保護者と共に発達支援教育を推進する学校の在り方 −保護者の意識調査を基に、家庭への有効な理解啓発の方策を探る− 特別支援教育課 1 長期研修員 渡辺 雅子 主題設定の理由 浜松市では、特別支援教育を「確かな生徒理解に立ち、一人一人の子どもや保護者が教 育上求めているものや必要なもの(教育的ニーズ)を的確に把握し、それに対し適切な支 援をしていくことで 、すべての子どもたちのすこやかな成長発達を支援する教育上の営み 」 であるとし 、「発達支援教育」と呼んでいる。特別支援教育を 、「障害のある幼児児童生徒 の自立や社会参加に向けた主体的な取組を支援するという視点に立ち、幼児児童生徒一人 一人の教育的ニーズを把握し、その持てる力を高め、生活や学習上の困難を改善又は克服 するため、適切な指導及び必要な支援を行うもの 」(注1)とする文部科学省の定義に比 べ、発達支援教育はあらゆる子供が対象であり、一人一人の学びを大切にする授業改善の 延長上に位置付けられている。学校は、一人一人の教育的ニーズにこたえるために、一斉 指導の中での「担当教員による授業の工夫」を中心に、TTの形態を取り入れた「個に応 じた特別な支援」や「発達支援教室での個別指導」など、指導内容・方法の充実に向けた 取組を行わなければならない。 今までの教育を振り返ると、教職員が提供する指導内容や量が、すべての子供たちに対 して同じであることを期待する傾向があった。そのため、教職員間の共通理解や、子供や 保護者の理解が十分に得られないまま、こうした一人一人の教育的ニーズにこたえる特別 な支援を行うと、子供や保護者に、疎外感や不公平感を感じさせてしまうことも考えられ る。現に学校における取組の意図が保護者に正しく伝わらず、教職員による特別な支援に 対して、不信感を口にする保護者もいる。 「特別支援教育を推進するための制度の在り方について(答申 )」においても述べられ ている(注2)ように、今後、学校には様々な教育活動を通し、保護者に対して一人一人 のニーズに合った対応を行う発達支援教育への理解を推し進めることが求められる。 保護者の理解の下、保護者と共に発達支援教育を推進するために、学校が取り組むべき 内容や取組方法を明らかにしたいと考え、本主題を設定した。 2 研究の目的 保護者と共に発達支援教育を推進する学校の在り方を構想し、発達支援教育に関する保 護者の理解を深めるための方策を探る。 3 (1) 研究の方法 浜松市内小学校20校の保護者及び学級担任を対象に、発達支援教育に関する意識調査 を行い 、両者の意識を関連させて分析し 、保護者の理解を深めるための課題を把握する 。 (2) 把握した課題をもとに、保護者への理解啓発活動の具体案を作成し、A小学校での実 - 117 - 践を通して有効性を検証する。 (3) A小学校での実践の考察と合わせ、先進的な取組をしている学校への視察や先行研究 の調査を通して、保護者との連携を深めるための学校体制を考察し、保護者と共に発達 支援教育を推進するための構想図を示す。 4 研究の内容 (1) 保護者と学級担任に対するアンケート調査 ア 目的 発達支援教育が本格実施される平成19年度を前に、保護者や学級担任が感じる「子 供の困り感(注3 )」や「支援の必要感 」、「特別な支援に対する意識」をアンケート により調査する。保護者の意識に、学級担任の意識を関連させて分析し、発達支援教 育に関する保護者の理解を深めるための課題を把握する。 イ 調査対象 アンケート調査の対象を4年生保護者と学級担任に絞ることにした。4年生は、以 下に示す(ア)∼(ウ)の三つの側面から、学校生活にいくつかの困難を感じ始める時期だ と考えたからである。 (ア) 学習内容の変化:教科や授業時数が増え、学習量が増えると同時に、具体物を用 いた学習から、抽象的な思考力を要求される学習に移行する時期である。(注4) (イ) 社会性獲得の段階:発達心理学によると、この時期は友人とかかわりながら目標 を達成し、勤勉性や自信を獲得する段階であるとされている。失敗経験が多いと、 劣等感を味わいやすく、社会的不適応の原因となり得る(注5 )。 (ウ) 発達障害の特性:発達障害のある子供は、(ア)、(イ)のような思考や社会性に、困 難を抱えている場合が多く、発達のアンバランスさから周囲の子供との違いが顕著 になり、孤立感を味わい始める時期だと言われている(注6 )。 ウ 調査内容 <保護者アンケート> エ ・保護者が感じる「子供の困り感」 ・担任が感じる「学級の子供の困り感」 ・期待する子供への支援 ・必要だと思う学級の子供への支援 ・教職員との相談や相互の連携に対する意識 ・保護者との相談や相互の連携に対する意識 ・「 個に応じた特別な支援」に対する意識 ・「 個に応じた特別な支援」に対する意識 データ数 【資料1】アンケートのデータ数 学校数 保護者回答数 学級担任回答数 20校を抽出して行った調査によ A 発達支援教室が設置されてい る小学校 8校 636人 19人 り 、 保 護 者 1,631人 、 学 級 担 任 54 B 発達支援教室はないが、発達 学級が設置されている小学校 5校 386人 18人 人のデータを有効とし 、集計した 。 C 発達支援教室、発達学級とも 未設置の小学校 7校 609人 17人 20校 1,631人 54人 資料1のとおり浜松市内小学校 オ <教員アンケート> 発達支援教室等の有無 合計 保護者アンケートの調査結果 保護者が感じる「子供の困り感」について尋ねたところ、27%の保護者が「困って - 118 - い る こ と が あ る 」 と 回 答 し た ( 資 料 2 )。 具 【資料2】保護者が感じる「子供の困り感」 体 的 に は 資 料 3 に 示 す よ う に 、「 特 に 苦 手 な お子さんの普段の様子についてお答えください。 