文学的教材の読みについて

神奈川県立教育センター 研究集録 .4:1−6
.1985二
文学的教材の読みについて
一教材の特質を生かした学習活動を一
i
濱田
I、
光代
」はじめに
1 読み手の主体性を夫箏1=して
今日 、子どもたちを取り巻く 、社会的環境がます
文学の読みの授業は文学作品を教材として 、その
ます悪くな っている 。そのため 、反社会的なものと
作品世界をどれだけ 、子どもたちが自分自身と関わ
して 、非行
・集団いじめなど 、非社会的なものとし
登校拒否 ・無気カ ・無関心などに子どもたちの
て、
り合 って読みとるかを抜きにはできないのであ って
、
そこに 、はじめて 、子どもがその作品に出会 った意
心のゆがみが表れてきているという指摘がなされて
味が生じる
いる
読み手は 、事件の成り行きにハラハラ ・ドキドキ
。
。
子どもたちは 、物質的な豊かさに取り囲 一まれてい
する 。作中人物のものの考え方や生き方に共感した
るが 、社会的なつながり 、自然とのつながりなどに
り、
心を通い合わせる喜ぴを見失 っているか 、あるいは
た読み手の心の動きが必ず 、伴うものである 。その
十分に獲得できないままの状態に置かれている
読みの自然な姿を生かして 、授業者は学習活動を組
。
こうい った状態にある子どもたちを人間的に成長
み、
反発したりする 。読みの楽しみとは ・そうい
っ
読み取 ・り方 、楽しみ方を教え 、体験させていく
させていく意図的な一つの方策として 、国語教育に
ことが肝要である
おける文学教育があるのではないかと思われる 。文
子どもたちは 、作中人物に同化したり 、異化した
学の授業の中で 、作品世界に生きる人物に出会わせ
、
。
りしながら 、自らの生き方や経験に重ね合わせて
、
教室でともに学び高め合う仲間たちと新たな出会い
感動したり 、批判したりする中でさまさ 一まな感情体
をさせていき 、感性をひびかせ合う訓練の一助にで
験と知的認識を得るのである
きればと考えている
。
。
ひとり読みを夫呵二して
単なる読解でなく 、子どもたちは共感であれ 、反
2.
発であれ 、作品世界を生きることによっ
ひとりひとりが作品としっ かり向かい合うことが
て、
いろい
目分の中になか った未知の
ろな人間が存在することを知り 、人間にさまざまな
大切である 。子どもは
側面のあることを知る 。ともに学び合う仲間たちの
ものに出会うと「不思議だ」「どうして 、そうする
中で 、ものの考え方や感 ・じ方の違いを知り 、互いに
のだろう」などと疑問を持つ 。そうした白分の問い
高め合い 、人間への認識を深めていく 直このように
に自ら答えを見い出そうと .して考える 。過去の経験
して 、多様な人間存在を自己内面に蓄積するにした
や知識を総動員して 、それに合うものはないかと照
がっ
て、
子どもは自分を客観的に捉えら・ れるように
なり 、やがて 、自立に向か
っていくと考えられる
。
言語カを育てる・ ことは 、もちろんであるが 、人閻性
、.
らし合わせる 。文章のどこかに書いてないかと恩
っ
たりする 。そのようなひとり読みの時闇 」を保証して
やる学習活動を 、文学教材を扱 」う上では 、常に根底
の極養という意昧でも 、今日 、文学の読みの授業は
におかなければならない 。子どもが自由に好きな角
大切ではないだろうか
度から読み 、自分なりに意見や感想を書きとめ乱
。
学習活動としては 、書きこみ 、書き出しであ私そ
皿.
