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 平成23年3月11日に発生しました東北
地方太平洋沖地震により被災されました
皆様並びにご関係の皆様には,心よりお
見舞い申し上げます。
皆様のご安全と,ご健康と,一日も早
い復旧を心よりお祈り申し上げます。
目 次
随 想 写真道楽事始−日暮れて道遠し−……………………<岩澤龍彦>…
解 説 シリーズ解説:米の話(第8回)
米の品質(1)玄米品質
登熟期の高温が玄米の品質に及ぼす影響
……………………………………………<山川博幹>…
解 説 シリーズ解説:糖質素材の機能と利用(第7回)
リン酸化オリゴ糖カルシウム(POs-Ca®)
∼オーラルヘルスケアへの応用例を中心に∼
……<釜阪 寛・滝井 寛・小林隆嗣・田中智子>…
連載エッセー:食べもの随想 協騒曲・春らんまん―そよ風・春風・南風―
…………………………………………<田村真八郎>…
海外技術・マーケット情報
ザクロとベリー類(ブルーベリー,ブラックベリー,ラズベリー)との
ブレンドジュースの官能特性・物理化学的特性…………………………
バイオポリマーの堆肥化とリサイクルの問題点………………………………
食品産業におけるナノマテリアルの研究調査報告……………………………
食品包装の最新技術動向…………………………………………………………
抗菌性食品包装を目的とした生分解性フィルムの物理的特性………………
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肺魚のため息 行ってよかった国ぐに,会えてよかった人びと
(1)東の国から従兄弟が …………………<多紀保彦>…
業界トピックス:缶コーヒー 巨大地震の影響は甚大……………………………
特別解説:醗酵食品中の微量成分―豆味噌中の化合物について− …<杉山靖正>…
特別解説:腸管機能を指標とした食品等成分の機能性の探索と評価…<本間知夫>…
技術コーナー:パーシャルオープン蓋……………………………<橋本香奈>…
技術用語解説:射出成形,賞味期限,塩水噴霧試験………………………………
業界の話題………………………………………………………………………………
今月の統計………………………………………………………………………………
最近の技術雑誌から……………………………………………………………………
野菜・果物を巡って(第二十八話)スプラウトを活用する…<吉田企世子>…
FOOD
&
PACKAGING
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彼の長年の写真人生を反映する信念のようであっ
随 想
た。
①他人の作品は過去のものと思うべし,常に新し
写真道楽事始
いものを求めて作品を作るべし。
②写真は時代を表現するものでなくてはならない,
―日暮れて道遠しー
従って現代の最先端を素材とするを理想とする。
過去を素材とするのは愚である。
③自然を対象とする写真もよいが,人間活動を対
象素材として表現する写真を会得すべし,自ず
から自然を表現する写真も向上する。
いわ
さわ
たつ
ひこ
④被写体には更に一歩踏み込んで撮影すべし。
岩 澤 龍 彦
⑤関心を持った被写体はとことん撮影すべし,必
(元水産庁北海道さけますふ化場長)
ず面白い作品ができる。
1.写真教室に入って
⑥撮影に当っては仮そめにもフイルムを惜しむよ
55歳で退職後,閑職になったのを機会に趣味を
うなことがあってはならない。
本格的に始めることとした。長年夢だった趣味に
⑦被写体が人間の場合は相手の同意を得ること,
時間と金をある程度かけることができるようにな
相手の気持ちになって撮影すること。
った。体力も老境に近づいていたがまだまだ自信
E先生は格別熱心だったので人気があり,つい
があった。この機会を逃してはいけないという気
てゆく生徒は多かったが,教え方とアクの強さに
持ちだった。
耐えられず去っていく生徒も少なくなかった。
評判が良いといわれたN文化センターの写真教
生徒達は先生の強い指導もあって怖いもの知ら
室に平成9年4月から入会した。授業は,週1回,
ずで公募展に応募したが,地元の公募写真展に入
土曜日,1時間半であった。
選する生徒も徐々に出てきた。そのうちに,C県
主任講師のE先生は自称写真の大家で,素人の
写真展入選入賞者に教室の生徒が増えて,上位入
時に写真雑誌等に投稿を続けてその道に浮上しプ
賞者も現れるようになった。
ロになった情熱の人物であった。
3.先生との亀裂
E先生の授業は理論より実践で,毎回生徒が持
私の関心は自然の風景を対象とする写真であっ
って来た作品を観て批評し,所定の時間が終って
たが,その理由は人間関係の煩わしさに懲りて花
も生徒の作品が残っているうちは授業を続ける熱
鳥風月の世界に心ゆくまで溶け込みたかったから
心さだった。
でもある。
E先生の写真の観点は「1にピント,
2に狙い」
個人情報の制限や権利意識が突出した現在では,
であり,ピントの悪い写真は写真でない,狙いの
人物写真を撮影する場合は被写体の相手に許可を
不明確な写真は写真に値しない,趣味とはいえ自
得なければならない。人によっては気楽に「写真
己流はダメ,客観的に評価を受けることが上達の
を撮らせてください」が言えるが,人間関係が最
