香りの教室PDF

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ヴィジュアルだけでは、伝えきれないもの。
たとえば、普段、何気なく目にする朝のワンシーン。
暮らしの豊かさを象徴するご覧のような光景から、一切の香りが取除かれてしまったとしたら・・・。
想像してみてください。それは何とも味気ない、潤いに欠ける時間、そして空間となってしまうのでは
ないでしょうか。それほどに香りは、私たちの暮らしに欠かせないものなのです。
そして同時に私たちの暮らしをより豊かにできる、不思議なチカラをもつ存在なのです。
私たち小川香料は、そんな香りを取り扱い、それを製品(香料)として社会に提供している会社です。
目で見ることも、触れて確かめることさえもできない、そんなとらえどころのない香りですが、
香料として生み出されることによって、私たちに身近な数多くの商品に
プラスアルファの価値を与えているのです。そんな香料の世界を少しだけ身近に
感じていただくための「香りの教室」
、早速開講することにしましょう。
香りの
特別講義
第一教室
香りは人々の心を動かし、
その記憶に問いかけます。
赤色をイメージできる香りをつくってほしい。そんなオー
ダーがあったとします。あなたなら、どんな香りを想起し、
どのようにその香りを実現しようとしますか?私たちフレ
ーバリスト(調香師)は、香りを構成する数多くの要素(キ
ャラクター)について学んでいますが、そうした化学的な
知識だけでは、お客様の要求を満たすことが困難なケー
心理学
スにも遭遇します。そんなときに頼りにするのは、自分自
身の感性です。「赤色」というキーワードから、どのよう
に香りの世界を広げていけるのか、食品としての魅力を
付与できるか。人々の記憶や心に訴える力をもった香りを
創り出すために、自ら心豊かに過ごすことも大切なこと
だと感じています。そうして研ぎ澄まされた感性によって、
新しい記憶に残る香りを創造すること。それがフレーバ
リストとしての究極の目標です。
大谷 明子
フレーバー研究開発部 フレーバリスト
大谷の休日は実に多忙だ。カメラを抱えてファインダー越しの街の風景を切り取り、ミュージカルを楽しみ、中国の伝統的な弦楽器「二胡」のレッスン
にも通う。心を動かすものを組み合わせ、新たな感覚を生み出すこと。それは香りを創り出すことに通じるという。
香りの
特別講義
第二教室
私にとって香りは、社会との
架け橋なのだと思います。
新しい香りへのニーズを探り、食品メーカーなどのものづ
くりの起点となること。それが私たち営業担当の仕事で
す。そこで私が大切にしているのは、市場のトレンドや時
代背景を分析し、今後の推移について自分なりにしっか
りとした考えや展望を持つこと。その上でマーケットに対
して、どんな仕掛けが可能なのか、独自のストーリーを組
マーケティング
み立てながら、行動するようにしています。幸い、私たち
が相手にするのは、同じようにマーケットを注意深く見つ
める人たち。自らの考えをぶつけ、その反応を見極めな
がら、新たな発想のヒントを得ることもできます。私にとっ
てマーケティングとは、お客様との Win-Win の関係構築
のなかで、自己実現を図ること。香りの世界に身を置く
一人のビジネスマンとして、次に仕掛けるべきことは何か
を考え続けることだと思うのです。
槙 聖勝
フレーバー営業部 セールスマネジャー
学生時代からアロマやハーブティなどを嗜み、香りを生活のなかに取り入れてきたという槙。そんな香りへの興味が現在につながっている。同時に根っ
からのアウトドア志向で、日本アルプスの縦走やロッククライミングなども経験した。しかし今、そんな槙の一番の関心は、愛娘に向けられている。
香りの
特別講義
第三教室
香りを創り出す技術と
香りを演出する技術。
居酒屋で飲む酎ハイを思い浮べてください。これにグレ
