保険制度上の発症日に関する検討について 1.

どうぶつ保険診療アドバイザリーボード 2013 年 11 月審議要旨
2013 年 12 月
アニコム損害保険株式会社
保険制度上の発症日に関する検討について
1.背景と課題
当社のペット保険「どうぶつ健保」では、補償の対象となるのは補償期間開始後に被ったケガや病気(以下、
傷病といいます)に対する診療費であり、保険金支払いにおいて傷病の発症の時期は補償の可否を判断する上で
必要かつ重要な情報となります(発症日=事故日)。
従いまして、当社では、適切かつ公平・公正な保険制度運営のため、保険金請求時において保険契約者または
診療した獣医師に対して、請求理由となる傷病の「発症日」を記載していただくようお願いしています。
しかしながら、臨床現場での診療の目的は、対象となるどうぶつの治癒・状態改善であり、経過が慢性か急性
かという点が診断の一助となり得ても、
「いつ発症したか」ということはあまり重要視されていない実態にあり
ます。そのため診療した獣医師であっても、「発症日」を特定できないケースもあることから、保険金請求に必
要な「発症日」を記載していただくことが、臨床現場に一定の負担をおかけしている状況にあります。
2.課題に対する解決策案
以上の事情から、当社では「発症日」の定義の明確化に向けて論議を重ねて参りました。今回、約款上の定義
に加え、獣医師だけではなく飼い主の皆様にもご理解いただきやすいように具体例を追記した「ペット保険にお
ける発症日の定義」を制定することといたしました。本定義が、保険金請求時における発症日判断の一助になれ
ばと考えております。
ペット保険における発症日の定義
※発症日とは
保険診療において被保険どうぶつの飼育者が当該疾患・症状の異常を初めて認識し、診療した獣医師も妥当と
認めた時をいいます。以下の具体例を参考にしてください。
(具体例)
1.獣医師の診察を受ける前に、飼い主が異常に気付いた場合は、その日
2. 症状が現れずに獣医師が異常を認めた場合は、その日
3. 慢性的疾患(慢性外耳炎や、慢性膵炎など)で、傷病の病歴が続いている場合は、
その傷病における最も古い発病日
4. 過去に患った一過性の傷病(単発の下痢や皮膚創傷、角膜損傷など)が治癒し、再発した場合は、
再発した日
5. 健康診断で異常が発見された場合は、健康診断を行った日
6. 事故の場合は、事故が発生した日
7. 多彩な症状が現れる傷病(内分泌疾患や症候群など)について、確定診断前に関連する異常が見られて
いた場合には、最も古い発病日
参考:当社ペット保険普通保険約款における定義
(8)傷病の原因が生じた時
① 傷害については、傷害の原因となった事故発生の時をいいます。
② 疾病については、獣医師法(昭和 24 年法律第 186 号)に定める獣医師が診断した発症の時をいいます。獣医
師が被保険者である場合は、被保険者以外の獣医師をいい、以下同様とします。
以上のように、具体例を示し、現状より容易に発症日を考えることができるような定義づけを行いました。し
かしながら、本定義においても以下のケースのように判断が難しい場合があります。
①慢性疾患が再発するケース:
アトピー性皮膚炎や、内分泌疾患のような慢性疾患において、全身状態や季節に左右され、完治・再発
を繰り返すケース。完治か寛解か、発症か再発かの線引きが困難。例えば、皮膚炎などは季節によって症
状が変動することがある。このことから、一定期間をおいて発症(通院)のないものは完治とみなし告知
義務から除外する、などの傷病をクリアするタイムリミットを設けるなどの対応策が考えられる。
②症状はないが、徴候が存在するケース:
症状を伴わないが、健康診断などの検査において、検査所見に軽微な異常が見られた場合(肝酵素上昇
など)。必ずしも疾患(傷病)とは言えず、発症しているか定かではない。また、軽度であるがゆえにあ
えて飼い主へ告知しないことがある。こうしたケースでは、症状はないものの、獣医師が気づく徴候は存
在している一方、飼い主は知らないために契約の告知書には記載されない。それが後になって告知漏れと
して問題となる場合もある。さらに、飼い主が気づく異常、つまり「症状」だけでなく、獣医師によって
判断される「徴候(所見)」の観点から発症日を記載する必要があるが、そもそも症状と徴候の切り分け
が簡単ではない。
③主症状に既往症の因果関係が疑われるケース:
発生していた軽微な症状があり、後になってある傷病と診断された場合、初期の症状との因果関係を証
明することができない。下痢が続いた後、しばらく経ってからクッシング症候群と診断された場合などに
クッシングの発症日を下痢の初発日とするか、クッシングを疑った日とするかによって補償範囲が変わっ
てくる可能性がある。
これらのケースを抜本的に解決するためには、傷病それぞれに対応する診断基準が必要だと認識しております。
しかしながら、現状では獣医学領域全体のコンセンサスが得られた診断基準は存在しておらず、個々の臨床現場
においても確定診断よりどうぶつの健康状態改善が優先される場合が多々あります。したがって、これら課題を
解決する定義の立案は、現段階では困難と判断いたしました。
課題は残るものの、上記「ペット保険における発症日の定義」をアドバイザリーボードメンバーへご確認いた
だきました。
3.ボードメンバー意見総括
「ペット保険における発症日の定義」をアドバイザリーボードへお諮りしたところ、以下のような意見を頂き
ました。
・提案された「発症日の定義」に異存はないが、定義のみで諸問題が解決できる可能性は低く、加入時の告知を
強化するような施策が必要なのではないか。
・
「発症日の定義」により理解が困難と考える点は以下の通り。
① 慢性疾患:単純性下痢や角膜損傷などの場合、再発の定義には当てはまらないのではないか。もう少し
丁寧な表現が必要となる可能性がある。
② 徴候の存在:検査結果で異常と判断する基準がなく、基準値から外れていれば異常とみなすのは困難。
③ 因果関係:その異常が当該疾病に関連している可能性が高いか否かの基本的な判断は、獣医師に任せざ
るを得ないのではないか。
例)子犬の心雑音と高齢期の弁膜症など、明らかに関連性がないと考えられるものに配慮すべき。
・今後、各種の課題を解決できるよう「発症日の定義」の改善が期待される。
以上