世界に広がるBONSAI文化と “大宮盆栽”海外展開プロジェクト

埼玉彩発見 知られざる歴史を探る
世界に広がるBONSAI文化と
“大宮盆栽”海外展開プロジェクト
公益社団法人さいたま観光国際協会 広報宣伝事業担当主幹 大和田 昌宏
日本から海外へ
古くは中国の唐の時代の記録にも見られる
盆栽は、平安時代頃には日本に伝わり、今や
「BONSAI」として世界各地に多くの愛好者
がいます。この盆栽がどのように海外に広
まっていったのか、概要を見ていきたいと思
います。
まず、最初に海外で日本の盆栽を紹介した
のは、世界博覧会、いわゆる「万博」だった
と言われています。今から142年前の1873
(明治6)年のウィーン万博は、明治維新後
の明治政府として初めての公式参加であり、
パビリオン出展にとどまらず屋外出展も実
施、日本庭園や白木の鳥居なども作成するな
ど大規模なものであったそうです。
当時はジャポニズムといわれる日本趣味が
美術界を中心に話題となっていた頃で、この
日本庭園に飾られた盆栽も大変な評判を呼
び、終了後はすべて買い手がついたというこ
とですので、相当高い評価を得たのだと思い
の不足、さらには盆栽師も徴兵されるなど、
大宮盆栽村も廃業が相次ぎ、存亡の危機に立
たされます。なんとか凌いで迎えた戦後も、
園がGHQに接収されるなど苦難が続きます
が、意外なところから評価が高まります。
なんと戦後、大宮を訪れたアメリカの戦略
爆撃調査団が盆栽村を視察した際、盆栽を
「平和の芸術」と賞賛し、盆栽に魅了された
GHQの兵士の中には、ジープで買い付けに
来たり、盆栽の指導を受けたいという要望も
あったそうです。国内よりも国外での評価の
方が高く、それによってまた日本でも再認
識、再評価という話は、現代にも通じるもの
があるエピソードです。
その後は1964(昭和39)年東京オリン
ピック、1970(昭和45)年の大阪万博でも
盆栽展示が行われ、特に大阪万博以降は外国
人の来訪や世界各国からの弟子入りが急増し
たそうです。
ます。
時は流れ1923(大正12)年、関東大震災
がおこります。この震災をきっかけに東京で
被災した盆栽業者が盆栽の育成に適した地と
“理想の盆栽郷”という理念を掲げ、大宮に
移住して世にもユニークな盆栽村がつくられ
ました。第一次世界大戦による好況も受け、
大宮盆栽村は政財界人にも知られ、著名人も
訪れる場所となり、順風満帆な頃でしたが、
その後また歴史の波にのまれます。
太平洋戦争中は「盆栽は贅沢品であり、時
局に適さぬ趣味」と非難を受け、肥料や針金
第1回世界盆栽大会(写真提供:一般社団法人日本盆栽協会)
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OMIYA BONSAI in Paris(2015.3.14 ~ 3.22)
フランス・パリ中心地で「大宮盆栽」の期間限
定アンテナショップを展開、松雪園 黒須輝夫氏
による盆栽剪定デモンストレーションが行われた
70年代以降は、海外各地で盆栽愛好家の
より26年度まで経済産業省から「JAPANブ
同好会などが設立されていき、70年代後半
ランド育成支援事業」の指定、あわせてさい
からは盆栽の指導、講演会などの依頼も増
たま市からの支援を受け、
「大宮盆栽海外展
え、海外出張がとても多くなりました。海外
開プロジェクト」としてEU向けの大宮盆栽
からの要人の来客も多くなり、盆栽が日本を
の輸出拡大について調査や広報活動を行って
象徴する文化として定着していき、大宮盆栽
きました。
「欧州」と一括りにしても、各国
村は世界に知られる盆栽の中心地となってい
で盆栽事情は若干違っていました。欧州すべ
きます。
ての国を詳細に調査できた訳ではありません
それらの盛り上がりを受けて1989(平成
が、その中で感じた事柄について記してみた
