営業改革の心構えー - eセールスマネージャー

“科学的営業を!”
宋文洲の
―営業改革の心構えー
約 15 年も前から、1,000 社を超える日本企業の営業改革を行ってきた宋文洲。
当時から訴え続けてきた日本における営業改革のノウハウについて少しお見せします。
※宋のベストセラー本「やっぱり変だよ日本の営業」より抜粋しています。
■裸のモノ作り企業
「よい物だから買ってください」と言われて、あなたは買う気になれますか。
それだけでは買わないはずです。
「自分にとって何がよいか、なぜよいか」について納得できないと買う気になれません。たとえ買う気になったとしても、財布の
中身をチェックして他の出費とのバランスを考えてから、購入するかどうかを判断するはずです。
しかし、戦後の長い間、人々はモノを買うとき、「自分にとって何がよいか、なぜよいか」という疑問を持ちませんでした。なぜな
らばモノがなかったからです。「何がよいか」は人様に言われなくても分かっていたし、所有することを目標にしていたのです。
テレビ、冷蔵庫、車…。メーカーに営業されたからではなく、自分達が欲しいから買ったのです。そのためにお金を貯めたり、借
金したりもしたのです。さらに「なぜよいか」についてもメーカーに説明を求める人はいなかったです。誰も「この冷蔵庫はなぜよ
いのか」と店員さんに聞くことはありませんでした。
このような環境下で、メーカーがやるべきことはただ一つでした。それは「よいモノを作る」ことです。売れる物の品質を改善し、
コストを下げることでさらに売れた時代です。メーカーの経営資源はもっぱら技術改良、品質向上とコスト削減に向けられまし
た。
営業は何をしたかというと、より多くの製品を流通に乗せることと、より多くの顧客と接触することです。乾いた砂浜により広くよ
り大量に水をまけば、その分、多く水は吸収されます。まさに戦後の日本は、乾いた砂漠でした。流通企業もより大量の商品を
店頭に並べること、より多くの店舗を増やすことを経営理念としてきました。
つまり、戦後は「モノのない時代」という言葉に象徴されるように、すべての市場が空白に近い状態でした。だからモノさえ提供
すれば、顧客の得になりました。だからよいモノを安く速く作ることで、顧客に満足感を与えることができました。それで日本の
企業は世界に貢献してきました。
さらに戦後は「情報のない時代」でもありました。数の少ないメディアと口コミを通してしか情報が入ってこない顧客に、営業マン
たちは最新の製品情報をもたらす役割を果たしてきました。ソニーのテープレコーダーを紹介する営業マンの言葉は、市民た
ちにとってはまさに福音のようなものでした。営業マンたちが顧客より遥かに情報を持っていたから、モノが売れたのです。
売上が足りないと思ったら、営業活動を強化すればモノが売れたのです。1 日 5 件回ったセールスを 7 件に増やせばそれに比
例して売上は上がりました。営業マンの数を 100 人から 150 人に増やせば、売上も利益も拡大することができたのです。 この
状況が長く続いたため、徐々に経営者のマインドに次のような習慣に近いサークルができあがりました。
1
1) モノがよいのに売れないのは、営業努力が足りないからだ。
2) それでも売れないなら、もっとよいモノを作ればいい。
3) さあ、よいモノができた、努力して売れ。
しかし、「モノがない」、「情報がない」の二つの条件はすでに 10 数年前から崩れ始めました。 市場は静かにそして確実にその
性質を変えてきました。この変化に気付く経営者は、実に少ないのです。
もっと遠慮せずいえば、これに気付きたくない経営者は実に多いのです。彼らの企業は「モノさえよければ売れるはず」だと堅く
信じて大量な「よいゴミ」を生産しています。自ら顧客にとって「何がよいか」、「なぜよいか」を問う能力と手法を持たずに、ひた
すら技術や品質などを追求するだけの、まるで「裸の王様」になっている「裸のモノ作り企業」です。
「裸のモノ作り企業」は本当の営業をしていませんでした。営業とはやる気と根性と人数だと思い込んでやってきました。結果
的に伸びてきたので、それが営業だと信じ込んでいました。
しかし、今ではそれが通用しなくなりました。欲しくないモノを根性で売ると、消費者センターにクレームが殺到します。違法性
があると断定されたら、企業の存続意味までが問われる時代です。しかもその方法は、コストもかかり、利益が出にくいので
す。
インターネット全盛の時代には、販売側よりも顧客側が多くの情報を持つ可能性が高くなります。今後、ますます営業マンは付
加価値の高い情報を提供する能力が問われます。裸のモノ作り企業の営業は顧客に笑われてしまいます。
かわいそうなことに、裸のモノ作り企業の製品企画部門と技術部門は未だにお鼻が高いのです。何かがあると必ず技術力を
口にします。インターネットが普及した現在、技術交流の障壁が完全になくなりました。「技術=投資」という簡単な方程式の前
に、技術者たちは「技術=無限大」という迷信に陥り、裸の王様になったのです。
モノ作り企業が日本経済を支えてきたために、発言力が強かった過去があります。モノ作り企業のカルチャーと考え方がその
まま日本企業のカルチャーであるというベースになりました。だから日本の企業は営業力が弱いのです。
ただし、私が言う営業力はモノを売る力ではありません。過去に営業力が強いと言われてきた企業は本当に強かったでしょう
か。数字的によい結果を残せれば強いと考えてもよいのではないかと思う人もいるかもしれませんが、その強さが本当に我々
に必要なのでしょうか。
営業の本質は「売る」ことではなく「知る」ことにあります。「今、何が起きているか」、「何を提供すれば顧客が得するか」を知る
ことが、営業の本質です。これを知れば営業は八割がた達成しているようなものです。
営業マンを通じてリアルタイムの情報収集がない限り、悪循環を断つことはできません。また数字にしか興味がない強引な営
業を中止しない限り、本当の情報収集はできません。
■顧客は神様ではない
おそらく「お客様は神様だ」という言葉を聞いたことがない人はいないと思います。しかし、この言葉は、売るほうの立場に立っ
て考えても、買うほうの立場に立って考えてもおかしいのです。
まず売る方の立場に立って考えてみましょう。
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我々は顧客を本当に神様と思うのであれば、まずノルマ制度を廃止すべきです。神様の意思を無視して、信者が勝手に数字
を決めて神様にモノを売り付けることは、神への冒涜そのものです。顧客を本当に神様と思ったなら、顧客への提案はできなく
なります。しかしながら、世の中はさかんに提案型営業の重要性を謳っているではありませんか。どうして、そのようなことがで
きるのでしょうか。
顧客が、間違った認識や情報を持つケースも多々あります。それを正してあげて顧客の真の利益を考えるのも、我々営業マン
の使命です。顧客を神様だと少しでも思うのなら、そんな心構えはできるわけがありません。
次に買う方の立場に立って考えましょう。我々がモノを買う時、神様の気分を味わいたいのでしょうか。違いますね。聞きたいこ
とをきちんと教えてくれれば、あとはかまわないでほしいと思うでしょう。もちろん、ほどよい気遣いは嬉しいのですが、過剰な勧
誘や押し売りは迷惑になるだけです。ましてそれを高い値段に上乗せされて要求されれば、最悪な気分です。
顧客を神様だと本当に思ってくれるのであれば、欲しいモノを欲しいときに欲しいだけ提供してくれる仕組みを作ってほしいと思
うのです。せっかくの休日に、チャイムと電話を無断で鳴らして邪魔しないでほしいものです。一度要らないと言ったらその情報
を記録に残し、他の営業マンが二重に迷惑をかけないようにしてほしいのです。メールで済ませるようなことに、わざわざ大事
な時間をとらないでほしいものです。
結局のところ、誰も顧客のことを神様だと思っていないのです。本当は「とにかく顧客の気分をよくさせて、買ってもらえばそれ
よいのだ」という一方的な思いを象徴する言葉です。
ではこの公然たる偽善が、どのような結果を生み出すでしょうか。
まず営業マンは顧客に得させる独自の工夫をしなくなるでしょう。ご機嫌営業が横行し、それがいつのまにか社会風土となり、
日本の流通コストを伸し上げて、世界に通用しなくなる経済効率を生み出すわけです。
たとえば、「証券営業マンは一日 100 通の手書きのはがきや手紙を書きます」
「保険の外交員は、飴と笑顔とお願いを配って一日を終わらせています」
「事務機器の営業マンは 100 回も訪問し、その証拠として名刺を机に置きます」など。
これらの営業マンに、なぜそんな非効率な営業をするのかと尋ねたところ、本音を聞くことができました。商品の差別化を図る
ことができないので、「情」や「押しの強さ」でしか差をつけられないのです。
つまり、営業マンは誰も顧客のことを神様だとは思っていないのです。「餌」だとしか考えていないのです。
「顧客は神様」という言葉の真意は、顧客を神様に祭りあげて気分をよくさせておいて、気前よく財布の紐をといてもらいたいと
いうことです。このことを非難はできませんが、こればかり強調していると顧客の本当の気持ちがわからなくなってしまいます。
たとえ真摯に顧客のことを神様として扱う人がいるとしても、この考え方は評価できません。なぜならば、「神様だ」という気持ち
を持つと、顧客との距離が離れてしまい、気持ちを理解できなくなるからです。
顧客との関係を最良にマネジメントするには「顧客の身になって考える」という心構えがベストだと思います。こうすれば自然と
自分が欲しくないものを顧客に強引に売るようなことはできなくなります。良心に反して商売させる企業を辞めて、自分が納得
できる商品を作り出している企業に転職しようとするでしょう。
その結果、顧客との関係を本当に大事にしている会社が世の中に残り、社会はもっと快適になります。
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■営業は足で稼げない
「営業は足で稼ぐ」、と営業マンなら、誰でも一度は聞いたことがあるでしょう。そのこと自体は、間違っていないのです。
より多くの顧客を見つけるためにも、その関係を発展させるためにも、顧客との接触は必要不可欠です。接触の量は顧客の数
へとつながり、売上にも反映されます。「足で稼ぐ」の本質は、接触の量を増やすべきであるということなのです。
従来の顧客との接触方法と言えば、知人、友人の紹介から始まり、とにかく人と会わないとどんな情報も集めることができませ
んでした。
たとえば紙の裁断機を売る営業マンはオフィス街を歩き回って煙突のある会社を探していたそうです。資料などの処分に焼却
炉を使っていたところを探すためです。
また、害虫駆除の営業マンは、住宅街を歩き回って古くて湿気がありそうな木造住宅を狙ってチャイムを鳴らしました。営業マ
ンは経験上、このような家では様々な害虫に悩まされていて、営業トークにのってくれるチャンスがあることを分かっていたので
す。
ホームページも電子メールがなかった時代には、顧客は商品に関する些細な情報を集めるために営業マンを呼ぶしかありま
せんでした。また、それが最も手っ取り早い手法でした。
営業マンにとっても、それは効率がよかったのです。多くの未開拓の顧客が一定のエリアに存在するため、移動する時間はそ
れほどかかりません。好景気が続いたため、仕入れと投資も多く、足しげく通えば何かしら注文をくれました。つまり、モノが売
れた時代では足で回れた件数の中から、確実に十分な注文をもらうことができました。
