。
● 初回の体外受精・胚移植
● FSHに対する反応が悪く、いつも1∼2個の卵胞しか得られない
● FSHに対する反応が過剰で、重症の卵巣過剰刺激症候群になる危険性が高い
● FSHに対するアレルギーなど、何らかの原因で排卵誘発剤が使用できない
クロミフェン
黄体ホルモン
hCG▼
① ② ③ ④
①
②
排卵日の予測
排卵前日∼前々日
③
④
⑤
採卵
胚移植
妊娠反応
⑤
月経が開始したら排卵日がいつ頃になるか確認
排卵予定日の前日∼前々日に超音波で卵胞発育が確認
できたら、hCGを投与して卵胞成熟・排卵を促進
hCG投与の24時間後以降 (まだ排卵しない) に採卵
採卵の14日後に尿と血液で妊娠を確認
自然周期/クロミフェン法のスケジュール
自然周期やクロミフェン周期では、採卵日のコントロールに限界があります。現在、大学病院ではスタッ
フが不足しているため、本法には対応しておりません。自然周期/クロミフェン周期による治療を希望され
る方は,弘前市内のクリニックを紹介していますのでお申し出ください。
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治療のスケジュール
Ⅲ.クロミフェン-FSH周期
GnRHアゴニスト-FSH法と自然周期法の中間の方法です。クロミフェンを10∼14日間継続する (通常は5
日間です) ことにより、排卵を起こさせるLHサージを抑制し、採卵日をある程度はコントロールできます。
また、hCGの注射をスプレキュアの自己噴霧で代用できますので、夜遅くに受診しなくても良いというメ
リットもあります。
スプレキュア ▼
FSH▼ ▼ ▼ ▼
(7∼8日目から隔日)
クロミフェン
(3日目から10日間)
クロミフェン-FSH法のスケジュール
Ⅳ. FSH-GnRHアンタゴニスト周期
GnRHアゴニストではなくGnRHアンタゴニスト (セトロタイド,ガニレスト) を用いてLHサージを抑制す
る方法です。月経周期の4∼5日目からFSHで卵巣刺激を行い、 卵胞径が14mmになったらGnRHアンタゴニ
ストを皮下注射します。 クロミフェン-FSH法と同様、 hCGの注射をスプレキュアの自己噴霧で代用できま
す。 GnRHアンタゴニストは保険適用外で、低用量製剤 (0.25 mg) と高用量製剤 (3 mg) とがあります。低用
量製剤は毎日注射が必要ですが、必要最小限の投与で済みますので卵胞発育を妨げません。一方、高用量製
剤は約5日間効果が持続しますが、ホルモン抑制作用が強く値段が高価です。
スプレキュア ▼
GnRHアンタゴニスト●●●
FSH▼▼▼▼▼▼▼▼
FSH-GnRHアンタゴニスト法のスケジュール
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治療のスケジュール
Ⅴ.どの卵巣刺激法が良いか?
