第 64 号 - 名古屋大学 文学研究科 文学部

第 64 号
発行:名古屋大学文学部
広報体制委員会
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教員コラム―No.63
ニューヨーク州バッファローにて
淺尾 仁彦(国際化推進担当)
「ニューヨーク州に住んでいました」と言うと誰
もがマンハッタンを思い浮かべるのですが,アメリ
カのスケールにはなかなか想像が及ばないもので,
ニューヨーク州は東北と北海道を合わせたくらいの
面積があり,広大な自然があります。そのニューヨ
ーク州の外れ,カナダとの国境沿いにある町がバッ
ファローです。
この町で昨年まで私は専門の言語学を勉強してい
ました。寒さと雪で有名で,またいわゆるラストベ
ルトの東端にあたり経済も良いとは言えない地域な
のですが,それでも住み慣れてみると愛着が湧くも
のです。日本の北国も同じだと思いますが,遅れてやってくる春は本当に美しいものです。
バッファローの言語学科の強みの一つは,世界中の多くの言語を比較対照する「類型論」と呼ばれる
分野です。例えば,英語のような SVO 語順で,関係節を名詞より前に置く言語は世界にほとんどあり
ません(不思議なことに,その例外が,世界でもっとも話し手の多い言語である中国語です)
。なぜほ
とんどないのか,色々な仮説が考えられます。言語の遺伝的なデザインによるのか,それともある語順
は意味が理解しにくいといった理由があるのか,あるいは人類史の偶然なのか。類型論は,このように
バラエティに富んだ視点からのアイディアが直接ぶつかり合って勝負をすることができる,面白い分野
だと思います。
私自身はこれまで日本語のような「メジャー」な言語に取り組んだ経験のほうが多いのですが,言語
学にとっては,メジャーな言語も,話し手がほんのわずかしかいないマイノリティの言語でも,価値は
同じです。バッファローで学んだそのような視点を見失わずに研究を進めていけたらと思っています。
学生たちの研究生活―File12
可能動詞の成立と展開
研 究 室 名 : 日 本 語 学 研 究 室 私は,
「英語が話せる」の「話せる」や,
「難しい字でも読
める」の「読める」など,五段活用(
「話す,読む」など)
から下一段活用に転じることで可能の意味を表わす動詞,い
わゆる「可能動詞」が,どのようにして成立し,またどのよ
うに使用が増加していったのか,という点に疑問を持ち,こ
れらを明らかにするために研究しています。
可能動詞の出現に関しては,様々な疑問点があります。例えば,この時代には助動詞の「レル」や「得
る」など,他にも可能の意味を表す語があるのに,なぜまたそれとは別に可能動詞が生まれたのか
そもそもなぜ五段活用を下一段活用に変えることで可能の意味を帯びるのか
。
。などなど。現在我々は,
可能動詞を日常生活の中で頻繁に使っていますし,使い方を間違えることはまずありません。ところが
2015 年 9 月 10 日
その起源を考えてみると,実はわからないことの方が多いのです。いや,わからないことだらけと言っ
ても良いかもしれません。
私の研究は,室町期・江戸期の資料に見られる可能動詞の用例をひたすら集めて,
「何か傾向・特徴
は無いか?」と分析をするという,言ってしまえばかなり「地味」な研究といえます。しかし,その地
味な研究の末に,成立期の可能動詞に共通する傾向・特徴が見出せた時の感動は,他では得られない感
動でした。
「可能動詞の起源が知りたい」という好奇心から始めた研究ですが,暗中模索して探してい
る答えの一端が「フッ」と垣間見える瞬間,好奇心が満たされたように思えるこの瞬間は,
「研究って
[三宅 俊浩(執筆時博士前期 2 年)
]
本当に楽しいな」と思える瞬間です。
学生たちの研究生活―File13
古代を愛する者たちからの一言
研 究 室 名 : 西 洋 史 学 研 究 室 西洋史学専攻って何を勉強するの?
一言
でいえば,自由です。西洋であれば(あと史料
があれば)
,好きな時代を選んで好きな地域を
選んで好きな事柄を研究できます。古代ギリ
シャでもフランス革命でもピルグリム・ファ
ーザーズでもルネサンスでも選び放題です。
紀元前から現代までの年表暗記,政治家の政
策暗記をする必要などないのです!(ただし,
自分がやりたいところのものは覚える必要が
ありますが。
)
私は主に古代ギリシャの宗教儀礼や神話について研究していますが,同じく古代を研究している大学
院生はローマ帝政期のギリシャを研究しています。ひとえに古代ギリシャといっても様々です。日頃の
研究は自分で課題を設定し,それに関わる史料を探したり,先行研究を調べたりするのが主です。
このように研究というと,西洋史学って室内での活動が中心なの?
と思うかもしれません。しかし,
これがすべてではありません。時に研究の舞台を海外に移すこともあります。
その一つにフィールドワーク(現地調査)があります。実際に私は今年の夏,研究室を飛び出してギ
リシャに行ってきました。フィールドワークというと発掘とか?
いえいえ,古代の遺跡を歩きまわり,
遺物に描かれた模様や人々の姿をじっと眺めるのです。そうした経験を通じて過去に思いを馳せること
で,たとえ現代のギリシャにあっても,当時の人々の営みの一端に触れることができます。
その時代,その地域の人々が一体どんな場所でどんな生活をしていたのか。その土地の気候や風土を
肌で感じ,遺跡や遺物に直接触れるという経験は研究室の中だけでは決してできません。そのため,こ
れも研究の重要な一環なのです。今後,私はこの経験を通じ,よりリアルな視点で研究に取り組んでい
きたいと思っています。それでは Χαίροιτε(御機嫌よう)!
[鈴木彩花(博士前期 2 年)
]
最近の文学部
残暑の 9 月…(大学はまだ夏休み)
「重くのしかかる暑さで/夏は我々を照りつけたが/その中にもほら,すべりこんでくる,まだゆっくりと/お
ずおずとではあるが[…]」
(ヴェルレーヌ「9 月に」
)近年の日本の 9 月はまだ秋の「微風」は感じられませんね。
名大の授業は 10 月からですが,そろそろ新学期にむけてキャンパスもにぎわい始める頃です。 (YK記)
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