別紙1-1 共同研究員の公募を行う共同研究について 1.研究課題:基幹研究 「 中世日本の地域社会における武家領主支配の研究」 2.研究代表者:国立歴史民俗博物館・准教授 田中大喜 3.研究期間:平成28年4月~平成31年3月(3年間) 4.必要とする専門性と役割分担: 民俗学・人文地理学・社会学等と歴史学との融合領域開拓に興味があり,下記の い ず れかに該当する方。研究成果を展示に結びつけていく上での実装技術支援やコーデ ィ ネ ート、本融合領域を深化させる上で有益な知識・経験の共有を図る役割を期待いたし ま す。 ・ 現在の様々な民俗についてのフィールド調査を行い、資料化できる方 ・ 文献史学・考古学的な研究手法を充分に理解し、民俗学との融合を図れる方 ・ 島根県西部地域の民俗に精通している方、あるいはそれに関する業績のある方 5.研究目的: およそ 12~16 世紀の日本の中世と呼ばれる時代は、世襲制の職業戦士である武士とい う社会集団を生み出し、彼らの支配が地域社会レベルにまで浸透した時代である。したが って、中世の日本社会において、武士の支配がいかにして浸透=受容されたのかを明らか にすることは、その歴史的特質を究明するうえで必須の課題であると考える。そこで本研 究では、中世の地域社会において、武士の領主支配が受容された諸契機を究明すること で、中世の日本社会の歴史的特質に迫ることを目的とする。 武士による領主支配の内実を、地域社会との関わりのなかから追究する本研究は、1980 年代以来積み重ねられてきた中世地域社会論の成果を直接の前提としており、その発展 的継承を目指すものである。すなわち、武士も地域社会を構成した社会集団の一つと捉 え、武士の領主支配は、地域社会における一定の「受容」と「合意」なしには機能し得な いとの認識を共有する。そのうえで、山野河海・耕地・水利・交通路・寺社・町場(集散 地)・村落・領主居館等、荘園制の所産でもある地域社会の範域を規定したこれら諸要素 の有機的連関についてフィールドワークを通して考察し、その構造を立体的に究明する。 そして、そこに武士がいかにコミットしたのかを多角的に追究することで、武士の領主支 配が受容された諸契機を明らかにする。 一方、ここで留意すべきは、中世前期以来武士の所領支配・維持は、武家政権・荘園領 主・守護等の地域権力のほか、一族や近隣の武士たちとの多元的な結びつきのなかで実現 されたという事実である。地域社会との関わりに加えて、こうした中世武士の所領支配・ 維持を支えた中央(京・鎌倉)と地域双方に張りめぐらされた多元的なネットワークの具 体相と、中世を通じたその変化の様相について、政治史を踏まえながら追究することも、 中世武士の領主支配の内実を明らかにするうえで重要な課題である。 以上の研究課題を遂行するべく、本研究では、石見国の益田川・高津川流域社会を基軸 事例に取り上げる。益田荘と長野荘が存在した当該地域は、中世の荘園景観・遺跡・出土 遺物・地名等が良好に保存されており、中世の地域社会の構造を追究するうえで好個のフ -3- ィールドになる。またそこでは、在来武士の益田氏のほか、内田氏等の外来武士たちの領 主支配が展開したが、なかでも益田氏と内田氏は豊富な文献史料群を残しており、彼らの 領主支配と多元的なネットワークの具体相を知ることができる。しかし、領主支配のあり 方は地域ごとに多様であるため、異なる地域との比較によって、その本質を究明すること ができると考える。そこで本研究では、越後国奥山荘と肥前国小城郡も取り上げ、これら との比較を通して考察を進めていくことにする。 研究の意義 本研究では、地域社会論の視点に立脚した武家領主支配研究を行うが、その ためには、武家領主をはじめとする多様な社会集団が活動した地域社会の構造を明らか にすることが必要となる。そこで本研究では、これを立体的に解明するべく、文献史学・ 考古学・民俗学等の協業にもとづく学際的なフィールドワークを重点的に行う。