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平成 20 年度 博士論文
固体塩基を用いる環境調和型
有機電解合成システムの開発
Development of Environmentally Friendly Electrolytic Systems
Using Solid-Supported Bases
東京工業大学大学院 物質電子化学専攻
渕上・跡部研究室
06D27046 栗原
均
目次
第1章 序論 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4
1-1. グリーンケミストリー・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4
1-2. グリーンケミストリーを指向した有機合成・・・・・・・・・・・・・・6
1-3. 有機電解合成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9
1-4. 本研究について ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15
1-5. 参考文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17
第2章 固体塩基を用いるコルベ反応
2-1. 緒言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19
2-1-1. コルベ反応・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19
2-1-2. 有機電解反応における支持塩の問題・・・・・・・・・・・・・20
2-1-3. 固体塩基を用いるコルベ反応・・・・・・・・・・・・・・・・21
2-2. 結果と考察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22
2-2-1. 固体塩基の電気化学的特性・・・・・・・・・・・・・・・・・22
2-2-2. 塩基性度の異なる固体塩基とメタノールの解離の変化・・・・・23
2-2-2. 固体塩基を用いるコルベ反応・・・・・・・・・・・・・・・・24
2-2-3. 固体塩基の再使用・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26
2-2-4. 固体塩基を用いる様々なカルボン酸のコルベ反応・・・・・・・27
2-3. 結論 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・29
2-4. 実験項 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30
2-5. 参考文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・32
第3章 固体塩基を用いる交差コルベ反応
3-1. 緒言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・33
3-1-1. 交差コルベ反応・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・33
3-1-2. 固体塩基を用いる交差コルベ反応・・・・・・・・・・・・・・35
3-2. 結果と考察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・36
3-2-1. 固体塩基の電気化学的特性・・・・・・・・・・・・・・・・・36
3-2-2. 固体塩基を用いる交差コルベ反応・・・・・・・・・・・・・・37
3-2-3. 固体塩基を用いる様々なカルボン酸の交差コルベ反応・・・・・37
3-3. 結論 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・40
3-4. 実験項 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・41
1
3-5. 参考文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・43
第4章 固体塩基を用いる非コルベ反応
4-1. 緒言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・44
4-1-1. 非コルベ反応・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・44
4-1-2. アミドの酸化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・45
4-1-3. 固体塩基を用いる非コルベ反応・・・・・・・・・・・・・・・46
4-2. 結果と考察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・47
4-2-1. 固体塩基の電気化学的特性・・・・・・・・・・・・・・・・・47
4-2-2. 固体塩基を用いる非コルベ反応・・・・・・・・・・・・・・・47
4-2-3. 固体塩基の再使用・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・50
4-2-4. 固体塩基を用いる様々なカルボン酸の非コルベ反応・・・・・・51
4-3. 結論 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・52
4-4. 実験項 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・53
4-5. 参考文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・55
第5章
5-1.
5-2.
5-3.
5-4.
5-5.
ヘキサフルオロイソプロパノールを用いるラクタム類の電解アルコキ
シ化
緒言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・56
5-1-1. 直接的 C-H 結合活性化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・56
5-1-2. 電解メトキシ化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・59
5-1-3. ヘキサフルオロイソプロパノールを用いる電解アルコキシ化・・60
結果と考察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・60
5-2-1. メタノールと HFIP の電位窓 ・・・・・・・・・・・・・・・・60
5-2-2. 固体塩基を用いる電解メトキシ化・・・・・・・・・・・・・・61
5-2-3. 固体塩基を用いる HFIP 中での電解アルコキシ化 ・・・・・・・62
5-2-4. HFIP 中での種々のラクタムの電解アルコキシ化・・・・・・・・64
5-2-5. C-C 結合形成 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・65
結論 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・67
実験項 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・67
参考文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・71
第6章
活性点分離の概念を用いる電解メトキシ化における脱プロトン化の促
進
6-1. 緒言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・72
6-1-1. 活性点分離・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・72
2
6-2.
6-3.
6-4.
6-5.
6-1-2. 活性点分離の概念を用いる電解メトキシ化における脱プロトン化
の促進 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・74
結果と考察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・75
6-2-1. 塩基と陽極の活性点分離・・・・・・・・・・・・・・・・・・75
6-2-2. 2,2-difluoroethyl phenyl sulfide の電解メトキシ化 ・・・・・・・76
6-2-3. 種々のフルオロエチルフェニルスルフィドの電解メトキシ化・79
結論 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・81
実験項 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・81
参考文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・84
第7章
総括・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・85
発表論文一覧 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・88
3
1. 序論
1-1. グリーンケミストリー[1]
1-1-1. グリーンケミストリーの背景
『グリーンケミストリー』とは、米国環境保護局(EPA)の Paul T. Anastas
によると、人間の健康や環境に害のある物質の使用や発生を低減あるいは停止
する化学製品やその製造プロセスを設計することであると述べられている[1]。
1990 年以前の米国の環境行政は、環境汚染物質の排出規制と廃棄物処理
による環境保全が中心であり、行政側は多くの規制を制定し、産業側は廃棄物
処理と設備に多額の投資を行い、多くの社会的資本が費やされてきたが、人の
健康や環境保護に実質的な効果があまり見られなかった。
こうした背景から、1990 年、米国において環境汚染防止法(Pollution
Prevention Act)が施行された。この法令は、米国の環境行政が“環境汚染物質
の規制や管理”から、
“環境汚染物質の発生を抑制し汚染を防止する”ことに軸
足を移したことを示すものである。1991 年には、EPA の OPPT(Office of Pollution
Prevention and Toxics)が、グリーンケミストリープログラムの第 1 号となる『汚
染防止のための代替合成経路開発(Alternative Synthetic Pathways for Pollution
Prevention)』と呼ばれる研究奨励プログラムをスタートさせた。その後、グリー
ンケミストリープログラムは、学界や産業界、他の省庁、非政府組織と連携し
進められている。この運動は世界各国に広まり、化学技術体系のパラダイムシ
フトをもたらしている。
グリーンケミストリーの概念は、これまでの環境に対する取り組みの反
省から、環境への配慮と経済性の両立を成し遂げることで持続可能な社会への
道筋をつけるものである。グリーンケミストリーを考慮したさらなる化学技術
の進展が期待される。
1-1-2. グリーンケミストリーの指針
グリーンケミストリーは、気候の変化やエネルギー供給、安全な水の確
4
保、食料供給、有害物質の環境中への漏洩といった我々が直面している問題に
取り組むための道筋を与える。オゾン層破壊の要因となる Chlorofluorocarbons
(CFCs)に対する代替発泡剤や、より選択性を持った、環境中に長期間残留しな
い殺虫剤など環境にやさしい製品の開発はグリーンケミストリーの概念に沿う
ものである。これらは意図的に設計されたものであって、偶発的に生じたもの
ではない。グリーンケミストリーの実践にあたって、そこには明確な指針が存
在する。1994 年の国連環境会議において、環境にやさしい製品およびプロセス
を設計するための指針として、『グリーケミストリーの 12 か条』が提唱されて
いる。この指針とは、
・ 生じた無駄を処理もしくは浄化するよりも、その発生を防ぐほうがよい。
・ 合成法は工程で用いられる材料の最終産物への取り込みを最大にするよう
設計されるべきである。
・ 合成法は人間の健康や環境に毒性が少ないか、もしくはないような化学物
質を使用したり生成したりするよう設計すべきである。
・ 化学物質は機能面での効能を保持したまま、毒性が減るように設計すべき
である。
・ できる限り、補助材料(たとえば溶媒や分離剤など)の使用を不要とし、
用いる場合には無害なものにすべきである。
・ エネルギーに対する要求は、その環境面および経済面に対する影響を認識
して行い、極小化すべきである。合成法は常温常圧下で実施すべきである。
・ 原料や素材は、技術的、経済的に可能ならば、使い切りではなく再利用す
べきである。
・ 不必要な誘導化(反応阻止グループ、保護・脱保護、物理的・化学的プロ
セスの一時的改変)はできる限り避けるべきでる。
・ (できる限り選択的な)触媒的試薬は化学量論的試薬に勝る。
・ 化学製品はその機能が終了したときには環境に残らず、無害な分解物にな
るよう設計されるべきである。
・ 反応中リアルタイムにモニタリングが可能で、有害物質の生成以前に制御
できるような分析法を開発する必要がある。
・ 反応プロセスで用いる化学物質やその形態は漏洩、爆発、火災などの事故
の可能性を最小限にするよう選択されなければならない。
この指針の実践は、研究、実用化、教育、国内・国際的政策、一般市民
の理解というあらゆる段階で化学の活性化に貢献する。現在、グリーンケミス
トリーに関する様々なプログラムやイニシアティブが存在する。これらの活動
5
において、化学者は重要な役割を果たすことが求められている。
1-2. グリーンケミストリーを指向した有機合成
グリーケミストリーは、環境への負荷の削減と経済性の両立を達成する
概念であり、
“廃棄物あるいは有害物質の管理よりも廃棄物あるいは有害物質の
生成防止”を図ることが最も重要である。このことは、リスクの概念によって
表される。
リスク = 有害性 × 暴露
リスクは有害性と暴露の積で表される。多くのリスク低減策は、暴露の
低減を目指している。加えて、規制措置の大半は、暴露の制限を目的とした制
御技術や取り扱い方法、さらには吸入マスク、手袋など、作業者の保護具の使
用を前提としている。一方、グリーンケミストリーは、有害性の低減によって
リスクの削減を目指している。一般に、吸入マスクの破損やガス洗浄器の破れ
などうまくいかないことがあるので、暴露制御では予期せぬ事故にも備えなく
てはならない。暴露には有害性が伴うので、失敗した時のリスクが大きい。こ
の結果、工学的手段から作業者に対する保護措置に至るまで暴露制御の種類に
関係なく、暴露制御にかかるコストは上昇する。これに対し、グリーンケミス
トリーは、化学製品や製造工程における有害性の低減を目指している。従って、
暴露制御のような予期せぬ事故によるリスクを回避できることから、コストの
低減も期待できる。
さらに、環境への負荷とコストの低減にとって、廃棄物の管理よりも廃
棄物の生成を抑制することも重要である。各種の化学産業における製品の単位
重量あたりに発生する廃棄物の量(E ファクター)を考えれば容易に理解できる。
幾つかの製品の E ファクター[2]
産業分野
石油精製
大量生産型化学品
ファインケミカル
医薬品
生産量(トン)
廃棄物(kg)/ 製品(kg)
6
8
< 0.1
4
6
< 1~5
2
4
5~>50
3
25~>100
10 ~10
10 ~10
10 ~10
10~10
6
廃棄物とは、化学プロセスで生成してくるすべての物質の中で、目的物質以外
のものと定義しておく。おもなものは、反応やそれに続く中和工程で生成する
無機塩(塩化ナトリウムや、硫酸ナトリウム、硫酸アンモニウムなど)や、化
学量論的な無機反応物質(化学量論的な金属酸化剤)から生じるものである。
これらは、ファインケミカルや医薬品のような高付加価値製品になると劇的に
増加する。このことは、製品の製造が多段階合成となることに比例する。さら
に、一般に反応段階ごとに分離・精製操作を必要とすることから、反応工程数
の増加はさらなる廃棄物の増加をもたらす。従って、分離・精製の効率化(ス
テップエコノミカル合成や固定試薬化による分離の簡略化など)によって廃棄
物の生成防止を図ることは、環境への負荷の削減と経済性の両立を図る有効な
手段の一つといえる。
1-2-1. クリーンな反応システムの設計
クリーンな反応システムを設計する場合、合成反応(合成経路および各
段階の反応)の効率化のみならず、分離・精製過程の効率化も含めたあらゆる
段階で上述のグリーンケミストリーの評価をしていく必要がある[3]。
特に、生成物(または試薬、触媒)の分離・精製は、エネルギーとさら
なる化学物質を最も多く必要とする過程である。例えば、カラムクロマトグラ
フィーによる分離・精製操作は、展開溶媒として多量の有害な溶媒(有機溶媒)
を必要とし、蒸留による分離・精製操作は、冷却および加熱に多量のエネルギ
ーが使われる。このことから、反応システムのグリーンケミストリーの評価に
分離・精製過程は多大な影響を及ぼすと考えられる。
従って、これまでのカラムクロマトグラフィーや蒸留による分離・精製
過程に代わる効率的な分離・精製過程の設計が望まれている。こうした観点か
ら、近年、固定触媒化や固定試薬化による触媒、試薬の効率的な分離・回収お
よびリサイクルのシステムが構築されている。
固定触媒化および固体試薬化 反応終了後、化合物を分離・回収する一般的な
方法として、液-液分離が挙げられる。これは、化合物の相親和性を利用した
分離であり、化合物の構造に依存することから一般性に欠ける。これに対し、
固相合成では、化合物を不溶性ポリマーなどに直接結びつけることから、液-液
分離と比べ化合物の構造に依存することなく分離が可能であり、簡単なろ過に
よる操作のみで触媒を回収できる。
7
Figure 1 に固相担持酸化剤の反応スキームを示す[4]。シリカゲル担持した
2,2,6,6-tetramethylpiperidine-1-oxyl(TEMPO)を酸化剤として、アルコールをケ
トンに酸化している。反応終了後、シリカゲル担持 TEMPO は、ろ過により回収
してリサイクルできる。また、失活したシリカゲル担持 TEMPO は、系中の NaClO
を用いて活性化されている。
N
Si
OH
O
N
H
O
NaOCl, KBr
CH2Cl2, H2O (pH 9.1)
0 oC, 60 min
pre-reaction
aqueous
phase
reaction
NaOCl
99 %
post-reaction
inorganic waste
KBr
intensive
organic
phase
OH
O
phase
mixing
solid
phase
TMP O
TMP O
catalyst recycling
Figure 1. Anelli oxidation of alcohols using silica-supported TEMPO catalysts.
Figure 2 の例は、ポリマー担持されたヒドラジンを用いるニトロアレーン
の還元反応である[5]。ヒドラジンによる還元は、副生成物として窒素ガスや水
が生じるだけなので多用される反応である。しかしながら、多くの場合、反応
時間の短縮や、完全に反応を進行させるために、過剰量のヒドラジンが用いら
8
れる。このため、ヒドラジンが有害性の高い化学物質であることを考慮すると、
反応処理の過程で環境中へ漏洩のリスクが懸念される。ヒドラジンを固体に担
持することで、このようなリスクの軽減が期待できる。また、失活したポリマ
ー担持されたヒドラジンはヒドラジンを含むメタノール中で洗浄することで再
活性化できる。
NO2
NH2
COO-NH3+NH2
Cl
Cl
iron oxide hydroxide
propan-2-ol, reflux
Cl
Cl
98 %
COOH
50 % solution of NH2NH2
in MeOH
COO-NH3+NH2
recycle
Figure 2. Reduction of nitroarenes to the corresponding aromatic amines using
polymer-supported hydrazine hydrate over iron oxide hydroxide catalysts.
1-3. 有機電解合成[6]
1-3-1. 環境調和型の有機合成手法
近年、固定触媒化や固定試薬化を通して、グリーンケミストリーを指向
した酸化剤や還元剤の効率的な分離・回収に関する研究が数多く報告されてい
る。
ところで、グリーンケミストリーの観点から、有機電解合成は環境調和
型の有機合成手法として近年注目されている。有機電解合成は電極と直接電子
9
授受を行う酸化還元プロセスであることから、酸化剤、還元剤の使用を避ける
ことができる。従って、1-2-1 で述べたような酸化剤や還元剤の効率的な分離・
回収の観点からは、分離操作が必要ないので最も理想的な反応プロセスである
といえる。さらに、酸化と還元という互いに相反する反応を同一セル内で行え
ることは、他の化学的手法の視点からみれば実に驚くべきことである。
実際、ごく最近,ドイツの BASF 社がフタリドとパラ-t-ブチルベンズア
ルデヒドのペアードエレクトロシンセシス(両極合成)を企業化し,有機電解
合成をグリーンケミストリーとして最も有望な合成プロセスとして位置付けて
いることは大いに注目すべきことである(Figure 3)[7]。
[cathode]
COOMe
COOMe
O
+4e, +4H+
90 %
O
MeOH
[anode]
2 MeOH
t-Bu
-4e, -4H+
90 %
t-Bu
CH(OMe)2
[total]
COOMe
t-Bu
COOMe
+4e, +4H+
-4e, -4H+
O
O
t-Bu
CH(OMe)2
Figure 3. Paired electrolysis of phthalide and t-butylbenzaldehyde.
