都市の記憶を継承する ―イタリアに学ぶ修復型都市再生(3) - Junro Tamioka, Oriental Consultants Co., Ltd PARTE Ⅰ URBANISTICA MODERNA 近代都市計画とは コルビュジェと近代都市計画@武蔵工業大学_080520 1 コルビュジェと近代都市計画@武蔵工業大学_080520 2 「近代都市計画」とは? 近代都市計画の背景 現代のわれわれが日常的に目にする都市をつくりあ げている「法律的・経済的・技術的体系」 産業革命以降、農村から都市部への人口流動が 加速し、都市の環境が悪化 9 法律的体系:都市計画法、建築基準法、道路法 など 9 経済的体系:土地税制、不動産業、建設業、自動車産業 など 9 技術的体系:鉄筋コンクリート・ガラス、高層建築、立体利用 など 9 高い人口密度、住居と工場の混在、スラムの拡大などの問題が発生 アパート・マンション、オフィス街などはこのとき誕生 9 中世、ルネッサンス、バロックの時代にはなかったもの パリ改造の頃は「様式主義」、近代都市は「非様式」 9 スチール・ガラス・コンクリートなどの新建設技術で可能に 9 無個性で均質的な「箱」が建ち並ぶ景観に 重要な関連用語として、「モダニズム modernism」「機 能主義 functionalism」 コルビュジェと近代都市計画@武蔵工業大学_080520 3 産業革命が最も早く起こったイギリスで、1848年に 公衆衛生法が制定 9 この法律の発展に従い、建築や都市施設の基準が定められるように フランスで、セーヌ県知事オスマンが、密集したパ リ市街を改造(1853-1870年) 9 オスマンのパリ改造はバロック都市計画の流れを汲むもの 9 バロック都市計画の先行例:ローマ(バチカン、ポポロ広場など)、ロン ドン(大火後の復興計画) 9 パリ改造に影響を受けた例:ベルリン改造計画(1862年)など コルビュジェと近代都市計画@武蔵工業大学_080520 4 推進者ル・コルビュジェ コルビュジェの理念:「輝く都市」 コルビュジエが提唱した理想都市 人口過密で環境の悪い近代都市を批判し、1930年に計画案 Le Corbusier、1887年 - 1965年。 スイスで生まれ、フランスで主に 活躍した建築家。 9 本名はシャルル=エドゥアール・ジャンヌレ (Charles-Edouard Jeanneret) 9 高層ビル建設に よるオープンス ペースの確保 9 ゾーニング 9 街路を整備して 自動車道と歩道 を分離(歩車分 離) など フランク・ロイド・ライト、ミース・ファン・デル・ロー エとともに、「近代建築の三大巨匠」と呼ばれる 9 CIAM(Congres International d'Architecture Moderne=近代建築国 際会議)では、ヴァルター・グロピウス、ミース・ファン・デル・ローエら とともに参加し、中心メンバーとして活躍 「住宅は住むための機械である(machines a habiter)」という言葉が有名 上野の国立西洋美術館の基本設計を担当 コルビュジェと近代都市計画@武蔵工業大学_080520 5 コルビュジェの理念:「輝く都市」 6 『アテネ憲章』 マルセイユなど各地に建設されたユニテ・ダビタシオン (Unité d'habitation 1952年)は、その実践例 9 工業化・規格化が 試行されている 9 鉄筋コンクリート の骨組みにプレ ハブ化された住 戸をはめ込んだ 構造 9 元祖「マンション」 コルビュジェと近代都市計画@武蔵工業大学_080520 コルビュジェと近代都市計画@武蔵工業大学_080520 7 The Athens Charter(Charte d'Athènes) 近代都市のあるべき姿を記した文書 1933年のCIAM(近代建築国際会議)で採択 都市計画及び建築に関する理念で、「機能的 都市」をうたう 9 「輝く都市」の理念に沿い、都市の機能は「住居・労働・余暇・交 通」にあり、都市は「太陽・緑・空間」をもつべきである、とする 機能主義による都市計画理論として、各国の 都市計画に大きな影響を与えた コルビュジェと近代都市計画@武蔵工業大学_080520 8 近代都市計画への影響‐1:ハワード 近代都市計画への影響‐1:ハワード 田園都市レッチワース Ebenezer Howard、1850年‐1928年。 