アスベスト関連肺疾患の早期発見に有用な特異的血中 マーカー探索

ア ス ベ ス ト 関連 肺 疾 患 の早 期発 見 に 有 用 な特 異 的 血 中
マーカー探索
鳥取大学医学部統合内科医学講座分子制御内科学分野
准教授
鰤 岡 直 人 ( http://ww7.enjoy.ne.jp/~nbur ioka/index.html )
Ⅰ.研究の背景
ア ス ベ ス ト 関 連 疾 患 に は ,主 に 肺 疾 患 と 胸 膜 疾 患 が あ る .両 者 を あ わ せ て
ア ス ベ ス ト 関 連 肺 疾 患 と 総 称 す る こ と も 多 い .非 腫 瘍 性 と 腫 瘍 性 が あ り ,非
腫 瘍 性 は 石 綿 肺 ,石 綿 関 連 気 道 疾 患 ,良 性 石 綿 胸 水 ,胸 膜 肥 厚 斑( 胸 膜 プ ラ
ー ク ),び ま ん 性 胸 膜 肥 厚 に 分 類 さ れ る .腫 瘍 性 と し て 石 綿 肺 癌 ,中 皮 腫( 悪
性 中 皮 腫 )が 有 名 で あ る .ア ス ベ ス ト 曝 露 量 と 曝 露 開 始 か ら の 年 数 に よ っ て
あ る 程 度 特 徴 が あ る .ア ス ベ ス ト 工 場 周 辺 ,一 般 環 境 で の ア ス ベ ス ト 低 濃 度
曝露により胸膜プラーク,良性石綿胸水,びまん性胸膜肥厚が 生 じや す く,
高 濃 度 曝 露 に よ り ,石 綿 肺 を 代 表 と す る 肺 線 維 化 が 生 じ る .中 皮 腫 は ア ス ベ
ス ト 濃 度 に 関 係 な く 発 生 す る が ,発 生 ま で の 年 数 が 30か ら 40年 と 長 期 な の が
特徴である1) .今後,中皮腫発生数は年度を経る毎に増加し,アスベスト
使 用 量 か ら 推 測 す る と 2030∼ 2040年 頃 が 発 症 の ピ ー ク に 達 す る と 推 測 さ れ ,
有用な早期診断法の開発が望まれている2) .
Ⅱ.研究の目的
ア ス ベ ス ト は 重 大 な 健 康 被 害 を 及 ぼ す .疾 患 を 発 症 す る ま で 経 過 が 長 い た
め 慎 重 な 観 察 が 必 要 で あ る .し か し 各 々 の 疾 患 に 対 す る 血 中 マ ー カ ー は 報 告
はあるが早期発見のための血中マーカーは明確ではない3) .アスベスト吸
引者において横断的検討の他にコホート研究として長期の縦断的検討も重
要 で あ る .ア ス ベ ス ト 関 連 疾 患 の 進 展 を 診 断 す る た め ,非 侵 襲 的 に 採 取・測
定 で き る 血 液 か ら 有 用 な マ ー カ ー を 探 索 す る こ と を 本 研 究 の 目 的 と す る .横
断 的 な 解 析 結 果 と 画 像 所 見 を 考 慮 し ,統 計 解 析 を 行 い 診 断 に 有 効 な 血 中 マ ー
カ ー の 組 み 合 わ せ を 抽 出 す る .今 後 ,長 期 縦 断 的 に 発 症 者 の 各 種 マ ー カ ー 変
動 を 解 析 す る こ と で 長 期 の 縦 断 的 検 討 の 出 発 点 と し ,早 期 発 見 の 一 助 と す る .
Ⅲ.対象者の背景
1.性別,年齢分布,喫煙歴
ア ス ベ ス ト 曝 露 歴 が 明 確 で あ る 300人 弱 に お い て , 血 液 採 取 の 許 可 が 得 ら
れ ,同 時 に 胸 部 高 分 解 能 CT検 査 が 施 行 さ れ た 147人 を 対 象 者 と し た .性 別 は
1
男 性 140人 ,女 性 7人 で ,年 齢 分 布 は 66±6歳( 54∼ 83歳 )で あ っ た .Br inkman
指 数 は 中 央 値 450, 平 均 469( 標 準 偏 差 388) だ っ た .