1-3-2. 有機電解合成の課題
工業的にも広く用いられている有機電解合成は、通常の化学反応と比べ、
様々な特徴を持っている[8]。
(1)
(2)
電極電位を制御することで、反応の選択性を制御することができる。
反応の活性化エネルギーを越えるのに、熱エネルギーを必要とせず、熱に
10
(3)
(4)
不安定な化合物にも適用できる。反応の駆動力は電極のポテンシャルエネ
ルギーである。
直接、電極と電子授受を行うため、重金属を含む酸化剤や還元剤の使用を
避けることができ、また、酸化剤や還元剤由来の副反応を抑えることがで
きる。
通電量を測定することで、容易に反応の進行をモニタリングすることがで
きる。また、通電を止めることで、反応を即座に止めることができる。
特に有機電解合成は、(3)の mass-free な電子を試薬として用いる反応として、グ
リーンケミストリーの観点から近年注目を集めている。
一方、有機電解合成では有機溶媒に電気を流すために支持塩を必要とし、
反応終了後にはその支持塩を分離・回収する必要がある。一般に、第四級アン
モニウム塩が支持塩として多く用いられているが、有機溶媒に対する良好な溶
解性は、反応終了後、支持塩からの生成物の分離の問題をひきおこす。カラム
クロマトグラフィーによる分離が、多くの場合必要とされ、さらに、回収され
た支持塩は、概して再利用しにくいため産業廃棄物となる。このことから、支
持塩の分離・回収、さらに産業廃棄物の問題は非常に重要な課題となっている。
支持塩の問題に対し、これまでに支持塩の低濃度化を目指したキャピラ
リーギャップセル[9]や、支持塩の分離・回収を容易にすることを目指した高分
子型支持塩システム[10]、相溶性二相有機溶媒システム[11]、シリカゲル分散水
系システム[12]、SPE 電解[13]、さらには支持塩を加える必要のない電気化学的
マイクロフローセル[14]、フロー式薄層電解セル[15]などが報告されている。以
下に数例を挙げておく。
キャピラリーギャップセル(Figure 4)
系中の支持塩の分解が起こり、系を汚し、反応効率を下げる場合、隔膜
セルを使用することが多い。しかしながら、セル電圧が高くなるので、工業的
立場からすれば、セル電圧が抑えられる無隔膜セルでの電解が望ましい。その
ため、支持塩濃度を極力低濃度で抑えるために、電極間距離を狭めた、キャピ
ラリーギャップセルを用いる電解が工業的に広く行われている。
11
Figure 4. Design of capillary gap cell; circular disks (1) of inert, conducting material,
capillary gap (2), centre of the stack (3), heat exchanger (4), current leads (5, 6).
SPE 電解(Figure 5)
SPE を用いることで、導電性のない液体中でも電気化学反応を行うこと
が出来る。SPE は燃料電池の分野では良く知られている技術である。1981 年、
小久見らによって、この SPE の技術は初めて有機電解合成の分野に応用された。
SPE を有機電解合成に応用することで、支持塩を加えることなしに電解を行う
ことができ、支持塩由来の副反応の抑制を可能にした。SPE としてカチオン交
換膜を用い、その表面にグラファイトフェルト電極をプレスすることで SPE 電
極を作製する。白金を電極に用いる場合は、無電解メッキ浴に浸漬する方法を
用いて金属を析出、結合させることで SPE 電極を作製する。Figure 3 に SPE 電
解法の原理と DMF のメトキシ化の例を示す。SPE 電極で隔てられた陽極室側に
メタノールと DMF を入れる。メタノールの酸化によって生成したプロトンが電
荷のキャリアーとなって陰極側に移動し、還元され水素ガスが生じる。この電
解法では、支持塩を用いていないため、生成物の分離が容易となる。
12
Figure 5. Principles of SPE electrolysis (Methoxylation of DMF).
フロー式薄層電解セル(Figure 6)
陽、陰極を互いに向き合わせたフロー式薄層セルでは、十分に電極間距
離が狭いので、陽、陰極の拡散層が重なり合っている。このとき、電極発生酸、
塩基が電荷のキャリアーとなるイオン種となり、支持塩を加えることなしに電
解を行うことが出来る。反応例として、メタノール溶媒中でのフランのメトキ
シ化を示す。
13
Cathode:
MeOH
e
MeO-
1/2H2
Anode:
MeO-
-e
O
O
or MeOH, -H+
O
OMe
O
OMe
MeO-
-e
O
OMe
or MeOH -H+
MeO
Figure 6. Schematic representation of the thin layer flow cell.
1-3-3. 固体塩基を用いる有機電解合成システム
支持塩の問題に対し、最も理想的な解決法は支持塩を電解セルに加えな
いことである。従って、電気化学的マイクロフローセルやフロー式薄層電解セ
ルは理想的なシステムであると言えるが、これらの電解システムは特別な設備
を必要とする難点があった。これに対し、近年、田嶋らによって固体塩基を用
いる有機電解合成システムが報告されている[16]。このシステムは、固体塩基を
支持塩の代替として用いるものであり、特別な設備を必要としない利点を持つ。
また、反応終了後、固体塩基はろ過によって除去することが出来るとともに、
再使用が可能であることも報告している。従って、固体塩基を用いる有機電解
合成システムは、上述の電気化学的マイクロフローセルやフロー式薄層電解セ
ルよりも環境調和型有機合成手法として汎用できる可能性を持っている。以下
に田嶋らの報告した固体塩基を用いる有機電解合成の例を示す。
固体塩基を用いる電解メトキシ化
固体塩基を用いる電解反応システムでは、溶媒であるメタノールと固体
塩基の酸塩基反応によって生じるイオン種を電荷のキャリアーとして用いてい
14
る(eq. 1)
。このメタノールと固体塩基の酸塩基反応に基づくシステムを用いて、
phenyl-2,2,2-trifluoroethyl sulfide の電解メトキシ化を行ったところ、76 %と良好
な収率で対応するメトキシ化体を得ている(Figure 7)。さらに、カルバメートや、
フラン、フェノール、ジメトキシベンゼンに対しても良好な収率で対応するメ
トキシ化体を得ている。
ROH
RO-
NR1R2
PhS
CF3
NHR1R2
0.1 M Si-piperidine
MeOH
3 F mol-1, 10 mA cm-2
Pt-Pt
(1)
OMe
PhS
CF3
76 %
Figure 7. Anodic methoxylation phenyl-2,2,2-trifluoroethyl sulfide using silica gel supported
bases.
本研究では、固体塩基を用いる有機電解合成システムの一層の効率化を
分離・精製の効率化および反応の効率化の両面から行った。以下に、本論文の
概略を示す。
1-4. 本研究について
有機電解反応では、電気を流すために必要な支持塩の後処理が大きな課
題であり、これまでに支持塩の問題に関する様々な電解法が提案されてきた
(1-3-2)。最も理想的な解決法は支持塩を電解セルに加えないことである。従って、
電気化学的マイクロフローセルやフロー式薄層電解セルは理想的なシステムで
あると言えるが、これらの電解反応システムは特別な設備を必要とする難点が
あった。この問題に対し、第 2 章および第 3 章では、支持塩を加える必要のな
い、固体塩基を用いる電解反応システムを開発し、コルベ反応および交差コル
ベ反応をモデル反応としてシステムの最適化を行った。この電解反応システム
は、従来の実験装置をそのまま使用することができる利点を持つ。第 4 章では、
15
この電解反応システムの応用展開を行った。アミドやラクタム、カルバメート
などのカルボン酸を出発原料として、非コルベ反応を行い、医、農薬の合成中
間体として有用なメトキシ化体をほぼ定量的に得ることに成功した。
第 5、6 章では、反応の効率化に軸を移した研究を行った。直接的 C-H 結
合活性化を伴う化学変換は、化学変換のための前処理を必要としないことから、
ステップエコノミカルな合成であると言える。電解アルコキシ化反応は、メタ
ノール溶媒に対して比較的酸化電位の低いアミドやカルバメートでは、メトキ
シ基を一段階で導入することができるが、酸化電位の高いラクタムは、電解メ
トキシ化反応は困難であった。そこで、第 5 章では、耐酸化性のアルコールを
用いた新規の電解アルコキシ化反応を検討した。また、陽極置換反応に代表さ
れる酸化的脱プロトン化過程を伴う電解酸化反応は、最も重要な有機電解反応
の 1 つであるが、脱プロトン化を促進させるために塩基存在下で電解酸化を行
うことは、基質と塩基の酸化電位の関係から概して困難である。一方、固体-
固体間の電子移動は一般に困難であることから、固体に担持された塩基と陽極
は活性点分離されていると言える。そこで、第 6 章では、固体塩基を用いる電
解反応システムを用いてスルフィド類の脱プロトン化の促進を行った。
第 7 章では、第 2 章から第 6 章の結果を踏まえて総括し、今後を展望す
る。
16
1-5. 参考文献
[1] (a) P. T. Anastas, J. B. Zimmerman, Environ. Sci. Technol. 2003, 95A-101A. (b) P. T.
Anastas, M. M. Kirchhoff, Acc. Chem. Res. 2002, 35, 686-694. (c) P. Tundo, P. Anastas,
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17
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18
2. 固体塩基を用いるコルベ反応
2-1. 緒言
2-1-1. コルベ反応[1]
コルベ反応は有機電解反応の中で最も代表的な反応の 1 つであり、カル
ボキシラートイオンの一電子酸化により脱炭酸され、炭素ラジカルを与える有
用な反応である。発生した炭素ラジカルは、カップリングした二量化体や、二
重結合への付加体を与える(Figure 1, path a)。カルボキシラートイオンの酸化は、
反応条件やカルボン酸の構造によって、ラジカル中間体から、さらに酸化され
たカチオン中間体へ進む場合もある。このカチオン中間体は、置換、脱離、転
移などの反応に利用される(Figure 1, path b)。カチオン中間体を経由する反応は
非コルベ反応と言われる。
R R
(a)
R
RCO2
-e
(a)
R
Y
-CO2
(b)
H Y
R
R
H H
-e
R
ester, ether, olefin, amide
Figure 1. Schematic representation of Kolbe and non-Kolbe electrolysis.
また、コルベ反応は種々の対称的な分子の合成に応用されている。例え
ば、pentacyclosuqalene の前駆体である tetracyclic diacetate 2 の合成 [2] や、
α-onocerin の前駆体である(-)-diacetoxydione 4 の合成[3]に用いられている(Figure
2)。このように、コルベ反応は有機合成のツールとして有用である。さらに、工
業分野では、BASF 社によって、ポリアミドの重要な中間体であるセバシン酸 7
19
の pilot-scale での製造[4]が、モノメチルアジピン酸 5 からのコルベ反応によっ
て行われている(Figure 3)。コルベ反応は、他の化学的手法と比べ、種々の高級
アルカンや 1,n-ジエステルを容易に得ることができる。
CO2H
AcO
NH3/MeOH
2
OAc
130 mA cm-2
(35 %)
OAc
1
H
CO2H
O
2
H
HO
pentacyclosqualene
2
[a] NaOMe/MeOH
0.1 A, 50 V
H
H
O
H
AcO
3
OH
O
[b] Ac2O/pyr
(40 %)
H
H
OAc
H
HO
4
H
H
(+)-α-onocerin
Figure 2. Kolbe electrolysis of 1 and 3.
CO2H
2 MeO C
2
5
-2e
-2CO2
CO2Me
MeO2C
6
Hydrolysis
Figure 3. Kolbe electrolysis of monomethyl adipic acid.
CO2H
HO2C
7
2-1-2. 有機電解反応における支持塩の問題
コルベ反応に代表されるように、有機電解反応は有機合成のツールとし
て有用であるとともに、工業的にも利用されている反応である。しかしながら、
有機電解合成では有機溶媒に電気を流すために支持塩を必要とし、反応終了後
にはその支持塩を分離・回収する必要がある(1-3-2)。また、有機電解合成で用い
20
られる支持塩は、有機溶媒への溶解度を向上させるために多くの場合、四級ア
ンモニウムカチオンおよび対アニオンで構成される。これらの支持塩は、アト
ム・エコノミーの観点からも望ましいとは言えない。このことから、支持塩の
問題は非常に重要な課題となっており、様々な研究が行われている。特に、支
持塩を加える必要のない電気化学的マイクロフローセル(第一章、Figure 11)[5]
やフロー式薄層電解セル[6]は、理想的な反応システムであると言えるが、これ
らの電解反応システムは特別な設備を必要とする難点があった。この問題に対
し、田嶋らは、支持塩を加える必要のない、固体塩基を用いる電解反応システ
ムを開発した[7]。このシステムは、従来の電解反応システムに対し、支持塩の
代替として固体塩基を使用するものである。
2-1-3. 固体塩基を用いるコルベ反応
固体塩基を用いる電解反応システムは、メタノールのようなプロトン性
溶媒と固体塩基の酸塩基反応に基づくシステムであり、酸塩基反応によって生
じるイオン種が電荷のキャリアーとして働くので、支持塩を必要としないシス
テムである(eq. 1)。また、反応終了後、固体塩基はろ過によって除去することが
できるとともに、再使用が可能である。田嶋らは、この電解反応システムを用
いて、スルフィド類の電解メトキシ化を行い、良好な収率で対応するメトキシ
化体を得ることに成功している。しかしながら、この電解反応システムでは、
溶媒であるメタノールと固体塩基の酸塩基反応によって生じるイオン種が電荷
のキャリアーとなるので、系中に十分な量のイオン種を供給できず、高いセル
電圧が課題となっていた。
本章では、セル電圧を抑制するために、メタノール(pKa = 15.2)より酸性
度の高いカルボン酸(pKa = 3~5)と固体塩基の酸塩基反応に基づく新規電解反応
システムを構築することを目的とした(Figure 4)。また、カルボン酸を用いる代
表的な有機電解反応であるコルベ反応に着目し、この電解反応システムをコル
ベ反応へと展開することを更なる目的とした。また、このシステムでは、カル
ボン酸と固体塩基の酸塩基反応(eq. 2)によってカルボキシラートイオンが生じ
ることから、コルベ反応が促進されることを期待した。
CH3OH
pKa = 15.2
NR1R2
CH3O
NHR1R2
(1)
RCOOH
pKa = 3 ~ 5
NR1R2
RCOO
NHR1R2
(2)
21
R CO2H
Base
R CO2- H+
electrolysis
MeO- H+
MeOH
R R
MeO- H+
Base
Base
reuse
R R
evaporation
R R
MeOH
filtration
Base
Figure 4. The experimental procedure for Kolbe electrolysis using solid-supported bases.
2-2. 結果と考察
2-2-1. 固体塩基の電気化学的特性
固体塩基をメタノールに加えた場合の CV 測定を行った(Figure 5)。メトキ
サイドイオンの酸化に伴う酸化波およびプロトンの還元に伴う還元電流が確認
された。このことから、固体塩基がメタノールをメトキサイドイオンとプロト
ンに解離しているものと考えられる。さらに基質であるカルボン酸を加えて CV
測定を行った。プロトンの還元に伴う還元電流が大きくなり、また、1.5 V 付近
からメタノールの酸化に伴う酸化電流が小さくなった。これは、カルボン酸由
来のカルボキラートイオンが陽極表面に吸着したためであると考えられる[8]。
以上より、固体塩基をメタノールに加えることでメタノールが解離する
のに対し、そこにより酸性度の高いカルボン酸を加えることで、カルボン酸が
優先的に解離し、より多くの電荷のキャリアーと成り得るプロトンが生じるこ
とが明らかとなった。
22
1
2.0x10
(a)
1
1.5x10
1
Current / A
1.0x10
(b)
0
5.0x10
0.0
0
-5.0x10
1
-1.0x10
1
-1.5x10
1
-2.0x10
-1.5
-1.0
-0.5
0.0
0.5
1.0
1.5
2.0
2.5
3.0
Potential / V vs SCE
Figure 5. Cyclic
voltammograms of (a) 0.1 M silica gel supported
piperidine/MeOH, (b) 4,4,4-trifluoro-3,3-dimethoxybutylic acid (8) (0.1 M) in
0.1 M silica gel supported piperidine/MeOH, recorded at a Pt disk electrode (φ=
0.8 mm). The scan rate was 100 mV s-1.
2-2-2. 塩基性度の異なる固体塩基とメタノールの解離の変化
次に、固体塩基の塩基性度に対するメタノールの解離の影響について検
討した。塩基性度の異なる固体塩基をそれぞれメタノールに加えて CV 測定を行
った(Figure 6)。固体塩基の塩基性度が高いほどメトキサイドイオンの酸化に伴
う酸化波が大きくなることが確認された。プロトンの還元に伴う還元電流はイ
ミダゾール(pKa = 7.2)からピペリジン(pKa = 11.2)にかけて大きくなることが確認
された。ピペリジンから 1,3,5-triazabicyclo[4.4.0]dec-5-ene (TBD, pKa = 14.5)では
プロトンの還元に伴う還元電流の増加は確認されなかった。これは、メタノー
ル由来のプロトンを TBD が強く捕捉しているためであると考えられる。
以上より、固体塩基とメタノールは酸塩基平衡の関係を満たし、電荷の
キャリアーと成り得るプロトンが生じていると考えられる。
23
-5
3.5x10
-5
3.0x10
(c)
-5
2.5x10
(b)
Current / A
-5
2.0x10
-5
1.5x10
-5
1.0x10
(a)
-6
5.0x10
0.0
-6
-5.0x10
-5
-1.0x10
-5
-1.5x10
-5
-2.0x10
-1.5
-1.0
-0.5
0.0
0.5
1.0
1.5
2.0
2.5
3.0
Potential / V vs SCE
Figure 6. Cyclic voltammograms of MeOH/MeCN (50/50 v/v%) in the presence
of (a) silica gel supported imidazole (0.1 M, pKa = 7.2), (b) silica gel supported
piperidine (0.1 M, pKa = 11.2), and (c) silica gel supported TBD (0.1 M, pKa =
14.5), recorded at a Pt disk electrode (φ= 0.8 mm). The scan rate was 100 mV
s-1.
