2012年7月

フランス学術情報(平成 24 年 7 月分)
平成 24 年 7 月 18 日
ストラスブール研究連絡センター
フランス高等教育研究省:MESR
●「高等教育諮問委員会と優先事項」
2012 年 7 月 5 日、フランス高等教育研究大臣 Geneviève Fioraso 氏は、フランス科学アカデミー
で記者会見を開き、高等教育に関する諮問委員会の設置とその優先事項(すべての学生の成功、
研究の再編成、高等教育施設のガバナンスとキャンパス・ネットワーク)を発表した。
<以下、Fioraso 大臣の会見概要>
フランス大統領によって青少年教育が政策のプライオリティに定められている。高等教育に関す
る諮問委員会の開催はこの目標を達するためにも重要な第一歩である。諮問委員会は大学人・科
学コミュニティー、学生、企業関係者すべての協力を得て運営される。本委員会の委員長は、ノー
ベル賞受賞者の Prof. Françoise Barré-Sinoussi であり、パリ第七大学(Université Paris Diderot)学
長の Prof. Vincent Berger が報告書をまとめる。
同委員会は 2012 年 7 月から 9 月の間に大学等関係各方面の諮問を行い、10 月には各地方代
表者会議、11 月には同委員会を開催し、2012 年 12 月に報告書が高等教育研究大臣に提出され
る。2013 年初めには、それを基に、現行の「大学の自治と責任法案」や「研究プログラム法案」を修
正した新しい「大学の自治と責任者法案」が国会で審議される予定である。これは、大学の自治を
廃止するものではなく、現在の大学自治法が大学に自治を維持するのに必要な手段を与えていな
いことを改善することを目的としている。
本委員会は、我が国が直面する社会、文化、環境、経済面の課題を見据え、それらの成長の武
器とするために、より多くの学生のための教育の質の向上、科学と研究の質の向上を目的とする。
委員会の優先事項三点は次のとおり。
1.すべての学生の成功を最優先
大学の第一サイクル(第一・第二学年)に特に配慮する。第一サイクルにおける学生の進級の失
敗を少なくするため、オリエンテーションの強化、職業教育コースの充実が肝要である。現在、大学
入学者の二人に一人が第二学年への進級ができず、2008 年度入学者のうち 38%しか第三学年を
終了していない。
同時に、学生生活に関する国家レベルの政策を推進する。大統領選挙で公約として掲げたとお
り、高等教育のために新たな 5,000 人の雇用を創出し、2013 年度にそのうち 1,000 人を第一サイク
ルのために充当する。
2.研究の再編成を第二の優先項目
2013 年には国際戦略や経済・社会の中での役割、衛生・環境面で研究機関の再編成を実施す
る。対象となるのは大学、国の研究機関、グランゼコール、独立行政法人、研究連盟であり、それら
の役割を明確化する。高等教育研究省と生産力再建省は直ちに企業に移行できる技術研究を奨
励する国のイニシアチブを支援する。高等教育機関の自治形式のあり方及びいくつかの機関間の
協力形式を再検討する。
3.高等教育施設のガバナンスとキャンパス・ネットワークの再点検を第三の優先項目
高等教育施設の自治化と高等教育施設同士の新たな協力ネットワークを推進する。
参考資料
・高等教育研究省 HP(2012 年 7 月 11 日)
http://www.enseignementsup-recherche.gouv.fr/cid60901/assises-de-l-enseignement-superieur-et-dela-recherche-une-ambition-partagee-pour-l-avenir-de-notre-pays.html
・Le Monde 紙(2012 年 7 月 12 日) 「Des assises pour revoir la réforme de l’université」
・Le Monde 紙(2012 年 6 月 3-4 日)「Universités : les projets du gouvernement」
フランス学術情報(一般)
●「2012 年度バカロレア(高等学校卒業資格試験)の合格率」
2012 年 6 月に行われた高等学校卒業資格試験バカロレアの全体の合格率は前年度より 1.1%低
い 84.5%となった。分野別の合格率は、一般バカロレア(S 科学、ES 経済・社会、L 文学)が前年度
より 1.4%高い 89.6%、技術バカロレアが 1.0%高い 83.4%、職業バカロレアは 5.6%低い 78.2%であ
った。これは、1980 年代には 3 人のうち 1 人しかバカロレアを取得できなかったことに比べ格段の進
歩である。
職業バカロレアの合格率低下は、今回の試験より、持続的なモニタリングを重視する評価方法を
含む改革が行われたことに起因すると考えられる。国民教育省は、「多くの生徒が必要なレベルに