元)年に、第1回「世界盆栽大会」が当時の
いと思います。
大宮市で開催されました。その後「世界盆栽
調査は欧州6カ国(イギリス・ドイツ・フ
大会」は世界の盆栽愛好者を繋ぐ、4年に一
ランス・オランダ・イタリア・スペイン)を
度の盆栽の祭典として、アメリカで2回、他
主な対象としました。
に韓国、ドイツ、プエルトリコ、中国でも開
催されています。そして2017(平成29)年、
第8回の大会が、28年ぶりに再びさいたま
市で開催されることに決定しています。
最近の欧州盆栽事情
欧州で盆栽が紹介されてからおよそ150年
が経ち、今や「BONSAI」という言葉が定着
しているのは勿論、それがどのようなものか
は欧州各国の一般市民の方でもほぼ知ってい
ます。その中でも熱心な愛好家は、自身で盆
栽を購入して育てていくということを、普通
の趣味として日常的にたしなんでいます。
さいたま観光国際協会では、平成23年度
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ドイツ
ドイツでは2001年に第4回世界盆栽大会
がミュンヘンで開催されるなど、欧州の中で
も早くから盆栽ブームがあったところです。
愛好家の集う協会など組織もしっかりと機能
しており、大変活動的な印象を受けました。
しかし私が見た限り、街中に盆栽ショップ
は見当たらず、盆栽の販売は郊外のホームセ
ンターや、高級盆栽を専門的に扱うショップ
など、限られていました。
スペイン
近年、日本からの盆栽輸入がかなり増えて
いる国の一つがスペインです。経済情勢によ
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り盆栽市場の浮き沈みも激しいようですが、
盆栽商社の一つ、ロダーボンサイがあり、こ
元首相のゴンザレス氏が盆栽ファンだったこ
こから欧州各国に広く流通しているようで
ともあり、国営の盆栽美術館も素晴らしいレ
す。また、若手盆栽師クライン氏が主宰する
ベルで整備されています。日本からの盆栽を
出島盆栽園(日本とオランダの架け橋になり
中心に、若手盆栽師達が手入れに勤しんでい
たいということで長崎の「出島」からとって
ました。若手盆栽師の中には、日本の盆栽園
います。
)というユニークなコミュニティを
で修行をして自国に戻って盆栽で商売を始め
拝見しました。盆栽教室の開催や盆栽サロン
る方も多いそうです。スペインの盆栽技術レ
など非常に面白い取組みを行っています。
ベルは非常に高く、日本人を超える日も遠く
ないかもしれません。面白いところでは、オ
リーブの樹を使った盆栽もよく目にしました。
イギリス
イギリスはガーデニング文化が基盤として
あり、ドイツと同様に古くから日本の盆栽が
イタリア
入っています。王立植物園キューガーデンに
ミラノ街中にショップがあるほど、盆栽人
は盆栽パビリオンも常設され、数十年前に大
気の高い国です。芸術家タイプが多いイタリ
宮から渡った盆栽も園名つきで展示されてい
アは、盆栽のレベルも非常に高いようです。
ました。街中に小売店はなく、郊外で専門的
ミラノ近郊の老舗の盆栽商社クレスピボンサ
に扱っている業者を訪問しました。協会も
イ社では、卸売・小売りのみならず、盆栽美
しっかり組織されており、定期的に展示会が
術館やさらには盆栽大学も併設し、盆栽文化
開かれています。
を総合的に広める役割も担っています。
フランス
最近の情勢としては、フランスが一番盆栽
に熱いものを感じました。ブームが遅れて
やってきたこともあるのか、近年多くの同好
会ができているそうです。反面まだあまり良
い盆栽の品揃えが薄く、イタリアやスペイ
ン、オランダなどから輸入している印象も受
けました。パリやリヨンを中心に若手の作家
イタリア・クレスピボンサイ社(http://www.crespibonsai.