道であるといって生徒の写真を徹底的に叩くのだ
も苦手な私のような者にとってはこれが苦痛なの
った。
だ。
2.E先生に学んだこと
というわけで,私は風景写真中心に撮影してい
E先生が度々授業で述べられた以下のことは,
た。私は仕事もあり,ウイークデーは撮影に行け
食品と容器
198
2011 VOL. 52 NO. 4
なかったが,その分週末にはカメラを持って撮影
なって愛着も深まり,作品も増えT沼の写真コン
に励んだ。しかし遠方への撮影旅行は限られてい
テストで優秀賞を頂いたこともあった。E先生の
たので,家に近いT沼での撮影頻度が多くなりこ
指導どおりに沢山撮影したので良い作品を得るこ
れがホームグランドになってしまった。
とができた。
毎週の写真教室では専らT沼の風景等の写真を
公募のC県写真展には毎年入選するようになっ
E先生に見せていたが,E先生からは,T沼の朝
てある年はとうとう優秀賞を頂けた。手持ちの作
日夕日や白鳥ばかりを対象とせず,もっと人物写
品も増えて個展の開催を示唆してくれる友人もあ
真等素材を広げて撮影するようにとしばしば指導
った。
された。
絵画であれば個展が良いが,写真は個展より写
私が反感を覚えたE先生の生徒の写真に対する
真集を作成して配布して手元に置いてじっくり見
言葉は①「こんな被写体は面白くない」②「これ
て頂いた方が良いし,自分の写真活動の一区切り
では写真展に入選しない」であった。①は個人の
にもなると思い,M印刷会社に依頼して写真集を
感性によるものであるので,E先生といえども妥
自費出版することとした。
当な表現でないと思うようになっていた。
これまで写真展に出品したものを中心に48枚の
4.7 沼写真への執着
写真を選んで写真集を構成し,写真集の書名は「T
T沼は太古の昔から,神秘の沼と言われ,清ら
沼逍遥」とした。M印刷会社のスタッフは丁寧に
かな水を満々とたたえて豊かな生命を育み,魚介
作業してくれたので出来栄えは素晴らしく,出来
類や水鳥は食料として,また,豊かな水資源は灌
上がった写真集を手にした時は作って良かったと
漑用水や水運の基盤として人々の生活を支えてき
しみじみ実感した。
た。
300冊の写真集を印刷して,この内100冊はM印
昭和30年代までに干拓事業で沼の水面は減少の
刷会社がルートを通じて全国の主要な書店で販売
一途を辿ってきたが,最近では,自然の大切さの
することにし,200冊は自分の友人知人へ配布し
方を優先させるべきとの意見が強くなっており,
た。配布した方々からは丁寧なお礼状や感想文が
国民の財産として残された貴重な景勝地の価値が
次々に届き感激した。この手紙は大切に保存して
見直されている。
ある。
T沼が東京の郊外に位置しているため,周囲の
書店で販売されている写真集が気になったので
人口増大に伴う家庭雑排水の流入増加による沼の
東京駅北口のM書店の写真集のコーナーに行って
水質悪化は極まり,27年間にわたり日本一の水質
みたことがあった。数百冊の写真集が書棚に並ん
汚染と言われてきた。しかし,数年前,官民関係
でいる中に自分の写真集を発見するのは時間がか
者の努力が実って,ようやくワーストワンの汚名
かった。大きな立派な写真集に挟まれた我が「T
を返上することが出来た。
沼逍遥」はあまりにも小さくささやかで,自分の
四季折々の自然美や,朝夕に見せてくれる心
写真の程度を物語っているようであった。せめて
を洗うような美しさは,古来秘めてきたT沼の本
も目に付くところに置き直して帰ってきた。写真
性が今だに残っているようである。このT沼の自
を始めていつの間にか15年が経ち,良い仲間に恵
然が蘇えることを祈って撮影を続けるようにな
まれて感謝している。足腰や目の衰えは否めない
った。
が,写真撮影に行きたい場所が増えて夢は山野を
5.日暮れて道遠し
駆け巡る昨今である。
というわけで,T沼の撮影にのめり込むように
食品と容器
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2011 VOL. 52 NO. 4
2011. 4. 1
「缶詰技術研究会」ホームページリニューアルのご案内
4月1日より「缶詰技術研究会」ホームページをリニューアル致しました。
より見やすく,検索機能を追加して,利便性の向上を図っていますので,
本誌とともにご活用ください。
主な追加機能について
1.本誌記事の中でカラーの方が分かりやすい写真や図表について,
ホームページにてカラー写真および図表を掲載
< 本誌 >
< ホームページ >
(カラー図表・写真をHPに掲載)
(本誌○○○ページ参照)
2.旧年度「食品と容器」のバックナンバーを全文掲載
「食品と容器」掲載の論文著作権は,当会に帰属するものであり,
無断掲載をお断り致します。
3.ホームページ内の検索機能を追加
以 上
缶詰技術研究会ホームページ http://kangiken.net/
食品と容器
200
2011 VOL. 52 NO. 4
シリーズ解説:米の話(第8回)
●解説●
米の品質(1)玄米品質
登熟期の高温が玄米の品質に及ぼす影響
や ま か わ・ ひ ろ も と
筑波大学生物学類卒業。
筑波大学生物科学研究科
博士課程修了。(独)農業
・食品産業技術総合研究
機構中央農業総合研究セ
ンター北陸研究センター
