The Dairy Australian ザ・デーリーオーストラリアン

The Dairy Australian
ザ・デーリーオーストラリアン
2012年8月
目次
1.
2.
3.
4.
5.
6.
7.
8.
9.
デーリーオーストラリアからのご挨拶
三菱商事、
タスマニア酪農事業へ共同出資
豪州、マレーシアとのFTAを締結
マレーゴールバン酪農協、
シンガポール事務所を開設
タスマニア州酪農家が画期的な自動搾乳装置を導入
新時代を迎える遺伝子育種技術
東南アジアセミナー最新情報
DA“テストキッチン”コーディネーターアマンダ・メネガッツオ/ Amanda Menegazzo
理想の酪農環境をたずねて
11.
チーズ専門誌「The Cheese Mag」創刊
12.
豪州の生産概況
13.
国際市場概況-2012年8月
あとわずかで春が訪れるこの時期は、酪農家にとって期待に胸が弾
む時期でもあります。
日照時間が伸び、暖かくなり、牧草が元気に成
長する季節を迎えることは、誰にとっても心からの喜びと言えるでし
ょう。
2011/12年度の生乳生産量は前年度に比べ4.3%増の94.9億㍑(速報値)
となり、6月は前年
同月比で3.8%増となりました。ビクトリア州全体で5.1%増(州北部生産地では15%増)
とい
う成長は特筆すべき点だと思います。
またタスマニア州も前年比9.1%増という好成績を残
すことができました。
豪州メーカーの動向では、
ワーナンブールチーズ&バター(WCB)が連邦政府から120万ド
ルの資金援助を受け、南オーストラリア州のミルレル(Mil Lel)工場の拡張工事(総予算680
万ドル)
を進めています。新たに完成する工場では、同社の『グレート・オーシャン・ロードチ
ーズ』のカット・包装作業が主に行われる予定です。同社が大手スーパー、
コールズ(Coles)
との間で締結した5年間の製品供給契約のもと、
この製品は現在、豪州各地のコールズ・ス
ーパーマーケットで販売されています。
また、
フォンテラではハードとチェダーの増産体制
を強化すべく、ビクトリア州スタンホープ(Stanhope)のチーズ製造工場の改修工事(総予
算650万ドル)が進行中です。同社はタスマニア州の二工場(スプレイトン/Spreyton とウ
ィンヤード/Wynyard)
でも、生乳処理と輸出向け製造を拡大するための拡張工事(総予算
600万ドル)
を進めています。
デーリーオーストラリアでは過去数カ月間に、
日本、中国、韓国、東南アジア、中東など重要
市場で情報セミナーを実施しました。貿易促進プログラムの一環であるこうしたセミナー
は、海外のステークホルダーに豪州酪農乳業の最新動向に関する情報を提供し、拡大する
各国市場での豪州の存在感を高める一役を担うものです。2010/11年度には各国で24回
のセミナーを開催し、おかげさまで外食産業、小売、製造、食品卸、政府機関などから合計
1400名以上の参加者を集めることに成功しました。
今年の5月、豪州-マレーシアの二国間貿易協定MAFTAがようやく締結に至りまし
た。MAFTA締結は、飲用乳の非課税輸出枠拡大による輸出量の増大につながるだけでな
く、高付加価値の小売パック牛乳の輸出という新たな可能性を、豪州酪農乳業に開くことが
期待されています。
今季号の『ザ・デーリーオーストラリアン』
ではMAFTAに関する最新状況やDAの海外セミナ
ーなど、豊富な話題を取り上げています。豪州酪農乳業をご理解いただくための一助として
お役に立てれば幸いです。
デーリーオーストラリア
国際貿易開発マネージャー
ピーター・マイヤーズ
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The Dairy Australian - August 2012
The Dairy Australian - February 2012
豪州では間もなく冬が終わり、春を迎えようとしています。昨シーズ
ンの秋は、南部の生乳生産地域で雨不足に悩まされたところが多く
ありましたが、冬に入ると適度な雨に恵まれるようになりした。ただ、
ギプスランド地方だけは例外であり、
こちらは2012年に入ってから
雨続きという異常気象の中で大変な思いをした酪農家も少なくあり
ません。
このように例年より厳しい面もあった昨シーズンでしたがそ
れもようやく終わり、豪州酪農は新たな生産シーズンに入りました。
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デーリーオーストラリアからのご挨拶
三菱商事、
タスマニア酪農事業へ共同出資
三菱商事は本年6月、
タスマニアン・デイリー・プロダクツ
(Tasmanian Dairy Products:TDP)
の発行株式24%を取得したと発表した。
これにより、豪州酪農の一大拠点としてのタスマニ
アの重要性がより明確なものとなった。
TDPに関しては昨年9月に最初の発表が行われ、豪州最大の乳製品輸出事業者マレー・ゴ
ールバン酪農協(MGC)
とタスマニアの地元酪農家との合弁による乳製品製造事業であり、
投資総額は7500万ドルと紹介された。成長を続けるアジア・中東市場向けに、主に全脂粉
乳を中心とする製造を行う。年間2.5億リットルの生乳処理に対応する製造工場は本年9月
に竣工予定。
三菱商事との新たな戦略的パートナーシップの下でも、MGCは依然としてTDPの発行株式
56.1%を保有する最大株主であり、一方、地元投資家の持ち株比率は19.9%となる。
MGC社長Gary Helou氏は三菱商事について、原料乳製品供給で40年以上もの緊密な関係