2.アスベスト吸引歴と職業
対 象 者 全 員 が ア ス ベ ス ト に 職 業 性 曝 露 さ れ て い た .ア ス ベ ス ト 吸 引 年 数 の
中 央 値 は 20年 で あ っ た . ア ス ベ ス ト 曝 露 年 数 の 分 布 は 図 1の よ う で あ る . 明
確 で は な い が 最 初 の 吸 引 か ら 約 35∼ 40年 程 度 経 過 し て い る 例 が 多 か っ た .職
業 と し て ,ア ス ベ ス ト 運 搬 ,ア ス ベ ス ト を 使 用 し た 炉 の 作 製 ,炉 の 修 繕 管 理 ,
水 道 工 事 ,船 舶 関 連 な ど に 従 事 し て い た .主 に 白 石 綿 を 吸 引 し た と 推 測 さ れ
た.
(人 ) 30
25
20
15
10
5
0
0
5
10
15 20 25 30
35
40 45 (年 数 )
図 1. ア ス ベ ス ト 曝 露 年 数 の 分 布
Ⅳ.方法
本研究は実施機関の倫理委員会の許可を得て行われた.
1.画像診断
問 診 で ア ス ベ ス ト 曝 露 歴 が 明 確 で あ る 対 象 者 300人 弱 に , 胸 部 直 接 撮 影 を
行 っ た .胸 部 直 接 撮 影 で 何 ら か の 異 常 が 疑 わ れ た 対 象 者 お よ び 希 望 者 ,約 240
人 に 対 し て , 胸 部 高 分 解 能 CT検 査 を 施 行 し た .
2.アスベスト関連肺疾患血清診断マーカー測定
採 血 許 可 が 得 ら れ た 対 象 者 200人 弱 の う ち ,胸 部 高 分 解 能 CT検 査 が 同 時 に
施 行 さ れ , 許 諾 の 得 ら れ た 患 者 147人 に 対 し て , ア ス ベ ス ト 関 連 肺 疾 患 に 対
する血清診断マーカーを探索するため,血清中の特定蛋白質定 量 を行 っ た.
(1)肺線維化マーカー
石 綿 肺 は 塵 肺 の 一 種 で あ る が ,胸 膜 下 曲 線 陰 影 は 傍 細 気 管 支 の 線 維 化 と し て
胸 膜 か ら 数 cm程 度 内 側 に 集 合 像 と し て 認 め ら れ る . 肺 線 維 化 関 連 で は , 肺
線 維 化 に よ り 血 中 に 上 昇 す る マ ー カ ー で あ る KL-6, SP-Dを 測 定 し た .
2
(2)腫瘍関連マーカー
肺 癌 ,中 皮 腫 関 連 で は 腫 瘍 マ ー カ ー の CEA, SCC, SLX, pr o-GRPを 測 定 し た .
ま た , 血 中 の 癌 抑 制 遺 伝 子 産 物 抗 体 (p53抗 体 )を 測 定 し 肺 癌 , 中 皮 腫 診 断 に
おける有用性を検討した.
Ⅴ.対象者に認められたアスベスト関連呼吸器疾患
対 象 者 147人 の う ち , 胸 部 高 分 解 能 CT検 査 で ア ス ベ ス ト 関 連 疾 患 を 認 め
た 30人( 20.4%)の 内 訳 は ,石 綿 肺 6例( 4.1%),胸 膜 下 曲 線 陰 影 7例( 4.7%),
胸 膜 肥 厚 斑 13例 ( 8.8%) , 肺 腺 癌 3例 ( 2%) , 中 皮 腫 1例 ( 0.7%) .
Ⅵ.対象者の関連肺疾患・血清診断マーカー測定結果
1.肺線維化マーカー
対 象 者 147人 中 , 141人 で 血 清 KL-6, SP-Dを 測 定 し た .