2-2-2. 固体塩基を用いるコルベ反応
久保田らの報告した 4,4,4-trifluoro-3,3-dimethoxybutylic acid (8)のコルベ反
応[9]では、対応するカップリング生成物 9 の収率が 86 %と良い結果を得ている。
この反応をモデル反応として、固体塩基を用いるコルベ反応を検討した。実験
手順を Figure 4 に示す。固体塩基をメタノールに加え、メタノールをメトキサイ
ドイオンとプロトンに十分解離させるため 1 時間撹拌した。それから 8 を加え
て電解を行った。電解終了後、対応するカップリング生成物と固体塩基をろ過
により分離した。ろ液から溶媒を減圧留去することにより対応するカップリン
グ生成物 9 を得た。
最初に、電流密度 75 mA cm-2、電気量 2 F mol-1 で 8 の電解条件の検討を
行った。Table 1 に示すように、entry 1 では、50 %の中程度の収率で対応するカ
ップリング生成物 9 を得たが、ポリスチレン担持ピペリジンはメタノール溶媒
中で膨潤せず、100 V 以上のセル電圧を要した。entry 2 でも同様に中程度の収率
で対応するカップリング生成物 9 を得たが、セル電圧は 60 - 70 V と大幅に低下
24
させることができた。また、基質であるカルボン酸を加える前のセル電圧が 100
V 以上であった。ポリスチレン担持ピペリジンに比べ、シリカゲル担持ピペリ
ジンで低いセル電圧を達成できたのは、シリカゲル担持ピペリジンは表面にピ
ペリジンが修飾されていることから、ポリスチレンのように膨潤させる必要が
なく、カルボン酸との酸塩基反応が十分に行われたためであると考えられる。
さらに、カルボン酸添加後のセル電圧の大幅な低下は 8 が基質としてだけでな
く、支持塩として働くことを示している。また、原料回収が 38 %(entry 2)で
あったことから、副反応としてメタノールの酸化が進行していると考えられる。
entry 3 では、メタノールの酸化を抑制するためにメタノールより酸化されにく
いアセトニトリルを共溶媒として用いた。その結果、電流効率は entry 2 に対し
大幅に改善された。
次に、種々のシリカゲル担持塩基を用いて検討を行った。ピリジンを用
いた場合には、セル電圧が高すぎて電解を行うことができなかった(entry 4)
。
イミダゾールを用いた場合では、96 %の高収率で対応するカップリング生成物
9 を得たが、セル電圧が entry 3 より上昇した(entry 5)。TBD を用いた場合では、
44 %の中程度の収率で対応するカップリング生成物 9 を得た(entry 6)。原料回収
は 32 %だった。弱い塩基を用いるとメタノールに対しカルボン酸が優先的に解
離し、電流効率が増したがセル電圧も上昇した。一方、強い塩基を用いた場合、
メタノールとの酸塩基反応によって生じたメトキサイドイオンの酸化が進み電
流効率が低下した。
これらの結果から、固体塩基を用いるコルベ反応に対し、シリカゲル担
持ピペリジンを用いた entry 3 の電解条件が最も適していた。さらに、NaOMe を
支持塩として用いた従来法と比べても、本電解システムが良好な結果を示すこ
とが明らかになった(entry 7)。次に、entry 3 の電解条件で 8 の原料消費まで電解
を行ったところ、対応するカップリング生成物 9 をほぼ定量的に得ることがで
きた(entry 8)。
25
Table 1. Kolbe Electrolysis of 8 Using Solid-Supported Bases
0.1 M
F3C
MeO
Base
MeOH/MeCN
CO2H
OMe
8
2 F mol-1, 75 mA cm-2
Pt-Pt, ice bath
MeO
F3 C
MeO
OMe
9
OMe
CF3
MeOH/MeCN
(v/v %)
yielda (%)
piperidine (11.2)d
100/0
50 [25]e
SiO2c
piperidine
100/0
47[24]
3
SiO2
piperidine
50/50
85 [43]
4
SiO2
pyridine (5.2)
50/50
-
5
SiO2
imidazole (7.2)
50/50
96 [48]
6
SiO2
TBD (14.5)
50/50
44 [22]
7
-
NaOMe
100/0
34 [17]
8f
SiO2
piperidine
50/50
quant. (90)g
entry
solid
1
PSb
2
base
a 19F
NMR yield based on the CF3 group using monofluorobenzene as an internal
standard. b Polystyrene. c Silica gel. d pKa value of the conjugate acid in parantheses. e
Current efficiency. f 6 F mol-1 was passed. g Isolated yield.
2-2-3. 固体塩基の再使用
次に、固体塩基の再使用について検討した。Figure 4 に示すように、メタ
ノール溶媒中に固体塩基とカルボン酸を加え電解を行い、反応終了後、ろ過に
より固体塩基を分離・回収し、回収された固体塩基を再び次の電解に用いた。
Table 1 の entry 8 の電解条件でシリカゲル担持ピペリジンを用いて 8 の電
解を繰り返し 10 回行った。Figure 7 に示すように対応するカップリング生成物 9
26
Yield of 9(%)
の収率は常に 90 %以上だった。この結果より、固体塩基は高電流密度条件下で
も分解されず安定であり、再使用可能であることが明らかとなった。
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
1
2
3 4 5 6 7
The number of times
8
9
10
Figure 7. The yield of Kolbe coupling product 9 in the reuse of silica gel supported
piperidine.
2-2-4. 固体塩基を用いる様々なカルボン酸のコルベ反応
固体塩基を用いるコルベ反応の一般性について検討を行った。Table 2 に
結果を示す。直鎖のカルボン酸[10]であるオクタン酸 10 やデカン酸 12 から対
応する高級アルカンをそれぞれ 90 %、99 %と良好な収率で得ることができた
(entries 1 and 2)。また、モノメチルコハク酸 14 やモノメチルアジピン酸 16 か
らも同様に、対応するジエステルをそれぞれ 91 %、88 %と良好な収率で得るこ
とができた(entries 3 and 4)。さらに、β位に枝分かれを持つ methyl hydrogen
β-methyl glutarate 18[11]も反応が円滑に進行し、対応するカップリング生成物 19
が 91 %で得られた。
また、フェニル酢酸 20[12]やペンタフルオロフェニル酢酸 22[12]からは、
それぞれ 44 %、52 %の収率で対応するカップリング生成物が得られたが、副生
成物として二電子酸化体であるメトキシ化体も得られた。これは、支持塩を用
いる従来の電解法と同様に、コルベ反応と非コルベ反応が競合していることを
示している。
27
以上より、固体塩基を用いるコルべ反応は、様々なカルボン酸に適用可
能であることが明らかとなった。
Table 2. Kolbe Electrolysis of Various Carboxylic Acids Using Silica Gel Supported
Piperidine
0.1 M
Base
MeOH/MeCN (50/50 v/v %)
substrate
product
100 mA cm-2
Pt-Pt, ice bath
(0.1 M)
electricity
(F mol-1)
entry
substrate
1
CH3(CH2)6COOH
10
2
CH3(CH2)8COOH
product
yielda (%)
3
CH3(CH2)12CH3
11
90
3
CH3(CH2)16CH3
99
12
13
3
MeOOC(CH2)2COOH
14
4
MeOOC(CH2)4COOMe
15
91
4
MeOOC(CH2)4COOH
4.5
MeOOC(CH2)8COOMe
88
16
5
17
COOH
MeOOC
2.5
MeOOC
COOMe
18
19
44b
1.5
6
COOH
20
F
7
21
F
F
2
COOH
a
F
F
F
F
91
F
F
F
22
F
F
F
23
F
F
Isolated yield. b The benzylic methoxylated product (non-Kolbe product) was also formed.
28
52b
2-3. 結論
固体塩基を用いる電解反応システムをコルベ反応へと展開した。このシ
ステムは見かけ上支持塩を必要とせず、基質であるカルボン酸と固体塩基の酸
塩基反応によって生じるイオン種が電荷のキャリアーとして働くシステムであ
る。本システムの利点を以下に示す。
(1) 溶媒であるメタノールと固体塩基の酸塩基反応に基づく電解反応システム
(2-1-3)と比べて、セル電圧を大幅に抑制できる。
(2) 固体塩基は、反応終了後、ろ過により簡便に分離・回収が可能であり、回
収された固体塩基は繰り返し再使用できる。
(3) 反応がほぼ定量的に進む場合、固体塩基をろ過により分離後、ろ液を濃縮
するだけで目的生成物を非常に容易に得ることができる。
本電解反応システムは、NaOMe 塩を用いる従来法と比べても良好な結果
を示すことから、支持塩を加える必要のない電解反応システムとして従来法を
十分に代替できることが明らかとなった。近年、厳しい環境規制によって、よ
りクリーンに化学製品を製造する方法が必要であるという声がますます強くな
っている。反応プロセスを開発するにあたって、化学反応における収率に焦点
を合わせたプロセス効率を重視する概念から、反応システム全体を見渡し廃棄
物を削減することを目指す概念への転換が求められている。有機電解合成の支
持塩の問題に対し、本電解反応システムが大きく寄与することを期待する。
29
2-4. 実験項
1
H、19F NMR は CDCl3 溶媒で JEOL JNM EX-270 (1H: 270 MHz、19F: 254
MHz)を用いて測定した。1H、19F NMR のケミカルシフトは内部標準としてテト
ラメチルシラン(TMS)、モノフルオロベンゼン(-36.5 ppm)をそれぞれ用いた。
GC-MS 分析は Shimazu GCMS-QP5050A を用いた。
2-4-1. 試薬
4,4,4-trifluoro-3,3-dimethoxybutyric acid (8)は文献[13]に示された方法で合
成した。methyl hydrogen β-methyl glutarate (18)とフェニル酢酸(20)はそれぞれ無
水物[14]とエステル[15]を加水分解して合成した。8、18、20 を除く全ての試薬
は市販品を購入し、そのまま使用した。
シリカゲル担持塩基(粒径: 40-63 μm)は Aldrich から購入した。シリカ
ゲル担持ピリジンの担持量は 1.3 mmol g-1、シリカゲル担持イミダゾールの担持
量は 1.1 mmol g-1、シリカゲル担持ピぺリジンの担持量は 1.1 mmol g-1、シリカゲ
ル担持 TBD の担持量は 0.9 mmol g-1 であった。また、ポリスチレン担持ピペリ
ジンは、Novabiochem より購入した。粒系は 37-75 μm、担持量は 4.0 mmol g-1 で
あった。
2-4-2. サイクリックボルタンメトリー
サイクリックボルタンメトリーは ALS 600A Electrochemical Analyzer を用
いて測定した。作用電極は白金電極(φ = 0.8 mm)、対極は白金板電極(1×1 cm2)、
参照電極は飽和カロメル電極を用いた。
2-4-3. 電解
8 の電解例を示す。シリカゲル担持ピペリジン(ピペリジン濃度 0.1 M)
をメタノール(10 ml)に加え、1 時間撹拌した。8 (1 mmol)を加えた後、75 mA cm-2、
30
6 F mol-1 で定電流電解(Hokuto Denko Potentiostat/Galvanostat HA-105)を行った。
電解は無隔膜セル中で、陽、陰極ともに白金電極(2×2 cm2)を用い、電極間距離
はおよそ 1 mm とした。電解終了後、電解液にガラスフィルター(孔径: 10-16 μm)
を通し、シリカゲル担持ピペリジンを分離した。ろ液から溶媒を除去し、対応
するカップリング生成物 9 を得た。同定は文献[9]の 1H、19F NMR スペクトルよ
り行った。
11、13、15、17、21 の同定は 1H NMR を用いて標品より行った。19、23
は 1H NMR と質量分析から文献[16, 17]によって同定した。21、23 は、展開溶媒
をアセトニトリルとし、Shimazu LC-6AD 液体クロマトグラフィーを用いて単離
した。
31
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[17] G. M. Brooke, J. A. K. J. Ferguson, J. Fluorine Chem. 1988, 41, 263-275.
32
3. 固体塩基を用いる交差コルベ反応
3-1. 緒言
3-1-1. 交差コルベ反応[1]
コルベ反応は有機電解反応の中で最も代表的な反応の 1 つであり、カル
ボキシラートイオンの一電子酸化により脱炭酸され、炭素ラジカルを与える有
用な反応である(2 章、Figure 1)。特に、発生した炭素ラジカルのヘテロカップリ
ングは交差コルベ反応と呼ばれる。非対称な部位を C-C 結合で結びつけること
ができるので、種々の化合物の合成の鍵反応として用いられる。多くの場合、
炭素ラジカルに選択性を持たせることが困難であるため、一方のカルボン酸を
過剰量加えることで反応を選択的に進行させる。
例えば、昆虫フェロモンの looplure 4 を合成(Figure 1)する場合、1 に対し
て、2 を 2 等量加えて、交差コルベ反応を行うと、対応するカップリング体 3
を 26-35 %の収率で得られるが、2 を 10 等量まで増やすと、対応するカップリン
グ体 3 を 55 %の収率まで増やすことが出来る[2]。交差コルベ反応条件下(コル
ベ反応条件下)において、エステル部位は安定であり、この部位から、さらに
交差コルベ反応を行うことが出来る(Figure 2)。この反応で disparlure 10(昆虫フ
ェロモン)を合成できる[3]。
C4H9
COOH
C4H9
1
KOH/MeOH
500 mA
MeOOC
COOMe
cm-2
3
COOH
2
OAc
C4H9
looplure (4)
Figure 1. Mixed-Kolbe electrolysis as a route to looplure 4.
33
[a] CH3(CH2)7COOH (6)
Pt anode, MeOH
MeOOC
COOH
5
[b] KOH, MeOH;
(48 %)
Me2CH(CH2)2COOH (8)
Pt anode, MeOH
7
(CH2)4CH(CH3)2
(CH2)4CH(CH3)2
(62 %)
(CH2)9CH3
HOOC
H+
O
(CH2)9CH3
(CH2)9CH3
disparlure (10)
9
Figure 2. Mixed-Kolbe electrolysis as a route to disparlure 10.
このような交差コルベ反応(コルベ反応)は、他の化学的手法では達成
し難い特殊な反応である(1-3-2)。例えば、化学的手法で脱炭酸させることが難
しい単純な脂肪族のカルボン酸に対しても容易に反応を進行させることができ
る。
また、これらの反応は、電解によって生じた炭素ラジカルが電極界面あ
るいはその近傍に局所的に高濃度で存在することから、炭素ラジカル同士のカ
ップリング反応を制御することが容易である(Scheme 1) [4]。
Scheme 1. A Typical Electrode Reaction at the Anode
Anode
Diffusion layer
Bulk
S'
S
transport
S
Electron
transfer
Chemical
reaction
P
P'
P
Electrified interface
S, S': Substrate
P, P': Product
34
3-1-2. 固体塩基を用いる交差コルベ反応
有機電解反応は有機合成のツールとして有用であるが、有機電解合成で
は有機溶媒に電気を流すために必要な支持塩の問題が非常に重要な課題となっ
ている。この問題に対し、2005 年に固体塩基を用いる電解反応システムが報告
されている[5]。このシステムは、メタノールのようなプロトン性溶媒と固体塩
基の酸塩基反応に基づくシステムであり、酸塩基反応によって生じるイオン種
は電荷のキャリアーとして働くことから支持塩を加える必要がない電解反応シ
ステムである。
一方、2 章においてカルボン酸と固体塩基の酸塩基反応に基づく新規電解
反応システムを構築し、固体塩基を用いる電解反応システムの課題であった高
いセル電圧の解消を達成することができた。本章では、カルボン酸と固体塩基
の酸塩基反応に基づく新規電解反応システムのさらなる応用展開を図るため、
固体塩基を用いる交差コルベ反応(Figure 3)への検討を行った。交差コルベ反応
は、一方のカルボン酸を過剰量用いることから、コルベ反応に比べ、一層のセ
ル電圧の抑制が期待できる。
R1 CO2H
R2 CO2H
MeOH
Base
R1 CO2- H+
R2 CO2- H+
MeO- H+
electrolysis
Base
R1 R2
CO2- H+
MeO- H+
R2
Base
recycle
R1 R2
R1 R2
Separation
R2 CO2H
MeOH
filtration
Base
Figure 3. The experimental procedure for mixed-Kolbe electrolysis using solid-supported
bases.
35
3-2. 結果と考察
3-2-1. 固体塩基の電気化学的特性
シリカゲル担持ピペリジンをメタノールに加えた場合の CV 測定を行っ
たところ、メトキサイドイオンの酸化に伴う酸化波およびプロトンの還元に伴
う還元波が確認された(Figure 4a)。このことから、固体塩基がメタノールをメト
キサイドイオンとプロトンに解離しているものと考えられる。また、モノメチ
ルセバシン酸 11 と 6 等量の酢酸を加えて CV 測定を行ったところ、プロトンの
還元に伴う還元電流が著しく増加した (Figure 4b)。
以上より、固体塩基をメタノールに加えることでメタノールが解離する
のに対し、そこにより酸性度の高いカルボン酸を加えることで、カルボン酸が
優先的に解離することが確認できた。
-5
1.0x10
-6
Current / A
5.0x10
0.0
(a)
-6
-5.0x10
(b)
-5
-1.0x10
-5
-1.5x10
-5
-2.0x10
-1.5
-1.0
-0.5
0.0
0.5
1.0
1.5
2.0
2.5
3.0
Potential / V vs SCE
Figure 4. Cyclic
voltammograms of (a) 0.1 M silica gel supported
piperidine/MeOH and (b) sebacic acid monomethyl ester (11) (0.1 M) and acetic
acid (0.6 M) in 0.1 M silica gel supported piperidine/MeOH, recorded at a Pt disk
electrode (φ= 0.8 mm). The scan rate was 100 mV s-1.