ープフルーツを搾ると、さわやかな香りが立ち上がり、さ
らにおいしさが際立ちます。よく見ると絞った果皮から出
た精油が表面に浮いていますね。この精油部分にシトラ
スの香りがつまっています。しかし、そのままでは水には
溶けません。これを飲料などに可溶化させるために、私
が担当する乳化の技術が使われています。またレモンな
どの果皮を絞るといい香りがしますが、そのまま放置す
テクノロジー
ると香りが変化します。これがシトラスの弱点。いい香り
を持続させるために不安定な要素を除き、足りないキャ
ラクターを添加し再構築します。これが調香の技術。こう
して再構築された香りを、乳化の技術によって可溶化す
るのです。香りを創り出す技術と香りを演出する技術とが
相まって、おいしさを社会に提供できるのです。
飯降 康行
素材技術研究所 リサーチャー
さまざまな部署との連携を図りながら、香りの可能性を追究する飯降だが、休日には、お子さんとべったり、近くの公園で遊んで過ごすことが多いという。
学生時代にはサッカー部に所属。小川香料の有志で結成したチームと地元のチームに所属。フットサルで汗を流すことがリフレッシュにつながる。
図説 工場見学
香りの生 産 拠 点を訪ねる。
研究所で開発された「香り」を、それぞれの
つくば事業所の CO 2 超臨界抽出装置。
液体でも気体でもないという
超臨界状態の二酸化炭素を溶媒とし、
コーヒーやお茶など様々な天然物から
フレッシュな風味の天然香料を
抽出している。
処方指示をもとに製品化するのが、生産部門
の役割です。岡山工場、つくば事業所という
2 つの生産拠点で、どのようなプロセスを経て
「香り」がつくり出され、製品として出荷されて
いくのか、見ていくことにしましょう。
原料入荷
製造
香料は抽出、合成、蒸留、ろ過、
濃縮などのさまざまな工程を
組み合わせて作られる。
岡山工場の合成棟に設置された
精密蒸留塔、この精密蒸留塔は
蒸留を利用した分離装置だ。
精留部を利用して、
粗油から必要な成分だけを
取り出して純度の高いピュアな
香料原料に精製している。
品質管理
つくば事業所の製造現場は、
製造実行システム(MES)によって
管理されている。タッチパネル操作により、
複雑な製法や
多種多様な原料配合の
一括管理だけでなく、
製造後の事跡も
完全にトレースできることで、
万全の品質管理体制を
実現している。
これがつくば事業所が誇る立体自動倉庫だ。
保管された原料や製品が自動運転により
製造現場や出荷場へと運ばれていく。
原料入荷から製品出荷までの
物流プロセスが統合管理されている。
完成した製品は、
研究所で開発した処方に沿って
忠実に製造されたものであるか
厳しい品質管理を経て出荷されて行く。
ガスクロマトグラフィーは、
香料の配合状態の分析に用いられ、
配合された香り成分の種類と
それぞれの量を
測定することができる。
製品出荷
機器による物性分析に加えて、
人間の視覚、嗅覚、味覚を駆使した
官能検査も出荷前の重要な検査だ。
視覚により色や形状の違いをチェックして、
嗅覚によって匂いの「質」の判定を行うのが
基本だが、食品香料では、香料を加えた
シロップの風味を見極めるなど、
食品に近いモデル形での味覚による
評価も行われる。
抽出、蒸留などで取り出した成分を配合し、
製品化する段階で、香料はその用途によって
粉末状、ペースト状、乳化状など様々な状態に加工される。
岡山工場のスプレードライヤーは、
液状の素材を高温の熱風の中に噴霧し、粉末化する装置。
In s i d e
出会い
人事部の紹介で、先輩営業社員から直接、話を聞く機会を得ました。
S t o r y
そのときの話の中で、香料を扱うという仕事に、提案性を感じることができたのです。
香料ビジネスの起点
香料ビジネスの最前線、営業担当として活躍する
そのインパクトが大きかったです。
