大学生エリートスポーツ・アスリートの育成に関わる

2-12 大学生エリートスポーツ・アスリートの育成に関わ
るコーチングの課題と実践的な多次元サポートの成果
●代表者
西川大輔(体育学科・准教授)
●分担者
松本 恵(体育学科・准教授)
小山貴之(体育学科・専任講師)
野口智博(体育学科・教授)
高橋正則(体育学科・教授)
【研究の目的および概要】
エリートスポーツ・アスリートの育成には多くの課題があるが,競技力を向上させるトレーニングに関わる課題
と,高められた競技力を実際の試合で遺憾なく発揮するコンディショニングに関わる課題に分けて考えることがで
きる。この内,トレーニングに関わる課題についてはスポーツ科学の理論に基づいた様々なトレーニング法が開発
され,競技特性に応じた専門的トレーニングに活用されている。さらに,より効果的なトレーニング方法の開発を
目指して,高度なスポーツ科学の研究が多角的に進められている。これに対し,コンディショニングに関わる課題
をみると,どんなに有効なトレーニングを積んだ選手であっても,試合でその競技力を十分に発揮できるかどうか
を正確に予測することはできない。すなわち,コンディショニングに関していえば,スポーツ科学はまだ発展途上
であり,競技スポーツの実践場面でも,スポーツ科学の知見を十分に活かし切れていないと判断することができる。
そこで,本研究ではエリートスポーツ・アスリートの育成における課題の中から,特に試合で競技力を遺憾なく
発揮するため,どのようなコンディショニングを実施すべきかをスポーツ科学の多面的な観点に立って,検討する
こととした。
本学には国内外の競技会で活躍するトップアスリートが在籍しており,競技スポーツの実践場面で指導者として
の手腕を高く評価される教職員も多く奉職している。また,体育学科にはスポーツ科学に立脚し,競技力向上をサ
ポートしている研究者も多い。アスリートや指導者として,あるいは競技力向上をサポートする研究者として,コ
ンディショニングの知識をスポーツ科学の多くの分野から収集したり,さらに踏み込んで今後,想定される課題を
整理したりすることは正に本学部の特徴を踏まえた課題であり,「 アスリート育成の未来 」 に貴重なヒントを与え
る研究テーマといえる。今回は,研究者の各専門分野からアプローチすることによって,コンディショニングに関
する調査内容を具体的に検討することとした。
【研究の結果】
対象とした研究者の研究分野は,スポーツ栄養学と理学療法学,トレーニング学,スポーツ心理学等とし,具体
的調査対象として本学部に在籍し,国内外の競技会で活躍する大学生スポーツ・アスリートを想定した。
まず,研究対象となるアスリートや指導者に対し,インタビューや質問紙法等により,競技スポーツの実践場面
におけるコンディショニングに関わる課題と現状の対処方法,および今後,想定される課題を調査した。今回は,
ソフトテニス競技を例に取り上げ,今年度(平成 24 年 12 月,広島で開催)の女子日本リーグに赴き,試合前におけ
る選手のコンディショニングに関わる状態等を観察するとともに,選手および指導者に課題等をインタビューによ
り調査した。この試合形式は,ダブルス 2 試合,シングルス 1 試合の計 3 試合のうち 2 勝したチームが勝つといった
団体戦であり,8 チームが総当たりで 3 日間にかけてインドアテニスコート(広島総合体育館)で実施された。
この結果,試合前における身体的コンディショニングは必須で,トレーナーが試合前の時間を見計らいながら
ルーチンとして行っていた。ただし,試合に出場する順番は,作戦上,選手によって異なることから直前のウォー
ミングアップは個別に行っていた。また,興味深い点は試合直前に動機づけビデオによるサイキアップというメン
タルトレーニングの技法を採用していたことである。つまり,個人のコンディショニングにかける時間よりも長い
49
時間を試合前に選手全員で過ごすというように,個人ではなくチームとしての士気を高める行動に比重を置いてい
た点は,この対象となる試合が団体戦であるという特徴を示している。また,選手や指導者からも特に混戦となる
団体戦は,精神的な要素が非常に重要でチーム全体として動機づけ雰囲気が勝敗を左右することが報告された。以
上のとおり,この調査結果とこれまでのスポーツ科学の様々な研究成果に基づき,試合で競技力を遺憾なく発揮す
るための基本的なコンディショニング・プログラムを構築する(仮説の構築)ため,基礎データの蓄積がさらに必
要であることが指摘できよう。
【研究の考察・反省】
コンディショニング・プログラムはフィットネス・トレーニング(傷害のある選手には理学療法やリハビリテー
ション・プログラム)
,スポーツ栄養学,コーチング学,スポーツ心理学等,多岐に渡るスポーツ科学の理論に立
脚しており,これを研究対象となるアスリートのコンディショニングに導入する(実践場面への適用)必要がある
といえる。将来的には,これらのプログラム導入前後にスポーツ生理学,スポーツ心理学,スポーツ栄養学等の客
観的指標によるプレテストとポストテストを実施し,さらに導入中の生理,心理的変化も同様の指標を用いて把握
することが必要であろう。これにより,コンディショニング・プログラム導入の成果を評価すると共に,新たな課
題を明確化し,プログラムの改良を進めることが可能となる。また,得られた結果は全てアスリートと指導者に還
元し,指導者と十分に相談した上で,より効果的なコンディショニング方法をアスリートに呈示する(適用結果の
評価と結果の還元)ことができるようになろう。
今後,学エリートスポーツ・アスリートの育成における多岐にわたる課題の中から,特に試合で競技力を遺憾な
く発揮するため,どのようなコンディショニングを実施すべきかをスポーツ科学の多面的な観点に立って検討する
ための第一段階として,基本的情報をより多く収集する必要があり,特に大学生アスリートを対象に,強化・育成
に関わる様々な環境の現状やこれからの課題を明らかにすることを目的とした調査研究を進める必要が肝要であ
る。そして,それらの結果から,学生生活における住環境や日々のトレーニングおよびコーチングに関する環境,
あるいは栄養や自身に対するケアの方法など,大学生アスリートの現状を知る機会につなげ,コンディショニング・
プログラム作成のための資料としたい。具体例として,調査内容が一過的であるのかあるいは継続した状況である
のかは未だ不透明であり,これらについて突き詰めて検討することは,高められた競技力を実際の試合で遺憾なく
発揮するコンディショニングに関する問題点や課題を明らかにする背景を明示するだけでなく,今後の大学スポー
ツ・アスリートやエリート・アスリートのためのトレーンング等,競技力向上のための施策にも有益な示唆が得ら
れるものと期待される。
【研究発表】
【研究成果物】
日本大学文理学部体育学科桜門体育学研究投稿予定
50