36
3-2-2. 固体塩基を用いる交差コルベ反応
Weedon らの報告したモノメチルセバシン酸 11 と酢酸の交差コルベ反応
では、対応するカップリング生成物 12 の収率が 66 %と良い結果で得られてい
る[6]。この反応をモデル反応として、固体塩基を用いる交差コルベ反応を検討
した。実験手順を Figure 5 に示す。固体塩基をメタノールに加え、メタノールを
メトキサイドイオンとプロトンに十分解離させるため 1 時間撹拌した。それか
ら 11 と酢酸を加えて電解を行った。電解終了後、ろ過により固体塩基を分離し
た。ろ液から溶媒を除去後、展開溶媒をアセトニトリルとし、液体クロマトグ
ラフィーを用いて 11 を単離した。
最初に、11 に対し 6 等量の酢酸を用いて、電流密度 100 mA cm-2、電気量
10 F mol-1 の電解条件で交差コルベ反応を行った(Table 1)。12 が 30%の収率で
得られたが、11 は完全に消費されなかった(entry 1)
。また、11 と酢酸を加える
前のセル電圧が 100 V 以上だったのに対し、11 と酢酸の存在下ではセル電圧は
45-50 V と著しく低下した。このことは、カルボン酸と固体塩基の酸塩基反応に
よって生じるイオン種が支持塩として働くことを示している。entry 2 では、メ
タノールの酸化を抑制するために、メタノールより酸化されにくいアセトニト
リルを共溶媒として用いて電解を行った。10 F mol-1 で 11 が完全消費されるとと
もに、12 が 45 %の収率で得られた。また、電流密度を 50 mA cm-2 としたところ、
11 は完全に消費されなかった(entry 3)。12 の収率は 23 %だった。このことは、
電流密度 50 mA cm-2 では、電流密度 100 mA cm-2 に対してメタノールの酸化の
割合が増えたためであると考えられる[7]。
次に、酢酸の割合について検討を行った(entries 2 and 4-6)。一般に、交差
コルベ反応は、カルボン酸の酸化によって生じる炭素ラジカルに選択性を持た
せるのが困難であることから、ヘテロカップリングを進行させるために、一方
のカルボン酸を過剰量必要とする。さらに、反応が進行するにつれて、カルボ
ン酸の濃度は減少するので、反応後半でセル電圧の上昇が懸念される。実際、
酢酸を 1 等量および 4 等量用いた場合(entries 4 and 5)、反応後半でセル電圧が著
しく上昇し、100 mA cm-2 の電流密度を最後まで維持するのは困難であった。ま
た、entry 4 では、12 は 29 %と低収率で得られた。このとき、11 のホモカップリ
ング体が得られている。一方、酢酸を 9 等量まで増やした場合、セル電圧は最
後まで維持できるものの、交差コルベ反応と酢酸のコルベ反応が競合すること
から、12 の収率は減少した。また、11 が 51 %で回収された(entry 6)。
次に、種々のシリカゲル担持塩基を用いて検討を行った。強塩基である
TBD(pKa = 14.5)を用いた場合、12 の収率は 27 %と低下した。メトキサイドイオ
ンの酸化と競合したためであると考えられる。弱塩基であるピリジン(pKa = 5.2)
37
を用いた場合、12 の収率の上昇が確認できた(entry 7)。シリカゲル担持ピリジン
のような弱塩基存在下では、メタノールよりもカルボン酸との酸塩基反応が優
先的に生じて、メトキサイドイオンの酸化との競合を抑制していると考えられ
る(第 2 章、eqs. 1 and 2)。これらの結果から、固体塩基を用いる交差コルベ反応
では、シリカゲル担持ピリジンが最も塩基として適していた。
次に、固体塩基の再使用について検討した。Figure 4 に示すように、メタ
ノール溶媒中に固体塩基とカルボン酸を加え電解を行い、反応終了後、ろ過に
より固体塩基を分離・回収し、回収された固体塩基を再び次の電解に用いた。
Table 1 の entry 10 の電解条件で 11 の電解を繰り返し 3 回行ったところ、対応す
るヘテロカップリング体 12 をおよそ 50 %の収率で 3 回とも得ることができた
[52 % (1st)、48 % (2nd)、52 % (3rd)]。このことから、高電流密度を必要とする交差
コルベ反応条件下でも、固体塩基は電気化学的に安定であり再使用できること
が明らかとなった。
38
Table 1. Mixed-Kolbe Electrolysis of 11 Using Solid-Supported Bases
0.1 M
Si
Base
MeOH/ MeCN=50/50 v/v%
MeOOC(CH2)8COOH
CH3CO2H
100 mA
Pt-Pt, 0 oC
11
entry
MeOOC(CH2)8CH3
cm-2
CH3COOH
(equiv.)
12
base
electricitya
(F mol-1)
yieldb (%)
1c
6
piperidine (11.2)d
10
30
2
6
piperidine
10
45
3e
6
piperidine
10
23
4
1
piperidine
4.5
29
5
4
piperidine
9
45
6
9
piperidine
10
30
7
6
TBD (14.5)
10
27
8
6
pyridine (5.2)
10
52
a
Electricity based on 11. b Isolated yield based on 11. c Methanol was used as a
solvent. d pKa value of the conjugate acid in parantheses. e Current density was
50 mA cm-2.
3-2-3. 固体塩基を用いる様々なカルボン酸の交差コルベ反応
固体塩基を用いる交差コルベ反応の一般性について検討を行った。Table
2 に結果を示す。Table 1 の entry 8 の電解条件下、種々のカルボン酸の組み合わ
せで反応を行ったところ、いずれも良好な収率で対応するヘテロカップリング
体を得ることができた。
39
Table 2. Mixed-Kolbe Electrolysis of Carboxylic Acids Using Solid-Supported Pyridine
0.1 M
carboxylic acid 1
a
N
Si
MeOH/ MeCN = 50/50 v/v%
carboxylic acid 2
(6 equiv.)
product
10 F/mol, 100 mAcm-2
0 oC, Pt-Pt
entry
carboxylic acid 1
carboxylic acid 2
product
yielda (%)
1
MeO2C(CH2)4CO2H
CH3CO2H
MeO2C(CH2)4CH3
66
2
MeO2C(CH2)4CO2H
CH3(CH2)4CO2H
MeO2C(CH2)8CH3
58
3
MeO2C(CH2)8CO2H
CH3(CH2)4CO2H
MeO2C(CH2)12CH3
65
Isolated yield based on carboxylic acid 1.
3-2. 結論
固体塩基を用いる電解反応システムを交差コルベ反応へと展開した。交
差コルベ反応は、異種分子間の C-C 結合を形成することができる。一方、コル
ベ反応では、同種分子間の C-C 結合を形成することができる。これらを組み合
わせることで、多様な化合物の炭素骨格を組み立てることができる。また、コ
ルベ反応や交差コルベ反応は、ハロゲンや、アセタール、ケトン、アセタート
のような官能基に対して寛容であり、さらには、アルコールや、アルデヒド、
アミドのような官能基を持つ分子でも、コルベ反応や交差コルベ反応を行うこ
とができる場合がある。従って、化学的手法で C-C 結合を形成する際に必要な
保護・脱保護のプロセスを避けることができる。
このようなコルベ反応(交差コルベ反応も含む)は、数多くある有機電
解反応の中でも、有機化学の教科書に登場するほど有用な反応である[8]。従っ
て、固体塩基を用いる電解反応システムをコルベ反応や交差コルベ反応に展開
できたことは、このシステムの価値を一層高めたといえる。以下に、固体塩基
40
を用いるコルベ反応および交差コルベ反応の特色を示す。
(1)
(2)
(3)
溶媒であるメタノールと固体塩基の酸塩基反応に基づく電解反応システム
(2-1-3)と比べて、セル電圧を大幅に抑制できる。
固体―固体間の電子移動が非常に難しいことから固体塩基は陽極で酸化を
受けず電気化学的に安定であり、分離した固体塩基はそのまま何回でも再
使用できる。
反応がほぼ定量的に進む場合、固体塩基をろ過により分離後、ろ液を濃縮
するだけで目的生成物を非常に容易に得ることができる。
固体塩基を用いるコルベ反応や交差コルベ反応は、支持塩を用いる従来
法での電流効率および収率と比べても良好な結果を示す。従って、本電解反応
システムは、支持塩を用いない電解反応システムとして従来法を十分に代替で
きる。この電解反応システムがグリーンケミストリーに大きく寄与するととも
に、有機電解合成の新たな一歩となることを期待する。
3-4. 実験項
1
H NMR は CDCl3 溶媒で JEOL JNM EX-270 (1H: 270 MHz)を用いて測定し
た。1H NMR のケミカルシフトは内部標準としてテトラメチルシラン(TMS)をそ
れぞれ用いた。
GC-MS 分析は Shimazu GCMS-QP5050A を用いた。
3-4-1. 試薬
全ての試薬は市販品を購入し、そのまま使用した。固体塩基(粒径: 40-63
μm)は Aldrich から購入した。シリカゲル担持ピリジンの担持量は 1.3 mmol g-1、
シリカゲル担持ピぺリジンの担持量は 1.1 mmol g-1、シリカゲル担持 TBD の担持
量は 0.9 mmol g-1 であった。
41
3-4-2. サイクリックボルタンメトリー
サイクリックボルタンメトリーは ALS 600A Electrochemical Analyzer を用
いて測定した。作用電極は白金電極(φ = 0.8 mm)、対極は白金板電極(1×1 cm2)、
参照電極は飽和カロメル電極を用いた。
3-4-3. 電解
11 と酢酸の電解例を示す。シリカゲル担持ピリジン(ピペリジン濃度 0.1
M)をメタノール(10 ml)に加え、1 時間撹拌した。11 (1 mmol)と酢酸(6 mmol)を
加 え た 後 、 100 mA cm-2 、 10 F mol-1 で 定 電 流 電 解 (Hokuto Denko
Potentiostat/Galvanostat HA-105)を行った。電解は無隔膜セル中で、陽、陰極とも
に白金電極(2×2 cm2)を用い、電極間距離はおよそ 1 mm とした。電解終了後、
電解液にガラスフィルター(孔径: 10-16 μm)を通し、シリカゲル担持ピリジンを
分離した。ろ液から溶媒を除去し、展開溶媒をアセトニトリルとし、Shimazu
LC-6AD 液体クロマトグラフィーを用いて分離精製後、ヘテロカプリング体 12
を得た。同定は 1H、19F NMR を用いて標品より行った。
全て対応するヘテロカップリング体の同定は 1H NMR を用いて標品より
行った。
42
3-5. 参考文献
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Electrochemistry Volume 8, (Eds.: A. J. Bard, M. Stratmann, H. J. Schäfer), Wiley-VCH,
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Schäfer), Wiley-VCH, Weinheim, Germany, 2004. 75-92. (b) T. Inoue, K. Koyama, S.
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43
4. 固体塩基を用いる非コルベ反応
4-1. 緒言
4-1-1. 非コルベ反応[1]
カルボン酸の酸化は、反応条件やカルボン酸の構造によって、ラジカル
中間体からさらに酸化されたカチオン中間体へ進む場合もある。非コルベ反応
はカルボン酸の 2 電子酸化により生じるカチオン中間体を経由する反応であり、
生じたカチオン中間体は、置換、脱離、転移などの反応に利用される。
カチオン中間体はメタノールや酢酸溶媒中で電解を行いメトキシ化体や
アセトキシ化体としてトラップすることができる(Figure 1)。メトキシ化体やア
セトキシ化体としてトラップされたカチオン中間体は様々な合成に利用される。
抗がん剤として有用な 5-Fluorouracil 類縁体の非コルベ反応を経由した合成例を
示す(Figure 2) [2]。
-2e, -CO2
RCOOH
R
R'OH (R' = Ac, Me)
ROR'
Figure 1. Anodic acetoxylation and methoxylation.
N
O
H
N
COOH
-2e
O
H
N
MeOH
OMe
TMSO
OTMS
F
N
SnCl4
O
N
O
HN
O
Figure 2. Synthesis of 5-fluorouracil derivative.
44
F
HN
4-1-2.
アミドの酸化[3]
合成的観点から、生理活性物質の合成に広く用いられるイミニウムイオ
ンの生成は非常に重要である。特に、有機電解反応による手法は、アミドから
容易にイミニウムイオンを生成できることから、化学的手法を十分に代替でき
るものである。例えば、化学的手法では、第 1 級アミンとカルボニル化合物を
脱水縮合させてイミンを合成し、これをアシル化させることでイミニウムイオ
ンを生成している(Figure 3) [4]。
N
Ph
Ph
O
Ph
Ph
Cl
N
Ph
Cl
H
O
Ph
SbCl5
SbCl6
H
Ph
N
Ph
O
Ph
Figure 3. Generation of N-Acyliminium ion.
通常、電解酸化によって生じたイミニウムイオンは、メタノールや酢酸
などでトラップして、メトキシ化体やアセトキシ化体として単離できる。メト
キシ化体やアセトキシ化体は、ルイス酸処理により簡便にイミニウムイオンに
戻すことができるので、様々な求核剤との反応に用いられている。しかしなが
ら、ラクタムのような酸化電位の高いアミドの酸化は、溶媒の酸化と競合する
ことから、電流効率が著しく低下するか反応が進行しない。このことから、イ
ミニウムイオンの生成は、アミドよりもアミノ酸(カルボン酸)からの電解酸
化を行う方がうまくいく場合がある。カルボン酸の酸化は、1 電子酸化の経路で
あるコルベ反応と、2 電子酸化の経路である非コルベ反応が競合するが、反応条
件や基質の構造によっては選択的に反応を進行させることができる。一般に、α
位に窒素原子を持つアミノ酸の酸化は選択的に非コルベ反応となるので、イミ
ニウムイオンを生成する有効な手段である。この反応は、キラルビルディング
ブロックを供給する手法としてもよく認識されており、生理活性物質の合成に
使われることが多い。以下に例を示す(Figure 4)。1 の非コルベ反応では、電解酸
化で生じたイミニウムイオンを酢酸イオンでトラップしている。対応するアセ
トキシ化体 2 はβ-ラクタム系抗生物質 3 の不斉合成の鍵中間体として用いられ
る[5]。
45
H
O
COOH
NH
H
-2e
NaOAc
MeCN/AcOH = 4/1
1
O
H
OAc
NH
O
R
N
COOH
2
(+)-PS-5 (R = S(CH2)NHAc)
3
Figure 4. Synthesis of (+)-PS-5 by using of Non-Kolbe electrolysis.
4-1-3.
固体塩基を用いる非コルベ反応
第 2 章、第 3 章を通して、基質であるカルボン酸と固体塩基の酸塩基反
応に基づく電解反応システムを構築した。本章では、本電解反応システムを、
合成上有用なイミニウムイオンの生成を伴う非コルベ反応へ適用し、システム
の有用性を検討した。
本システムの概要を Figure 5 に示す。このシステムは、基質であるカルボ
ン酸と固体塩基の酸塩基反応によって生じるイオン種を電荷のキャリアーとす
るもので、支持塩を加える必要のないシステムである。また、反応終了後、固
体塩基はろ過によって除去することが出来るとともに、再使用が可能である。
RCOOH
Base
RCOO- H+
electrolysis
MeO- H+
MeOH
R OMe
MeO- H+
Base
Base
reuse
R OMe
separation
R OMe
MeOH
filtration
Base
Figure 5. The experimental procedure for Non-Kolbe electrolysis using solid-supported
bases.
46
4-2. 結果と考察
4-2-1. 固体塩基の電気化学的特性
固体塩基をメタノールに加えた場合とさらに基質であるカルボン酸を加
えた場合の CV 測定を行った(Figure 6)。2-2-1 で示したように、固体塩基をメタ
ノールに加えることでメタノールが解離するのに対し、そこにより酸性度の高
いカルボン酸を加えることで、カルボン酸が優先的に解離し、より多くの電荷
のキャリアーと成り得るプロトンが生じることが確認できた。
-5
2.0x10
(a)
-5
1.5x10
Current / A
-5
1.0x10
(b)
-6
5.0x10
0.0
-6
-5.0x10
-5
-1.0x10
-5
-1.5x10
-1.0
-0.5
0.0
0.5
1.0
1.5
2.0
2.5
Potential / V vs SCE
Figure 6. Cyclic voltammograms of (a) 0.1 M silica gel supported piperidine/MeOH, (b)
DL-pyroglutamic acid (4a) (0.1 M) in 0.1 M silica gel supported piperidine/MeOH, recorded
at a Pt disk electrode (φ= 0.8 mm). The scan rate was 100 mV s-1.
