流体に関する定理・法則 , パスカルの原理(Pascal s principle) 連続の法則(law of continuity) 流体の一ケ所に圧力を加えると,流体のすべての点にその圧力がその 太さが一定のガラス管に水を流す場合のように,時間がたっても流れ まま伝達される。これをパスカルの原理,あるいは圧力伝達の法則とい の様子が変わらないような流れを定常流という。定常流においては,流 う。パスカル(B Pascal, 1623∼1662, フランス)によって発見されたとこ 体が途中でよどむことがないから,単位時間に流れる流体の質量はどこ ろから,この名がつけられた。 でも同じである。 断面 A , アルキメデスの原理(Archimedes principle) B 水・油などを満たした容器の中へ物体を入れると,流体は物体を浮き 上がらせるように作用する。この力を浮力という。浮力の大きさは「そ v1 p1 の物体が排除した流体の重さに等しく」かつ,浮力の方向は「排除した流 v2 p2 体の重心を通って鉛直,上方に向かう」。これを,アルキメデスの原理 という。アルキメデス(Archimedes, B.C. 287∼212, ギリシャ )によって 断面積 S 1 発見されたことから,その名がつけられた。 S2 連続の法則(断面A, Bを通過する流量は等しい) 上図に示すように,管の太さが場所によって異なる場合でも,定常流 を得ることは可能である。定常流においては,任意の断面を通過する単 位時間あたりの流量が等しいから,図の断面Aにおける流速をv 1 ,断面 ρ2 積をS 1 ,流体の密度をρ1 とし,断面Bにおけるそれらの値をv2,S2, とすれば, 浮力 重心 液体 ρ1 v 1 S 1 =ρ2 v 2 S 2 の関係が得られる。従って任意の断面について, 流体中の物体に働く浮力 ρv S = const となる。これを連続の法則という。電流についても,連続の法則が成り 立つ。この場合は電流連続の法則という。 非圧縮性流体 (例えば水) では, ρ=constとみなすことができるゆえ, v S = const となって,流速は管の断面積に反比例することがわかる。 , , ベルヌーイの定理(Bernoulli s theorem) ストークスの抵抗法則(Stokes law of resistance) 先へ行くにつれて太くなった管が斜めにおかれ,その中を密度ρの流 渦が生じない緩やかな流れ,すなわちレイノルズ数の小さな流れの場合 体が定常流(連続の法則参照)となって流れているとする。このような管 には,粘性率ηの流体中を半径 a の球が速度 v で動くとき,この球には, の任意の一点Pにおいて断面Sを考え,その面に加わる圧力をp,面の中 心における速度をv,地面からその面の中心までの距離を h とすると, F = 6πηa v 1 p + ─ ρv 2 +ρgh = const 2 なる粘性抵抗が働く。すなわち「低速流体中の物体が受ける抵抗は,粘 の関係が得られる。これをベルヌーイの定理という。 抵抗法則という。レイノルズ数がおよそ1より小さい場合に成立する。 性係数,流速,および物体の大きさに比例する」。これをストークスの pを静圧,1/2ρv 2を動圧,ρghを位置圧と呼ぶ。この定理は,流体の運 動におけるエネルギー保存則を表すものにほかならない。ベルヌーイ (D. Bernoulli, 1700∼1782,スイス)によって明らかにされたので,この 名が付けられた。 , ハーゲン-ポアズイユの法則(Hagen-Poiseuille s law) 半径が a,長さが l の円管を通して粘性(流体どうしの間に摩擦が働 ベルヌーイの定理を応 くような流体の性質) のある流体が一定時間内に流れる量 Q は, 用した例として,石油ス Q = トーブに灯油を補給する ための灯油ポンプをはじ πa 4 p 1 −p 2 ・ 8 ηl で与えられる。つまり「Qは半径 a の 4 乗に比例し,管の両端の圧力勾配 めとして水流ポンプ,噴 に比例し,管の長さ l に反比例し,粘性係数ηに反比例する」 。 (p 1 − p 2) 霧器等がある。 これをハーゲン-ポアズイユの法則という。たんにポアズイユの法則と 呼ばれることもある。 , トリチェリーの定理(Torricelli s theorem) 小さな穴のあいた容器に入れた液体が,その穴から流れでる時の速度 v ハーゲン(G. Hagen)が1839年に,ポアズイユ( J. Poiseuille)が1840年 に,それぞれ独自に,実験的に見い出した。 