日本高気圧環境・潜水医学会雑誌 シンポジウムS1-5 高気圧酸素治療時の使用機材の検討について Vol.48( 4 ), Dec, 2013 る。今回の検討では,これらの機器に関してその使用を可 能とする記載も認められたが,同時に使用不可とする記述 も認めた。人工呼吸器の第 1種装置での使用を本学会では 使用不可としているが,第 1種装置で医療機器を使用する 堂籠 博 独立行政法人国立病院機構 鹿児島医療センター救急科 場合,HBO 中に万一患者に危機的なことが発生した時には, その際直接処置ができないことより致死的となる場合も考 えられる。第 2 種装置ではChamber 内に医療機材が置け, 【はじめに】 同時に直接処置を行いながらHBO が実施できるが,火災 高気圧酸素治療( HBO )時には種々の医療機材が使用さ の心配と動作不良の可能性が考慮される。 れる。その中では,特に重症者での HBO 時では各種医療 HBO 中に使用する機材に関しては,1 )HBO 中のそれら 機材の使用は必要となるが,十分な評価はなされていない の使用目安を示すことも必要であり,2 )現行法との兼ね合 部分もみられる。その点について関連する文献等を検索して いや,3 )事前の検討をどこまで行うか,そして4 )メーカー みた。 の立場など,解決すべき多くの問題があり,一面のみから 【方法】 の即座の判断は非常に難しいのが現状と言わざるを得ない。 以下の方法に分けて検討した。それらは, ( 1)PubMed これらを解決する一案としては,5 )事前の検査がまずは にての検索,及び( 2 )海外での出版されている書籍や前述 必要,6 )事前の患者家族への説明( IC)も必要であり,7 ) 以外の論文等からの情報を基に考察した。PubMed 検索 スタッフの教育と十分な認識も不可欠である。同時に,8 ) での際には,そのKey Wordには( A )Hyperbaric Oxygen その症例への HBO 自体の適応を十分考慮し,9 )機材に不 Therapy, Equipment, Safetyとしたものと, ( B)Hyperbaric, 具合が発生した場合や急変などが発生した場合の対処方法 Pumpとしたものの2分類を使用し,いずれも英語表記の も十分考慮すべきであろう。 論文を対象とした。書籍は, ( 1)Neuman and Thom 編集 1.HBO 中の使用に当たっては使用不可と判断された医療 ( 2 )Mathieu D 編集 Handbook of Hyperbaric Medicine,そ 機材も存在する。現在の状況からは,演者は少なくとも事 して( 3 )Jain KK 編集:Textbook of Hyperbaric Medicine 前の機材作動確認の検討,事前の患者家族への説明実施, の3 冊を,その主体とした。 そして事前の訓練を行うこと等が必要と考える。 【結果】 2.HBO chamber の種類によりその場合分けを行うが,第 1) ( A )PubMedにて検索された論文は 51 編であり,これ の中で英語表記であり,かつ機器使用を主題としたと判 断された論文は 7 編認めた。輸液等の治療に直接かかわ る機器を扱ったものはその中の 3 編みとめた。その他は 1種での機材使用はより慎重を期し,急変時の対応も加味 した総合的な判断が必要である。 【参考文献】 1 )N euman TM, Thom SR: Physiology and Medicine: モニタリングや安全性に関する記載であった。これらの Physiolog y and Medicine of Hyperbaric Oxygen 中では第 2 種装置でのシリンジポンプ使用の可否が議論 Therapy, Saunders, 2008; pp.1-606. され,モニタリングでの記述では,2 編のモニタリング関 連論文にてその使用を可能とする意見があった。 ( B )43 論文が対象に上がったが,その内 HBO 中の機材 作動に関しての英語論文と思われたのは10 編であった。 輸液ポンプ関連では,検索された論文の中で使用可能 としたものが 4 編,要注意が 3 編,不可としたもの 3 編で あった。 2 )各 書籍での医療機器に関する記述があり,項目ごとに解 説を行っていた。その中では使用に当たっての機材の記 述も認めたが 4〜6 ) ,その使用にあたって特に注意が必要 と表記した記述も認めた 4 )。 