フランス学術情報(平成 24 年 5 月分) 平成 24 年 5 月 16 日 ストラスブール研究連絡センター ●「CNRS 予算」 CNRS の Xavier Inglebert 人材担当理事は、CNRS Le Journal 266 号(2012 年 5-6 月)にて、2012 年度の予算について語った。詳細は次のとおり。 「CNRS の 2012 年度全体予算は 2011 年度に比べ 3.6%増加の 33 億ユーロ、うち 3/4 にあたる 29 億ユーロが国家からの助成金、残りの 1/4 が未来への投資プログラムや研究コントラクトによるも のとなっている。2012 年度予算の優先事項は雇用である。CNRS では今年度 760 名の退職が予定 されており、330 名の研究者、430 名のスタッフ(エンジニア、技術者、事務職員)を新たに雇用する。 身体障害者も 50 名(10 名の研究者、40 名のスタッフ)追加で雇用予定である。また、今年は新たに 最も重要な 200 の大学との連携研究室の大学側代表者と雇用についてのディスカッションの場が 設けられたことにも満足している。」 CNRS の予算 33 億ユーロは 70%が人材雇用費用、28%がプログラム運営投資費用、2%が残り その他となっている。CNRS がカバーする全ての学問領域の割り当ては図のとおりである。 参考資料 ・ CNRS le journal n° 266 mai-juin 2012 “Buget du CNRS 2012 : La priorité à l’empli” ・ CNRS HP (2012 年 4 月 20 日) http://intranet.cnrs.fr/intranet/actus/budget2012-20120420.htm ・ CNRS HP (予算) http://www.dgdr.cnrs.fr/dsfim/chiffres/2012/Budget%20en%203%20clics%202012.pdf ●「MISTRALS:地中海沿岸環境プロジェクト」 CNRS では地中海地域の国や研究機関が協力して、地球規模の変化を受けての地中海沿岸の 環境を理解する複合領域研究プロジェクト”MISTRALS : Mediterranean Integrated STudies at Regional And Local Scales”を支援しており、2012 年 3 月 12 日、13 日に Malta 大学キャンパスにて 開催された第二回総会にも本部や地中海地域の支部代表団が出席した。 MISTRALS は IOC(政府間海洋学委員会)環境委員会のイニシアチブの下に発足し、2010 年 から 2020 年にかけての 10 年間に大気圏、水圏、岩石圏等の分野の環境学的生態学、そして社会 科学領域の調査、研究を行うものである。その目的は、地中海沿岸における景観、環境、人為的影 響のメカニズムをより深く理解し、究極的に資源や環境における各国の政策に役立つような生態系 の進化を予測することにある。 現在 26 か国 1,000 以上のプロジェクトが関わるこの MISTRALS によって、地中海地域の環境研 究のプラットフォームが出来上がりつつある。従来小さいグループで行われていた研究が、国や分 野を超えた研究手段や情報共有が行われることでよりダイナミックなものとなったと言える。参加国 自身にもメリットがあり、例えば、アルジェリア、モロッコ、チュニジア、レバノンはより積極的に環境分 野の研究に従事するようになり、エジプトは新しい研究領域を開拓している。また、MISTRALS によ って南北の連携も今後より緊密に行われることが期待されている。 MISTRALS には CNRS だけではなく欧州の主要なファンディングエージェンシーも関わっており、 ESF(欧州科学財団)や ANR(フランス国立研究機構)も MISTRALS 関連のプロジェクトの募集・支 援を行っている。 参考資料 ・ CNRS le journal n°266 mai-juin 2012 “Mistrals, un programme gagnant” ・ MISTRALS HP http://www.mistrals-home.org/spip/?lang=en ●「フランス新政府発足と教育・研究の重視」 新フランス大統領 François Hollande(フランソワ・オランド)氏は、2012 年 5 月 16 日、Jean-Marc Ayrault(ジャン・マルク・エロー)首相の提案に基づき、新政府閣僚 34 名(うち半数の 17 名が女性) を任命した。 5 月 17 日の新閣議で大統領、首相、閣僚の毎月の給与は、大統領、首相が 14,910 ユーロ、閣僚 が 9,940 ユーロと 30%引き下げになることが決定された。 オランド大統領は、5 月 15 日の大統領就任式後ただちにフランス共和国の学校教育のシンボル である Jules Ferry(ジュール・フェリー)の銅像前でフェリーの功績を称える演説を行い、ついでキュ リー研究所で Marie Curie(マリー・キュリー)の銅像に献花の上、同研究所の研究者と対話を行っ た。 