留学生リポート イギリス/ニューカッスル大学 川名 志郎(経済学部4年) 昨年の7月末、生まれて初めての海外生活を始めてからはや10ヶ月となりました。英国での日々は思ってい た以上に早く過ぎ去り、今では日本での暮らしが遠い昔のことのように思われます。すべての看板が英語で 書かれていること、ベビーカーに乗った小さな子供が英語を話すこと、そんな当たり前のことにも驚いてい た私が、いまや当たり前のようにこの地で生活しています。留学生活も残り2週間となり、いざ帰国となる とあらゆることが名残惜しく、本当に貴重な体験をさせていただいたのだと痛感しております。このリポー トでは、私がすごしたこのニューカッスルでの日々を思い返しながら、留学中に感じたことについて書き記 させていただきます。 私が滞在したニューカッスル アポン タインは名前のとおりタイン川という川に面したイングランド北部 最大の都市で、かつては造船業などで栄えました。第二次世界大戦後、造船業の衰退や炭鉱の閉山などで一 旦は活気を失ったものの、産業構造を転換し、近年では観光にも力を入れています。街の中心部には大型シ ョッピングセンターなどもあって生活にはとても便利な土地でありながら、川沿いや駅の周りには伝統的な 建物が並んでおり、街の中心を少し離れると大きな公園に牛が放し飼いにされていたりもする美しい街です。 また、今年開催されるロンドンオリンピックのサッカーはニューカッスルで行われる予定です。 この街の人々は地元のサッカーチームとお酒をこよなく愛しており、真冬でも信じられないような薄着を して夜の街に繰り出すことは英国のほかの地域でも有名なようです。半そでの集団の横でダウンを着て歩く のは不思議な体験でした。友人とサッカー観戦に行った時には相手は小さなチームであったにもかかわらず 「この町のどこにこんな大勢の人がいたんだ?」と驚くほど多くの人がスタジアムへ詰め掛けていました。 また「ジョーディー」と呼ばれる独特のなまりも有名で、初対面の人と話す時には「ジョーディーはわから ない」という話でよく盛り上がりました。 大学では交換留学生の履修制限などもあり、専攻の経済学ではなく中国語や地理学、政治学、イギリス文 化などの幅広い授業を履修しました。中国語は毎日授業があり、10人程度で発音重視の授業が行われてい たのでイギリス人の学生と多く関わることができました。 私が履修した授業の中で最も興味深かったのはイギリス政党政治と選挙制度に関する政治学部3年生向け の授業です。経済学専攻であり政治学のバックグラウンドがない私は、本来政治学部3年生向けの授業を履 修することはできないのですが、教授のご厚意により参加させていただくことができました。この授業では 政党の歴史や国と地方の選挙制度の移り変わりなどを学びつつ、選挙データの分析からどのようにイギリス における投票行動が変化してきたのかを講義形式と少人数のゼミのような形式で1学期間勉強しました。 戦後、保守党対労働党の階級対立のようにとらえられてきた英国政治ですが、現在では親からの影響やホ ワイトカラーかブルーカラーかといった単純な対立構図は薄れ、党首の印象や政権運営能力の期待などが大 きな影響を持っています。また地方分権が進むにつれて地方議会が独自の特徴を持ちつつあり、スコットラ ンドでは2011年にスコットランドの独立を志向する地域政党のスコットランド国民党が政権を獲得して います。戦後初の連立政権であるキャメロン政権は財政再建を掲げていますが、党内の足並みの乱れやスキ ャンダルもあって地方選挙では与党が大幅に議席を減らしており、政党政治を勉強するには非常に面白い期 間でした。 2012年5月に行われた統一地方選挙の前にはゼミの時間に各党の地域別の政党PR放送を比較すると、 実際にそれぞれの党が支持を集めたい対象や党の強み、選挙制度に合わせてそれぞれ映像を作成しているこ とがわかり、リアルタイムで動く政治を勉強する面白さを実感しました。 その一方でさまざまな履修制限があり、ゼミが1時間に限定されているために議論がすぐにおわってしま うといったもどかしさもありました。この留学は自由に科目が履修でき、ゼミでは毎週遅くまで議論するこ とができる一橋の環境がいかに恵まれていたかを知るいい機会にもなりました。 私が滞在していた学生寮では環境学を専攻する中国人の学生と2人でキッチンやトイレ、シャワーなどを2 共有していました。初対面で「アメリカについてどう思う?」と聞いてきた彼とは中国のこと、日本のこと を教えあい、長々と政治について議論することもたびたびでした。生活の上では文化の違いに戸惑うことも ありましたが、彼とは一緒に旅行に行くほど親しくなることができました。 この留学中には学生同士の交流だけではなく異なる世代の方との交流もできました。 毎週日本語と英語を教えあうという名目で政治のこと、家族のことなど様々な話をし、時には自宅へ招い ていただいたりもした大学職員の方は私の父と同じくらいの年齢ですが、こちらで出来た大切な友人の一人 です。彼は20年以上前に日本での交換留学経験があり、自分の交換留学時代の話をよくしてくださいまし た。彼が留学中に感じたこと、留学後の日本に対する思いなどを聞き、自分にとってもこの留学中の経験が 生涯大切な思い出になるのだろうと感じました。 このイギリス留学は私にとって非常にぜいたくな時間でした。さまざまな国の学生と話し、好きなことを 学び、日本の環境から遠く離れたところで自分の将来について考える機会はこの留学がなければ得られなか ったと思っています。 このような機会を与えてくださった明治産業株式会社、明産株式会社、社団法人如水会の皆様、出発前か ら留学中まで常にサポートしてくださった国際課の方々、1 年生のころから相談に乗ってくださった川本玲 子先生、ゼミを途中で抜けて留学へ行くことを快諾し貴重なアドバイスを下さった指導教官の佐藤主光先生、 その他私の留学を支えてくださった多くの方々には大変感謝しております。 本当にありがとうございました。 2012/06/27
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