研究員を経て現在,同主
任研究員。博士(理学)
山 川 博 幹
こうじ
に硬くなるため,麹菌による糖化が進まず,酒生
●1.はじめに●
産効率が低いことが知られる。この原因も胚乳デ
温暖化の影響でイネの登熟期が高温となり,そ
ンプンを構成するアミロペクチンの質的変化によ
れに伴う玄米品質の低下が近年問題となっている。
りデンプンの老化が早まったためと考えられてい
イネの登熟適温は20∼25℃程度であるが,北日本
る4)。
を除く多くの地域において主要銘柄品種が登熟前
イネはアジア地域を中心に主要な穀類作物で,
期にそれを1∼3℃上回る温度に遭遇している。
ゲノムサイズが比較的小さいため,モデル作物と
日本稲の登熟は26℃以上の高温で阻害され,玄
なっており,わが国もそのゲノム解析に大いに貢
米品質の低下を引き起こす。特に,私たちがご飯
献している。近年のゲノム解析の進展によって,
はい
として食べる胚乳デンプンの蓄積が阻害され,デ
すき
イネの生理反応を包括的に理解することが可能と
1)
ンプン粒の隙間に空気が残り ,光が乱反射する
なりつつある。すなわち,3万個程度存在する遺
2)
ため白濁して見える乳白粒が多く発生する 。乳
伝子の発現を同時に解析できるマイクロアレイや
白粒は精米の過程で割れやすいため,それを多く
さまざまな遺伝子の機能が失われた変異系統など
含む米は等級が下がり(被害のない整粒が70%
豊富な遺伝解析材料が利用可能となっている。本
以下となると2等米となる)
,安価で取引され,
稿では,登熟期の高温が米の品質を低下させる要
また産地のイメージが低下することから,乳白粒
因について,イネゲノム解析から明らかとなった
の低減は生産者にとっては喫緊の課題である。
最新の知見を述べる。
2010年は未曾有の猛暑に見舞われ,西日本を中心
●2.乳白粒の発生−デンプンの
蓄積量の不足●
に1等米比率が低下し,10月末時点の全国比率
で63%となった。さらに,消費者にとっても,
高温条件で登熟した米飯は粘りが少なく3),わが
登熟温度の上昇にともない発生が増加する乳白
国では好まれない傾向がある。特に,日本酒醸造
粒は,胚乳に蓄積されるデンプン粒の形態変化を
においては,高温年の酒米は蒸し上げた後に急速
ともなう。常温で登熟した透明な整粒では胚乳デ
食品と容器
201
2011 VOL. 52 NO. 4
シリーズ解説:米の話
ンプン粒は隣接する粒どうしが密着し多角形の複
べられたところ,デンプンを盛んに合成している
粒構造をなすが,高温で発生する乳白粒の白濁部
登熟前半の乳熟期の穂が高温に曝されたときに乳
分では,デンプン粒の発達が不充分で隙間に空間
白粒が多く発生することが明らかとなったの
が残り,球形の単粒構造をとる。このためデンプ
で10),11),この時期の登熟途中の米粒において高
ンの蓄積が阻害されていると考えられるため,高
温が全遺伝子の発現に及ぼす影響についてマイク
温がデンプン合成に及ぼす影響が調べられた。米
ロアレイで網羅的に解析された(トランスクリプ
の60∼70%を占めるデンプンはグルコースが連
トーム解析という)3)。その結果,登熟温度の上
結した高分子炭水化物であるが,主に直鎖からな
昇にともない,種子に貯蔵されるデンプンおよび
るアミロースと枝分かれ構造を含むアミロペクチ
タンパク質の合成・代謝にかかわる多くの遺伝子
ンで構成される。登熟期の高温によって,アミロ
の発現量が変動した。また,熱ストレスに応答す
ースの合成を担うデンプン粒結合型デンプン合成
るシャペロンタンパク質や酸化還元酵素の遺伝子
酵素(GBSS)およびアミロペクチンの枝分かれ
発現が上昇した。特徴として,デンプン粒結合型
を作るデンプン分枝酵素(BE)等のデンプン合
デンプン合成酵素 I (
さら
成にかかわる酵素の活性が低下し
5),6)
,実際に
素IIb(
3),5),7)
,アミロペクチンの
アミロース含量が低下し
)等のデンプン合成関連酵素,デ
ンプン合成のための材料ADP-グルコースを産生
3), 8),9)
分枝構造が変化することが明らかとなった
)やデンプン分枝酵
。
す るADP-グ ル コ ー ス ピ ロ ホ ス ホ リ ラ ー ゼ
部位別,登熟時期別に高温に対する感受性が調
(
)
, お よ びADPSUT1 0.72
GBSSI
BEI
0.82 SSI
BEIIb 0.59 SSIIa
ISA1 0.94 SSIIIa
PUL 0.83
0.50
1.25
0.87
0.90
ADP
UDP
UDP-Glc
BT1-2
0.70
ADP-Glc
PPi
AGPL1 1.03
AGPS1 0.67
Amy1A
2.43
Amy3D Glc-1-P
2.29
Amy3E
2.26
Glc-6-P
SuSy2 0.58
SuSy3 0.81
ATP
PPi
UGP 0.95
Glc-1-P
ADP-Glc
PPi
UTP
AGPL2 0.74
UDP
AGPS2b 0.64
Glc-1-P
Glc-6-P
GPT1
0.66
ATP
Fru-6-P
Pi
PGI-a 0.84
PGI-b 0.91
1,6-FBP
PPDKA 1.26
cyPPDKB 0.43
Triose-P
PPi ATP
PEP
PKc
第1図 登熟期の高温がデンプン代謝関連遺伝子の発現レベルに及ぼす影響。