com/)の盆栽大学での講義
オランダ
も増えており、今後の市場拡大の可能性が感
じられました。
調査した中では一般市民の方への浸透は一
欧州での盆栽への入り口
番低い印象を受けましたが、物流の拠点であ
盆栽を始めたキッカケについて、若い人に
るロッテルダム港を通じ、EUのハブ的役割
聞いてみると大きく2つのタイプに分かれま
を担い、オランダ経由で日本を含むアジアか
した。まずは日本文化そのものに魅力を感
らの盆栽が多く輸入されているようです。特
じ、武道・禅などから入ってくるタイプ。こ
に、中国からは安価な盆栽が大量に入ってい
のタイプで意外なことには、アニメなど日本
る光景も目にしました。オランダには老舗の
のサブカルチャーはあまり好きではないとい
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う方が多かったことです。当然日本好きなら
サブカル系もと思いがちですが、盆栽を好き
な方は、いわゆる純日本風なものに魅力を感
じているそうです。愛好家の中には盆栽だけ
にとどまらず、盆栽を飾るための「床の間」
まで自作してしまう方も多いそうです。さら
に郊外に住まいのある富裕層では、「庭園ご
と日本風にして、池をつくって橋をかけて、
錦鯉と盆栽」という方も非常に多いようです。
もう一つは、祖父母や両親から誕生日やク
リスマスなどで手頃な盆栽をプレゼントさ
れ、次第に盆栽に魅了されていくタイプで
す。このケースの場合、最初は10 ~ 20ユー
ロ程度の中国などの盆栽が多いようです。
街中やホームセンターで売られているの
は、ほとんどこの中国盆栽で、物量では圧
倒的なシェアを誇ります。欧州ではこのよ
うに花を贈る感覚で盆栽をプレゼントする
ということも多いようで、業者ではバレン
タイン用やクリスマス用パッケージも制作
していました。
番外編としては、映画「ベストキッド」の
作品中でミヤギさんという空手の師匠が、盆
栽の手入れをしているシーンを見たのがきっ
かけだったという方や、10代の頃に親に連れ
ていかれた展示会で盆栽を見て衝撃を受けた
(体に電流が走った!という表現でした)と
いう方もいらっしゃいました。盆栽の愛好者
が集う展示会に行くと、様々な盆栽Tシャツ
を着た方をお見かけします。中には「盆栽命」
とタトゥーを入れている方も。愛好者の年齢
12
海外で出版されている盆栽雑誌
どノウハウ本は種類も多く、大きな書店には
コーナーもありました。雑誌に関しては、各
国ごとに盆栽雑誌が盛んに出されています。
フランス「Esprit Bonsai」はパリ駅中のキ
オスクでも売られていました。これまではフ
ランス語版だけでしたが、昨年から英語版の
発 行 も 始 め て い ま す。 さ ら に オ ラ ン ダ の
「Bonsai Focus」社では、英語・オランダ語・
ドイツ語・イタリア語・スペイン語・フラン
ス語版まで発刊しています。そのほかにも各
国数誌が存在している上、各国の協会でも会
報誌を発行しています。中には日本の盆栽業
界誌と提携し、記事を翻訳して掲載している
ところもありますし、多くは電子書籍化され
ており、本屋さんまで足を運ばなくても雑誌
を入手できるようになっています。
調査を始めた段階から、
「マーケットの
ニーズが大変あるのに、日本からの情報はあ
まりなくて残念だ。
」という声が多く聞かれ
ました。残念なことにこれまで日本としては
海外での評価が高かったことにより、きちん
としたマーケティングが行われておらず、日
本からの情報発信が乏しい状況が続いていま
す。世界の盆栽愛好家は常に日本を注目して
層は日本では信じられないほど若いのです。
おり、今でも憧れをいただいています。情報
盆栽メディア事情
この辺りは公共機関だけが担うより、民間の
発信に関しては言語の壁は勿論ありますが、
愛好家達の情報収集の場としては、どんな
ビジネスチャンスでもあり、早期改善が望ま
メディアが使われているのでしょうか。従前
れるところでもあります。
からあるのは書籍、雑誌類です。育成方法な
そして現代の情報化の波は当然盆栽界にも
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ナーとして原研哉氏に依頼し、ビジュアルイ
メージを作成いただきました。数年間の活動
ではありましたが、結果として日本・大宮か
らの情報発信として愛好者には大変好評を博
し、それなりの成果が出せたと感じていま
Bonsai Empire Online Course
(http://course.bonsaiempire.com)
押し寄せております。盆栽愛好者の年代が日
本と比較すると若いこともあり、ウェブサイ
トで情報を得る、情報を交換するのは日本よ
り 海 外 の 方 が 進 ん で い ま す。 特 に 最 近 は
Facebookなどソーシャルメディアを通じた
情報拡散力が勢いを増しています。大宮盆栽
Facebookページもほぼ購読者は外国人で
す。さらに、以前は剪定方法や培養管理など
ノウハウ、ハウツーも書籍中心でしたが、今