は,液体の粘性を無視すれば, , ニュートンの粘性法則(Newton s law of viscosity) v= 2gh で与えられる。ただし,g は重力の加速度,h は液面から穴までの距離で 水のようにサラッとした流体が管中を流れる場合は管壁と流体との接 ある。 触面に摩擦力が働くだけで,液体内部には摩擦力はほとんど作用しない。 しかし油のようなねばりのある流体においては,流体どうしの間に摩擦 力が働く。流体のこのような性質を粘性という。 粘性流体が管を流れる場合,管中心(管軸)と管壁近くとでは流速が異 なり,図に示すように,管軸から管壁に向かって進むにつれて流速が減 地面に近い穴から 噴出する水ほど 遠くまで飛ぶ 少する。そこで流速 v の径方向の変化の割合を dv/dr と表すと,流体 間に働く力 F(流れの方向と同じ方向) と dv/dr の間には, F=η dv dr なる関係が成立する。ただしηは粘性係数である。これをニュートンの 粘性法則という。 これをトリチェリーの定理という。トリチェリー (E. Torricelli, 1608∼ 1647,イタリア) によって見い出されたのでその名がつけられた。 管壁 r , ニュートンの抵抗法則(Newton s law of resistance) 管軸 渦が生ずるような速い流れ,すなわちレイノルズ数の大きな流れの場 0 流速 v 合には,粘性力が慣性力に対して無視できるようになり,流体中の物体 に働く抵抗力Fは, F=C ρv 2 2 S で与えられる。ただしρは流体の密度,v は流体と物体との間の相対速度, S は物体の面積,C は抵抗係数である。すなわち, 「高速流体中の物体が 受ける抵抗力は流体の密度,速度の2乗,および物体の断面積に比例す る」。これをニュートンの抵抗法則という。 速度がある値を超えると,流速の二乗に比例して抵抗が急に増加する のは,流体の慣性によって物体の背後に真空部分が生じ,進行方向と逆 の方向に引き戻される力が働くためであるといわれている。このように して生ずる抵抗を慣性抵抗という。渦は,この慣性抵抗に打ち勝つため になされた仕事エネルギーによって生ずると考えられている。 管壁 −r 管路を流れる流体の流速と径方向の距離との関係 レイノルズの相似法則(Reynolds, law of similitude) 壁法則(law of wall) 流体の流れの中に物体をおいたとき,その物体に働く力および流体の 滑らかな管路を流体が流れる場合,管壁近くと管軸付近とでは流れの 運動は,慣性力,圧力,粘性力の三つの力のつりあいによってきまる。 様子が異なる。その主なる原因は,管壁付近を流れる流体には,物体の 次の図に示すように, 「流れと物体の境界の形が相似である二つの流れ 種類や粘性,流速の大小にかかわりなく,管壁との間に必ず摩擦力が働 がある時,レイノルズ数が等しければ,物体の大きさや流体の種類が異 くことにある。プラントル(L. Prandtl, 1875∼1953,ドイツ)は, 「管壁近 なっても,これら二つの流れは力学的に相似である」 。これをレイノル くの流速分布は,流体の密度ρ,動粘性係数ν,壁面摩擦応力γ0 ,壁 ズの相似法則という。レイノルズ(O. Reynolds, 1842∼1912, イギリス) からの距離χなどによってきまり,管全体の流れを表す量であるレイノ によって見い出された。 ルズ数には無関係になる」ことを明らかにした。これをプラントルの壁 法則という。 式で表すと, 流線 v (χ) v = f (λ)= f 流線 物体 物体 ( νv χ) λ=v /ν・χと定義される量である。こ となる。ただし,v = τ0 /ρ, れに対し,v (χ)は管壁から距離χだけ管軸方向に進んだ点の平均流速で (a) 大きい物体が流体 中におかれた場合 (b) 小さい物体が流体 中におかれた場合 ある。 摩擦応力τ0 をdyn/cm2,密度ρをg/cm3として考えれば τ0 /ρの次 元はcm/sとなり,速度の次元を有することになるので,式の左辺は無 レイノルズの相似法則を用いれば,大規模な現象を,実験室の小規模 次元量となる。同様にしてλは無次元量となる。したがって上の式は流 なモデル実験によって解明することができる。すなわち,幾何学的寸法 速そのものを与えるのではなく,管壁からの距離とともに流速が変化す の比率および力学的倍率を乗ずることにより,実物による実験と等価な る割合を示すものに他ならない。 結果が得られる。粘性が支配的な管路の流れや物体の受ける抵抗などの プラントルの名にちなんでつけられた無次元量にプラントル数P r があ 模擬実験はレイノルズの相似法則に従う。 る。 