小川香料を選んだ理由の第一は、やはり先輩との出会いでした。
奥田 豊は、フレーバー営業部で食品業界を担当している。
フレーバー営業部
香料のビジネスにおいて営業担当は、
新たなビジネスチャンスを発掘し、新たな香りを
国際性
社会に提供する、その起点となる役割を担う。
グローバルネットワーク拡大推進の時期で、海外展開に力を入れている印象がありました。
国内香料メーカーでは唯一、アメリカで開催される IFT 主催の食品添加物展に参加するなど、
海外市場へのプロモーション活動も積極的に行っています。
国際部
技術力
見たこともない、さまざまな技術のある会社という印象が強くありました。
小川香料という選択。
実際、独自に開発した分析技術や小川香料が起点となって
デビューした商品もあります。
先輩たちはどのように
市場の流れを先取りするような技術が次々と生まれているのです。
香料のビジネスに注目したのか。
フレーバー研究開発部
小川香料への入社の決め手は
何だったのか。
小川香料という選択。
それぞれの理由を聞いてみよう。
多様性
最終品メーカーにはない、仕事の幅広さがあるだろうと期待していました。
調香をはじめ、アプリケーション、抽出、製剤化、分析、合成など、
さまざまな技術に触れ、それらを駆使して
奥田 豊
製品をつくり出すことに、手応えを感じています。
Yu t a k a O k u d a
岡山工場生産技術部
農学部生物応用化学科
卒。研究職よりも営業職、
それが奥田の就職活動方
達成感
針だった。大学で学んだ化
自分の携わった仕事から新しい商品が生まれるという達成感があります。
関連の企業をまわるなかで
また特定の食品に限らず、幅広い研究対象を選ぶことができ、新しい分野を知ることによって、
学の知識が生かせる食品
小川香料と出会う。休日は
渋谷や代官山にショッピン
視野が広がったと感じています。
グに出かけ、気になるカフ
健康素材研究所
ェは必ずチェックする。
チャレンジ精神
業界 3 位というポジションと、世の中の流れに合わせて
次々と新しいものに取り組んでいくという社長の姿勢に、
「攻め」のスタイルで
伸びていく会社なのだと感じました。
このスタイルは現在でも変わらず、ぜひアピールしたいと思います。
フレーバー営業部
I
n s i d e
S t o r y
香料ビジネスの起点
疾駆
で果汁価格が高騰しているらしい」
というものだ。
奥田は、すでにこの時から、この
奥田は、この情報を提示し「より安価で果汁感を引
提案の成功を予感していたのかも
き立たせる素材もご提案させていただきましょうか」
しれない。そして、その予感が、確
大手飲料メーカーを担当するようになって 2 年。
と問いかける。さすがに担当者からの明快な返答
信へと変わったのは、翌々日の水
奥田はその日も朝から、このクライアントの研究所
はなかったが、その表情は、奥田に今回の提案の
曜日。同じく舞浜研究所の一室で、
を訪ね、新しい商品開発に関する動きをいち早く
方向性を確信させるものだった。
「それも合わせて
試作品の評価を行ったときだった。
察知すべく、顔見知りの担当者への挨拶、情報交
ご提案させていただきます」
という言葉を残して、
評価した複数の試作品のなかの
換も兼ねて、数人の研究者にヒアリングを重ねて
奥田はその場を辞去した。
一つに、奥田がイメージした風味、
ビジネスの種子は、開発現場にある。
だから奥田は、走る、走る、走る。
いた。そんな奥田の背後から声がかかる。
「相談
したいことがある」
という。ヒアリングを終えてすぐ
味覚、そして香りが十分に表現さ
課題
れたものがあった。
「うん、これなら
行ける」奥田は、快哉を叫んでいた。同時に、そん
たのだろうか。あれほどの自信が揺らぎはじめてい
「じつは、新しいオレンジ系のフレーバーを探して
その開発依頼の真意をどう読むか。
焦点を絞って、課題解決に臨むべきだ。