( 1 ) 血 清 KL-6
血 清 KL-6( ピ コ ル ミ KL-6, 三 光 純 薬 , 東 京 ) は 電 気 化 学 発 光 免 疫 測 定 法
で 測 定 し た . 基 準 範 囲 は 500 U/mL以 下 で あ り , 基 準 範 囲 以 上 の 症 例 は 141例
中 , 12例 で あ っ た ( 図 2) . 血 清 KL-6が 上 昇 し て い た 12例 中 , 石 綿 肺 例 は 3
例 , 胸 膜 下 曲 線 陰 影 を 認 め た 例 は 1例 で あ っ た . 結 果 ,胸 部 CT検 査 で 石 綿 肺
を 認 め た 6例 中 , 3例 で , 胸 膜 下 曲 線 陰 影 を 認 め た 7例 中 , 1例 で 血 清 KL-6は
500 U/mL以 上 に 上 昇 し て い た .ま た 肺 腺 癌 1例( 576 U/mL),中 皮 腫 1例( 525
U/mL)で も 上 昇 を 認 め た .CT画 像 で ,肺 線 維 化 を 認 め な い 群( n=128, 298±125
U/mL) と 認 め た 群 ( n=13, 441±261 U/mL) の 2群 比 較 に お い て 肺 線 維 化 を 認
め た 群 が 有 意 に 血 清 KL-6は 高 値 で あ っ た ( p < 0.03, Mann-Whitney U t est ) .
(人 )
50
(基 準 範 囲
45
500 U/mL以 下 )
40
35
30
25
20
15
10
5
0
0
100
200
300
400
500
600
700
800
図 2. 血 清 KL-6の 測 定 結 果
3
900
1000
1100
U/mL
1200
( 2 ) 血 清 SP-D
血 清 SP-D( 肺 サ ー フ ァ ク タ ン ト D)は EIA法( SP-Dキ ッ ト「 ヤ マ サ 」EIA,
ヤ マ サ 醤 油 , 東 京 ) で 測 定 し た . 基 準 範 囲 は 110 ng/ mL以 下 で あ り , 基 準 範
囲 以 上 の 症 例 は 141例 中 , 11例 で あ っ た ( 図 3) . 血 清 SP-Dが 上 昇 し て い た
11例 中 , 石 綿 肺 症 例 は 3例 で あ っ た . 3例 中 , 2例 は KL-6が 上 昇 し て い な か
っ た . 結 果 , 胸 部 高 分 解 能 CT検 査 で 石 綿 肺 を 認 め た 6例 中 , 3例 で 上 昇 し て
い た ( 151±10 ng/mL) . ま た 肺 腺 癌 1例 で も 上 昇 し て い た ( 117 ng/mL) .
25
( 基 準 範 囲 110 ng/mL以 下 )
(人 )
20
15
10
5
0
0
10
20
30
40
50
60
70
80
90
100 110 120 130 140 150 160 170 180 190 200
図 3. 血 清 SP-Dの 測 定 結 果
(ng/mL)
2.腫瘍関連マーカー
腫 瘍 マ ー カ ー は ,RIA固 相 法 で 血 清 SLX( SLXオ ー ツ カ ,大 塚 製 薬 ,東 京 ,
基 準 値 , 38 U/mL以 下 ) , 化 学 発 光 酵 素 免 疫 法 で CEA( ル ミ パ ル ス プ レ ス ト
CEA,富 士 レ ビ オ ,東 京 ,基 準 値 ,5.0 ng/mL 以 下 ),RIA固 相 法 で SCC( SCC・
リ ア ビ ー ズ , SRL, 東 京 , 基 準 値 , 1.5 ng/mL以 下 ) は 対 象 者 147人 中 , 146
人 で 測 定 し た . 血 清 pr o-GRP( ス フ ィ ア ラ イ ト Pr oGRPⅡ , 三 洋 化 成 工 業 ,
基 準 値 ,46.0 pg/ mL以 下 )は 対 象 者 147人 中 ,124人 で 測 定 し た .SLXは 19.8 ±
7.8 ( 平 均 ± 標 準 偏 差 ) , CEAは 3.1 ± 1.5, SCCは 1.1 ± 1.3, pr o-GRPは 21.3
± 9.7で あ っ た . 基 準 値 よ り 大 き な 値 を 示 し た 例 は SLXは 2例 で 下 咽 頭 癌 術 後
( 41 U/mL),肺 腺 癌( 81 U/mL)で あ っ た .CEAは 肺 腺 癌( 146 ng/mL)の 1
例 の み で あ っ た . SCCは 3例 で 基 準 値 以 上 で あ り , 消 化 管 検 査 の 結 果 , 食 道
癌 1例 ( 16 ng/mL) が 発 見 さ れ た . pr o-GRPは 基 準 値 以 上 は 3例 あ り , 食 道 癌
の 1症 例 で 51 pg/mLで あ っ た .