さらに、新大統領の教育への情熱を示すものとして、国内の最優先課題に学校教育の充実、若 年層の雇用支援を据え、Vincent Peillon(ヴァンサン・ペイヨン)国民教育大臣を Laurent Fabius(ロ ーラン・ファビウス)外務大臣に次ぐ序列に位置づけた。ペイヨン国民教育大臣(51 歳)は、哲学の 博士号を持ち、長年フランス各地の高校で哲学の教師を務め、遅くして政界入りした。多数の著作 があることでも知られている。 高等教育研究大臣には、Geneviève Fioraso(ジュヌヴィエーヴ・フィオラゾ)氏(57 歳)が任命され た。フィオラゾ高等教育研究大臣は、英語と経済の教師を務めた後、グルノーブル市長の官房長、 France Telecom のマーケティング部長を経て、2003 年よりグルノーブル Minatec Entreprises*の社長 を務めた経歴から、イノベーションのスペシャリストとしての手腕が期待される。フィオラゾ大臣は、5 月 17 日 Laurent Wauquiez 前高等教育研究大臣との引き継ぎを終え、5 月 18 日、Prof. Lionel Collet(リオネル・コレ)を官房長に任命した。コレ教授は、2006 年よりリヨン第一大学学長、 2008-2010 年にはフランス国立大学協会長を務めた神経科学の権威である。 *MINATEC は、2002 年ローヌ=アルプ地域圏グルノーブルに設立されたミクロ・ナノテクノロジー 分野の研究センター。基礎から応用までを扱い、最先端設備を誇る。(当センター活動報告 2011-2012 No.4 参照) 参考資料 ・フランス高等教育・研究省 http://www.enseignementsup-recherche.gouv.fr/cid60324/le-president-de-la-republique-rend-homma ge-a-marie-curie.html(2012 年 5 月 15 日) http://www.enseignementsup-recherche.gouv.fr/cid60335/biographie-de-genevieve-fioraso.html (2012 年 5 月 16 日) http://www.enseignementsup-recherche.gouv.fr/cid60338/passation-de-pouvoirs-entre-laurent-wauqu iez-et-genevieve-fioraso.html (2012 年 5 月 17 日) http://www.enseignementsup-recherche.gouv.fr/cid60342/lionel-collet-nomme-directeur-de-cabinet-d e-genevieve-fioraso.html (2012 年 5 月 18 日) ・在日フランス大使館(2012 年 5 月 16 日) http://www.ambafrance-jp.org/spip.php?article5555 ・フランス国民教育省(2012 年 5 月 15 日) http://www.education.gouv.fr/cid60317/discours-du-president-de-la-republique-en-hommage-a-julesferry.html ・産業・テクノロジーニュース(2012 年 5 月 18 日) http://www.industrie.com/it/genevieve-fioraso-de-minatec-entreprises-au-ministere-de-la-recherche.1 3206 ・朝日新聞(2012 年 5 月 17 日) http://www.asahi.com/international/update/0517/TKY201205170116.html ・Le Monde 紙(2012 年 5 月 18 日)"34 ministres et autant d’urgences" ・Le Monde 紙(2012 年 5 月 19 日)"A la découverte du nouveau monde des ministères" ・DNA 紙(2012 年 5 月 17 日) "La femme égale de l’homme !" ・DNA 紙(2012 年 5 月 18 日) "Une volonté d’exemplarité" ●「高等教育機関のデジタル化:教員の IT 研修に係るホワイトペーパー」 フランス高等教育研究省は、2012 年 9 月に高等教育研究機関における教員の IT 研修に係るホ ワイトペーパーを発表する。高等教育研究機関における既存の IT 利用状況と、教員が IT を授業に 活用するにあたっての研修の導入等について触れられる予定である。 