が続く大切な顧客であると同時に、乳製品製造に関するさまざまな合弁事業の戦略的投資
パートナーであると語る。
「三菱商事のTDPへの資本参加は非常に嬉しいニュースだ。
このJVを成功に導いていける
よう同社や地元投資家との協力関係をしっかりと築いていきたい」
(MGC、Helou社長)
TDPに対しては、同社への生乳供給の中心となるタスマニア州北西部の酪農家をはじめ、
同州酪農家による強力な支援体制がすでに整っている。
三菱商事の資本参加により、
日本などアジア各国への供給体制が一層安定することが期待
される。
三菱商事の英語版プレスリリースによれば、TDPへの共同出資の背景について
「今後の世
界の乳製品需要が毎年2%以上増えると予想され、特に新興国市場ではその傾向が強い。
一方、供給量の伸び率はわずか1%程度のため、将来の需給バランスは逼迫の度合いを増
していくだろう」
としている。
「アジアでは堅調な経済成長を背景に乳製品需要が伸び続けているため、輸入乳製品消
費の増大に対応するには、良質の乳製品を安定供給できる体制づくりが喫緊の課題となっ
ている。
」
(三菱商事・英語版プレスリリース)
また同リリースではタスマニア州について
「酪農用地、雨量、灌漑用水、
そして人材という条
件を備え、堅調な成長が予想される非常に信頼できる酪農地域であり、
このJVへの生乳供
給を支えてくれると期待される」
と述べている。
「新設される工場は、
タスマニア北西部のスミストンに位置し、生乳を供給する酪農家は
同工場の半径50km圏内に位置しており、大量の生乳を効率的に集乳できる体制を構築し
ていることが、同工場の乳製品の価格競争力を高めることに繋がっています」
(三菱商事株
式会社ホームページ日本語版プレスリリースより抜粋)
(この記事に関する詳細はwww.tasdairyproducts.comでご覧いただけます)
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The Dairy Australian - August
February2012
2012
豪州、マレーシアとのFTAを締結
今年5月、豪州とマレーシアとの間で二国間自由貿易協定(MAFTA)が締結された。
これによ
り、両国間の貿易は2011年度の160億ドル規模からさらに活発化が予想され、
また豪州酪
農乳業には輸出分野でのビジネスチャンス拡大が期待される。
DA貿易戦略マネージャー、
ピーター・マイヤーズ(Peter Myers)は酪農乳業界が最大限の
成果を得られるよう、特に貿易交渉に関する国際会議の場で豪州政府担当者にさまざまな
働きかけを行なっている。
「MAFTA締結により、豪州酪農乳業にとっては飲用乳の非課税輸出枠拡大という直接的な
メリットが生まれる。
これにより輸出量が増えるだけでなく、高付加価値の小売パック牛乳
の輸出がようやく可能となった」
「この協定では、両国間のビジネスを一層円滑にするよう
原産地証明に関するルールの緩和も図られた。
これにより乳製品等の輸出の際には従来
の原産地証明書に代え、
もっと簡略化した原産地申告書で足りることになる」
マイヤーズによると、豪州からマレーシアへの乳製品輸出は、現在年間1.3億豪ドル規模で
推移しているという。
「国別輸出額でみると、マレーシアは豪州にとって現在第5位の貿易相手国だ。人々の食生
活に乳製品が浸透していくに従い、マレーシアの乳製品需要は増加の一途をたどることが
予想されるが、豪州はそれに十分対応することができる」
(DA貿易戦略マネージャー、ピー
ター・マイヤーズ)
クレイグ・エマーソン
(Craig Emerson)貿易相とマレーシアのムスパタ・モハメド
(Mustapa
Mohamed)国際貿易産業相との間で交わされたこの協定により、豪州はマレーシアへの主
要輸出国としての存在感をこれからも発揮できるだろう。豪州乳製品の輸出量で見ると、マ
レーシアは第7位の海外市場だ。
この協定により、両国間に市場アクセスに関する問題が生じた場合の協議のあり方につ
いても改善が図られるようになった。MAFTAは両国内の国内批准手続きが完了した段階
で、
2013年から発効となる予定。
豪州酪農協議会(ADIC)会長、
クリス・グリフィン
(Chris Griffin)氏はMAFTA締結について
「
特に小売パック牛乳の輸出事業にとって大きなステップとなる」
と語る。
「マレーシアとは相互利益の実現に向け、大いに協力していきたい」
「従来のアセアン・
豪・NZ自由貿易地域(AANZFTA)協定でも、輸出入製品の多くは低関税であったり品目によ
っては非課税のものもあったが、MAFTA締結により、小売パック牛乳には新たなビジネス
チャンスが生まれるだろう」
「乳製品が食卓に広まるに連れ、マレーシアの乳製品需要は今
後ますます拡大していくだろうが、豪州はそれに十分対応することができる」
「MAFTA締結
は、両国酪農乳業界のパートナーシップの強化と拡大につながるだけでなく、両国の酪農
家や乳業メーカーにとっても大きなメリットがある」
(ADIC、
グリフィン会長)
グリフィン氏によると、豪州酪農乳業界はこれまで政府関係者と緊密な連携を保ちながら、
様々な市場での貿易・ビジネス機会の創出に努力を続けており、MAFTAはそうした努力が
実を結んだ最近の好例だという。
豪州全国農業者連盟(NFF)
ではMAFTA締結について、AANZFTAのもとで存在したいくつ
かの問題点を解消し、
豪州農産物の海外市場へのアクセスを改善する不可欠な手段である
として、歓迎を表明している。