どの卵巣刺激法が優れているかは一概には言えません。当院ではロング法を標準法としていますが、 卵巣
の反応性は個人差が大きく、ロング法では刺激が強すぎてクロミフェン-FSH法で十分な刺激が得られる方も
いれば、ショート法でも反応が不良な方もいます。特定の刺激法を希望される場合は、担当医師に申し出て
ください。
各卵巣刺激法の比較
ロング
ショート
自然
クロミフェ
ン-FSH
GnRHアンタ
ゴニスト
周期あたりの
費用
4∼10万円
3∼9万円
0.5∼1万円
2∼5万円
5∼11万円
採卵までの
通院回数
11∼15回
9∼13回
3∼5回
5∼7回
7∼10回
平均採卵数
7∼8個
8∼9個
1∼2個
3∼4個
6∼7個
キャンセル
少ない
やや少ない
とても多い
多い
少ない
休止期間
必要
必要
不要
不要
不要
特徴
安定して
良い成績
卵巣の反応が
悪い場合
月経周期が
整順な方
ロング法と
自然の中間
良い方法
だが高額
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治療のスケジュール
▼ 採 卵
採卵当日は、午前8時30分頃から点滴などの準備を始めます。実
際に採卵するのは9時から11時の間です。以下の手順で行います。
鎮痛剤の座薬を肛門にさします。
不測の事態に備えて、点滴をします。
内診台に上がり、外陰部と腟を洗浄します。
腟から局所麻酔薬を注射した後、採卵を始めます。
超音波で卵巣を見ながら腟から特殊な細長い針を卵胞に刺し、卵胞液と
ともに卵子を吸引・採取します。当科では体外受精・胚移植をすべて外来で
行っているため、完全に眠ってしまうような麻酔薬は使わず、局所麻酔で
行っています。ほとんどの場合で十分な鎮痛効果が得られますが、どうして
も痛みが強い場合は、静脈麻酔薬を使用します。静脈麻酔薬を使うと、数時
間はボーッとした状態が続き、吐き気などの副作用も起こります。万が一、
静脈麻酔薬を使った場合のことを考え、採卵当日は絶対に自分で車を運転
して来ないでください。採卵後は、点滴が終了するまで1∼2時間、外来で休んでいただいた後、担当医師か
ら説明を受け、お昼頃に帰宅することができます。
▼ 媒精・顕微授精 男性は、採卵当日の朝に精液を採取します。自宅または院内の採
精室で滅菌容器に採取してください。自宅で採取される場合は、冷
えたり直射日光にあたったりしないよう注意して持参し、産婦人科
外来受付に提出してください。また、禁欲期間が1週間を越える
と、精液中に死滅精子や白血球などが増え、精液の状態がかえって
悪くなります。精子数は射精後2∼3日で回復しますので、採卵の日
程が決まった日にマスターベーションまたは性交で射精してくださ
い。そうすることで、治療に用いる精液を最良の状態で採取できま
す。また、採卵の日は、男性も受診手続が必要です (来院は必要ありません)。
採取した精液は、洗浄・濃縮して成熟した運動良好精子を集め、一定濃度に調整した後に、卵子が入った
培養液に入れて受精させます。これを「媒精」といいます。すべての卵子が受精するわけではなく、受精率
は80%程度です。媒精の翌日に受精したかどうかを確認しますが、もしこの時点で受精していなかった場合
は、翌日に顕微授精を行うこともあります。受精が成立するかどうは、卵子の質にも左右されますが、運動
性が良好で受精能が正常な精子が十分にあることが最も重要です。
顕微授精の治療スケジュールも、通常の体外受精・胚移植法と同じです。顕微授精は、1匹の精子を卵子
の中に注入する「卵細胞質内精子注入法 (ICSI)」という方法で行います。
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治療のスケジュール
▼ 培 養 卵子にストレスがかからないよう、温度や酸素濃度を一定に保った培養器の中で培養します。受精の2日
後には4細胞、3日後には8細胞、4日後には16細胞に分割し、5日後には胚盤胞に到達します。
▼ 胚移植
受精の2∼5日後に、順調に発育した受精卵1∼3個を子宮内に移植
します。胚移植の方法は、受精卵を細長いチューブに吸い取り、これ
を子宮内に挿入して注入するだけです。膀胱にある程度の尿が貯まっ
ていると子宮が真っ直ぐになるため移植用チューブが入りやすく、移
植がスムーズに行えます。移植の後は診察台の上で10分程度の安静