学校で特に困っていることがありますか。 教科や分野(話すこと・読み・書き・計算・ 3% 27% 推 論 な ど ) が あ る 」「 授 業 が 分 か ら な か っ た 困っているこ とがある ない り、問題をやり残したりすることがある」と わからない いう学習面での項目で「ある」と答える割合 70% が高い。それぞれの項目で困り感が「ある」 と答えた人に対し、期待する支援を尋ねたと ころ、上記2項目の学習面での困り感に対しては 、「学級担任の支援」に加えて 、「学 級担任以外の教職員による支援」や「教室以外の場所での支援」を期待する割合が高 くなっている。 【資料3】子供の困り感と保護者が期待する支援内容 「ある」と答えた人の中で各支援を期待する人の割合(%)複数回答 子供の困り感 ある わから 担任以外の 教室以外の 学級の子供 ない ない 学級担任の 教職員によ 場所での支 たちに対す その他の支 特別な支援 支援 学校に行きたがらないことある 離席・興奮がある 集中できない・不注意な間違いがあ る 特に苦手な教科や分野(話すこと・ 読み・書き・計算・推論等)がある コミュニケーションの困難がある 授業が分からなかったり、問題をや り残したりすることがある 174 1455 (11%) (89%) 57 1471 103 (4%) (90%) (6%) 380 1042 206 (23%) (64%) (13% 739 795 90 (46%) (49%) (5%) 319 1180 124 (20%) (72%) (8%) 668 790 167 (41%) (49%) (10% る支援 援 る働き掛け 援 は必要ない 32 5 13 38 10 17 72 30 14 23 4 11 74 29 12 21 4 7 51 32 42 15 6 5 60 22 17 42 7 10 65 33 36 12 3 4 【資料4】困り感のある子の登校への意欲 また、学校に行きたがらない傾向を示し 学校に行きたがらないことがありますか。 ている子供は、学校生活に困り感をもつ子供 で23%、コミュニケーション面で困難さを感 じる子供で24%と、4年生全体の11%に比べ て割合が高いことが分かった(資料4 )。 困っていることに関し、学校に相談をもち かける際、最初に誰に相談するかと質問した と こ ろ 、「 担 任 」 と 答 えた人数は1,508人 で、他に比べて圧倒 的に多かった。相談 0% 4年生全体 友達関係やコミュ ニケーションで困 っている子 最初に誰に相談したいと思いますか。 (人) ある ない ある ない 困っていることに関して、学校の教職員に 相談してよかったと思いますか。 2000 5% 1500 14% その他の教職員 校長または教頭 保健室の教員 教育相談担当 教員 0 21% とてもよかった よかった 500 担任以外の相談 しやすい教員 「 とてもよかった 」 「よ ない 【資料5】学校への相談 担任 かという質問には、 ある 学校生活に困り感 をもっている子 1000 してよかったと思う 20% 40% 60% 80% 100% あまりよくなかっ た よくなかった 60% かった」の割合が81 %で、19%の人が「あまりよくなかった 」「よくなかった」と答えている(資料5 )。 - 119 - また、発達支援教 【資料6】個に応じた特別な支援に対する意識(保護者) 育の理解に関する質 問項目に対しては 、 「言 特別な支援についてどのように感じますか。 特に問題はない 特定の子に細かい指示 葉も内容もよく知っ て い る 」 が 14% 、「 言 よいと思う じっとしていられない子に特別な役割 違和感を感じる 他の教室で個別学習 不公平だと思う 能力によって宿題の量を変える 葉だけは知っている」 無回答 授業で使うプリントがちがう 支援員が特定の子につく が 46% 、「 全 く 知 ら な 0% 20% 40% 60% 80% 100% い」が40%であった。 発達支援教育について理解している保護者はまだ少ないことが分かる。 次に、学校における個に応じた特別な支援に対する意識を調査したところ、宿題の 量や、使うプリントが違うことに対して違和感や不公平感を感じる割合が、他の支援 方法に比べて高くなっている(資料6)。 カ 学級担任アンケートの調査結果(分析に必要な結果の抜粋) 91%の学級担任は、学級の中に、学校生活に 【 資料7 】担任が感じる「 子供の困り感 」 学級の中で「学校生活に特に困難さを感じてい る子供」がいると思いますか。 困難を感じている子供がいると認識している( 資 料7 )。資料8のとおり、保護者から子供の困り いる いない 感に関する相談を受けて、すべての担任が 、「と 0% て も よ か っ た 」 ま たは 「よ か っ た 」 と感 じて い る 。「子供の問題をお互いに理 解 す る こ と が で き た 。」「 担 任 40% 60% 80% 100% 【資料8】保護者との相談の成果 保護者から相談を受けてよかったと思い ますか? あまりよく なかった 0% が知らなかった小さなことも 知ることができた 。」という感 20% よかった 31% よくなかっ た 0% とてもよ かった 69% 想からも、良さを実感してい ることが分かる。相談の際、 保護者の要望を取り入れましたか。 経過観察 中 専門家の 2% 助言を基 に取り入 れた 28% 自分で考 えた指導 方法を取り 入れた 17% 取り入れ ない 0% 要望をそ のまま取り 入れた 0% 保護者と よく話し 合って取り 入れた 53% 保護者から出た要望に対し、話合いを通してよりよい指導方法を取り入れたり、専門 知識のある人に助言してもらった方法を 、取り入れたりしている担任が多い 。