社会改良家で「近代都市計画の祖」。 「田 園都市論」で自然との共生、都市の自律 を提示、近代都市計画に多くの影響を 9 9 9 9 人口数万程度の、職住近接型の都市を郊外に建設 住宅は公園や森に囲まれ、農作業などをするスペースも 豊かな者や貧しい者など、多様な家庭のための賃貸住宅も その賃貸は田園都市を運営する土地会社が実施、この資金を元手 に、住民自身が公共施設の整備などをすすめる→コミュニティ形成 レッチワースなどが実現例 9 世界各地のニュータウン建設が、「田園都市」の名のもとに実施 9 日本では、田園調布、東急多摩田園都市など。 9 多くは単なる「ベッドタウン」で、職住近接の自律都市にはほど遠い コルビュジェと近代都市計画@武蔵工業大学_080520 9 近代都市計画への影響‐2:トニー・ガルニエ コルビュジェと近代都市計画@武蔵工業大学_080520 10 近代都市計画への影響‐2:トニー・ガルニエ リヨンのLes EtatsーUnis(レ・ゼタジュニ)開発地区 Tony Garnier、1869年‐1948年。 フランスの都市計画家・建築家。 工業都市理論を提示し、コルビュ ジェら都市計画家に影響を与えた 9 工業を都市計画の主題に置き、都市を市街地と工業 地区にゾーニング 9 緑地帯によって明確に分離し、地区を路面電車で連結 9 全ての建築物がコンクリート造で構想されている コルビュジェと近代都市計画@武蔵工業大学_080520 11 コルビュジェと近代都市計画@武蔵工業大学_080520 12 近代都市計画への影響‐3:F・L・ライト 近代都市計画への影響‐3:F・L・ライト ブロードエイカー・シティ(Broadacre City)の都市計画構想 Frank Lloyd Wright、1867年 - 1959年。アメ リカの建築家 建築的にはモダニズムの流れをくみ、幾何 学的な装飾と流れるような空間構成が特徴 9 浮世絵の収集でも知られ、日本文化から影響、日本国内の作 品として「帝国ホテル」 コルビュジェと近代都市計画@武蔵工業大学_080520 13 コルビュジェと近代都市計画@武蔵工業大学_080520 14 近代都市計画の具体例‐1 ■チャンディーガル ‐ Chandigarh(インド) PARTE Ⅱ ESEMPI 近代都市計画の事例 コルビュジェと近代都市計画@武蔵工業大学_080520 15 コルビュジェと近代都市計画@武蔵工業大学_080520 16 近代都市計画の具体例‐1 近代都市計画の具体例‐2 ■ローマ新都市「エウル」 ‐ EUR(イタリア) チャンディーガル‐Chandigarh(インド) 9 9 9 9 インド北部の都市。ル・コルビジェによる都市計画 街の原型は寒村があったのみで、ほぼ更地から建造 ゾーニングに関しては、都市機能を擬人化して配置 道路に順列をつけ、歩道と車道を分離し歩行者用の道 路網を計画 9 800m×1200mのセクターを単位に、住む・働く・レジャー、 マーケットを内包 9 各セクターから徒歩10分以内で学校や大学へ通える コルビュジェと近代都市計画@武蔵工業大学_080520 17 近代都市計画の具体例‐2 コルビュジェと近代都市計画@武蔵工業大学_080520 18 近代都市計画の具体例‐3 ■ブラジリア‐ Brasilia(ブラジル) ローマ新都市「エウル」 ‐ EUR(イタリア) 9 ローマの第33番クアルティエー レ (地区)で、1930年代から建設 された新都心 9 1935年にムッソリーニが、1942 年に開催予定であった(第二次 世界大戦の勃発で中止)ローマ 万博の開催に向けて建設 9 官公庁や国営企業の本社ビルの他、ローマ文明博物館など の博物館、公園、各種スポーツ施設、大規模な集合住宅な どがある コルビュジェと近代都市計画@武蔵工業大学_080520 19 コルビュジェと近代都市計画@武蔵工業大学_080520 20 近代都市計画の具体例‐3 近代都市計画の具体例‐4 ■筑波研究学園都市(日本) ブラジリア‐ Brasilia(ブラジル) 9 ブラジルの首都で、標高約1100mの高原地 帯に建設された計画都市。 