一文学的教材の読みの授巣
の時間は 、自分ひとりの感動を味わう時間でもある
し、
1昭和59年度 長期研修員(国語)
茅ケ崎市立小出小学校
ひとりでは解決できず 、納得しがたいことなど
を集団の読み(話し合い)に出す準備をする時間で
もある
。
っている 。再語 ・再創
「ひとりひとりの問い」を大事にする授業が自問
等) 一は語りの文章が主体にな
し学ぼうとする子どもを育てるのではないだろうか
造されたものは 、描写がつけ加えられ 、擬声語 ・擬
。
より深く問い続けることが 、より深く作品を読む
ということでもあろう
態語などに造語が使われることが多い 。が 、語り口
癒どビ伝統的な体姦を備えている 。創作童話は語り
宣 卓
。、1』
3 話し合いを大亭にして
または説明と描写を持ち 、伝記は記録性を持っが説
切ム畠ち音島攻 話ちである場合も多い 。小説に近
ひとりひとりの読みを友だちと語り合うことは楽
づくにっれ 、語りのリズムを含まない説明と描写が
しみなものである 。自分が感動したことや疑問に思 っ
増える 。脚本はせりふとト書きだけで 、描写は全く
一’
たことを誰かに話したくなるのではないだろうか
ないという特質がある 。小学校の文学教材は童話と
。
また 、友だちはどう恩 っだかも聞いてみたくなるだ
ろう 。自分の読みを修正し’ たり
、深めたりする 。文
学教材を教室で読む意義はそこのところにある
か物語とか小説とかに厳密に分けるのはなかなか難
しい
。
文学的教材の特質を内容上 ・表現上に分けて考え
。
友だちの発言に刺激されて 、自分の中に混沌とし
てみると 、次のような視点から捉えるととができる
ていたものがは っきりしたという自覚や自分が気づ
○内容の上から
かなか った視点を与えられたという自覚 、また目分
の発言が友だちを刺激し
、’
友だちが読みを深める契
・作中人物が多いか少ないか
・人間関係が複雑であるか単純であるか
機になり得たという喜びなどが生じる」そうい った
・事件の推移が複雑であるか単純であるか
信頼関係の中での話し合いは 、ひとりひとりの読み
・テー÷が明解に打ち出されているか否か
を深めるとともに 、お互いの存在価値へめ認識をも
・子どもに身近な素材か遠い素材か
高めるであろう
。
・リアリズムめ作品であ’ るか 、ファンタジー の作品
。
認知心理学の立場でも「違 った視点を持 った人が
である ’か
違っ た関心から意見を交換しながら 、そのなかでミ
○表現の上から
自分たちの解釈をつぐりあげ 、そして 、自分たちな
・語りの文章が主体であるか
りにわか ったと思 っていくのが相互交渉のおもしろ
・描写が多いか否か
さぞはないか」とか「[みんなで話し合 ってある理
・センテンスが長いか短いか 、その組み合わせに特
解に到達した』というのは非常に満足の ;いく経験で
徴があるか
あるらしいということがわか ってきた」(波多野誼
・スピー ディな展開か否か
余夫 講演から 国語め授業N皿53)と言 1われている;
・擬声語 ・擬態語 ・比愉などが多いか 、独特の特徴
違 った個人個人であ ’り 、違 った感想や意見だから
こそ 、お互いに考え合い
楽しみが増すのである
、」’
深め合い共同で思考する
があるか
’文宋表現に特徴があるか
・キラリと光るような表現が多いか少ないか
。
・リアリズムの作品であるか
1皿 文学的教材の特質と学習活動
、’
ファ ・ンタジー の作品
であるか
1 文学的教材の特貫
小学校の文学教材とい っても 、詩 ・物語 ・創作童
話・
伝記 ・民話 ・小説 ・脚本等さまざまである
いろいろな特質によっ 」て 、子どもたちの理解度が
変わると思われるし 、また 、その特質によっ
。
一 十つの作品は 、作品固有のテーマ ・人間の生
て、
子
どもの読みの活動が決まっ てくる一面を見落として
き方 ・できごとを見る角度や価値づけなど内容から
はならない
の特質 、ジ十ンルや作者独特の文体等 、表現からく
文学的教材の特質に関わりなく 、文学的教材の散
る特質を持 っている
文形式はすべて同じパターンの指導をすれぱ 、子ど
。
。
ユっの作品はジャンルそれ自体が伝統的に背負 っ