時間をおき、その後は普通に歩いて帰宅することができます。
▼ 黄体補助 黄体ホルモンは、受精卵が子宮に着床するときに重要な働きをしています。胚移植の後、黄体ホルモンの
腟錠 (採卵のスケジュールが決まった日に処方します) で、ホルモンを補充します。
治療中、安静が必要なのは、採卵の日と胚移植の日です。この2日間は、なるべく自宅で安静にしていて
ください。その他の日は身体に異常がなければ、通常の生活をしていてかまいません。
▼ 受精卵の凍結保存
胚移植後に、余った受精卵が順調に発育していれば凍結保存することができます。次回の治療で凍結胚移
植を行うと、排卵誘発から採卵までの負担を省くことができます。凍結技術の進歩により、凍結胚移植でも
普通の体外受精・胚移植と同程度の妊娠率が得られるようになりました。
発育
良好胚
移植胚
余剰胚
受精卵
採卵
余剰胚が発育良好で
あれば凍結保存可能
発育良好な余剰胚の凍結保存
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治療のスケジュール
▼ 次回の治療の準備
残念ながら生理が来てしまった場合、ロング法またはショート法では1∼2か月間は身体を休めなくては
なりません。治療周期の次の月経周期は、GnRHアゴニストの影響が残っているため排卵が遅れがちで、本
来の月経予定日の約2週間後に2回目の生理が来ます。すぐに次の治療を始めたい場合は、2回目の生理の後
の高温相からGnRHアゴニストを使います。そのようにして行うと、年3∼4回は体外受精を受けることが可
能です。
スプレキュア
スプレキュア
処方・計画
体外受精周期
スプレキュア
体外受精周期
治療直後の周期は排卵が遅れたり無排卵になったりします
▼ 凍結胚移植
凍結胚移植も2回目の生理が来てから準備を始めます。自然の月経周期ではなく、ホルモン補充療法で子
宮内膜を整えながら行います。以下のような手順になります。
① ② ③ ④⑤ ⑥ ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●
●:女性ホルモン(貼り薬=エストラーナまたはジェル=ディビゲル)
●:黄体ホルモン(プロゲステロン腟錠)
①
②
③
④
⑤
⑥
月経が開始したら早め (遅くとも5日目まで) に来院してください。
月経4日目頃から女性ホルモンを開始します。
女性ホルモンを7∼10日間使用し、超音波検査で子宮内膜厚が8 mmを越えたら、女性ホルモンに
加えて黄体ホルモンも開始します。
4日目に凍結した場合は,黄体ホルモン開始後4日目に解凍します。
翌日に胚が順調に発育していることを確認して移植します。
黄体ホルモン開始後14日目に妊娠反応を調べます。
凍結胚移植のスケジュール
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治療のスケジュール
▼ 重症男性不妊の検査・治療について
無精子症や重症男性不妊に対しては、精巣精子を採取して顕微授精が行われることが多いのですが、中に
は治療によって精液所見が正常化することもありますし、治療が極めて難しい場合もあります。原因と治療
方針を決めるため、男性も血液検査を受けることをお勧めします。精子をつくる作用がある下垂体ホルモ
ン、精巣の働きの指標であるテストステロン、染色体検査、無精子症関連遺伝子検査などがあり、すべて保
険適用です。その結果をみて、以下のように精査・治療を進めます。
重症男性不妊への対応
下垂体の性腺刺激ホルモン (LHとFSH) が低値の場合は、ホルモン療法により精子が作られるようになる
ことがあります。週3回、下垂体ホルモンを自己注射するもので、半年以上継続する必要があり、月3∼4万
円かかります (保険適用)。極端に低値の場合は、下垂体の他のホルモン異常を伴うことがあるため、内分泌
内科で精査を受けることをお勧めします。
下垂体ホルモンが異常高値だったり、染色体・遺伝子異常が認められた場合は、造精機能が低下している
ことが多く、薬物療法は困難なことが多いです。それでも、精巣や精巣上体に少数の精子が見つかることが
あります。精巣組織の一部を採取し、これを10∼20ピースに分けて凍結保存します。精巣精子が見つかれ
ば、 複数回の顕微授精を行うことができます。 精巣生検は当院泌尿器科で行います。通常、1泊入院で手術