【考察】 246 【結語】 Physiology and Medicine of Hyperbaric Oxygen Therapy, 2 )Jain KK: Textbook of hyperbaric Medicine, 5th ed. Gottingen, Germany; Hogrefe and Huber Publishers. 2009;pp.1-578. 3 )M athieu D: Handbook on Hy perbaric Medicine. Dordrecht the Netherlands ;Springer .2008;.pp1-812. 4 )Kot J, Houman R, Muller P: Hyperbaric chamber and equipment. In: Mathieu D, ed. Handbook of Hyperbaric Medicine. pp.611-650. 5 )Kemmer A, Muth C, Mathieu D: Patient management. In: Handbook on Hyperbaric Medicine. Dordrecht the Netherlands ;Springer .2008;.pp1-812. pp651-669. 6 )Weaver L , Cr itica l Ca re of Patient s Need ing Hyperbaric Oxygen Therapy. In: Physiology and HBO 中に使用する可能性のある医療機器は,人工呼吸 Medicine of Hyperbaric Oxygen Therapy, Saunders, 器,輸液ポンプ,シリンジポンプ,除細動器などが考えられ 2008; pp.117-129. 第 48 回日本高気圧環境・潜水医学会学術総会 プロシーディング シンポジウムS1-6 高気圧酸素治療装置で使用可能な機器・機 材について~安全協会としての考え方~ 鈴木義博 1) 高気圧酸素治療安全協会 2) 株式会社小池メディカル 技術部 【はじめに】 安全協会は,技術部会とともに学会の3本柱の一つ であり,治療状況の実態把握や,定期的な講習会開 催による情報提供,専用治療衣やタオルケット等の開 発・販売等を通して,安全な高気圧酸素治療を行って いくための最新の情報を提供している。 今回のシンポジウムテーマである, 「高気圧酸素治療 装置で使用可能な機器・機材」は,安全に治療を行っ ていく上では非常に重要なことは,治療を行っている だれもが痛感していると考えるが,法律面等の問題も あり,有益な情報提供をするに至っていないことも事 実である。 この度,発言の機会を得たので,安全協会の考え 方を呈示し,より安全な治療を目指すための第一歩に なればと考えている。 【問題の把握】 治療装置で使用可能な機器・機材を評価しようと考 えた場合の問題点として考えられることは,①機器選 定の問題,②接続に対する問題,③安全基準との整 合性の確保,④使用環境(圧力)に対する問題,⑤ 法律(薬事法)に関わる問題の 5点に集約されるかと考 える。 1.機器選定の問題 日本国内に流通している機器は,代表的な物でも, 多項目モニタ(重要パラメータ付き含め) :50機種以上, 汎用輸液ポンプ:23機種,注射筒輸液ポンプ:10機 種,経皮血中ガス分析装置と多種多様であり,そのす べてにおいて検証を実施するのは困難と考えている。 2.接続に対する問題 治療装置には,電極等の接続用のコネクタは設けら れているが,各社間で規格は統一されていない。 一方,機器側のケーブルコネクタも各社毎に異なっ て居る場合が大多数。 従って,実際の現場としては,接続のために,それ ぞれのケーブル(コネクタ)に合せて,変換用ケーブル を作成したり,オリジナルケーブルの末端を加工して 使用している。しかし,これは改造行為と見なされる 可能性を内包している。 3.安全基準との整合性の確保 安全基準では,治療中に医療機器(電気機器)を 併用する場合は,機器本体は装置外に設置し,セン サ類やチューブ類のみを装置内に導入して使用する事 を原則としている。 4.使用環境(圧力)に対する問題 安全基準に従って使用する場合,機器本体は,装 置外(大気圧),センサー類は装置内(高気圧)環境 下で使用される。しかし,通常の機器類は,機器本 体およびセンサー部共に大気圧で動作することを前提 に設計されている。 