群馬県野生動物調査・対策報告会(2008年度) 2009.3.1 ツキノワグマの保護管理の取り組み 群馬県環境森林部自然環境課 坂庭浩之 1 はじめに ツキノ ワグマは また、世界的に見ても、絶滅 が心配され ている野生動物で、IUCN(国際自然保護連合)のレッドリスト に も、「危急種(VU:絶滅の危険が増大している種/絶滅危惧II類)」とされ、ツキノワグ マは本州最大の大型哺乳類で、繁 殖率が低いことから適切な保護管理が必要とされている。 しかし、その一方で群馬県内では農林業被害(図1)や人身被害を発生させるため有害捕獲(図2)が行われている現状 にある。 このように、ツキノワグマについては保護と捕獲のバランスをとりながら、保護管理を進める必要のある難し種であり、他の 野生動物とその性格を異にしている。 図1 図2 捕獲頭 数の推移 (捕獲 頭数) 農 林業被 害の推 移 350 300000 300 金 250000 額 ( 200000 250 150000 千 円 100000 200 ) 150 50000 100 0 H8 H9 H10 H11 H12 H13 H14 H15 H16 H17 H18 H19 50 年度 0 S 25 農 業被害額 S30 S35 S40 S 45 林 業被害額 S50 狩猟 2 生息エリア 県内には、長野県からつながる県南西部エリアから、越後三国に分布 する個体群として広く生息している(図3)。 このため、広いエリアの中には人里近くの生息地もあり、果樹などの食 物資源を利用するこをと学習したツキノワグマが、農業被害を発生させる 状況が生まれている。そのような場所においては目撃数も多く、有害捕 獲数も多い地域となっている。 3 イノシシの生息域との関係 群馬県内には広くイノシシも生息している。昨年度のイノシシの捕獲位 置をメッシュに置き換えると県内に広く分布していることが分かる(図4)。 イノシシを捕獲するため農地周辺で多くの「くくりわな」が設置されてい る。 この生息メッシュは、一部の低標高地帯(太田市など)を除くと、ツキノワ グマの生息メッシュとほぼ一致しており、イノシシのわなにツキノワグマが 捕獲さえれる状況(写真1)が発生する(錯誤捕獲)。 S55 S60 H2 H7 図3 ツ キノワグマ生息メッシュ 図4 写真1 「くくりわな」は、その構 造がシンプルで設置コス トが少額であることから、 手軽にできる捕獲対策と して普及している。 本年度においては ツキノ ワグ マ及びニホ ンカ モシ カの錯誤捕獲が発生して いる。 イノシシ生息メッシュ 16 H12 有害 捕獲 H17 (年 度) 群馬県野生動物調査・対策報告会(2008年度) 2009.3.1 4 錯誤捕獲への取り組み 鳥獣保護法により定めた、第10次鳥獣保護事業計画において、錯誤捕獲した動物への対応として再度の放獣に努め るよう定めている。中小型獣類については、特別な処置なくワナからの解放が可能となるが、ツキノワグマにおいては、安 全確保の面から麻酔による不動化の後に放獣作業を行うこととなる。 群馬県においては、平成19年度末に麻酔銃の整備を行い、平成20年度より職員による放獣作業を開始した。 不動化に使用する鎮静・麻酔薬として、キシラジン及びケタミンを使用している。この組み合わせは、安全性が高く麻酔 銃による投薬によっても安定した不動化が得られることが知られている。 写真2 写真3 放獣に際しては、不動 化の後、所用の測定を行 い、イヤータグを装着す る。わなによる外傷があ る場合については、縫 合・投薬を行い放獣して いる(写真2)。 放獣地の選定は、ツキ ノワグマが安定的に生息 し人家への再出没のない 場所を選定し、バレルト ラップを車両に積載し移 動する(写真3)。 写真4 錯誤捕獲の発生は、「くくりわな」によるものだけでなく、 捕獲おり(はこわな)による場合も発生する。 畑周辺に設置された捕獲オリはイノシシの捕獲に有効な対策 となっているが、ツキノワグマの生息地においては、脱出口 (天井部に穴を開けた構造)を設けたおりの設置を推進してい る。 図5 全 国の非捕 殺頭数 (H20速報値 ) 0 5 10 15 20 25 30 35 頭数 岩手 山形 栃木 群馬 東京 新潟 富山 石川 福井 山梨 長野 岐阜 滋賀 京都 兵庫 奈良 島根 岡山 広島 山口 ツキノワグマの放獣対策には、全国的にすす られている。特に、長野県では組織的にその取 り組みが行われており、平成20年度の速報値 においても最も多い頭数を非捕殺対応してい る。群馬県も京都府に次いで多くの非捕殺対応 している状況にある(図5)。 図6 5 ヘアートラップによる個体群調査 ツキノワグマの生息状況を把握するため、ツキノワ グマの体毛を採取するための有刺鉄線を設置したト ラップを設置している(図6)。 トラップの中心部にツキノワグマの誘因となる餌を 下げ、そこに寄ってくるツキノワグマの体毛を絡め取 る構造となっている。 この調査により、個体群の状況を把握し今後の保 護管理の為に必要な情報を把握している。 17 Natural Environment Division
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