しかし 、 担任の多くが、保護者との相談で困ることとして「効果的な指導方法を伝える自信が ない 。」と答えている。そして、資料 【資料9】相談をうまく進めるために必要なこと 9のように、相談をうまく進めるた めには 、「発達支援教育に関する知識 相談をうまく進めるために必要なことは何ですか。(複数回答 %) 0 の習得 」「相談体制の整備」が必要だ 20 30 40 50 60 70 LD、ADHD等に関する校内研修 TTなど学習形態の工夫 発達支援教室の設置 と考えている担任が多い。 キ 10 発達支援教育の知識の習得と自信 保護者や地域への理解啓発 分析結果 保護者に対する相談体制の整備 その他 (ア) 子供の困り感への理解 資料2のとおり 、「子供が、学校で特に困っていることがある 。」と感じている 保護者は全体の27%に上った。また、ほとんどの学級担任も、困り感を感じている 子供の存在を認識している。そこで、保護者に、一人一人に合った支援をする発達 - 120 - 支援教育は、通常の学級の中で困り感を感じている多くの子供にとって、有効であ るということを伝える必要がある 。「発達支援教育は、学校と家庭が協力して子供 をよく観察し、子供の困り感をよく理解することから始まる 。」という観点を伝え ることが重要であると考えた。 (イ) 「特別なこと」と感じさせない基盤づくり 保護者へのアンケートでは、特別な支援を受けることに対して「周囲の目が気に なる 。」という意見が多かった。また、特別な支援を受けることが、疎外感、劣等 感につながり、いじ めの原因を生み出す のではないかとい う、弊害を心配する 意見もあり、発達支 【資料10】保護者の意見(自由記述) ・自分の子供が支援を必要とするのであればとてもありがたく感じると思う。でも、 親の気持ちとしては、他の子とプリントが違ったり、友達に迷惑を掛けたりするの は辛いと思う。本人も、他の子と比べて「自分はだめな子」と思うのでは… ・子供にも保護者にも認知度を高めていく必要があると思う。特別視することなく、 みんなが受け入れていく温かい環境があるといいのだが… ・特別な感じがして、周りの子供等の反応が心配。 ・特に問題のない子はいつも放っておかれがち。全体的に見ていただける方が不公平 がなくありがたい。 援教育で行われる支 援が「特別なこと」であるという意識がうかがえる(資料10 )。また、支援が必要 な子供への対応に追われ、他の子供に目が行き届かなくなるのではないかという意 見もある。 【資料11】 B小学校保護者が希望する支援 アンケート調査を依頼した20校の中の B小学校は、発達支援教育の内容を理解 している保護者の割合は29%と20校全体 のデータ(14%)に比べて高い。B小学 必要ない その他の手助け 学級の子供への 働き掛け 教室以外の場所 での個別学習 手助け」とともに学校に積極的な支援を 担任以外の 手助け 「 個 別 学 習 」 へ の 要 望 が 高 く 、「 担 任 の 60 50 40 30 20 10 0 担任の手助け 校保護者が希望する支援内容を見ると、 特に苦手な教科や分野がある子供に対してどのような 支援があればよいと思いますか。(複数回答%) 求めていることが分かる(資料11 )。また、20校全体では資料4のように、学校で の困り感がある子供は、学校に行きたがらないことがある割合が高いが、B小学校 では、困り感のある子供の割合が36%と全体のデータ(27%)に比べて高いのにも かかわらず、学校に行きたがらない子供の割合は7%と低い。 そこで、他校との違いが明らかなB小学校を視察し、学校の体制について調査を 行ったところ、B小学校では、校長が 、「実態に応じて一人一人を大切にする」と いう学校経営の重点を基にした発達支援教育の積極的推進や、発達支援教室におけ る専門的知識をもった教員による学習 【 資料12】B小学校の保護者の意見( 自由記述 ) 指導の展開について、PTA総会で説 明したことが分かった。子供のつまず ・ うちの子は苦手な教科に担任以外の方がついてく れてその教科が伸びた。そのため、学校へ行きた くないという言葉が減った。 きに配慮した個別指導が、日常的に行 われ、成果を上げることで、個別学習 に対する要望が徐々に増え、保護者の ・ 担任の先生はもちろん、B小学校の先生方の温か い教育をありがたく思っている。このまま楽しく 学校生活を送ってほしい。 理解を得ることに成功しているのではないかと思われる( 資料12)。校内において 、 - 121 - 個に応じた支援を、特別な ことと感じない基盤ができ つつあると考える。 【資料13】個に応じた特別な支援に対する意識の差 < 発達支援教育について内容までよく知っていると答えた保護者> じっとしていられない子に特別な役割 よいと思う 特に問題はない 違和感を感じる 不公平だと思う 無回答 特定の子に細かい指示 (ウ) 「支援」に対するイメ ージを広げること 発達支援教育について 他の教室で個別学習 能力によって宿題の量を変える 授業で使うプリントがちがう 支援員が特定の子につく 0% 「 内容までよく知っている 」 と 回 答 し た 保 護 者 は 、「 全 く知らない」と回答した保 20% 40% 60% 80% 100% <発達支援教育について全く知らないと答えた保護者> じっとしていられない子に特別な役割 よいと思う 特に問題はない 違和感を感じる 不公平だと思う 無回答 特定の子に細かい指示 他の教室で個別学習 護者に比べ、特別な支援に 対して違和感や不公平感が 能力によって宿題の量を変える 授業で使うプリントがちがう 支援員が特定の子につく 少ないことが分かる(資料 13 )。