第一回 動脈硬化と虚血性心臓病について

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第
東北中央病院ホ−ムペ−ジ
話
1
回
し
(2001/04/03)
http://www.tohoku-ctr-hsp.com/
《動脈硬化と虚血性心臓病について》
財団法人
山形県教職員互助会
互助やまがた No43 からの転載
東北中央病院
第2内科(循環器内科)部長
金谷
透
日本人の半数以上は動脈硬化で死亡する。
現在、日本人の死因のトップは癌ですが、2位は心臓病、3位が脳卒中で2位と3位をたすと1位の癌で亡
くなる数を上回ります。つまり、我々日本人大半は動脈硬化を基盤とした疾患で最期を迎えると言っても過言
ではありません。
この動脈硬化を基盤とした病気の中で致死率の高い病気というと狭心症、心筋梗塞、大動脈瘤、脳卒中など
があげられます。これらの疾患は一度罹ると命に係わることが多く、その後の社会生活に多大な影響を及ぼし、
命永らえても社会復帰が出来ない場合もあります。
また、我々循環器内科医師がいつも感じていることは、日本では癌や脳卒中は非常に恐ろしい病気として捉
えられている色々な検査を受診で受けることが多いのですが、心臓の検査となると尻込みをしたり、対岸の火
事のような気持ちでいる方が以外に多いということです。今回は狭心症と心筋梗塞についてご説明しますが、
これを機会に心臓病に関してもう少し皆様の認識を新たにしていただきたいと思います。
狭心症とは?心筋梗塞とは?
心臓はお母さんのお腹のなかで胎児の時から動いていて、死ぬまで休みなく動く、特殊な筋肉で出来た素晴
らしいポンプなわけですが、きちんと動くために、心臓は栄養分である酸素を供給するパイプラインに相当す
る大切な血管が「冠状動脈」と比較的細い血管で心臓の周辺を被っています。この血管に動脈硬化が進行し、
血液の流れが悪くなると、無理して動いたりしたときに胸が苦しくなります。これが狭心症の症状です。なか
には冠状動脈が一時的に痙攣を起こして一過性に細くなる場合もあり、この時は労作に関係なく胸部症状が起
こったりします。動脈硬化が悪化して血液の流れがさらに悪くなったり、コレステロールがたまっている塊が
血管の内側を覆っている内膜から火山が爆発するような形で血管内に飛び出してしまったりすると、冠動脈内
に血栓が形成され閉塞してしまいます。
この状態になると突然、狭心症の症状よりももっとひどい苦しみが起こり、冷や汗がでたり、全身の虚脱感
がでたりします。これが急性心筋梗塞の発作です。場合によっては発作が起こると同時に危険な不整脈を起こ
したり、心臓が破裂したりしてあっという間に命を落とすような状況になることがあります。米国では毎年、
40万人ぐらいの人が心筋梗塞で亡くなっている為、国をあげての予防措置を講じています。現代日本の若者
たちの血清コレステロール値は同年齢の米国の値と比較すると高く、また最近では糖尿病、肥満症、羅患率も
上昇し今後将来、日本人の心筋梗塞の患者が増加することが危惧されています。
危険因子
冠状動脈をはじめとする動脈硬化性病変を促進、悪化させる因子があります。
これは生活習慣に関係の疾患、嗜好品などがいくつか挙げられています。特に冠状動脈病変に関して重要視さ
れているのは高血圧症、喫煙、高脂血症、耐糖能異常(糖尿病)肥満、ストレス、加齢などです。また欧米人
と我々日本人でも、これらの危険因子に若干相違があり、大都市と農山村地域でも少し違いがあるといわれて
います。現時点で最も重要な危険因子は高血圧症と考えられています。また、前述した因子の他に重要な因子
として遺伝的因子や女性における閉経(女性ホルモン分泌の変化)などがあります。危険因子を有している場
合はなるべく改善する方向に向かうよう、生活習慣を改善する必要があります。これは比較的若い年齢層ばか
りでなく定年を迎える年齢でも遅くはありません。かかりつけ医を決めて定期的に血圧を測定し、検査を受け
ることが大切です。心臓病も癌と同様に早期発見、早期治療が第一と考えます。
臨床症状、検査について
狭心症の症状は色々ありますが代表的なのは、