しかし、当時の状況とは完全に変わった現在において、足で稼ぐことを信奉している営業マンが、トップセールスを達成できる
でしょうか。今は、単に訪問件数を増やすことでモノが売れる時代ではありません。
多くの法人と個人がデータベース化されている今日、いまだに足でデータを集める人はまるで原始人のようです。数百万の法
人データと数千万の個人データは誰でも入手できます。特定のソフトを使って検索すれば、住所や業種をはじめ売上規模や代
表者、役員の名前まですぐ分かります。自分の商品はどの地域のどの業種に適しているかを判断できれば、すぐに該当リスト
を作って DM を打つことも、製品説明会に誘うこともできます。回答を寄せた顧客に電話やメールでやり取りすることで、どれほ
ど興味を持っているのか、見込みがあるかを調べることができます。
すぐに詳細を説明してほしいという顧客もいれば、まず資料だけ欲しいという顧客もいます。早急に詳細な説明を必要としてい
る顧客に対しては営業マンが訪問すべきですが、資料で勉強したいという程度の顧客を強引に訪問しても良い印象を得ること
ができません。だからといって、放ったらかしにしておいてもよいわけがありません。
メールで関連情報を送信したり、郵便で資料を送ったり、電話営業を行ったりすることで顧客の状態をチェックしておくことは大
切です。少しでも顧客が前向きな反応を示せば、次のアクションを起こすべきです。訪問したほうがよいのであれば、当然訪問
すべきですが、ただ会うことだけが目的になってしまうと、それは実にナンセンスです。
香港の投資家とある証券会社の営業マンと私で、都内のホテルで食事をしたときの会話を思い出しました。証券の営業マンは
香港勤務中、この香港の投資家を担当していました。我々の間に以下のような面白い会話がありました。
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投資家「あなたはよく私のオフィスに電話をかけてきて理由もなく会いたいと言いましたね」
営業マン 「……」(苦笑)
宋「彼はあなたに株を買ってほしいと言うために、会いたかったのですよ」
投資家「それは分かっている。
しかし、私も彼も忙しいはず。それだけの理由で会うのは時間がもったいない」
営業マンは買ってほしいから営業しています。
しかし、顧客は、営業マンの売りたい気持ちの度合いに基づいてモノを買うわけではありません。家の前で待ち伏せしてすす
めるとか、わざと寒い格好して同情を誘うなどの手法を足で稼ぐと解釈するのであれば、それは邪道だと言わざるを得ません。
私は、最初に営業は足で稼ぐと言った人は、「顧客との接点を増やすべき」という意味で言ったのだと信じています。決して、無
意味に歩いて行くことを強調していたわけではないと思います。
「足」で稼ぐことには限界があります。どう頑張っても件数とエリアは限られます。このモノが売れない時代において、必死に歩
いたからといって十分な売り上げを確保できる保証はどこにもありません。ただ怠けているよりは、ましかもしれませんが。
データベースやインターネット技術がこれだけ発達している現在には、足でなくても顧客との接点を増やす方法はたくさんあり
ます。IT 技術を利用すれば、接触する範囲と速度に物理的な制限がなくなります。一人で広範囲の接触が可能になります。
様々なチャンネルを通じて接触している顧客の中から、自社の商品やサービスを欲しがっている顧客を見つけだして、出向き
ます。このようなフェース・トゥ・フェースの営業ができるのであれば、本当に足で稼ぐことになります。
■鳥瞰図のない経営
以前に比べて天気予報は、驚くほど当たるようになりました。その理由をご存知でしょうか。
一番の要因は、人工衛星です。衛星を使えば、日本のみならず全世界の気象状況を把握することができます。気流や海流の
移動速度を計測することで、数ヶ月前から日本周辺の状況を予測できるようになったのです。
二番目の要因はコンピューターにあります。
気流であればアナログの画像や文章表現ではなく速度、方角、分布地域、高度などがすべて明確な数値としてコンピューター
に蓄積されます。コンピューターは専門の理論と過去の経験則に基づいてこれらの数値を分析し、正確な予想をはじきだしま
す。
「たった今、東京では雹が降りました!」、「たった今、札幌は零下 2 度になりました!」といくら早く報告しても、それは「報告」に
すぎず、天気「予報」の価値と比べものになりません。
あなたの会社では「天気予報」が行われているでしょうか。「夕焼けが凄いから、明日は雨かもしれない」程度の観測論はして
いるかもしれませんが、そのくらいなら分かる人も多く、実際の経営判断に使えるものではありません。
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全社の営業プロセスをアナログの観測論ではなく、数値によって表現できれば、経営者は天気予報と同じ、数値化された鳥瞰
図を手にすることになります。どのプロセスがどの結果につながっているかを明確に知ることができれば、決算の数字を見て、
一喜一憂するだけではなく、確実によい方向に会社を導くことが可能になります。
営業会議を開催することは、企業の定例行事になっています。各課の、各部の、さらに各支店の会議があります。その上に支
店長が集まる全社会議や取締役会議まであります。
このような会議を通じて、情報が末端からトップに集まり全体像が見えるようになると錯覚している企業は、実に多いのです。
本当はこれでかえって全体像が見えなくなるのです。
文章と言葉の洪水は、会議に出席する人たちの思考を沈没させてしまいます。人々を落胆させるような決算のデータがきれい
に打ち出されます。しかし、言葉の洪水と決算のデータ以外に今この会社はどの方向に向かっているか、市場はどうなってい
るかを示す定量的なデータは全くありません。
数千人単位の営業マンを全国に分散し、毎日顧客と接触しているのに次期決算の基となる営業プロセスや、市場の動向、顧
客反応に関する状況などの全体像をつかむことができていません。
天気予報でいえば、数千人の営業マンたちは数千個のセンサーになり、リアルタイムでマーケットや営業プロセスという「気流」
のデータを収集できるはずです。このデータを数値化し、各種の会議で意図的に曲げられないうちに経営陣に見せることがで
きれば、企業の鳥瞰図がおのずと見えます。
これまでは会社の状況をつかむといえば、誰でも決算を思いつきました。しかし、決算が何を示唆してくれるでしょうか。決算は
過去のプロセスの結果を合計した数字です。結果の合計が 10 であればそのプロセスには次に示すような、無数の組み合わせ
があります。
1+3+5+1=10
2+2+2+3+1=10
4+4+2=10
6+2+1+1=10
毎日でも決算できると自慢する経営者はいますが、それはただ結果を早く知る方法を手にしただけです。確かに結果から間接
的にプロセスを分析することができますが、直接的な分析ではありません。しかも、その結果はあくまでも終わった話です。 営
業マンを通じて、営業全体のプロセスとマーケット状況を数字化する仕組みは簡単です。誰でもスマートデバイスを使って簡単
にできる仕組みがあります。これが e セールスマネージャーです。
■IT の泥仕合
IT がそろそろ日常語になるのではと思ってしまうぐらいに、世の中は IT の時代です。しかしこの IT 時代に我々のビジネススタ
イルはきちんと順応できているのでしょうか。
営業を経験した人であれば、営業は情報の勝負だと分かります。だから理屈でいえば、情報通信技術(IT)を最も活用すべき
分野の一つです。しかし、前節の「営業は足で稼げない」でも触れたように日本の経営者の多くはまだ「営業は根性」論の世界
にいます。だからこそ、IT について議論することが大切なのです。
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「日本の経営者が IT への認識が足りない。だから日本企業が出遅れたのだ」とはアナリストや IT 業界の人たちがよく口にする
コメントです。これに対して、「IT で企業が動いているわけではない。使えないシステムを高く売る IT 業界は甘い」と経営者から
IT 業界への批判には手厳しいものがあります。
はたしてどちらが正しいでしょうか。
結論は両方にも問題があると思います。どちらかと言えば IT を提供する側の問題はより深刻だと思います。
裸のモノ作り企業でもふれましたが、モノ作りの企業が日本経済を支えてきたために、モノを作ってきたメーカーの社会的な発
言権が強かったのです。モノ作り企業のカルチャーと考え方は、そのまま日本企業のカルチャーとして定着し、人々の感覚を
染めてきました。
実は IT 業界の人たちも例外ではないのです。IT 業界の人たちは火星人のように一夜にしてやってきたのではなく、メーカーか
ら分社化した企業の社員だったり、メーカーを辞めた人だったりします。
IT を提供する側も受ける側も IT を技術としてとらえています。技術はモノと同じで「部分的存在」に過ぎません。受ける側が、一
つの部分的存在で自分の会社がよくなるわけがないと考えてもおかしくありません。
提供側は米国ではこの技術を導入することでよくなったのに、日本は導入しないのは経営者の考えが遅れているからだと考え
てしまいます。ここに提供する側とされる側の、ボタンの掛け違いがあるのです。
IT は本来、「最先端の通信技術を用いたビジネスの新しいやり方とスタイル」を意味します。「仕事の仕組み」と「プロセスのあ
り方」に重点を置き、「存在」である技術はあくまでも道具にすぎません。
「技術は道具に過ぎない」ことは確かですが、「情報技術」と直訳される IT を軽視する経営者にも問題があります。だから、ボタ
ンの掛け違いという悲劇が起きたのです。IT を提供する側が IT を理解していなかったせいでしょう。
もともと、日本の経営者たちが危機感をもっていれば、世界で何が起きているかを知ろうとしていれば、自己変革を起こすこと
ができました。しかし、モノ作り名人であることにあぐらをかいて、それを見逃してしまったのです。
何回も触れましたが、日本の IT 企業のほとんどがメーカーと同様に通信技術のハードウェアを作っている企業、つまり以前か
らあったモノ作り企業です。
しかし、インターネット技術を利用したビジネスの仕組みやノウハウをソフトウェアに凝縮させる、いわゆるソフトウェアメーカー
は少ないのです。ソフトウェア製品を世界に輸出する企業は本当にまれです。
日本のソフトウェア市場の主役は基本的に欧米企業です。OS(基本ソフト)からデータベース、グループウェア、基幹システム
まで、欧米製品が支配しています。グローバルな時代ですからこの現実は自由競争の結果であり、問題はありません。また、
日本製品は世界中に売られているのですから、不愉快になる必要もありません。
しかし、大きな問題はあります。ソフトウェアはハードウェアと根本的に異なり、モノではありません。目に見えない考え方、仕組
み、ノウハウ、スタイルを情報技術と一緒に凝縮させた「手引書」のようなものです。ハードウェアを売る時はモノを置いていけ
ばいいのですが、ソフトウェアを売る時にはそういうわけにいきません。
提供を受ける側の経営者が情報技術を活かした仕組みとノウハウを持っているのであれば、ソフトウェアを買ってすぐに効果
を出すことができます。IT 先進国にはこのような経営者が多いと言われています。彼らは先に情報技術を用いたノウハウと仕
組みを編み出して、後でそれに合うソフトウェアを開発したからです。