この差は 、「子供の困 0% 40% 60% 80% 100% 【資料14】多様な「個の実態に応じた支援」 り感を生み出す特性」につ いての理解不足と、発達支 20% 多 様 な 「支 援 」に 対 す る イ メー ジ ち ょっ と した 支 援 ・配 慮 その子に 応じた支援 支援員による 対応 教室以外の指導 (発 達 支 援 教 室 ) 援教育の対象となる子供の から生じる「支援」に対す る認識のずれや誤解による ・不 注 意 な 子 の 肩 を た た く。 ・プ リ ン トを 他 の 子 と変 え る 。 ・全 体 指 示 の 後 の 声掛け ・使 い や す い 道 具 ・体 育 の ル ー ル を 分 か りや す い も の に変える。 ・や る こ と、で き た ことの確認 ・宿 題 の 量 の 調 節 ものと思われる。子供の実 態に応じた支援は、学級担 任の「ちょっとした支援・ ・近 くか ら 細 か い 指示 を出したり 見 守 っ た りす る 。 ・別 メニ ュ ー の 課 題を与 える。 ・片 付 け の 手 伝 い 対象人数 ・パ ニ ック 、飛 び 出しへの対応 ・別 カ リ キ ュ ラ ム (そ の 子 の 能力に合 った 教 材 )で 指 導 する。 通級指導 実態やニーズが幅広いこと ・ソ ー シ ャ ル ス キ ル トレ ー ニング 多い 少ない < そ の 他 の 支 援 の イ メー ジ > 放 課 後 の 個 別 ・少 人 数 指 導 能力 を伸ばすための支援 不登校への支援 学校生活上の悩みの相談 配慮」から「教室以外の指 導 」「通級指導」に至るまで多様であり(資 【資料15】ニーズと支援の相関関係 多い 料 14)、 ニ ー ズ に 合 わ せ て 提 供 す る 支 援 の ステージ3 特殊教育による支援 量も違ってくる。干川隆氏は著書の中で資 係が一次関数上にあるのが理想であり、そ 支援の量 料15に示すとおり、ニーズと支援の量の関 チームによる支援 ステージ1 学級担任による支援 少ない れぞれステージが異なるものの、すべてが 特別支援の範囲であるとしている。以上の ことから 、「 子供の困り感を生み出す特性 」 と 、「特性 に応 じた 支援の 方法」を保護者 ステージ2 弱い 強い ニーズの強さ 注)干川隆編著『通常の学級にいる気に に 対して 具体 的に説 明し 、「支援」のイメ なる子への支援 』,明治図書 ,2005年 . ージを広げることが重要だと思われる。 39ページ図8を参考に筆者が作成 (エ) 社会生活に必要な技能習得の必要性と情報提供 保護者の調査では、学習面での困り感に対する手助けとして 、「教室以外の場所 での個別学習」を期待する割合が約40%であった。一方で 、「離席や興奮状態を起 - 122 - こす児童 」「友達との関係やコミュニケーションに困難のある児童」に対しては、 「教室以外の場所での指導」を希望する回答は少なく、学級担任の支援が有効だと する回答が多い(資料3 )。学習面での困難には取り出しによる個別の対応を期待 するが、行動面の指導は集団生活の中で行ってほしいという結果である。しかし、 実際は、行動面においても、集団での指導だけでなく個別の指導を組み合わせて行 うことが望ましい場合もある。保護者には、社会生活を送るために必要な技能を身 に付けることの重要性について理解してもらい、その有効な学習方法(ソーシャル スキルトレーニング等)について、情報を提供していくことが必要だと思われる。 (オ) 個別学習の有効性 保護者アンケートによると「教室以外の場所での個別学習」を利用しない理由と して 、「周囲の目が気になる 。」「劣等感を味わわせたくない 。」というような意見 が多くあり、個別学習への抵抗感をなくすことが早急に求められる。個別学習が集 団へ生かされる事例を挙げ、個別学習の有効性や、それに伴う自信の回復や劣等感 の克服という効果について理解を得ることが重要である。さらに 、「教室以外の場 所のイメージがわかない 。」という意見もあることから、今後各学校で設置される と思われる発達支援教室は、特別な場所ではなく、様々なニーズに応じて誰もが利 用できる場所であることを具体的な例で示し、イメージ化することが必要だと思わ れる。 (カ) 教育相談体制の整備 すべての担任が、保護者からの相談を受けて 、「とてもよかった 」「よかった」 と感じている(資料8)のに対し、学校の教職員に相談した保護者が「とてもよか った 」「よかった」と感じる割合は81%であった(資料5 )。この結果は、担任の 多くが、保護者との相談で困ることとして「効果的な指導方法を伝える自信がな い 。」と答えていることからも分かるように、担任に相談をしてみたものの、知識 不足で、的確なアドバイスを得られなかったという保護者の気持ちの表れであると いえる。担任も、相談をうまく進めるためには 、「発達支援教育に関する知識を習 得し 、自信をもって指導すること 」や「 相談体制の整備 」が必要だと考えている( 資 料9 )。そこで、校内研修を充実させるとともに、必要に応じて相談の場に、専門 知識のある教員や発達支援教育コーディネーターが同席すること、巡回相談員等の 外部機関と連携をとることが、対策として考えられる。学校として、相談の体制を 整えること、その体制について広く保護者に伝えることが重要だと思われる。 ク 保護者に発達支援教育を理解してもらうための課題 分析結果(ア)∼(カ)から、課題は以下の6点であると考えた。 ・子供の困難さを理解することの重要性を伝えること ・発達支援教育を「特別なこと」と感じさせない学校の雰囲気を作ること ・保護者が考える「支援」のイメージを広げること ・社会生活に必要な技能を身に付けることへの理解を促すこと - 123 - ・個別学習(発達支援教室)の具体的なイメージをもってもらうこと ・コーディネーターや外部機関と連携した学校の相談体制を整え、その体制につ いて保護者に正しく伝えること これらの課題を基に理解啓発活動の具体案を作成することにした。 (2) 理解啓発活動の具体案 ア 啓発活動を有効に進めるため の校内研修 (ア) 教師の専門性を高める校内 【資料16】校内研修の実践と成果 アンケートによる実態のまとめ ・ LD・ADHD・高機能自閉症の特徴を知っている割合は多いが、支援方法に ついて具体的に知っている教職員は少ない。 ・ 学級担任の60%が「自分の学級に支援が必要な児童がいる」と感じている。 ・ 具体的な支援方法について知りたいという希望が多かった。 研修 A小学校で、保護者への啓 発活動を行うにあたり、アン ケートで教職員の実態を調査 研修内容 ・ 特別支援教育について ・ LD・ADHD等の特性と支援の方法 ・ 事例検討会の実際 (1年生Aさんの事例をグループごとに検討した後、全体で話し合い) ・ 各学年ごとの事例検討と報告会 したところ、LD・ADHD 等の障害特性や支援方法を具 体的に知っている職員は少な かった。発達支援教育を進め るためには、発達障害への理 解が不可欠である。そこで、 LD・ADHD等に関する知 識を習得するという目的で、 校内研修会を8月に行った。 事後の感想から、発達支援教 研修後の教職員の意識(アンケート意見から) ・ LD・ADHD等の障害の特徴や支援方法について、頭の中が整理された。ど の子もまず受け入れてみて、その子に合った指導・支援をしていくことが基本 だと思った。 ・ みんなで一緒に事例検討する場があってよかった。学校全体で考えていく体制 が確立するとよい。 ・ 障害のことや対応策も分からず接してきた。共通理解ができる研修が増えると よい。 保護者の理解を深める方策案(アンケート意見から) ・ 学校便り、学年便り、講演会。ただし障害のある子やその親への配慮が必要。 ・ 保護者とのケース会議 ・ 信頼関係を築く。教師が「カウンセリングの技」を身に付ける。 ・ 教師と保護者が直接話し合いをもち、具体的な子供の姿をくわしく伝える。 【資料17】発達支援教育の啓発プログラム 課題 スライド画面 内容 文科省による全国調査 通常学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に 関する全国調査 (H14) 育に対する教職員の理解の深 まりが感じられた( 資料16)。 (ア) 子供の困難さを理解 することの重要性を 伝えること 文部科学省の調査、アンケートの結果から、 困り感を感じる子が通常学級には多くいるこ と。子供の困り感を理解することが発達支援 教育の始まりであるということ。 学習でも行動でもとても 困難(1.2%) 学習でとても 行動でとても 困難(4.5%) 困難(2.9%) 6.3% の子が、 特に困っている。 (イ) 啓発活動の内容を共通理解 するための校内研修 アンケー トから把握した6 点の課題を解決するために、 発達支援教育の啓発プログラ ム を 作 成 し た ( 資 料 1 7 )。 そ の内容を共通理解するため、 11月に校内研修会を行った。 家庭教育講座において保護者 に説明するにあたり、プログ ロムが適切であるかどうか意 見を求めたところ、今後の学 校体制の整備の見通しがつか (イ) 発達支援教育を「特 別なこと」と感じさせ ない学校の雰囲気 を作ること (ウ) 保護者が考える「支 援」のイメージを広 げること (エ) 社会生活に必要な 技能を、身に付ける ことへの理解を促す こと 特別支援教育 (発達支援教育)は は、 特別支援教育(発達支援教育) とくべつな とくべつなことで ことではありません。 • どの子にも分かりやすい授業 • 一人一人を認め合う学級づく り • 困っている子どもの特性に合っ た手助け その子に合った手助け④ きょうのさんすう クラスのみんなにも わかりやすく、意欲を 持続することができる。 1分間チャレンジ きょうか書 P24∼ あなあきもんだい おたのしみもんだい - 124 - 困っているのは児童本人であり、その子に 合った支援が一人一人違うということ。(児童 の困り感を生み出す特性と具体的な支援方 法の提示)(支援の程度の幅が広いことへの 理解を促すこと。) その子に合った手助け⑦ ①あやまろう ①あやまろう 先生、○○をわすれました。すみません。 先生、○○をわすれました。すみません。 ②たのもう ②たのもう ○○をわすれてしまったので、かしてくだ ○○をわすれてしまったので、かしてくだ さい。 さい。 ③おれいを言おう ③おれいを言おう ○○をかしてくれて、どうもありがとう。 コミュニケーションの取り方を学ばせることや 気持ちの落ち着かせ方を教えることなども大 事な支援であること。 ○○をかしてくれて、どうもありがとう。 (オ) 個別学習(発達支援 教室)の具体的なイ メージをもってもらう こと (カ) コーディネーターや 外部機関と連携した 学校の相談体制を 整え、その体制を保 護者に正しく伝える こと 発達支援教育は、まず、毎日の学級づくり、 分かりやすい授業が基本であること。これは 今まで行っていた「個を大切にする指導」と変 わらないこと。 効果の上がる個別学習の例の提示(教室以 外の場所での学習のイメージ化)。発達支援 教室は誰でも使える気軽なフリースペースで あること。 困ったわ。 だれに相談し ようかしら。 校内 外部機関 との連携 担任 発達支援教育コー ディネーター等 医療・福祉 巡回相談員 スクール カウンセラー 私はもちろん、い ろいろな人が、相 談にのりますよ。 