4-2-2. 固体塩基を用いる非コルベ反応
Iwasaki らの報告した DL-pyroglutamic acid (4a)の非コルベ反応[2]では、対
応するメトキシ化体 5 を定量的に得ていることから、この反応をモデル反応と
して固体塩基を用いる非コルベ反応を検討した(Table 1)。
47
実験手順を Figure 5 に示す。固体塩基をメタノール溶媒に加え、メタノールをメ
トキサイドイオンとプロトンに十分解離させるため 1 時間撹拌した。それから
4a を加え電解を行った。電解終了後、対応するメトキシ化体 5 と固体塩基をろ
過により分離した。ろ液から溶媒を除去することにより対応するメトキシ化体
5 を得た。
最初に、電流密度 10 mA cm-2、電気量 7 F mol-1 で 2-pyrrolidone の 5 位に
カルボキル基を持つもの 4a と持たないもの 4b の電解メトキシ化を行った。
entry 1 に示すように、
4a ではほぼ定量的に対応するメトキシ化体 2 を得られた。
一方、4b では 19 %の収率で対応するメトキシ化体 2 を得た(entry 2)。原料回収
は 81 %だった。そこで、4b の CV 測定を行ったところ、Figure 7 に示すように、
4b の酸化ピーク電位はおよそ 2.5 V(vs SCE)だった。このことから、メタノール
の酸化が主に起きていると考えられる。entry 1、2 のセル電圧を比較したところ、
entry 2 では 20-25 V だったのに対し、entry 1 ではセル電圧は 5-10 V と明らかな
セル電圧の低下を確認できた。セル電圧の低下は系中に存在するイオン種濃度
が増加したことを示し、カルボン酸 4a と固体塩基の酸塩基反応によって十分な
量のイオン種を供給できることを示している。
一般に、カルボン酸の電解酸化は、陽極に graphite を用いることで、コル
ベ反応より非コルベ反応が進行しやすいとされている。そこで、陽極を graphite
にして検討を行ったところ、Pt の場合と大きな差異は見られなかった(entries 3
and 4)。α位に窒素原子を持つカルボン酸の構造が反応選択性に大きく影響して
いると考えられる。
電流密度 75 mA cm-2 の高電流密度で電解を行ったところ、電気量 4.5 F
mol-1 でほぼ定量的に対応するメトキシ化体 5 が得られた(entry 5)。電流効率は
電流密度 10 mA cm-2 の場合(entry 1)に対し改善された。カルボン酸の電解酸化で
は、陽極へのカルボキラートイオンの吸着が伴う[6]。このとき、吸着は電位が
正にシフトするとともに増加するので、副反応であるメタノールの陽極上で酸
化が抑制される。従って、電流密度上昇に伴う電位のシフトが電流効率の改善
に寄与したものと考えられる。
entry 6、7 では、4a の非コルベ反応における塩基の効果について検討した。
中性塩を用いた場合、基質の酸化が困難であり、対応するメトキシ化体 5 を 23 %
で得るまでに 25 F mol-1 の通電量を要した(entry 5)。一方、塩基性塩を用いた場
合、5 F mol-1 の通電量で対応するメトキシ化体 5 を 95 %の高収率で得ることが
できた(entry 6)。これらの結果は、カルボン酸と塩基の酸塩基反応によってカル
ボキラートイオンが生じるので、陽極上へカルボキラートイオンの吸着を促し、
カルボン酸の電解酸化の効率を上昇させていることを示している。したがって、
本電解システムにおける固体塩基も、支持塩の代替としてだけでなく、塩基性
48
塩を用いた場合と同様に、カルボン酸の電解酸化の促進も行っていると考えら
れる。
Table 1. Anodic Methoxylation of 4a and 4b Using Silica Gel Supported Piperidine.
0.1 M supporting electrolyte
O
H
N
/ MeOH, 0 oC
R
4a, R=CO2H
4b, R=H
O
4a: -2e, -CO2, -H+
4b: -2e, -H+
H
N
OMe
5
entry
compound
supporting electrolyte
(0.1 M)
anode
current density
(mA cm-2)
electricity
(F mol-1)
1b
4a
Si-piperidinec
Pt
10
7
quant. [28]d
2e
4b
Si-piperidine
Pt
10
7
19 (81)f
3
4a
Si-piperidine
Graphite
10
7
97
4
4b
Si-piperidine
Graphite
10
7
14 (84)f
5
4a
Si-piperidine
Pt
75
4.5
quant. [44]
6
4a
NaClO4
Pt
75
25
23g
7
4a
NaOMe
Pt
75
5
95 [38]
a
yielda (%)
Isolated yield. b The cell voltage was 5-10 V. c Silica gel supported piperidine. d Current efficiency in
brackets. eThe cell voltage was 20-25 V. f Recovered 4b in parentheses. g 1H NMR yield based on the NH
group using nitromethane as an internal standard.
49
Current / A
-5
5.5x10
-5
5.0x10
-5
4.5x10
-5
4.0x10
-5
3.5x10
-5
3.0x10
-5
2.5x10
-5
2.0x10
-5
1.5x10
-5
1.0x10
-6
5.0x10
0.0
(b)
(a)
-6
-5.0x10
-5
-1.0x10
-1.5
-1.0
-0.5
0.0
0.5
1.0
1.5
2.0
2.5
3.0
Potential / V vs SCE
Figure 7. Cyclic voltammograms of (a) 0.1 M Bu4NBF4/MeCN and (b) 2-pyrrolidinone (4b)
(0.1 M) in 0.1 M Bu4NBF4/MeCN, recorded at a Pt disk electrode (φ= 0.8 mm). The scan
rate was 100 mV s-1.
4-2-3. 固体塩基の再使用
固体塩基の再使用について検討した。Figure 5 に示すように、メタノール
溶媒中に固体塩基とカルボン酸を加え電解を行い、反応終了後、ろ過により固
体塩基を分離・回収し、回収された固体塩基を再び次の電解に用いた。
Table 1 の entry 5 の電解条件でシリカゲル担持ピペリジンを用いて 4a の
電解を繰り返し 5 回行った。Figure 8 に示すように、対応するメトキシ化体 5
の収率は常に 90 %以上だった。この結果より、固体塩基を用いる非コルベ反応
条件下で再使用可能であることが明らかとなった。
50
Yield of 5 (%)
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
1
2
3
4
The number of times
5
Figure 8. The yield of methoxylated product 5 in the reuse of silica gel supported piperidine.
4-2-4. 固体塩基を用いる様々なカルボン酸の非コルベ反応
固体塩基を用いる非コルベ反応の一般性について検討を行った。Table 2
に結果を示す。窒素原子のα位にカルボキシル基を持つ entry 1-4 では、いずれも
反応は円滑に進行し、acetyl-DL-α-alanine (5)および Benzoyl-DL-α-alanine (7)から
は 定 量 的 に 対 応 す る メ ト キ シ 化 体 が 得 ら れ 、 N-acetyl-L-proline (9) 、
N-carbobenzyloxy-L-proline (11)からもそれぞれ 92 %、98 %という良好な収率で対
応するメトキシ化体が得られた。また、反応中間体としてイミニウムイオンを
経由することから、9、11 の光学活性は失われた。
また、44 %の収率で対応するカップリング生成物が得られたフェニル酢
酸に対し(第 2 章、Table 2、entry 6)、p 位に電子供与基を持つ p-メトキシフェニ
ル酢酸(13)からは、91 %という良好な収率で対応するメトキシ化体 14 が得られ
た。Utley らは、メトキシ基の寄与によって、1 電子酸化で生じた炭素ラジカル
の酸化のされやすさとカチオン中間体の安定化が促された結果、非コルベ反応
が選択的に進行すると報告している[7]。
以上より、固体塩基を用いる非コルベ反応は様々なカルボン酸に適用可
能であることが明らかとなった。
51
Table 2. Non-Kolbe Electrolysis of Various Carboxylic Acids Using Silica Gel Supported
Piperidine.
substrate
0.1 M Si-piperidine
/MeOH
product
75 mA cm-2
Pt-Pt, 0 oC
entry
substrate
product
O
1
COOH
N
H
5
O
Ph
4
5
N
COOH
H 7
Ph
5
quant.
5
quant.
4
92
4
98
3
96
6
N
H
Ac
N
COOH
OMe
8
OMe
9
10
COOCH2Ph
N
COOH
COOCH2Ph
N
OMe
11
12
MeO
MeO
13
a
OMe
O
Ac
N
3
Yielda (% )
O
N
H
2
electricity
( F mol-1)
COOH
14
OMe
Isolated yield.
4-3. 結論
第 2 章および第 3 章にて、基質であるカルボン酸と固体塩基の酸塩基反
応に基づく固体塩基を用いる電解反応システムの開発に成功した。本電解反応
52
システムによって、溶媒であるメタノールと固体塩基の酸塩基反応に基づく電
解反応システム(2-1-3)の課題であった高いセル電圧を、大幅に抑制することがで
きた。また、反応に用いた固体塩基は再使用可能であった。
本章では、基質であるカルボン酸と固体塩基の酸塩基反応に基づく電解
反応システムを非コルベ反応に展開した。生理活性物質の合成に広く用いられ
るイミニウムイオンを容易に生成できる非コルベ反応は、合成的観点から非常
に有用な反応である。カルボン酸と固体塩基の酸塩基反応によってカルボン酸
の酸化が促進されるとともに、種々のカルボン酸でイミニウムイオンをトラッ
プしたメトキシ化体をほぼ定量的に得ることができた。また、反応が定量的に
進む場合、固体塩基はろ過による操作のみで分離可能であり、ろ液を濃縮する
だけで生成物を得ることが可能である。従って、支持塩の除去に煩雑な操作を
行う必要がないので、分離・精製過程における生成物の損失を抑えて、次の反
応に進むことができる。多数の反応工程を経て生理活性物質を合成する場合、
反応と分離の効率化を達成することは望ましい。
本電解反応システムが有機電解合成の新たな一歩となるとともに、グリ
ーンケミストリーに大きく寄与することを期待する。
4-4. 実験項
1
H NMR は CDCl3 または d6-DMSO 溶媒で JEOL JNM EX-270 (1H: 270 MHz)
を用いて測定した。1H NMR のケミカルシフトは内部標準としてテトラメチルシ
ラン(TMS)を用いた。
GC-MS 分析は Shimazu GCMS-QP5050A を用いた。
4-4-1. 試薬
DL-pyrroglutamic acid (4a)および 2-pyrrolidinone (4b)は Aldrich から購入し
た。N-acetyl-L-proline (9)は Sigma から購入した。N-carbobenzyloxy-L-proline (11)
および sodium perchlorate、メタノール、アセトニトリルは関東化学より購入し
た。N-acetyl-DL-alanine (5)および N-benzoyl-DL-alanine (7)、4-methoxyphenylacetic
acid (13)、sodium methoxide は東京化成工業から購入した。
シリカゲル担持ピぺリジン(粒径 40-63 μm、担持量 1.1 mmol g-1 )は
53
Aldrich から購入した。
4-4-2. サイクリックボルタンメトリー
サイクリックボルタンメトリーは ALS 600A Electrochemical Analyzer を用
いて測定した。作用電極は白金電極(φ = 0.8 mm)、対極は白金板電極(1×1 cm2)、
参照電極は飽和カロメル電極を用いた。
4-4-3. 電解
4a の電解例を示す。シリカゲル担持ピペリジン(ピペリジン濃度 0.1 M)
をメタノール(10 ml)に加え、1 時間撹拌した。4a (1 mmol)を加えた後、
75 mA cm-2、
4.5 F mol-1 で定電流電解(Hokuto Denko Potentiostat/Galvanostat HA-105)を行った。
電解は無隔膜セル中で、陽、陰極ともに白金電極(2×2 cm2)を用い、電極間距離
はおよそ 1 mm とした。電解終了後、電解液にガラスフィルター(孔径: 10-16 μm)
を通し、シリカゲル担持ピペリジンを分離した。ろ液を除去し、対応するカッ
プリング生成物 5 を得た。同定は文献[8]の 1H NMR スペクトルより行った。
6[9]、8[9]、10[10]、12[11]、14[12]も同様に 1H NMR を用いて文献によっ
て同定した。
54
4-5. 参考文献
[1] H. J. Schäfer, Top. Curr. Chem. 1990, 152, 91-151.
[2] T. Nishitani, H. Horikawa, T. Iwasaki, K. Matsumoto, I. Inoue, M. Miyoshi, J. Org.
Chem. 1982, 47, 1706-1712.
[3] Encyclopedia of Electrochemistry Volume 8, (Eds.: A. J. Bard, M. Stratmann, H. J.
Schäfer), Wiley-VCH, Weinheim, Germany, 2004. 324-326.
[4] W. N. Speckamp, H. Hiemstra, Tetrahedron, 1985, 41, 4367-4416.
[5] M. Mori, K. Kagechika, H. Sasai, M. Shibasaki, Tetrahedron, 1991, 47, 531-540.
[6] (a) Y. B. Vassiliev, V. A. Grinberg, J. Electroanal. Chem. 1990, 283, 359-378. (b) Y.
B. Vassiliev, V. A. Grinberg, J. Electroanal. Chem. 1991, 308, 1-16. (c) Y. B. Vassiliev,
V. A. Grinberg, J. Electroanal. Chem. 1992, 336, 281-307.
[7] J. P. Coleman, R. Lines, J. H. P. Utley, B. C. L. Weedon, J. C. S. Perkin Ⅱ, 1974,
1064-1068.
[8] T. Iwasaki, H. Horikawa, K. Matsumoto, M. Miyoshi, J. Org. Chem. 1974, 44,
1552-1554.
[9] (a) R. P. Linstead, B. R. Shephard, B. C. L. Weedon, J. Chem. Soc. 1951, 2854-2858.
(b) H. G. Thomas, S. Kessel, Chem. Ber. 1988, 121, 1575-1578.
[10] Y. Terao, Y. Yasumoto, K. Ikeda, M. Sekiya, Chem. Pharm. Bull. 1986, 34,
105-108.
[11] T. Shono, Y. Matsumura, K. Uchida, K. Tsubata, A. Makino, J. Org. Chem. 1984,
49, 300-304.
[12] A. Kawada, K. Yasuda, H. Abe, T. Harayama, Chem. Pharm. Bull. 2002, 50,
380-383.
55
5. ヘキサフルオロイソプロパノールを用いるラクタム類の
電解アルコキシ化
5-1. 緒言
5-1-1. 直接的 C-H 結合活性化[1]
C-H 結合は有機化合物の中でありふれたものであることから、C-H 結合
を化学反応に積極的に利用していくことは合成戦略のさらなる広がりを期待で
きる。特に、直接的 C-H 結合活性化による化学変換は、有機化合物の前処理を
必要としないことからより効率的な合成経路の構築が期待できる。このような
ステップエコノミカルな合成を指向する研究は、重要な研究分野の一つとなっ
ている (Figure 1)。
Method A
O
H
N
FG
X
O
H
N
FG
n
n
X = Cl, OH etc.
Method B
O
H
N
FG
H
O
n
H
N
FG
n
FG = CN-, RO- etc.
Figure 1. (A) Traditional approach to organic synthesis by means of functional group
transformation. (B) Synthesis by means of direct C-H bond functionalization.
含窒素化合物は、天然物や医薬、農薬などに数多く見られる身近なもの
である。例えば、dendrobatid カエルから得られた、神経筋伝達の遮断薬として
働く Indolizidene 209D (1, Figure 2) [2]やストレプトマイセス属に分類される細菌
56
の 1 種である Streptomyces nitrosporeus から得られた、神経細胞保護物質である
(+)-benzastatin E (2, Figure 3) [3]などが挙げられる。これらの含窒素化合物を合成
する場合、窒素のα位の直接的 C-H 結合活性化によるアルキル化によって、数段
階の操作を省くことが期待できる。
HO
N
O
C6H13
C6H13
LDA, THF, -78 oC, 98 %
C6H13
COOtBu
[a] 5 % Pd/C, H2, 4 psi,
EtOH, 90 %
[b] Me3Al, Benzene, 69 %
[c] LiAlH4, THF, Δ, 88 %
5 % Pd/C, H2, EtOH, 83 %
C6H13
LiAlH4, THF, 0 oC to RT, 94 %
N
H
R
N
H
C6H13
COOtBu
N
Indolizidine 209D (1)
[a] R = COOtBu
[b] R = CH2OH
Figure 2. Total synthesis of indolizidine 209D (1).
H
N
COOH
H
Boc O
N
Br
Me
N
H OMe
Boc
N COOMe [a] NBS, DMF, 0 oC, 93 %
[a] MeOH, H2SO4, 80 oC
[b] Boc2O, CH2Cl2, rt
92 % (two steps)
H
[a] i-PrMgCl, Me(MeO)NH HCl, THF, -20 to -10
oC, 83 %
Boc O
N
Br
Me
H
H
N
H2NOC
OH
H
OMe
(+)-benzastatin E (2)
Figure 3. Total synthesis of (+)-benzastatin E (2).
57
イミニウムイオンの生成は窒素のα位のアルキル化のための鍵反応とし
て非常に重要である。例えば、吸虫駆除剤の 1 つであるプラジカンテル 3 の合
成[4]では、アミドとアセタールの分子内反応を利用してイミニウムイオンを生
成している。しかしながら、前駆体となるアミドアセタール 4 を合成するのに
数段階の操作を必要としている。
R1
N
NH2
R2
O
N
O
praziquantel (3)
R1
R2
HN
R1
O
N
R3
H+
R1
N
R2
N
R2
N
R3
MeO
OMe
4
O
5
O
N
R3
6
Figure 4. Total synthesis of praziquantel (3) via iminium ion.
