長期留置カテーテル患者の管理

特集
排尿ケアを極める−床上での排泄ケア〜ベストプラクティスを探る
長期留置カテーテル患者の管理
堀江竜弥 HORIE Tatsuya
佐藤和佳子 SATO
Wakako
山形大学医学部看護学科
膀胱留置カテーテル挿入者の実態調査の現状
*2009 年,日本老年看護学会が実施した,東北6 県と群馬県内の調査によれば,カテーテルを挿入され
ている1,081 名のうち,約7 割が半年以上留置している.
*挿入理由として,一時的な留置や絶対的な適応のある場合以外に,尿失禁対応という場合もあり,理由
が不明確なまま使用されているケースが存在する.
発生する主な合併症とその対策
*尿路感染症:カテーテルを長期間留置すると尿路感染症が発生することは避けがたく,可能なかぎり短
期間の使用に努めることが最も重要である.
*尿路結石:尿路感染を予防しつつ,水分摂取を促して尿を濃縮させずに尿流量を維持する,浮遊物の付
着しにくいカテーテルを選択する,体動を促す.
*膀胱委縮:膀胱留置カテーテルを早期に抜去する.
*膀胱刺激症状:適切な太さのカテーテルや親水性コーティングのカテーテル,バルーン先端部の短いカ
テーテルを選択する.
*カテーテル周囲からの尿漏れ:カテーテルのねじれや屈曲が生じないようにルートを調整する,適切な
太さのカテーテルを選択する.
長期留置カテーテルの管理
*カテーテル挿入部の消毒:中期・長期の留置の場合,毎日の外尿道口の消毒や陰茎・亀頭部に巻きつけ
るガーゼ交換は必要なく,シャワー浴など通常の身体保清のみでよい.
*交換頻度:基本的に,カテーテルの閉塞が疑われたときに交換を行うのがよい.
*水分摂取:脱水予防を目的として,心不全管理などによる水分制限がないかぎりは,1 日1,000ml 以上
の尿量が得られるような水分摂取が勧められる.
*固定方法:尿道に圧力がかからないよう,カテーテルに若干の緩みをもたせること,カテーテルが屈曲
しないことが重要.
*膀胱洗浄の必要性:長期留置カテーテル患者に対する膀胱洗浄の感染予防効果は明らかになっていな
い.
*予防的抗菌薬服用の必要性:持続的な抗菌薬の服用は耐性菌を発生させ,重症感染症の併発や院内感染
の問題となる可能性がある.定期的な検尿と細菌学的検査を行いながら経過観察し,急性増悪時に対応
することが望ましい.
●
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長期留置カテーテル患者のカテーテル抜去
*カテーテルの抜去は,適切なアセスメントとケアの実施により可能となる.
*「はたして,今,この患者に留置カテーテルは必要だろうか?」
「抜去することはできないだろうか?」
という問いを常にもつことが必要である.
はじめに
膀胱にカテーテルが長期にわたり留置されていることは,自然排尿を促す観点から鑑みれば
矛盾が生じている.この長期にわたる留置カテーテルの問題は,病態機能学的な問題だけでは
なく,オムツ交換の簡便化・尿失禁対応・マンパワー不足など,社会的な理由で挿入されてい
ることも考えられる.
しかしながら,長期にわたる膀胱留置カテーテル管理に関する根拠については,ほとんど見
当たらず,実態調査も少ない 1)のが現状である.その原因として身体的要因,社会的要因,環
境的要因など複雑多様であり,検証が困難なためではないかと考えられる.
本稿では,長期留置カテーテル管理の実態,発生する合併症とその対策,長期留置カテーテ
ル患者のカテーテル抜去に関して,可能なかぎりのエビデンスをもとに検討する.
