天気図記録 Weather FAX report UETA Tomoko 1. はじめに 鷹丸は時化に遭い、出港 2 日目でまだ身体が揺れに慣れて 我が国で船舶向けに運用されている気象FAXは、大型 いなかったため、学生は船酔いに悩まされた。天気図から 船舶や遠洋漁船はもとより、最近は小型漁船やセールボー 分かるように時化の原因はこの低気圧によるものである。 トの情報収集源としても利用されている。天気図によって、 各地の天気や風向・風力(風速)・高気圧・低気圧・前線の 位置などが分かり、さらに前日・前々日の天気図を見比べ ることで、低気圧の経路や発達・衰弱、高気圧や前線の移 動、天気の分布などが分かる。海上交通や水産活動では、 ある程度の気象の推察により、荒天を事前に回避すること ができ、海難防止に役立てることができる。 本報告書では、海鷹丸航海中のうち 3 つの海域(日本近 海の太平洋、インド洋、南氷洋)で受信した気象FAXの 天気図について報告する。 2002 / 12 / 4 2.方法 Fig.1 海鷹丸が航海中に受信した気象FAXのうち、日本近海、 インド洋、南氷洋の 3 つの海域で受信した気象FAXにつ いて天気図上での本船の位置と低気圧・熱帯低気圧の位置 Indian Ocean(2002 年 12 月 21 日∼2002 年 12 月 27 を調べた。日本近海については、東京出港後から受信した 日)で受信した気象FAXはオーストラリアより受信した 2002 年 12 月 3 日∼2002 年 12 月 8 日の気象FAX、イン もので、航行海域による感度の違いや雑音の混入により受 ド洋については、マグロ操業中に受信した 2002 年 12 月 21 信状況が異なり、日によって天気図の海域、FAXの明瞭 日∼2002 年 12 月 27 日の気象FAX、南氷洋については、 度が異なっている。 フリーマントル∼ホバート間で受信した 2003 年 1 月 23 日 この期間、本船の周囲に低気圧は少なく、本船の位置と ∼2003 年 2 月 12 日の気象FAXを使用した。いずれも世 低気圧の位置が重なることもなかった。12 月 25 日以降の 界時 0 時における天気図を使用したが、東京出港日の 2002 天気図には熱帯低気圧が確認できるが Fig.2、この熱帯低気圧 年 12 月 3 日については、出港時間の関係により世界時 6 時 の進路が本船の針路と重ならなかったため、本船は熱帯低 の天気図を使用した。受信状況の違いにより、種類の異な 気圧の影響を受けずに済んだ。マグロ操業中は天気図から る天気図がいくつか受信されていた場合、最も明瞭な天気 も分かるように、天候に恵まれていた。そしてマグロにも 図を選んで使用した。天気図上では本船の位置を赤丸、低 恵まれ、大漁であった。 気圧の位置を青丸(二重丸)、熱帯低気圧の位置を青丸(塗 りつぶし)で示した。 3.結果及び考察 Pacific Ocean(2002 年 12 月 3 日∼2002 年 12 月 8 日) の天気図は、日本近海で受信した気象FAXの天気図で、 これらの天気図は気象庁から受信したものである。この期 間、日本近海ではいくつかの低気圧があり、GW( Gale Warming),SW(Storm Warning)などの強風警報が出 ている低気圧や発達性の低気圧も見られる。また日本の南 2002 / 12 / 26 東沖には熱帯低気圧が発達している。 出港日の翌日、12 月 4 日の天気図 Fig.1 を見てみると、本 Fig.2 州上空にそれぞれ 30KT,25KTで東へ進む低気圧があり、 強風警報GWが出されていることが確認できる。この時、 Antarctic Ocean(2003 年 1 月 23 日∼2003 年 2 月 12 本船はちょうど低気圧の中を航行中であった。この日、海 日)の天気図は、Indian Ocean 同様オーストラリアから 50 受信した気象FAXのもので、南氷洋を中心とした天気図 である。 この海域の天気図には低気圧が多く見られ、特に南極大 陸より手前の海域では低気圧が集中しており、等圧線の間 隔も狭い。また、これらの低気圧には南北方向での大きな 動きが見られない。このあたりは暴風圏と呼ばれ、常に低 気圧に覆われている海域で、実際南緯 40 度を過ぎたあたり からは曇っていることが多く、風力は強まった。逆に南極 大陸上空には常に高気圧があり、大陸周辺の天候は良いこ とが分かる。実際に大陸に最も接近した 2 月 3 日は Fig.3 快 晴で、暴風圏に比べ風は弱まり、海況も穏やかだった。 2003 / 2 / 3 Fig.3 今回、天気図を使用し、本船の位置と低気圧の位置を調 べてみて、低気圧が天候・風・海況に影響を与え、さらに それらは本船の航行にも関係するということを改めて確認 できた。荒天を避けた安全な航行を行なうためには天気図 から低気圧の位置や動きを把握し、過去の天気図を見比べ てある程度の天候の予想をたてることが必要である。その ためにも気象FAXの受信を怠らず、過去の天気図をデー タとしてきちんと蓄積させておくことが重要である。 参考文献 1) 内田圭一著 乗船漁業実習Ⅲ課業プリント 神鷹丸 2) 福地章著 2001 年 海洋気象講座 成山堂書店 1987 年 51
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