香港のスポーツ用品産業プロファイル

2007 年 1 月
香港のスポーツ用品産業プロファイル
概要
● ワールドカップ 2006 の開催によって世界中でスポーツ用品の売上が増大した。例えば大手
企業がスポンサーを務めるサッカーチームのユニフォームの売上が飛躍的に増大し、サッ
カーボールが全世界で 1,500 万個以上販売された。2008 年の北京オリンピックもスポーツ
用品の需要を増大させるであろう。
● 健康・美容意識の高まりにつれて、ヨガ、エアロビクス、ラテンダンスなどの室内運動の
人気が高まりつつあり、ヨガマットレス、ラバーバンド、ダンス着などの新製品が開発さ
れた。一方、スポーツ教室に通う子供も増えている。このようにこれまで男性中心だった
スポーツ用品の顧客層が女性や子供にまで広まりつつある。
● 技術がスポーツ用品産業を変化させる重要な要因になった。昨年には、MP3/iPod 内蔵のス
ポーツシューズや iGallop などの新技術を利用したスポーツ用品が開発された。また記録
向上のために最新のスポーツ科学の成果を利用してデザインしたり、新素材を用いたスポ
ーツウエアも増えている。
● 香港企業は幅広いスポーツ用品を輸出している。主要カテゴリーとしては、スポーツ用具・
備品、スポーツウェア、スポーツシューズが挙げられる。2006 年 1 月から 10 月にかけてス
ポーツ用品の輸出は安定した動きを見せた。最大の輸出市場は、総輸出高の 36.8%を占める
米国である。
● 香港の多くのスポーツ用品は、海外メーカーやブランド所有者との OEM/ODM 契約に基づい
て輸出されている。大手の OEM/ODM メーカーには、裕元(Yue Yuen)(551)、合俊集團(Smart
Union Group)(2700)、永嘉集團控股(Win Hanverky Holdings Limited)(3322)、新灃集團有
限 公 司 (Symphony Holdings)(1223) 、 恒 寶 利 国 際 控 股 (Hembly International Holdings
Ltd)(3989)、順龍控股(Sino Golf Holdings)(361)などがある。
● カジュアルウエアとスポーツウェアの融合がより顕著になった。若者は、運動をしなくて
もスポーツウェアやスポーツシューズを身に着けるようになった。そのため Puma や adidas
などのスポーツ用品メーカーは、有名ファッションデザイナーがデザインしたファッショ
ンスポーツウェア・ラインを若者市場向けに立ち上げた。
スポーツ用品産業の特徴*
製造企業
商社
企業数
9 ( 2005 年 9 月)
487 (2005 年 12 月)
従業員数
32 (2005 年 9 月)
2,525 (2005 年 12 月)
* 産業統計の対象は香港内の事業活動のみ。水着、ヘルメット、その他のスポーツウエアを除く。
香港企業は、世界中に多種多様なスポーツ用品を輸出している。主要カテゴリーには、スポーツ
用具・備品(全体の 72%)、スポーツウェア(23.6%)、スポーツシューズ(4.6%)がある。スポーツ用
具・備品には、スポーツバッグ、自転車、水上スキー、サーフボード、スケートボード、ゴルフ
用品、釣り具、狩猟用品、テニスラケット、バドミントンラケットなどの幅広い製品が含まれる。
香港は世界有数のスポーツ用品供給地である。香港のスポーツ用品メーカーの多くは、製造拠点
を中国本土に移転している。香港のスポーツウェアメーカーは、諸々の中小産業によって強力に
サポートされている。また強力なアパレル産業が香港に存在していることも、スポーツウェアの
生産に非常に役立っている。たとえば、高品質な糸類、生地、ファスナー、ラベル、その他の素
材を手頃な価格で入手できることが、他のスポーツ用品の生産にも役立っている。素材やパーツ
を容易に調達できることが、香港のスポーツ用品産業の競合優位性となっている。
香港のスポーツ用品の多くが、Reebok、Nike、adidas、Umbra、Timberland、Quiksilver 等の海
外メーカーやブランド所有者との OEM/ODM 契約に基づいて輸出されている。例えば全世界で
adidas の調達を担当する adidas Sourcing Ltd の本社は香港にある。独自の研究開発に基づいて
自社ブランドを開発した香港企業は、Neil Pryde(ウインドサーフィンのセール)、Super-X(スポ
ーツウェア)、Nikko(キャンプ用品)などまだ数社しかない。香港企業のなかには、中国本土にお
いて海外のスポーツ用品・スポーツウェア企業やサッカークラブの代理店や販売代理店を務めて
いるものもある。
香港製スポーツ用品の輸出動向
以下のデータは次の品目(SITC コード)に分類されるスポーツ用品の統計データである。
● スポーツ用具・備品:65822-4、65829、65831-3、65839、65893、71331、74313、78520,79311-2、
79319、82127、83199、87111、87325、87411、88539、88549、88594、89131、89471-9、89942、
89996
● スポーツシューズ: 85121-5
● スポーツウェア: 84119、84219、84310、84410、84561-4、84581、84591-2、84841-5、84849
2004 年
2005 年
2006 年 1~10 月
100 万香港 成長率% 100 万香港 成長率% 100 万香港ド 成長率%
ドル.
