田 村 兼 人

た
氏
名
学 位 論 文 題 目
田
むら
村
かね
兼
と
人
GGsTop, a Novel and Specific γ-Glutamyl Transpeptidase
Inhibitor, Protects Hepatic Ischemia-Reperfusion Injury
in Rats
(γ-GTPの特異的な阻害剤であるGGsTopの虚血再潅流肝障害の
予防効果の検討)
学位論文内容の要旨
研究目的
虚血再灌流肝障害は, 肝移植や肝切除時だけでなく, 乏血性や心原性ショック, あるい
は心停止や播種性血管内凝固症候群(DIC)に伴って必発し, 患者の予後に大きな影響を与
えることが知られている。虚血再潅流肝障害の発生は, 肝類洞細胞や白血球からの炎症性
サイトカインの放出に伴う活性酸素種(ROS)の増加が主な原因と考えられる。一方, グル
タチオン(GSH)は ROS の除去に関与しているが, GSH は gamma glutamyl transferase (γ
GTP)によって分解されるため, γGTP の増加は虚血再潅流肝障害の発生, 増悪に関与して
いる可能性が指摘されてきている。そこで今回, γGTP を選択に阻害する GGsTop の投与
によって虚血再潅流肝障害の発生を予防し得るか否か検討することとした。
実験方法
Wister 系雄性ラット(9 週齢)を用い, 右肝動脈と右門脈枝を止血用クリップで 90 分
間虚血した後, 再潅流を行った。虚血前, 後および再潅流 12, 24, 48 時間後に採血をす
るとともに, 48 時間後に屠殺し, 肝臓を摘出した。GGsTop(1 mg/kg 体重)含有の生食 1
ml あるいは同量の生食を虚血5分前に投与したが, 開腹と採血を行い, 生食のみを投与
し た ラ ッ ト を sham ( S ) 群 , 生 食 投 与 後 虚 血 再 灌 流 を 行 っ た ラ ッ ト を ischemicreperfusion(IR)群, sham 群に GGsTop を投与した群を S-GGsTop 群, IR 群に GGsTop を
投与した群を IR-GGsTop 群の 4 群(n = 6)について検討を行った。採取した各血液の血
清 ALT, AST, γGTP 値を測定した。また, 肝組織を用い, γGTP, GSH, interleukin-1β
(IL-1β)および malondialdehyde(MDA)量を測定した。病理組織学的な検討は, 肝組
織切片を H&E 染色により行ったが, 炎症性サイトカインの TNF-αおよび ROS のマーカー
である 4-hydroxy-2-nonenal (4-HNE)を免疫組織化学的に染色し, 検討を行った。
実験成績
虚血前の血清ALT, ASTおよびγGTP値は, S群, IR群, S-GGsTop群およびIR-GGsTop群で
明らかな差はなかった。SとS-GGsTop群では, 虚血後90分および再灌流後12時間, 24時間,
および48時間での血清ALT, ASTおよびγGTP値は, 虚血前のそれぞれの値と比較して差は
なかった。一方, IR群では, 虚血90分後の血清ALT値は224.3 ± 163.1 IU/Lと虚血前
(55.6 ± 6.1 IU/L)に比べ有意に高値を示した。血清ALT値は, 再灌流12時間後には
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2,719 ± 1,325 IU/Lとさらに増加し, その値は虚血後90分の値に比べ10倍も高値となっ
た。このことは, 虚血による肝障害は, 再灌流によってさらに増悪することを示唆してい
ると考えられた。血清ALT値は, 再灌流24時間後でも2,507 ± 1,664 IU/Lと高値を持続し
たが, 48時間後には, 1,080 ± 994.3 IU/Lにまで低下した。以上のことから, 虚血再灌
流肝障害は, 少なくとも48時間は持続すると考えられた。一方, IR-GGsTop群でも, 血清
ALT値は163.7 ± 45.4 IU/Lと虚血前に比較して有意に増加したが, IR群に比べ低い傾向
にあった。IR-GGsTop群でも再灌流12時間後の血清ALT値は775.7 ± 337.2 IU/Lと虚血後
に比べ有意に増加したが, IR群に比べ有意に低い値であった。血清ALT値は, 再灌流24時
間後には, 506.0 ± 342.8 IU/Lに低下し, 48時間後には135.5 ± 70.19 IU/Lとさらに低
下し, いずれもIR群に比べ有意に低い値であった。以上のことから, GGsTopの投与により,
虚血再灌流肝障害は抑制されることが示唆された。血清AST値は, いずれの群においても
血清ALT値とほぼ同様の推移を示した。血清γGTP値は, 虚血後ではIR群とIR-GGsTop群の
間に明らかな差は認められなかったが, 再灌流後12時間, 24時間および48時間では, IR群
でいずれも虚血後の値に比べ有意に高値を示した。一方, IR-GGsTop群では, 再灌流後も
明らかな変動を示さず, IR群に比べても有意に低値であった。以上のことから, GGsTopは,
再灌流によるγGTPの誘導を阻害することが強く示唆された。
肝組織のγGTP活性は, S群とS-GGsTop群では明らかな差はなかった。IR群における肝組
織 の γ GTP 活 性 は , 8.72 ± 1.30 units/mg protein と S 群 の 4.38 ± 1.47 units/mg
proteinに比べ有意に高値であった。一方, IR-GGsTop群では, 4.66 ± 1.09 units/mg
proteinで, IR群に比べ有意に低値であった。このように, γGTP活性は, 虚血再灌流によ
って肝組織においても誘導されることが明らかとなったが, この肝組織におけるγGTP活
性の誘導は, GGsTopの投与により阻害されることが示唆された。一方, 肝GSH量は, IR群
では, S群に比べ低い傾向にあったが, 有意な差は認められなかった。また, S-GGsTop群
とIR-GGsTop群の間に肝GSH量に差は認められなかった。以上のことは,GGsTopの投与によ
り,肝γGTP活性が阻害され,GSHの分解が抑制されたことを示唆していると考えられた。
肝組織におけるIL-1β値は, S群, S-GGsTop群, IR群およびIR-GGsTop群の間に明らかな差
はみられなかった。肝MDA値は, IR群ではS群に比べ有意に高値を示したが, IR-GGsTop群
でのそれは, S-GGsTop群と明らかな差はみられなかった。
病理組織学的には, S 群および S-GGsTop 群には明らかな変化が認められなかった。IR
群では, 主に中心静脈周囲で著明な肝細胞壊死が認められたが, IR-GGsTop 群では, わず
かにみられるにすぎなかった。4-HNE に対する肝組織の免疫染色性は, S 群および SGGsTop 群では全く見られなかった。一方, IR 群では, 4-HNE の強い染色性が壊死部の周
囲の肝細胞に認めたが, IR-GGsTop 群では, わずかにみられるにすぎなかった。TNF-αの
免疫染色も 4-HNE のそれとほぼ同様であった。
総括および結論
以上のごとく, GGsTop の投与により, 虚血再灌流によるγGTP 活性の誘導が血液だけで
なく肝組織中においても阻害されることが明らかとなったが, このことは, IR-GGsTop 群
の肝組織中の GSH を増加させ, ROS の発生を抑制することになり, その結果, 肝細胞壊死
の発生を抑制したと考えられた。このことは, IR-GGsTop 群の肝組織中の MDA,TNF-αお
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よび 4-HNE がいずれも有意に減少していることによっても支持されるものであり, 虚血再
灌流肝障害の発生予防に, GGsTop がきわめて有効であると考えられた。
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