達していないことが窺えるため、今後合格率を高められるよう改良の余地がある。」と述べている。
一方、一般バカロレアは合格率が高く、中でも科学は 90.8%と前年度より 1.4%上昇、経済・社会は
89.1%、文学は 87%であった。
2012 年のバカロレア受験者は、前年度より 7%上昇し、約 70 万 3,000 人、その割合は一般バカロ
レアが 48%、技術バカロレアが 21%、職業バカロレアが 31%であった。
1985 年、当時の国民教育大臣 Jean-Pierre Chevènement 氏(ジョン=ピエール・シュベヌモン)は、
バカロレア受験資格者が同世代の 80%以上となることを教育目標に掲げた。2012 年はバカロレア
受験資格を得られる世代(通常 17 歳~19 歳)の 85%(2011 年は 79.1%)がバカロレアを受験し、初
めてその数値が達成された。
図:Figaro HP より
参考資料
・Le Figaro HP (2012 年 7 月 13 日)
http://www.lefigaro.fr/flash-actu/2012/07/12/97001-20120712FILWWW00549-bac-2012-un-taux-de
-reussite-de-845.php
・Le Monde HP(2012 年 7 月 12 日)
http://www.lemonde.fr/ecole-primaire-et-secondaire/article/2012/07/12/le-taux-de-reussite-au-baccal
aureat-2012-en-legere-baisse_1733202_1473688.html
・Le Monde (2012 年 7 月 14, 15, 16 日) “Objectif atteint : 85% d’une génération au niveau du bac”
・DNA(2012 年 7 月 12 日)“Dans le peloton de tête”
・国民教育省 HP
http://www.education.gouv.fr/cid60617/baccalaureat-2012.html#L’essentiel_et les nouveautés du
baccalauréat 2012
●「「Mastère specializé(MS)」(専門修士号)と「Mastère en sciences(MSc)」(科学修士号)」
MS と MSc はフランスではグランゼコールからのみ与えられ、職業と直結した学位として高く評価
されている。MS はフランス独自のシステムだが、MSc はアメリカやイギリスなどの英語圏でも一般的
でより国際的な学位であるとみなされる。
MS は 1986 年にエンジニアリングスクールに創設され、現在でも人文学分野はほぼ対象外であ
る。MS コースに入学するためにはバカロレア卒業後 5 年間の高等教育課程を経る必要がある。MS
を取得するとエンジニアの専門家、もしくは、経営能力を兼ね備えたエンジニアとみなされる。本学
位は、例えば法律家が経営を学んだり、医者が技術を学んだりと別の分野で活躍する職業人も対
象となる。例えば、ENAC(Ecole nationale de l’aviation civile; フランス国立航空学校)では、14 の
MS 学位を与えているが、うち 7 つは中国で取得できる。
一方 MSc は国際化を視野に入れ、2000 年以降にフランス国内のビジネススクールで取得可能と
なった学位である。アメリカや中国をモデルとし、MSc コースの入学条件はバカロレア卒業後 4 年間
の高等教育課程を経ることと定められている。MSc の授業は英語で行われ、1 年又は 2 年で学位を
取得する。MSc はグローバルな就職に有利とされている。
現在フランスではこの二つの学位が、高等教育課程を補足させるものとして注目されている。
参考資料
・Le Monde 紙「Mastères spécialisés, la touche finale pour parfaire sa formation」(2012 年 6 月 6 日)
フランス国立科学研究センター:CNRS
●「CNRS、特許の譲渡を促進」
CNRS の第一の使命は基礎研究であり、それに続く第二の使命は CNRS の研究の企業への移
転と価値付けである。事実、CNRS の特許の 80%は他の機関に所属する研究者や企業と共有され
ている。2008 年以来、大企業と CNRS との共同研究が進展し、特に化学と生命科学の分野で顕著
である。
一方、中小企業と CNRS との関係については、2011 年末の Alain Fuchs CNRS 会長の発表から
一週間以内に、高等教育研究省の主導の下、100 以上の中小企業が参加して”Contact
Innovation”の集いが開催された。
すなわち、2011 年末、CNRS は、フランスの中小企業が CNRS の持つ特許を利用しやすくする