す。原研哉氏プロデュースによるロゴ、パン
フレット、ウェブサイトは、若い世代にア
ピールでき、時代にあったシンプルなデザイ
ンで、いわゆる“クールな”盆栽を見せられ、
大宮盆栽のブランド価値を向上することに繋
がりました。
これらブランド価値の再定義、プロモー
ション事業の成果、訪日観光客増大の影響も
あり、さいたま市大宮盆栽美術館も昨年度は
過去最高の3,000人の外国人訪問客がありま
した。
やYouTubeで す。 最 近 で は オ ラ ン ダ の メ
ディアBonsai Empireが月額制でオンライ
ンの盆栽教室まで始めています。
もちろん、盆栽自体の売買に関しても欧州
圏内ではネット販売が盛んになりつつあり、
各企業もネット販売にシフトしていくものと
思われます。
大宮盆栽のブランド力の
再認識と確立
調査を行った中ではじめに驚いたのは、盆
栽愛好者の中で「大宮」という地名が非常に
知名度が高かったことがあります。大宮を訪
大宮盆栽Webサイト(http://omiyabonsai.jp)
問したことがある方も多く、各園の名前や園
新盆栽村
主などもよく知られています。まだ大宮を訪
このように、大宮盆栽村は世界に大きな影
れたことがない人たちには、いつかは行って
響を今も与え続け、また、世界からも敬意と
みたい、憧れの地として認識されていまし
羨望のまなざしを向けられています。アメリ
た。これは非常に大きな財産であり、大宮盆
カ・オレゴン州ポートランドでは、大宮盆栽村
栽ブランドを改めて再定義するため、プロ
に啓発されて、盆栽ビレッジを作ろうという動
ジェクトとしてもブランドロゴの作成とブラ
きが2012年から始まっています。盆栽文化の
ンドイメージの醸成を行いました。デザイ
中心となり、その後多くの著名な盆栽師を輩
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出した大宮盆栽村は、今も彼らの憧れであり、
海を超えて志を受け継ごうということに感銘
を受けました。彼らはクラウドファンディング
で資金を集め、2万ドルも集まったそうです。
次世代へ向けて
中国に生まれ、日本で育まれた盆栽文化は
今や世界に広がっています。文化が広まるの
はもちろん素晴らしいことで、盆栽をきっか
けに交流が行われるのは大きな意味では世界
大会誘致の際に使用した市立植竹小学校の生徒が育てる盆栽
を紹介したスライド。テーマは「~盆栽、次の100年へ~」
平和に繋がることでもあり、相互文化を知る
な街並みは、住宅地としての価値を上げて高
きっかけにもなり得ます。反面、このままの
級住宅地となり、その結果、盆栽園の維持や
盆栽熱の温度差でいくと、国外の盆栽浸透度
相続も大変困難な時代となってしまいました。
が成熟し、技術面でも日本を追い越し、日本
2017年にさいたま市で28年ぶりに開催さ
の存在感は薄まっていく予感もあります。今
れる第8回世界盆栽大会は「~盆栽、次の
こそ日本の盆栽文化を情報発信していく時期
100年へ~」というテーマとなっています。
に来ていると感じています。
この100年で世界に広がった盆栽は、次の
かつて30数軒もの盆栽園があったといわ
100年でどうなっていくのでしょうか。大宮
れる大宮盆栽村は今や5~6軒を残すのみ。
盆栽村は90年を超えました。これから100
盆栽の栽培に適した理想郷をつくるという壮
年後まで大宮盆栽村が世界の盆栽の尊敬を集
大な実験は大きな成果を生みましたが、都心
める存在でいられるよう、私どもも側面から
からのアクセスの良さ、広い道幅のある閑静
サポートを続けていきたいと思います。
第8回
世界盆栽大会 in さいたま
〈世界盆栽大会発祥の地 さいたまに再び〉 2016年5月から大会参加登録開始
世界盆栽大会は、1989年、盆栽の故郷・さいたま市
(旧大宮市)
で第1回大会が開催されました。
その後、4年おきに世界各国で開催が引き継がれ、
盆栽の普及と国際親善に大きく貢献してきました。
そして、2017年、28年ぶりに世界盆栽大会の発祥の地・さいたま市で開催されることとなりました。
開 催 日 2017年4月27日(木)~ 4月30日(日)
● 4月27日(木)開会式、記念デモンストレーション
● 4月28日(金)~ 30日(日)盆栽・水石展、デモンストレーションなど
※開会式、
デモストレーション、
レセプション、
日本文化体験教室、盆栽シャトルバスツアーなどの
参加には大会参加登録
(有料)
が必要となります。
会 場 (メイン会場)さいたまスーパーアリーナ 大宮ソニックシティ パレスホテル大宮
(サブ会場)武蔵一宮氷川神社 さいたま市大宮盆栽美術館 大宮盆栽村
主 催 第8回世界盆栽大会inさいたま実行委員会(事務局:一般社団法人日本盆栽協会)
共 催 さいたま市
お問合わせ 第8回世界盆栽大会inさいたま実行委員会事務局(一般社団法人日本盆栽協会内)
TEL:03-3821-3059
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