肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症・下大静脈フィルターに関する説明書 肺血栓塞栓症 肺血栓塞栓症の成因や病態はまだ十分には解明されていませんが、深部静脈血栓症が大 きく関与しています。肺血栓塞栓症は深部静脈血栓症の合併症ともいえ、静脈血栓塞栓症 として1つの連続した病態と捉えられています。肺血栓塞栓症は急性と慢性で病態と治療 法が大きく異なります。急性肺血栓塞栓症は欧米に多い疾患とされますが、我が国におい ても生活様式の欧米化、高齢者の増加、本疾患に対する認識および各種診断法の向上に伴 い、最近増加している救急疾患です。また、エコノミークラス症候群や地震後の意外な二 次災害としてマスコミも注目した疾患であり、消化器外科や産婦人科・整形外科などの術 後に安静臥床が長くなった患者さまでは注意しなくてはならない術後合併症の1つです。 急性例では早期に診断して適切に治療されなければ、重篤な状態・時に致死的となります。 急性肺塞栓症は、静脈・心臓内で形成された血栓が遊離して、急激に肺血管を閉塞する、 つまり、血栓が下肢静脈→骨盤内静脈→下大静脈→心臓(右心房・右心室)を通って、肺 動脈という血管をつまらせることによって起きる疾患で、その塞栓源の 90%以上は下肢あ るいは骨盤内静脈です。日本人では男性より女性に多く、60 歳代から 70 歳代に発症のピー クがあります。病態は急速に出現する肺高血圧および低酸素血症で、症状としては突然の 呼吸困難や胸痛、咳が出現し、ひどい場合には失神・死亡します。心肺疾患を有しない正 常の右室が生じうる平均肺動脈圧は 40mmHg で、急性期にそれ以上の圧を呈する場合には、 慢性肺血栓塞栓症に急性肺血栓塞栓症の病態が加わり急性増悪したもの(acute on chronic) や慢性肺血栓塞栓症そのものを疑う必要があります。肺梗塞は多くは出血性となり、急性 肺血栓塞栓症の約 10-15%に合併し、末梢肺動脈の閉塞で生じやすくなります。また、急性 期の生存例の数%が慢性化し、時に数力月から数年の無症状期間を経て、肺高血圧症に伴 う労作時の息切れなどの症状が出現します。 深部静脈血栓症(DVT) 四肢の静脈には表在静脈と深い部位を走行する深部静脈があり、急性の静脈血栓症は深 部静脈の深部静脈血栓症と表在静脈の血栓性静脈炎に区別されます。深部静脈血栓症は、 発生部位により症候が異なり、特に問題となるのは骨盤内の静脈および膝より上の太腿静 脈に血栓ができた場合です。静脈血栓は膝より下の静脈では数日から数週で大部分消失し ますが、中枢側では1年以内に約半数が退縮するも索状物として残存し、血栓の中枢端が 塞栓、あるいは塞栓源となり、時に肺塞栓症に至るのです。末梢側の静脈でも発生するこ とはありますが、頻度は非常に低くなります。症状としては塞栓症以外にも下肢の疼痛、 腫脹、浮腫、色調変化が生じます。 深部静脈血栓症の危険因子として、血液凝固異常(多くは抗リン脂質抗体、アンチトロ ンビン・プロテインC・プロテインSなどの欠乏)や心疾患・悪性腫瘍などが存在し、そ れに加え、骨盤部での腸骨動脈による静脈圧迫、大腿部からのカテーテル穿刺や留置、外 傷・手術による運動制限および長期臥床が影響します。また、これらのほかにも輸液路や ペースメーカーのカテーテル留置あるいは透析用シャント、さらには腫瘍による静脈圧迫 などにより、上半身にも静脈血栓をきたす場合があります。 下大静脈フィルター 下大静脈フィルターとは、頚部または大腿部の静脈からカテーテルを利用して下大静脈 内ヘフィルターを留置することで、肺塞栓症の原因となる静脈血栓を肺動脈に到達する前 に確実に捕捉して肺塞栓症を予防するものです。これには、永久留置型と非永久留置型(一 時留置型、回収可能型)の2種類があります。 永久留置型は、静脈血栓塞栓症を有するうち、抗凝固療法を実施できない(手術直後・ 活動性出血・出血性梗塞など禁忌や合併症)症例、また抗凝固療法が可能でも骨盤腔内静 脈・下大静脈領域の静脈血栓症、近位部の大きな浮遊静脈血栓症のある症例、さらに血栓 溶解療法ないし血栓摘除を行う肺血栓塞栓症などが適応となります。 一方、非永久留置型は、永久留置型下大静脈フィルターの適応のうち、数週間の間、急 性肺血栓塞栓症が予防できればよい病態で使用されます。 上記のように使用することで肺塞栓症を予防できる一方で、フィルターの永久留置は静 脈血栓症を増加させるため、必要がなくなれば回収可能型フィルターは極力抜去します。 また、下大静脈フィルター留置の合併症としては以下のようなものがあげられます。 1:血管造影手技に伴い、穿刺部の血腫形成、感染、血管損傷による出血閉塞、 2:使用する造影剤による熱感あるいは疼痛、腎機能障害、アレルギーやショック、等 3:留置後および抜去時の合併症としては、下大静脈フィルターの逸脱、血栓による閉塞、 感染、 (極めて稀な合併症として心臓穿孔やフィルターの心臓への移動による死亡報告例も あります) 4:永久フィルターが留置された場合は移動、破損、血栓による下大静脈閉塞、等 5: 回収可能型フィルターでは回収を試みても回収できない場合もあります。 (3-5%)
© Copyright 2024 Paperzz