国内輸出
ドル.
ル.
723
0
466
-35
384
-1
再輸出
41,604
+6
42,055
+1
35,604
+1
....うち中国本土原産
40,088
+6
40,590
+1
34,323
+1
総輸出高
42,327
+6
42,521
0
35,988
+1
カテゴリー別
2004 年
2005 年
2006 年 1~10 月
シェア%
成長率%
シェア%
成長率%
シェア%
成長率%
スポーツ用具・備品
72.9
+4
73.0
+1
71.9
-1
スポーツウェア
23.9
+16
22.7
-5
23.6
+4
スポーツシューズ
3.2
-6
4.3
+36
4.6
+11
市場別
2004 年
2005 年
2006 年 1~10 月
シェア%
成長率%
シェア%
成長率%
シェア%
成長率%
米国
38.3
+7
38.7
+1
36.8
-4
EU (25)
33.6
+4
32.1
-4
32.2
+1
...英国
8.9
+9
8.1
-9
7.6
-4
....ドイツ
7.4
+5
7.5
+2
7.0
-8
日本
8.9
+8
9.2
+4
9.6
+9
カナダ
3.6
0
3.2
-9
3.5
+8
中国本土
3.9
+6
4.4
+14
5.1
+25
ASEAN
1.9
+20
2.2
+14
2.1
-3
・ オフショア貿易は通常の貿易統計データとして捕捉されていないため、上記の数値は、香港企
業が展開する輸出事業を必ずしも正確に反映していない。
2006 年 1 月から 10 月にかけてスポーツ用品の輸出は安定した動向を見せた。香港スポーツ用品
の最大の輸出市場である米国向けの輸出は 4%減少したが、日本およびカナダ向け輸出は 9%およ
び 8%増大し、一方、中国本土向け輸出は 25%急増した。カテゴリー別では、スポーツ用具・備品
およびスポーツウェアの輸出の伸びが 2006 年 1~10 月にほぼ横ばいであったのに対して、スポ
ーツシューズの輸出は 11%増大した。
香港のスポーツ用品の多くが、Nike、Puma、Umbra、Quiksilver、Wilson 等の海外メーカーやブ
ランド所有者との OEM/ODM 契約に基づいて輸出されている。多くの場合、バイヤーから仕様や製
品デザインの指示を受けているが、サプライチェーンにおいてより多くの価値を生じさせること
ができるよう、製品デザイン、開発、エンジニアリング、モデリング、ツーリング、品質管理等
のサービスを提供する香港企業も増えつつある。
販路
すでに述べたように、大手香港企業数社は自社ブランド製品の輸出を行っている。例えばテント
やナップサックの Nikko やウインドサーフィン用セールの Neil Pryde は海外でも有名である。
こうした大手企業は、販売促進のために海外で販売代理店を指名している。優秀な販売代理店は、
市場に関する重要な情報源であるだけでなく、適切な価格設定戦略の開発にも役立つ。ただし香
港企業は、現地市場の動向に関する優れた知識や、倉庫などの製品関連施設を持つ、定評ある企
業を代理店に選ぶよう注意しなければならない。中国ではスポーツ用品は第 1 階層都市ではショ
ッピングセンター、第 2 および第 3 階層都市では専門店を通じて販売されている。
自社ブランドを持たない香港企業では、ディスカウント店や専門店、輸入商社への卸販売が一般
的な販売方法となっている。米国の Wal-Mart や Target などの大規模ディスカウントチェーンは、
香港の商社からスポーツ用品を仕入れている。また米国には、Sportmart や Sports Authority な
どのスポーツ用品専門の大手チェーンがある。欧州では、Decathlon、Intersports、Go Sport 等
が大手小売企業として有名である。
世界の 2 大スポーツ用品見本市は、米国の Super Show とドイツの ISPO である。ISPO は上海でも
開催されている。香港では毎年、ゴルフウェア EXPO が開催されている。また 2007 年にスポーツ
用品の大規模トレードフェア、第 1 回 Sports Source Asia が香港で開催された。香港貿易発展
局(HKTDC)は、関係企業に貿易使節団や展示会への参加を呼びかけているほか、特定の市場を視
察して新たな取引関係を開拓するために、多数の OEM メーカーを含む香港企業が参加する視察使