もたちは興昧や意欲を持てなくな って
ている特質と作者宮身が工夫した文体とが絡まりあ
う。
て一形式とな っている
っ
。
ジャンルの特質で言えぱ 、伝承物語(民話 ・説話
’し’
まうであろ
子どもたちが興昧や意欲を持てなけれぱ 、作品
世界への関わりが希薄になり 、文学の読みの力や方
法の獲得もまた 、不十分にな ってしまわざるを得な
いであろう
○リアl jズムの作品 大造じいさんとガン
。
作品を読み昧わうには
、・
作品の表現の紬部を詳し
大造じいさんの心理的葛藤を中心に読み取る
。
く読み進めることが大切である 。作品は部分と都分
論理的な分析をもとに重要な語句を押さえ 、そ
の形象が相互に関係し合 って 、展開していくからで
れを関係づけながら人物の心理に迫 っていくよ
あ糺けれども 、それだからと言 って 、どの部分形
うにす私人物の心理をより具体的に捉えるた
象も同質に取り扱いをする必要はないと考える 。話
めに表象化の学習活動を組む
。
の筋の一部分として捉えておきさえすれぱいいこと
もあるし ・人物の小さな 、なにげない行動描写を丹
子どもの精神活動つまり感性をひらいたり 、認識
念に読まなければならないこともある 。教材研究は
を広げたり 、深めたりすることが読みの目標である
作品分析で終えることなく 、その内容 、表現を押さ
文学の読みにおける学習活動は 、本来 、その精神的
えて 、授業をどう組織するかを包含していなければ
な営みであることを確認したい 。しかし 、子どもの
十分とは言えない 。子どもの反応を予測する乙とに
内側の精神活動(内的活動とか心内活動とか呼ぱれ
より
、どのような学習活動を想定するかを含めると
いうことである
。
ている)は見えない 。外的な活動に参加している様
子によっ て捉えるしかないので 、授業の中で 、内的
。
活動を活発化させる外的学習活動が工夫されなけれ
学習活藺
2.
ぱならない
文学的教材の読みの学習で 、どんな学習活動をす
。
荷;lllll:lllllll]
れば 、読みのカがつくのか 、それが授業の中で閤わ
れ・
ることにな孔教材の内容からたてられる指導目
標に沿 って 、学習活動は
。
学習活動で 、作中人物の気持ちを想像させたい
1ユj教材の内容や表現の特質を押さえた. 学習活動
時に使うことが多い 拮吹き出しをつか って 、そ
12〕内的活動を活発化する学習活動
の中に人物の立場で何’か語らせる
13}子どもの読みの力など実態をふまえた学習活動
てみる 。書くという .外的活動をさせることによ
の視点を必要とするだろう
。・
っぷやかせ
って 、作中人物に同化させ 、感情移入させ 、作
。
学習活動に文学的教材の特質を生かすことが大切
中人物の気持ちに迫らせる 。ただ 、吹き出し法
である 。ひとりひ .とりの頭の中では 、分析 ・総合の
に限らず 、作中人物に入り込んでの表象化では
繰り返しで読みが成立するのは当然であるが 、授業
文章表現から ・離れた盗意的なものにならな .いよ
として分析に力点をおくのに適した教材であるか
、
うに注意することが必要である
分析は控えめにして 、作品世界を楽しみ想像力をか
○小見出し. つけ
。
きたてるのに 、よりふさわしい教材であるか等 、特
ある場面に小見出しをつける外的活動として
質を大事にして学習活動を考えることが肝要であろ
の学習活動をさせれば 、子どもは 、その場面の
’う
表象化の上に 、概念化 ・一般化をはからなけれ
。
鴛鴛二た学 鴛rr
ばならなくなる 。具体的な行動や現象の絡み合
っている文章から 、本質を抜き■ 出すとか 、内容
細かい分析よりも想像カをふくらませること
をまとめるというような内的な活動が必要にな
中心に考えて学習活動を組むのが良いと思わ
ってくる
。
る 。全編に散りばめられた色やにおいの美し
い表現に注意しながら 、場面の情景を豊かに想
文学的教材の特質を生かした学習活動と内的活動
;い描かせる 。また 、松井さんの感じ方や行動に
を活発化させる学習活動という観点から学習活動を
表われる人問像のやさしさなどに共感させる
。
学習活動はイメージを豊かにさせる工夫をする