膀胱留置カテーテル挿入者の実態調査の現状
特別養護老人ホーム(特養)・介護老人保健施設(老健)を対象としたカテーテル留置率調
査によれば,1 9 9 9 年愛知県内では特養 1 . 0 %・老健 1 . 5 % 2 ),2 0 0 4 年三重県内では特養
1.6 %・老健2.6 % 3)だが,2009 年日本老年看護学会が実施した東北6 県と群馬県内の調査で
は特養・老健ともに5.0 % 4)と報告している.
また,カテーテルの留置期間をみると,同調査においては,挿入されている1,081 名のうち,
半年以上の患者が約7 割を占めている 4).
さらに,専門医による調査によると,3 〜4 割の施設入居者でカテーテル抜去が可能である
と判断されている 2).
一方,カテーテル挿入の場の多くは病院であり,その理由として一時的な留置や末期がん,
尿排出障害など絶対的な適応がある反面,尿失禁対応という場合もあり 2),理由が不明確なま
ま使用されているケースが存在する.留置された状態で退院する患者も少なくないことより,
カテーテル留置者数の推移は,看護師の排尿管理・排尿ケアに対する実践力が反映されている
といっても過言ではない.
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●
発生する主な合併症とその対策
知識
長期にわたるカテーテルの留置はさまざまな問題を生じさせるので,医学的見解から妥当と
判断される状況(笊)以外は早期に抜去をすることが重要である.留置が長期にわたる場合は,
可能なかぎり生理的に自然な状態を維持しながら適切に管理することが肝要で,そのためには
合併症の予防に努める必要がある.ここでは,代表的な合併症として,尿路感染症,尿路結石,
膀胱萎縮,膀胱刺激症状,カテーテル周囲からの尿漏れを取り上げる.
尿路感染症
カテーテルによる尿路感染症の実態報告
尿路感染症は,米国では院内感染症の約35 〜45 %を占め,うちカテーテル由来のものは急
性期病院では70 〜88 %を占めるといわれている 5,6).また,米国国立病院感染サーベイランス
システム(NNIS)においては,1970 年から1995 年の間,一貫しておよそ40 %という値が続
いている 5).さらに,尿路感染症の66 〜86 %がカテーテルを主体とする尿道における医療器
具によるものであるという報告があり 7),特に米国の急性期病院における尿路感染症の70 〜
88 %が短期間の尿道カテーテル留置によるといわれている 6).
また,カテーテル留置により,細菌尿の出現率が1 日で3 〜10 %ずつ上昇し,閉鎖式バッグ
を用いても,1 週間で約半数に,2 週間で90 %を超えて細菌尿が検出されるといわれており 8),
長期留置カテーテル患者の場合,そのほとんどに細菌尿が存在すると予測できる.
留置カテーテルに関連した尿路感染症の発生に最も関連するものは留置期間である.留置期
間の長期化で発生する尿路感染症の多くは臨床症状を伴わない無症候性細菌感染であり,この
状態に尿路上皮の損傷やカテーテルの閉塞による尿路の高圧化が加わると,疼痛や血尿,発熱
などの症状を伴う症候性尿路感染症になる.
• 重篤または末期の病状にあり,排泄ケアによる苦痛や負担
を防ぐことが必要である
• 慢性疾患の急性増悪や急性疾患の発症のため,正確な尿量
測定が必要である
• 脊髄疾患などにより直腸膀胱機能障害があり,カテーテル
管理が必要である
• 前立腺肥大など尿道の閉塞があり,自尿の排出が困難で
ある
カテーテル関連の尿路感染症の起因と発生経路
細菌感染の発生経路には,①カテーテル挿入時に外陰
部や尿道内の細菌を膀胱内へ押し込むことによるもの,②
尿道とカテーテルとの間隙を細菌が逆行性に移動すること
によるもの,③カテーテルと蓄尿バッグとの接続部から
細菌が侵入することによるもの,④蓄尿バッグの尿排出
口から細菌が侵入することによるものがある.感染様式に
笊 膀胱留置カテーテルが医学的見解から妥当と判断さ
れる状況
(日本老年看護学会編:安全かつ効果的な膀胱留置カテーテル抜
去のためのケアプロトコールの試行および改訂版の作成.平成
20 年度老人保健健康増進等事業 高齢者の胃ろう閉鎖,膀胱留
置カテーテル抜去を安全かつ効果的に実施するためのアセスメ
ント・ケアプログラムの開発に関する調査研究事業報告書
2009 ; 81. 4)より)
●
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は,患者自身の皮膚常在菌や腸内細菌叢から感染する内因
性経路と,医療者の手指や汚染された器具および薬剤を介
した外因性経路がある 9).