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日本の経営者はモノ作りにあまりにも集中しすぎたため、情報技術を利用する営業などを含めた企業全体の合理化が遅れて
しまいました。日本の IT 企業が、土壌に合うノウハウと仕組みをソフトウェアとセットにして企業に提供できていれば、日本の経
営者ももっと早く問題の本質に気付くことができたはずです。ところが肝心の IT 企業自身が欧米のマニュアルを翻訳するのに
精一杯で、ノウハウと仕組みを理解するところまでできなかったのです。
結局、欧米の製品を輸入し、インテグレーションしてそれを商売にする日本の IT 企業は「グローバルスタンダード」という脅しを
振りかざして日本企業に IT 投資を促しています。本来ならば、IT 企業が自ら勉強・理解して顧客に IT 製品とノウハウを一緒に
提供できれば効果的なのですが、そんなに時間も投資もかけたくないというのが本音でしょう。
最も皮肉なのは、顧客に IT をすすめる企業自体が IT 化されていないことです。たとえば、インターネット、電話、FAX など複数
のチャンネルを通じて、全社的に顧客とのビジネス関係を効率的にマネジメントし、トータルな営業効率と顧客満足を上げてい
く考え方を欧米では CRM (Customer Relationship Management)と言います。
営業マンも、電話対応係も、受発注業務の人も、顧客との接触情報を顧客ごと、商品ごとに履歴データに残してすべての人た
ちがこの共有データを見られるようにします。経緯を知って顧客ごとに最適な対応を行えば、重複が避けられて顧客も満足で
きます。
誰でも思いつきそうなことで、できればやりたいことですが、言うほど簡単ではありません。情報技術をうまく利用しないと、膨
大な時間とコストがかかってしまい、現実性がありません。最近のインターネットの普及、通信環境の改善およびデータベース
技術の向上によって、この考え方がやっと現実的になりました。
話しは戻りますが、CRM という仕組みをビジネスに導入するためのソフトを輸入して販売しているのは、いわゆる日本を代表す
るような IT 企業です。しかし、これらの企業のほとんどは驚くことに CRM ソフトを使っていないのです。自分が売っている製品を
理解していないのか、信じていないのかどちらか分かりませんが、IT 企業のこの姿勢が一般企業から「甘い!」といわれるの
は当然です。
IT を巡る泥仕合において、提供する側と受ける側のどちらにより非があるかと問われたら、それは明らかに提供する側に非が
あります。
しかし、IT 企業の社員を皆失業にさせたからといって、企業はよくなるわけではありません。企業の経営者は本来自らインター
ネット時代に合うビジネスの仕組みとノウハウを探し求めるべきです。薬は自分のために飲むもので、医者のために飲むもの
ではありません。また、たまにヤブ医者がいるからといって、病院に行かないわけにもいかないのと同じです。
■25 歳までに転職する人材
営業マンは他職種に比べ、会社を辞める比率が高いのです。遅いか早いかの違いはありますが、死ぬまで 1 つの会社にいる
人はあまりいません。
しかし、多くの企業の営業は、基本的に社員が会社を辞めないことを前提に行われています。これによって大変非効率的なこ
とが起きており、近い将来問題になると思われます。
業種と規模、社風などによっても違いますが、一般的にいえば今の若い日本人は、会社を辞めることに対して何の抵抗もあり
ませんし、辞めることをむしろ前向きにとらえる人が増えました。これからはこの傾向が急速に加速すると思われます。
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戦後、日本企業は長期間にわたって高度成長を謳歌してきました。人手不足が社会問題になり、「人手不足倒産」まで起きま
した。このために社員の確保が企業の経営課題の一つになり、社員にずっと自社で働くことを期待し、奨励しました。
つまり、「終身雇用制」は企業側の都合だったのです。日本人の集団心理をうまく利用し、1 つの企業に尽くすことは美徳とし、
会社を辞めることは裏切り行為と見なすようになりました。これも前章で述べたように、単に長く続くことで習慣化したものです。
つい最近まで、終身雇用制は日本企業の文化だと言う人がたくさんいました。
しかし、この数年間、日本を代表するような企業も大量のリストラを余儀なくされています。これで社員たちは、ようやく「終身雇
用制」は企業のためにあったことが分かりました。企業のためではなく自分や家族のために働く感覚が、今の若い人たちはも
ちろん、中年の人たちにも広まっています。
一つの会社にずっといることを前提とせず、もっと自分の生き方に合う企業、もっとやり甲斐のある企業、もっと条件のよい企
業に転職していくことが、自然なことになります。
今 25 歳世代の社会人の多くは、インターネットを通じて就職活動を行った人たちです。インターネットの現状を知らない人は、
「雑誌の代わりにインターネットから企業情報を調べただけだろう」と決めつけるかもしれませんが、そこは知らないだけです。
就職活動を行う際、学生達は求人募集の情報を流す求人企業にメールアドレスを教えています。求人企業はそのアドレスにい
ろいろな会社の情報を流すことで、求人募集している企業から広告費をもらうわけです。
学生が意中の会社に就職しても、求人企業はその学生のメールアドレスを忘れたわけではありません。今度は転職情報を流
してきます。なぜならば、世の中に中途採用のニーズもあるからです。仲介業者は何度も儲かる仕組みを考案しているので
す。
若い社員の警戒心をなくすために、露骨に「転職したらどうか」と勧誘はしませんが、「会社はあなたを正しく評価していますか」、
「自分の市場価値を計ってみませんか」とゆうようなキャッチコピーで、インターネットを通して診断ソフトを用いてリアルタイムで
診断結果を出します。
スキル、特徴、学歴、勤務年数などの簡単なデータを入力すれば、すぐ結果が出てくるため、世の中をよく知らない自分の評
価に不安を持っている若い社員がやってみたくなる気持ちもわかります。
診断ソフトから出てきた結果は、「今の評価は不当だ」と感じさせるものが多いようになっています。当然その後、ご親切に「ち
ゃんと正当に評価してくれる会社はありますよ、面接してみませんか」のような勧誘が入れます。しかも、それぞれ該当企業の
データを自動的に見せてくれます。
インターネットを利用すれば以上のやり取りはほとんど人手をかけずに、リアルタイムで行うことができます。社員が少しでも不
安と不満があれば、求人企業がすぐ細かいサービスメニューをもって対応してくるため、転職は本当にしやすくなりました。
ここからも分かるように、インターネットの普及によって我々の価値観も変わらざるを得ない側面があります。誰が良い、誰が
悪いという問題ではなく、変化は雨が降ると同様に自然現象であり、その変化を恨み拒否する人と企業は、変化の波に飲まれ
て淘汰されるだけです。
これで雇う側も雇われる側にも、人材流動の理由と条件が揃っていること、さらにその流動性がますます高まっていることも分
かっていただいたと思います。
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では実際、日本企業は社員が辞める前提で運用されているでしょうか。そのような運用ノウハウと心構えがあるでしょうか。
もちろんこれは求人活動、人事、業務フローなど全体の運営との統合性がないと無理ですが、以下は営業という本書の本
題に限って考察してみましょう。 はっきり言って営業は、人材流動が多い状況の中でもさらに流動性の高い職種です。会社
によって違いますが、数ヶ月で辞める営業マンもいれば、数年で辞める営業マンもいます。辞める営業マンがいれば当然、
中途採用で入社する営業マンもいます。つまり、ある一つの顧客をとってみても、担当する営業の人間は、何度も変わると
いうことです。
ここで、大変慌てる企業が多いのです。担当が変わると経緯が分かりません。一応引き継ぎはどこもやりますが、文章と口頭
による説明には限界があります。3 年間にわたって数百の顧客に何をどうしてきたかについて、簡単に説明できるわけがありま
せん。たとえできたとしても、辞める人も引き継ぐ人もこのために 1 ヶ月間の共同作業が必要になります。
結局ほとんどの営業マンは、数年間の顧客情報とともに会社を離れてしまいます。このことによる損失は見えないため、経営
者は深刻に受け止めていません。単純に営業マンが辞めたらイメージが悪いと考えている経営者も多いのですが、はっきりい
ってそれは彼らが転職をマイナスととらえているからです。顧客は商品とサービスを会社に求めているのであって、社員に求め
ているわけではありません。担当営業マンが辞めても、新しい営業マンが過去の経緯を全部知っていれば、かえってよいビジ
ネスになるケースも多くあります。
また顧客の窓口も人材ですので流動します。こちらが変わらなくても顧客が変わることがあります。お互いの担当者が交代して
も、ビジネスの流れが途切れなく続くためのノウハウと仕組みを取得しないと、今の時代の効率的な営業をすることはできませ
ん。
個人の都合で企業のサービスや品質にばらつきがあったり、不連続性が生じたりすることは、企業の仕組みに問題があると
理解すべきです。社員の責任でもなく、もちろん時代の責任でもありません。時代に順応しない経営者の責任です。
「IT の泥仕合」で触れましたように CRM の手法を活用すれば、誰が辞めても顧客との接触情報が残るため、顧客に迷惑をか
けません。また、これに加え、営業のプロセス(業務フロー)自体も改善する必要があります。営業プロセスをセグメント化し、一
人の営業マンにすべてを担当させないようにするのです。
案内状送付は外部に委託し、電話営業は電話上手な社員に頼み、商品説明は営業マンが行い、保守はサポートセンターのス
タッフにお願いする。このようにして、まず一人の営業マンが川上から川下まで一顧客の面倒を全部見るプロセスをやめること
です。
現在ではスマートデバイスから簡単に関連のプロセスがどうなっているかを知ることができるので、プロセスを分断して専門化
させた方がトレーニングや慣れの観点から見ても効率が上がります。
当然、一人が全部ではなく一部だけを担当しているため、その人が辞めるときの影響も少ないわけです。残っている情報をみ
て後任の人はすぐ役割を理解します。人が足りなくなったら部分教育を行えばよいので、人材の育成も早いのです。
これを読んで気を害して「人を材料のように使っている」と思う人もいると思いますが、冷静に考えていただきたい。我々人間も
「材料」です。「人材」という言葉を、皆使っているのはありませんか。「適材適所」という言葉もあるのではありませんか。全部一
人の営業マンに任せることこそ、人間の無駄使いです。
クロージングのときは説得力の強い人が担当する、クレーム処理のときは口下手で忍耐力のある人が担当する。これこそ人材
の正しい活かし方でしょう。我々は自分の「材」をうまく利用されたとき、幸福感とやり甲斐を感じるものです。
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「責任感」、「モチベーション」を強調してもよいのですが、それを仕事なら何でもやると誤解すると、全体の効率が悪くなるだけ
です。また、「やる気」と「責任感」と「愛社精神」を強調し一人に何役も、しかもなるべく長くさせる経営者は、プロセスの理解と
改善に興味のない、単に楽に経営したい経営者かもしれません。
■派遣社員の方が売れる