電子吸引基を持つイミニウムイオンは、概して不安定であることから単
離することが困難である。そこで、ヒドロキシル化体やメトキシ化体として単
離して後続の反応に用いられる。メトキシ化を利用した例として、強い神経毒
を持つアルカロイドである(+)-anatoxin-a の合成[5]の鍵反応を示す。この反応で
は、ラクタム 8 のカルボニル基をヒドロキシル基に還元してから、さらに、こ
れをメトキシ基で置換している。ヒドロキシル基のメトキシ基への変換は、合
成過程における後続の反応を進行させるためのヒドロキシル基の保護を目的と
している。続いて、ルイス酸存在下、得られたメトキシ化体を炭素求核剤と反
応させて C-C 結合を形成している。
58
O
H
N
H
O
N
O
OH
(+)-anatoxin-a (7)
O
Ts
N
DIBAL, CH2Cl2, -78 oC, 94 %
8
HO
Ts
N
PPTS, HC(OMe)3, MeOH, 93 %
9
MeO
Ts
N
10
Figure 5. Total synthesis of (+)-anatoxin-a (7) via N-tosyliminium ion.
5-1-2. 電解メトキシ化
イミニウムイオンの生成は窒素のα位のアルキル化のための鍵反応とし
て非常に重要である。イミニウムイオンは、マンニッヒ反応や前述した手法に
より合成できる[6]。一方、有機電解反応による手法は、アミドから直接的にイ
ミニウムイオンを生成できることから、化学的手法を十分に代替できるもので
ある。上記に挙げた N-トシルアミン 8 でも、電解酸化により直接的メトキシ化
が可能である。また、(+)-anatoxin-a の合成例でも述べたように、メトキシ基は
ヒドロキル基の保護基としても働くことから、全合成のような様々な化学変換
を行う場合、合成上の利点がある。Shono らによって報告された N-トシルアミ
ンの電解メトキシ化[7]の例を示す。
Ts
N
mol-1
-2e, 3.5 F
Et4NOTs in MeOH
Ts
N
OMe
10
78 %
Figure 6. Anodic methoxylation of N-tosylpyrrolidine.
59
5-1-3. ヘキサフルオロイソプロパノールを用いる電解アルコキシ化
通常、電解酸化によって生じたイミニウムイオンは、メタノールや酢酸
などでトラップして、メトキシ化体やアセトキシ化体として後続の反応に用い
られる。しかしながら、ラクタムのような酸化電位の高いアミドの酸化は、溶
媒の酸化と競合することから、電流効率が著しく低下するか反応が進行しない
[8]。この場合、化学修飾する箇所を電子補助基で置換する方法が一般的である。
電子補助基は、基質の酸化電位の低下と位置選択性の向上が期待できる[9]。し
かしながら、基質に電子補助基を導入するための操作が必要であることから、
ステップエコノミカルな合成を指向するには問題がある。
そ こ で 、 本 章 で は 、 耐 酸 化 性 の ア ル コ ー ル で あ る
1,1,1,3,3,3-hexafluoro-2-propanol (HFIP)を用いた電解アルコキシ化を検討するこ
ととした。耐酸化性の HFIP 溶媒中で、酸化電位の高いアミドの電解酸化を行う
ことにより、溶媒の酸化との競合を避けることが期待できる。
5-2. 結果と考察
第 2 章から第 3 章を通して、固体塩基を用いる電解反応システムを開発
した。このシステムは、プロトン性溶媒や基質であるカルボン酸と固体塩基の
酸塩基反応によって生じるイオン種を電荷のキャリアーとすることから、支持
塩を必要としない。このことから、従来の電解反応で必要な支持塩の分離過程、
および、分離に伴う生成物の損失を避けることができる。本章では、この電解
反応システムを用いて、耐酸化性のアルコールである HFIP を用いた電解アルコ
キシ化を検討した。
5-2-1. メタノールと HFIP の電位窓
最初に、シリカゲル担持ピペリジンをメタノールに加えた場合の CV 測定
を行った(Figure. 7)。メタノールの酸化電流が 1.5 V あたりから確認された。ま
た、プロトンの還元に伴う還元電流も確認された。続いて、シリカゲル担持ピ
ペリジンを HFIP に加えた場合の CV 測定を行った。HFIP の酸化電流が 2.5 V あ
たりから確認された。また、メタノールの場合に比べ、プロトンの還元に伴う
60
還元電流の増加も確認できた。
これらの結果から、1.5 V 以上の酸化電位の持つ基質を酸化する場合、メ
タノール溶媒中では、メタノールの酸化との競合が生じることが明らかとなっ
た。また、HFIP は、メタノールに対し、酸化側の電位窓が 1 V も広がっている
ことが明らかとなった。さらに、酸性度の高い HFIP(pKa = 9.2) [10]によって、メ
タノールの場合より多くの電荷のキャリアーと成り得るプロトンが生じること
が明らかとなった。
-5
2.5x10
(a)
-5
2.0x10
-5
1.5x10
Current / A
-5
1.0x10
(b)
-6
5.0x10
0.0
-6
-5.0x10
-5
-1.0x10
-5
-1.5x10
-5
-2.0x10
-1.5 -1.0 -0.5
0.0
0.5
1.0
1.5
2.0
2.5
3.0
3.5
4.0
Potential / V vs SCE
Figure 7. Cyclic voltammograms of (a) MeOH/MeCN = 50/50 v/v% and (b)
HFIP/MeCN = 50/50 v/v% in 0.1 M silica gel supported piperidine, recorded at a
Pt disk electrode (φ= 0.8 mm). The scan rate was 100 mV s-1.
5-2-2. 固体塩基を用いる電解メトキシ化
次に、2.06 V の酸化電位を持つ N-(ethoxycarbonyl)piperidine (11) と 2.32 V
の酸化電位を持つ 2-pyrrolidinone (12a)の電解メトキシ化を行った(Table 1)。entry
1 に示すように、11 の電解酸化は円滑に進行した。5 F mol-1 の電気量を流したと
ころ、原料 11 が完全消費されるとともに、対応するメトキシ化体を 98 %の良
好な収率で得ることができた。電流効率は 39 %だった。一方、12a の電解酸化
は、原料 12a の消費がほとんど進行しなかった(entry 2)。7 F mol-1 の電気量を流
して、対応するメトキシ化体は 19 %の収率だった。電流効率は 5 %だった。
61
これらの結果から、12a (Eox = 2.32 V vs SCE)のような高い酸化電位を持つ
基質の電解メトキシ化は困難であることが明らかとなった。
Table 1. Anodic Methoxylation of 11 and 12a Using Silica Gel Supported Piperidine.
0.1 M Si-piperidine
/ MeOH
substrate
10
product
mA cm-2
Pt-Pt
entry
substrate
product
COOEt
N
1
electricity
(F mol-1)
yield (%)
COOEt
N
OMe
5
98a(39)b
H
N
7
19c(5)[81]d
11
2
O
H
N
O
OMe
12a
a
Isolated yield. b Current efficiency. c 1H NMR yield based on the NH group using
nitromethane as internal standard. d Recovery of 12a in brackets.
5-2-3. 固体塩基を用いる HFIP 中での電解アルコキシ化
12a の電解メトキシ化の結果を踏まえ、HFIP 中での電解アルコキシ化に
ついて検討した(Table 2)。最初に、シリカゲル担持塩基非存在下の電解アルコキ
シ化を行った(entry 1)。4 F mol-1 の電気量を流したところ、原料 12a が完全消費
された。対応するアルコキシ化体 12b は 9 %と低収率だった。このことは、HFIP
の求核性が低いことを示している。HFIP の低い求核性は、2 つの強い電子吸引
基であるトリフルオロメチル基によるものと考えられる。一方、シリカゲル担
持ピペリジン存在下、12a の電解アルコキシ化を行ったところ、対応するアルコ
キシ化体 12b を 40 %の収率で得ることができた(entry 3)。HFIP とシリカゲル担
持ピペリジンの酸塩基反応によって生じた HFIP アニオンが求核剤として働いて
62
いると考えられる。
次に、entry 2-5 に示すように、HFIP と MeCN の割合について検討した。
HFIP の割合が増加するにつれて、12b の収率が増加した。また、原料消費に必
要な電気量も増加した。このことは、HFIP とシリカゲル担持ピペリジンの酸塩
基反応によって生じた HFIP アニオンの量が増加したことによるものと考えられ
る。一方、セル電圧は、アセトニトリルの割合が増加するにつれて減少した。
そこで、シリカゲル担持ピペリジン存在下、アセトニトリルの割合を変化させ
て HFIP の CV 測定を行ったところ、アセトニトリルの割合が増加するにつれて、
プロトンの還元電流が増加した(Figure 8)。アセトニトリルの割合が増加するに
つれて、プロトンホッピングを円滑にしていると考えられる[11]。従って、セル
電圧の減少は、プロトンホッピングを円滑にさせた結果によるものと考えられ
る。
続いて、種々のシリカゲル担持塩基を用いて、電解アルコキシ化を行っ
た。シリカゲル担持ピリジンを用いた場合、12b は 65 %と良好な収率で得るこ
とができた(entry 6)。シリカゲル担持 TBD を用いた場合、12b は 41 %の収率だ
った (entry 7)。強塩基である TBD を用いた場合、12a の酸化によって生じた中
間体であるイミニウムイオンの脱プロトンが進行し、副生成物であるオレフィ
ン体が得られている。これらの結果から、entry 4 の条件を最適条件とした。
-5
1.0x10
(a)
(b)
-6
5.0x10
Current / A
(c)
0.0
(d)
-6
-5.0x10
-5
-1.0x10
-5
-1.5x10
-5
-2.0x10
-1
0
1
2
3
Potential / V vs SCE
Figure 8. Cyclic voltammograms of HFIP/MeCN mixture in 0.1 M silica gel
supported piperidine, recorded at a Pt disk electrode (φ= 0.8 mm) with scan rate
100 mV s-1: (a) 10 v% of HFIP, (b) 50 v% of HFIP, (c) 90 v% of HFIP, (d) 100
v% of HFIP.
63
Table 2. Anodic Alkoxylation of 12a in HFIP Using Silica Gel Supported Bases.
O
H
N
0.1 M Si-base
HFIP/MeCN
10
12a
ox
(E = 2.32 V vs SCE)
O
H
N
mA cm-2
Pt-Pt
O
CF3
F3C
12b
entry
base
HFIP/MeCN
(v/v %)
electricity
(F mol-1)
yielda (%)
1
-b
50/50
4
9
2
Si-piperidine
10/90
4
15
3
Si-piperidine
50/50
4
40
4
Si-piperidine
90/10
5
78
5
Si-piperidine
100/0
8
72
6
Si-pyridine
90/10
5
65
7
Si-TBD
90/10
5
41
a 19
F NMR yield based on the (CF3)2CHO group using monofluorobenzene as
an internal standard. b 0.1 M Et4NClO4 was used as a supporting electrolyte.
5-2-4. HFIP 中での種々のラクタムの電解アルコキシ化
HFIP 中での電解アルコキシ化の一般性について検討を行った。電解条件
は、Table 2 の entry 4 の条件を用いた。6 員環および 7 員環では、対応するアル
コキ化体をそれぞれ 69 %、51 %と良好な収率で得ることができた(entries 2 and 3)。
また、4 員環および 8 員環では、収率は低いものの対応するアルコキ化体を得る
ことができた(entries 1 and 4)。
64
Table 3. Anodic Alkoxylation of Various Lactams in HFIP Using Silica Gel Supported
Piperidine.
0.1 M Si-piperidine
substrate
entry
1
substrate
O
H
N
HFIP/MeCN = 90/10 v/v%
10 mA cm-2, 5 F mol-1
Pt-Pt
oxidation Potential
(V vs SCE)
2.73
O
H
N
O
H
N
O
F3C
13b
2.41
yielda
(%)
product
13a
2
product
O
H
N
O
CF3
CF3
21
69
CF3
14a
O
3
H
N
14b
O
2.45
O
2.40
16a
a 19F
CF3
51
15b
H
N
4
O
CF3
15a
O
H
N
H
N
O
CF3
CF3
15
16b
NMR yield based on the (CF3)2CHO group using monofluorobenzene as an internal standard.
5-2-5. C-C 結合形成
次に、アルコキシ化体 12b とアリルトリメチルシラン 17 の C-C 結合形
成反応について検討した(Table 3)。12a (1 mmol)の電解終了後、シリカゲル担持
ピペリジンをろ過によって除いて、ろ液から溶媒を減圧留去したものをそのま
ま 17 との反応に用いた。enrty 1 に示すように、ルイス酸として TlCl2(Oi-Pr)2 を
用いたところ、12c を得ることができなかった。また、BF3(OEt2)、および SnCl4
を用いたところ、12c はそれぞれ 10 %、24 %と低収率だった(entries 2 and 3)。こ
のことは、12b にわずかに含まれている HFIP によってルイス酸が失活したもの
65
と考えられる。そこで、12b から HFIP を完全除去したところ、12b は脱アルコ
ールにより分解してしまった。
そこで、プロトン性溶媒に安定な trifluoroacetic acid (TFA)を用いて、17
との C-C 結合形成反応について検討した(entries 4-7)。1 mmol の TFA、および 3
mmol の 17 を用いた場合、12c が 28 %の収率で得られた(entry 4)。17 を 5 mmol
に増やしたところ、12c の収率が 51 %に増加した(entry 5)。また、TFA の量につ
いて検討したところ、収率の改善は見られなかった(entries 4, 6 and 7)。
これらの結果より、TFA が C-C 結合形成反応の酸触媒として適している
ことがわかった。また、ヘキサフルオロプロピル基が脱離基として十分に作用
することが明らかとなった。
Table 4. C-C Forming Reaction of 12a With 17 Under Various Acid Conditions.
0.1 M Si-piperidine
O
H
N
12a
(1mmol)
HFIP/MeCN=90/10 v/v%
O
5 F mol-1, 10 mA cm-2
Pt-Pt
a
H
N
12b
O
acid
CF3
17
entry
acid
17 (mmol)
yielda, b (%)
1
1.5 mmol TiCl2(Oi-Pr)2
1.5
complex
2
1.5 mmol BF3(OEt2)
1.5
10
3
1.5 mmol SnCl4
1.5
24
4
1 mmol TFA
3
28
5
1 mmol TFA
5
51
6
5 mmol TFA
5
19
7
8 mmol TFA
5
17
66
H
N
TMS
F3C
Isolated yield. b Yield based on 12a.
O
12c
5-3. 結論
酸化電位の高いラクタムの HFIP 中での直接的電解アルコキシ化に成功し
た。また、対応するアルコキシ化体のヘキサフルオロプロピル基が脱離基とし
て十分に作用することが明らかとなった。
著者の知るところ、酸化電位の高いラクタムの電解酸化による直接的ア
ルコキシ化はこれまで報告されていない。本研究によって、ラクタムのアルキ
ル化に対する、新たな合成経路を構築することができた。また、電解反応が直
接的 C-H 結合活性化の有力な手段となり得ることを示した。
5-4. 実験項
1
H、13C、19F NMR は CDCl3 または d6-DMSO 溶媒で JEOL JNM EX-270 (1H:
270 MHz, 13C: 68 MHz, 19F: 254 MHz)を用いて測定した。1H NMR のケミカルシフ
トは内部標準としてテトラメチルシラン(TMS)を用いた。13C NMR のケミカルシ
フトは内部標準としてクロロホルム(77.16 ppm)を用いた。19F NMR のケミカル
シフトは内部標準としてモノフルオロベンゼン(-36.5 ppm)を用いた。
質量分析は Shimadzu PARVUM2 を用いて、電子衝撃イオン化(EI)法によ
りイオン化させて測定した。高分解能質量分析は、JEOL The Mstation JMS-700
を用いて、EI 法および高速原子衝突(FAB)法によりイオン化させて測定した。
電解合成は、電源には MATSUSADA PK-80H を用い、クーロンメーター
には HOKUTO DENKO COULOMB/AMPEREHOUR METER HF-201 を用いて行
った。
5-4-1. 試薬
2-azetidinone (13a)、および 2-pyrrolidinone (12a)、2-piperidinone (14a)、
ε-caprolactam (15a)、1-aza-2-cyclooactanone (16a)、ethyl 1-piperidinecarboxylate、
trifluoroacetic acid (TFA)は Aldrich から購入した。1,1,1,6,6,6-hexafluoro-2-propanol
(HFIP)は和光純薬工業より購入した。メタノール、アセトニトリルは関東化学よ
り購入した。dichlorotitanium diisopropoxide、boron trifluoride-ethyl ether complex、
67
tin(Ⅳ) chloride (ca. 1.0 mol l-1 in dichloromethane)、allyltrimethylsilane (17)は東京化
成工業から購入した。
シリカゲル担持塩基(粒径: 40-63 μm)は Aldrich から購入した。シリカ
ゲル担持ピリジンの担持量は 1.3 mmol g-1、シリカゲル担持ピぺリジンの担持量
は 1.1 mmol g-1、シリカゲル担持 TBD の担持量は 0.9 mmol g-1 であった。
5-4-2. サイクリックボルタンメトリー
サイクリックボルタンメトリーは ALS/CH Instruments 610B を用いて測定
した。作用電極は白金電極(φ = 1.0 mm)、対極は白金板電極(1×1 cm2)、参照電極
は飽和カロメル電極を用いた。
5-4-3. 電解
12a の電解例を示す。シリカゲル担持ピペリジン(ピペリジン濃度 0.1 M)
を 10 ml の HFIP/MeOH 混合溶液(90/10 v/v%)に加え、1 時間撹拌した。12a (1
mmol)を加えた後、10 mA cm-2、5 F mol-1 で定電流電解を行った。電解は無隔膜
セル中で、陽、陰極ともに白金電極(2×2 cm2)を用い、電極間距離はおよそ 1 mm
とした。電解終了後、電解液にガラスフィルター(孔径: 10-16 μm)を通し、シリ
カゲル担持ピペリジンを分離した。ろ液を減圧留去した後、残渣をカラムクロ
マ ト グ ラ フ ィ ー ( 酢 酸 エ チ ル : ヘ キ サ ン = 2:1) に よ り 分 離 精 製 し 、
5-(1,1,1,6,6,6-hexafluoropropyl)-2-pyrrolodinone (12b)を得た。
1
H NMR (270 MHz, d6-DMSO) δ 7.53 (s, 1H), 4.06-4.20 (m, 2H), 0.72-1.14 (m, 4H);
C NMR (68 MHz, d6-DMSO) δ 180.0, 121.7 (qd, J = 283 Hz, J = 24 Hz), 89.2, 71.0
(sept, J = 32 Hz), 27.9, 27.3; 19F NMR (254 MHz, d6-DMSO) δ 3.21-3.38 (m, 6F); MS
m/z 251 (M+), 208, 196, 129, 99, 84; HRMS (FAB) [M+H]+ calcd for C7H8F6NO2:
252.0459, found: 252.0455.
