高齢者雇用事例編 東京経営者協会 実務シリーズ No 2012-A-003

高齢者雇用事例編
事例③
東京経営者協会 実務シリーズ
No 2012-A-003
凸版印刷株式会社
再雇用後も人事考課を実施し、やる気を高める
1.企業の概要
会社名
凸版印刷株式会社
設 立
明治 33 年(1900 年)
従業員数
単体 8,633 名 連結 48,197 名 (2011 年 3 月末現在)
主要な事業内容
証券・カード、商業印刷、出版印刷、パッケージ、高機能部材、建装材、ディスプレイ関連、
半導体関連業
資本金
1,049 億 8,600 万円 (2011 年 3 月末現在)
連結売上高
1 兆 5,564 億 5,700 万円
定年制度
60 歳定年制
2.60 歳以降の雇用形態
定年年齢は 60 歳。60 歳の誕生日に退職し、翌日から継続雇用制度により再雇用となる。雇
用契約は 1 年ごとに更新し、最高雇用年齢は原則 65 歳となっている。
60 歳以降の雇用形態は「シニア社員」「定年嘱託」「マイスター社員」に分かれている。い
ずれもフルタイム勤務であり、それぞれの雇用形態に採用条件がある。これら 3 つの雇用形態
以外に、本人のスキルや職務遂行能力に応じて、パート・アルバイト(給与は時給制、契約期
間は個々に調整)として再雇用するケースもある。個々の能力に応じて雇用形態を変えている
のが特徴である。
定年を迎える社員のうち 6~7 割が再雇用され、そのうちシニア社員が 60~70%、残りが定年
嘱託、パート・アルバイトである。マイスター社員は現在のところ数名が選任されている。定
年嘱託はほぼ全員がホワイトカラーである。
(1)シニア社員
①採用条件
シニア社員の採用条件は、①満 59 歳到達時点における直近 2 年の本俸改定考課のいずれか一
方が S・A・B・C・D のうち「B」以上であること、②産業医の診断の結果、就業が可能な健康状
態であること、である。なお、本俸改定考課とは年に一度、基本給である本俸を改定する際の
基準となる考課のことである。
②処遇
給与は、退職時の本俸(基本給)の 60%(上限 28 万/月、下限 18 万/月)、その他、残業手
当と嘱託基準の賞与が支給される。賞与は考課成績(3 段階)が反映した額となる。全体で年
1
収は 350 万~400 万円程度となるため、在職老齢年金の活用はない。考課の成績によって賞与
の増加はあるが、昇給はない。
③契約更新と人事考課制度
契約期間は 1 年単位で最長 65 歳到達日までである。
シニア社員には半期ごとの人事考課と、それらを含め総合的に年間の業績を評価する契約期
間満了時の人事考課を行っている。
考課要素には「業績評価」と「行動評価」の 2 項目がある。「業績評価」は仕事の成果・業
績により評価し、設定した目標に対する達成度や、仕事の大きさ・質などに基づく。「行動評
価」はコンピテンシーをもとに評価する。コンピテンシーには①お客様からの信頼、②事業基
盤の強化、③組織力の強化、④企業価値の向上、⑤社会的責任の遂行、などがあり、①から④
はそれぞれ 5 段階、⑤は 2 段階で評価される。この「業績評価」と「行動評価」の 1 年間の考
課平均点に総合的な評価を加えた結果が一定水準以上(30 点中 12 点以上)であれば契約が更
新される。通常、ほとんどの社員が契約更新となる。
また、この半期ごとの考課結果は年 2 回支給の賞与に反映される。
④職務内容と社会保険
基本は本人のスキルが活用できる職種・職場に配置する。原則、凸版印刷での再雇用だが、
本人のスキル等を勘案し、グループ会社で就業するケースも想定している。しかし、実態とし
ては大半が現職継続である。
管理職は 55 歳で役職定年を迎え、職務内容の変更や部署・事業部の配置転換により、60 歳
に向けて徐々に移行していく。処遇の変化も伴った現職継続は、今のところ円滑に運用できて
いるが、今後の課題もある(P4 参照)。
社会保険は、健康保険、厚生年金保険、雇用保険、労災保険は継続加入であり、財形貯蓄な
ど各種福利厚生制度も継続加入できる。
(2)定年嘱託
定年嘱託は、高いレベルの能力を有し、定年退職後もそれらを活かして会社への貢献が期待
できる社員を対象にしている。
給与は、直近の年収の 60%(上限 800 万円/年)を目処にしている。在職老齢年金は加味して
いない。それまでの業務の成果を評価し定年嘱託として再雇用するので、職務内容は現職継続
が基本である。
契約期間は個々に設定しているが、他と同様に 1 年更新が一般的である。契約更新にあたっ
ては、特定の基準は設けず、それまでの業績と今後の期待値に基づき個々に判断する。シニア
社員に適用している人事考課制度も用いていない。社会保険、各種福利厚生はシニア社員と同
様の取扱い。