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The Dairy Australian - August 2012
NFF副会長ダンカン・フレーザー
(Duncan Fraser)氏は、AANZFTAではあまり有効に対処で
きなかった「センシティブ」な農業問題にもMAFTAは踏み込んでいると評価する。
「7年に及ぶ交渉を経てようやくMAFTA締結に至ったが、関係者の苦労は相当なものだっ
たと思う」
「豪州の主要農産物の大半はAANZFTAの下で輸出非課税とされていたが、酪農
とコメは別だった。そのため、MAFTA交渉の農産物の市場アクセス改善については、主に
この2つについて協議が行われた」
「マレーシアはすでにNZとの間でFTAを締結していたた
め、乳製品などNZと競合する分野の対マレーシア輸出では豪州側に不利な状況が続いて
いた。
そのため、
この交渉はこうした分野にとって特に重要性が高かった」
「マレーシアの経
済成長率は年5%と高く、質の良い豪州産農産物の需要は中長期的に速いペースで増大す
ると予想される」
NFF関係者は今後のFTA問題について、韓国、
日本、中国、インドネシアとの早期締結に向
け、一層努力していくと抱負を語った。
「これらの市場はいずれも大きな成長可能性を秘めているが、その一方農産物について
はいまだに高い貿易障壁が存在する。
それは関税障壁だけでなく、非関税障壁や国内施策
などの問題だ」
(NFF 、
フレーザー副会長)
写真:MAFTA調印後に握手を交わすマレーシアのムスタパ・モハマド国際貿易産業相と豪州のクレイ
グ・エマーソン貿易相
マレーゴールバン酪農協、
シンガポール事務所を開
設
本年5月、マレーゴールバン酪農協(MGC)がシンガポールに新事務所を開設することを発
表した。新事務所を拠点に、
アジア全域における販売体制の強化を目指していく。
MGCは年間生乳処理量30億㍑前後(豪州の年間生産量の約3分の1)の規模を誇る、豪州
最大の乳製品輸出事業者だ。新たに開設するシンガポール事務所では、
シンガポール、香
港、
フィリピン、
タイ、マレーシア、
インドネシア、ベトナムなど東南アジア地域の販売・流通部
門を統括していくという。
MGC社長Gary Helou氏は東南アジアの現状について、人口が急速に増加を続けており、実
質所得の伸びに比例して乳製品需要が高まっていると語る。東南アジアの乳製品取引は世
界全体の15%を占めており、年間輸入量は約180万トン、豪ドル換算で年間60億ドル超の
規模に達している。
「東南アジアでは国内自給による今後の需要増への対応が困難なため、豪州をはじめと
する主要な乳製品輸出国に対するこの地域の国々の期待は、今後も高まると予想される」
「MGCとそのブランド“Devondale”はこの地域ですでに確かな評判を得ているが、新事務
所開設により、販売チャンネルの一層の改善と各国市場における当社製品の展開を図って
いきたい」
(MGC、Helou社長)
Helou社長は、
シンガポール事務所新設の狙いについて、同地域の主要顧客との関係強化
と、顧客・消費者に向けてDevondaleブランドをさらにアピールしていくことを挙げている。
新事務所の代表には経験豊富な経済人を迎え、成長著しいこの地域の乳製品市場におい
てMGCが一段と存在感を発揮できるよう事業活動を行なってもらうという。
新設のシンガポール事務所は、MGCにとって東京、
ドバイに次ぐ3つ目の海外事務所だ。
ド
バイ事務所の開設も比較的最近のニュースだが、
こちらは中東・北アフリカ地域への展開
拠点となる。
シンガポールに関する件とあわせ、4つ目の海外拠点としてベトナム事務所開設のプランに
ついても発表された。Helou社長はこれについて
「東南アジアチームの一員として売上強化
を図り、ベトナムにおけるMGCの収益向上と長期的成長を目指していく」
と述べている。
「ベトナムの人口は9000万人を超え、
これは世界第13位にあたる。乳製品消費は年10%強
のペースで伸びると予想されており、国内自給の生乳生産だけでは需要への対応は不十
分になると思われる」
(Helou社長)
(この記事に関する詳細は、www.mgc.com.auでご覧いただけます)
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The Dairy Australian - August 2012
タスマニア州酪農家が画期的な自動搾乳装置を導入
豪州研究グループが共同開発した自動搾乳装置が、今年5月、
タスマニアのある酪農家に導
入された。商業ベースでの本格的な導入例として世界初となる。
画期的な自動搾乳ロータリー
(AMR)の取り付けを行ったのは、同州北部で酪農業を営むド
ーナフ
(Dornauf)
ファミリーだ。
この装置はスイスの酪農機器メーカー、
デラバル(DeLaval)
社とシドニーのフューチャー・デーリー研究プロジェクトで活動する研究チームが共同開発
した。
この酪農場はニック・ドーナフ
(Nick Dornauf) 氏とそのパートナー、
レベッカ・タイラー
(Rebekah Tyler)氏が共同で経営している。AMRによる搾乳を2月に開始して以来、
ドーナフ
氏はその成果に非常に満足しているという。
「
(AMR導入は)搾乳作業を変えるというだけでなく、酪農のやり方を全体的に見直してみよ
う、
ということです」
ドーナフ牧場のAMRシステムは、24のストールを備えたヘリンボーンロータリープラットフ
ォームを採用している。
レーザー感知装置により作業員の手を借りずに乳首の洗浄、乾燥、