従って,血圧計や,輸液ポンプなどは,治療圧力が 上がると,測定できなくなったり,エラーとなる事が多 くなる。 輸液ポンプなどは,センサの設定を変更することに より使用出来る場合もあるが、これも改造行為と見な される可能性がある。 5.法律(薬事法)に関わる問題 心電モニタ等の多くの医療機器は,添付文書にお いて,高気圧酸素治療装置との組み合わせを禁止し ている。 これは,JIS T0601-1 「高酸素濃度雰囲気での火 事によるリスク」をリスクマネジメントした場合,許容出 来ないリスクとして残ってしまうために,組み合わせを 禁止していると考えられる。 しかし,実際の使用現場では,装置内に入れるの は,電極(センサー)部だけであることが基本であるが, このような使用法については言及されていない。この 点の解釈については,機器の製造メーカーの協力が必 要となると考える。 【対処すべき問題】 これらを踏まえての安全協会としては,今後以下の 様な対応を取っていこうと考えている。 1)実態把握と機種絞り込み 全国の施設に対し,使用している機器(メーカー名, 型番等)の実態調査実施し,それを元に,販売元や 製造販売元に対して,協力が得られるかどうかの確認 を行った上で,年1~2機種を決定。 2)判定基準の策定と確認 患者さんに対する影響を第一に考え,機器の区分 毎に確認事項と許容値を定め,確認を実施。 3)情報提供 確認の完了した機器については,学会ホームページ 並びに安全協会ニュースを通して,広く通知を行う。 247 日本高気圧環境・潜水医学会雑誌 Vol.48( 4 ), Dec, 2013 シンポジウムS1-7 高気圧治療モニタ HBOM-2100/BARAMO について 高橋 洋 株式会社小池メディカル 技術部 【はじめに】 高気圧酸素治療をする患者には,治療前に胸部X 線検査・血圧測定及び心電図検査をするよう安全基準 図 2 BARAMOとチャンバー接続 にも記されている。 一方,治療中の生体は,高い酸素分圧の影響から 心拍数の低下・血流量の減少・末梢血管抵抗の増大が 起こり,血圧上昇がみられる場合がある。 【チャンバー接続】 図 2にBARAMOとチャンバーとの接続を示す。患 者からモニタまでの心電ケーブルはRLFS(シールド) このような患者の容態変化を考えても,治療前に行 の計4線を利用し,チャンバー内外に専用コネクタを設 っている心電図検査と血圧測定は,治療中にも必要と けている。カフに接続する2本とチャンバー内圧力を 言える。 感知する1本の計 3本が,血圧測定用のチューブとして BARAMOに接合する。チャンバーとの接続はエアマ ニホールドを用いて,気密を保っている。心電ケーブ ル及び血圧チューブは,チャンバー内外それぞれの箇 所で脱着できる仕様である。 また,BARA-MED以外のチャンバーにBARAMOを 接続する場合には,専用コネクタと端子台をボックス 内に組み込むことによって,ECG誘導コードを切断せ ずに接合でき,利便性を高めている。 図 1 高気圧治療モニタBARAMO 【モニタの概要と特徴】 図 1 に 高 気 圧 治 療 モ ニ タBARAMOを 示 す。 BARAMOの呼吸モニタは,インピーダンス方式で 測定している。よって,極僅かだがECGコードに電流 と電圧を供給している。 BARAMOは,1.0 〜2.8ATAの範囲で心電・呼 吸・血 電流 I:0.0001A= 0.1mA 圧の測定ができる。心電図は 3電極法で,呼吸はイン 電圧 V:0.02V=20mV ピーダンス方式を用いている。非観血血圧はオシロメ 電力 W:0.0001A×0.02V= 0.000002VA トリック方式で,専用大型ポンプ搭載により,患者の =2μVA=2μW(力率=1) 環境気圧が変化しても2.8ATAまでは血圧測定が可能 である。タッチパネル方式で操作がより直感的になり, データ入力用のテンキーも装備している。 【考察】 近年HBO中に利用できる医療機器の併用が厳し くなり,モニタも制約を受けている。治療装置本体 明るく見やすい 8.4インチ高輝度TFTカラー液晶画 BARA-MEDとモニタBARAMO双方を扱っている立 面を採用し,心電波形・呼吸波形・血圧測定値をそれ 場から,製品システム開発にはHBO中の安全管理に ぞれ異なる色で,わかりやすく表示している。また, 留意が求められる。 リスト・トレンド画面の表示やデータを外部出力するこ とも可能である。 248 【心電図・呼吸モニタの電力】
© Copyright 2024 Paperzz