CNC 旋盤による加工での加工精度向上について(第2報)

CNC 旋盤による加工での加工精度向上について(第2報)
-段差をもつ軸の場合-
成蹊大・理工 笠原和夫,○滝野亮人,広田明彦
Improvement of Machining Accuracy in Turning with CNC Lathe (2nd Report)
-For Turning of a Shaft with the Different Diameters-
Seikei University
Kazuo KASAHARA, Akito TAKINO and Akihiko HIROTA
In a conventional automatic programming system developed for turning with a CNC lathe, NC data such as tool path, feed and rotational speed of
spindle are automatically generated, when the desired shape of products, and tool and workpiece materials are specified. However, for turning of a
workpiece having large length and small diameter, variation in the finished diameter along the rotational axis is yields due to workpiece deflection
caused by the cutting force. To reduce the machining error in the diameter, elastic deformation of the workpiece due to cutting force, whose components
are obtained through a cutting model and energy method proposed by Usui et al., is considered in the generating process of the tool path. In this report,
the results for a shaft that requires machining using multiple tool paths are shown. From the comparison of the machining error obtained with turning
test for compensated and uncompensated tool paths, it is confirmed that the proposed method is effective in reduction of machining error.
2.切削抵抗と直径変化の取扱い
図1(a)は外丸削りの切削過程で,工作物に作用する切削抵抗分力
(FH は主分力,FV は送り分力,FT は背分力を表わす)を示したもの
である.切削抵抗によって直径に生じる加工誤差は,上記3分力中の
FT によって発生する曲げモーメントが支配すると考えられる.しかし
このFT は加工条件のみならず,工具の刃先形状によっても大きく変化
する.そこでFT の評価に際しては,種々の刃先形状をもつ工具の切削
過程に適用可能な上記の切削模型を利用することとした.ただし,そ
の適用にあたっては解析の厳密さより実用性を重視し,本報ではたわ
みによる切り込み深さdc の変化は無視した.
同図(b)に示されるように,主軸に沿う方向をZ 軸(チャック側の加
工端部をZ=0 とする)
,これに垂直な工作物の半径方向をX 軸とする
座標系を用いて刃先位置,
工作物のたわみ量を扱う.
工具は剛体とし,
工具経路すなわち刃先とZ 軸との距離をXp,刃先部で生じる工作物の
たわみによる変位をΔX とすると,対応する位置での工作物直径 D は
次式により与えられる.
D=2 (Xp+ΔX)
(1)
本報ではΔX を FT の予測値に基づき解析的に評価し,上式より得ら
れるD の値をもって工作物直径の計算値とした.
3.センタ部の支持条件
図2(a)は回転センタ(NSK,LC-4N)の先端から約 4mm の位置で
の,荷重と変位の関係を示したものである.このときの心押軸の突き
出し長さは,加工時と同一の 110mm である.●印はこのセンタの測
定結果を示す.同図より,一般的な加工条件でのFT に相当する荷重P
の範囲では P と変位ΔX とはほぼ線形関係にあり,FT によって支持点
の位置が主軸(Z 軸)からずれることがわかる.そこでこのセンタを
FH
X
FT
D0
FV
ΔX
D
Z
Xp
dc
(b)
(a)
Fig.1 Cutting force components for turning process and geometric relation
between tool and workpiece
Rolling center
100
Displacement ΔX μm
1.まえがき
従来の CNC 旋盤用に開発された自動プログラミングシステムや
CAM ソフト(以下ではこれらをプログラミングシステムと記す)で
出力される NC データを用いて長尺部品の加工を行なうと,切削抵抗
による工作物のたわみによって回転軸に沿う直径の変化が生じてしま
う.このため送りや切り込み深さを小さくした,能率の低い仕上げ加
工を余儀なくされる.前報 1)では直径が一様な丸棒の外丸削りをとり
あげ,臼井ら 2)によって提案されている切削模型とエネルギー解法を
適用して得られた切削抵抗の予測結果に基づき,切削抵抗による工作
物の弾性変形を考慮した工具移動経路の生成を通して加工精度の向上
を試みた.
本報では機械部品によくみられる両側に段差をもち複数回の加工と
チャックへの付け替えを必要とする工作物の場合をとりあげた.補償
した工具経路と補償しない工具経路を用いた旋削試験の比較から,提
案した方法が加工誤差の軽減に有効であることを示した.
Measured
Calculated
Young's modulus 206GPa
Poisson's ratio 0.3
80
60
40
20
0
0
200 400 600 800 1000 1200 1400
Load P N
(a)
Lc=89.7mm
φ 25.0
60°
(b) FEM model of a rolling center
Fig.2 Relation between displacement at the point of center and load, and FEM
model of a rolling center used in analysis
270mm
φ18
(a) Workpice model
50mm
35
(100)
φ16
35
φ14
50
φ12
(b) Product model
Fig.3 Workpiece model used in analysis of a shaft with three different diameters
用いたときの工作物に生じるたわみの評価については,同図の破線で
示す荷重と変位の関係(ヤング率は206GPa,ポアソン比は0.3 と指定
した)を与える,図(b)の頂角がセンタと同一の円錐部をもつ円筒で構
成した有限要素モデルを用いた.そして切削過程のたわみは,センタ
のモデルと工作物に対応するモデルを接続させ,有限要素法による解
析で評価した.具体的計算にはDassault 社のCATIA V5 を利用した.
参考文献
1) 笠原和夫,広田明彦:CNC 旋盤を用いた加工での加工精度向上について,
2007 年度精密工学会秋季大会講演論文集,(2007) 659.