搾乳カップの装着を行い、
また搾乳後はカップを自動洗浄する。搾乳作業は5台のロボット
が行い、
うち2台は乳首の洗浄・乾燥、2台はカップ装着、1台は搾乳後の乳首殺菌を担当す
る。
このAMRシステムでは、乳房炎の判定材料となる分房別の搾乳量、血乳、電気伝導度の
モニタリングを現場で行うことができる。
牛に装着した電子装置内臓の首輪をロボット、
スマートゲート、
自動フィーダーが認識する
仕組みであり、
また牛群管理には専用ソフトウェアDelproが使用される。
これにより、酪農作
業の多くをコンピュータで管理することが可能となった。
ドーナフファミリーはAMRを導入した理由について、酪農経営全般に及ぶさまざまなメリッ
トを挙げている。
そのメリットには「作業軽減による従業員の定着率改善」
「柔軟な酪農経営
の推進」
「作業に対する意欲の向上」
「時間の有効利用(酪農経営全体を見渡せる時間の増
加)
」
「ライフスタイルの向上」などがある。
新システムを導入後、
現在はまだ試運転という状況が続くドーナフファミリーだが、
すでに様
々なメリットを実感しているという。
「最近は朝になると、ベッドから跳ね起きるんですよ。新しい技術を取り入れ古い酪農のや
り方を変えていくと思うと、実にワクワクします。AMRのおかげで、常に新しいアイデアを考え
るようになりました」
(ドーナフ氏)
ドーナフ酪農場では5ヶ所の牧場で合計1350頭の乳用牛を所有している。
その1つである
ガーラ
(Gala)牧場は州中北部の町Deloraineに近く、55ヘクタールのセンターピボット式灌
漑用水と、600メガリットルのダムを備える。放牧場と灌漑用水施設の開発が完了すれば、
こ
こに200ヘクタールの搾乳施設付き牧場が完成する。
ガーラ牧場ではニュージーランド・フリージアン種を飼育しており、生産量は一授乳期あた
り一頭につき8500㍑。
ピーク時は日量35㍑(乳脂肪330kg、
タンパク質290kg)だという。
ガーラ牧場で稼働中のAMRは、250頭(初産牛90%、経産牛10%)の搾乳を行なっているが、
この装置は最高600頭まで搾乳可能なため、
ドーナフファミリーは2015年までに550-600
頭に増やすことを目指している。
5
The Dairy Australian - August 2012
デラバル・オセアニアの地域担当社長、
リチャード・アルダートン
(Richard Alderton)氏は、
豪州酪農業界との緊密な関係について次のように語る。
「当社はフューチャー・デーリーのチームと共同で、豪州の酪農環境、特に放牧中心で牛群
が大規模であるという条件に合う自動搾乳システムの開発を行なっています」
デラベル関係者によると、AMRはフリーストールやフリーバーンなど海外の酪農経営によ
く見られる方式をはじめとする、様々な酪農スタイルに柔軟に対応できるシステムだとい
う。
(この記事に関する詳細はwww.delaval.com.auでご覧いただけます)
写真:ドーナフ酪農場(タスマニア州)
で稼働中の画期的な自動搾乳ロータリー(AMR)
新時代を迎える遺伝子育種技術
豪州では酪農家が遺伝子データのみを頼りに繁殖に関する重要な判断を下すことが可能と
なった。
これは酪農業界にとって正に画期的な出来事である。
このイノベーションでは乳用牛の遺伝子が持つ可能性を100%引き出し、
これにより豪州全
地域で遺伝的改良が急速に進むことを期待している。豪州各地から集めた乳用牛1万頭の
遺伝子プロファイルの活用により、繁殖結果に関する予想の正確性は著しく向上した。試算
によれば、
この新技術から生まれる酪農産業への経済的価値は今後12年間で1億ドルを上
回るという。
デーリーフューチャーズCRCが2年間実施した研究の結果、酪農経営を左右する要因である
乳用牛の泌乳能力、繁殖能力その他の形質と乳用牛の遺伝子との因果関係が、
より正確に
分かるようになった。
この新技術の影響は非常に大きく、繁殖経験のない若い乳用種牡牛
について、平均で娘牛30頭の後代検定データのある牡牛の遺伝子データと同程度に信頼で
きる遺伝子データを得ることができるという。
この6月、ビクトリア州GippslandのMaffraで新技術の成果を祝う会合が開かれ、ビクトリア
州農業・食糧保障担当大臣Peter Walsh氏とデーリーフューチャーズCRCチーフエグゼクティ
ブDavid Nation氏をはじめ、酪農家、研究者、業界団体トップ等多くの人々が集まった。
「このプロジェクトでは、遺伝的育種技術の研究を大きく前進させる成果が得られた。ホル
スタイン種の乳用牛1万頭の遺伝子データをプロファイル化するというのは、
この種の研究
では世界最大級のものだ」
「遺伝子データだけを基に若い優秀な種牡牛を選ぶことが可能
になり、酪農家の生産性が劇的に向上すること期待できる」
(Peter Walsh氏)
遺伝子データのサンプルには、91戸の酪農家から提供された、長年優秀な成績を収めてい
る乳用牛の尻尾の毛を使用した。
遺伝子育種技術のイノベーションは海外でも多くの成果が見られるが、豪州の酪農家もこう
した経験から、
「乳用牛の遺伝的改良の度合い(遺伝的獲得量)を倍増する」
「従来、後代検
定により時間をかけて行なってきた優秀な種牡牛の選別が短期間で可能となる」
「泌乳能
力の高い乳用牛の生産が早期に行える」
という点について今回の新技術に多大な期待を寄
せている。研究チームのリーダー、Ben Hayes氏によれば、今年後半に結果が判明するジャ
ージー種での研究でも、ホルスタイン種と同様に信頼性の高い成果が得られる見込みとい
う。
.