室で局所麻酔をして採取します。 翌日、退院の前に外来を受診してください。精子がいたかどうか、組織の
一部分は検査が終了しています。すでに精子が見つかっていれば、治療計画を立てることができます。まだ
精子が見つかっていなければ、いつ頃までに検査し終わるか確認し、次回の受診予約をしてください。精子
が見つからなかった場合は、反対側の精巣から組織を採ります。3回目の生検でようやく精子が見つかった
方もいます。
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治療の可能性とリスク
治療の可能性とリスク
■ キャンセルについて
治療の途中で止むを得ず中止せざるを得ない場合を、「キャンセル」といいます。キャンセル率は約15%
です。最も多いのは「受精しなかった場合」と「受精卵が順調に育たなかった場合」です。
● 2週間以上排卵誘発を続けても卵胞の発育がない
● 採卵したが卵子を採取できなかった
● 精子の採取が全くできなかった
● 受精が成立しなかった
● 受精したが発育が止まってしまったりした
● 肉体的・精神的に治療を継続できない
■ 卵巣過剰刺激症候群について
FSHに対する反応には個人差があります。特に「多嚢胞性卵巣症候群
(PCOS)」という排卵障害のある方は反応が強く、卵巣が腫れたりお腹
に水がたまったり (腹水)、胸に水がたまったり (胸水) することがあり
ます。これを「卵巣過剰刺激症候群 (OHSS)」といいます。
腹水や胸水が貯まることにより血管内の水分が少なくなり、血液が
固まり血栓ができやすくなります。妊娠が成立しなかった場合には月
経とともに自然に治癒しますが、妊娠が成立した場合、妊娠絨毛から
分泌されるホルモンが卵巣をさらに刺激して重症化することがありま
す。 そのため、OHSSを発症しそうな場合は胚移植を中止し、胚をすべて凍結保存することもあります。
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治療の可能性とリスク
OHSSによる症状は、通常、胚移植の頃から強くなってきます。特に、採卵数が多かった方 (20個以上) は
要注意です。具体的には、お腹が張る、体重が急に増えた、尿量が少なくなった、などの症状があれば病院
を受診して下さい。血液濃縮が認められた場合は、入院のうえ点滴を行い、水分、電解質やタンパク質を補
給する必要があります。OHSSは生命にかかわる重篤な状態になりうる危険な合併症です。その予防のため
にも、治療中の超音波検査やホルモン検査は非常に大切です。
■ 治療による妊娠率と多胎妊娠・子宮外妊娠
日本産科婦人科学会は昭和61年から体外受精・胚移植を登録報告制とし、毎年集計しています。近年は体
外受精・胚移植,顕微授精・胚移植,凍結胚移植ともほぼ同等の妊娠率が得られていますが、妊娠率は
30%未満にすぎません。妊娠例の約80%は最初の4回までの胚移植で達成されています。
新鮮胚
凍結胚
顕微授精胚
30%
20%
10%
0%
S62
H1
H3
H5
H7
H9
H11
H13
生殖補助技術の妊娠率の推移 (日本産科婦人科学会登録施設の集計)
また、受精卵を多く戻すほど妊娠率は高くなりますが、その半面、多胎妊娠の可能性も高くなります。多
胎妊娠では様々な合併症 (流産、早産、妊娠高血圧症候群など) が起こりやすく、未熟児が生まれる可能性も
高くなり、母児ともに危険を伴う妊娠といえます。
多胎妊娠によるリスク (単胎妊娠との比較)
双胎
品胎
早産
4-5倍 (48%)
8-9倍 (88%)
低出生体重
8-9倍 (50%)
18倍 (90%)
周産期・乳児死亡
5-6倍
13-16倍
脳性麻痺
3-5倍 (1-5%)
17倍 (8%)
多胎妊娠の大部分は、1回目または2回目の胚移植で成立した妊娠で発生しています。そこで、発育良好胚
をスムーズに移植できた回数によって、移植胚数の上限を取り決めています。
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治療の可能性とリスク
1回目:1個
2回目以降:2個まで
この取り決めによって、高い妊娠率を維持したまま品胎の発生を予防できています。しかし、それでも双