1:前胸部の締め付けられる感じ
2:圧迫感、重苦しい感じ
3:左の肩や上腕が苦しくなる感じ、喉のあたりにつきあげてくるような感じ
などです。 主として発作時、食後などに出現しますが、前述の冠動脈が痙攣を起こして一過性に細くなるタ
イプの狭心症では夜間睡眠時や明け方早朝時、深酒した翌朝に起こる場合があります。これらの症状が起こる
ようになったらすぐに循環器の専門医を受診して適切な検査を受けてください。一方、糖尿病がある患者さん
に時々みられることとして狭心症の発作が起きてもあまり症状がでない場合があります。糖尿病により症状が
出にくくなっているためです。糖尿病や耐糖能異常と指摘されている方は症状がなくてもある程度の危険因子
を有していれば時には精密検査が必要です。
急性心筋梗塞の症状は突然前胸部や背部などに前述の狭心症の症状がさらに強く出現し、冷や汗を伴った
り、前身の虚脱感が出現したり、ひどい時にはショック状態になることもあります。検査の重要な目的は心臓
病を防ぐこと、狭心症から心筋梗塞へ移行するのを予防することが第一の目的です。心臓の検査としては心電
図、胸部レントゲン写真の他に、心臓の動きや心臓内の血液の流れを把握できる心臓超音波検査、病院以外の
所で、心電図がどのようになっているかを調べる24∼48時間心電図検査(ホルター心電図)、運動した時
の心電図変化をみる運動負荷心電図検査、放射性同位元素を用いて心臓の動きを心筋血流の状態をみる心臓核
医学検査、その他CT、MRI等の検査、血液を調べて脂質や血栓形成をおこしやすいか否かを調べる検査な
どもあります。最終的な検査として最も重要な検査は「心臓カテーテル検査」です。これはカテーテルという
細い管を血管の中に挿入して血管の状態「狭窄の有無」や心臓のポンプの働きを調べたり、不整脈の病態を把
握する検査です。冠状動脈の状態を調べるカテーテル検査を冠状動脈造影検査といいます。症状ある方や危険
因子を多く有している方に必要な検査です。
カテーテルを挿入する部位としては足の付け根(ソケイ部)や肘、手首の所の動脈から局所麻酔を施行して
行います。最近ではなるべく患者さんへの負担を軽減する目的で肘や手首の血管から行う施設が増えていま
す。本検査の重要性をきちんと理解し、必要に応じて受けることが必要です。入院は短くて2日、長くても5
日くらいでしょう。
治療
治療の基本は危険因子を回避するための生活習慣改善が第一ですが、基本は薬物投与法です。狭心症の発作
を改善するため以前よりニトログリセリン製剤が用いられてきましたが、この他にも狭心症、心筋梗塞に使わ
れる薬剤は数多くあります。ここ10年ほどで目をみはる進歩を遂げた治療法はカテーテルを用いた治療で
す。それと同時に専門医に適切な薬を処方してもらうことが必要です。薬を用いない治療として、細いカテー
テルの先端に風船をつけて狭くなった冠状動脈を拡張したり、ステントといった金属を冠状動脈内に植え込ん
で狭窄病変を治療したりする方法が進歩してきました。
また、冠動脈バイパス手術も以前よりかなり進歩し予後の改善がみられています。専門医によく説明をきき、
適切な治療方針を適時選択することが大切です。
おわりに
「人は血管と共に老いる」という有名な言葉があります。我々人間はお母さんから生まれて以来、天寿をま
っとうするまで加齢変化と付き合わなくてはなりません。加齢変化のひとつである動脈硬化を回避することは
不可能ですが遅らせたり、動脈硬化がひどく進まないように出来れば、ヒトはもっと長生きできるでしょう。
また、心臓病や脳卒中になり、年齢に応じた社会生活を送れないのは不幸なことと思います。
平均寿命も世界一となった我々日本人の次なる目標は、ただ長寿になるだけでなく、社会的にも幸せに人生
が送れる事だと思います。それには動脈硬化について、よりいっそうの理解が必要です。「年を取ったからそ
ういう検査や治療はもう結構」と言われる方をよく経験しますが、ある程度年を取られたので起こる病気だと
いうことをご理解していただきたいと思います。皆様の今後のご健康をお祈りして今回の心臓病の話はここま
でといたします。
財団法人
山形県教職員互助会
互助やまがた No43 からの転載