酪農家、飼料会社、繁殖事業者、政府機関、研究グループなど多数の関係者が参加するこの
大型プロジェクトには、デーリーフューチャーズCRCとガーディナー酪農基金から資金が提
供されている。
(この記事に関する詳細はwww.dairyfuturescrc.com.auでご覧いただけます)
写真:新たな遺伝子育種技術の導入を歓迎するビクトリア州マフラのスチュワート酪農場[左からピータ
ー・ウォルシュVIC州農業・食糧保障担当相、
デーリーフューチャーズCRCデービッド・ネーションCEO、
ス
チュワート夫妻、本年6月撮影]
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The Dairy Australian - August 2012
東南アジアセミナー最新情報
近年、東南アジアは豪州乳製品の輸出市場として、
その存在感が一層高まりを見せていま
す。
こうした流れを受け、DAではこれまで二年に一度開催していた東南アジアセミナーを、
今後は毎年行うことを決定しました。
5月、6月に同地域の6カ国(インドネシア、マレーシア、
タイ、ベトナム、
フィリピン、
シンガポ
ール)
で開かれたセミナーには、合計500名以上の方々にお集まりいただきました。
DAからは国際貿易開発マネージャーPeter Myersと国際市場コーディネーターKatie Porter
が出席し、生産概況や今後の展望など豪州酪農乳業に関するプレゼンテーションを行いま
した。
国際問題に関しては、Myersが海外市場の最新状況や乳業関連の貿易・市場アクセス問題
などについて説明を行いました。
DAの新しいレシピブック
(Tastes of Asia)の中から選んだスペシャルランチメニューは、
セ
ミナーご参加の方々に大変喜んでいただけたようです。
会場ではオーストラリアン・グランド・デーリーアワードで最高評価を得たチーズの試食も
行われ、豪州産チーズの魅力を直接味わっていただく良い機会となりました。
毎年開催への変更が決定された理由について、Katie Porterは東南アジア市場の重要性を
上げています。
「東南アジアはこれから大きな成長が見込める地域であり、豪州乳製品の輸出市場として
ますます存在感が高まっていくだろうと思います」
「セミナーは酪農乳業関係者だけでなく、他業種のメーカー、商社、ホテル、販売担当者な
ど幅広い関係者とのネットワークを広げる貴重な場となっています」
「関係者が一堂に集まり、貿易障壁やビジネス機会、市場の最新動向など様々なテーマに
ついて話し合えるのはとても有意義なことです」
「会場では、
この地域で起きている様々な変化、特にMAFTA(マレーシア豪州自由貿易協
定)
をはじめとする貿易協定について活発な意見が交わされていました」
2012年後半の国際関連行事:
8月20-25日
(中国)
:デーリー・セミナー
(上海) 中国乳製品工業協会(CDIA)会議
9月3-15(豪州)
: 日本向けチーズスカラシップ
9月17-22日
(中国)
:ビクトリア州政府によるトレードミッション、
DAの海外セミナー/プログラムに関するお問い合わせは以下の担当者まで:
•
Sarah Xu: [email protected] (中東・中国担当)
•
Katie Porter: [email protected] (日本・東南アジア担当)
デーリー・セミナー
(天津、東莞、深セン)
11月11-20日
(日本)
:カンガルー会、
チーズフェスタ
11月21日-30日
(中国)
:チーズスカラシップ同窓会、
デーリー・セミナー
(香港、台北)
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The Dairy Australian - August 2012
写真:5月、6月のDA東南アジアセミナーで好評を博した豪州産スペシャルティチーズと、
セミナー会場
の一つマカティ・シャングリ・ラ・マニラで来場者にチーズを切り分けるホテル訓練生アレクサンドラ・ミ
ケリーナさん
DA“テストキッチン”コーディネーター
アマンダ・メネガッツオ/ Amanda Menegazzo
DAウェブサイトの人気コーナー“Test Kitchen”のコーディネーター、
アマンダに言わせると、
今の仕事は『お金で買えない楽しみ』なんだそうです。
食材の良さにこだわるアマンダは、
レシピを考えるとき
『新鮮・地産・旬の食材を選べば、
ア
イデアは自ずと浮かぶはず』
という言葉をいつも思い出すようにしています。
メルボルンの
RMIT大学で消費者科学を学び、応用科学の学位を持つ彼女にとって、Test Kitchenで新し
いレシピを創りだしたり料理法を実践してみたりすることは、
まさにうってつけの仕事と言
えるでしょう。
アマンダは、牛乳や乳製品の健康面の効用に関するプロモーション活動の他にも、栄養分
析やチーズに関する知識の紹介、食品マーケティング、
プロジェクト管理に関する専門知識
を、食品産業全般に向けて活用しています。そんなアマンダの業績の一つに数えられるの
が、DAが最近発行したアジア・中東風レシピ満載の「デーリーオーストラリア・クックブック」
です。
「アジアや中東に根付いている食材や風味と組み合わせることで、乳製品がどれだけ美味
しく味わえるかを知ってもらえれば、
と思いました」
「このクックブックでは、
さまざまなレシピを紹介しています。DAアジアセミナーで業界トッ
プの方々にランチを提供するシェフのために考案したレシピも掲載されています」
このクックブックが発信したいメッセージはとても明快です。
「牛乳や乳製品は美味しくて、他の食材との組み合わせや調理法による味のイノベーショ
ンが楽しめる食品だということ、
それから、中でもオーストラリア産がベストだということを、
このクックブックでお伝えしたいと思います」
「乳製品のクリーミーな口当たりや独特の風味は、料理の味わいを一段と深め、ほど良い
しっとり感を与えるのに最適です。
チーズがのっていないピザやクリーム無しのパブロバな
んて、想像もできないでしょう」
「ビンテージチェダーやパルメザンのように、舌に鋭さが残るような風味もおすすめです。
サンドイッチを美味しく、みずみずしく、風味豊かにしたいのであれば、何はなくてもチーズ
は欠かせません」
クックブックの作成にあたりアマンダが最初に行ったのはリサーチ活動です。
その一つとし
て、ケイティ・ポーター(DA国際市場コーディネーター)
とセーラ・スー(国際市場担当マネ
ージャー )からアドバイスをもらいました。
「セーラとケイティはアジアや中東地域への出張経験が豊富なので、各国の食材事情や味