カテーテルを挿入,留置する際の無菌操作と管理が感
染率を減少させることが報告されており,適切な手技が不
排尿ケアを極める−床上での排泄ケア〜ベストプラクティスを探る 特集
可欠である.
尿路結石
尿中に溶解している塩類が尿中の細菌によりアルカリ化すると結晶化しやすく,カテーテル
の内腔やカテーテルの表面に付着する.この付着した結晶によりカテーテルが閉塞し,また膀
胱内に落下した結晶から膀胱結石を生じる.結石が生じると感染が増悪化し,さらに結石が増
大するという悪循環に陥ってしまう.血尿や膀胱刺激症状,頻回なカテーテルの閉塞,バルー
ンの自然破裂などが膀胱結石を形成している可能性があり,これらがみられたらエコーやX 線
による確認を行い,必要に応じて内視鏡的治療を行う 9).
予防としては,尿路感染を予防することを前提としつつ,水分摂取を促して尿を濃縮させず
に尿流量を維持する,浮遊物の付着しにくいカテーテルを選択する,体動を促すことが考えら
れる 10).また,尿がアルカリ性となり結石を生じさせないよう,尿の酸性化を図るためにクラ
ンベリージュースを飲用する方法もある.
膀胱萎縮
カテーテルの長期留置により,膀胱の伸縮機能が低下し,廃用性に膀胱が萎縮することがあ
る.また,カテーテルの膀胱粘膜刺激により,慢性炎症変化を引き起こし,膀胱の排尿筋の伸
展性が減退し,膀胱容量が減少することがある.そのため,本来の膀胱の働きである蓄尿機能
と排尿機能が廃絶してしまう可能性がある.
予防は,膀胱留置カテーテルの早期抜去のみである 10,12).
膀胱刺激症状
カテーテルによる膀胱や尿道の粘膜刺激,尿路感染による膀胱刺激が原因となって,膀胱が
無抑制収縮を引き起こして尿漏れを引き起こすことがある.刺激症状への対応として,消炎鎮
痛薬や抗コリン薬を使用することもある 9).
予防は,適切な太さのカテーテルや親水性コーティングのカテーテル,バルーン先端部の短
いカテーテルを選択することである.尿漏れに対してカテーテルのサイズを太くすることは,
刺激を強めるのでかえって逆効果である.尿漏れに対しては,バルーンの充填量,ルートの屈
曲や閉塞の有無を確認し,カテーテルの固定位置を変更するなどがあげられる 10,11).
カテーテル周囲からの尿漏れ
尿漏れの原因として,尿道カテーテルあるいは導尿チューブの圧迫・屈曲・ねじれによる機
械的閉塞,血尿による血塊や炎症性産物による尿道カテーテル内の閉塞,膀胱排尿筋の不随意
収縮,尿道粘膜や周囲組織の萎縮などが考えられる.
予防としては,膀胱刺激症状と同様,ねじれや屈曲が生じないようにルートを調整する,適
切な太さのカテーテルを選択する,固定位置の調整などがあげられる.細いカテーテルを用い
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ると,尿漏れのリスクが高まるのではと考えがちだが,尿道括約筋の機能が正常であれば尿漏
れの心配はないといわれている 10-12).
長期留置カテーテルの管理
知識
上に示した主な合併症以外にも,長期留置カテーテルの管理に際して留意すべき事項がある.
ここでは,看護援助の代表的なものとして,カテーテル挿入部の消毒,交換頻度,水分摂取,
固定方法,膀胱洗浄・予防的抗菌薬服用の必要性について解説する.