プログラム PR2 (partenariat renforcé PME-recherche)を開始した。これにより、未開発の特許が中小
企業により研究・開発され、革新能力と競争力を強化する狙い。
参考資料
・CNRS le journal n°264 janvier-février 2012
・Le Monde “80% des brevets du CNRS sont en copropriété” (2012 年 6 月 13 日)
●「2012 年度 CNRS イノベーション賞」
2012 年 6 月 20 日、2012 年度 CNRS イノベーション賞(la médaille de l’innovation du CNRS)受
賞者 3 名が発表され、CNRS 会長の Prof. Alain Fuchs 出席の下、高等教育研究大臣 Geneviève
Fioraso 氏より表彰が行われた。本賞は 2011 年に創設され、テクノロジー、臨床医学、経済、社会的
な面で優れた業績を残した研究者に授与される。今年度の受賞者は次の三名。
・Prof. Patrick Couvreur*
パリ第 11 大学(Université Paris-Sud)Galien-Paris-Sud 研究所教授。専門分野は医療ナノテク
ノロジーで、薬剤の新投与法の開発を手がけている。
・Prof. José-Alain Sahel
フランス科学アカデミー会員。パリ第 6 大学(Université Pierre et Marie Curie)及び University
College of London 教授、パリ視覚研究所(Institut de la vision)ディレクター、眼科医。専門分
野は視覚で、網膜の疾病について研究している。
・Prof. Alain Benoît
グルノーブル Néel 研究所 CNRS 主任研究員。専門分野は極低温固体物理学で、宇宙研究に
用いる検出器の感度を高めるための冷却技術の開発を手がけている。
*Prof. Patrick Couvreur は 2012 年 12 月にパリで開催した日仏ワークショップ"The Nanotech Revolution from Science to
Society - A time for passion A time for reason"(JSPS、ENS Cachan 主催)で講演されました。講演のビデオを次の HP か
らご覧いただけます。 http://www.canalc2.tv/video.asp?idvideo=10965
参考資料
・CNRS le journal n°267 juillet-août 2012
・CNRS HP (2012 年 6 月 20 日) http://www2.cnrs.fr/presse/communique/2679.htm
・高等教育研究省 HP(2012 年 6 月 21 日)
http://www.enseignementsup-recherche.gouv.fr/cid60716/remise-de-la-medaille-de-l-innovation-du-c
.n.r.s.html
●「宇宙線の発見 100 周年祭」
宇宙線の発見から 100 周年を記念して、CNRS とフランス天文学協会(AFA)が 2012 年 6 月 23
日~26 日に「無限大と無限小のフェスティバル」をパリ二区で開催する。講演会、研究室訪問等のイ
ベントが一般向けに無料公開される。
参考資料
・ CNRS HP (2012 年 6 月 12 日) http://www2.cnrs.fr/presse/communique/2661.htm
●「CNRS、Rio+20 会議に参加」
持続的発展に関する国連会議 Rio+20 が 2012 年 6 月 20 日~22 日にブラジルのリオデジャネイ
ロで開催され、200 を超える国々から数万人が参加した。AllEmvi : l’Alliance nationale de
recherche pour l’environment (環境のための研究同盟)の加盟者である CNRS からは科学部のメ
ンバーと様々なユニットの責任者が公式に参加した。
参考資料
・CNRS HP (2012 年 6 月 25 日) http://www.cnrs-brasil.org/fr/rio20/
・Rio+20 HP http://www.uncsd2012.org/
●「CNRS の新ビデオ podcast」
サッカー・ヨーロッパ・チャンピョンシップ、ツール・ド・フランス、ロンドンオリンピックと、2012 年の
夏はスポーツイベントが目白押し!この機会に、CNRS と国立スポーツ・専門・パフォーマンス研究
所(INSEP: l’Institut National du Sport, de l’Expertise et de la Performance)は、インターネット利用
者に科学がスポーツやスポーツ器具の発展に果たす役割についてお知らせする。週 2 回 6 週間に