の好みなどについて教えてもらいました」
「こうしたアドバイスをもとに、各国の食材を使いながら乳製品を取り入れたレシピをいく
つか考案してみました」
アマンダによれば、
どの食材にも合うという乳製品の『懐の深さ』のおかげで、
レシピ作りは
大いにはかどったそうです。
「中東ではヨーグルトやある種のチーズは一般化しているので、
そういうものをレシピに取
8
The Dairy Australian - August 2012
り入れることは難しくありませんでした。
」
「一方、東アジアではまだ牛乳や乳製品が広く浸透していないため、風味の強いチーズは
あまり好まれません。
フルーツチーズなら比較的大丈夫ですが、
カマンベールやブリーは
そのままだと受け入れてもらえないようでした」
「そこで、
カマンベールをフルーツチーズ風にアレンジできないかと考えてみました。
こう
して生まれたのが、新鮮な桃から作った甘いソースと刻んだアーモンドを合わせた『カマン
ベールのピーチソースがけ』
です」
このクックブックのレシピの中でアマンダのお気に入りのひとつに、東西の味覚が見事に
マッチした北京ダックピザがあります。
DAでは、
このクックブックの他にもさまざまなメディアを利用してレシピの紹介を行なって
います。
「ユーチューブやツイッター、
フェイスブックでも、DAの最新レシピをご覧いただけます」
「クックブックやDAウェブサイト、調理法の実演により、栄養豊富な子供向けのレシピや高
齢者向けの健康レシピなど、特定の目的に絞ったレシピの紹介や、オーストラリア産乳製
品の良さをストレートにお伝えするための情報提供も行なっています」
「多くの乳製品メーカーさんと協力してレシピを作ることもよくありますので、各社のウエ
ブサイトや商品パッケージ、雑誌の料理コーナーなどでもDAのレシピをご覧いただけるか
も知れません」
(この記事に関する詳細は、次のサイトでもご覧いただけます:
www.facebook.com/thedairykitchen or www.twitter.com/thedairykitchen
写真:
『DA Test Kitchen』
コーディネーター、
アマンダ・メネガッツォ氏。
アジア・中東レシピを集めたDA
クックブックの考案者でもある
理想の酪農環境をたずねて
壮大な山々と青く広がる海にはさまれたメルボルン東部のギプスランド
(Gippsland)地方。
その一角を占めるマカリスター灌漑地区(Macalister Irrigation District:MID)は、昔と変わ
らぬ豊かな自然環境に恵まれた酪農の盛んな地域だ。 大分水嶺山脈の南端に位置するMIDは、マカリスター川流域に53,000ヘクタールの広さを
持つ豪州最大の灌漑地域であり、現在はそのうち33,500ヘクタールで灌漑が行われてい
る。
豪州最大の酪農地方であるギプスランドには多くの酪農家が存在するが、
その約4分の1は
MIDに拠点をおく。ギプスランドの他地域の酪農家1500戸はその大半がドライランドであ
るのに対し、MIDの400戸はほとんどが灌漑農業であり、平均で217頭の乳用牛を所有して
いる。
同地域のビジネスの中心であるマフラ
(Maffra)にはマレーゴールバンの生乳処理工場が
あり、地元酪農家の大口供給先となっている。
MIDを非常に高く評価する二人の酪農家から話を聞いた。
この地で酪農業を営むマルコ
ム・セレン氏とデール・スコット氏は、いずれもMIDの特長として
『良質な土壌』
『最高レベル
の水質と安定した水源』
、
さらに
『酪農に最適な気候』
を上げている。
ニュージーランド出身のセレン氏は、夫人のジョーさんと1996年にMID内のナンブロック
(Nambrok)に移住してきた。現在は68ヘクタールの農場でフリージアン・ジャージー交配
種160頭を所有している。セレン氏は酪農とは無縁の環境で育ったが、
カンタベリーのリン
カーン大学(NZ)
で農業を学んだという。
「ニュージーランドにいた1985年から酪農の世界に入りました。酪農家の仕事を請け負う
ことから始め、
その後自分の事業を持つようになりました。1996年にオーストラリアに移住
してきたときに、現在の酪農場を買い取りました。良い物件を探していた時にMIDを知り、
私の希望条件とほぼピッタリだったのです」
セレンファミリーがこの地を選んだのは、乳業メーカーが多く買取価格について良い意味
での競争があることの他、酪農業に必要なインフラやサービスが整備されていたからだと
いう。
また、息子4人を持つこの夫妻にとって、
ここでのライフスタイルも魅力的だったよう
だ。
「うちの農場から25分で海岸、45分で雪山、20分で雄大なブッシュウォーキングルー
トという環境が気に入りました。ウォータースポーツや釣りをよく楽しむグレンマギー
(Glenmaggie)湖も15分という近さです」
セレン農場の生乳生産は毎年8月1日から翌年の5月31日までであり、6月7月は出荷を行わ
ない。
「このペースが、牧草の伸びが良い春先から夏のはじめの時期を活用するのに適している
からです」
この農場の生乳生産量は一頭あたり年間5000-6000㍑、乳固形分換算で440-490kg。一
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The Dairy Australian - August 2012
写真(左から)
:マカリスター灌漑地区(MID)の酪農環境を絶賛する酪農家、
マルコム・セレン氏とデー
ル・スコット氏
年を通じ放牧中心であり、牧草は大半がライグラスとクローバーだ。
「うちはMGCに供給しています。MGC本体の収益が上がれば、買取乳価の引き上げか株主
である酪農家への配当という形で利益が還元される仕組みになっているのです。
うちの生
乳は質が良いとよくほめられますよ」
「この農場では牛をできるだけ自然の環境で飼育するようにしています。それが持続可能
なスタイルだと私は思っています。海と丘と川がある環境の中で青々とした草をたくさん食
べるほうが、牛たちも幸せでしょうしね」
ナンブロックのセレン農場からそれほど遠くないデニソン
(Denison)に、
スコット夫妻が経
営する96ヘクタールの酪農場がある。
ここではホルスタイン・フリージアン種200頭、
ジャー
ジー交雑種40頭を所有し、夫妻だけでなく子供たちも農作業に参加しているという。以前
は別の地域で農場を開いていたが、
メルボルンにより近い場所を探していたところ、
目に止
まったのがMIDだった。
「デニソンの農場を買ったのは1996年です。
このあたりは雨不足の年でもマカリスター川
の灌漑用水のおかげで、
以前からとても安定した生産環境だという点が気に入りました」