3 . 血 清 p53抗 体
p53遺 伝 子 は 最 も 重 要 な 腫 瘍 抑 制 遺 伝 子 の 1 つ で あ る .p53変 異 が 生 じ る と
腫 瘍 増 殖 抑 制 が 障 害 さ れ る .p53蛋 白 に 対 す る 抗 体 は 速 や か に 分 解 さ れ る が ,
4
変 異 p53蛋 白 に 対 す る 血 清 p53抗 体 は 分 解 さ れ に く く ELISAで 測 定 可 能 で あ
る . p53に 変 異 が 存 在 す る と 血 清 p53抗 体 は 高 値 に な る .
今 回 使 用 し た ,血 清 p53抗 体 測 定 用 MESACUP Anti-p53 ELISAキ ッ ト( MBL
医 学 生 物 学 研 究 所 , 大 阪 ) の 参 考 基 準 範 囲 は 1.30 U/mL以 下 で あ る . 測 定 で
き た 対 象 者 138人 中 , 119人 が 1.30 U/mL以 下 で あ っ た . ま た 1.30 U/ml以 上 の
19人 の 分 布 は 図 4の よ う に な る . 基 準 範 囲 以 上 の 19例 に お い て 胸 部 高 分 解 能
CT撮 影 で 明 確 な 異 常 を 認 め な か っ た の は 14 例 , 胸 膜 肥 厚 を 認 め た 例 は 2例 ,
肺 癌 が 1例 , 石 綿 肺 が 1例 , 中 皮 腫 が 1例 で あ っ た .
(人 )
70
( 基 準 範 囲 1.30 U/mL以 下 )
60
50
40
30
20
10
0
0
0.65
1.3
1.95
2.6
3.25
3.9
4.55
5.2
5.85
図 4. 血 清 p53抗 体 測 定 の 結 果
6.5
7.15
7.8
15以 上
U/mL
Ⅶ.考察
ア ス ベ ス ト は 加 工 し や す く ,安 価 で 優 れ た 特 性 が あ り 広 く 工 業 製 品 と し て
利 用 さ れ て い た が ,ア ス ベ ス ト 吸 入 に よ り 重 篤 な ア ス ベ ス ト 関 連 肺 疾 患 が 生
じ る こ と が 報 告 さ れ ,先 進 国 で ア ス ベ ス ト 全 面 禁 止 が 順 次 実 施 さ れ た .一 方 ,
日 本 で は 1975年 に 吹 き 付 け 石 綿 が 原 則 禁 止 に な っ た 後 も ,建 築 建 材 ,セ メ ン
ト 板 お よ び 5% 未 満 の ア ス ベ ス ト 含 有 吹 き つ け 剤 な ど が 引 き 続 き 多 量 に 使 用
さ れ た . 2006年 に 全 面 禁 止 に 至 る 期 間 , ア ス ベ ス ト 産 業 従 事 者 の み な ら ず ,
従 事 者 の 家 族 ,さ ら に 工 場 周 辺 の 一 般 住 民 も 長 期 間 の ア ス ベ ス ト 曝 露 を 受 け
た .特 に ア ス ベ ス ト 吹 き つ け 作 業 は 従 事 期 間 が 短 く て も 高 濃 度 曝 露 が 生 じ た
と 推 測 さ れ て い る .ま た 一 見 ,ア ス ベ ス ト と 関 連 が な い 産 業 の 従 事 者 で も 工
業 製 品 ,建 築 建 材 な ど に 広 く 使 用 さ れ て き た こ と か ら ,高 濃 度 曝 露 が 生 じ た
可能性が指摘されている.
ア ス ベ ス ト 関 連 疾 患 の 発 生 機 序 は 明 確 で な い が ,経 気 道 的 に 吸 引 さ れ た ア
スベストが肺マクロファージに貪食され活性化すると活性酸素の産生によ
る 細 胞 障 害 お よ び TGF-b ,PDGF, TNF-aな ど に よ り 肺 線 維 化 促 進 が 生 じ る 2) .
