その名も井仙3兄弟。食べること、それも地元を 食すとなると、我を忘れてワイルドになってし まう彼ら、まずその横顔から紹介しておこう。 「手抜きは大嫌い。オレの手にかかればあの食 材この食材もこのとおり」の長男、クワさんは 料理人。おなじみの食材も、”魚沼キュイジー ヌ”に仕立てる腕ききだ。キノコ通の次男ヅカさ んは「どこで何が採れるかだって?それはオレ に聞いてくれ。湯沢の山もオレの庭」と一言。 毒もあり、取り扱いが難しいキノコには、知識 があるからこそ、細心の注意をもってのぞんで いる。「?」なキノコは部屋にある大きな図鑑 で必ずチェック。そして三男アビさんは「お酒 をおいしくする食材探しならどこへでも。最後 はしっかりいただきます」の食べ方専門。料理 とお酒の極上の組み合わせを求め続けている彼 がすすめるのはさて何になるのだろう? 今日 はそんな井仙の3兄弟がそろって湯沢の山へキノ コ狩りに出かけた。さあ、狩るぞ、キノコキノ コ。食べるぞ、キノコキノコ。 3兄弟を先導するのは、キノコ通の次男こと、オレ、ヅ カさん。今日はリポートも先導させてもらいます。 さて、キノコの発生は天候や山の色が教えてくれる、っ て知ってましたか?キノコは種類や育つ環境により時期が 異なります。舞茸やブナハリタケは比較的早く、山の頂上が 赤く色づき始め、昼と夜の寒暖差が大きくなる頃が目安。 ある日突然、外の空気が秋の匂いに変わります。するとキノ コが出るんです。って、コレはもう野生児のカンとしか言い ようがないです。猛毒のツキヨタケやドクツルタケもこの時 期に、ナラタケはその2∼3週間後、ナメコやクリタケは 紅葉が終わる頃に多く発生します。今日は10月。まだ少し 早いかもしれないと思いつつ、以前から気になっていたポ イントへ出発。前日のニュースでは、隣町でキノコを採っ ていた人が熊(!)に襲われたと報道されたばかり。でも 3兄弟はそんなのおかまい無し。3人いれば熊対策にもな る、などと言っているうちに狙いのスポットへ到着。と、 車を降りたとたんに雨が降り始める始末。いつもは静かな 森が一転、雨音の響くとんだ歓迎となったが、3兄弟はや っぱりおかまい無し。帽子をかぶって、さあ行くぞ!狙う は極上魚沼キノコだ! 舗装された道をしばらく進むと、立ち木の上に白いキノ コを見つける。あれはもしやレア発見か!?オレ、ヅカのちょ っとした興奮ぶりに、長男、三男もつられてちょっとその 気。「とるぞ」。目と目で合図を交わすと、3人それぞれ、 落ちていた枯れ枝を手に、頭上4メートルのキノコを突っつ き始めた。しかし届かない。次男の指示でキノコの付いた 木をしならせる三男。鋭い視線でそれを見守る長男はカゴ をかかえ、落ちてくるであろうキノコを待ちわびている様 子。先導役の次男、突き続けるが、なかなかヒットしな い。しびれを切らした長男がサポートに入ろうとしたその 瞬間、次男が叫んだ。「落ちた!その辺とその辺」。すか さず長男&三男は茂みに分け入り、ふたつに空中分解したキ ノコを探し始める。色気より食い気(と言っても男ばかり で色気など必要ない)、今晩のキノコ汁がかかっていると あって、みんな必死だ。3人の協力が実ったのか、2片の キノコを無事に採取。なんと、平地ではめったにお目にか かれない「ブナハリタケ」。湯沢では「シシタケ」とも呼 ばれ昔から親しまれているものだ。香りも良く、これは美 味いキノコ汁ができるぞと、ワクワクしながら3人は更なる 収穫を求め奥へ進んだ。 道路からちょっとそれて、林の奥へ入り込むと「スギヒ ラタケ」がたくさん出ていた。何十年も前から食用で美味 しいキノコとして親しまれてきたが、数年前に有毒と判定 され、以来、誰も取らない毒キノコとなってしまった。ほ かにも見るからにしっかりとした茎の美味しそうなキノコ が生えているが、ほとんどが食用に適さないキノコばか り。今日はハズレかな?と思いつつ、気がつけば、奥に踏 み込んでいたオレ次男。いかんいかんと戻ってみると、道 路脇で三男が着々とアケビや栗、むかごなどの秋の実りを 収穫しているではないか。「奥に踏み込みたかったけど、 置いて行かれちゃ大変だと思ってね、諦めて道を歩いてた ら、アケビがこんなとこにあったよ∼」。ううむ、いつも ながらちゃっかりしてるぞ三男。では長男は?と探すと、 バンダナと同じピンク色のキノコを手に、こちらに歩いて 来るところだった。足取り軽やか、意気揚々。