我々が観たメキシコのサ ッ カ ー 1. 概要 日程:3月18日∼30日 場所:メキシコシティ メンバー:リーダー 島田信 幸(JFAアカデミー福島) 藤 原明夫(千葉YD) 坂尾美穂 (JFAアカデミー福島) 上田 充士(北海道YD) 星原隆昭 (JFA関西チーフ) 山本伸忠 (石川YD) 大野真(JFA指導 者養成チーフ) 風巻和生(セレッソ大阪) 西村昭宏(JFA技術委員長代行) 荒谷潤( JFA技術部) 福谷祥伯(CPSサッカーアカデミー) 訪問先: 「プーマス」 「プミータス」 「メキシコサッカー協会〈CECAP〉指導者養成学校」 「メキシコサッカー協会〈ナショナルトレーニングセンター〉」 3月18日、成田空港からアトランタ経由で時差15時間のメキシコへ到着、北半球に 位置し、気候は日本と同じで国土は約5倍の大きさ、首都のメキシコシティに人口が集中 しており、2400万人が住み、都市の人口としては世界一と言われている。中央高原地 帯のメキシコシティは標高2200Mで朝夕の寒暖の差が大きく、雨季と乾季がある。 滞 在ホテル周辺が高級住宅地の為に生活レベルが高い人が多かったので危険は少なかった。 しかし、街の中心地では貧困層が多く雰囲気は一変する。 2. メキシコについて メキシコの歴史的背景については、発展と侵略の繰り返しである。6世紀にはテオティ ワカンの宗教都市が築かれ、20万人の大帝国となるが滅亡し、13世紀にはアステカ文 明が栄え、メキシコの至る所に建造物を造った。16世紀にはスペインの侵略を受け植民 地となる。その証として、広大な湖に浮かぶテオティワカン神殿の埋め立てが行われた。 1836年にはテキサスの分離独立運動で米国と戦争となる。敗北により広大な領土を 失う結果となった。その影響で、油田の宝庫であるにもかかわらず、現在では米国から石 油を輸入する状態となっている。 3. メキシコのサッカー プロリーグは4部構成でプリメイラ、プリメイラA、プリメイラセグンダ、テルセーラ と呼ばれ人気も高い。U‐20/U‐17のリーグも組織されていて、U‐20はホームゲ ームの前座として行われ、U‐17はクラブの練習会場で行われる。過去の経験からか試 合の結果に関わらずPK戦を行っている。(どうもPK戦に弱いらしい) 4. メキシコで感じたこと ☆ 育 成 ( プ ー マ ス ) ◇ ス タ イ ル ・よく走り、攻守において数的優位をつくる ・自由にプレーさせる、選手一人ひとりの意見を尊重する ・ユニフォームに誇りをもたせる、チームの為に全力で戦える選手 ◇ K E Y W O R D 若 く て も 経 験 と 実 力 の あ る 選 手 の 育 成《 一 貫 指 導 体 制 の 確 立 》 ・U-10/U-11/U-12:開始の時期 基本技術の反復、アジリティー、コーディネーション、シュート、創造力プログラム。 7人制サッカー フリーなポジションでプレーさせ、子供たちの自由な発想を大事にす る。 土のグラウンドでもトレーニングし球足が速く子供の反応を高める事ができる。 保護者の距離を離す事により、子どもへの過剰なプレッシャーを与えない。 海外遠征スタート *U-11は、メキシコ市内のU‐12リーグにも参加 *U-12は7人制から11人制へ移行し、週末は市内のリーグ戦に参加 ・U-13:開始の時期・競争の時期・転換期 基本技術の反復、アジリティー、コーディネーション、シュート、創造力プログラム。 技術的に新しい要素はいれず、今までのものがより巧くなるよう考え、22名に絞られ る。 メンタル面のサポート ポジションの固定や戦術の要素の導入 勝利へのメンタリティを強調 *ただし全力を出してプレーすることが前提で、その上での勝利への執念に働きかける。 ・U-14∼U-16:競争の時期 フィジカルトレーニングの導入 クロスの攻守のトレーニングが多くなる(プーマススタイル) *U-15から国内全域でのスカウトが始まる。 ・U-17:仕上げの時期 リーグ戦・1部の日程と同じ→2011 年ワールドカップ U-17 メキシコ大会へ向けての強化 ・ U-20:リーグ戦・トップチームの日程と同じ *21歳11か月までは、チャンスが与えられる。 ・心理カウンセラーの招聘 U―13で週1回15分、U―17で週1回30分程度、心理的なトレーニングを取り 入れている。りんごをイメージさせるところから、徐々にゲームへのイメージに発展さ せていく。 ・ 育成一貫指導(育成部門責任者バスケス氏) トップの監督から育成コーチまで、育成に対する考え方が共有されている。 育成のコーチは、プーマス出身者のみ。 チームの方針を理解し、それを表現できるコーチでなければならない。 保護者とのコミュニケーションは、バスケス氏が行う。 コーチが指導に専念できる環境がつくられている。 能力が高い選手はカテゴリーアップさせプレーすることにより、早い年齢でのトップチ ームのデビューを可能とする。小さい頃から勝ち負けに拘り、競争に負けない、若くて 経験がある選手を育てる。毎年トップチームに2人以上選手を昇格させている。 海外遠征は、良い経験だがモチベーションアップだけにとどまらず、厳しい環境下の南 米選手との交流で様々な事を感じてもらう。 ☆ 代 表 ・ 強 化 ( メ キ シ コ F A ナ シ ョ ナ ル ト レ ー ニ ン グ セ ン タ ー ) ◇ フ ィ ロ ソ フ ィ ー 良 い 人 間 を 育 て る 事 が 良 い サ ッ カ ー 選 手 に な る と 信 じ て い る 。 良 い 指 導 者 を 育 て る 。 ネ ス ト ー ル デ ラ ト ー レ 氏 メキシコの現状→社会問題(貧困格差、ドラッグ、酒等)・教育問題(中学卒業が60% 程度)→良い人間を育てる事から選手強化に繋げる事が必要 ◇ K E Y W O R D 高 い レ ベ ル で の 競 争 シ ス テ ム の 確 立 協会とクラブの連携により決定 代表招集マストの協定:若くても経験・実力のある選手を育成 ・メキシコズ・ウエイの確立 プリメイラ代表者との会議で、 「身体的・技術的特徴、メキシコのサッカーについて話し 合った」 *メキシコ選手のスタイル ・ 欧 州 に 比 べ て パ ワ ー が 少 な い ・ 器 用 で あ る ・ 持 久 力 が あ る プ レ ー ス タ イ ル の 確 立 ( 協会とクラブの連携でメキシコスタイル確立と練習メニュー の作成) ・ メ キ シ コ F A の 取 組 人間性の重視、確立したサッカースタイルを目指し、個々の選手へのサポート項目の設 定 ① 栄養(選手の食事のケア) ② 個人的成長(勉強、他の言語、パソコンなど) ③ 健康管理(医務、身体に関して) ④ スカウト(国内エリアで技術・戦術とフィジカルの2つの要素から) 4つのエリアの側面からサポートし各カテゴリースタッフと連携を取りながら行う。 代 表 強 化 指 針 ① 代 表 招 集 招集はマストの協定を結ぶ 一人の選手が、年間スケジュールの内、50%以上の日程で招集される。 各クラブの公式戦にも出場できるように平日に召集しキャンプを行っている。 ② コ ー チ の 担 当 カ テ ゴ リ ー コーチは積極的にローテーションされ、多くのコーチが選手に関わることになる。 ローテーションを可能としているのは、同じフィロソフィーを共有しているから。(どの 年代も同じシステム) ② 協 会 と ク ラ ブ の ネ ッ ト ワ ー ク 代表カウンセラーが選手個別プログラム作成子どもに対してのサポート、持続させるた めに、メキシコFAとクラブをネットワークで結び、コンピュータープログラムを管理・ 共有している。 ③ 海 外 遠 征 U‐15∼23の8年間で、300∼400の海外遠征・国内キャンプに参加し 選手へは規律を特に厳しく働きかける ☆ 指 導 者 養 成 ( C E C A P ) コ ン セ プ ト 講 習 と 実 践 の 繰 り 返 し 、 デ ィ ス カ ッ シ ョ ン 形 式 で の 講 習 K E Y W O R D 実 践 力 指 導 者 養 成 コ ー ス ①「 レベル1」 (インストラクター) 250時間(6 ヶ月間) 対象:子ども 教育的観点からモデルを見せて、実践し修正ができることを評価。 ②「レベル2」(トレーナー) 250時間(6 ヶ月間) 対象:ユース テーマに応じてプランニングし、実践し修正ができることを評価。 ③「レベル3」(アシスタントコーチ)250時間(6 ヶ月間) 対象:プロ(コーチ) テーマに応じてプランニングし、実践し修正ができることを評価。 ④「レベル4」(テクニカルコーチ) 250時間(6 ヶ月間) 対象:プロ(監督) 3週間の実践(2週間のトレーニング・1週間のゲーム) 自チームを結成し、プランを立て、トレーニングを実施。3週目は対戦チームを連れて きて、ゲームを実施し、修正を評価。 ・ 講 習 形 態 ① メキシコシティ:1日6H、週2回(15時∼21時)本部 各コース毎週【月火】の2日間と【水木】の2日間のどちらかのコースを選択 ② グアダラハラ:1日4H、週4回(19時∼22時) 実践と学習を繰り返すことが出来るスケジュールが組まれている。 事前準備と振り返りをで、講義や実技では指導現場の実例を上げて講師と受講生が全員 参加型の活気あるディスカッションを可能にしている。 ☆ 普 及 ( プ ミ ー タ ス ) K E Y W O R D あ ふ れ る 笑 顔 全 て の 人 ・ 年 代 が サ ッ カ ー を 楽 し む 環 境 治安が悪く、子どもたちが安心して遊ぶことの出来る場がない。セキュリティが充実し 子どもたちへの健全育成交流に寄与し、定期的に運動をする場を与えることが目的である。 レベルに合わせたチームでプレーすることができ、補欠がいないため、全員がサッカーを 楽しむことが出来る。10・11 歳くらいまでは男女が一緒にプレーしている。それ以降は女 子選手だけでチーム編成を行っている(プミータスの中に 16 チーム) 。女子のみのクラス もあり、また女性コーチも数多く指導に関わっていた。 ・ プーマスとプミータスの関係 元々メキシコ国立自治大学(UNAM)のチームからスタート UNAM の関係者が所属するプミータス(小さなピューマの意味)という健全育成と交流を 目的としたスクール活動 対 象:4歳∼14歳の UNAM 関係者の子ども 構 成:各年代15∼16名で、14チーム編成、選抜チームを持つ 指導者:各チームに1名のモニター(コーチのこと)が担当し、統括するディレクター1 名 月会費:600ペソ(4800円程度) 練習:週1回、2時間、週末は交流戦 活動場所:大学敷地内(大小様々なコートが20面以上) リーグ戦:同じプミータス内でリーグ戦の実施 選抜チームは、市内のリーグ戦に参加 5. まとめ 今回のメキシコ研修で強く印象的な、「協会とクラブの信頼と連携」「良い人間の形成」 という言葉で締めくくりたい。何かを成し遂げるために目標を立てるが、メキシコでは社 会問題や教育問題を避けて通れない事情がある。その為に良いサッカー選手を育てること 以前に「良い人間の形成」が必須なのであり、それを成し遂げるのはクラブ単体だけでは なく、「協会とクラブの信頼と連携」が不可欠なのである。社会的マイナス要素を補うよう なシステムを確立し、着実に成果を挙げるようになるまでには数々の苦い経験から学び、 多くの失敗を繰り返してきたからなのだろう。一口に歴史があるからと言ってしまえば安 易だが、我々もサッカーだけに囚われずに、社会という大きなパイで考える事が重要と学 んだ。 今回、現地の方とたくさん交流する機会を得たが、言葉が通じなくとも情熱を持って接 すれば、人の心は通じるものだと強く感じた。プーマス育成責任者のチャベス氏の最初の メッセージは、2002年日韓ワールドカップにメキシコ代表として来日し福井県でキャ ンプを張った。その際に心温まる歓迎を受けた事に謝意を表し、今回はそのお返しに当た る機会だとコメントされた。まさにサッカーをしていなくともパスが繋がっていると感じ た瞬間でした。 最後に今回の海外研修を企画、スケジュール調整に当たった日本サッカー協会の方々、 快く迎えてくださった現地のプーマス関係者・メキシコサッカー協会・メキシコで交流し た全ての方々に感謝致します。
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