節団を組織したり、企業マッチング使節団の派遣なども行っている。
スポーツ用品産業が直面する最大の問題は小売部門の統合である。小売店は「ショップエンター
テインメント」要素を持つ大規模店へとシフトしつつある。メーカーは、チェーン店の Wal-Mart
や専門店チェーンの Sportmart、Foot Locker などの、一握りの強力な小売店と取引をするよう
になってきた。こうした大規模店は、メーカーに値引圧力を与えるだけでなく、在庫リスクもメ
ーカーに転嫁している。
業界動向
一般にスポーツ用品は、特定のスポーツの人気の変化の影響を受けにくいが、流行やファッショ
ンの影響は受けやすい。特定のスポーツ用品市場の成長と衰退を説明する理論のひとつとして、
消費者は年をとると激しいサッカーやテニスではなく、釣りやゴルフ、室内運動器具を好むよう
になるという「ライフサイクル説」がある。スポーツ用品市場では、競争に押されて国際的な統
合が進んでいる。例えば Nike は Converse を買収した。Reebok は 2004 年に Hockey Company を買
収したが、その Reebok も 2005 年夏に adidas に買収された。一方、高級ブランドの LV や Chanel
もスポーツ用品市場に参入している。
資本集約的製品を別にすれば、スポーツ用品は他の消費者製品と同じように、生産販売プロセス
において最も高い付加価値が発生するのは研究開発とマーケティングである。そのため海外の大
手メーカーは、付加価値の低い生産事業を中国、ベトナム、インドネシア、タイなどに移転して
いる。同じように香港企業も、人件費や地代の安い地域に工場を移転させている。海外の大手企
業は、新素材の利用、工学や生体力学、生理学をベースとするデザイン等を軸に研究開発に力を
入れているが、香港にも、R&D 能力の開発を進めている企業がある。
マーケティングに関しては、スポーツ選手とのエンドースメント契約、スポーツイベント関連の
スポンサー契約やライセンス契約が、製品をヒットさせるための重要な要素となる。そのためス
ポーツ用品メーカーのなかには、有名選手やチーム、競技会のスポンサーを務める企業が多い。
こうした有名選手やコーチとの密接な繋がりは、競合優位性として作用する。また選手やコーチ
からの製品に関するフィードバックが研究開発に役立つ場合も多い。
香港製スポーツ用品の主要市場は依然として米国と EU だが、メーカーは成長の著しい中国本土
にも着目している。2004 年現在の中国本土市場の規模は 650 億人民元である。中国本土に広まっ
ているフィットネスの流行が、2008 年の北京オリンピックでさらに加熱し、スポーツ用品の需要
を急増させている。2004 年 6 月に香港証券取引所に上場した李寧(Li Ning)グループは中国で最
も成功した国内スポーツ用品メーカーであり、2,000 店以上の小売店網を通じて 1,000 種類以上
の製品を販売している。Nike や adidas が中国では高級ブランドとしてのポジショニングで訴求
しているのに対して、李寧はカジュアルなブランドイメージを醸成して、草の根レベルの消費者
にアピールしようとしている。中国ではまた、康威(kangwei)、格威特(Gweat)、安踏(ANTA)、帝
王星(Doublestar)などのブランドに人気が集まっている。
CEPA 規定
中国本土と香港間の経済貿易緊密化協定(CEPA)は 2004 年 1 月 1 日に施行され、その後 2004 年か
ら 2007 年にかけて拡大された。2006 年以降、スポーツ用品を含め、CEPA の原産地規則に適合す
るすべての香港原産品を免税で中国本土に輸出できるようになった。
香港原産以外のスポーツ用品は、中国の 2006 年関税率表に基づき、中国本土に輸出される際に
約 12%から 25%の関税が課される。スポーツ用品の原産地基準に関しては、香港貿易産業部の CEPA
ウェブページを参照されたい。
(http://www.tid.gov.hk/english/cepa/index.html)
スポーツ用品の輸出に影響を及ぼす貿易措置
多くのスポーツ用具は、輸入国の安全性や技術基準に適合することが求められる。例えばドイツ
で使用するスポーツ用具は、ドイツ標準化機構(German Standards Institute)が各種技術産業