2) E. Usui, A. Hirota and M. Masuko:Analytical Prediction of Three Dimensional
Cutting Process (Parts 1 and 2), Trans. ASME, Ser.B, 100, 2 (1978) 222, 229.
3) (株)森精機製作所,対話型自動プログラミングシステムCAPS-L,CAPS-ZT.
Fig.4 Variation of deflection of workpiece with machining sequence
Ⅱ
Ⅰ
6
4
5
Ⅱ
Ⅱ
Ⅰ
Ⅰ
5
1
2
3
10
11
2
Ⅰ
2
3
Ⅱ
9
6
7
8
(b) Sequence S2
Ⅰ
1
1
Ⅰ
7
8
9
(a) Sequence S1
Ⅱ
4
Ⅱ
Ⅱ
4
5
Ⅰ
4
3
Ⅰ
2
3
Ⅱ
9
8
6
(c) Sequence S3
1
5
6
7
(d) Sequence S4
Fig.5 Sequence of the turning process used in analysis for a shaft with three
different diameters
Increase of diameter ΔD μm
Ⅱ
Ⅰ
200
S1
S2
S3
S4
150
100
50
0
0
50 100 150 200 250
Distance along the Z axis mm
300
Fig.6 Difference of increase of diameter caused by sequence of the turning process.
Cutting conditions: workpiece diameter, 18.0mm; depth of cut, 1.0mm; feed,
0.25mm/rev; cutting speed, 130m/min; cutting fluid, dry
250
125
Measured (uncompensated)
Measured (compensated)
Calculated
200
100
150
75
100
50
50
Uncompensated
0
0
-50
-100
25
Compensated
0
50
100 150 200 250
Distance along the Z axis mm
-25
Compensated values of tool path ΔXp μm
5.あとがき
長尺な工作物を対象とした旋削での加工精度向上を目的として,切
削抵抗背分力の予測値に基づき,工作物とセンタのたわみを考慮した
工具経路を用いる手法を試みて以下の結論を得た.
(1) 複数回の加工を必要とする工作物の場合を対象として,加工順序
と直径増大との関係を,解析をとおして説明した.
(2) 段差をもつ軸を加工する場合でも,前報同様に切削抵抗によるた
わみを考慮した工具経路を用いることで,
直径の増大を軽減できる.
FT=205N
(b) Sequence S4
Increase of diameter ΔD μm
4.結果と検討
ここでは図3に示すように D0=18mm(L/D0=15)の円筒から3つ
の直径をもつ軸に加工する場合を検討する.ただし,たわみの解析に
際しては工作物の外表面はそのままで把持可能(把持部の長さは
20mm である)であり,右端は図2に示したセンタで支持されるとし
た.また工作物付け替え後も工作物の把持とセンタ部の支持条件は同
様に扱い,付け替えに伴なって生じる工作物中心のずれはないものと
した.
図4は図2(b)に示したセンタ部の有限要素モデルと FT の予測値を
用いて得られた,工作物の変形状態を示したものである.ただし,工
作物は炭素鋼S45C,工具は超硬合金工具(P20)で,同図では変位を
100 倍に拡大し表示している.刃先形状は平行上すくい角αb=-7°,
垂直横すくい角αs=0°,前切れ刃角 Ce=60°,横切れ刃角 Cs=30°,ノ
ーズ半径R=0.4mm である.切り込み深さdc,送りf および切削速度V
はそれぞれ dc=1.0mm,f=0.25mm/rev,V=130m/min とした.同図で
みられるように,加工し直径が小となった部分を把持している図(b)の
場合は,図(a)の場合に比べ変位が大となっている.
図6は図5に示した4通りの工程で加工を行なった場合の,回転軸
に沿う直径の増大ΔD(加工誤差に相当する)の計算結果を比較したも
のである.ただし,図の右と左は図5に示したⅠ,Ⅱ側に対応し,緑,
黒,赤,青の実線は,それぞれ S1,S2(文献のプログラミングシステ
ム 3)による)
,S3,S4 で加工した場合の結果である.4つの工程とも同
図に示されるように支持部に近い1段目ではⅠ,Ⅱ側ともΔD の差は
小である.また2段目においてもその工程による有意な差はみられな
い.これらのうち S1 と S2 の場合で,2段目および中央の3段目でΔD
はほぼ等しい値をとり,両者は1 本の線に重なっている.ただし,端
面からの距離が等しい位置で比較すると,Ⅰ側よりⅡ側を加工すると
きの方が工作物の曲げ剛性が小さくなるから,
直径の増大は大である.
中央の3段目に着目すると,工程 S1,S2,S3 ではセンタに近づくほ
どΔD は増大しているが,工程 S4 では逆に減少している.そしてこの
S4 でΔD の最大値が生じている.これも上記と同様に加工時の曲げ剛
性の差異によって生じたものである.
図7は工程S2で工作物のたわみを考慮していない場合と考慮した場
合の,直径の増大ΔD を比較したものである.破線で示すたわみを考
慮していない工具経路で加工した場合の計算値は,回転軸に沿う実験
結果の変化の傾向をよく説明している.同図より,切削抵抗によるた
わみを考慮した工具経路を用いることで,直径の増大をかなり軽減で
きるといえる.
Tool
(a) Sequence S1, S2
-50
300
Fig.7 Variation of increase of diameter along the Z axis (sequence S2). Cutting and
calculated conditions same as in Fig.6