胎妊娠の発生頻度は10%以上です。また、約3%の頻度で一卵性双胎が発生しますので、「2個しか胚を移植
しなかったのに品胎になる」こともあります。
また、数多くの受精卵を戻すことで子宮外妊娠の発生率も高くなり、体外受精による妊娠のうち約1%は
子宮外妊娠となります。子宮の中に受精卵を戻しても、子宮に着床するとは限らないからです。特に、卵管
に問題がある場合に子宮外妊娠が発生しやすくなります。
■ 治療の安全性
体外受精・胚移植によって生まれた子供における異常発生率や発育は、自然妊娠と差がないとする報告が
数多くなされてきました。しかし近年,大規模な調査が海外で次々と行われ,先天異常発生率がわずかなが
ら増加する可能性も指摘されています。しかし、異常を引き起こす原因はまだ明らかにされておらず、本当
に異常が増えるのかも定かではありません。
胚の凍結保存や顕微授精が子供の発育に与える影響は、現時点では不明です。ただし、重症の男性不妊の
一部は、染色体異常や何らかの遺伝子異常を原因としていることが明らかにされています。そのような男性
の精子を用いて顕微授精を行い男の子が生まれた場合、その子も将来、男性不妊になる可能性がありま
す。Y染色体の遺伝子検査は保険が適用されています。ただし,現時点では遺伝子異常がすべて解明されて
いるわけではなく、異常なしと判定されても子供の妊孕性が保証されるわけではありません。
性染色体異常
常染色体異常
15%
10%
5%
0%
無精子症
∼500万
∼1000万
∼2000万
2000万∼
男性不妊患者の精液所見別にみた染色体異常の発見率 (吉田ら, 1998)
母体が高齢になると不妊治療の有無にかかわらず、ダウン症候群 (21トリソミー) などの染色体異常、口
唇口蓋裂や消化管閉鎖などの奇形の発生が増加することが知られています。不妊治療を受けている女性は高
齢の方が多いため、先天異常の発生率が高まることが予想されます。例えば、ダウン症候群の発生率は約
1/1,200ですが、母体年齢が35歳を超えると3∼4倍、40歳以上の初産例では約15倍に増加します。
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治療の可能性とリスク
妊娠率
流産率
60%
40%
20%
0%
29歳以下
30-34歳
35-39歳
40歳以上
女性の年代別にみた体外受精の妊娠率 (弘前大学, 2002)
18トリソミー
13トリソミー
XXY
21トリソミー
合計
100%
80%
60%
40%
20%
0%
35
36
37
38
39
40
41
42
43
44
45
46
47
母体年齢別にみた羊水染色体検査での異常発見率 (日本産婦人科医会研修ノート「周産期と遺伝」より)
胎児に染色体異常があるかどうかは、妊娠初期に検査することができます。通常は、妊娠16週以降に羊水
検査を行います。その詳細については、妊婦健診を受けている施設の医師に相談してください。
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治療の可能性とリスク
カウンセリング・相談など
■ 体外受精コーディネーター
体外受精はたいへん複雑な治療で、大きなストレスになります。 私たちの施設には、日本不妊カウンセリ
ング学会認定の体外受精コーディネーターがおります。
体外受精コーディネーターは、不妊治療に関する情報をわかりやすい形で提供し、カップルが自律的に治
療方針を決定することができるように支援するのが役割です。また、治療に伴う不安に対する心理的サポー
トや、それぞれのカップルが抱える問題点の解決を手助けいたします。
■ カウンセリングの利用方法
カウンセリングは、 一人一人に合わせた情報提供を行うために予約制となっています。希望される方は、
外来担当医師にお申し出ください。
■ 不妊専門相談センター
青森県からの受託事業で,不妊に関する相談を予約制 (第2・3・4金曜日、14∼16時、1枠40分間) で
行っています。また、平成21年度からはメール相談も開始しました。詳細は青森県庁のホームページ内の
「不妊専門相談センター・女性健康支援センターのご案内」をご覧ください。
http://www.pref.aomori.lg.jp/life/family/funincenter.html
