第67回 全道高等学校サッカー選手権大会北見支部予選会

第67回
全道高等学校サッカー選手権大会北見支部予選会
AAFA テクニカルレポート
2014 年 6 月 16 日
【報告者】 安田秀憲
斎藤正倫
概要
今大会は、5 月 22 日-24 日に紋別運動公園陸上競技
場・紋別高校グランドにて行われ、12チームが熱戦を繰り
広げた。紋別高校と北見北斗高校が支部代表の座を獲
得、決勝戦は1−0で紋別高校が勝利した。
例年、2種年代の TSG は8月の高校選手権予選で実施し
てきたが、より早い時期にレポートを発表し、対象チームや
同カテゴリーの選手・指導者に読んでいただきたいとの思
いから、本大会を視察した。準々決勝4試合のうち、陸上競
技場で行われた2試合を対象に分析を行った。
北見北斗
3-0
網走桂陽
【北見北斗のトレーニングとゲームプラン】
試合後の田中監督とのインタビューから守備面では、パ
スをつないでくるチームに関してはブロックを形成してボー
ルを奪うことをねらいとしてきた。しかし、地区予選がロング
ボールで仕掛けてくるチームが多いことから、ヘディングで
競り合うこととカバーのポジショニングについてチーム理解
を深め、バイタルエリアでのマークを離さないことを徹底し
てトレーニングしてきたという。攻撃面では、ポゼションをし
ながらも縦パスを有効的に使っていくことを目指してきたと
語ってくれた。
【北見北斗の戦況と分析】
1-4-2−3-1とワントップにアンカーを置く守備的な布
陣の桂陽。それに対して1−4−4−2の布陣で確実にビルド
アップをして攻撃のチャンスをうかがう北斗は、ポゼッション
率で優位に立ちながらもゴール前の守備を崩せず、逆にカ
ウンターを仕掛けられる場面もあった。ゲーム自体は前半
11 分に CK からのこぼれ球を北斗 4 番が押し込む。同じく
14 分に左サイドからのセンタリングを 11 番が追加点。後半
5 分にも左サイドからセンタリングを9番がダイレクトで合わ
せてゲームを決めた。スコアでは北斗のワンサイドゲーム
のように思えるが、3 失点した桂陽は後半スリートップの布
陣に変更してカウンターの勢いを強める時間帯があった。
北斗は不用意なロングボールでボールを失う回数が増え、
ポゼッションが陰を潜めた時間帯があったことが残念であ
る。
インタビューの中で田中監督が今後の課題としていたの
が、ゴール前での FW の強い動き出しでバイタルエリアを
攻略することだった。FW がディフェンスラインに吸収された
後は、ボールホルダーのアクションに対して、陣形を変えず
に待つことが多かった。またツートップのアクションを起こし
た際に、連動して2列目 3 列目の選手がポジションを変化
なかった要因として挙げられるだろう。高体連のような35
分ハーフのカップ戦では、ついリスクを恐れて蹴り合いにな
りがちだが、今後、北斗の課題としては、まずは一試合を
通じてポゼッションし続けること。ビルドアップから相手のバ
イタルエリアをどう攻略するために選手同士の連動が必要
であり、ボール以外の状況を観ること、ポジショニング、動
き出しのタイミングなど精度を上げ、相手ゴールに迫る回数
を増やして欲しい。
【網走桂陽のトレーニングとゲームプラン】
普段の練習では「オフザボールでの動き」を重視し、3対1
のポゼッションで「ワンタッチ」の条件を加えるなど工夫して
トレーニングを積んできた。また、1対1での守備の対応に
ついても練習してきた。北斗に対しては1−4−2−3−1とい
う布陣を敷いた。個々の能力が高くパスで崩してくる相手に
対し、アンカーを置きバイタルエリアを固めてボールを奪
い、前線を起点としてカウンター攻撃をかけるというプラン
で試合に臨んだ。
【網走桂陽の戦況と分析】
ボールをつなぎながら攻撃の機会をうかがう北斗に対し、
粘り強い守備で対応。左サイドバックの狙いすましたインタ
ーセプトからカウンターをかける場面も観られた。しかし、ボ
ールを奪ったあと前線に起点を作ることが出来ず、相手か
ら2次、3次と攻撃を受けてしまう。徐々に前線と最終ライン
の間にスペースが生じ、そこを起点に相手にサイドへ展開
され、後ろ向きでの守備を余儀なくされてしまう。クロスへの
対応が遅れ、ボールウォッチャーになったところを突かれて
失点。その後中盤の選手の負傷などアクシデントがあった
が、センターバックを中心に粘り強く対応し、前半を0−2で
終えた。
ハーフタイムに監督は「マークの確認」「攻撃の枚数を増
やす」ことを指示。3トップ気味の布陣にして前線からプレッ
シャーをかける戦術をとった。
AAFA テクニカルレポート
後半はその戦術が功を奏し、相手のビルドアップでのミス
を誘発する場面が観られた。プレッシャーを受けた相手も
ロングボールが増えた。猛攻に耐えるものの、前線に起点