レイノルズ数Reとは,レイノルズによって次のように定義された無次 Pr= 元量である。 ρaU 慣性力 aU Q Re = = η = ν = πaν 粘性力 ηC p ν k =κ ただしηは粘性係数,C p は定圧比熱,kは熱伝導率,νは動粘性係数,κ は温度伝導率である。プラントル数は,相似法則と同様の方法で,異な る二つの流体の特性を比較する場合に有用となる。 ただしaは流体が流れる管の半径,Uは管断面についての平均流速(U= ,ρは流体の密度,ηは粘性係数,νは動粘性係数(ν Q/πa 2,Q:流量) =η/ρ)である。したがってレイノルズ数が大きいということは,粘性 力が慣性力に対して無視できるような高速の流れであることを意味する。 レイノルズ数は層流と乱流の判定に利用される。層流とは,流れが整 然と層をなし,流線が交差することがない流れをいう。管径が細く,か つ流速が遅い場合になりたつ。乱流とは,流線が交差し,渦が生ずるよ うな乱れた流れをいう。管径が太く,かつ流速が大きい場合に生ずる。 速度欠損則(velocity defect law) 壁法則と対照的な法則である。滑らかな管路を流れる流体においては, 管壁との間に摩擦力が生ずるために,管壁付近と管軸付近とでは流れの 様子に差が生ずる。速度欠損則は管軸付近の速度分布を与える法則であ る。カルマン(T.V.Kármán,1881∼1963,ハンガリー)は「管軸付近の流 速分布は管径,管の両端に加わる圧力差,密度などによってきまり,管 壁の摩擦応力などの局部的な機構と無関係になる」ことを明らかにした。 これをカルマンの速度欠損則という。 式で表せば, (r) U max −v = f v (a( r τ0 / ρ となる。ただし,v は と定義される量である。v (r)は管壁から距 離 r だけ管軸方向に進んだ点の平均流速,Umaxは最大流速,a は管の半 ρは流体の密度である。v は速度の次元を有する 径,τ0 は壁面摩擦応力, ので上の式の左辺は無次元量となり,径方向の距離と流速との関係が得 られる。 管路の抵抗則 流体が流れる円管路の摩擦抵抗の大きさは,次式のような無次元量, 抵抗係数 f によって表される。 f =− 1 D dp dx 1 ρU o 2 2 ただし,dp/dxは流れの方向の圧力勾配,Dは管の直径, ρは流体の密度, U o は管断面についての平均流速(U o =4Q/πD 2,Q:流量)である。圧 力の勾配に負号がついているのは,圧力が高い方から圧力の低い方へ, すなわち,圧力が減少する方向に流体が流れるからである。 ハーゲン - ポアズイユ流れ(粘性流体が円管路を流れる場合)の抵抗係 数 f は, f = 64 Re で与えられる。ただしReはレイノルズ数である。 滑らかな円管路を粘性流体が高速(レイノルズ数が大きい)で流れる場 合の抵抗係数 f は, 1 f =2.0 log10 UoD ν f −0.8 で与えられる。ただしνは動粘性係数である。 粗い円管路の場合は, 1 f =−2.0 log10 Ks +1.14 D で与えられる。ただしK s は管壁の粗度を表す係数であり,ふるいの目の 大きさ(例えば100メッシュというような大きさ) をもってこれを表す。 以上の抵抗係数を与える諸式を総称して管路の抵抗則という。 1/7乗則 管路の中を流体が流れるとき,管壁の粗滑にはかかわりなく,一般に 管軸付近と管壁付近とでは,その流速が異なる。つまり径方向の位置に よって各々流速が異なる。したがって管軸あるいは管壁の流速を基準に して径方向の各部の流速を表せば,管路の流れの様子が把握できて便利 である。このような流速表示法を,流速分布則という。 滑らかな管面を有する管路の場合には壁法則 (管壁付近の流速を基準に とる) あるいは速度欠損則 (管軸付近の最大流速を基準にとる) が適用され る。滑面,粗面の両方に適用できる分布則として対数分布則がある。 ここに述べる1/7乗則もまた管壁の粗滑にかかわりなく適用できる分 布則の一つであり,実験的に求められたものである。管軸における最大 流速をUmax,管半径をaとすると,管壁から距離xだけ管軸方向に進ん だ点の流速v(x)は, v (x) x = a Umax 1 n ( ( で与えられる。1/n乗の形で表されることからベキ乗流速分布則と呼ば れる。 滑らかな面を有する管の場合にはn=7となることから1/7乗則とよば れる。nの値はレイノルズ数Reの増加とともに増加し,近似的に, n = 2log 10 Re で与えられる。 10
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