顔にはちょ っと笑みが浮かんでいる。「とったよ∼。これ食べられ る?」。いや、長男ごめん。近づいてみるまでもない。そ れはドクベニタケだ。「食用には適さないよ」。オレの一 言で長男撃沈。「食べられるキノコなんて、なかなか見つ からないじゃない。ほとんど毒キノコでさ」。長男は不満 を口にしたが、しかし、さすがは調理人、しつこかった。 とうとう「フウセンタケ」を発見!これは笠の裏が紫色な のが特徴で、いろんな料理に合うのだ。 お昼も近くなったところで、キノコ狩り終了。今日の収 穫はと並べてみれば「ブナハリタケ」「フウセンタケ」。 もうひとつ、触れると煙が出る「ホコリタケ」も。見た目 や名前からして食べられそうにないキノコだが、実は幼菌 (発生間もないキノコ)のホコリタケは食用になる。ほか には三男の活躍で、アケビや栗など秋ならではの食材もゲ ットできた。「天然舞茸はどこじゃあい」と、三男は叫ん でいたが、こればかりは自然の恵み、運なのだ(ま、天然 舞茸は運が良くても見つかる代物ではないけれど)。山を 歩いて秋に出会えた、気持ちよかった、それがいいのだ。 さあ、そろそろ腹ごしらえの時間。今日とれたキノコを 使って、料理長の長男に腕をふるってもらうことにした。 メニューは迷わずキノコ汁。キノコと地場野菜を具材に地 元魚沼の無添加味 で合わせる。ここで、♪調理長クワさん の、キノコクッキング∼♪「まず大根、人参、じゃがいもを 下茹でしよう。こうしておくと味がしみこみやすくなるか らよろしく。次に野菜を鍋に、水を加えたら味 を加え る。一緒に豚肉を入れると味に深みが出るぞ。最後にキノ コを入れて完成。キノコは初めに入れてしまうと、香りや 食感がなくなってしまうので最後に入れること。ヨロシ ク」。できあがったキノコ汁、キノコの香りがほのか∼に 漂い、たまらなく食欲をそそる。一口、二口。ブナハリタ ケの香りと食感は新鮮で、噛めば噛むほど味が出る。数百 年も前からこの魚沼地区で親しまれてきたキノコ。ただし なかなか出会えないレアものだから、なおさらありがたく おいしい。むらんごっつぉでは、さすがにブナハリタケは 無理でも、秋に必ずキノコ汁がメニューに載ります。ついで に、キノコを使ったメニューをもうひとつ。夜のコースに 登場する「越後もち豚のハンバーグ」にも、いろんなキノ コがた∼っぷり添えられています。ハンバーグとキノコ、ボ リュームの組み合わせも、ぜひお試しあれ。 さて最後に、三男に登場してもらおう。ズバリ、キノコ 料理に合う日本酒を教えて。「まぁ、料理や味付けにもよ るので一概には言えませんが、香りの穏やかなタイプのほ うがキノコの香りと喧嘩せず良いかもしれませんね。ウチ のラインナップでしたら『巻機 純米吟醸』がよろしいか と。吟醸造りでありながら香りが穏やかで、常温やぬる燗 がオススメです。もちろん冷酒でもイケますが今回のキノコ 汁ならば、少し燗をつけて料理とお酒の両方で山で冷えた 体を暖めてはいかがでしょうか。そんな観点からいえば、 燗にしてベタつかない本醸造クラスのお酒もベターでしょ うね」。あなたは冷酒?それともぬる燗?三男の話を聞い て、日本酒&キノコのマリアージュを試してみたくなった ら、「むらんごっつぉ」へどうぞ。季節の味がたくさん待 ってます。 小野塚敏之(おのづかとしゆき)/所属:マーケティング 時代とともに進化するHATAGOを目指し日々奮闘中。幼少 から自然とふれあい、釣りや山菜・キノコ・クワガタ採集 を得意とする生まれも育ちも湯沢っ子。特に魚沼周辺の川 や湖でのルアーフィッシングはおまかせ。この自然豊かな 魚沼の魅力を全世界に伝えたいワイルドなアウトドア男。 桑名宣晃(くわなのぶあき)/所属:料理長 酒と料理と車をこよなく愛し、未知なるアイデアとセンス と愛嬌で突き進む一料理人!!男の浪漫を探しつつ、楽しい人 生を送ってます。 安孫子充(あびこみつる)/所属:むらんごっつぉ 新潟生まれの日本酒育ち。酒のアテにはこだわりを持ち、 お酒はハードリカーから中国酒までイケル守備範囲の広 さ。月に数回、営業終了後の店内にて「試飲会」と称する 日本酒の宴を社員有志と催している。曰く「れっきとした 勉強会」。意外とアウトドア派。近年ではシーズンを問わ ず山に出没している。 © 2016 株式会社いせん
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