派遣社員は補助戦力だと思うでしょう。しかし、もし、派遣の営業マンが正社員よりも売ることができるとしたら、あなたはどう思
いますか。
近年、法改正より営業の派遣が可能になりました。営業マンこそ会社の顔ですから正社員を使うべきだと考える経営者がまだ
多いかもしれませんが、そういう経営者達は回線や薬などを派遣の営業マンから買っている事実を知らないだけでしょう。
今では派遣社員を使っていない企業は珍しく、派遣労働力は常識になってきています。補助戦力はいつのまにか必要不可欠
の戦力になり、すべてのビジネスモデルにしっかり取り込まれるようになりました。
この派遣人材の一般化は、ビジネスの仕組みを変化させるもう一つの大きな要因になっています。経営者がこの要因から目を
そらしているうちに、うまく活用しているライバルに負けてしまいます。
たとえば 30 年間いろいろな営業をやってきたとします。大きな取引をしてくれる顧客もいれば小さな取引しかない顧客もいます。
また、いまも活発に取引している顧客もいれば、2,3 年前から疎遠になっている顧客もいます。正社員の営業マンたちは大型
案件に時間を取られているため、なかなか取引金額の小さな顧客や取引が休眠状態にある顧客を訪問する時間がありませ
ん。
正社員を増やして取引の小さな顧客と休眠中の顧客を掘り起こす方法もありますが、効率は悪くなります。小さな取引は難し
い商品知識が要らないので、短期間にマスター可能です。正社員を使う必要がありません。休眠状態の顧客でも、起こせるも
のを起こして正社員に渡せば仕事が終わります。月単位で派遣可能な営業派遣は、もってこいの労働力です。
これは一見完璧に見える利用方法ですが、心配もあります。派遣社員はすぐいなくなります。顧客と会って話した内容や顧客
の反応などの状況が、企業には全く見えないので不安です。
ここで再びインターネット技術を利用した、ビジネスの仕組みの登場です。やはり標準営業プロセスをあらかじめ設計しておき
ます。派遣営業マンに対して十分な説明を行い、必要に応じて教育とトレーニングも行います。話すべき内容、聞くべき内容、
競合他社の動きの調査、注意すべき点などを営業支援のインターネットソフトに設定しておけば、派遣営業マンの iPhone にそ
の項目が表示されます。
その画面に、派遣の営業マンが担当する顧客のリストも表示させます。リストに表示している通りの顧客を訪問し、そのやり取
りの情報を iPhone に入力させるのです。
入力は決して女子高生がメールを打つような文字入力ではなく、報告項目ごとに事前に選択肢を用意し、その選択肢を押すだ
けで報告できるようにしておくことが肝心です。たとえば顧客の反応について情報を取ってきてほしいのであれば、「顧客反応」
という項目を設けて、その中に(興味がない、興味がある、前向き、検討する、見積もり依頼、購入決定)のような選択肢を用意
しておきます。
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派遣営業マンが、営業情報を報告するために iPhone の画面を開けば、会社が求めている報告内容が項目ごとに表示されま
す。彼らは項目ごとにメニューを開いて、中に含まれている選択肢を選ぶだけです。スマートデバイスや携帯なら誰でも持って
いますし、誰でも操作できます。
派遣営業マンの訪問リストは、インターネット営業支援ソフトのマーケッティング機能を用いて作り、各派遣営業マンの携帯に
自動的に配信します。そのターゲットの選択と絞込みは当然派遣営業マンを使う企業側が行う必要があります。
派遣営業マンの iPhone を通じてリアルタイムで集められた各種データは、即時に営業支援ソフトによって統計され、各エリアの
巡回状況、各顧客の反応、各派遣営業マンのアプローチ手法と件数がグラフによって表示されます。
数日、数週間もたてば、一定量のデータが集まります。それを営業支援ソフトで分析すれば「どの派遣営業マンがどのような動
きをし、どのような効果が出たか」について数値で分かるようになります。
うまく行っている営業マンのパターンとうまく行っていない営業マンのパターンを比べれば、うまく行っていない営業マンにどの
プロセスが足りないかが一目瞭然です。メールや面会を通じて足りない部分を明確に指導することができれば、プロセスの改
善が早くなります。当然、プロセスに関する項目を報告項目に設定していなければ、このようなことはできません。
以上に説明した仕組みは、何も派遣営業マンだけに適用すべきものではありません。派遣営業マンの場合、明らかにこのよう
な仕組みがないと使う企業側が不安だから、分かり易いだけです。派遣営業マンが必ずしも正社員の営業マンよりモチベーシ
ョンが低いとは限りません。現に同じ条件下で営業を行うと派遣の営業マンの売り上げが、正社員の平均よりも高いケースが
多いのです。
インターネット技術があるから営業プロセスの改革が必要なのか、それとも営業プロセスの改革が必要だからインターネット技
術を活用する必要があるか、派遣制度があるから派遣社員を活用する必要があるか、それとも派遣社員を活用する必要があ
るから営業派遣社員が必要なのか。
これは鶏と卵の関係のようなもので、その前後関係を解明することはできません。確実なのは、鳥と卵とセットで存在すること
です。営業プロセスの改革も、インターネットも、派遣営業も単独現象ではなく同じ水脈で繋がっている社会変革の重要な一部
であることには間違いがないのです。
■営業常識は非常識に
数百年前は、天動説が常識でした。今ではそれこそが非常識になりました。時代が進化すると表面現象ではなく、本質が見え
てくることが多いのです。常識だったことが非常識になります。
水は 100 度で蒸気になります。しかし、これは一部の国の常識です。チベットに行けば 90 度で沸くことが常識になります。環境
と条件が変われば、常識は変わります。確かに 100 度で水が沸くのが常識ですが、海抜が高くなればその常識も変わるので
す。
ビジネス環境と社会条件が激しく変わったのに、相変わらずこれまでの常識で行動している人がどれほどいるでしょうか。営
業常識の多くは決して間違っているわけではありません。その時代時代においては通用するものです。ただし、今の環境下で
売り上を伸ばすためには、我々は営業の常識なるものに疑問を呈せざるを得ないのです。
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いくつかのよく耳にする「営業常識」を紹介しましょう。これは全ての営業管理者が認知するものではありませんが、少なくとも
一部、あるいはかなりの人々が持っている「常識」です。
1) インセンティブ論
「営業は泥臭い仕事だ。売れてなんぼの世界。理屈は要らない。売れた奴にインセンティブを与えれば自然に売れる」
高度成長期に押しの強さでトップセールになった人たちに、このようなタイプが多く見られます。モノのない時代では顧客がモノ
を買いたいだけではなく、営業マンもモノを欲しがりました。人気商品を大量に押し込むことでボーナスをたくさんもらえた時代
への思い出を、未だに忘れられない人たちです。
インセンティブを与えれば、売れるほど世の中は単純ではありません。もしこの常識が成り立つのであれば、どこでも売れるこ
とになります。なぜならばインセンティブを与えることは誰でもできるからです。
2) 人間力論
「営業は人柄。人に好かれない人は売れない。モノを売る前に、人間を売れ」
これは正論ですが、営業常識にしてはいけません。人柄の意味は曖昧で、個人の趣味と価値観に依存します。数百人、数千
人の営業マンにこんなことを強要しても何の意味もありません。なぜならば、営業マンは誰も自分の人柄が悪いと思っていない
からです。
人間力は、責任者やトップセールスが求められる素質です。人材の流動性の高い現在において、人間性の育成は企業が取り
込む課題ではないと信じます。これはむしろ人材を選ぶときにすべき努力だと思います。
大勢の営業マンの人間力を磨くのでは、効率が悪すぎます。これを強調すると人間性のよくない営業マンは、売れなくて良いこ
とになります。磨かれるまで売れなくてよいことになります。もっと問題になるのは、企業が人間性を磨かれた営業マンしか使
えないような弱い会社になることです。
さらに基本的には顧客は企業の製品とサービスを買うわけで、営業マンの人間性を買うわけではありません。制度的に顧客
の反感を買うような行動を制限すれば、企業全体の総合サービス力と好感度が評価されるはずです。
3) センス論
「営業はセンスだ。売れない奴はいくら頑張ってもたかが知れている」
どんな職種にも適合性の問題はあります。それは面接の時にチェックしておくべきですし、またどんな人にも適合の程度があり
ます。非常に適合している人もいれば、あまり適合しない人もいます。しかし、全く不適合する人は営業職にならないはずで
す。
センスは実に曖昧なもので、人次第です。他人が描いた絵や選んだファッションはセンスが悪いと思う人は多いはずです。しか
し、当人は自分のセンスの良さを信じて絵を描いたり、ファッションを選んでいるのです。
音楽、絵画、舞踊、料理などの芸術と文化の分野では、センスがすべてです。センスは、理屈や仕組みの反対側の世界です。
練習を重ねることで熟練度が高くなるかもしれませんが、センスは天性に依存します。
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しかし、我々ははたしてどれだけ、営業センスのある人を営業マンとして集めることができるでしょうか。500 人の営業マンのな
かに、営業センスのある人が何人がいるでしょうか。もしセンスを強調するような営業管理を行うと、いわゆるセンスの悪い人
たちは、顧客に迷惑をかけることになります。これはセンスのばらつきはそのまま顧客に押しつけることになります。
組織としての営業力を強化するには、センスを前提にしないことが大事です。センスのよいトップセールスのノウハウを少しで
も客観的に分析し、センスのない人にもそれを実行可能にしてあげることです。これがいわゆるナレッジマネジメントという概念
です。
顧客は、センスのよい営業マンを求めているわけではありません。センスのよい営業マンが提供してくれるサービスを求めてい
るはずです。そのサービスの内容を項目別に分析すれば、センスのない人でも真似でもきる部分が多いことに気付きます。
問題は、そのセンスのよい名人の分析をいかに客観的に行うかです。本人の言葉を聞いてはいけません。なぜならば、本人も
知らないからです。それがセンスというものの由来です。このほかにも「教育論」や「情熱論」など“非常識な営業常識”はたくさ
んあります。どれも必ずしも間違ってはいないのですが、売れない時代の営業プロセス改善には寄与できません。総じて言うと、
これまでの営業の常識とハウツーはトップセールスの個人経験と心構えによるものが多いのです。
このことは、日本の営業はいかに個人的能力と精神的緊張感に頼りすぎているかを証明しています。「熱いものは熱くないと
思えば熱くない」、「物質が有限だが、お前らの精神は無限だ」という前近代的な精神論は根が深いのです。しかも、この精神
論を信じている人が、一部の年配のリーダーたちであることに問題の根源があります。
■現状とプロセス数値化
市場の状況はどうか、どんな新製品を開発すべきか、業務フローはどうであるべきか、組織体制をどう変えるべきか、社員をど
う評価すべきか…。企業は効率のよい運営を行うために、常に的確でスピーディな判断を行う必要があります。これらの判断
の的確さと速さが、企業の運命を左右します。
しかし、これらの判断は何に基づいて行うべきでしょうか。