を作って後方から攻め上がる形をうみだすことができず、
後半0−1、合計0−3で試合を終えた。
敗れはしたものの、最後まで戦う姿勢を失わないメンタ
ルの強さが印象的で、選手権予選に向け、さらに強くなる
可能性を感じさせる戦いぶりあった。今後の課題として、
守備では「1stDF と 2ndDF の連携」攻撃では「後方からの
関わり」を挙げたい。
守備で、相手サイドバックに対してサイドハーフが不用意
に飛び込み、かわされ数的不利を作る場面があった。1st
ディフェンダーが相手のスピードを落とし方向づけし、後方
の 2nd ディフェンダーが次のパスを狙うといった前後の連
携があれば、崩される場面を減らせたのではないか。
攻撃では、ボールを奪った際に後方の選手のかかわり
がなくボランチからサイドハーフ、トップからサイドハーフと
いった長いパスが多く、ボールが流れてしまったり、受け
手が孤立したりする場面が目立った。後方の選手がよい
ポジションを取り、関わりを増やしながらボールを運べるこ
とができれば、攻めに厚みが生じるとともに、ボールを奪
われても相手にスペースを与えることなく守備をすることが
可能になるのではないか。こうした課題にぜひ取り組み、
選手権予選ではさらに活躍することを期待したい。
北見緑陵
0−0(PK3−5) 紋別
【北見緑陵高校のトレーニングとゲームプラン】
山下監督のインタビューでは、1対1、2対2、3対3、4
対4のスモールサイドゲームに多く時間を割き、守備面
としてチャレンジ&カバーの個々の対人戦術を磨くことを
中心に取り組んできたという話があった。また、ボールを
奪った後の守備から攻撃の切り替えの部分も強調しな
がらチームとして意識を高めてきたという。攻撃面では、
パスの出し手にはバックパスが多くなることからパスの
角度について、受け手にはチェックの動きで相手を振り
切る動きについて注意を払いゲームの準備をしてきた。
また、5月上旬に紋別高校とは練習試合で顔を合せてお
り、相手の攻撃でロングボールが多くなる展開を予想し
ていたという。そこでロングボールで仕掛けてきたところ
を、緑陵としては中盤でパスをつなぎゲームの主導権を
握るゲームプランを考えていた。
【北見緑陵高校の戦況・分析】
攻撃面では、日頃のトレーニングしているショートパス
を使って、相手陣内へ攻め上がる場面を数多く見ること
ができたが、ゴールに結びつけることはできなかった。守
備面では、まだまだ課題が山積しているという山下監
督。スピードに乗った相手のドリブルを阻止することがで
きなかったり、チャレンジ&カバーではボールの後方へ
下がるディフェンスが続きプレスバックのイメージがなか
ったりと組織的にボールを奪う、ゴールを守る、といった
ところが今度の緑陵の課題と言える。
高体連北見支部予選 2014
課題の解決として、守備面では5対5などのツーライン
でのトレーニングを増やし、組織的にボールを奪うトレ
ーニングを行う意識を高めること。攻撃面では、ショー
トパスはつなげているものの、攻撃の優先順位を意識
していなかったり、コントロールした方向の味方やアク
ションを起こした味方にパスを出していたりする印象が
強かった。そこで、コントロールの置き場所を複数の選
択肢が選べる所にすることや、一度でねらい通りコント
ロールできなかった時には、より複数の選択肢を選べ
る所へ運ぶドリブルを求めていくことで、緑陵のサッカ
ーは大きく変貌する可能性があると感じた。
【紋別高校のトレーニングとゲームプラン】
DF ライン、中盤、トップの3ラインをコンパクトに保つ
こと、とくにバイタルエリアにスペースを作らないことを
普段から徹底している。両センターバックともボールを
つなぐことができるので、そこからシンプルにサイド攻
撃を仕掛けることをねらっている。
【紋別高校の戦況・分析】
両センターバックがラインコントロールをこまめに行
い、守備陣形を常にコンパクトに保っていた。その結果
相手に素早くプレッシャーをかけてボールを奪い、サイ
ドへ展開、そこからのクロスで決定的な場面を何度か
作り出していた。ただ、その後の攻撃もロングボール主
体でやや単調なものとなり、得点を奪うまでには至らな
かった。ハーフタイムで監督からは「コンパクトさを保つ
こと」「前の選手の足下に入れ、そこを起点に攻撃をし
かけること」が指示された。後半も前半同様ゲームの
主導権を握るものの、攻撃で変化を作り出すことがな
かなかできず、徐々に慣れてきた相手にボールを支配
される場面が増えた。しかし、シュートをうたせることは
ほとんどなく、0−0のまま試合終了、PK 戦となった。最
後のキッカーに対し紋別 GK が素晴らしいタイミングで
反応して阻止。5−3で勝利し、準決勝進出を決めた。