。
読んで 、視覚 ・聴覚 ・触覚
・・
嗅覚 ・味覚に感じ
取るところに書きこみをし 、話し合いや表現読
」
みを取り入れる
■ 。
選択することが大切であるが 、このほかに 、子ども
たちの実態を把握することが大事である 。子どもた
ちの実態に即しての学習活動の工夫が必要になる
。
子どもの認識の発達段階の研究は 、まだ十分でない
ようであるが 、実践者の各々が実践デ ータを集積し
、
っき合わせて明確にしていくことが大切と恩われる
浜本純逸氏は 、次のように示していられる
もない書き出しの文章であるが 、しっ かり押さえな
。
ければならないところである
。
。
図1
0作中人物と同化する時代(幼児から小学校2年まで)
坦現毛曲吉える
◎作中人物を客体化して認識できる時代(小学校3 .4年
胆岬壱肺商Lて 拭みとる
□;二…=一ユ ボのト
から)
@f云記の時代 フィクション 好みとノンフィクシ ョン 好
みが分岐する時代(小学校4 ・5年から)
の8二
…一 □
号 凛二虫帥
/慧1=;二
@作者を意識して読める時代(小学校5年から)
みん屯かんぱん
に出ている
(講座 現代の文学教育@ 新光閣書店)
また 、市毛勝雄氏は
描写という表現技法に着目して「難しさ」が段階
これらの表現から読みとれる要素が相乗し合 って
づけできるのではないかということから 、学年は目
後の緊迫した危機的状況へ導く伏線とな ってい私
安としながらも
、’
次のように提示されている
。
そのさるは 、体をよじっ たり 、とぴはねたり
伝承物語(学齢前後から小学3年くらい)〔語りと会話〕
顔をこっ けいにしかめたりして 、みんなをから
創作董話(小学2年から小学4年くらい)〔語りと描写〕
かいました
英雄物語(小学3年から小学5年くらい)〔 、
、
。
・ 〕
伝記 (小学4年から中学以上まで)〔 〃 〕
ここは動作化によっ て、一つ一っのことばと動作
教養小説(小学5年から高校以上まで)〔心理描写が主〕
のきり結びをはかるのがよい場面である 。さるの行
近代小説(中学以上) ’ 〔描写中心〕
動の動作化に笑いころげながら「こっ けい」の意味
(文学的文章で何を教えるか 明治図書)
をつかみ 、甲板の雰囲気を読みとるで’ あろう
(〔〕内は文章から語句抽出)
このあと 、さると少年の間におこっ た短い時間の
いずれも 、学習活動の選択と関わ って参考になるだ
できごとを作者は 、描写の手法によっ て詳しく目に
ろう 。また 、教材の選択及び読書指導にも参考にで’ きる
。
・
見えるように描いている」さると少年の行動に拍車
をかけていくのだから 、三者の絡み合いによっ
教材の特竈を生かした学習活聰その具体例
w.
て・
危機的場面に至るまでの過程は 、螺旋的に読みとら
「とぴこめ」一行動描写を中心に読む一
せたい
(レフ=トルストイ作 西郷竹彦訳)
下の図は 、表現の中から行動を中心に書き出した
この作品は 、行動描写と説明とで描き出される特
もので 、これらのことぱを押さえたからとい って
。
質を持つ 。短編であるし 、歯切れ 図2
よく
巨函篶鷲
、早いテンポで話が展開する
はし中き
↑\
緊迫感の高い作品である 。4年生
の子どもたちは 、作中人物の少年
堕
ニニニ
と同世代であり 、ドキドキ 、ハラ
ハラして読むだろう
危
機
的
状
況
。
一そうの船が 、世界を航海し
て、
帰りの旅をしていました
。
おだやかな天気で 、船じゅうの
人が 、みんなかんぱんに出てい
ました
一ど 1とわらいこける
ぼうしを引きさく
ぱかにするみたいに
1烹遂曜コ
ほl!をひ
。
少年
この冒頭の部分は 、一見なんで
←ふき肘
一た1る→匿重風 よろ1ぷ
座]
、
読めたことにならない 一この作品を「読む」とは
、
読み手が問題意識や感想や意見を持ちながら 、少年
が危機的状況に至るま ・でを見守ることである 。つま
り、
そこに書かれていることぱを通して 、生き生き
と表象化しながら読み味わ っていくことである
。
て横げたの上をわたり始める 。普段の少年なら 、け
して 、そんなことはやらなか
が、
っ
っただろうということ
「ものすごくむきにな っていましたから」とい