これを 通して中世の地域社会の構造を多角的に検討し、武家領主が自己の支配を実現するべく 描いた地域設計の具体相とその変遷を明らかにする。 研究の必要性 本研究で行うフィールドワークや文書群の調査によって収集した地理・ 地名情報、ならびに各遺跡の遺構・出土遺物に関する情報は、現地の写真とともにデジタ ルマップに落とし込んで統合・管理し、国立歴史民俗博物館(歴博)のホームページから 公開する。これにより、今後の同地の現地調査に際し、地域の歴史的地名・事物の把握・ 検証を容易にするだけでなく、地域の開発・高齢化により年々把握が困難になっている これらを永続的に保存できるようにする。荘園調査情報の永続的な保存・公開の組織的な 取り組みは、調査情報とその公開の永続的な維持をいかにするかが問題になっている現 在、組織的な歴史研究を固有のミッションとする歴博が果たすべき責務と考える。 6.研究計画: 平成28年度 ①現地調査:長野荘において内田(俣賀)氏・益田氏それぞれの所領が設定された地域 の現地調査を行い、基礎データを作成する。 ②文献史料群の調査・分析:「内田文書」および「俣賀文書」の原本調査とその成果を 踏まえた内容分析を行う。 ③遺構・出土遺物の情報収集:益田荘・長野荘域の各中世遺跡の遺構・出土遺物に関す る情報を収集し、整理する。また、奥山荘・小城郡域でも同様の作業を平行して進める。 ④研究会の開催:歴博で2回、益田市で1回開催する。歴博では、共同研究課題の確認 ならびにメンバーによる①~③の情報の共有・検討を行う。また、①の成果をもとに、 内田氏と益田氏の領主支配の共通点と相違点を討議する。益田市では、メンバー全員で 益田荘・長野荘故地を踏査し、当該地域の研究の現状と課題を把握する。 平成29年度 ①現地調査:小城郡において肥前千葉氏の拠点が設定された地域の現地調査を行い、基 礎データを作成する。 ②文献史料群の調査・分析:「益田文書」および肥前千葉氏発給文書群の原本調査と、 その成果を踏まえた内容分析を行う。 ③遺構・出土遺物の情報収集:前年度の作業を継続する。 ④研究会の開催:歴博で2回、小城市で1回開催する。歴博では、メンバーの個別課題 報告とメンバーによる①~③の情報の共有・検討を行う。また、①の成果をもとに、肥 -4- 前千葉氏の領主支配の特徴と、内田(俣賀)氏・益田氏の領主支配との比較について討 議する。小城市では、メンバー全員で小城郡故地を踏査し、当該地域の研究の現状と課 題を把握する。 平成30年度 ①現地調査:奥山荘において中条氏の所領が設定された地域の現地調査を行い、基礎デ ータを作成する。また、鎌倉期までの内田氏の本領だった遠江国内田荘の現地調査も行 い、長野荘の内田氏の拠点との比較材料を収集する。 ②文献史料群の調査・分析:中条氏発給文書群の原本調査とその成果を踏まえた内容分 析を行う。 ③遺構・出土遺物の情報収集:前年度の作業を継続する。 ④研究会の開催:歴博で2回、胎内市で1回開催する。歴博では、メンバーの個別課題 報告とメンバーによる①~③の情報の共有・検討を行う。また、①の成果をもとに、中 条氏の領主支配の特徴と、内田(俣賀)氏・益田氏・肥前千葉氏の領主支配との比較に ついて討議し、翌年度開催予定の公開シンポジウム(益田市)・フォーラム(歴博)に つなげる。胎内市では、メンバー全員で奥山荘故地を踏査し、当該地域の研究の現状と 課題を把握する。 ⑤地名・地理情報と遺構・出土遺物情報の公開:現地調査・文献史料群調査で得た地理 ・地名情報、および遺構・出土遺物の情報収集の成果を集約し、デジタルマップを作成 する。作成したデジタルマップは、歴博のホームページから公開する。 7.研究成果の公開方法: 『研究報告』の刊行、公開シンポジウム・フォーラムの開催、企画展示の開催等 -5-
© Copyright 2024 Paperzz