高温区(昼温33℃/夜温28℃)/対照区(昼温25℃ /夜温20℃)の比を表わす
食品と容器
202
2011 VOL. 52 NO. 4
米の品質(1)玄米品質
グルコースをデンプン合成・蓄積の場となるアミ
糖リン酸,有機酸等の解糖系/TCA回路構成物
ロプラストへ運び入れる輸送体(
)の遺伝
質が減少することが明らかとなった15)。これらの
子の発現が高温条件で低下した(第1図)
。これ
代謝物質量の変動と,上述のマイクロアレイ解析
に対して,デンプンを加水分解する酵素,α-ア
において明らかとなった関連代謝酵素の遺伝子の
ミラーゼ(
)の遺伝
発現の変化を統合することによって,次のような
子の発現が高温によって上昇した。実際に,高温
代謝的な特徴が明らかとなった。登熟期の高温に
登熟によって発生した乳白粒の白濁部位に含まれ
よって,茎葉より転流されてくるスクロースの胚
,
,
1)
るデンプン粒の表面には小孔が確認されており ,
乳細胞への取り込みおよびその後の単糖への変換
デンプンの後発的な分解が示唆される。以上のこ
が阻害され(スクロース輸送体,スクロースシン
とから,遺伝子の発現レベルでも,高温によって
ターゼ,インベルターゼ遺伝子の発現が低下),
デンプンの合成が抑制され,分解消費が促進され
ま た, デ ン プ ン 合 成 が 抑 制 さ れ る(
ることが明らかとなり,これらが合わさりデンプ
,
等のデンプン合成関連遺伝子の発現低下)
。
ンの蓄積不足を引き起こしていると推察される。
これに対して,デンプン分解が促進される(α-
一方,二次元電気泳動を用いてタンパク質レベル
アミラーゼ遺伝子の発現が上昇)
。さらにエネル
での網羅的解析(プロテオーム解析)も行われて
ギー生産にかかわる電子伝達系において,エネル
おり,登熟期の高温によって,GBSSI,アレルゲ
ギー物質ATPの生産能力が低下する(チトクロ
ン様タンパク質,タンパク質合成にかかわる翻訳
ームc酸化/還元酵素,H+輸送共役ATPアーゼ等
伸長因子が減少し,熱ショックタンパク質が増加
のチトクローム呼吸鎖構成要素の遺伝子の発現低
12)
した 。熱ショックタンパク質は酵素等が熱によ
下)。実際に高温条件では,登熟途中米に含まれ
って変性し失活するのを防ぐと考えられている。
るATPの量が減少することが示されている16)。デ
また,玄米に蓄積される種子貯蔵タンパク質では,
ンプンの合成は大量のATPを必要とするので,
分子量が13kDのプロラミンが高温条件下で減少
上記の変化が複合的に作用して,デンプンの蓄積
3),13)
することが明らかとなった
。
が阻害され,乳白粒を生じると考えられる。
さらに,高温に曝された登熟途中米および完熟
それでは,どの遺伝子が高温登熟条件における
玄米について,デンプン合成の前駆物質の糖代謝
乳白粒の発生の原因なのだろうか。これまでに行
関連物質の網羅的定量解析(メタボローム解析)
われた変異系統の解析や量的形質遺伝子座
が行われた。糖代謝物質の大部分はイオン性であ
(QTL)解析等の遺伝解析の結果から,いくつか
るため,イオン性物質の分解能に優れるキャピラ
の候補遺伝子が示唆される。高温で発現が低下す
リー電気泳動に質量分析計を接続したCE-MSシ
る種々の遺伝子のうち,デンプン合成にかかわる
ステムを用いることによって,解糖系やTCA回
および
,糖代謝にかかわるピルビン
路を構成する大部分の糖リン酸および有機酸のほ
酸オルソリン酸ジキナーゼ(
かに,アミノ酸やヌクレオチドについても高感度
は,その遺伝子の機能が欠失した変異イネは,登
にかつ再現性よく同時定量することが可能であ
熟温度にかかわらず,胚乳が糯あるいは粉質状に
る14)。本システムによる分析から,高温に曝され
なった乳白粒を生じる17), 18)。これに対して,高
た登熟途中米および完熟玄米でスクロースやアミ
温条件で発現が上昇する遺伝子のうち,デンプン
ノ酸が増加すること,登熟途中米で高温によって
分 解 酵 素α-ア ミ ラ ー ゼ 遺 伝 子(
)について
もち
食品と容器
203
2011 VOL. 52 NO. 4
,
シリーズ解説:米の話
作るタイプの
)は,組み換え技術を用いて米粒で強発
の発現が顕著に低下するが,
側 鎖 の 伸 長 を 担 うSS遺 伝 子(
現させると,高温に曝されなくても,乳白粒と
19)
,
,
なる 。高温条件で起きるこれらの遺伝子の発現
)の発現は登熟温度による影響を比較的受
の変動が協調的作用して,乳白粒の発生を促して
けにくい(第1図)
。このため,相対的に長鎖の
いると考えられる。また,乳白粒の発生程度には
多いアミロペクチンとなると考えられる。実際に
イネの品種間で明確な違いがあるが,その違いを
遺伝子の機能を欠失する変異イネの玄米は,
決めているゲノム染色体領域を明らかにする
長鎖に富み短鎖が極めて少ないアミロペクチンを
QTL解 析 が 行 わ れ て お り, 実 際 に
蓄積し,糊化温度が高い17)。従って,
,
,
,
をそれぞれ含む領域に,
の発
現の低下が,高温登熟米の飯の硬化の要因である
と考えられる。
乳白粒の発生程度を決めるQTLが存在すること
20)
が明らかとなっている 。
●4.今後の展望●
●3.米飯の硬化-デンプンの
質的変化●
上述のように,イネゲノム解析の進展によって,