日本企業は会議が多くて有名です。A 部長も B 部長も C 部長も自分の意見を持っており、役員も意見を統一していません。彼
らの意見には、それぞれ一理あり、否定できません。最後に皆が疲れ果てて、とうとう体力の限界に達し、社長の一言で決め
るか、結論を先送りするかで会議が終わります。
このやり方では決定プロセスが遅くなるだけではなく、個人的な能力と主観性によるリスクが常につきまといます。それは、真っ
暗の中で皆が象の体を触って、その全体象を想像しようとするようなものです。たまたましっぽを触った人は棒のような動物と
言い、耳を触った人は扇子のような動物と言い、足を触った人は柱のような動物と言います。
現象は複雑に見えても、本質は案外シンプルです。本質とは現象を支配しているファクターのことで、よほどの経験と洞察力を
持っていないとなかなか見出すことができません。そこでもし各種ファクターを数値化することができれば、つまり数値に置き換
えることができれば、数値の大小は誰でも判断できますから、現象の本質をよりシステム的に発見することができます。
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たとえば売れない理由について A さんと B さんは異なる理由を強調していたとしましょう。どのような対策を打つべきか結論が
出ないときに、数値が出てきました。A さんが主張している理由は結果の 22%を支配し、B さんの言う理由は結果の 53%を支
配していることが分かりました。
数値で表現すると、議論する必要がなくなります。誰もが、まず B さんの理由に手を付けるべきだと思うでしょう。A さんが主張
する理由を無視していいというわけではなく、B さんがいう理由を解消してから考えても遅くはないとゆうことです。行動の優先
順位がはっきりすると、無駄な議論と無駄な時間を無くなり、即時に問題解決のための行動に移ることができます。
私は上場企業を中心に数百社の経営者に会い、営業現場を見せてもらいました。驚いたことに、マーケットと営業組織全体の
状況を把握している経営者が少ないことが分かりました。
たとえ、把握している経営者がいなくても、誰かが把握していればよいのですが、問題は全社の中で営業全体とマーケットの
状況をリアルタイムに押さえている人が一人としていないことです。これこそ営業における問題点の最も支配的な要素だと考
えるようになりました。
経営者は決算の数値を通じてしか全体像をつかむことができない状況下で、どのようにして戦略的な製品開発と営業を展開
することができるでしょうか。決算とはあくまでも結果論でありその原因であるプロセスについてほとんど何も示唆してくれませ
ん。それでも多くの企業は、膨大な資金を投下して基幹システムを開発してきました。
毎日決算できるようにしたことを自慢する企業がありますが、そんな大金があるのならば、結果ではなく、将来の結果につなが
るプロセスに何が起きているかを数値で全体像を見せてくれる仕組みを作るべきです。
営業に関していえば、場合によっては今の売上が 2 年前の努力の結果の可能性もあります。結果を見て営業を指揮すると、い
つまでも 2 年前の状況を想定した営業になります。2 キロ後の道路をみて、今を走るようなものです。
中国語に「綱挙目張」ということわざがあります。地面にまとめて置いてある網はただの乱れた糸の山に見え、その網を広げた
くてもどこから手を付ければよいか分かりません。しかし、最も太い紐の綱を引っ張れば網は自然にすべてほどけてうまく広げ
ることができます。
戦略、戦術、ノウハウ、仕組み、組織力、マーケッティングなど、営業について議論を展開する前に、まず全体像を数値でつか
むことが「カギ」となります。
■あなたが情報と言う時
あなたが「情報」と言う時、具体的に何をイメージしますか。「友達が結婚した」も情報ですし、「明日は雨が降る」も情報ですし、
「ニューヨーク市場では株価が 1 万ドルを割った」も情報でしょう。
そのような様々な情報が氾濫しているように、企業の情報も氾濫しています。「情報がカギだ」、「情報共有が効率につながる」、
「スピーディな経営にはリアルタイムな情報が必要だ」などなど。
すべてはその通りでしょう。しかし、あなたが「欲している情報は何ですか」、「この問題を解決するために、何の情報が欲しい
ですか」、「その情報をどのように問題解決に活かしますか」、「その情報はどのようにコストをかけずに取得するのですか」と聞
かれた時、満足に答えられる方はほとんどいないでしょう。
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スパイが機密文章を隠す最善な方法は壁に穴を開けることでもなく、油絵の後ろに貼り付けることでもなく、花壇の下に埋める
ことでもありません。自分の机の上に乱雑に積み上げる書類の山のどこかに挟むのが一番発見される可能性が低いそうで
す。
経営や営業にとっての「情報」とは、何かの目的を達成するために事前につかんでおけば有利に事を進めることができる「兆
候」です。「目的」があって「有利」に進めようとするからこそ、必要な情報が見えてくるのです。必要な情報が美味しそうな果物
のように落ちてきて、自然に幸せになるわけではありません。
数十キロごとに高台を設けて、その上で狼の糞を燃やして煙を出すことで、国境を侵す外敵の情報を短期間に皇帝に知らせる
仕組みは、数千年前から中国で使われていました。決まった目的(外敵の侵略)のために、決まった方角(高台)の決まった種
類の煙(狼の糞)を見るから、情報としての価値があります。これが、狼煙(のろし)の語源です。
日本には、情報を得る手法がたくさんあります。最も先進的な通信機器が開発され、企業に普及しています。社員の誰でもス
マートデバイスのような端末を通じて、インターネットとリアルタイムにつながっているではありませんか。
日本企業には、会議や飲み会がたくさんあります。世界で一番多いのではと思うほどの会議の数です。ここで効率的に情報の
収集と交換を行うことができます。また、日本のビジネスマンの夜のお付き合いも世界一です。ここでも情報の収集と交換が可
能です。実際にビジネスマンもそういう言い訳を使って酒を飲んでいるはずです。
しかし、日本企業の情報の収集と利用のレベルは、世界 21 位と、台湾と韓国よりも遅れています。その非効率性の原因は,目
的をはっきりしないことにあります。「何の目的のためにどのように活かすか」の議論もせず、情報交換と称して、長々と言葉や
文章、資料のやり取りを行っているにすぎません。
社員の意見をくみ上げると称して平社員に自由な発言をさせるのですが、それを聞いているのは平社員のレベルとさほど変わ
らない現場マネージャーです。課長と部長が、報告書や日報の文章を読み、報告書や会議録を作ってさらに上に報告します。
この情報のやり取りが気が遠くなるほど続きますが、いつのまにか肝心の「我々は今すぐ、何に着手しなければならないか」と
いう問い掛けは誰も気にしなくなります。何らかの形で誰かの役に立つだろうと思って皆が頑張って残業して、文章や会議録や
書類や報告などをやっていますが、それが何につながるかが誰にも分からなくなってしまっているのが現状です。
根本的な原因は、やはり経営者にあります。「どこの部署と部門にどんな問題があるか」、「それを解決するためにどんな情報
がまず欲しいか」、「解決するのに情報をどのように活かすか」などの情報の使い方を研究しないまま、「情報は大事だ」、「と
にかくホウレンソウだ」とばかり強調するのです。
この結果、社員もうんざりしてしまいます。報告しろと言われても何をどう報告するかもはっきりしません。一日の営業活動で、
いろいろな情報が出てきます。主観的なものもあれば客観的なものもあります。何をどう報告すれば、会社のためになるかは
さっぱり分かりません。
結局は、それらの報告は個人対個人のやり取りになり、相手が上司であればゴマをすったり自己アピールしたりすることになり
ます。
上司も現状を知り問題解決のための情報収集というよりも、文章と言葉の行間を読むことで部下の心理状態を推測したり、勤
務態度をチェックしようとするのでお互いに疑心暗鬼になってしまいます。
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これが報告制度、日報制度が嫌われている最大の理由です。アンケート調査のように、集めたい情報の目的と内容を部署ごと、
事業ごとにはっきりすることができれば、その情報が売り上げと同様に、場合によって売り上よりも重要になります。そのことを
経営者が認識し率直に社員にも伝えれば、協力を惜しむような社員はいないでしょう。
こうすれば漠然と情報があるから経営に活かすのではなく、経営をよくするために必要な情報を集めるという前向きの認識と
社風が生まれます。経営陣や企画部などの横断部門は、自然に課題の明確化とそれに必要な情報を調達するようになり、習
慣となるでしょう。
したがってあなたが「情報」と言う時はぜひ「私は何をどうのように改善したいのか、そのために今何の情報が必要なのか」を
先に考えてください。この順番でなければ、情報は情報ではなく、単なるノイズになってしまいます。
■文章はアナログ情報
我々は多くの営業現場を取材してわかったのですが、ほとんどの日本企業はいまだに日報という文章形式を通じて営業現場
の情報を取ろうとしております。1、2 人の日報はともかく、数十人、数百人の文章となれば全てを読むことは不可能です。全体
像も客観的に評価できません。
また文章の日報は実に評判が悪いものです。売れない人に限って文章が長いのは定説になっております。文章の内容は親
分子分のやり取りが多く、精神論で始まり精神論で終わるケースが実に多いのです。
文章はワープロやグループウェアで書けばデジタル化していると思い込む人が居ますが、実は文章である限り、紙に書こうか
パソコンに書こうか、アナログ情報であることに変わりはありません。必ず主観性と曖昧さが入り、数値データとして扱いませ
ん。
例えば、上のこの絵を観察してください。「仙人掌にみえる…、犬の横顔みたいな…、いや大きなリボンが着いている女の子の
頭のように…」と 10 人居れば 10 通りの表現があります。事実としての絵は一枚しかないにもかかわらずアナログな文章にする
と無数の解釈になってしまいます。一方、その言葉を聞いた人は自分のイメージに嵌めて解釈しようとします。仙人掌といった
ら、メキシコの砂漠に生えている植物である仙人掌を想像する人もいます。犬の横顔といえば自分が飼っている秋田犬のこと
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を想像するかもしれません…。聞く人もまた無数の解釈が可能になります。いずれにせよ、伝える方も聞く方も自分の固定観
念に強く影響されてしまい、正確な情報伝達が困難になります。
主観性を排除するために、この絵を一定の厚みを持つ長方形に分解し、その長方形の中心座標と長さを数値としてスマートデ
バイスなどのモバイルを使って登録します。情報がほしい人は勝手な解釈をせずその登録された情報にアクセスし、その中心
座標と長さを使って順番に長方形を描いて積み上げれば絵になります。精度が足りないと思ったら長方形の厚みを半分にす
ればより原図に近い絵を得ることができます。
e セールスマネージャーでの復元レベル
原文
一件目、ヤマダ重機に行きました。ここは ABC 商事さんに紹介してもらった新規顧客です。
購買部長の鈴木さんと会い、当社の「カラーコピー君」を紹介した。