さ ら に ,繊 維 が 長 い ア ス ベ ス ト は 長 期 間 肺 内 に 留 ま り ,発 癌 に 関 与 す る .青
5
石 綿 ,茶 石 綿 は 発 癌 性 が 高 い .ア ス ベ ス ト 繊 維 が 臓 側 胸 膜 を 穿 通 し た り 胸 膜
間 質 を 通 過 し て 中 皮 細 胞 を 刺 激 し 中 皮 腫 を 発 生 す る と 考 え ら れ て い る 1) .
本 研 究 の 対 象 者 に お い て 石 綿 肺 , 胸 膜 下 曲 線 陰 影 の 肺 線 維 化 病 変 を 8.8%
(13/147)に 認 め た .血 清 肺 線 維 化 マ ー カ ー で ,血 清 KL-6ま た は SP-Dど ち ら か
が 上 昇 し て い た 例 を 考 え る と ,石 綿 肺 ,胸 膜 下 曲 線 陰 影 を 画 像 的 に 認 め た 13
例 中 ,8例 で あ り ,血 清 SP-Dと 血 清 KL-6を 組 み 合 わ せ る と 肺 線 維 化 を よ り 明
確 に 診 断 で き る . す な わ ち 肺 線 維 化 マ ー カ ー と し て 血 清 SP-D追 加 の 有 益 性
を 認 め た .ア ス ベ ス ト に よ る 肺 線 維 化 の 評 価 に KL-6,SP-Dは 有 用 で あ っ た .
腫 瘍 性 疾 患 と し て 肺 癌 ,中 皮 腫 を 2.7% (4/147)に 認 め た .腫 瘍 マ ー カ ー は ,
肺 癌 で あ っ て も 上 昇 を 認 め な い 場 合 が あ り ,早 期 診 断 に は 適 さ な い と 思 わ れ
た.しかし,腫瘍マーカーが基準値以上であるが,消化管検査 な どの 結 果,
悪 性 疾 患 を 発 見 で き な か っ た 症 例 は ,今 後 と も 厳 重 に 経 過 観 察 す る 予 定 で あ
る . 新 し い 腫 瘍 性 疾 患 の 血 中 マ ー カ ー と し て 血 清 p53抗 体 が 最 近 注 目 さ れ て
い る 4 ) . 胸 部 高 分 解 能 CT 撮 影 で 明 確 な 異 常 が な く , 血 清 p53抗 体 高 値 の 例 は
呼 吸 器 系 以 外 に 悪 性 疾 患 が 潜 在 し て い る 可 能 性 も あ る .特 に 今 回 ,中 皮 腫 を
認 め た 症 例 は 血 清 p53抗 体 が 15 U/ml以 上 と 異 常 高 値 で あ っ た .中 皮 腫 は ,胸
膜 に p53変 異 が 高 率 に 生 じ る と 報 告 さ れ て い る 5 ) .症 例 を 増 や し ,基 準 範 囲 を
検討し直すことで中皮腫に対する早期診断の血中マーカーになる可能性も
あ る .今 後 ,今 回 の 対 象 者 に 対 し て 経 時 的 に 各 種 血 液 指 標 の 変 動 を 解 析 す る
こ と で 長 期 縦 断 的 検 討 の 出 発 点 と し ,ア ス ベ ス ト 関 連 疾 患 を 早 期 発 見 す る た
めに有用な血中マーカーを探索する予定である.
Ⅷ.参考文献
1. ア ス ベ ス ト 関 連 疾 患 日 常 診 療 ガ イ ド .独 立 行 政 法 人 労 働 者 健 康 福 祉 機 編 .
労 働 調 査 会 , 東 京 , pp. 12-23, 2006.
2. 中 野 孝 司 . ア ス ベ ス ト 肺 疾 患 . 呼 と 循 , 54(5), 519-525, 2006.
3. Scherper eel A, Lee YCG. Biomar kers for methothelioma. Curr Opin Pulm Med
13: 339-43, 2007.
4. Schneider J et al. p53 pr otein, EGF r eceptor, and anti-p53 antibodies in serum
fr om patients with occupationally der ived lung cancer. Br J Cancer. 80:1987-94,
1999.
5. Robinson BW, et al. Malignant mesothelioma. Lancet. 366:397-408, 2005.
謝辞
本 研 究 は , 財 団 法 人 大 和 証 券 ヘ ル ス 財 団 第 33 回 調 査 研 究 費 に よ り 実 施 さ
れた.関係各位の皆様に厚く御礼申し上げます.
6