困ったときは気軽に 相談してください してください 困ったときは気軽に相談 特別支援教育コーディネーターの存在を知ら せるとともに、外部機関との連携など、相談の 形態の多様性を提示し、保護者支援をする体 制があることの理解を促すこと。困っている子 を教師、友達、家族で支えていくために協力 が必要であること。 ないこと、個に応じた支援の要求度が高い保護者がいた場合、それに対応するだけ の時間的ゆとりがないこと、保護者の要求や期待に添えなかったとき、学校批判に つながる可能性があることなどの理由から、予定した内容をそのまま説明すること には、多くの反対意見が出された。A小学校の現状を踏まえ、資料18のように内容 や提示の仕方を改善すること にした。 イ 啓発活動の実践 (ア) 啓発活動の対象 A小学校1年生の中には、 【資料18】啓発プログラム内容・提示の仕方の改善点 <啓発プログラムの中で強調する点> ・一人一人を大切にする教育は、今までも行っていたこと ・学校でも家庭でも子供をよく観察し、困っている様子を見逃さないこと ・保護者と学校が連携して、よりよい支援策を試行錯誤しながら、一緒 に考えていくこと <啓発プログラムから除外する点> ・A小学校ではまだ整備されていない内容(資料17(オ)) ADHDと診断されている児童が在籍しており、各クラスには、学校生活に困難を 示している児童が見られる。また、子供の困り感に気付かず、家庭での適切なかか わり方について、働きかけが必要な保護者もいる。全般には、保護者も子供も不安 はあるものの、1年生という小学校生活スタートの段階では、まだ強い切迫感はな い。しかし、少しでも早い時期から、困り感のある子供に適切な支援をすることは 重要である。また、困難な状況は、今後誰にでも起こり得ること、困り感のある子 供には、周囲の子供たちの適切なかかわりが重要であることから、学年全体の保護 者に対して理解を深める必要があると考えた。そこで、出席率の高い家庭教育講座 の際に、1年生保護者に対して啓発活動を行うことにした。4年生保護者と同じ内 容の事前アンケートを行ったところ、発達支援教育に対する関心は高く、詳しく内 容を知りたいという意見もあった。啓発活動後にもアンケート調査を行い、意識の 変化を考察することにした。 (イ) 啓発活動の目的 発達支援教育への理解を推進するとともに、子供との適切なかかわり方や励まし 方を伝え、家庭教育の中で生かしてもらうことを目的に行った。 (ウ) 啓発プログラムの内容 A小学校の現状に合わせて改訂した啓発プログラムは、スライド画面を使って構 成し 、教室の中や学校内で行われる支援の具体的な内容を 、絵や写真を用いて示し 、 視覚に訴えるようにした。 ウ 【 資料19】啓発プログラムの分かりやすさ 啓発活動の成果と課題の考察 啓発プログラムには、家庭学習で取り入れ やすい音読や漢字練習における、具体的な支 啓発プログラムの内容は分かりやすかった ですか。 8% 8% 0% 分かりやすい 援方法の紹介を盛り込んだため、保護者が話 少し分かりやすい を熱心に聞く様子が見られた。終了後、保護 少し分かりにくい 者 が 担 任 に 、「 昔 と 違 っ て 、 学 校 は 一人 一人 84% とても分かりにくい のことを考えてくれているんですね 。」 「 うちの子は 、話が聞けていますか 。」などと 、 積極的に話し掛けている姿が見られ、意識の高まりを感じた。 啓発活動後、参加した1年生保護者に対してアンケートを行った。啓発プログラム - 125 - の内容は「分かりやすい」が80%を超え、ほぼ理解できたと考えられる(資料19 )。 「少し分かりにくい」理由としては 、「この教育を取り入れるにあたって、どのよう に 行 う か 、 ど こ ま で 行 う か な ど 、 具 【資料20】保護者が感じる「子供の困り感」の変化 体的なことが分からなかった 。」「発 達支援とそうでないところのライン 学校で特に困っていることがありますか 。 <啓発活動前> <啓発活動後> 6% が よ く 分 か ら な い 。」 な ど が 挙 げ ら 16% 25% 26% れた。この点においてより理解を得 ない わからな い るためには、小さな配慮を含むバリ 68% エーションに富んだ「支援」のイ メ ー ジ が で き る よ う に 、 資 料 1 4の 困り感が ある 59% 【資料21】個に応じた特別な支援に対する意識の変化 <啓発活動前> ようなイメージ図を用意するとよ じっとできない子に授業中の役割 かったと考える。 特定の子への細かい指示 また、啓発前と同じ項目のアン 違う教室で個別指導 ケート調査をし、意識の変容を分 授業で使うプリントが違う よいと思う 特に問題はない 違和感を感じる 不公平だと思う 無回答 宿題の量を変える 析した 。学校での困り感が「 ある 」 支援員が特定の子の側につく 0% と答えた割合に変化はない。しか 20% 40% 60% 80% 100% <啓発活動後> し 、 10% の 人 が 「 な い 」 か ら 「 分 じっとできない子に授業中の役割 からない 」に変えている( 資料20)。 子供が困っているかどうか、様子 をもっとよく観察しようとする意 特定の子への細かい指示 よいと思う 特に問題はない 違和感を感じる 不公平だと思う 無回答 違う教室で個別指導 宿題の量を変える 授業で使うプリントが違う 支援員が特定の子の側につく 識に、変化したとも考えられる。 0% 20% 40% 60% 80% 100% また、特別な支援に対する意識では、啓発活動前に比べ 、「よいと思う」と回答した 割合が全体で平均すると約8%増えた(資料21 )。また、じっとしていられない子供 や、集中が続かず細かい指示を要する子供への支援に対し、違和感をもつ保護者の割 合が減っている 。個に応じた支援の必要性について理解した結果であると考えられる 。 