(3)マイスター社員
それぞれの分野での第一人者的な存在で、業績への多大な貢献が期待される社員から選任さ
れる。マイスターはその高い見識や広い人脈を活かし、新しいビジネスモデルの構築や新技術
の開発・水平展開において中心的な役割を果たすほか、若手社員の育成や技能伝承など、幅広
2
く活躍している。
賃金形態は年俸制で、当初は定年退職時の年収を目安として設定する。契約期間は 1 年更新
を原則とし、過年度の業績に応じて年俸額の改定を行う場合もある。社会保険、各種福利厚生
はシニア社員と同様の取扱いである。
シニア社員
採用条件
定年嘱託
・満 59 歳到達時点における直近 2 年
の本俸改定考課のいずれか一方が「B」
以上であること。
・産業医の診断の結果、就業が不可と
判断された場合は対象外
マイスター社員
・高いレベルの能力を有し、 ・高い見識や広い人
定年退職後もそれらを活かし 脈を持ち、それぞれ
て会社への貢献が期待できる の分野で第一人者
社員
の社員
・退職時の本俸の 60%(月額 28 万~18
給与処遇
万の範囲)+残業手当+嘱託基準の賞
・直近の年収の 60%を目処
・退職時の年収
・1 年単位で最長 65 歳到達日まで
・個々に設定
同左
・「業績評価」「行動評価」が一定水
・特定の基準は設けず、業績
と今後の期待値に基づき個々
に判断
同左
与
契約期間
契約更新
準以上
社会保険
健康保険、厚生年金保険、雇用保険、
同左
労災保険は継続加入
同左
各種福利厚生
持株会、財形貯蓄など、各種福利厚生
制度は継続加入できる
同左
同左
職務内容
・本人のスキルが活用できる職種・職
場
・原則、凸版印刷での再雇用だが、本
人のスキル等を勘案し、グループ会社
で就業するケースも想定
※実態は現職継続が大半
原則、現職継続
同左
3.キャリア開発の取組み
年金の支給開始年齢引き上げによる高年齢者雇用安定法改正などの要因から、今後社員の平
均年齢が高くなることに伴う労務費負担の増加が懸念される。人員構成の高齢化を見直し、労
務費水準の過度な上昇を抑制する人事施策の必要性が高まっていることから、中高年齢層のキ
ャリア開発と意欲を持って働くことができる場の提供を目指し、以下の施策を検討している。
(1)キャリア選択制度(4 ページ参照)
キャリア選択制度とは管理職を対象に 55 歳到達時点で、
その後の自分のキャリアを選択でき
る仕組みである。自らのキャリアを選択することで、モチベーションの向上やワーク・ライフ・
バランスの推進を図る。
3
歳でいずれかを選択
55
(2)セカンドキャリア開発
55 歳以降のセカンドキャリア期(60 歳以降も含む)への移行に伴い、その前後で本人に求め
られる役割は大きく変化する。特にキャリア選択制度における職務変更を選択した場合の影響
は大きい。この移行を円滑に行い、個々の能力が十分に発揮できるよう、職域と本人の意識の
両面から環境整備を行う。
●職域開発
本人が能力を発揮し、前向きに取り組むことができる職域を新たにリストアップし、それら
の業務に必要なスキル取得のために既存の研修体系を中心に能力開発を強化して行う。
需給調整として職域と人財をデータベース化し、最適なマッチングを図る。
●意識改革
50 歳および 53 歳の全社員を対象に、自己理解や気づきを促すキャリアセミナーを開催し、
一人ひとりが今後のキャリアへの意識を深耕する。
セミナーは、①「キャリア」「ライフ」「マネー」の視点からこれからのキャリアを考える、
②キャリアの自律意識を高め、今後に備える、③受講者の気づきを重視し、意識改革・行動改
革を促す、④取り巻く環境の変化や課題を明確にし、今後の自己研鑽への動機づけをする等の
内容を検討している。
(3)転身支援制度
キャリア選択で退職を選んだ場合、新たなキャリアの準備に必要なサポートを行う。対象者
はキャリア選択制度で退職を選択した社員とする。
4.今後の課題
管理職は 55 歳に役職定年を迎え、60 歳に向けて職務内容の変更や部署・事業部を配置転換
する。徐々に職務内容が移行し、
処遇も変化するため役職定年後の処遇のあり方が課題となる。
モチベーションを下げずに働き続けるためにはどうするべきか、様々な角度からの検討が必要
である。
高齢層になっても業績向上を目指し、一人ひとりが高い意識を持って働けるように、会社と
してメッセージを発信していきたいと考えている。
≪本「高齢者雇用事例編/東京経協 実務シリーズ」に関するお問い合わせ先≫
〒100-0004 東京都千代田区大手町 1-3-2 経団連会館 19 階
経営・労働部(高橋)
TEL:03-3213-4700(代) FAX:03-3213-4711
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