「MIDでは放牧地1ヘクタールあたり3、4頭の乳牛の飼育が認められています。
うちの場
合、1頭あたりの生産量は年間7000㍑です」
スコット夫妻が酪農家としてこの地に魅力を感じた理由は、関連産業の充実ぶりだという。
「MIDには生乳処理工場が8ヶ所のほか、穀物飼料の流通業者、遺伝子育種改良センター、
農機具ディーラー、エンジニア、農作業請負業者など、酪農を支えてくれる様々なビジネス
があります」
酪農家にとってこれ以上の場所はない、
とスコット氏はMIDを絶賛する。
「うちは生乳の質にとてもこだわるようにしています。環境への影響にできるだけ配慮しな
がら、家畜の福祉にもかなり力を入れています」
「私たち家族にとって何より大切なのは、
うちの酪農のやり方に持続可能性を持たせると
いうことです。私たち家族のためだけでなく、
コミュニティの長い未来のためにそうありた
いと思っています」
マカリスター灌漑地区(MID)
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The Dairy Australian - August 2012
チーズ専門誌「The Cheese Mag」創刊
豪州産チーズとチーズ職人に着目した新たな季刊専門誌が誕生する。
この冬に創刊号が発行される
「The Cheese Mag」の編集者アイリーナ・フェインバーグ氏
は、
チーズに関するあらゆる情報を伝えていきたい、
と意気込みを語る。
「チーズをメインテーマに、美味しい盛り付けや食べ方、調理法、手作りチーズのノウハウ
まで幅広く紹介していきます」
「The Cheese Magはチーズファンの必須アイテムになると思
います。新しいチーズに挑戦したり、
チーズとの意外なマッチングを発見したり、珍しい風味
を楽しんだり、斬新な用途を考えたり…と読者がチーズを気軽に楽しみたくなるような雑誌
づくりを目指していきます」
(フェインバーグ氏)
豪州の個性的なチーズ職人に関する記事もこの雑誌の特徴の一つだ。創刊号ではメルボ
ルンのジョルジオ・リングアンティ氏にスポットライトを当てる。
リングアンティ氏は7年前にイタリアのシチリア島から豪州に移民し、2008年にチーズ工房
That’s Amore Cheeseを設立した。英語が全く話せなかった同氏がどのようにメルボルン
でチーズ作りの職を得たのか、
また同氏が「ミルク熱にかかった」
と自ら語るほど豪州産ミ
ルクの魅力にとりつかれたという話は実に興味深い。豪州移住後まもなくして立ち上げた
That’s Amore Cheeseの様子などもThe Cheese Magに詳しく語っている。
「最初はボッコンチーニだけでスタートし、次にグルメリコッタを作るようになりました。な
めらかでクリーミーで、
とてもデリケートなチーズです。
スカモルツァ、
デアボレットなどのス
モークチーズ、
ブラータ、バッファローモッツァレッラも作りました」
(リングアンティ氏)
フェインバーグ氏は酪農乳業の業界誌として名高い『オーストラリアン・デーリーフーズ・マ
ガジン』の編集者を6年経験した後、新雑誌の編集を手がけることとなった。
この雑誌には、豪州チーズに関する様々な専門家が豊富な専門知識や経験を提供してくれ
るという。
シドニーを拠点に活躍するソニア・カズンズ氏もこの協力メンバーに名を連ねている。同
氏はチーズ関連の講師として、
またオーストラリアン・グランドデーリーアワード、
シドニー
ロイヤルショー、豪州スペシャルティチーズメーカー協会、
ワールドチーズアワード等主要
イベントの審査員として有名な人物だ。
The Cheese Magは豪州国内のチーズ専門店とデリカテッセンのほか、
オンラインショッピ
ングでも購入できる。
アジア地域からの購読費用は年間52ドル(豪州国内は32ドル)
。
(この記事に関する詳細はwww.cheesemag.com.auでご覧いただけます)
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The Dairy Australian - August 2012
豪州の生産概況
2011/12年度(7月~6月)の生乳生産量は94.9億㍑(速報値)
と、前年度と比べ3.89億㍑
(4.3%)増となり、2006/07年度以来最高となった。南東部の一部では全般的に天候に恵ま
れ、ビクトリア州北部・リベリナ地域は灌漑用水が豊富だったことに加え乳価が堅調であっ
たことから、輸出向け主要生産地にとって比較的好調な一年であったようだ。
2012/13年度は乳牛頭数が2%の伸びとなり気象状況も平年並みであるとの見方から、生
乳生産量は豪州全体で2%程度の成長(量換算で96億-96.5億㍑)が予測されている。南部
生産地域の生乳は市乳業者と乳製品メーカーの両方で需要が高い状況が続き、北部と西
部では需給バランスがやや厳しくなっている。
しかし豪州酪農家の関心は、2012/13年度に入り生産者支払い乳価の一段の下落と生産コ
ストの上昇が進む中、今後の酪農経営のあり方をどうすべきかという問題に集まっている。
原料乳製品の国際市況に軟調気配が続き、
また他の主要供給地域からの供給が増えてい
ることを背景に、今年度最初の乳価(南部の輸出向け生産者の場合)は前年度から8-10%
下落した。西オーストラリアで生産される豪州国内(飲用乳)向けに関しては乳価が若干引
き上げられた。
米国・ロシアの穀物生産量不足の影響を受け、過去1ヶ月間に穀物価格は急騰している。
タ
スマニア州以外の生産地域のうち補助飼料としての穀物依存度が高い酪農家は、一般的
に生産コストの最大を占める穀物飼料費をどう管理していくかが、当面の大きな課題とな
ろう。だが、
これについては給餌技術の向上と過去の干ばつで得た経験・スキルによって克
服可能だという見方が強い。
豪州では各地で電力インフラの改修が進められており、また新たに導入された炭素税
(carbon
tax)がサプライチェーンに転嫁される結果、電力価格は全国的に上昇中だ。だ
が、
これについても従来の手法を改善することで生産現場のエネルギーコストを削減でき
れば、
ある程度まとまった節約が可能となろう。
酪農家が採りうる主な対応策としては「可能な限り事業支出をカットすること」
「投資計画
を注意深く精査すること」の二つが考えられる。キャッシュフローを良くするために頭数調
整や家畜の売却を選択する酪農家もあるだろうが、むしろ生産コストの削減が生産量や
生乳の質に悪影響を及ぼさないよう、給餌方法やシステムを最適化するという考えが主流
になると思われる。色々な課題はあるものの、南東部生産地域で適切な生産条件が続け
