群馬県野生動物調査・対策報告会（２００８年度） 2009.3.1 カワ ウの餌魚種選好性 ～カワウが好む餌メニューと は～ 群 馬県水産試 験場 田中 英樹 【はじ め に】 カ ワウ Pha la crocor ax ca rbo (ペ リ カン 目 ウ 科)は餌 魚種 にこ だわ りが なく 、 採 餌効率 を 優先 し、 そ の場所 で最も利 用し 易い （捕らえ易 い）魚を 捕食 して いる と 考えら れてい る。 し かし ながら 、 こ れを 裏付 ける 科 学的 デ ー タ は殆 ど なく 、 その 採食生 態等に 関す る 基礎 的な知見 は甚だ 不足 し てい る 。 魚類 に 対す る 食害 に つ いて は被 害評価 の精 度を 高め る と とも に 、採 食特 性を 把握 し た 上で 適切 な防除 対策 を 行う 必要 があ る 。 そこ で本 研究で はカ ワ ウ の単独 及び 集 団採 餌下 の魚 種選好性に つ いて、 飼育 試験によ り 明らか に し たので報告 する 。 【材料及び 方法】 試験 施設と し て場内 のコ ン クリ ート 製屋 内池（６ ×８ ×1.8m）を 用い 、 井戸水を 少量 通水し なが ら、 水深は １ mと し た。 ま た 、カ ワ ウの 休憩場 と して 発砲ス チロ ー ルで浮 力を 付 け た浮 島（１ ×１ m）を 池内 に１ つ設 置し た 。 供試鳥 は野 外の採 餌経 験があ る 保護 さ れた カワ ウ ５ 個体で あ り、 餌 魚種と し て全 長15㎝ 前後の ア ユ 、ヤ マ メ、 コ イの 各30尾 ず つ 、計 90尾を １ 回の 試験に 用い た。 試 験方法は カワ ウ１ 個体ま たは５ 個体を 同時 に試験 池内へ放鳥 し、 その 後60分間の 採餌行動を 観 察し た 。 24時間 後に カ ワ ウ と 魚を 試 験池 から 取り 揚 げ 、 生残 魚種 お よ び 尾数 等を 記 録 し た 。 な お、 単 独採餌 と し て１ 個体 あた り ３ 回ず つ の延べ 1 5回 、集 団採餌 につ い ては ３ 回試験 を 行った 。 【結果及び 考察】 カワ ウ は放鳥 直後から 、遊 泳或い は潜水 し ながら水 中に入 れた頭 部 を 頻繁に 動か し、 視覚 に よ って魚 を 探索し た 。 魚を 発見 す る と 俊敏に 捕ら え、 水面 に浮 上 し た後 に く わえた 魚を 頭部 から 呑み込 ん だ。 採餌 行動は 試験開 始後、 概ね 15～30分の間 が活発 で、 その 後 は浮島 上で濡 れ た 羽を 十分に 乾かし ながら、 採餌要求 に応 じ て散発 的に行 われた（図１ ）。 １ 単独採餌 下 カ ワウ が接 近す る と ア ユ と ヤ マメ は素 早く 逃避 す る 一方、 コ イ の多 く は極度 に怯 え、 池の角 に 螺集す る 異常遊 泳を 示し たがこ れ を選 択的に 捕食し ない カワ ウ も認め られた 。 結果的に はコ イ 、 ヤ マメ、 ア ユ の順で 捕食数が 有意 に 多く （ Ｐ ＜0.01）（図２ ）、 魚種毎の 突進速 度と 同じ 傾向に あっ た。 ま た、 カ ワ ウの 採餌 行動 は個 体差 が大 きく 、鳥 間の 捕食 尾数 には 有意 な差 があ り （ Ｐ ＜ 0.0 5）、 捕 食頻度が 高い 魚種も 異なった （図３ ）。 カワ ウの 突進速 度 は魚の それに 勝る が 、動物 の身 体能力の 高さ と捕 獲成功率 は必ず し も一致し ない 傾 向に あ る。 （世界最 速動物の チー ター でさ え も狩り の成功率は 50％ 程度） ２ 集団採餌 下 複 数の カワ ウ に 曝さ れる と 多 く の場 合、 全 魚種 が 異 常遊泳 を 示し 、 正常 な逃 避行動 を と れな い状 態に あ ったが 、コ イの捕 食数は 有意に 低か った（ Ｐ ＜0.01）（図４ ）。 ま た 、５ 個 体を 同時に 放 5 群馬県野生動物調査・対策報告会（２００８年度） 2009.3.1 鳥し た 場合 、 それ ぞ れの 個体は 行動 を 共に せず 、 いわ ゆ る 「集 団 で 漁」を す る こ と は なか った 。 以上 の結果 から、 魚が 正常 な 逃避行 動を と る 場合、 カ ワウ は採 餌効率 を 優先 し 最も 利用し 易 い魚 を 補食 して い る と考 えら れる 。 一方 、魚 種間 の捕ら え易さ が 等し い 条件 下に なって も、 魚種 間の 収容 密度 と 捕食 割合 は必 ず し も一 致し な かった 。 こ の こ と か ら、 カ ワウ の 餌選 好性 が単 に 捕食のし 易 さ だけ では説明 できない こ と が 示唆さ れた 。 【具体的デ － タ 】 25 １ 羽 あ た り の 捕 食 尾 数 20 カワウ １羽 「 ・ 」 「箱」 「上 の線」 15 10 5 0 図１ 試験風 景 （ 魚群 に近づくカ ワウ） 平均値 標 準偏差 最大 値 アユ ヤマメ コイ 魚種 図 ２ カ ワ ウ１羽 の魚 種 別捕 食 数 尾 数 25 20 15 Ｂ Ｒ Ｗ Ｇ 10 ＢＬ １ 羽 20 あ た り 15 の 捕 10 食 尾 数 5 5 カワウ５羽混合 0 0 アユ ヤマメ アユ コイ ヤマメ コイ 魚種 魚種 図４ カ ワウ５羽同時放鳥における １ 羽あたりの魚種別捕食数 図３ カ ワウの 個体 別捕食 数 B、R 、W 、G 、BLはカ ワウの個 体記号 6
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