温暖化による玄米品質の低下の生理メカニズムが
高温条件で登熟した米は,炊飯後に硬くなるの
遺伝子レベルで明らかとなりつつある。しかしな
が早いことが知られている。炊飯後しばらく放冷
がら,乳白粒の発生は茎葉からの同化産物の供給
した冷飯の硬さは,デンプンを構成する,枝分か
の不足によって助長されるなど,その発生生理は
れ構造をもつアミロペクチンの枝(側鎖という)
極めて複雑である。メカニズムの全貌を解明し,
の長さと関係がある。すなわち,短い枝(短鎖)
温暖化でも米の品質が低下しないイネを作出する
が少なく長い枝(長鎖)が多いアミロペクチンか
ためには,本研究において同定された鍵となる候
らなる米は,デンプンの糊化温度が高く老化が早
補遺伝子について,各遺伝子の機能を欠失あるい
ぼう
かぎ
21)
22)
く ,冷飯が硬くなる 。高温で登熟した米に含
まれるアミロペクチンは長鎖が多く
は改変したイネを用いて,これまで以上に徹底的
3),8),9)
,こ
な解析が望まれている。
のことが米飯硬化による食味の低下を引き起こす
謝辞
要因と考えられる。
アミロペクチンの側鎖の構造は,新しい側鎖を
本研究は,農林水産省新農業展開ゲノムプロジ
つくるデンプン分枝酵素(BE)の働きと,作ら
ェクト(IPG-0020)の支援で行われた。本研究に
れた側鎖を伸長する可溶性デンプン合成酵素
おいて協力してくださっている羽方誠,宮下朋美,
23)
(SS)の働きのバランスによって決定される 。
各博士に感謝します。
登熟期の高温によって,BE遺伝子,特に短鎖を
参 考 文 献
1)Zakaria S, Matsuda T, Tajima S, Nitta Y(2002)
Effect of high temperature at ripening stage on
the reserve accumulation in seed in some rice
cultivar.
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食品と容器
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204
2011 VOL. 52 NO. 4
米の品質(1)玄米品質
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ripening in rice plant. II. Ripening of rice grains
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in rice plants: analysis of the effects of high night and
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12)Lin SK, Chang MC, Tsai YG, Lur HS (2005)
Proteomic analysis of the expression of proteins
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13)Lin CJ, Li CY, Lin SK, Yang FH, Huang JJ, Liu YH,
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grain filling on the accumulation of storage proteins
and grain quality in rice(
L.).
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食品と容器
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Simultaneous determination of the main metabolites
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205
2011 VOL. 52 NO. 4
シリーズ解説:糖質素材の機能と利用(第7回)
◆解説◆
リン酸化オリゴ糖カルシウム(POs-Ca®)
∼オーラルヘルスケアへの応用例を中心に∼
江崎グリコ株式会社
健康科学研究所
マネージャー
釜阪 寛
研究員
滝井 寛
研究員
小林隆嗣
研究員
田中智子
カルシウム素材の開発を目指して,リン酸化オリ
◆1.リン酸化オリゴ糖カルシウム
(POs-Ca®)とは◆
ゴ糖をカルシウム塩の形で回収し,POs-Ca® を
得た。POs-Ca® の最大の特徴は高水溶性である
リ ン 酸 化 オ リ ゴ 糖 カ ル シ ウ ム;Phosphoryl
ことである。その溶解性は一般的なカルシウム剤
®
Oligosaccharides of Calcium(POs-Ca ・ ポ ス
として利用されているリン酸一水素カルシウムや
しょでん
カ)は馬鈴薯澱粉から調製された新規カルシウム
炭酸カルシウムが室温で水にほとんど溶解しない
素材である。澱粉に結合リンが含まれていること
のに対して,POs-Ca® は 70%以上溶解する。そ