具体的には、例えば、①学生の大衆化と異質性、②教育のミッションと学生の社会的・専門的な 関わり方とのリンク、③授業における IT の活用、④研究のための教育の質の向上、等の観点で教 員の教授力が要求されている。 教授法のデジタル化を促進することで、教育における新しいコミュニケーション手段、学生の情 報へのアクセスや次なる進路への道筋が提供される良い機会となりうる。大学の教育手段の IT 化 は今や高等教育全体に欠かせない課題である。 本ホワイトペーパー「高等教育における教員の IT サポートと研修」は完成後すべての高等教育機 関に配布され、大学のデジタル化に関するガイダンスを提供することとなる。 また、フランス全土で高等教育機関の IT 化を推奨するため、2012 年 4 月にリヨンで「デジタル時 代の大学国際会議」”Le Colloque International de l’Université à l’Ère du Numérique : CIUEN ”が 開催され、30 か国から 850 名が参加した。 参考資料 ・フランス高等教育・研究省 HP(2012 年 5 月 10 日) http://www.enseignementsup-recherche.gouv.fr/cid60286/livre-blanc-accompagnement-et-formationdes-enseignants-aux-usages-du-numerique.html ・フランス高等教育・研究省 HP(2012 年 4 月 24 日) http://www.enseignementsup-recherche.gouv.fr/cid59703/ciuen-regards-croises-sur-le-numerique.ht ml ●「学生に人気がある企業」 ル・モンド紙経済部門”Le Monde Economie ”は 2011 年 11 月から 2012 年 2 月にかけ、116 のグ ランゼコールと全国の大学の学生を対象に希望の就職先企業調査を行った。調査は 31,062 名か ら回答があり、うち 49.9%が男性、50.1%が女性であった。また、回答した学生の内訳は、商業系グ ランゼコールの学生が 49%、エンジニア系グランゼコールの学生が 30%、大学に所属する学生が 21%で、平均年齢は 21.9 歳であった。 結果は次のとおり。 商業系グランゼコール 工業系グランゼコール 大学商学部 大学工学部 1. LVMH 1. EADS(欧州航空宇宙防衛会社) 1. LVMH 1. Google 2. L’Oréal 2. Google 2. Apple 2. Apple 3. Apple 3. Thales(電機・航空・防衛) 3. L’Oréal 3. Microsoft 4. Google 4. Apple 4. Air France 4. EADS(欧州航空宇宙防衛会社) 5. Canal+(テレビ局) 5. Dassault Aviation(航空機メーカ 5. Google 5. Air France ー) 6. Danone 6. EDF(フランス電力公社) 6. BNP Paribas (金融) 6. Thales(電機・航空・防衛) 7. Air France 7. Total(エネルギー) 7. Canal+(テレビ局) 7. SNCF(鉄道) 8. Néstle 8. Veolia Environment(水) 8. Société générale(金融) 8. EDF (フランス電力公社) 9. Ernst & Young(会計事務所) 9. Vinci(建設) 9. HSBC(金融) 9. Dassault Aviation(航空機メーカ ー) 10. Coca-Cola Enterprise 10. Air France 10. Banque de France(金融) 10. IBM 従来、フランスでは大学よりグランゼコールの学位の方が就職に際し「より有利」とみなされる傾 向があったが、現在は変化しつつある。また、大学とグランゼコールの学生が希望する就職先の違 いは、例えば大学の学生の 36%から 43%が重要視する項目が「安定した就職先を得る」ことである のに対し、グランゼコールの学生は「国際的なキャリアを積める可能性」を求めていることからも伺え る。また、大学の学生は「企業文化や集団で働くことの質」に価値を置くが、グランゼコールの学生 は「自らのポストで得られる仕事の質」を基準に考える。しかしながら、人気企業のリストを見てみる と、分野による人気企業の違いはあるものの、グランゼコールと大学ではそれほど希望が異ならな いことがわかる。 参考資料 ・Le Monde 紙「Université, école : une même idée de l’emploi」(2012 年 3 月 20 日)
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