カテーテル挿入部の消毒について
留置カテーテル装着患者への尿路感染予防のための外尿道口周囲のケアは,さまざまな根拠
に基づいた多種の方法で実施されていることが多い.国内外の論文やガイドラインをまとめた
報告では,1 週間以内のカテーテル留置の場合,ポピドンヨードによる消毒や石けん洗浄の実
施,抗菌薬軟膏の塗布は尿路感染の予防に効果があるといえず,このような処置は細菌尿の出
現に関連するという観点から,望ましくないと結論づけている 13).
また,7 〜30 日の中期,および30 日以上の長期留置の場合,外尿道口の処置に根拠とすべ
き研究はないともいわれている 13).よって,毎日の外尿道口の消毒や陰茎・亀頭部に巻きつけ
るガーゼ交換が必要というわけではなく,シャワー浴など通常の身体保清のみでよいとされて
いる 13).
交換頻度について
膀胱留置カテーテルの交換頻度に関しては,明確な根拠を示した報告はないのが現状である.
定期的なカテーテル交換の際に,尿道粘膜を損傷するリスク,細菌を膀胱内に押し込むことに
よる尿路感染症発生リスクなどもあり,基本的にはカテーテルの閉塞が疑われたときに交換を
行うのがよいとされている 12).
患者の尿の混濁具合にもよるが,結石の発生やランニングチューブ内におけるバイオフィル
ム形成といったリスクもあるので,状況をみながら交換をするべきである.
水分の摂取について
水分摂取は,主に飲水,食事摂取(食事中の水分)
,酸化分解によって補充される水分であ
る 14)が,高齢者の場合,食事摂取量は成人より減少することに伴い,得られる水分も減少する
ので,飲水による水分摂取を多くする必要がある.しかしながら,年齢に特化した水分出納に
ついての報告はなく,一般的に脱水予防を目的とした水分摂取が勧められているのみである.
高齢者の場合,体重に占める細胞内液量割合は成人と比べて10 %程度減少するとされてお
り 15),体内水分保持が容易でないためである.ただし,過剰な水分摂取は,腎による尿濃縮機
●
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能の低下により電解質を排泄してしまう可能性があるので,心不全管理などによる水分制限が
ないかぎりは,1 日1,000ml 以上の尿量が得られるように水分摂取を勧める.対象に適した水
分摂取は尿流を保ち,尿路感染や尿路結石予防に有効である.
留置カテーテルの固定について
膀胱留置カテーテルは膀胱内でバルーンを膨らませているので,バルーンの水分消失や破裂
以外に尿道からの自然な抜去はないが,カテーテルが動くことによる尿道粘膜などへの機械的
刺激の予防,瘻孔形成の予防に留置カテーテルの固定は重要である.
したがって,解剖学的に尿道に圧力がかからないよう,カテーテルに若干の緩みをもたせる
こと,カテーテルが屈曲しないことが重要であり,男性の場合は陰餒角部の潰瘍形成を予防す
る観点から腹部に,女性の場合は大腿に固定するのが基本である(笆)11).
また,テープ自体による腹部・大腿への刺激も潰瘍を形成する可能性があるので,刺激性が
少ないテープの使用,固定位置をずらすなどの対応が必要である.
膀胱洗浄・予防的抗菌薬服用の必要性
膀胱洗浄は,血塊などによるカテーテルの閉塞が予想される場合,尿混濁により頻回にカテ
ーテル閉塞が生じている場合以外は実施を避けるべきである.長期留置カテーテル患者に対す
る膀胱洗浄の感染予防効果は明らかになっていない.むしろ尿道カテーテルと導尿チューブの
連結部を外すことは尿路感染症を助長する可能性がある.