この会社はカラーコピー機について以前から導入する議論があり、今回はおそらく 1 ヶ月以内に稟議が降りる。しかし、ライバ
ルのパノンさんが既に競合商品を提案しており、次回の訪問では当社商品の総合性能とコストパフォーマンスをアピールする
必要がある。
来週の木曜日に見積りも持参することになっております。
情報を数値化
復元後の文
6 月 25 日 10:30 にヤマダ重機株式会社の鈴木様に「カラーコピー君」を訪問販売しました。
この顧客は紹介ルートで接触できました。
営業環境としては既にカラーコピーの導入決定がなされており、競合のパノンさんと同様な立場で競合することになります。今
回営業の結果は見積り提出が求められました。
次回の訪問は当社製品の総合商品力を前面に出して発注に繋げたいと思います。
これは本日の一件目の営業で新規顧客です(データ検索で自動的に分かるため)。
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・ABC 商事さんの紹介。
・稟議は 1 ヶ月以内。
これと全く同じ考え方と手法を使って、事実(情報)を伝える文章のデジタル化と転送方法を示します。収集してほしい情報を複
数のセクションに分解し、それぞれセクションをメニューとして設定します。そのメニューの後ろに経験やノウハウを表す複数の
選択肢(ナレッジ)を設けます。報告する人はメニューを開いて中から選択肢を選ぶだけでほしい情報を 20 秒以内で伝えること
ができます。
■営業にも科学を
日本は科学的な生産管理を徹底しているからこそ世界的な製品競争力が付けられました。先日、その生産管理の名人として
知られるコニカの岩居社長(当時)から営業について意味深い話を聞きました。
最近アメリカのあるコニカの販売会社が連続して 7 倍の速度で売上を伸ばしています。その社長は元アメフトのプロ選手です
が、他の主要メンバーも様々なスポーツのプロ選手出身者です。プロ選手とアマ選手の違いについて「プロもアマも一日の練
習時間はそれほど違わない。違うのがプロは常にアメフトについて考えているところにある」とその社長は説明しています。彼
はプロのアメフトの戦い方について以下のような例を紹介しました。
「プロ達は意識の中でグランドを 1 メートル四方の網目に切っている。まず、ボールを投げる人は受け取る人に「縦 8 番横 13 番
の網目に 7 秒後に行け」との具合でサインを出す。それから受ける人も投げる人もわざと適当に走っているように見せかける。
7 秒後になれば受ける人は確実に所定の網目に到着し自然に振り返って飛んでくるボールを受け取って走り去る。当然、その
前にボールを投げる人も確実に 7 秒後にボールが所定の網目に落下するようにボールを投げたからボールはゴールに届く。」
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そして彼はさらに説明を続けます。
「ここで重要なのはボールを取る人がどれほど早く走るのではなく、どれほど気付かれず正確に 7 秒後に所定の網目に着くこと
です。早くても遅くても失格です。また、投げる方に求められているのもより遠く投げる能力でもなく、より早く渡す対象を決める
能力でもない。正確に 7 秒後に所定の位置にボールを投げることだ。早くても遅くてもだめだ。」
この会社では営業の手法や手順などを実に細かくルール化・マニュアル化し、社員に強く遵守を求めるのです。そのかわり、
会社は営業現場から最新の情報をリアルタイムで集め、成功パターンと負けパターンを割り出したうえ、常にルールとマニュア
ルを見なおしています。
「戦い方は会社が決めることであり、社員が決めることではない。会社が決めた戦い方で負けた場合、責任は社員にない。だ
から勝っても負けても社員は本当の情報を教えてくれる。リアルタイムで真の情報に基づいて戦略戦術を編み出すのはプロの
営業管理だ。」とその社長は営業管理について結んでいる。
■勝てば官軍
一年前、ある有名な優良企業に講演に行きました。営業報告はなるべく文章部分を減らし、営業情報を数値化しリアルタイム
でナレッジメネージメントを行ない、営業の全体像が見えるようにすべきだと口説いたところ、マネージャークラスの方から猛反
発を受けました。「うちは毎日数千文字の日報を通じて先輩が後輩を教育してきたから本日の会社がある」と言うのです。日本
を代表するような会社ですから当人達から「文章をたくさん書くからこうなった」といわれると反論できないものです。
あれから半年経ったところ、この会社は売上が減り、株価も下がりました。気になって例のマネージャーに「営業社員達が書く
文章の量を減らしましたか」と訪ねましたが、「冗談がきついですね」といわれました。実は来店客数も取り扱い商品数も微増な
のに売上が減りました。原因はデフレでした。
うまく行っているときは人間は改革意欲を失い、マイナス面に目を向けなくなります。本来、黒字は結果であり、その原因には
市場環境、パートナーシップ、商品力などの要素もあれば営業プロセスの要素もあります。黒字が出ているからといって営業プ
ロセスの改革を怠ると市場環境などが悪化するとすぐに赤字に転落してしまいます。
「勝てば官軍」、「結果は全て」という言葉はありますが、これは負けた側、これから勝とうとする側が言う言葉です。勝った側が
こんなことを言っていると次に戦いに負けてしまいます。中国の兵法には「勝敗は兵家の常」とあります。勝ち負けは常にある
ことですが、我々の営みは限りなく続くものです。重要なのは勝っても負けても常に平常心を以ってノウハウを蓄積し体力を改
善して行くことです。
「勝てば官軍」、「結果は全て」は勝利への執着心を強めるには良いスローガンですが、科学的マネジメントと相反する部分が
あることに留意すべきです。極端なことを言えば、結果主義は最も安易で誰でもできる管理方法です。その延長戦には勝った
時はいけいけどんどん、負けた時は自信を失ってしまう結果があります。
したがって勝っても負けてもあくまでも一時的な結果に過ぎません。その理由であるプロセスの改革・改善は企業が存続する
限り常に行なうべきことです。経営側と管理側が自らに課す言葉としては「勝てば官軍」、「結果は全て」ではなく「勝って兜の緒
を締めよ」、「結果には理由がある」であると肝に銘じるべきでしょう。
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■神様に近付く方法
新しい環境下の効率的営業プロセスをどのように見出すでしょうか。最初から方法が分かるなら苦労はありません。
皆さんは次の質問に遭うとどのようにお答えになるでしょうか。「A 商品の売上は先々月 0.5%伸びた、先月 1.0%伸びた、今月
1.5%伸びた、では来月いくら伸びるだろう」
おそらく多くの方は 2%伸びると思うでしょう。なぜでしょう。これは我々人間が線形的に物事を予測する癖があるからです。本
来、世の中の現象はほとんど非線形的であり、神様ではない我々は実行する前から正解を予測することは極めて困難です。
しかし、神様に近付く方法はあります。まず現状に基づき理想的な方法の仮説を立て、その仮説の下で結果を予測します。一
定期間を経てば、実際の結果が出ます。仮説に基づく予測結果と実際の結果と照合し、旧仮説の非合理的部分を修正し新た
な仮説を建てます。さらに時間が経つと新たな仮説に基づく行動の結果が出ます。予測の結果と実際の結果を以ってさらに仮
説を修正します。このような反復を繰り返すとやがて効率的な営業手法を見出すことができます。
したがってもし我々が神様に近付く方法があるとすればそれは仮説を建て外れることを恐れず素早く行動を起こすことと、こま
めにその行動の結果と予想の結果と照合し、仮説を修正することです。1 年でもなく 1 ヶ月でもなく 1 週間でもなく、リアルタイム
で結果をフィードバックすれば我々はリアルタイムで仮説を見直すことが見えてきます。この情報収集の速度と見直しの速度を
上げていく方法は我々が神様に近付く唯一の方法です。
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■鉄棒とチェーンの違い
鉄棒とチェーンを比較してみます。
鉄棒は確かに切れ目がなく頑丈にみえますが、1 ヶ所でも欠けたり錆びたりすると全部取りかえることになります。これに対して
チェーンは独立したユニットが仕組みによって繋がっているため、一部が古くなってもその部分だけを取り替えれば済むわけで
す。しかも全体としてみれば柔軟性があり、変化に強いのです。
思いきり情報投資を行なうのは前向きの経営判断でよいのですが、「統合」、「共有」という SI ベンダーやコンサル業者の決り
文句に左右されてはいけません。一度に全ての部署と全ての種類のソフトを揃えることは不必要ですし、大変効率が悪くリスク
が高いわけです。いわゆる統合と共有とはソフトウェアのことではなくデータ(情報)のことです。
ビジネス戦略に沿ってソフトウェアが存在するものです。各部署のビジネス戦略が異なるのでそれぞれの部署の最適なソフト
が異なり一遍に決める必要はありません。統合性は一度に作るから実現できるものではなく、データを繋げるから統合が実現
できるものです。本来、部署ごと、用途ごとのソリューションを導入しても何の障害もないのです。データが一本化できるのであ
ればむしろ部署ごと、用途ごとの導入の方が効率的なのです。
「e セールスマネージャー」は SFA/CRM のベストを目指して進化し続けております。「e セールスマネージャー」は全てのデータ
ベースと互換性を保つように設計しており、必ず顧客の情報共有とデータ統合に貢献しながら、ベストな営業支援システムとし
て活躍致します。
■注文生産の裏
この頃の車購入は必ず車種を選んでから色や座席などのオプションを選ぶことになります。メーカーはこの注文を受けてから
生産に入って顧客の要望に合う車をお届けします。エンジン、ボディ、座席など、8~9 割以上の基本的な部分は長い時間をか
けて研究と試験を重ねて作り置きしてユーザーの好みが出る部分だけをカスタマイズするのが注文生産です。つまり、注文生
産の裏に多くのパッケージがあるから品質も速度も保証できるわけです。
「e セールスマネージャー」は 3 つのレベルのカスタマイズを用意してあらゆる顧客ニーズと要望を吸収することが可能です。
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システムはパッケージの時代へ
自家製システムの限界:
パッケージのメリット:
時間がかかる、コストがかかる、維持費がかかる。
早くて、安くて、維持しやすい。
変化への対応が素早い。失敗するリスクが低い。
市場の洗礼を受けているので高いパフォーマンスと安定性
が実現。
<e セールスマネージャーのカスタマイズについて>
レベル 1 営業マンが設定できるカスタマイズ(顧客側)
好みにあわせて色とメニューを設定したり、よく使う機能を絞って表示させたり、分析方法を変えたりするカスタマイズです。見
る方法と見る角度を変える機能で情報の構造と内容に営業を与えることはできません。
レベル 2 管理者が設定できるカスタマイズ(顧客側)
「e セールスマネージャー」で使われた各種データベースの項目の追加/編集/削除
各種報告フォームのメニューの追加/編集/削除
マーケティングの項目とビジネスロジック内容の追加/編集/削除…など
取るべき情報を変更したり、情報の取り方を変更したり、あるいはビジネスルールを変えたりするカスタマイズレベルです。情
報のあり方と運用方法に関わる重要な部分ですので専用パスワードを持つ権限を与えられた管理者しかできません。