9 人造湖畔に、飛行機が羽根を広げたプラン 9 主要建造物は、モダニズムの未来的デザイ ン。中心は、建築家オスカー・ニーマイヤー 9 1956年にリオデジャネイロからの遷都が決 定され、わずか41ヶ月間で完成 9 1987年に世界遺産登録(建設後40年未満の 若い都市の登録は異例) 9 市内の移動は自動車による移動が前提 コルビュジェと近代都市計画@武蔵工業大学_080520 21 コルビュジェと近代都市計画@武蔵工業大学_080520 22 近代都市計画の具体例‐4 筑波研究学園都市(日本) PARTE Ⅲ 9 約300に及ぶ研究機関・企業、約1万3千人の研究 者を擁する世界有数の学術・研究都市 9 都心地区(センター地区)は、つくばエクスプレス 線つくば駅周辺 9 総延長約42kmのペデストリアンデッキが整備され、 歩車分離 9 市役所以外の公的機関、西武百貨店、ジャスコな ど商業施設、つくば国際会議場、ノバホール、つく ばカピオなどの公共施設が集積 9 広く分散する都市設計のため、車依存の社会 コルビュジェと近代都市計画@武蔵工業大学_080520 DOPO LA MODERNITA 近代都市計画、その後… 23 コルビュジェと近代都市計画@武蔵工業大学_080520 24 再度、「近代都市計画」とは? 近代都市計画の主眼と方法 インターナショナル・スタイルがその発祥。1900年代前半 に、「近代建築国際会議(CIAM)」を中心に、ル・コルビュ ジェ、グロピウス、ミースらが提唱。伝統意匠からの解放。 鉄・コンクリート・ガラスによる「自由な造形」。 アテネ憲章(1933年):「住む・働く・憩う」場の分離と、交 通による接続。近代都市計画の一大原則に。 20世紀に、全地球的規模で拡散。アジア・アフリカ・中南 米・オーストラリアをも席巻。 資本主義・自由経済化と軌を一にして定着。 日本をはじめ、各国の「都市計画法」の根幹思想となる。 もともと、ガリレオ、ニュートンの近代科学的方法論(予定 調和説→仮説検証主義)を、土木・建築に輸入したもの。 コルビュジェと近代都市計画@武蔵工業大学_080520 主眼1=シビル・ミニマム:市民生活に最低限必 要な機能性・利便性、安全性、衛生環境の達成 9 中央集権的な官僚機構がシステムを統制。全て の地域・土地を画一的指標(人口、容積率・建ぺい率)で 管理。自治体は中央に従属(補助金と交付税) 主眼2=産業・経済の発展:生産力と消費規模、 住宅面積の大きいことが 良い地域 の証し 9 効率主義(土地利用の分離)と拡大・成長主義(開発余力 を求めてどこまでも市域を拡大、建築規制を緩和) コルビュジェと近代都市計画@武蔵工業大学_080520 25 近代都市計画の隘路(行き詰まり) 犯罪は「ファスト風土化」した郊外部で多発 経済・産業効率を偏重したゾーニング(過度 の土地用途純化) →生活の場がなくなる →職・住分断、長距離移動(通勤・通学地獄) 生態系の破壊 →車依存、過度の開発により、都市環境、地球環 境悪化(温暖化、大気・土壌・水質汚染) 画一的な整備 →地域やまちの個性・風景喪失、歴史文化の破壊 コルビュジェと近代都市計画@武蔵工業大学_080520 26 27 柏崎市・女子高生監禁、コンクリ詰め殺人事件(2000)。連れ去り現場の三条市にジャスコ 愛知県武豊町・幼児虐待致死事件(2000)、同・幼児熱湯虐待事件(2001)。付近にイオン 前橋市・19歳女性連れ去り事件(2002)。逮捕地点の佐野藤岡ICにイオン 三重県桑名市・連れ去り事件(2003)。現場近く、東名阪道・桑名ICにジャスコ 足利市・女子連れ去り事件(2003)。現場付近太田市にイオン 河内長野市・少年少女による家族殺傷事件(2003)。富田林駅付近にジャスコ 名古屋市・高三男子による女児暴行殺害事件(2003)。付近にジャスコ 静岡県袋井市・女子連れ去り事件(2003)。