女性
男性
陰 角部の潰瘍形成を予防
直腸膀胱窩
膀胱
潰瘍
陰茎
尿道
笆 留置カテーテルの固定位置
(市川裕美:膀胱内留置カテーテル法.徹底ガイド
編.総合医学社; 2 0 0 6 .p . 1 1 0 - 1 1 1 . より)
排尿ケア Q & A :後藤百万,渡邉順子
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●
目標
膀胱留置カテーテル長期装着者の発見
使用は一時的には尿路感染が軽減されるが,抗菌薬の中
生活機能の包括的アセスメントと
看護目標,総合援助方針の確認
止により再度尿路感染が出現する.持続的な抗菌薬の使
①
判膀
断胱
す留
る置
カ
テ
ー
テ
ル
抜
去
の
可
否
を
②
膀胱留置カテーテル装着理由と管理方法,排尿機能の
アセスメント(医学的見解からみた適応判断の確認)
③
セルフケア能力
本人・家族の意向
環 境
膀胱留置カテーテル抜去の可否の判断(排尿管理方針の決定)
カテーテル抜去可
Ⅲ
用は,耐性菌を発生させ,重症感染症の併発や院内感染
の問題となる可能性がある.無症候性複雑性尿路感染症
は,必ずしも治療の対象ではなく,定期的な検尿と細菌
④
テ を 排Ⅱ
ル立尿
抜 案,管
去 理
の膀方
準 胱 針,
備留
が置看
整カ護
うテ計
ー画
カ安
テ全
ーで
テ効
ル果
抜的
去な
が膀
で胱
き留
る置
また,長期留置による慢性尿路感染に対し,抗菌薬の
アルゴリズム
Ⅰ
カテーテル抜去不可
学的検査を行いながら経過観察し,急性増悪時に対応す
ることが望ましい 12,16).
①
膀胱留置カテーテル抜去に向けた看護計画の立案
長期留置カテーテル患者の
カテーテル抜去
②
本人・家族へ排尿管理方針の提案・同意の取得
①
前述したように,合併症のリスクを考えれば,長期化
排尿機能についての事前アセスメント
(尿量・水分出納量,尿路感染の有無)
するほど抜去のタイミングを逸してしまうといえるが,
②
排尿行動についての事前アセスメントによる
身体面・心理面・環境の整備
適切なアセスメントとケアの実施により,留置カテーテ
③
ル抜去が可能となりうる.日本老年看護学会は平成 19,
膀胱留置カテーテルの抜去
20 年度老人保健健康増進等事業による調査研究の一環と
Ⅳ
ら対抜
の処去
離 し,後
脱 の
を膀下
図胱部
る留尿
置路
カ症
テ状
ーに
テ適
ル切
かに
Ⅴ
と可
排能
尿な
行か
動ぎ
のり
獲の
得生
を理
支的
援排
す尿
る機
能
①
して,
「安全かつ効果的な膀胱留置カテーテル抜去に向け
排尿(量)日誌によるモニタリング
(抜去後,尿意の確認を少なくとも2時間ごとにチェック)
自尿あり
たケアプロトコール」
(笳)を作成した 4).留置カテーテ
自尿なし
水分飲用,腹壁状況の
観察後,排尿誘導をし
ても自尿がない場合
②-a
②-b
②-c
下部尿路症状(尿失禁, 下部尿路症状(尿失禁,
導
残尿感など)なし
残尿感など)あり
尿
①-b
①-a
排尿行動の安定
下部尿路症状に
応じたケア
間欠導尿,
またはカテーテル留置の選択
②-b
②-a
可能なかぎりの生理的な排尿機能
と排尿行動の獲得に向けたケア
留置中の適切なケア
(日本老年看護学会編:安全かつ効果的な膀胱留置カテーテル
抜去のためのケアプロトコールの試行および改訂版の作成.平
成 2 0 年度老人保健健康増進等事業 高齢者の胃ろう閉鎖,膀
胱留置カテーテル抜去を安全かつ効果的に実施するためのアセ
スメント・ケアプログラムの開発に関する調査研究事業報告
書; 2 0 0 9 : 4 7 - 8 6 . 4 )より)
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機能の維持,移動(移乗)
,バランス保持,指の巧緻運動,
認知機能など,生活機能を最も統合させた要素をもって
いる.