ば、生産量は暫定的ながら2012/13年度で96億-96.5億㍑、2014/15年度は更に上昇の98
億-101億㍑と予想される。
2011/12年度全体の製造量(速報値)
を見ると、バター(3.2%増)
、チーズ(2.9%増)
、ホエイ
パウダー
(6.9%増)はいずれも好調だった。一方、粉乳は軒並み低迷し、脱脂粉乳(1.4%増)
が微増であった他は、全脂粉乳(5.6%減)
、バターミルクパウダー(11.2%減)
ともに製造が
減った。バターオイルは大幅減(28.5%減)
。
チーズは全体で2.9%増とやや増えたが、品目別
ではチェダー(3.0%増)
、
フレッシュ
(6.6%増)
、セミハード
(34.8%増)が好調だった反面、ハ
ード(4.6%減)、
カビ系(16.6%減)、
ストレッチ(6.8%減)はかなり減るなどばらつきが大き
い。
2012/13年度も製造量の動向を引き続き注視していきたい。
豪州の生乳生産量 2011年7月-2012年6月
1,200
Million Litres
2010/11
1,000
2011/12
800
600
400
200
0
Jul
Aug
Sept
Oct
Nov
Dec
Jan
Feb
Mar
Apr
May
Jun
豪州の乳製品製造量 2011年7月-2012年6月
000 tonnes
350,000
290,498
2010/11
298,962
2011/12
300,000
250,000
219,628
221,341
200,000
150,000
140,144
132,310
90,536
93,841
100,000
55,786
59,643
50,000
WMP
SMP/BMP
Butter/Butteroll
Cheese
Whey Products
豪州のチーズ製造量 2011年7月-2012年6月
2010/11
2010/12
000 tonnes
160,000
144,211
148,609
2010/11
2011/12
140,000
120,000
100,000
74,498
80,000
69,908
60,000
48,416
45,123
40,000
11,662
10,763
12,220
20,000
4,976
14,920
4,148
0
Cheddar
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The Dairy Australian - August 2012
Fresh
Hard
Mould
Semi Hard
Stretch
国際市場概況-2012年8月
国際乳製品市場は、
ユーザー・供給側の両者が南半球の今シーズンの生産予測を静観する
姿勢を崩していない。多くの生乳生産地域では、生産コスト増・生産量減につながる気象要
因を最大の脅威と見ている。
さらに欧州・米国では、海外主要市場で需要に陰りが見え始め
ていることから、今後の経済に対する懸念が消えていない。
6月に行われたフォンテラのインターネットオークションGlobalDairyTrade、第69回入札で
価格がいくらか持ち直したが、2012年初めと比べいまだに割安感のある水準にとどまって
いる。TWIは7月までの3ヶ月間で8%、年初からは25%のダウン。米国の干ばつがいまだ続き
南半球ではエル・ニーニョの発生が懸念される中、市場には強気の地合いも見られるよう
だが、市場関係者の多くは需給バランスのファンダメンタルズが大きく変化したとは捉えて
いない。
そのため原料乳製品価格は、最近数ヶ月に形成された底値水準近辺での推移が
続いている。
北半球の主要輸出国・地域では、生産者支払い乳価の下落と生産コストの上昇によるマー
ジン縮小で過去数カ月間の成長率が著しく鈍化している。直近のEU-27生乳生産データに
よると、5月の生産量の伸びは2%弱にとどまっている。一方、乳価はイギリスの生産者の大
半で1リットルあたり2ペンス
(豪ドル換算で3セント)下落したが、
これと同程度の引き下げ
は5月、6月にも行われている。
米国でも、最近公表された6月の生産量が前年同月比0.9%増にとどまるなど、生産の伸び
は鈍化傾向が続いている。干ばつの状況悪化により、米国農務省(USDA)
では2012年の生
産伸び率予測を0.05ポイント引き下げた2.75%(25億㍑)へと下方修正することとなった。
干ばつがトウモロコシ生産地に広がっていることへの影響に穀物市場は敏感に反応した
が、原料乳製品市場ではこれからニュージランド
(NZ)
で生乳生産を迎えることから、干ば
つの影響はより小さいものにとどまっている。
国際乳製品価格(気配値)
NZの前年度(6月-5月)の生乳生産は速報値で18億㍑増(10%増)
。
フォンテラは最近にな
り酪農家への配当金(ペイアウト)予想額をNZD$6.45-$6.55(AUD$4.96-$5.04)
と発表し
た。
これは前年度から8%減の数字だが、酪農家の予想より下げ幅が小さいことから概ね好
意的に受け止められている。専門家の多くは2012/13年度の生産も引き続き成長を見込ん
でいるが、伸び率は4-5%程度とやや小幅な予想となっている。
乳製品の需要は世界的に堅調が続くが、価格に対して非常にセンシティブな点は相変わら
ずだ。6月の米国フードサービス業界の実質売上増加率は5.6%となり、28ヶ月連続のプラス
成長となった。米国・欧州のさらなる景気減速による消費意欲への影響は、2012年後半の
需給バランスを考える上で最大の懸念材料となろう。一方、
こうした経済的影響を除けば、
生乳供給とオセアニア
(特にNZ)の新年度の生産状況が、今後数ヶ月の市場バランスにとっ
て最も重要な要因となる可能性が高い。
(執筆担当:John Droppert)
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The Dairy Australian - August 2012
2010/11
2010/12
ISSN 1839-8812
「ザ・デーリーオーストラリアン」は4ヶ国語(英語、
日本語、韓国語、中国語)
で発行されています。定期的な閲覧のお申し込み、掲載記事に
関するお問い合わせは担当ケイティ・ポーター(Ms Katie Porter) [email protected]までお気軽にお寄せください。
発行者:Dairy Australia Limited.
「ザ・デーリーオーストラリアン」の掲載内容につきましては、その正確性に万全を期しておりますが、情報のご利用は読者各位の責任において
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