13
4-(1,1,1,6,6,6-hexafluoropropyl)-2-azetidinone (13b)
68
1
H NMR (270 MHz, CDCl3) δ 6.93 (s, 1H), 5.39-5.40 (m, 1H), 4.35 (sept, 1H, J = 5.9
Hz), 3.01-3.32 (m, 2H); 13C NMR (68 MHz, CDCl3) δ 165.1, 120.8 (q, J = 286 Hz),
81.0, 73.1 (sept, J = 33 Hz), 46.1; 19F NMR (254 MHz, d6-DMSO) δ 3.00-3.13 (m, 6F);
MS m/z 194, 125, 99, 70; HRMS (FAB) [M+H]+ calcd for C6H6F6NO2: 238.0303,
found: 238.0300.
6-(1,1,1,6,6,6-hexafluoropropyl)-2-piperidinone (14b)
1
H NMR (270 MHz, CDCl3) δ 8.87 (s, 1H), 5.02 (m, 1H), 4.65 (sept, 1H, J = 5.4 Hz),
1.75-2.50 (m, 6H); 13C NMR (68 MHz, CDCl3) δ 174.1, 121.7 (qd, J = 284 Hz, J = 46
Hz), 83.6, 71.7 (sept, J = 33 Hz), 31.2, 27.5, 15.5; 19F NMR (254 MHz, d6-DMSO) δ
3.18-3.29 (m, 6F); MS m/z 265 (M+), 196, 129, 98; HRMS (EI) [M]+ calcd for
C8H9F6NO2: 265.0537, found: 252.0536.
7-(1,1,1,6,6,6-hexafluoropropyl)-azepan-2-one (15b)
1
H NMR (270 MHz, CDCl3) δ 8.01 (s, 1H), 4.73-4.77 (m, 1H), 4.51 (sept, 1H, J = 5.4
Hz), 1.43-2.67 (m, 8H); 13C NMR (68 MHz, CDCl3) δ 180.0, 121.7 (qd, J = 284 Hz, J =
49 Hz), 84.0, 72.3 (sept, J = 33 Hz), 37.7, 33.9, 23.4, 23.1; 19F NMR (254 MHz,
d6-DMSO) δ 3.18-3.31 (m, 3F), 3.34-3.49 (m,3F); MS m/z 279 (M+), 196, 129, 112;
HRMS (EI) [M]+ calcd for C9H11F6NO2: 279.0694, found: 279.0695.
1-aza-8-(1,1,1,6,6,6-hexafluoropropyl)-2-cyclooctanone (16b)
1
H NMR (270 MHz, CDCl3) δ 5.59 (d, 1H), 5.12 (td, 1H, J = 10.5 Hz, J = 3.5 Hz), 4.48
(sept, 1H, J = 5.4 Hz), 1.25-2.52 (m, 10H); 13C NMR (68 MHz, CDCl3) δ 175.8, 120.7
(qd, J = 280 Hz, J = 70 Hz), 86.7, 72.0 (sept, J = 32 Hz), 37.2, 34.8, 28.5, 26.0, 23.2; 19F
NMR (254 MHz, d6-DMSO) δ 3.13-3.26 (m, 3F), 3.76-3.89 (m,3F); MS m/z 293 (M+),
196, 126; HRMS (FAB) [M+H]+ calcd for C10H14F6NO2: 294.0929, found: 294.0933.
5-4-3. C-C 結合形成反応
69
12a の電解終了後、電解液にガラスフィルターを通し、シリカゲル担持ピ
ペリジンを分離した。
ろ液を減圧留去した後、得られた 12b を精製せずに、1 mmol
の TFA と CH2Cl2(2.5 ml)の溶液に加え-70 oC 下、撹拌した。続いて、17(5 mmol)
を適下、撹拌した。6 時間後、水(15 ml)を加え、CH2Cl2 で 3 回抽出した。無水硫
酸ナトリウムで乾燥後、溶媒の減圧留去を行い、残渣をカラムクロマトグラフ
ィー(メタノール:クロロホルム = 1:9)で分離精製し、5-allyl-2-pyrrolodinone (12c)
を得た。同定は文献[12]の 1H、13C NMR スペクトルより行った。
1
H NMR (270 MHz, CDCl3) δ 7.22 (s, 1H), 5.70-5.85 (m, 1H), 5.13 (d, 1H, J = 16.2
Hz), 5.12 (d, 1H, J = 13.5 Hz), 3.72 (quint, 1H, J = 8.1 Hz), 1.69-2.37 (m, 6H); 13C
NMR (68 MHz, CDCl3) δ 178.4, 133.5, 118.2, 54.0, 41.0, 30.4, 26.5; MS m/z 124 (M+ H), 84.
70
5-5. 参考文献
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71
6. 活性点分離の概念を用いる電解メトキシ化における
脱プロトン化の促進
6-1. 緒言
第 2 章および第 3 章において、固体塩基を用いる電解反応システムを開
発した。すなわち、固体塩基によって支持塩を加える必要のない電解反応シス
テムを構築することで生成物の分離過程の効率化を図るとともに、固体塩基の
再使用について検討し、反応プロセスの効率化を達成した。本章では、反応効
率の改善に焦点をあてた研究を行った。
6-1-1.
活性点分離
近年、スターポリマー[1]や、ゾルゲルマトリックス[2]、モンモリナイト
やハイドロタルサイトのような層状粘土鉱物[3]中に触媒を担持した不均一系触
媒の研究が盛んに行われている。これらの研究では、酸と塩基のような相反す
る試薬を活性点分離することで、ワンポット合成[4]を成し遂げている。
活性点分離の概念は、1977 年に Patchornik らによって初めて報告された
概念である[5]。活性点分離とは、一般に酸と塩基のような性質が相反する試薬
を同一反応容器内に共存させる場合、活性官能基同士が接触、失活し、反応を
行うことが出来なくなることから、活性官能基をそれぞれ不溶性ポリマーに担
持し活性官能基同士が接触、失活するのを防ぐことで、同一反応容器内に共存
させることができるというものである(Scheme 1)。Patchornik らは、1977 年の報
告で効率的なアシル化反応を達成している。以下に活性点分離の概念を用いた
アセトフェノンのアシル化の概略を示す(Figure 1)。
一般に、基質と比べアシル化生成物の酸性度が高いことから、基質由来
のアニオンとアシル化生成物の間でプロトン交換を起こし、アシル化の進行が
妨げられる。しかしながら、過剰量の塩基を加えた場合、塩基とアシル化剤の
反応が競合する。そこで、塩基とアシル化剤の反応を抑制するために、それぞ
れ不溶性ポリマーに担持し、互いに接触、失活することを防いでいる。これに
より、従来法で対応するアシル化体が 48 %の収率で得られるのに対し、活性点
72
分離によって、96 %とほぼ定量的にアシル化体が得られている。
Scheme 1. The Concept of “Site-Isolation”
A
B
A
A
B
A
A
B
B
B
B
steric hindrance
A : Acid
B : Base
P
C Li
NO2
P
OCOC6H5
CH3COC6H5
CH2COC6H5
C6H5COCH2COC6H5
Figure 1. Schematic representation of “wolf and lamb” reaction.
一方、有機電解合成の分野で活性点分離の概念を導入した研究例は、著
者の知るところ皆無である。2004 年に Breinbauer らによって、固相合成を指向
した電解合成が行われている[6]。固体―電極間の電子移動が困難であることを
73
報告している。この研究では、固体―電極間の電子移動をメディエーターの介
在によって達成している(Figure 2)。さらに、これまでの固体塩基を用いる電解
反応システムの研究から、固体塩基―電極間の電子移動が困難であり、固体塩
基が電気化学的に安定であるという知見が得られている。
このような背景から、活性点分離の概念を新たに電解反応に導入するこ
とで、新たな電解反応手法を確立できるものと考えた。
Anode
MeO
HO
O
MeO
OMe
O
O
OMe
Br
O
O
Br
O
O
redox reaction
electron transfer
Figure 2. Redox-catalyst-mediated electroorganic symthesis on the solid phase.
6-1-2. 活性点分離の概念を用いる電解メトキシ化における脱プロトン化の促
進
本研究では、固体に担持された塩基と陽極間の電子移動が困難であるこ
とに着目し、これを前述の活性点分離した状態にあるとみなし、固体担持塩基
と陽極の活性点分離を利用した新たな電解反応の構築を検討した。
有機電解反応は、電位選択的に反応が進行することから、基質より酸化
電位の低い試薬存在下で基質の電解酸化を行うことは概して困難である。実際、
酸化的脱プロトン化を伴う電解酸化反応は、脱プロトン化を促進させるために、
塩基存在下で電解酸化を行うことは、多くの場合、塩基が酸化されやすいこと
から困難である。そこで、固体担持塩基を用いて、フルオロエチルフェニルス
ルフィドの電解メトキシ化に伴う脱プロトン化の促進を試みた。
74
6-2. 結果と考察
6-2-1.
塩基と陽極の活性点分離
塩基と陽極の活性点分離を電気化学的に検討した。最初に、
7-methyl-1,5,7-triazabicyclo[4.4.0]dec-5-ene (MTBD)をアセトニトリルに加えた場
合の CV 測定を行った。Figure 3 に示すように、MTBD は容易に酸化され、約 1.0
V に酸化波を確認できた。一方、シリカゲル担持 1,5,7-triazabicyclo[4.4.0]dec-5-ene
(TBD)をアセトニトリルに加えて CV 測定を行ったところ、シリカゲル担持 TBD
の酸化は確認できなかった。これらの結果から、TBD をシリカゲルに担持する
ことで、TBD と陽極が活性点分離されることが明らかとなった。
-5
2.0x10
(a)
-5
Current / A
1.5x10
-5
1.0x10
-6
5.0x10
(b)
0.0
-6
-5.0x10
0.0
0.5
1.0
1.5
2.0
Potential / V vs SCE
Figure 3. Cyclic voltammograms of (a) MTBD (0.01 M) and (b) Si-TBD (0.01 M)
in 0.1 M NaClO4/MeCN, recorded at a Pt disk electrode (φ= 0.8 mm). The scan
rate was 100 mV s-1.
75
6-2-2.
2,2-difluoroethyl phenyl sulfide (1)の電解メトキシ化
渕上らによって、2,2-difluoroethyl phenyl sulfide (1)の電解メトキシ化が報
告されている[7]。この電解メトキシ化では、脱プロトン化過程が律速段階とな
っている。そこで本研究では、この反応をモデル反応として、固体担持塩基に
よる脱プロトン化過程の促進を検討することとした。一般に、中性支持塩存在
下、無水有機溶媒中でのアルキルフェニルスルフィドの電解酸化は、スルホニ
ウムイオンを与え、支持塩由来のアニオンと塩を形成する(Scheme 2, path A)[8]。
これに対し、塩基または求核剤存在下、硫黄原子のα位に電子吸引基が存在する
場合、陽極置換反応が進行する(Scheme 2, path B)。
Scheme 2. Anodic oxidation of alkyl phenyl sulfide in anhydrous organic solvents
(path A: 1-electron oxidation/sulfide)
PhSR
PhSR
-e
-e
-H+, +X-
Ph
S
SR
R
X- (BF4-, ClO4- etc.)
PhSR
-H+
-e
+Nu-
base
Nu
PhS
EWG
(R = CH2EWG)
(path B: 2-electron oxidation/sulfide)
これらの知見を踏まえ、1 のシリカゲル担持 TBD 存在下、および非存在
下の CV 測定を行った。Figure 4 に示すように、シリカゲル担持 TBD 非存在下
では 1.6 V 付近に第 1 酸化ピークと、2.0 V 付近に第 2 酸化ピークが確認された。
最初の酸化波は 1 の酸化に対応し、続く 2 波目はスルホニウムイオンの酸化に
対応している。経路 A の反応が主に進行したものと考えられる(Scheme 2, path
A)。一方、シリカゲル担持 TBD 存在下では、非存在下の場合に比べ、第 1 酸化
波の立ち上がりが約 0.3 V ネガティブシフトするとともに、酸化波が大きくなっ
た。このことは、シリカゲル担持 TBD によって、1 電子酸化された、カチオン
ラジカル中間体の脱プロトン化が促進され、1 の 2 電子酸化の経路 B が主とし
て進行したことによるものと考えられる(Scheme 2, path B)。
76
-5
7.0x10
(b)
-5
6.0x10
-5
Current / A
5.0x10
-5
4.0x10
-5
3.0x10
(a)
-5
2.0x10
-5
1.0x10
0.0
-5
-1.0x10
0.0
0.5
1.0
1.5
2.0
2.5
Potential / V vs SCE
Figure 4. Cyclic voltammograms of (a) 1 (0.01 M) and (b) 1 (0.01 M) in the
presence of 0.2 M Si-TBD in 0.1 M NaClO4/MeCN, recorded at a Pt disk
electrode (φ= 0.8 mm). The scan rate was 100 mV s-1.
次に、シリカゲル担持塩基を用いる 1 の電解メトキシ化を行った(Table 1)。
entry 1 に示すように、シリカゲル担持塩基非存在下では、対応するメトキシ化
体の収率は 29 %と低かった。これに対し、シリカゲル担持 TBD 存在下では、対
応するメトキシ化体は 67 %と良好な収率で得られた(entry 4)。また、シリカゲル
担持 TBD の量が増加するにつれて、対応するメトキシ化体の収率も増加した
(entries 2-4)。このことは、シリカゲル担持 TBD によって、1 の電解酸化で生じ
るカチオンラジカル中間体の脱プロトン化が促進された結果、収率が増加した
ものと考えられる。しかしながら、1 の陽極への電子移動によって生じるラジカ
ルカチオン中間体は電極表面に局在化していることから、カチオンラジカル中
間体の寿命は、バルク中に存在するシリカゲル担持 TBD のもとへたどり着くに
は短すぎると考えられる。Figure 5 に示すように、溶媒であるメタノールとシリ
カゲル担持 TBD の酸塩基反応によって、メトキサイドイオンが生じている。こ
のことから、カチオンラジカル中間体に対し、メトキサイドイオンが塩基とし
て働いていると考えられる。実際、entry 3、4 に示すように、シリカゲル担持 TBD
非存在と比べ、電流効率が低下している。塩基として働くメトキサイドイオン
の一部が、陽極上で酸化されていることによるものと考えられる。
次に、シリカゲルに担持される塩基について検討を行った。ピリジンを
77
用いた場合、収率は 31 %だった。ピペリジンを用いた場合、収率は 47 %だった。
これらの結果から、1 の脱プロトン化の促進は塩基性度の高い TBD が最も良い
結果を与えることが明らかとなった。
溶媒であるメタノールとシリカゲル担持 TBD の酸塩基反応によって、電
荷のキャリアーとなるイオン種が生じることから、entry 7 では、支持塩非存在
下で 1 の電解メトキシ化を行った。対応するメトキシ化体を 86 %と良好な収率
で得ることができた。
また、シリカゲル担持 TBD の代わりに MTBD を用いて検討したところ、
反応は進行せず、1 が 98 %で回収された。このことから、活性点分離された塩
基によって脱プロトン化が促進されることから、電解メトキシ化の効率が大幅
に改善されることが明らかとなった。
(b)
-4
3.5x10
-4
3.0x10
-4
Current / A
2.5x10
-4
2.0x10
-4
1.5x10
-4
1.0x10
-5
(a)
5.0x10
0.0
-5
-5.0x10
0.0
0.5
1.0
1.5
2.0
Potential / V vs SCE
Figure 5. Cyclic voltammograms of (a) 0.2 M silica gel supported TBD and (b)
0.2 M MTBD in MeOH, recorded at a Pt disk electrode (φ= 0.8 mm). The scan
rate was 100 mV s-1.
78
Table 1. Anodic Methoxylation of 1 Using Silica Gel Supported Bases.