本プロトコールは,膀胱留置カテーテルをなんらかの
理由で長期に使用していた高齢者を対象に,生活機能の
包括的評価および排尿管理について適切なアセスメント
を行ったうえで,可能なかぎりの生理的排尿機能と排尿
行動の自立の獲得を,安全に不安なく促進するための支
QOLの向上
(総合援助方針・看護目標の到達)
笳 不必要な膀胱留置カテーテルから安全に効果的に離
脱し,QOL の向上と本人の意向に沿った生活支援を
実現するためのケアプロトコール(改訂版)
●
ルのない,自然な排尿行動は,繊細極まる生理的な排尿
EBNURSING Vol.9 No.4 2009
援方法を示している.そして,そのプロセスにあっては,
本人の自己決定を尊重し,QOL の向上をめざすと定義し
ている.この定義をもとに,
「Ⅰ.膀胱留置カテーテル抜
去の可否を判断する」
「Ⅱ.排尿管理方針・看護計画を立
案,膀胱留置カテーテル抜去の準備が整う」
「Ⅲ.安全で
効果的な膀胱留置カテーテル抜去ができる」
「Ⅳ.抜去後
の下部尿路症状に適切に対処し,膀胱留置カテーテルか
排尿ケアを極める−床上での排泄ケア〜ベストプラクティスを探る 特集
らの離脱を図る」
「Ⅴ.可能なかぎりの生理的排尿機能と排尿行動の獲得を支援する」の5 段
階を設定し,各段階において適切なアセスメントとケアを実施するとしている.
毎日継続できる無理のない排尿行動の獲得を支援するためには,膀胱留置カテーテル抜去の
可否の判断が肝要であり,さらに対象者のもつ生活機能,膀胱留置カテーテルの装着理由と管
理方法,排尿機能,移動を中心としたセルフケア能力,本人および家族の意向,活用可能な資
源を考慮した環境など,包括的かつ多角的にアセスメント・分析することを重視する.分析に
より明確となった課題は,解決策を導き出すうえで必要不可欠であるといえる.また,抜去後
に予測される排尿状態について的確なアセスメントを行うためには,抜去する前に水分出納量
や尿路感染症の有無の把握も重要である.
膀胱留置カテーテルを抜去した後は,排尿(量)日誌を用いたモニタリングを綿密に行えば,
ある程度は患者の排尿機能が把握でき,尿失禁を含む下部尿路症状を推定できる.出現する症
状に合わせて排尿誘導や環境調整,場合によっては薬物療法なども含め,チームでのかかわり
が必要となる.特に,排尿筋の収縮力が低下している場合には,残尿が多くなりやすく,それ
により尿路感染や尿失禁悪化の危険性があるので,医師との連携も不可欠である.
膀胱留置カテーテル抜去後,
「可能なかぎりの生理的な排尿機能と排尿行動の自立の獲得」
は,対象者の心に自信を取り戻させ,コミュニケーションや日常生活活動が積極的になるばか
りでなく,援助する医療・介護職にも達成感をもたらす.援助者が「はたして,今,この患者
に留置カテーテルは必要だろうか?」
「抜去することはできないだろうか?」という問いを常
にもつことが最も重要である.
本稿で取り上げた文献の検索方法
1.検索方法
蘆医学中央雑誌
キーワード:留置カテーテル,尿管
文献
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: 1215-1223.
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: 207-222.
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4) 日本老年看護学会編:安全かつ効果的な膀胱留置カテーテル抜去のためのケアプロトコールの試行および改訂版の作成.
平成 20 年度老人保健健康増進等事業 高齢者の胃ろう閉鎖,膀胱留置カテーテル抜去を安全かつ効果的に実施するた
めのアセスメント・ケアプログラムの開発に関する調査研究事業報告書 2009 ; 47-86.
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