は,古くから知られていた。特にイモのように地
のため唾液に浸透しやすいのである。さらに糖質
下に蓄えられる澱粉の結合リン含量は高い 1)。
ながらむし歯の原因菌であるミュータンス連鎖球
我々は馬鈴薯澱粉から,ブドウ糖や異性化糖を製
菌の餌にならないことや,pH 低下やプラーク形
造(糖化)する時の澱粉分解酵素の未消化画分に
成の栄養源にならないことから,POs-Ca® はオ
注目し,リン酸エステル結合を含むグルコース残
ーラルケアにおいて利用価値の高い新規カルシ
基周辺がオリゴ糖として残存していることを見い
ウム素材である可能性が考えられた。
だ
えさ
2)
だした 。リン酸化オリゴ糖の主な構成糖は,マ
◆2.糖質とむし歯◆
ルトトリオース,マルトテトラオースおよびマル
古来より,砂糖(ショ糖)は人々の食生活(文
トペンタオースのオリゴ糖分子内に1分子のリン
3)
酸基を有する構造をとっていた ,(第1図)。
化)を豊かにしてきた糖質の一つである。一方で,
従来より,オリゴ糖は整腸作用等を中心に機能
砂糖はむし歯を生みだす原因の代表的糖質でもあ
が研究開発されてきた。今回紹介するリン酸化オ
り,砂糖の歴史イコールむし歯の歴史と言っても
リゴ糖は,リン酸エステル基を有する酸性オリゴ
過言ではない。その歴史は古く,紀元前 2000 年
糖であり,カルシウムなどの金属イオンと複合体
以上前に遡 る。大英博物館に展示されているミ
を形成しやすい特徴を有している。江崎グリコ
イラにもむし歯治療の痕 跡が確認される。特に
(株)と王子コーンスターチ
(株)では,高水溶性の
16 世紀以降,砂糖の量産化と流通が世界規模で
さかのぼ
こん
食品と容器
206
2011 VOL. 52 NO. 4
リン酸化オリゴ糖カルシウム(POs-Ca®)∼オーラルヘルスケアへの応用例を中心に∼
拡大するとともに,むし歯は飛躍的に広がり,身
ためには,健全な歯の維持は必須である。実際,
近なものとなった。しかしながらここ 20 年,歯
国家レベルではすでに厚生労働省が「21 世紀に
磨回数の増加,歯磨き剤(歯磨き粉)へのフッ素
おける国民の健康づくり運動」に歯の健康を盛り
添加率の向上等により,その数は改善傾向にあ
込み,「80 歳まで 20 本の歯を保つ」ための取り
4.5)
。特に食生活において,菓子類に使用され
組み= 8020(ハチマルニイマル)運動を展開し
ていた砂糖の多くが糖アルコールに代表されるよ
ている。このような状況下で本稿では,カルシウ
うな代替甘味料に置き換わり,食生活におけるむ
ム新素材である POs-Ca® の,オーラルヘルスに
し歯のリスクも大幅に改善されてきている。特に
関する機能性研究から POs-Ca® を活用したガム
ガム市場はシュガーガムからシュガーレスガムへ
の効果効能の検証,商品化までを紹介する。特に
と移行し,むし歯の原因になる食品からお口の健
最新の研究では,POs-Ca® の含有するカルシウ
康を考えた食品へと 180 度趣を異にしている。
ムの初期むし歯に対する効能は,歯エナメル質の
消費者も「ガムはシュガーレスだから,むし歯に
結晶構造レベルまで影響を与えることが判明して
ならないお菓子」という認知が一般的となってき
おり,食品ながらその機能性は侮り難いところま
た。しかし残念ながらむし歯そのものを撲滅する
できている。ぜひ,本稿でその機能性を紹介した
までには至らず,いまだ健康な歯の維持増進取り
い。
る
組みは重要課題である。特に急速な高齢化社会が
しょく
◆3.初期むし歯(初期う蝕)とは◆
進む日本において,一生涯おいしいものを食べて
むし歯はその形成過程から,初期むし歯(初期
健康な生活の質(Quality of life: QOL)を保つ
第1図 リン酸化オリゴ糖主成分の構造図
食品と容器
207
2011 VOL. 52 NO. 4
シリーズ解説:糖質素材の機能と利用
う蝕)とむし歯(う蝕)に分けられる。つまり,
見て穴が開いてない状態)
,歯エナメル質の内部
こう
ショ糖(砂糖)などの摂取により歯垢細菌が産生
のミネラルが失われている状態が「表層下脱灰病
する酸に歯エナメル質が長期間さらされた結果,
変」といわれ,一般的に「初期う蝕」や「初期む
エナメル質表面の表層下からカルシウムとリン酸
し歯」と呼ばれる。あるいは,視覚的な見え方か
が唾液中に溶けだすこと(脱灰)からむし歯は始
ら「ホワイトスポット」や「白斑」とも呼ばれる
まる。視覚的な実質欠損を伴わず(つまり,目で
(第2図)
。これに対して初期むし歯からさらに
はん
進行し,目で見て穴が開いている状態になったも
のが,一般的に知られている「むし歯(うか形成
う蝕)」である。両者の決定的な違いは,その状
態が可逆的か不可逆的かどうかである。つまり,
初期むし歯は失ったミネラルを唾液から取り戻し
(再石灰化)
,もとの健全な状態への回復が可能
第2図 ヒト歯エナメル質にみられる白斑
(東京医科歯科大学 北迫勇一助教提供)
(カラー図表をHPに掲載 C001)
である。一方で実質欠損を形成したむし歯は,唾
液自身の力でもとの状態への回復は望めないため,
治療が必要となる。そこで我々は食品を活用して,
初期むし歯の段階で効率的にミネラルを唾液に供
給し,唾液の有する再石灰化効果を手軽に促せる
