第20号 2014年1月7日発行 「雑損控除について」

メディカル税務レポート
第20号
2014 年 1 月 7 日発行
■ 第 20 回 雑損控除について
1. はじめに
明けましておめでとうございます。 今年も「メディカル税務レポート」をどうぞよろしくお願い
します。
今回のテーマは「雑損控除」です。所得税法では、納税者が災害等によって一定の資産に損害を
受けた場合には、その納税者の担税力はそれだけ減殺されることになり、他の納税者と同一の条件の
もとに所得税を負担させることは適当でないとして、所得金額から所得控除として一定の金額を
差し引くことができる制度が「雑損控除」です。
2. 雑損控除の概要
(1)雑損控除の対象となる資産は、次のいずれにも当てはまることが必要です。
イ
資産の所有者が「納税者」か「納税者と生計を一にする配偶者その他の親族(総所得金額
等が 38 万円以下の者)」の有する資産であること。
ロ
生活に通常必要な住宅・家具・衣類などの資産であること。
(事業用資産や競走馬・別荘・
書画・骨とう・貴金属等で1個または1組の価額が 30 万円を超えるものは除かれます。)
(2)雑損控除の対象となる損害の原因は、次のいずれかの場合に限定されています。
イ 震災、風水害、冷害、雪害、落雷など自然現象の異変による災害
ロ 火災、火薬類の爆発など人為による異常な災害
ハ 害虫などの生物による異常な災害
ニ 盗難(自己の意思に反して財物を窃取または強取されることによる災難をいう)
ホ 横領(自己の財物を占有する第三者によってその財物を不正に領得されることをいう)
(3)雑損控除の金額は、次のいずれか多い方の金額を控除することができます。
イ
(差引損失額) − ( 総所得金額等 × 10% )
ロ
(差引損失額のうち災害関連支出の金額) − 5 万円
損害額が大きくて、その年の所得金額から控除しきれない場合には、翌年以後(3 年間が限
度)に繰り越して、各年の所得金額から控除することができます。
差引損失額
⇒
損害金額 + 災害関連支出の金額 − 保険金等で補てんされる金額
損失金額
⇒ 損害を受けた時の直前におけるその資産の時価を基にして計算した損害の額
3. 計算例
(1)事業者甲の平成 25 年中の被害状況
イ 空き巣に入られ、現金が盗まれた
ロ 台風により家屋の一部が損壊
200,000 円
1,200,000 円
ハ 上記ロに伴う損壊家屋の撤去費用
300,000 円
ニ 損壊家屋に係る保険金の受領
200,000 円
(2)事業者甲の平成 25 年分の申告内訳(「雑損控除」加算前)
総所得金額
9,530,000 円
所得控除合計額
2,525,610 円
申告納税額
995,300 円
(3)
「雑損控除」の計算
[差引損失額の計算]
(イ) 200,000 円 +(ロ) 1,200,000 円 +(ハ) 300,000 円 −(ニ) 200,000 円 =(ホ)1,500,000 円
[雑損控除額の計算]
① (ホ) 1,500,000 円 −(総所得金額) 9,530,000 円 × 10% = 547,000 円
② (ハ) 300,000 円 − 50,000 円 = 250,000 円
① >
② ⇒ 547,000 円(雑損控除の金額)
(4)事業者甲の平成 25 年分の申告内訳(「雑損控除」加算後)
事業所得金額
9,530,000 円
所得控除合計額
3,072,610 円 ( + 547,000 円)
申告納税額
882,000 円 ( △ 113,300 円)
※国税 △ 113,300 円のほか、市・県民税も △ 54,700 円 それぞれの納付税額が
減少します。
4. 雑損控除を受けるための手続
雑損控除の適用を受けようとする場合には、その金額および控除に関する事項を確定申告書に記載
するとともに、災害関連支出の金額(盗難、横領に関する支出の金額を含む)の領収を証する書類を
確定申告書に添付するか確定申告書を提出する際に提示することになります。
5. 事例紹介
(1)シロアリ被害
家柱などを蝕まれるシロアリによる被害は、
「害虫による異常な災害」に該当し「雑損控除」
の対象となりますが、シロアリの発生を予防するために行なう薬剤散布費用は「雑損控除」の
対象とはなりません。
(2)
「オレオレ詐欺」「振り込め詐欺」による被害
雑損控除の対象となる損失は、一種の不可抗力による損失のみをその対象としており、その
損失の生じた者の意思が介在する場合の損失、例えば詐欺、強迫による自己の意思の伴う損
害は「雑損控除」の対象にはなりません。近年多発が報じられている「オレオレ詐欺」や「振
り込め詐欺」による被害については、犯人が指定した口座に振込送金した行為自体がその納
税者の意思に基づいたものであるとして、「雑損控除」の適用を受けることはできません。
(3)通勤用自動車の交通事故による損害
サラリーマンが、専ら通勤用としている自動車(生活用動産に該当)で交通事故を起こした場
合、その事故が通常の注意義務をもってしても避けえなかった事故である場合には、「人為に
よる異常な災害」に該当し、その事故による損失額は「雑損控除」の適用を受けることがで
きます。なお、スポーツカーなど専ら趣味・娯楽のために所有する自動車については、「生
活に通常必要な資産」とはいえず、災害等による損失があったとしても「雑損控除」の対象と
はなりませんので注意が必要です。この場合、その損失はその年分、翌年分の譲渡所得の金額
から差し引くことになります。
【裁決事例:オートバイの盗難による損失は「雑損控除」の対象にならないとした事例(参考)】
所得税法所定の「生活に通常必要な動産」とは、家具、じゅう器、衣服及びこれらに類似する
生活用動産で、通常の社会生活を営むのに必要とされる資産をいうものと解するのが相当である
ところ、請求人のオートバイの使用状況をみると、1週間に1回程度しか使用されておらず、ま
た、購入後盗難に遭うまでの間に、放送大学への通学に使用したのはわずか5日にすぎないこと
が認められ、この程度の使用頻度では、本件オートバイは請求人の日常生活に通常必要な動産と
は認められず、更に、本件オートバイがいわゆる大型オートバイ(400cc)であることからして、
通常の社会生活を営むのに必要なものであるとはいえないことから、本件オートバイは「生活に
通常必要な動産」ということはできず、所得税法第 72 条(雑損控除)は適用できない。
[昭和 63 年 11 月 17 日 裁決]
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名南経営
加藤 尚孝
(執筆者 : 税理士 松尾 修司)
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