試合後のインタビューで五十嵐監督が課題としてあげ
ていたのが「崩し」である。例えば前線の選手がスペー
スを狙うだけでなく足下にボールを受けて起点を作り、
周りがかかわって選択肢を増やして攻める、といった
連動性のある攻撃である。試合の中でも、ビルドアップ
しながらボールを運ぶものの、ゴール前を固めている
AAFA テクニカルレポート
相手に対してブロックの外から放り込むことが多かった。
オフザボールの際に複数の味方とかかわれるポジション
をとることやオープンスペースへの強い動き出しをすること
で、相手ブロックにほころびを生じさせ、そこから多彩な攻
撃を繰り出すことができると考えられる。また、サイドハー
フもサイドに張りっぱなしになり孤立してしまうことが多く、
サイドチェンジでボールを受けても周囲との関わりが薄く
孤立してしまうことが多かった。攻守にわたってボールに
関われる位置にポジションをとり、ボールを受けたときに
「中央にくさび」「オーバーラップしたサイドバックへ展開」と
いった選択肢を多く持てることができれば、より厚みのある
攻撃やコンパクトな守備が可能になる。今後こうした課題
に挑み、全道大会で活躍してほしいと願っている。
GK のプレーについて
視察した2試合のなかでの GK のプレーについ
て、気づいたことを挙げます。
【攻撃の起点となるプレーを】
北斗—桂陽戦で桂陽 GK がボールをキャッチした
あと素早く左サイドバックにスローでパスを出す場面
があった。その後の周りの関わりがうすく、チャンス
にならなかったのは残念であった。正確で素早いス
ローは攻撃の大きな武器である。今後もこうしたプレ
ーを磨いてほしい。
【クロス対応と DF との連携】
サイドを攻められる際ゴール前の状況や逆サイド
の状況を見ておくことが出来ず、フリーな選手を作り
出している場面が多く見られた。チームの守備戦術
を理解した上で状況を先取りし、指示を出すことでピ
ンチの芽を摘み取れるようになってほしい。また、ハ
イボールのキャッチの際に DF のプロテクトがなく
FW にさらされる場面もあった。決断の声をだすタイ
ミングや、だれがプロテクトをするかなど、確認が必
要である。さらに、キャッチの際にボールをしっかり
見ることが出来ず下から挟み込むような不安定なキ
ャッチが見られた。ジャンプしながらボールに正対
し、ボールを良く見て背後からつかむ。そのために
は事前の姿勢やステップワークが重要になる。日々
の練習の中で追求していってほしい。
高体連北見支部予選 2014
まとめ
今回2種の大会を視察させていただき、3種・4種の育
成に関わるものとして、教え子たちが成長した姿、勝利
を目指してひたむきにボールを追う姿をみることがで
き、とてもうれしかったです。それとともに、育成年代で
積み上げなければならない課題についてもさまざま考
えさせられました。もっとも強く感じたのが「ゲーム環境
の重要性」です。高体連のようなノックアウト方式のレギ
ュレーションでは攻撃がロングボール主体の単調なも
のになりがちである。そこに、3種4種年代におけるゲー
ム環境が少なからず影響しているのではないかと思い
ます。ここではロングボールの選択肢を決して否定して
いるのではなく、出し手と受け手のタイミングや相手の
状況によっては優先順位も高く有効な攻撃であると言
える。ただ、互いにロングボールを蹴りあう中で速い選
手、強い選手の個の力でゴールに結びつけばそれが成
功体験となり、なかなか他のアイディアが生まれてきづ
らい状況にあるのではないか。中盤のスペースが空き、
攻守が分業化される。ボールを持った選手に対して周
囲の選手、とくに後方の選手が関わることをせず、「行
ってらっしゃい」という悪い習慣の状態を3種4種で放置
していないか。ポゼッションサッカーが優位になるのは
長時間のゲームでボールを失い、ディフェンスに割かれ
る時間の多さをリスクと考えたときだろう。カウンター攻
撃が通用しない相手に対して、自チームも含め、様々な
サッカーに対応できる選手を育成していかなければなら
ないと感じました。
こうしたゲーム環境を生み出すためには様々なアプロ
ーチがあると思いますが、「DOHTO’s WAY 〜守備の
質を向上させることが、攻撃の質の向上につながる〜」
を私たち指導者が今一度深め、実践することが有効で
あると考えます。「勝つこと」と「育てること」を両立させる
ことはとても難しいですが、指導者が方向性を共有し、
質にこだわった地道なとりくみを重ねることが、育成の
集大成である2種年代で実を結ぶことを信じて、ともに
頑張りましょう。
最後になりますが、お忙しい中今回の TSG に協力い
ただいた2種委員会の皆様、そして各チームの指導者
の皆様に心よりお礼を申し上げます。ありがとうござい
ました。
(安田秀憲 斎藤正倫)