付近にジャスコ 三条市・男児切りつけ事件(2004)。付近にジャスコ 鳥栖市・警察官女児連れ去り事件(2004)。現場の鳥栖駅前にジョイフルタウン 富田林市・高一女子が自分の乳児を公園に埋める事件(2004)。富田林駅付近にジャスコ 岸和田市・中学生虐待事件(2004)。付近にサティ 佐世保市・女子傷害事件(2004)。現場がジャスコ 佐世保市・小六同級生殺害事件(2004)。加害者女児の母親がジャスコ勤務 ジャスコが立地するような場所 で犯罪が発生 幹線道路=流動性・不安定性の風景が犯罪を誘発? 地域外からの大量来客、匿名性の空間⇒犯罪誘発、検挙率低下 深夜営業⇒従業員の母親、家庭崩壊? 『ファスト風土化する日本』(2004)より コルビュジェと近代都市計画@武蔵工業大学_080520 28 EUによる近代都市計画の総括 たとえば、イタリアの都市 1990年6月、欧州委員会・環境総局が政策提言書を発行。 『都市環境緑書(Green Paper on the Urban Environment)』(イタリアの建築家 サンドロ・ジュリアネッリSandro Giulianelliらが参画) 「都市とは近接性と同義」である(the city is synonymous with poroximity) 。 「近接性によって多様な関係や活動が生まれ、都市は情報の 中枢、創造の中心となっている」(経済的原動力) 「都市の文化的役割は、密度・近接性・選択可能性により発揮 される。…歴史的資産によって、観光など、文化に結びついた その都市ならではの経済活動が可能になる」(文化的原動力) 厳格なゾーニングによって都市の歴史的遺産や地理的特徴が 損なわれる。…ダイナミックな有機体としての都市が機能不全 に陥っていく コルビュジェと近代都市計画@武蔵工業大学_080520 個性的で魅力的な都市が多い 9 ローマ、フィレンツェ、ヴェネツィア、ナポリ、ミラノ、ボロー ニャ、パルマ、ヴェローナ、トリノ、ピサ、などなど 9 日本でも多くの地名が知られている 9 都市計画と地方分権がうまくいっているおかげ? 9 英国やフランスにも魅力的な都市がたくさんあるが、日本人 は都市名をいくつ挙げられる? 9 地方分権(イタリア)と中央集権(英国・フランス)の違い? ユネスコ世界文化遺産の登録数 9 イタリアは世界NO.1(2007年現在、41地区) コルビュジェと近代都市計画@武蔵工業大学_080520 29 「まちなか力(りょく)」 30 近代後は、中世へ回帰? 中世回帰? 中世都市の恒常的発展の4要件(イタリアの建築史家レオナルド・ベネー 近 代 ヴォロLeonardo Benevoloの著作に準じ、千葉大学の岡部明子が整理) 1.人間的な公共空間の存在 9 ヨーロッパ中世のまちは、個人が少しずつ建物を建て、その建物の前に公 共空間を設けることをお互いに申し合わせるように実施。私的行為の集積 でありながら全体の利益を考えたようなつくりになっている バロック 2.多様な主体による都市の共同運営 9 宗教的主体(教会や修道院)、政治的主体、経済的主体の3者が協働で都 市を運営。価値観が異なる3者が、まちの中心広場に寄り添うように存在 3.城壁に囲まれたことよる都市空間の高密性 9 市壁に囲まれていたために、人口が増えると建物を高層化しつつ発展し、 住民同士の関係も密になっていった ルネッサンス 古典復興 コルビュジェと近代都市計画@武蔵工業大学_080520 31 パリ改造、田園都市、コルビュジェ 16世紀末∼18世紀初頭 反宗教革命、植民地、ローマ改造 14∼16世紀 理想都市 中 世 476年∼1400年代(15世紀)末 古 代 ∼476年(西ローマ帝国滅亡) 4.変化し続けるダイナミズム 9 中世においては建物がいつも工事中で、しばしば教会などは何代にもわ たって建設が続けられた 18世紀後半/19世紀前半∼ 1000年間、持続・発展 コルビュジェと近代都市計画@武蔵工業大学_080520 32
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