レベル 3 ソースレベルで行なうカスタマイズ(当社側)
ソフトブレーン株式会社は多くの実績を通じて業種ごとにプロトタイプを用意してきました。業種に対応するための設計と機能
にはより複雑な細かい設定と改造が必要であるうえ、著作権やノウハウの権利もあるため、顧客の業務を分析したうえ、最も
合うプロトタイプを用いてソースレベルのカスタマイズを行なうことになります。
長い間位置企業に務めるとその会社の営業プロセスが特殊でパッケージが対応できないと思い込みがちです。ある会社にデ
モンストレーションを行なってから「よくもここまで当社の営業現場を研究しましたね」と誉められたことがあります。実はお見せ
したのはその業界に特化したプロトタイプなのです。同じ業界においてどれほど皆さんの営業フローが近いかについては案外
その会社にいる人間には分からないものです。
※「e セールスマネージャー」については一部古い情報もあります。最新の情報はこちらへ http://www.e-sales.jp/functions/
■日曜大工は趣味
某業界大手企業はある開発会社に営業支援システムの開発を依頼すると 8 億円との見積りを出されました。高いと文句を言う
と、「4 億円で何とかします」との返事が帰ってきました。底値はどこかと問い詰めたら「それはお客さん次第です」と本音をこぼ
しました。
高度成長にともない日本企業の多くは自社システムを開発して使ってきました。2、3 年をかけて作り、4、5 年を使ってようやく
何とか投資を回収できるところです。しかし、自社システムは聞こえがよいのですが、維持管理がかさむだけではなく、専用の
スタッフが必要なので各会社は情報システム部門を設けて対応して来ました。
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長期にわたって安定した高収益が続く時代だからこそできたことですが、スピード時代の今となれば、完全に足枷になってしま
います。2、3 年をかけてようやく設計を固めた時点、ビジネス環境は特に変わっており、既に合わない設計になってしまいます。
お金をかけて作った自社システムは関わった人達にしか分からないため保守やメンテナンスなどの維持管理は大変コストとリ
スクが伴います。
背広も住宅も生命保険も日本社会は特製品ではなくパッケージを受け入れてきました。日本女性は世界で最もパッケージ(鞄)
が好きな女性だといわれるほどです。しかし、ビジネスソフトとなればいまだに自家製にこだわる人々が多くおられます。これ
はあくまでも戦後の高度成長に甘んじた情報システム業界の習慣と癖であり、合理性が欠けております。日曜大工は愛情表
現としてよいのですが、仕事として成り立たないから日曜大工と言います。「好きなようにできるから、ノウハウが外に漏れない
から、…」と言い訳する人もいますが、それは「荷物が無くなるから、中身がこぼれるから」といっていまだに宅急便を使わず自
分で遠方の親戚にお歳暮を届けるようなものです。いまは素人の自己満足を満たすほど企業には余裕がありません。
■頭の痛い IT について
1 : 時代に合うノウハウと仕組み
業績を伸ばすにはいろいろな努力があるかもしれませんが、結局売れることが何よりも重要です。営業マンの数を増やし、営
業マンの質を高め、教育を強化するなどの手法は誰でも思い付きますが、コストの上昇が伴います。一方、現在の従業員は戦
後の一時期とは違って流動性が高く、能力の質のばらつきも大きい。しかも顧客も商品知識が豊富になり、嗜好の変化は激し
い。企業はこのような社員の流動性と質のばらつきを乗り越え安定した均質なサービスや製品を、嗜好変化の激しい顧客に
提供しなくてはなりません。コストの上昇を押さえながらこの目的を達成させるには、従来の手法が限界に来ていることは誰で
も感じているはずです。そこでインターネット時代に合う新しいノウハウ、仕組みおよびスタイルが求められております。
このノウハウと仕組みをソフトウェアに凝縮させたのは当社の CRM パッケージソフトです。当社ソフトウェアの使用を通じて既
に多くの顧客によって有効性が実証されたこれらのノウハウと仕組みが御社にも定着し、御社業績の拡大と業務の効率化が
実現されると確信しております。
2 : 満足度の時代
今は消費者の時代、顧客満足度(CS)の時代といわれています。日経などでは定期的に各業界の企業の顧客満足度を調査
し公開発表することを始めたほどです。係長から課長へ、課長から部長へ、そして部長から社長へと何回も報告や会議を重ね
ると顧客のクレームや営業社員の反応は、何回も変形してから社長の耳に入ることになります。特に不都合な情報などは非常
に入り難くなります。インターネットとモバイルの仕組みを利用し、顧客や営業社員の情報を、現場で収集したままの状態で経
営陣が見られるようにすることは重要であります。社員を教育するときも、改善対策を考えるときも、まず本当の情報を知らな
ければ一方的になってしまいます。
3 : ソフトウェアとは
ソフトウェアはものでもなければ知識でもありません。ノウハウ、仕組み、方法などを実行できるようにした手順です。その手順
はインターネットや携帯端末の普及でより実行しやすくなっているから、よいノウハウと仕組みが広がりやすくなっております。
わざわざ会社に戻って使いにくいコンピューターを操作するようなソフトウェアは自分自身の仕組みはうまくないため、よいノウ
ハウと仕組みを運んだり浸透させたりすることができません。
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4 : 物の製品とソフトウェア製品の違い
コーヒーを飲みながら小説を読んでいる自分を想像しましょう。コーヒーカップはデザインが良くても傷があるとたちまちカップと
しての価値が落ちますが、小説は誤字の有無よりも内容の面白さが決め手になります。つまり、我々が形のある製品に求める
ものと形のない制作物に求めるものは最初から異なっております。したがって、良いソフトウェアには業績を伸ばすストーリー
(手順)が隠されております。
5 : IT とは?
日本の経営者は IT を技術問題だと勘違いして分からないことを自慢する人がいるほどです。これは大きな間違いです。IT は
経営理念の問題です。その理念を理解しないで現場任せで導入すると期待するほどの効果が出ないのも当然です。ご存知か
と思いますが、戦後の日本製品が世界のブランドになれた理由の一つは QC(品質管理)運動にあります。今の IT は直訳すれ
ば「情報技術」となってしまいますが、実は IT は、QC と同じく、技術ではなく経営理念です。「如何に今の情報通信時代に会う
経営を行なうか」の経営理念です。
6 : IT 投資の問題点
経営者の多くは IT 投資の効率の悪さにうんざりしています。しかし、その原因は経営者自身にある場合が多い。最大の原因は
投資のほとんどを箱物、いわゆるハードウェアにお金を使ったためです。経営を改善するのはソフトウェアに仕込まれた仕組
みやノウハウであり、機械そのものではありません。つまり、ソリューションを中心に IT 投資をしなくてはならないのに、日本で
はつい大きなコンピューターを買うことになってしまいます。結局、ハードウェアメーカが儲かるだけです。2、3 年経てばすぐ、
「機械が古くなったから取り替えましょう」といってまた別の機械を売りこんできます。おまけに「古いソフトは新しい機械では動
かないからついでにソフトウェアも更新しましょう」といってソフトウェアの更新も強要します。結局 3、5 年で数億のシステムを使
い捨ててしまいます。
7 : IT 導入時の指針
我々が宣教師のように説いて歩いているのは、決してハードウェア依存のソフトを導入すべきではないことと、システム投資は
一度で大きな金額を投入すべきではないことを伝えたいからです。インターネットの仕組みを採用すれば、どんなハードウェア
も使えるようになります。ユーザーが主導権をもって、必要なとき、必要な機械を使えばよいのです。また、これからはスピード
経営の時代であり、社会環境も消費者の嗜好も素早く変化する時代です。一回きりの数億円の投資をしてもすぐ適合しない部
分が出てきます。適合しない部分のソフトを変えるだけで、対応できる仕組みにすべきです。つまり、破棄するのではなく、事業
や社会と共に柔軟に進化して行けるシステムにすべきなのです。
8 : なぜ効率アップできるか
御社においても何らかの形で営業報告を残しているでしょう。文章でだと思いますが、数十人、数百人の文章となれば読めなく
なります。全体像も客観的に評価できません。しかし、文章というアナログ情報ではなく、業務プロセスを細かいメニューに細分
化したうえ、iPhone などのスマートデバイスを使って現場でメニューを選択するという方法をとれば、これらの点は解決できま
す。この方法なら、リアルタイムで全体の動きが数値化できるし分析もできます。社員もわざわざ会社に戻って 1、2 時間をかけ
て、面倒な文章を書く手間が省かれるので嬉しいものです。一石二鳥です。
オフィスが銀座にあって杉並区に家を持つ社員がいるとします。彼は午前に新宿の顧客を訪問したいのにわざわざ 1 時間をか
けて銀座にきて、また新宿に戻るのは大変効率が悪いものです。でも彼はオフィスにある顧客情報を調べたり、過去の経緯を
聞くためにどうしてもオフィスに行かなければなりません。iPhone から顧客の詳細情報、過去の営業履歴、上司の指示、地図
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情報などを引き出せるのであれば、何も 2 時間近くを無駄にすることはありません。9 時前から顧客の玄関に入れます。夕方に
ついても同じです。オフィスに戻って報告書を書く時間も要りませんし、直帰もできます。
要は如何に限られた営業時間内に営業効率を上げるかです。今申し上げた手法をとれば最低 2 割、営業効率が上がります。
この数値は多くの国内外の導入事例によって証明されています。おまけに資産としての情報が自然と蓄積され、そうした情報
のリアルタイムの分析も可能になります。
9 : 使えることの重要性
営業支援システムに一番重要なのものは、「使える」システムだと思います。営業現場をよく分からない大手技術者が作ったシ
ステムは複雑で、営業マンの本当のニーズと気持ちを理解した上のものではありません。結局数億円を払って導入するものの、
1、2 年もしないうちに使う人が減ってしまいます。「使え、使え」といっている管理者自身も使いたくないという笑い話はよく聞き
ます。我々東洋人は、基本的にキーボートに慣れていません。パソコンといえば皆が抵抗を感じます。でも iPhone などのスマ
ートデバイスなら最近誰でも使っているからすんなり受け入れてくれます。だから当社はあらゆる携帯端末が使えるように、シ
ステムを開発してきました。我々はよく「2 つのレス」で表現しております。「シームレス&ワイヤレス」、つまり慣れている好きな
機器(スマートデバイス、パソコンなど)を使って好きな場所で無線で使えるという意味です。「2 つのレス」はただ使えるための
技術戦略に過ぎません。
10 : 社員に便利さと快適さを
営業システムは「管理のためではなく、便利になる、効率をよくする、顧客満足度を高める」ためのツールに徹底すべきです。
労働時間を伸ばさず成績を伸ばせるツールであればどんな営業社員も進んで使いたいはずです。わざわざ会社に戻って 1 時
間以上をかけて営業報告を作成することがなくなり、好きな時間に好きな場所で顧客情報、過去のいきさつ、地図などが携帯