以上の結果や、自由記述の 意見・感想(資料22)から、 啓発活動の成果と課題を考え た。啓発活動を通して、多く の保護者から、個に応じた教 育の必要性を理解し、学校と 家庭の連携の大切さを認識す る意見が聞かれたことは成果 【資料22】啓発活動後の保護者の意見・感想の例 ・特定の子供だけに支援をすることが、他の子供にとっては不公平に感じられると は思うが、それを理解させることも大事なことであるし、親子で話し合う良い機 会だと思う。 ・人間には一人一人違いがあるからこそ良いものが生み出されると思うのに、今ま での社会や学校はそれを切り捨てるようなところがあった。今日の話から、世の 中も少しずつ変わっていくのではないかと希望がもてた。 ・学校に相談できる体制があるということが安心感につながる。 ・発達支援教育は子供と学校だけでできることではなく、周囲の理解と協力がまず 必要だと思う。機会をつくって、もっと多くの情報を提供してほしい。 ・「違うこと」を行うため、他の子の心が育っていないと、「からかい」や「いじ め」につながる可能性を考え、教師がうまく話していってほしい。 ・「みんなと違う」と本人が劣等感をもってしまわないか心配。 ・子供同士がお互いにどう感じとるか、疑問をもったときにどう解決するか、よく 考えて対応していかなければならないと思った。 である。しかし、保護者は、発達支援教育の必要性は理解できるものの、いじめや不 登校の問題などの社会的な背景を考えると、個に応じた特別な支援に対し不安を感じ ている。そして 、「子供の気持ちを大切にして、子供の集団生活に支障がないように 配慮した支援 」を願っている 。その願いにこたえるためには 、互いの違いを認め合い 、 - 126 - 尊重し合う学校・学級集団づくりが、確実に行われていることが前提となる。道徳に おける人間尊重の教育や、総合的な学習の時間における福祉の教育を行い、子供たち に、一人一人の困り感に合わせて支援することは不公平ではないことを伝え 、「自分 が困ったときには先生が助けてくれる 。」という安心感をもてるようにすることが必 要である。学校は、研修等によって学級経営における教員の指導力を高めることが課 題である。 (3) 保護者と共に発達支援教育を推進する学校の在り方 ア 【 資 料 23】 B 小 学 校 保護者を支援する教育相談の事例 B小学校の保護者は、資料12のように学校の支援 学校への相談 教職員に相談してよかったと思いますか。 0% 0% に対する肯定的な感想が多い。学校に相談を持ち掛 25% とてもよかった よかった けてよかったという保護者は100%(資料23)で、20 あまりよくなかっ た よくなかった 校全体の結果(資料5)のような不満を表す回答は 見られない。B小学校は保護者に対する日常的な相 75% 談活動に力を入れており、担任だけでなく、相談したい教職員には気軽に相談を持ち 掛けることができる。それは、支援を必要とする子供に関する事例検討会を全職員で 行い、教職員の誰もがその子供の生育歴や家庭環境を把握しているという状況が基盤 にある。教職員が「もてなしの心」を合い言葉にしているB小学校では、保護者の気 持ちに寄り添う姿勢で、相談活動に臨んでいることも信頼を得ている要因である。 保護者に共感して話を聴く人と場が学校にあることで、保護者に安心感をもっても らうことができると考える。発達支援教育を推進するには、学校における保護者を支 援する相談体制の整備が必要である。 イ 保護者の理解を深め、共に発達支援教育を推進する学校の在り方 研究を進める中で、B小学校のように保護者の理解を得るためには、様々な要素が 必要であることが分かった。ただ単に発達支援教育の知識を提供するだけでは、保護 者の理解は得られない。保護者の理解を促しながら、共に発達支援教育を推進するに は、学校はどうあればよいのか、資料24のように考えてみた。 学校は 、「教職員の意識の向上 」「学校体制の整備」を同時に推進することが必要 である。その中でも、保護 【資料24】保護者と共に発達支援教育を推進するための構想図 者への継続的な理解啓発活 動や教育相談活動等の 、 「保 護者を支援する学校体制」 の整備は、学校と保護者の 考え方を近づけ、発達支援 学校体制の整備 教職員の意識の向上 保護者を支援する学校体制 校内研修 ・子供の特性を知る ・具体的な支援を試みる。 ・カウンセリングマインドを 習得し、子供や保護者の 気持ちに寄り添う。 保護者の 理解 理解啓発活動 ・懇談会 ・学校便り 教育相談 ・カウンセリング ・外部機関との連携 教育を推進するための重要 な手段であると考える。発 達支援教育における保護者 教育課程 環境整備 学級づくり ・子供たちへの「個を大 切にする心の教育」 の推進 との協力体制が築かれ、学 - 127 - 学校と家庭の協力 教育の方向性の一致 すべての子供の 学校生活の充実 ・TT等授業形態の工夫 ・発達支援教室の設置 校と家庭の教育の方向性が一致することで、特別な支援を必要とする子供も、周囲の 子供も、共に充実した学校生活を送ることができるであろうと考える。 5 研究のまとめ (1) 研究の成果 ア 「発達支援教育の啓発プログラム」の作成 保護者が感じる子供の困り感や個に応じた支援に対する意識を調査したことによ り、保護者の思いや願いをつかむことができた。それは、浜松市が推進しようとして いる「一人一人の子供や保護者が、教育上求めているものや必要なもの(教育的ニー ズ)を的確に把握する」という発達支援教育の基になるものである。そして、保護者 の不安を取り除き、思いや願いを教育的ニーズとして高めていくための啓発方法を模 索し 、「発達支援教育の啓発プログラム」を作成することができた。このプログラム を使って行った啓発活動の後に「発達支援教育の大切さが理解できた 。」