第 67 号 - 名古屋大学 文学研究科 文学部

第 67 号
発行:名古屋大学文学部
広報体制委員会
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教員コラム―No.66
最後の古典の授業
佐野 誠子(中国文学)
それは,高校 2 年生の最後の古典の授業でのこと。担当の S 先生は,
「授業から解放されてせいせい
したという生徒の方がほとんどでしょうが」
,という前置きをしつつ,
「それでも,古典をもっと読んで
みたいという奇特な人がいたら」
,ということで,読書案内をしてくださいました。古文でも漢文でも,
古典は国語の教科書に載っているだけではありません。自分で読んでみたければ,文庫本で対訳つきの
ものがいろいろでているので,そういう物を手に取ればいい,それ以外にも古典文学について論じた本
があるから,そういう本を読むことで,古典に触れ続けることは可能です,というお話でした。
これは,非常に貴重なサジェスチョンで
した。可能ならば,最後の授業ではなく,も
っと前からそういう話をしてくれてもよか
ったのにとも思わなくはないのですが。私
は,その前から,岩波文庫の『唐詩選』を買
ったり,高校の図書室で岩波文庫の『史記列
伝』の翻訳を借りて読んだりはしていまし
たが,講談社学術文庫の日本古典の対訳本
を買って読んだりしたのは,このお話を聞
いてからのことでした。
文学部は,幸いにも古典を学ぶこともで
きるところです。高校で学ぶ古典教材と,大
(安徽省西逓村 学部 3 年
袴田悠太撮影)
学で触れる生の古典(日本文学であれば,変
体がなで書かれていることもありますし,中国文学であれば,返り点などついていない白文が当たり前
です。さらには,インドや西洋の古典であれば,外国語で書かれているわけです)の前に,その間を埋
めるものとして,このような読書をたくさんしておいて欲しいと思います。古典はすでに,みなさんの
前に開かれて存在しているのですから。
学生たちの研究生活―File18
恋の神話,その真意
研 究 室 名 : 西 洋 古 典 学 研 究 室 西洋古典学研究室で扱うギリシア・ローマ文学,そのほとんどが神話を元に書かれています。ヘラク
レスの 12 の冒険や,美女ヘレネを巡るトロイア戦争――そんなギリシア神話のいくつかは,古典文学
に馴染みのない方でもご存知ではないでしょうか。さて,ローマにはオウィディウスという詩人がいま
した。彼は『変身物語』という叙事詩の中で,全 15 巻にわたり,地中海世界に流布する神話を(時に
神話上の人物の口を借りて)歌いあげました。その中には,今まであまり語られることのなかったマイ
ナーな神話もあります。
オウィディウスには恋愛詩人という一面もあります。私が研究しているのは,
『変身物語』の中にあ
る人間たちの恋愛と狂気にまつわる神話です。この作品に登場する人間たちの恋愛は何らかの悲劇性を
含んでいます。私は卒論で,実の兄に恋してしまった娘ビュブリスの神話を取り上げました。まず和訳
2015 年 12 月 10 日
で読んだこの神話をラテン語の原文で読み,注釈書
を読み,論文や学術書を読み――ひたすら疑問を投
げかけ,考えました。なぜビュブリスの物語は,こ
れほどに異常な恋でありながら,私たちの憐みを誘
うのか。どうしてオウィディウスは,ビュブリスに
同情の言葉を寄せたのか。
文学の研究には,確かな答えがありません。し
かし誰かがひとつの結論に辿り着くたび,現代の私
たちの生活もまたひとつ深みを増すのではないか
と思っています。神話上の恋愛に関して私が見つけ
るものも,ひとつの解釈として誰かの心に残ればと
願いつつ,今日も探り探り研究しています。
(François Chauveau
「恋にかられて兄カウノスを追いかけるビュブリス」)
[服部
桃子(博士前期課程1年)
]
学生たちの研究生活―File19
フィッツジェラルド文学の魅力
研 究 室 名 : 英 米 文 学 研 究 室 みなさんはスコット・フィッツジェラルドという作家をご存じでしょう
か。彼は 1920 年代から 30 年代にかけて活躍したアメリカ人作家で,日
本では村上春樹さんがよく翻訳を手がけていることでも知られています。
今回は私が研究しているこのフィッツジェラルド文学の魅力について少
しお話したいと思います。
同時代の情景を主に題材に採ったフィッツジェラルドは,当時の社会の
象徴として,アメリカという国やその時代と関連付けて語られることが多
くあります。ですが彼の文学の魅力はそのような点に留まらないものです。
例えば, Outside the Cabinet-Maker’s という短編があります。家具工房
に娘の玩具を買いに行った母親を待つ間,父親が娘に即興でおとぎ話をするという短い話なのですが,
この作品のラスト,車の中で家族三人がそれぞれの思いを巡らすシーンが印象的です。貧乏だった自身
の少女時代を思い出す母親,すっかり金持ちになってしまった現在の境遇に思いを馳せる父親,そして
父親のおとぎ話を素直に信じている娘と,同じ場にいながらそれぞれの立場,年齢によって全く異なっ
た心情の交錯を,フィッツジェラルドは見事に描き出しています。このように彼はただ単にその時代の
情景を写し取っただけではなく,その時代に生きる一人一人の心の機微を巧みに描き出した作家だと言
えるでしょう。
この他にも,犬が主人公の話や,老人として生まれ若返っていく話など,まだまだ多様な魅力を持っ
た面白い作品が数多くあります。興味を持った方は是非読んでみて下さい。
[北村
正志(学部 4 年)
]
最近の文学部
もうすぐクリスマス
「空は黒く,地面は白い / 鐘よ,陽気に鳴れ!/ イエスが生まれた,聖母は傾ける / 幼子の上にその魅力的な御
顔を」
(テオフィール・ゴーティエ「ノエル」
)
。テロ,戦争,災害… 今年も悲しい出来事がたくさんありました。
どうかクリスマスは平和で穏やかでありますように。来年はみなさんにとって良い年になりますように。 (YK記)
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