う表現に裏返しとして含まれている 。むきになると
、
人は理性を失い 、とんでもない行動をしがちである
。
このように 、少年の無謀な行為を一般化して感じ取
船員たちは 、ど っとわらいこけました 。少年
は、
る子どももいるかも知れない
。
少年の行動がいかに危険であるか 、次に具体的に
まっ かにな って 、ジャケツをぬぎすてると
さるの後を追いかけて 、マストにとびつきまし
述べられる
。
・足でもふみ外そうものなら 、かんぱんにたたきっ
た。
けられて粉みじん
船員たちから笑われたということも手伝 って 、少
年はマストにとびつき 、さるを追いかけ蛤める
「まっ
。
かにな って」という表現から 、目尊心をきず
っけられた少年が差恥心こかられていることがわかる
。
・足をふみ外1 さないとしても
、横げたのはしまで歩
いてい って 、ぼうしを取り 、後もどりしてマスト
まで帰り着くのはむずかしい
。
だれかが 、おそろしさのあまり 、あ っと声をあげ
やがて 、こうした「みんなに見られている」とい
少年はわれに返る 。〔ものすごくむきにな っていた
う少年の意識は少年の行動をみさかいのないものに
とわれを失 っていた(今 、われに返 ったのであるか
していく
ら)とを関係づけて捉えさせる 。〕われに返 った少
。
年は 、下をのぞきこみ 、足元をふらっかせる
。
マストから 、ぼうしの下が っている横げたの
絶体絶命である 。想像カを働かせ 、目撃者の立場
先までは 、1メートル半ぐらいあります 。マス
に立 って少年を見守 っている子どもたちは 、恐ろし
トとロープから手をはなさないかぎり 、ぼうし
くて目をつぶりたいくらいだろう
を取ることはできません
。
。
そのとき 、少年の父親である船長が 、船室か
上の説明の部分は 、さし絵(P28)(P33)を利
ら上が ってきました 。船長は 、かもめをうった
用したり 、図示を取り入れで 、状況をより鮮明に読
めに鉄ぼうを持 っていましたが 、マストの上の
みとらせるようにす孔 ’ 図3
むすこを見ると 、いきなりむすこに鉄ぼうを向
右のように 、図示させて状況
けてさけびました
マスト
を捉えさせるとともに 、1メー
トル半という距離は手を伸して
も手が届かない距離であるこ 一と
。
「海へ 、海へすぐとびこむんだ 。うっぞ 。」
さる
少年は 、ふらふらと足元をふらつかせました
回一 プ
なんのことやらわからないのです
。
。
を確認させるために 、動作化も
「とびこめ 。でないとうっぞ 。一
必要である
そして 、父親が「三 。」とさけぶのとい っしょ
。
_線の文は 、語り手のその
に、
二。
」
少年は 、まっさかさまにとぴこみました
。
状況に対する判断であり 、読み
「少年の父親である船長が」という部分は 、その
手の判断でもある 。そこを受け
て、
工ぱん上の
横げた
ぼうし
人物を少年の父親としての立場と的確な判断カと行
動カを持つ船長としての立場の二面性を持つ人物像
ところが 、少年は 、もの
として描き出している 。したが って 、作品はその人
すごくむきにな っていまし
物を少年の父親として読むと同時に船長として読む
たから 、マストから 、手を
ことを 、つま 」り 、複眼的に見ることを要求している
はなすと横げたの上をわたり始めました
。
といえる
。
「マストのむすこを見ると 、いきなりむすこに鉄
少年は 、前後のみさかいもなくなり 、手をはなし
ぼうを向けてさけびました 。」という描写は 、瞬時
船長の心情も外側から推し量るとい った活動を
にして状況を把握し 、判断を下した船長の人物像を
え、
迫真的に描き出したところである
することになろう
。
子どもたちは意外な父親の行動にとまどい 、衡撃
を受け’ るだけに
、父親である船長の行動の意味を理
解した時 、感動す ・るに違いない 。そして 、「船長で
。
ひとり読みで子どもたちが持 った問いを表現を押
さえながらの話し合いを中心に読み深めさせることが
大切であろう
。
・ある父親が」でなく「父親である船長が」・ の深い意
昧を捉えさせる 藺ことぱ選びの厳しさも合わせて感
V.