という保護 者の感想を得て 、「情報を発信すること」の重要性を知った。そこから新たな保護者 の疑問や学校の課題も生まれてくるが、まず、その時点での取組の目的や状況を保護 者に伝えることが大切である。 イ 教職員の意識の向上 保護者への啓発活動を実施するためには、教職員の意識の向上が求められる。校内 研修を重ねながら共通理解を図る中で、発達支援教育に対する知識を身に付けようと いう教職員の意欲が見られたことは成果である。しかし、発達支援教育を「特別なこ と」ととらえ、指導が難しいと考えている教職員はまだ多い。学習指導要領で、個に 応じた指導の充実が掲げられている(注7)ように 、「一人一人を大切にする教育」 は今までも行ってきたことである。その上で、子供の実態に合わせて最も有効な支援 方法を考え、試行錯誤しながら、自信をもって発達支援教育に取り組んでいくことの 重要性を強く認識することができた。 (2) 今後の課題 ア 多様な啓発活動の継続化 保護者への啓発活動によって発達支援教育への理解を得るためには、一度の機会で は無理である。学校体制の整備状況や取組に関し、その都度情報を発信して理解を求 めることが学校の課題であり、責任である。また、保護者の中には、発達障害につい て既に多くの知識をもつ人も少なくない。障害特性を多くの人に知ってもらいたいと 思っている保護者もいる。そこで、保護者を対象に、専門家による講演会などを開催 したり、発達支援教育に関する資料を配付したりすることも有効である。 イ 子供や保護者に寄り添うこと 研究を通して 、教職員が子供や保護者に寄り添おうとする気持ちをもつことこそが 、 発達支援教育を支えていくものと感じた。子供をよくしようという願いを、保護者と 共に分かち合いながら進めていく発達支援教育を目指し 、教育活動の実践に励みたい 。 - 128 - 注 1)中央教育審議会『特別支援教育を推進するための制度の在り方について(答申 )』第2章 「特別支援教育の理念と基本的な考え方 」,2005年12月 より 2)中央教育審議会『特別支援教育を推進するための制度の在り方について(答申 )』第6章 の3「特別支援教育の普及啓発について 」,2005年12月 より 3)本研究で述べている「困り感」とは、困っていることに本人が気付いているか否かにか かわらず、児童自身の精神的な状態において、不安や戸惑い、分からないと感じる心理 まで含めた困難さを指す。 4)各教科の指導内容を体系的統計的にとらえた『静岡県版カリキュラム国語科、算数・数 学科(小学校・中学校)の領域別系統表 』(静岡県教育委員会,2005年)によると、算数 科では 、「概数 」「四捨五入 」「除法の見積もり 」「伴って変わる2つの数量を○や□で表 すこと」などがその例である。国語科でも 、「相手や目的に応じた適切な言葉遣いで話す こと 」「話の中心に気を付けて聞き、自分の感想をまとめること」などを要求される。抽 象的な思考を持ちにくい子供は、学習への困難さを感じ始める時期であると思われる。 5)エリクソンの「心理社会的発達理論」によると、児童期の発達課題は、不断の努力と長 期的な忍耐により勤勉性を獲得し、仕事を達成する喜びを味わうこととされている。 6)3年生の2学期ごろ、子供たちは、周囲に関心をもつようになり、徐々に自他の違いに 気付き始める。少し変わった行動をする子供は浮いてしまう。様々なトラブルから自尊 心を失うきっかけとなりやすい時期であり、原仁,杉山登志郎著『教師のためのやさし い精神・神経医学 』(学習研究社,1991年)では「9歳の壁」と表現されている。 7)小学校学習指導要領第1章第5の2(5)に「各教科の指導に当たっては、児童が学習内容 を確実に身に付けることができるよう、学校や児童の実態に応じ、個別指導やグループ 指導 、 ( 中略 )など指導方法や指導体制を工夫改善し 、個に応じた指導の充実を図ること 。」 と示されている。 参考文献 ・原仁,杉山登志郎著『教師のためのやさしい精神・神経医学 』,学習研究社,1991年. ・干川隆編著『通常の学級にいる気になる子への支援 校内支援体制と支援の可能性 』,明治図 書,2005年. ・石塚謙二,瀬戸本むつみ,矢崎弘美「親の願いは…支援・指導は一人ひとりのニーズに応じ て提供を 」『月刊実践障害児教育』5月号,学習研究社,2006年,16-17ページ. ・河合隼雄,福島章,村瀬孝雄編,西園昌久著『臨床心理学大系』第1巻第Ⅳ−2章「精神分 析的精神発達理論 」,金子書房,1991年. ・宮城教育大学特別支援教育総合研究センター編『 特別支援教育への招待 』,教育出版 ,2005年 . ・佐藤暁著『発達障害のある子の困り感に寄り添う支援−通常の学級に学ぶLD・ADHD・アスペの 子どもへの手立て− 』,学習研究社,2004年. - 129 - ・文部科学省『小学校学習指導要領 平成15年一部改正 』,国立印刷局,2004年. ・ 中央教育審議会『特別支援教育を推進するための制度の在り方について(答申 )』,2005年. ・静岡県教育委員会『静岡県版カリキュラム国語科、算数・数学科(小学校・中学校 )』,2005 年. ・浜松市教育委員会『浜松市の特別支援教育在り方検討委員会報告書 』,2005年. ・浜松市立有玉小学校『すべての子供の教育的ニーズにこたえる有玉小の発達支援教育∼子ど も理解と授業改善さらには連携∼ 』,2006年. ・視察研修資料 神戸市教育委員会(2006年),神戸市立西脇小学校(2006年), 香川大学教育学部特別支援教室「すばる」(2006年), 浜松市立元城小学校(2006年). - 130 -
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