PhS
CHF2
0.1 M NaClO4/MeOH
base
1
5 mA cm-2, Pt-Pt
undivided cell
OMe
PhS
2
CHF2
entry
base
electricity (F mol-1)
yielda (%)
1
-
4
29
2
0.01 M Si-TBDb (14.5)c
3
32
3
0.1 M Si-TBD
6
54
4
0.2 M Si-TBD
6
67
5
0.2 M Si-pyridined (5.2)
5
31
6
0.2 Si-piperidinee
5
47
7f
0.2 M Si-TBD
6
86
8f
0.2 M MTBD
6
0 [98]g
a 19
F NMR yield based on the CHF2 group using monofluorobenzene as an internal
standard. b Silica gel supported TBD. c pKa value of the conjugate acid in parentheses.
d Silica gel supported pyridine. e silica gel supported piperidine. f Electrolysis was
carried out in the absence of NaClO4. g Recovery of 1 in brackets
6-2-3.
種々のフルオロエチルフェニルスルフィドの電解メトキシ化
フルオロエチルフェニルスルフィドの電解メトキシ化における脱プロト
ン化過程は、フルオロメチル基の電子吸引効果によって大きく変化する。これ
は、フルオロエチルフェニルスルフィドのメチレン上の水素の酸性度が変化す
るためである[7]。そこで、メチレン上の水素の酸性度の異なる、CF3 基および
CH2F 基を持つフルオロエチルフェニルスルフィドに対し、シリカゲル担持 TBD
による脱プロトン化の促進効果について検討した。
Table 2 に示すように、強い電子吸引基である CF3 基を持つ場合、シリカ
79
ゲル担持 TBD 非存在下でも、カチオンラジカル中間体の脱プロトン化は進行す
るものの、対応するメトキシ化体 4 の収率は 31 %だった。これに対し、シリカ
ゲル担持 TBD 存在下では、78 %と良好な収率で対応するメトキシ化体 4 を得る
ことができた。一方、CH2F 基を持つフルオロエチルフェニルスルフィド 5 の場
合、シリカゲル担持 TBD 非存在下では、対応するメトキシ化体 6 をほとんど得
られなかった。脱プロトン化が進行するのに十分なメチレン上の水素の酸性度
がなかったことによると考えられる。これに対し、シリカゲル担持 TBD 存在下
では、収率は 16 %と低いものの、対応するメトキシ化体 6 を得ることに成功し
た。
このことから、酸性度の異なる種々のフルオロエチルフェニルスルフィ
ドにおいても、シリカゲル担持 TBD による脱プロトン化の促進効果が得られる
ことが明らかとなった。
Table 2. Anodic Methoxylation of 3 and 5 Using Silica Gel Supported Bases.
PhS
Rf
3 (Rf = CF3)
5 (Rf = CH2F)
supporting electrolyte
MeOH
5 mA cm-2, Pt-Pt
undivided cell
OMe
PhS
Rf
4 (Rf = CF3)
6 (Rf = CH2F)
entry
Rf
supporting electrolyte
electricity (F mol-1)
yielda (%)
1
CF3
0.1 M NaClO4
3
31
2
CF3
0.1 M Si-TBD
7
78
3
CH2F
0.1 M NaClO4
3
trace
4
CH2F
0.1 M Si-TBD
3
16
a 19F
NMR yield based on the Rf group using monofluorobenzene as an internal standard.
80
6-3. 結論
固体塩基を用いることによって、フルオロエチルスルフィド類の電解メ
トキシ化における脱プロトン化を促進することに成功した。
塩基存在下の電解酸化反応は、基質よりも塩基が酸化されやすいことか
ら概して困難であった。活性点分離の概念を新たに導入することで、塩基存在
下の電解酸化を達成することができた。これまで、電解反応は電位選択的に反
応が進行することから、反応に用いる試薬の選択には制限があった。従って、
活性点分離の概念の導入は、上記の課題に対し、新たな電解反応の広がりを期
待できる。本手法が有機電解合成の新たな一歩となることを期待する。
6-4. 実験項
1
H、19F NMR は CDCl3 溶媒で JEOL JNM EX-270 (1H: 270 MHz, 19F: 254
MHz)を用いて測定した。1H NMR のケミカルシフトは内部標準としてテトラメ
チルシラン(TMS)を用いた。19F NMR のケミカルシフトは内部標準としてモノフ
ルオロベンゼン(-36.5 ppm)を用いた。
質量分析は Shimadzu PARVUM2 を用いて、電子衝撃イオン化(EI)法によ
りイオン化させて測定した。
電解合成は、電源には MATSUSADA PK-80H を用い、クーロンメーター
には HOKUTO DENKO COULOMB/AMPEREHOUR METER HF-201 を用いて行
った。
6-4-1. 試薬
2,2,2-trifluoro tosylate と 7-methyl-1,5,7-triazabicyclo[4.4.0]dec-5-ene (MTBD)
は Aldrich から購入した。ピリジンとメタノールは関東化学より購入した。
2-fluoroethanol と 2,2-difluoroethanol、塩化トシルは和光純薬工業より購入した。
水素化ナトリウムとチオフェノールは東京化成工業より購入した。
81
また、シリカゲル担持塩基(粒径: 40-63 μm)は全て Aldrich から購入した。
シリカゲル担持ピリジンの担持量は 1.3 mmol g-1、シリカゲル担持ピぺリジンの
担持量は 1.1 mmol g-1、シリカゲル担持 TBD の担持量は 0.9 mmol g-1 である。
文献[9]に示された方法を用いて、フルオロエチルフェニルスルフィド(1, 3, 5)は、
対応するアルコールをトシル化した後、チオールと置換反応を行い合成した。1
の合成法を下に示す。
2,2-difluoroethyl tosylate
窒素雰囲気下、0 oC にて 2,2-difluoroethanol 50 mmol、ピリジン(15 ml) 溶
液中に塩化トシル (100 mmol)を 30 分間にわたってゆっくり加え、4 時間撹拌し
た。水 20 ml を加えた後、酢酸エチルで有機層を取り、これを水、1 M 塩酸、
炭酸ナトリウム水溶液(pH = 10)で洗浄した。無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、
必要に応じて精製した。
phenyl 2,2-difluoroethyl sulfide (1)
窒素雰囲気下、水素化ナトリウム(60 %) 4.8 g(120 mmol)の DMF 縣濁液
(140 ml)にチオフェノール 13.22 g(120 mmol)を滴下した。30 分撹拌後 0 oC に冷
却し 2,2-difluoroethyl tosylate 25.42 g(100 mmol)を 10 分間で加えた。1.5 時間撹拌
後、反応溶液を水にあけエーテルで 3 回抽出した。有機層を 2 N-水酸化ナトリ
ウム、水、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、減圧濃縮
後蒸留により生成物を単離した。収率 76 %
6-4-2. サイクリックボルタンメトリー
サイクリックボルタンメトリーは ALS/CH Instruments 610B を用いて測定
した。作用電極は白金電極(φ = 0.8 mm)、対極は白金板電極(1×1 cm2)、参照電極
は飽和カロメル電極を用いた。
82
6-4-3. 電解メトキシ化
1 の電解例を示す。シリカゲル担持 TBD(TBD 濃度 0.1 M)を 0.1 M
NaClO4/MeOH 溶液(10 ml)に加え、1 時間撹拌した。1 (1 mmol)を加えた後、5 mA
cm-2、6 F mol-1 で定電流電解を行った。電解は無隔膜セル中で、陽、陰極ともに
白金電極(2×2 cm2)を用い、電極間距離はおよそ 1 mm とした。電解終了後、モ
ノフルオロベンゼン(1 mmol)を内部標準として 19F NMR により 2 を定量した。
同定は文献[7]の 1H、19F NMR スペクトルより行った。
4[7]、6[10]も同様に 1H、19F NMR を用いて文献によって同定した。
83
6-5. 参考文献
[1] B. Helms, S. J. Guillaudeu, Y. Xie, M. McMurdo, C. J. Hawker, J. M. J. Fréchet,
Angew. Chem. Int. Ed. 2005, 44, 6384-6387.
[2] (a) F. Gelman, J. Blum, D. Avir, New J. Chem. 2003, 27, 205-207. (b) F. Gelman, J.
Blum, D. Avnir, Angew. Chem. Int. Ed. 2001, 40, 3647-3649. (c) F. Gelman, J. Blum, D.
Avnir, J. Am. Chem. Soc. 2000, 122, 11999-12000.
[3] K. Motokura, N. Fujita, K. Mori, T. Mizugaki, K. Ebitani, K. Kaneda, J. Am. Chem.
Soc. 2000, 122, 11999-12000.
[4] N. Hall, Science, 1994, 266, 32-34.
[5] (a) B. J. Chohen, M. A. Kraus, A. Patchornik, J. Am. Chem. Soc. 1981, 103,
7620-7629. (b) B. J. Chohen, M. A. Kraus, A. Patchornik, J. Am. Chem. Soc. 1977, 99,
4165-4167.
[6] (a) S. Nad, R. Breinbauer, synthesis, 2005, 20, 3654-3665. (b) S. Nad, R. Breinbauer,
Angew. Chem. Int. Ed. 2004, 43, 2297-2299.
[7] (a) T. Fuchigami, K. Yamamoto, Y. Nakagawa, J. Org. Chem. 1991, 56, 137-142. (b)
T. Fuchigami, K. Yamamoto, A. Konno, Tetrahedron, 1991, 47, 625-634. (c) T.
Fuchigami, Y. Nakagawa, T. Nonaka, Tetrahedron lett. 1986, 27, 3869-3872.
[8] Encyclopedia of Electrochemistry Volume 8, (Eds.: A. J. Bard, M. Stratmann, H. J.
Schäfer), Wiley-VCH, Weinheim, Germany, 2004. 235-276.
[9] T. Nakai, T. Tanaka, H. Setoi, N. Ichikawa, Bull. Chem. Soc. Jpn. 1977, 50,
3069-3070.
[10] T. Fuchigami, A. Konno, K. Nakagawa, M. Shimojo, J. Org. Chem. 1994, 59,
5937-5941.
84
7. 総括
有機電解反応は、電子移動に基づく反応の中で最も優れた反応の 1 つで
ある。反応の駆動力は電極のポテンシャルエネルギーであることから、反応の
活性化エネルギーを越えるのに、熱エネルギーを必要としない。従って、常温
下での反応が可能であり、熱に不安定な化合物でも反応を行うことができる。
さらに、化学的手法に比べ選択的な反応を行うことができる。アミドの酸化に
よるメトキシ化体の生成反応を例に挙げる。アミドと対応するメトキシ化体の
酸化電位の差は 100 ~ 150 mV 程度であることから、通常の酸化剤を用いた反
応では、一般に選択的にメトキシ化体を得ることは困難であり、再酸化生成物
の生成が避けられない。これに対し、有機電解反応は、電位選択的な反応なの
で、酸化電位の差が 100 ~ 150 mV 程度でも選択性を失うことなしに酸化反応
を行うことができる。また、Mass-free な電子を試薬として用いることから、重
金属を含む酸化剤や還元剤の使用を避けることができる。近年、有機電解反応
による手法は、化学的手法では容易でない電子移動を制御する手法、および環
境調和型の有機合成手法として注目されている。
しかしながら、有機電解合成では、有機溶媒に電気を流すために支持塩
を必要とし、反応終了後にはその支持塩を分離・回収する必要があることから、
支持塩の分離・回収に伴う廃棄物やエネルギー、コストの問題が重要な課題で
あった。本研究では、支持塩を加える必要のない電解反応システムを構築する
とともに、この電解反応システムを利用した有機電解合成を検討した。
第 2 章および第 3 章では、有機電解反応における支持塩の問題に対し、
支持塩を加える必要のない電解反応システムを構築し、高級アルカンの合成に
有用なコルベ反応および交差コルベ反応へと展開した。コルベ反応は、カルボ
ン酸の脱炭酸を経由した C-C 結合形成反応である。通常の化学的手法では難し
い単純な脂肪族のカルボン酸に対しても適用できる優れた反応である。このよ
うな有用な反応に本電解反応システムが適用可能であることは合成上価値があ
るものと考えられる。
第 4 章では、固体塩基を用いる電解反応システムを用いてイミニウムイ
オンの生成反応を検討した。生成したイミニウムイオンをトラップしたメトキ
85
シ化体を良好な収率で得ることができた。合成的観点から、生理活性物質の合
成に広く用いられるイミニウムイオンの生成は非常に重要である。化学的手法
では、第 1 級アミンとカルボニル化合物を脱水縮合させてイミンを合成し、こ
れをアシル化させることでイミニウムイオンを生成することができる。これに
対し、有機電解反応による手法は、アミドやアミノ酸から直接的にイミニウム
イオンを生成できるので、化学的手法と比べ、反応工程数を抑えることができ
る合成手法といえる。このことから、固体塩基を用いる電解反応による含窒素
化合物の効率的な合成は、分離・精製過程の効率化および反応の効率化の点で
有用な手法であると考えられる。
第 5 章では、第 4 章のさらなる効率化を図った。これまで酸化電位の高
いラクタムからの直接的アルコキシ化は、溶媒であるアルコールと基質の酸化
が競合することから困難であった。従って、マンニッヒ反応のような化学的手
法により、ラクタム骨格のイミニウムイオンを生成し、目的化合物の合成を行
っていた。これに対し、耐酸化性のアルコールを用いた電解アルコキシ化を構
築し、さらに、得られたアルコキシ化体が合成中間体として有用であることを
示すために、続く C-C 結合形成反応を行った。本手法が、ラクタム類のアミド
アルキル化の有用な手法であることを示すことができた。
第 6 章では、活性点分離の概念を新たに有機電解反応に導入した。本方
法論が有用であることを示すために、酸化的脱プロトン化を伴う電解メトキシ
化をモデル反応として、活性点分離された塩基による脱プロトン化の促進を検
討した。電解反応は電位選択的に反応が進行することから、基質より酸化電位
の低い試薬存在下の電解酸化反応を行うことは困難であるため、電解反応では、
用いることができる試薬や基質には電位に基づく制限があった。活性点分離の
概念の導入は、このような課題に対し、新たな電解反応の広がりを期待できる。
今後、厳しい環境規制によって、Mass-free な電子を試薬として用いる有
機電解反応は、重金属を含む酸化剤や還元剤の使用を避けることができること
から、環境調和型の有機合成手法としてますます注目されることが予測される。
一方、化学的手法も、金属触媒に替わる有機触媒の発展などクリーンな技術が
開発されている。したがって、化学的手法では達成しえない有用な電解反応の
開発およびクリーン化を達成していく必要がある。
86
有機電解反応は、化学的手法では容易でない電子移動を制御する手法、
および Mass-free な電子を試薬として用いる手法であることから、化学的手法を
代替できる、クリーンかつ効率的な反応を構築できる可能性をもつ。本研究が
有機電解反応のさらなる発展に寄与することを期待する。
87
発表論文一覧
【発表論文】
[1] Mixed-Kolbe Electrolysis Using Solid-Supported Bases
H. Kurihara, T. Tajima, T. Fuchigami, Electrochemistry, 2006, 74, 615-617.
[2] Development of an Electrolytic System for Non-Kolbe Electrolysis Based on the
Acid-Base Reaction between Carboxylic Acids as a Substrate and Solid-Supported
Bases
T. Tajima, H. Kurihara, T. Fuchigami, J. Am. Chem. Soc. 2007. 129, 6680-6681.
[3] Kolbe Carbon-Carbon Coupling Electrosynthesis Using Solid-Supported Bases
H. Kurihara, T. Fuchigami, T. Tajima, J. Org. Chem. 2008, 73, 6888-6890.
[4] Deprotonation in anodic methoxylation of fluoroethyl phenyl sulfides using
site-isolated heterogeneous bases
T. Tajima, H. Kurihara, Chem. Commun. 2008, 41, 5167-5169.
【その他の関連する論文】
[1] Electrolytic partical fluorination of organic compounds. 77. Reactivity of anodically
generated benzylic cation intermediates toward fluoride ions in acetonitrile
T. Tajima, H. Kurihara, A. Nakajima, T. Fuchigami, J. Electroanal. Chem. 2005, 580,
155-160.
[2] Electrolytic partical fluorination of organic compounds. Part 85. Anodic
gem-difluorination of hydrazones using Et4NI as mediator
T. Tajima, N. Imai, A. Nakajima, H. Kurihara, T. Fuchigami, J. Electroanal. Chem. 2006,
593, 43-46.
[3] An environmentally friendly electrolytic system based on the acid-base reaction
between water and solid-supported bases
T. Tajima, S. Ishino, H. Kurihara, Chem. Lett. 2008, 37, 1036-1037.
88
謝辞
本研究を遂行するにあたり、終始的確な御指導御鞭撻を賜りました本学教授
渕上寿雄 教授に深く感謝致します。
研究のみならず、研究室生活において御指導、御助言を頂きました本学准教授
跡部真人 先生に深く感謝致します。
本研究を遂行するにあたり、終始懇切丁寧な御指導を賜りました本学 Global
Edge Institute 特任助教 田嶋稔樹 先生に心から感謝いたします。
修士ならびに博士課程を通じて有意義で楽しい研究生活を送るにあたり、大変
お世話になりました渕上・跡部研究室の皆様に深く感謝致します。
最後に、両親、祖父母、兄弟の多大なる御支援、御協力なしには、本学におい
て充実した学生生活を送ることが出来ませんでした。深く感謝致します。
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