ような食品が作りだせないかと考えて,再石灰化
促進ガムの研究開発に取り組んだ。
◆4.初期むし歯に対する
「POs-Ca®」効果◆
むし歯を防ぐ第一に有効な方法は,歯垢内 pH
を中性に保つことである。しかし,ヒトは砂糖や
澱粉のような炭水化物を摂らずに生きることはで
きないため,飲食の度に歯垢内 pH は,第3図の
ようにステファンカーブと呼ばれる pH 変動を示
し,歯エナメル質が溶けるリスクが発生する。そ
こで歯エナメル質をむし歯へ進行させないための
一つの有効手段として飲食後の酸の生成を減らす
ことが挙げられる。例えば,砂糖の代わりにマル
第3図 歯の表面に付着している歯垢内のpH変化を
示したグラフ
(カラー図表をHPに掲載 C002)
赤いゾーンでは,プラーク内pHの低下により,う蝕の
危険性が高まっている。青いゾーンでは,唾液の力に
よりう蝕の危険性が低くなっている。AパターンとBパ
ターンを比べると,間食回数の多いBパターンの方が赤
いゾーンが多いため,う蝕になる危険性が高くなる。
食品と容器
チトールやキシリトールのような糖アルコールの
代替甘味料を利用した食品は,歯垢内細菌が産生
する酸を低減させることができる。それ以外にも
積極的にアプローチする手段として,初期むし歯
で失ったエナメル質のミネラルを唾液に補給し,
208
2011 VOL. 52 NO. 4
リン酸化オリゴ糖カルシウム(POs-Ca®)∼オーラルヘルスケアへの応用例を中心に∼
歯エナメル質に戻す働き(再石灰化)を促すこと
とリン酸(P)からなる物質であるというだけで
で健全状態を維持する方法がある。つまり,おい
なく,ハイドロキシアパタイト(HAp)という
しい物を食べたとしても,飲食時に失われたカル
結晶物から構成されており,これによって歯の硬
シウムを食後に速やかに補えばむし歯への進行を
さが維持されている。この HAp 結晶はエナメル
食い止められる可能性があるのである。唾液の働
小柱と呼ばれる構造を形成し,歯の噛む方向に垂
きが重要となる。特に唾液に溶けるカルシウム成
直に配列している7)。これは噛む方向への歯の強
分を補うことが大切である。実は歯エナメル質の
度を作り出し,摂食行動に対して合理的な構造と
カルシウムは唾液からしか再補給することができ
なっている8)。実際,歯エナメル質は体の中で最
ない。ところが一般的なカルシウム剤の中には,
も硬い組織であり,その硬さは石英相当である9)。
胃液のような強酸で溶けることができても,唾液
そこで我々は,初期むし歯で失ったカルシウムと
のような中性では溶けにくい素材が多い。また中
リン酸イオンを歯エナメル質に補給して,再石灰
性条件下でリン酸イオンがあるとリン酸−カルシ
化を促進しやすい口内環境を整えようと考えた。
ウム沈殿を形成してしまい,歯に浸透し難くなる
唾液成分を詳細に調べると,歯エナメル質の組成
場合も多い。一方,我々が研究開発したカルシウ
と比べリン酸は豊富である一方でカルシウムは少
か
®
ム素材「POs-Ca 」は,高水溶性カルシウム素
ない特徴があり,Ca/P モル濃度比として 0.5 以
材であり(第4図)
,かつ中性条件下でもカルシ
ウムとリン酸をイオン化した状態で維持すること
ができる。そのため,初期むし歯で失われたミネ
ラルを補給するのに十分なカルシウムイオンを唾
液中に溶かしこむことを可能にする。その結果,
唾液中のリン酸とカルシウムの濃度について,歯
のエナメル質と同等である Ca/P モル濃度比率
1.67 に調整することが可能となった(第5図参照。
5)
メカニズムは後述) 。以上のことから,POs-
第4図 食品に用いられる一般的なカルシウム剤の
水溶性評価 各溶液はカルシウム濃度として700 mg/dLに調整
Ca® は初期むし歯において非常に有効な素材で
ある可能性が考えられた。そこで,実際に,POs-
Ca® を配合したガムを作製し,その商品における
ᵡᵿᵍᵮᴾᶐᵿᶒᶇᶍ
初期むし歯に対する効果をヒト口腔内で検証し
た。結果,プラセボ(POs-Ca® 非配合シュガー
レスガム)に比べて,POs-Ca® 配合のシュガー
レスガムは,初期むし歯の再石灰化を有意に促進
こう
させることをヒト口腔内試験で確認した5,6)。
21U%CᣐӳǬȠ
◆5.初期むし歯の再石灰化と
再結晶化◆
21U%C᩼ᣐӳǬȠ
第5図 POs-Ca®配合ガムと非配合ガムについて,
2粒10分咀嚼した唾液のCa/Pモル濃度比率
Means±SD, n=8
実は,歯エナメル質は単にカルシウム(Ca)
食品と容器
209
2011 VOL. 52 NO. 4
シリーズ解説:糖質素材の機能と利用
下であった。歯エナメル質の Ca/P 構成比率は
比率である 1.67 に近づけ,歯エナメル質結晶の
1.67 であることから,歯エナメル質のそれに対し
再構築を促せる施策とした。ところが従来,初期
てカルシウム濃度は十分でなかった。そこで我々
むし歯の再石灰化評価に用いられている方法は歯
®
は水溶性の高いカルシウムである POs- Ca を付
エナメル質薄片のマイクロラジオグラフ(第6
加して唾液中のカルシウムイオン量を増やすこと
図・レントゲン写真から得られるミネラルプロフ
で,唾液の Ca/P 濃度比率を歯エナメル質の構成
ァイル)から算出されるミネラル回復量を見る評
SOUND