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手続き・お願いなど
手続き・お願いなど
■ 治療の費用
体外受精は保険適用外の治療で、その料金は各施設ごとに独自に決められているのが現状です。弘前大学
医学部附属病院における料金は以下のように設定されています。
★ 採卵
47,000円
★ 媒精・培養
体外受精の場合
56,300円
顕微授精の場合
83,400円
精巣精子顕微授精の場合
112,000円
★ 胚移植
29,500円
★ 受精卵凍結
29,700円
★ 凍結胚移植
45,600円
★ 精子・精巣凍結
17,200円
■ 治療の同意書・依頼書
弘前大学医学部には、医療行為を倫理的に審査する「倫理委員会」という組織があります。体外受精・胚
移植を開始する際は、同意書や依頼書など書類一式 (2枚一式) を提出するよう取り決められています。ま
た、顕微授精を受けられる方は、体外受精の書類の他に顕微授精の書類 (3枚一式) も必要です。
■ 生殖補助医療の登録制度と報告義務
生殖補助医療の実施にあたっては、施設、設備、スタッフなどが一定の基準を満たすことが必要です。日
本産科婦人科学会では生殖補助医療実施医療機関の登録制度を設けており、不妊カップルが安全で質の高い
治療を安心して受けられるよう厳正な施設審査を行っています。
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手続き・お願いなど
■ 子供の発育調査
体外受精を行っている施設には、治療成績
と子供の異常の有無を調査・報告する義務が
あります。この調査は体外受精の安全性を確
認するため、日本産科婦人科学会が行ってい
るものです。体外受精が成功して子供が産ま
〒036-8562
青森県弘前市在府町5
弘前大学医学部産科婦人科学教室
れたら、子供の発育の記録用紙 (このテキス
トの末尾に添付しました) に子供の12カ月間
の発育を記録していただき、満1歳になった
時点でお送りください。この調査において、
体外受精を受けられた両親と子供のプライバシーは厳守しますので、是非ともご協力をお願いいたします。
■ 治療の休止期間
下記の期間は、病院の都合により体外受精・胚移植が休止となることがありますので、あらかじめご了承
ください。
4月上旬 (医師の異動,産婦人科学会のため)
10∼11月の1週間 (生殖医学会で医師が不在になるため)
12月下旬∼1月上旬 (年末年始で血液検査が行えないため)
■ 治療に関する問い合わせ
電話での連絡や問い合わせは、緊急の場合を除いては、なるべく
火、木、金曜日の午後3∼5時にお願いいたします。この時間帯であれ
ば、外来のスタッフと担当医師が時間に余裕をもって対応できます。
平日の時間内:外来 0172-39-5283
休日・時間外:病棟 0172-39-5284 (2病棟3階)
また、私たちの教室のホームページでも診療上の情報を提供しています。定期的に更新
をしていますのでご覧ください。
http://www.med.hirosaki-u.ac.jp/ obste/
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弘前大学医学部附属病院産婦人科
児の発育記録用紙
母親の氏名: 殿
1.双子または三つ児の場合は,何番目に生まれた子供かを記入してください。
双子 / 三つ児 の 番目
2.身体の発育はどうでしたか? 身 長
体 重
生後 1か月
cm
kg
生後 3か月
cm
kg
生後 6か月
cm
kg
生後12か月
cm
kg
3.運動機能と知能の発達はどうでしたか? おおよその月数を記入してください。
首がすわる
か月頃
寝返りをする
か月頃
はいはいをする
か月頃
ひとりで座る
か月頃
ひとり歩き
か月頃
あやすと笑う
か月頃
命令を理解する
か月頃
片言をしゃべる
か月頃
4.生まれてから満1歳になるまでの間に,何か病気にかかりましたか?
はい / いいえ
5.4.で「はい」と答えた方は,病気にかかった時期と病名を記入してください。
生後 か月頃 病名:
生後 か月頃 病名:
生後 か月頃 病名:
生後 か月頃 病名:
6.その他,子供の発育などに気になる点がありましたら,余白に記入してください。
ご協力ありがとうございました。