で引き出せることを分かっていただければ喜んで受け入れるはずです。
しかも、当社のシステムには分析と評価機能があります。社員から集められた営業プロセスを数値化し分析することで、売れ
ている社員と売れていない社員のプロセスパターンが見えてきます。これによって全社レベルのノウハウの蓄積と共有が進み
ます。
また、異なる事業、異なる商品、異なる地域などが原因で、単純に売上の数値だけで評価できない場合もこの機能で対応でき
ます。
11 : IT 投資はソフトウェアを中心に
我々は昔からハードウェアに依存しない、オープンなシステムの開発を進めてきました。つまり、ソフトウェアはどのハードウェ
アでも、古くても、新しくても、使えるようなソフトを作って参りました。社長の会社がうまくいっているのは、建物が特別にいいか
らでもなく、機械が特別にいいからでもなく、社員が特別にいいからでもありません。これらの形のあるものを社長のノウハウで
運用しているからうまくいっていると思います。これと同じく、経営の効率と顧客満足度を上げるためのソフトウェア導入が目的
なのにハードウェアに莫大な投資を行うのは本末転倒です。特に当社の製品は、完全なインターネット対応であるため、インタ
ーネット接続できるハードウェアであれば、パソコンであろうが、スマートデバイスだろうが、古い機種だろうが、新しい機種だろ
うが、何でもそのまま使えます。この結果、既存のパソコンやスマートデバイス、携帯電話でほとんどカバーできるためハードウ
ェア投資はほとんど要りません。
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いわゆる大手 IT 企業となれば、すぐ自社のハードウェアを持ってきます。そのハードウェアに依存するようなソフトウェアを提案
します。導入 3 年もしないうちに「社長、機械が古くなったから変えましょう。古いソフトは新しい機械では動かないからソフトも
作り直しましょう」といってまたもう一度おいしい商売を狙います。彼らはハードウェア業者であり、ソフトウェアを餌にハードウェ
アを売りたがっています。
また、日本の経営者は箱物が好きで、大きなコンピューターさえもってくれば「そうか、これが 5 億か」と納得してしまうのです。
部下の方々も大手 IT 企業が大好きです。なぜならば、大手で失敗しても責任問題は発生しないからです。「大手でさえ失敗し
ているから、ソフトブレーン株式会社は失敗しないわけがない」、「大手が高いのは大手のものがよいからだ」と説明しますが、
本音は会社の金は痛くも痒くもないから責任を取りたくないだけです。
12 : 社内システム担当者の限界
社内のシステム部門はその会社のためだけに設けられ、世の中の動向はあまりわかりません。特にシステム部のトップは技
術者が多く、経営者の発想は持っていません。技術的な議論はいいのですが、経営的な議論や設計構想はなかなか噛み合
いません。我々はいろいろな業種の成功事例も失敗事例も研究しながら、社長のところの経営課題を解決するため、IT をツー
ルとして使っています。もっと具体的に言えば、売上を拡大させるために、コンサルティングを行った上、IT の活用法を社長と
共に考えさせて頂いております。社内システム担当者はどうしても現状のシステムの維持と更新に目を向けてしまいます。ま
た社内の立場を確保する本能から、外部から勧められたまだ理解できない新しいコンセプトに抵抗を示します。
13 : いけすとまな板
我々の CRM パッケージが扱っているデータベースは従来の勘定系システムのデータベースとはまったく別物です。当社提案
の CRM データベースはいけすで、勘定系データベースはまな板だと言えます。
14 : 負けパターンの研究はもっと大切
ある塾の会社では生徒さんが月に 3 回以上欠席するとほとんど解約される、あるパチンコ会社では客が 2 回も 3 万円まで負け
るとほとんど二度とこなくなる・・・負けパターンが分かれば負ける前から手の打ち方が分かります。勝ちパターンよりもむしろ
負けパターンの方がもっと大切です。
勝ちパターンの共有は発表会を通じてある程度はできますが、負けパターンはなかなか共有できません。皆に負けた原因を総
括して公開しなさいといっても皆の前でつるされているようなもので恐怖を抱くだけで分析どころではありません。社員も勝った
ときはいいのですが、負けた時は言い訳をしたくなります。だから失敗やクレームはなかなか経営レベルに上がってきません。
負けパターンを割り出すには普段から業務プロセスや顧客クレームのデータを直接現場から吸い上げて蓄積する仕組みが必
要です。昔はやりたくても出来なかったことはいま、インターネットとモバイルを用いればできるようになりました。消費者はイン
ターネットで武装しており、企業よりも情報を持っている場合もあります。消費心理も変わりやすく嗜好も多様化しております。
これらの情報を瞬時に吸収し分析しないと負けてしまいます。昔はうまく機能していた方法は今も機能すると考えることは大変
危険です。
15 : 業務プロセスのメニュー化は IT の前提
コンピュータとソフトを導入すれば効果が出ると思うことは間違いです。IT を導入する前に IT の効果が出るような使い方を取得
すべきです。例えば業務プロセスのデータを取るために、まず業務プロセスを細かくメニュー化し、メニュー毎の選択肢をリスト
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しておく必要があります。メニューと選択肢に数値データが対応しているため、現場の社員はメニューを押して適正な選択肢を
選ぶ行為がデータに変換できるのです。これらのデータを顧客毎に、社員毎に、商品毎に時間軸にそって蓄積して行きます。
蓄積されたデータを分析し、結果と比較してみれば、勝ちパターンと負けパターンが自然に見えてきます。効率と顧客満足度
をアップさせるためのノウハウとして全社で共有することができます。旧来の業務報告はほとんどアナログの文章であり、デー
タではありません。人数が多くなると読む人がいなくなるし、読んでも主観的なものが多くデータ分析はできません。
16 : POS システムはなぜ普及したか
導入しても使えない、役に立たないという失敗談はよく耳にします。これがまた IT に対する誤解を増幅させてしまうケースがあ
ります。POS やレジは歴然としたコンピューターシステムですが、ではなぜバイトのおばさんも高校生も誰もがあたりまえのよう
に使いこなしているのでしょうか。理由はただ 2 つです。1 つは用意したメニューを選択するのみの操作、もう一つはこれを使わ
ないと注文を認めないルールです。業務プロセスをメニュー化し、押すだけで使えること、そして報告がなければ業務をしてい
ないとするルールを設けること、この 2 つが普及のポイントです。
17 : 業務プロセスのメニュー化は企業側の努力が必要
御社の業務について御社の経営者と社員は一番よく理解しているはずです。御社の営業や総務にはどんな特殊性があるとし
ても、どんな場合、どのような手段を使ってどのような進捗を経てどのような結果があり得るか、どのような顧客がどんな場合、
どのような苦情があり得るか、どう対処してどのような結末になりうるかなどについて御社は一番わかっているはずです。また
わからなければなりません。これらの業務プロセスを細部までメニュー化し、各メニューの後ろに御社のノウハウとも言える選
択肢を用意しておきます。この仕事は当社のコンサルタント社員と御社の現場責任者を交えて議論しながら決めなくてはなり
ません。基本的には当社は取材し提案する立場です。決めるのは御社です。また、システムが使いやすいからといって安心で
きるわけではありません。使いやすさと関係なく基本的に報告したくない営業社員は必ずいます。「報告していない営業は営業
活動として認めない」というルールを設けて初めて習慣として社員に浸透させることができます。先の POS システムの話と同じ
です。
18 : モバイルも着替える時代に
今は多様化の時代。モバイルもそうです。洋服と同じように場所と用途によって使い分けます。「運動のときはスポーツウェア、
寝るときはパジャマ」、と同じように「移動中はスマートデバイス、オフィスではパソコン」と使い分けるべきです。だから我々の
製品はシームレスを重視しております。
19 : 「全員参加、全員活用」はナレッジマネジメントの鉄則
一部だけで試してみようと思っても一部の時の効果と全部の時の効果は全く異なります。全部参加したときはじめて採れるデ
ータはたくさんあります。一部の実験からは全体の様子を想像できません。データベースは数がないと傾向は割り出せませ
ん。
20 : 仕組みの改善なしにはソフトウェアの導入は無駄になる
私はよく当社の社員に「ソフトウェアにとって一番大切なのはそのソフトウェアに隠されている考え方とコンセプト」と口説きます。
そのコンセプトが顧客に理解され仕組みが作られた時、ソフトウェアがはじめて出番があります。つまり、仕組みとソフトウェア
は表裏一体ではくてはなりません。ねじれるとうまく効果は出ません。
■今までの SFA/CRM は何故失敗したか
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1.営業への理解の欠如
営業を徹底的に経験したうえ営業マンの心理と行動パターンを科学的に取り扱える設計者はこの世界に少ない。 機能や性能
を中心とした作り側の思いを設計に反映しすぎた。
2.管理志向が強すぎる
管理側だけの都合で管理や分析のためにどんな情報が必要かを考えて入力情報の項目と量を設計に反映させる。これは営
業マンにとって苦痛であり場合によって屈辱的でもある。今現在存在しているアナログ的報告内容をより簡単な形でできるよう
にすることで営業マンに多くの恩恵をもたらすならば、普及の障壁がなくなる。例えば iPhone でどこでも顧客情報を見れる、直
帰直行可能になるとか。
3.パソコンと有線ネットワークに依存
これまでは情報端末と言えばすぐパソコンを思い付く。情報共有といえばすぐ社内ネットワーク(ラン)を思い付く。 その結果、
営業マンはどんなに遅くても情報を入力するために会社に戻らなくてはならない。 現実的には営業は激しく移動する業務であ
り、出張も多い。 個人売上にすぐ結び付かないこれらの拘束条件は営業マンのモチベーションを下げることに繋がる。
4.キーボードによる文字入力方式
これまでの SFA/CRM システムは文字入力が多すぎる。文字の文章は基本的にアナログ情報であり、情報共有の効率は極め
て低い(従来の紙による報告とそれほどかわらない)。にも関わらず東洋人に合わないキーボードによる文字入力の強要は実
質的に何のメリットももたらしていない。ペンで紙に書くより面倒になるだけ。
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5.運用への軽視
業務支援ソフトはオフィスソフトと違って、何らかの新しいビジネス仕組み、ビジネススタイルと解決策(ソリューション)を提案し
なければ効果は出ない。しかし、ソフトウェアを企業に置くだけではその効果は自動的に現れるものではない。そのソフトウェア
の真髄を充分に理解したコンサルタント要員が企業側に立って運用の手助けしなければソフトの威力が発揮されない。これま
での SFA/CRM 開発業者はソフトウェアメーカーに特化しており、物作りの発想で継続性と運用性についてほとんど戦略を持
っていない。
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