団体と協力して認証した技術や安全性基準を満たしていなければならない。また製品には、所定
の規制に基づいて必要な表示を行わなければならない。EU と日本は、規制対象化学物質のリスト
を作成しており、これらの物質を消費者向け製品に使用することを禁じている。特に 2007 年 6
月に施行される EU の REACH 規制は、規制対象物質を使用した繊維製品や靴などの輸出に影響を
及ぼすであろう。
企業に社会的責任を求める風潮に押されて、多くの国際スポーツ用品メーカーが倫理にかなった
調達方針を採用している。例えば、多くの大手企業が、自社工場や海外の契約工場の労働環境を
監視するシステムを導入しており、Nike も専属チームを組織して、世界各地の契約工場の労働環
境を監視させている。Reebok は人権重視の生産基準や規制物質方針を採用している。また adidas
も業務基準を導入しており、他の企業もこれらの企業に習っている。
米国では、2003 年貿易法によって(コンテナ)貨物のセキュリティに関して新たな要件が追加され
た。さらに、サプライチェーン全体でセキュリティの確保を求めるテロ防止プログラムが実施さ
れ、これも義務化される可能性がある。
米国と EU では、保護主義の高まりからアパレルや履き物を含む中国製品に対する貿易措置が講
じられている。米国も EU も、中国製ファブリックやアパレルに今でも輸入枠を適用し続けてい
る。さらに EU は、中国製の革製履き物に反ダンピング関税を課している。
製品動向
スポーツ用品分野に見られる新たな動向のひとつとして、カジュアルウエアとスポーツウェアの
融合が挙げられる。最近は運動をするときにスタイリッシュでファッショナブルなウェアを着た
いと考えているスポーツ愛好家が多いことや、カジュアルウエアの代わりとして、またレジャー
目的に、スポーツウェアやスポーツシューズを身に着ける傾向があることから、スポーツウェア
とレジャーウェアを融合させた製品がよく売れている。こうした動向に応え、adidas は有名なフ
ァッションデザイナーの山本耀司と協力して「Y3」というファッションスポーツウェアブランド
を立ち上げた。
最新技術もスポーツ用品産業で重要な役割を果たしている。例えばデザイナーは、ウールやコッ
トンに合成繊維をブレンドして反射率を高めた太陽光線保護繊維など、新繊維や新機能を追求し
ている。各種のボールやゴルフ用品のメーカーは、野球、バレーボール、サッカーボール等に使
用する素材をゴムや PVC からより高級な PU にシフトさせている。ナノ技術も幅広く利用される
ようになるであろう。新素材のほかに、MP3 や iPod などのハイテク装置を組み込んだスポーツシ
ューズやパルスタイマーブラ(心拍数をモニターできる機能付きブラジャー)も開発されている。
記録向上のために、最新のスポーツ科学の成果を利用してデザインされたウェアも増えている。
また iGallop など、屋内で行う「パッシブエクササイズ」用のスポーツ器具も開発されている。
近年、プレイヤー人口の伸びにやや陰りが見られるものの、各種スポーツの中でゴルフが依然と
して成長分野であることに変わりはない。ゴルフ用品は、過去数年間に年平均 14%の成長率を達
成した。またゴルフ用品やゴルフウェアの販売は今後も拡大が期待される。
フィットネスは世界中で流行しており、ヨガやエアロビクス、ラテンダンスの人気も高まりつつ
ある。スポーツ用品メーカーも、このようなスポーツ(特にヨガ)のための各種製品(ウェアやア
クセサリー)を開発している。新しい屋内スポーツ用具としては、フォームローラー、バランス
ディスク、ラバーバンド/チューブ、フィットボール、MBT(マサイ ベアフット テクノロジー)
などがある。こうした動向に伴い、スポーツ用品の女性ユーザーが増大しつつあり、メーカーも
女性用製品の開発により力を入れるようになった。
米国ではハイキング、キャンプ、バックパッキング、ロッククライミング、カヤック、フィッシ
ング(釣り)などのアウトドア活動の人気が高まりつつある。適切なフィットネス効果が得られ
るようポールを使って歩くノーディックウォーキングなどのノーディックフィットネスも、今後
人気が上昇するであろう。ノルディックフィットネスの普及に伴い、手袋などのアイテムの売上
も増大するだろう。