胸腺腫(きょうせんしゅ) 1. 胸腺腫とは 胸腺腫は胸腺の中にできる腫瘍

胸腺腫(きょうせんしゅ)
1. 胸腺腫とは
胸腺腫は胸腺の中にできる腫瘍の一種です。胸腺は胸骨(きょうこつ)の裏、心臓大血
管の前の前縦隔という場所にある臓器です(前縦隔にできる腫瘍は胸腺腫のほかに
甲状腺腫、奇形腫、胚細胞性腫瘍などがあります)。胸腺はリンパ球という白血球(T
細胞)の分化や増殖を担当する器官で、生後だんだんと重くなり、幼児期では体重比
でで最大となりますが、加齢とともに次第に退縮し、脂肪組織によって置き換えられて
いきます。一般的に胸腺腫は、胸腺の中、周囲で増大や浸潤しやすい傾向にあります。
しかし、遠くに転移することは少ないので、どちらかというと良性寄りの悪性腫瘍と言わ
れています。(特殊な C 型胸腺腫は胸腺癌と呼ばれ、転移を起こしやすい悪性度の強
いものも稀にあります。)
2.胸腺腫の病期
胸腺腫がどれくらい進行しているかを示すものを病期といいます
Ⅰ期: 腫瘍が胸腺とその被膜の中にだけ見つかる.(被包されている)
Ⅱ期: 腫瘍が周囲の脂肪に浸潤している.
Ⅲ
期: 腫瘍が胸腺周囲の臓器、肺や心膜(心臓周囲の袋)、大血管に浸潤してい
る.
Ⅳa 期: 腫瘍が胸腔(きょうくう)や心膜の中にに散らばる.
Ⅳb 期: 腫瘍が血液やリンパ管を介してさらに広範囲に広がる.
Ⅰ期の胸腺腫は非浸潤性胸腺腫、II 期から IV 期の胸腺腫は浸潤性胸腺腫と呼ぶこ
とがあります.
再発胸腺腫: 再発とは腫瘍が治療後に胸腺あるいは身体のほかの部位に出現し
てくることです.胸腺腫は長期間(10 年以上)を経た後でも再発の可能性があります。
I 期の胸腺腫でも術後局所再発のみられることがあります。この理由として縦隔内播
種や多発性腫瘍の存在が疑われています。また特殊な胸腺腫(C 型胸腺腫)は高
率に再発します。以上のような理由から、生涯にわたる病気の再発を念頭に置いた
経過観察が必要とされています。
3.胸腺腫の合併症
胸腺腫の患者さんは免疫系の他の病気を持っていることがあります.重症筋無力症
が最も多く、ある報告では約 30%の重症筋無力症の患者さんに胸腺腫を認めています。
他に低ガンマグロブリン血症、赤芽球ろうなどの血液疾患の合併症があります。重症
筋無力症は体の筋肉を動かし続けると疲れてしまう病気です。症状には、まぶたが落
ちる、食事をかむのが難しい、飲み込むのが難しい、表情が作りにくい、字が書けない、
息がしにくいなどの症状があります。筋肉を動かしていると症状がでますが、休むと回
復し、夕方に症状が強いのが特徴です。これらの症状がでたときには胸腺腫の存在を
疑い、胸部 CT 検査をする必要があります。胸腺腫のない重症筋無力症の患者さんで
は、その 60~90%に過形成(胸腺肥大)がみられます。このように重症筋無力症は胸
腺腫を合併する場合と胸腺過形成の場合がありますが、いずれも胸腺の完全摘出が
必要です。
4.胸腺腫の検査
胸部レントゲン検査、胸部 CT 検査 、胸部 MRI 検査、PET 検査、経皮的肺針生検、
胸腔鏡(手術)検査、血管造影など。そのほか、手術や治療を行う前に行います。
肺活量、心電図、採血(肝機能、腎機能)、検尿などがあります。
5.胸腺腫の治療
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外科療法:手術で腫瘍を取り出します。通常、胸腺腫および胸腺を全部取る手
術(全摘術)をします。浸潤が他の臓器に及んでいる場合はそれらも合併切除
します。I 期であれば正常胸腺を残して胸腺腫のみ胸腔鏡下に切除する方法
で良い可能性も残されていいます。重症筋無力症を合併している場合は拡大
胸腺・胸腺腫摘除術といって、胸腺腫、胸腺のみならず、周囲の脂肪組織を広
く切除します。
放射線療法(胸腺腫は放射線感受性の高い腫瘍です。腫瘍細胞を殺すため
に高照射量のレントゲン線やほかの高エネルギー放射線を用います)。
化学療法、ホルモン療法(腫瘍細胞を殺すための薬、腫瘍細胞が増殖するの
を止めるホルモンを用います)。
腫瘍を取り除く外科療法は胸腺腫の最も一般的な治療ですが、浸潤性胸腺腫では
術後放射線療法を予防的に行います。手術により、肉眼的に腫瘍を全部切除できた
と思っていても、目に見えない腫瘍細胞が残っている可能性があるからです。ホルモ
ン療法は腫瘍細胞が増殖するのを止めるステロイドなどのホルモンを用います。化学
療法は腫瘍細胞を殺すための薬を用います。点滴などで、血管の中に薬を投与して、
全身に回し、遠くにある腫瘍細胞を殺す方法です。臓器への浸潤があまりに著しい場
合や、胸腔や心膜腔へ播腫している場合には、腫瘍の完全除去ができない場合があ
り、これら手術以外の治療が第一選択となることもあります。