入院患者の栄養状態と予後の検証

平成25年度病院医学教育研究助成成果報告書
報告年月日:平成26年
4月
研究・研修課題名
入院患者の栄養状態と予後の検証
研究・研修組織名(所属)
栄養サポートチーム(NST)
(所属:栄養サポートセンター
研究・研修責任者名(所属)
長澤亜沙子(栄養治療室)
共同研究・研修者名(所属)
平井順子,藤井晴美,端本洋子,矢田里沙子,久保田明子,青山広美,梅
木菜津美(栄養治療室)
4日
総括責任者:矢野彰三)
目的及び方法、成果の内容
①目
的
入院患者の栄養状態とその予後を知ることにより、栄養支援をすべき高いリスクを持つ患者を同定でき、今後
の栄養支援対策に生かすことができると考えられる。
入院患者の栄養状態と予後との関連について、検査値と体格指数から算出される栄養指標 GNRI を用いるこ
とで入院患者の転機を予測できるか否かを明らかにするため、後方視的な検討を行った。
②方
法
栄養指標 GNRI はフランスの Bouillanne らが 2005 年に発表した高齢者向けに作られた栄養スクリーニング
ツールである(Am J Clin Nutr 2005)。血清アルブミン値、身長、現体重を用いて算出する計算式、
GNRI = 14.89 × 血清アルブミン値 g/dl + 41.7 × (現体重 kg ÷ 理想体重 kg)
から求め、栄養障害リスクを判定することが出来る(ただし、現体重>理想体重の場合は 1 とする)。
栄養障害リスクは、GNRI が 82 未満であれば重度リスク、82 以上 91 未満ならば中等度リスク、92 以上 98
未満ならば軽度リスク、99 以上ならばリスクなしと判定する。
対象は、平成 24 年度のある 2 ヶ月間に当院に入院した患者のうち 50 歳以上であった 1241 名。診療録より年
齢、性別、入院時 BMI、入院時または直近の血中アルブミン値、CRP 値を集計し、入院中に死亡した群(A 群)
と軽快・不変退院であった群(B 群)との比較を行う。また、集計したデータから GNRI を算出し、GNRI 原法
に基づく栄養リスク別4群(リスク重度、中等度、軽度、なし)の死亡率、在院日数について比較する。
本研究は、島根大学医の倫理委員会の承認を得て行った(第 1340 号)。
③成
結
果
果
対象 1241 人のうち、入院中に死亡した A 群は 39 人、自宅退院または転院し軽快・不変退院であった B 群は
1202 人であった。
表 1 に示すように、A 群の平均年齢 74.0 歳は B 群の 71.2 歳と比較してやや高齢であった。入院時の BMI は
A 群の平均が 19.6kg/㎡、B 群が 21.9kg/㎡であり、A 群は B 群と比較して有意に低値を示した。A 群の血清
アルブミン値は有意に低値、CRP 値は有意に高値を示した。
表1.患者背景
対象 1241 人のうち GNRI を算出することが出来た患者は 649 人で、このうち A 群は 24 人、B 群は 625 人で
あった。A 群の平均値は 78.6 で、B 群の 90.6 と比較して優位に低値を示し、入院時の GNRI が低値であると
予後不良となる可能性が考えられた(図 1)。
図 1.GNRI の転帰別の比較
次に、GNRI 原法に基づく栄養障害リスク別 4 群、重度、中等度、軽度、リスクなしで死亡率を比較した。
図 2 に示すように、栄養障害リスク重度群の死亡率は 11.1%、中等度リスク群は 3.2%、軽度リスク群は 2.8%、
リスクなし群の死亡率は 0%であった。このことからも、GNRI は予後との強い関連が示唆された。
図 2.栄養障害リスクと死亡率
さらに、死亡に対するロジスティック回帰分析を行ったところ、GNRI の低値と CRP の高値が予後に有意に
関連することが明らかとなった(表 2)。すなわち、GNRI カテゴリーが 1 ランク上がることで死亡リスクは 0.45
倍に低下する。下段に示すように、BMI と血清アルブミン値もそれぞれ独立して死亡リスクに関与しており、
高い予後予測能を示している。しかし、GNRI 単独でも遜色ない予測能を示しており、GNRI は信頼性の高い
栄養指標であることを裏付けていると思われた。
表 2.50 歳以上の入院患者における予後予測因子
さらに、GNRI 4 群間での平均在院日数について比較した(図 3)。
重度リスク群では 22.6 日、中等度リスク群は 20.6 日、軽度リスク群は 16.4 日、リスクなし群は 15.0 日と、
栄養障害リスクが高い患者では在院日数が長いことが明らかとなった。
図 3.栄養障害リスクと平均在院日数
考
察
低栄養、栄養障害は感染などのリスクを高め、イベント後の回復が悪い。そのため、生命予後の悪化、入院の
延長といった結果に結びつく。栄養指標としては、食事摂取や全身状態に加え、体重変化、BMI や上腕筋囲、
皮下脂肪厚などの体格指標やアルブミン、リンパ球数などの検査指標が挙げられる。GNRI は体格指標と検査
値を組み合わせた客観データに基づく指標であり、後方視的解析も可能である。本指標は元来、高齢者向けの
栄養評価ツールとして開発されたが、今回の検討から 50 歳以上の入院患者においても十分評価可能であるこ
とが示された。GNRI と CRP はそれぞれ独立した予後予測指標であり、GNRI リスクなし群は平均 15 日の
在院で全員が退院した。一方、高度リスク群は死亡率が 11.1%に上り、在院日数は 22 日超であった。本研究
では、検査入院も含めた全科のさまざまな疾患の入院患者が対象であるため、高度リスク群には末期がんなど
重症患者が高率に含まれている。こうした背景が栄養障害リスクや転帰に影響していることは言うまでもない。
しかし、栄養支援により栄養改善が得られれば転帰が変わってくる可能性もある。その推移を見る上でも、
GNRI はおそらく有用であろう。今後、さらに検討してゆく必要があると思われる。
結
語
検査値と体格指数から算出される栄養指標 GNRI は、50 歳以上の入院患者における転帰の予測に有用であり、
今後の栄養支援対策に生かすことができると考えられた。