な奥田を見守る研究員の表情も、
達成感にあふれ、
る。奥田は、そんな自分を鼓舞するために、あえて
いるんだ。奥田さんのところでも、いくつかご提案
奥田は営業車に戻ると、すぐに舞浜研究所の
心無しか紅潮していた。
舞浜研究所に電話を入れた。研究員への謝辞を
いただけないだろうか」
と担当者。
開発リーダーに電話をかける。
「今日が月曜日だか
にその開発担当者のもとへと向かった。
ビジネスチャンスの到来である。ただ、あまりにも
ら、急げば金曜日には、試作品を持って提案に臨
漠然とした依頼に困惑しながらも、より具体的な要
めるかもしれない」
という奥田の目論見だった。そ
望やイメージを引き出しにかかる。しかし、事は新
述べるためである。
「資料も試作品もいただきまし
原点
た。これから提案に向かいます。結果連絡はまだ
先になると思いますが、ありがとうございました」
のためには、すぐに打ち合せを行う必要があった。
不安など振り払い、自らの信念に従い動く。
それが、奥田。そして、もう一杯。
商品の開発に関すること。担当者の口は堅い。こ
そんな奥田の状況を理解した開発リーダーは、快
提案の日を迎え、奥田は、研究員が用意してくれ
ためて自分の役割を理解する。自信を持って今日
の時、奥田はその日の朝に、購買部から入手した
く奥田の要請に応じた。
たプレゼンテーション資料に目を通していた。課題
の提案に臨み、新たなビジネスの起点になること。
情報を反芻していた。
「アメリカのハリケーンの影響
「その案件なら、適任者がいる。これから概要は
の確認、提案の概要と効果、その効果が得られる
それが奥田たち営業担当者の責務なのだ。奥田
伝えておくから、すぐにこちらに向かってくれ」
化学的な根拠が、
整理されている。完璧だと感じた。
にもう迷いはなかった。クライアントの開発チーフ
そんな研究所サイドの対応を頼もしく感じなが
しかし不安要素が皆無というわけではない。依頼
を交えた席で、少しも怯むことはなかった。綿密
ら、奥田はステアリングを握った。舞浜研究所に着
を受けた日の奥田の直感が、はたして的を得てい
に練り上げたプレゼンテーションへの反応も上々。
試作品の試飲では「ぜひ試してみたい」
という声も
くと、開発リーダーの指名を受けた女性研究員が
予想外にも受付で出迎えてくれた。しかしその対
応は、彼女の意欲の表れでもあった。
期待に満ちた研究員の声を聞き、奥田は、あら
I
n
s
i d e
V i e
w
聞けた。そのひと言を研究員にも聞かせたいと奥
田は思った。
「概要はリーダーから聞いています。果汁にボリュ
私たちが創りだした香りを
デビューさせてください。
ーム感を付与するのなら、揮発性の高い成分だけ
私たち開発担当は、奥田さんたちが入手した情報を
声も上の空に、今日の余韻を楽しむ。いつもなら二
ではなく、不揮発性の味に効く素材が必要ですね」
もとに、新たな香りづくりに取り組んでいきます。お
杯で潮時だが、奥田は次のジョッキを注文した。
客様が求める香りのイメージを正しく共有し、営業
と開発とが一体となってこそ、新しい香りを創造し
ていけるのだと思います。
奥 田 豊 のある一日
小川香料ならではの提案
08:40
09:30
10:30
11:00
15:00
16:00
17:30
出社。まずは
メールチェック
から
業務スタート
翌日以降の
顧客アポイント
提案書を
最終確認し
外出
A社訪問、
フレーバーの提案
商品開発担当者、
研究者など数名と
打ち合せ、
ヒアリングなど
A社を
出る
帰社。すぐに
翌日の
舞浜研究所に
提案文書の
電話連絡
作成
その後、
業務依頼書などの
書類をとりまとめ
19:00
力を発揮するために、互い
退社。後輩を
誘って、神田の
大衆酒場へ
の連携の大切さを強く意
識するようになりました。
フレーバー研究開発部
堤野 香
その日の夜、神田駅前の大衆酒場。仲間たちの