終 わ り に
じ取らせる 。しかも<船長 一少年><父親 一むすこ>
文学の読みの授業は 、子どもたちの人間形成に深
とするのが通常であるが 、<船長 一むすこ><父親 一
い影響を与える 。なぜなら 、文学の読みは 、結論に
少年>と対応を変えた表現にな っている意昧を問う
捉われず 、人が具体的に生きる過程を読み ・そこに
ことも読み深めにつながるに違い帆区亟
描き出された真実性にふれることである 邊作品を読
部分は 船長がr三 。」とさけ
むとは 、自然や社会や人聞や自分目身などについて
刃小う文にかえて比べさせて ・本文洲 ・かに
再発見することでもある 。そういっ た意味において
「三 。」とさけぶ,
・文
・文章を押さえ
・
、
的確な表現であるかをわからせる 。「父親」という
文学の読みの授業では 、文字
表現によっ て、 少年が父親を信頼してとびこむこと
書かれている事がらを 、生き生きと目の前に思い描
、
ができたその気持ちが伝わ ってくるし 、「とびこん
くような活動 、また 、思い浮かべた事がらなどと自
でくれ 。」と願う・ 祈りにも似た父親の気持ちも伝わ
分の経験を関係づけて 、感想 ・批判 ・意見などを出
てくるのではないだろうか
っ
すような活動 、作中人物の生き方を目分自身と関わ っ
。
て捉えるなど 、文学を読むという本質と見あ った学
船長は
、’
これを見ると
しめられたように
、.
、1
習活動を中心に組むことが大切である 。そして 、ひ
まるで何かにのどを
とつ然大きな声でうめきだ
とりひとりの子どもが読み取 ったことを出し合い
、
ないているところを人に見
話し合う中で 、子どもたちは 、教室の仲間たちと感
られないように 、自分の船室へかけこんだので
性をひびかせ合いながら二そうした体験の積み重ね
した
によっ
しました 。そし・ て、
。
て、
であろう
この最後の場面は 、むすこが回生したことを見届
人間そのものに対する認識を深めていく
。
一つ一っの作品の内容上からも 、その特質を押さ
けた途端 、大きな緊張から解放されて 、父親として
え同時に子どもたちの実態をふまえ 、内的活動をより
の愛情が「まるで何かにのどをしめられた ’ように
活発化するための学習活動を創造的に工夫しつつ
一
・
=という表現
文学の授業をよ 」り身近で楽しいものにすることが望
に表面化するのだが 、船長としての威厳を保とうと
まれる 。子どもたちの生きる力を育てることを展望
「ないているところを人に見られないように自分の
しつつ 、実践を積み上げていきたい
とっ然大きな声でうめきだしました
。」
。
船室へかけこんだ」のである 価ここもまさしく 、父
親である船長としての人間像を読みとる表現とな
っ
ている 。前の場面の船長の行動と対比させて人間像
を読みとらせる
引 用’ 文 献
市毛勝雄 文学的文章で何を教えるか 明治図書
浜本純逸 講座 ・現代の文学教育(蔓)新光閣書店
。
波多野誼余夫 .雑誌 国語の授業N皿53 一光社
この作晶は 、終始一貫 、第三者の視点で描かれる
主な参考文献
という特質がある 。したが って 、船長の心情に入’ り
高橋さやか 言語 ・文学教育と人格形成 新読書社
決め手
浜本純逸 戦後文学教育方法論史 明治図書
がなく不向きであろう 。人物の行動を通して ・読み
平井英一 一言売総合法の読解学習訓練 一光社
手である子どもたち自身が 、’ 人物の心情を想像する
林田哲治 感性をゆさぶる文学の授業 一光社
込んで表象化するような学習活動は表現上
、・
。
あるいは 、人物の行動に意味づけし 、感想を持つと
浜本緯逸他作品別文学教育実践史事典 明治図書
いうような学習活動が適切であろう 。つまり 、子ど
井上尚美 国語の授業方法論 一光社
もたちは 、目撃者として船長の人物像を外側から捉
猪熊葉子他 講座日本児童文学@ 明治書院