渡って、「世界のスポーツ」、「ボールの軌道」等 12 エピソードのポッドキャストを一般向けに配信す
る。
参考資料
・CNRS HP (2012 年 7 月 5 日) http://www2.cnrs.fr/presse/communique/2695.htm
国立衛生医学研究所:INSERM
●INSERM の演劇活動:現代演劇と科学二つの出会い
現代演劇と科学の出会いを目的としたオリジナル創作活動「Binôme」(第三版)。INSERM では、
INSERM リヨン神経科学研究センター研究員で大脳機械論・インターフェースの専門家 Dr. Karim
Jerbi と作家の Sabryna Pierre 氏との Binôme「神経科学」を企画している。今年度は、5 点の朗読‐
演劇が 2012 年 7 月 16 日~21 日にアヴィニョンのフェスティバルで、2012 年 10 月 16 日~20 日にパ
リの Rond-Point 劇場で上演される予定。
参考資料
・INSERM HP (2012 年 7 月 16 日)
http://www.inserm.fr/actualites/rubriques/actualites-evenements/l-inserm-fait-son-theatre-binome-3e
me-edition
フランス国立農業研究所:INRA
●「フランスのワイン産業の維持・強化にむけて IFV と提携強化」
より環境に配慮したブドウ栽培、消費者の期待に応えた品質、世界市場における競争力強化は、
フランスのブドウ栽培・ワイン醸造関連産業の建て直しに必要な重要課題である。INRA と IFV(ブド
ウ畑とワイン研究所)は、互いの共通目標と補足的性質を考慮して、2012 年 6 月 28 日に業務提携
を強化することに合意した。
参考資料
・INRA HP (2012 年 6 月 28 日) http://www.inra.fr/presse/accords_ifv
欧州研究会議:ERC
●「ERC2013 年度研究費予算、17.5 億ユーロ」
欧州委員会(EC)は、2013 年度の ERC 研究費予算が 17.5 億ユーロであると発表した。ERC の
プロジェクトはあらゆる年齢、キャリアステージの研究者を対象とし、全分野(物理科学・工学、生命
科学、人文・社会科学)から応募することが可能である。その目的は、優秀な研究者を支援すること
で最先端の研究成果を生み出し、世界のトップクラスの研究を行うヨーロッパの地位を確立すること
にある。2013 年度は約 900 名の卓越した研究者(平均 6 名以上の研究員を率いる)を支援すると
見積もられている。
参考資料
・ERC HP (2012 年 7 月 9 日)
http://erc.europa.eu/sites/default/files/press_release/files/Highlight_budget2013_ERC_funded_projec
t.pdf
●「ERC、Europe PubMed Central に加入」
ERC は、UK PubMed Central(UKPMC)* オープンアクセス・リポジトリーサービスの UKPMC
Funders’ Group(助成機関)に加わることを発表した。ERC は、欧州内で Telethon Italy、Austrian
Research Fund に次ぐ 3 番目の助成機関となり、UKPMC は 2012 年 11 月より Europe PMC と改名
される。このイニシアチブの目的は、論文等の登録件数の拡大及びヨーロッパの他の生命科学分
野のファンディングエージェンシーによって支援された研究成果が自由に利用可能となるよう促進
することにある。
*UKPMC とは生物医学、健康分野の研究者のためのオンライン情報提供サービスで、同分野の論文投稿、検索等
が可能。
参考資料
・ERC HP(2012 年 7 月 13 日)
http://erc.europa.eu/sites/default/files/press_release/files/EuropePMC_press_release_WT_ERC_FIN
AL.pdf
●「EC と NSF の新協定締結」
2012 年 7 月 13 日、NSF(全米科学財団)ディレクターDr. Subra Suresh と欧州委員会研究・イノ
ベーション・科学担当理事 Máire Geoghegan-Quinn 氏は、ERC 会長 Dr. Helga Nowotney 立会いの
下、NSF の若手研究員がヨーロッパ内の ERC が助成する研究チームで研究を行う機会を設ける新
しい協定に署名した。
参考資料
http://erc.europa.eu/sites/default/files/press_release/files/Press_release_NSF-ERC_agreement_final.p
df (2012 年 7 月 13 日)