REM
Mineral volume (vol.%䡡䃛䡉)
価法である。この方法
DEM
ではミネラルの回復量
90
SOUND
80
を 測 定 で き る 10) が,
70
結晶構造の情報,つま
60 REM
り結晶の変化を得るこ
50
とができなかった。し
40
かし結晶構造の情報こ
DEM
30
20
そ,歯の強度の源にな
10
っているため重要であ
0
0
100
200
Depth (䃛䡉䠅
300
400
第6図 脱灰とPOs-Ca®により初期むし歯部位が再石灰化された時のTMR画像ならびに
ミネラルの出入りを捉えたミネラルプロファイル。
DEM:初期むし歯部,REM:再石灰化部,SOUND:健全部
る。 そ こ で 我 々 は
POs-Ca® に よ り 再 石
灰化された初期むし歯
が,健全な歯の結晶構
造まで取り戻すことが
できているのかどうか
(100)
について検証すること
を試みた。近年,電子
SOUND
SOUND
顕微鏡等の技術進歩に
より局所的な微細部の
REM
結晶構造観察は容易に
REM
DEM
なった。しかし,初期
むし歯が形成される数
百μm 程 度 の 領 域 で
起こる結晶の変化量や
配向性を定量的かつ厳
DEM
密に評価することはで
き な か っ た 11)。 微 細
第7図 脱灰とPOs-Ca®により初期むし歯部位が再石灰化された時の広角X線回折の測定
画像ならびにアパタイト結晶の出入りを捉えたアパタイトプロファイル。
DEM:初期むし歯部,REM:再石灰化部,SOUND:健全部
な結晶構造の解析によ
く用いられているのは
X 線回折法であるが,
食品と容器
210
2011 VOL. 52 NO. 4
リン酸化オリゴ糖カルシウム(POs-Ca®)∼オーラルヘルスケアへの応用例を中心に∼
微小領域の結晶量を精度高く測定するためには,
化および再結晶化は,けがや頭痛が治るのと同じ
用いる X 線について厳密に直線性が保たれた高
ように,その変化を実感することができない現象
強度の極細マイクロビームが有効であると予想し
であるため,商品のもつ効能が消費者に伝わりに
た。そこで財団法人高輝度光科学研究センター
くい。また,一般的に食品の効果効能訴求は薬事
(JASRI)の有する世界最高性能の大型放射光
法の縛りを受けることとなり,消費者に直接伝え
施設 SPring-8のビームを用いるこ
とで,このような条件のビームを作
り出すことができた。髪の毛よりも
細い約6μm のサイズに絞り込ん
だX線マイクロビームを調整できた
ことで,歯の横断面に対して,エナ
メル質表面から脱灰深部へ向けて5
μm ステップごとに移動照射させ,
その X 線回折の強度で,結晶量の
評価を行った(第7図)12,13)。結果,
POs-Ca® で再石灰化した部位は,健
全歯と同じ配向性をもったハイドロ
キシアパタイトとして回復している
ことが判明した(第8図)
。本効果
は POs-Ca® 配合ガムを用いたヒト
口腔内試験でも確認されている5)。
◆6.歯を健康で丈夫にする
特定保健用食品の許可取得へ◆
機能性食品の最大の課題は,いか
にその効果効能を消費者へ伝えるか
ということである。特に,POs-Ca®
配合ガムによる初期むし歯の再石灰
第8図 POs-Ca®による再結晶化効果のイメージ図
(カラー図表をHPに掲載 C003)
第1表 POs-Ca配合ガムの特定保健用食品の許可表示
商品名
ポスカム
(江崎グリコ)
デントウェルポスカ
(大正製薬)
ポスカ
(江崎グリコ)
食品と容器
許可表示内容
本品は,リン酸化オリゴ糖カルシウム(POs-Ca)を配合しているので,
口内を歯が再石灰化しやすい環境に整え,歯を丈夫で健康にします。
本品は,リン酸化オリゴ糖カルシウム(POs-Ca)を配合しているので,
口内を歯が再石灰化しやすい環境に整え,歯を丈夫で健康にします。
初期むし歯(初期う蝕)は脱灰からはじまります。
本品は,リン酸化オリゴ糖カルシウムを配合しているので,カルシウム
イオンが歯に浸透して脱灰部位が再石灰化と再結晶化しやすい口内環境
に整え,丈夫で健康な歯を保ちます。
211
表示許可日
H15.1.21
H20.2.8
H22.9.30
2011 VOL. 52 NO. 4
シリーズ解説:糖質素材の機能と利用
ることはできない。しかし,食品で唯一,効果効
性評価試験,長期摂取による安全性評価試験,効
うた
能を謳うことを許される制度がある。それが健康
果の主体である関与成分の安全性,安定性評価試
増進法に基づく「特定保健用食品(トクホ)
」の
験など多岐にわたる資料にまで及ぶ。審査を経て
®
制度である。そこで,POs-Ca 配合ガムを用いた
許可が下りた暁には,許可された表示内容に基づ
ヒト口腔内試験を実施し,トクホの表示許可申請
いた健康上の効果・効能を製品に表示することが
を消費者庁に行った。申請内容は,ヒトでの効果
できる。今回,我々は第1表に示すような許可表
効能試験に関する資料にとどまらず,製品の安定
示を得ることができた。
◆7.ガム製品パッケージの
利便性の追及◆
市販のガムはボトルやパウチ等の大容量タイ
プ以外は多くが一つずつ個包装され,スティック
状に包装されて販売されている。例えば,包み紙
む
を剥くのが面倒であったり,かばんの中でガム粒
が散乱してしまった経験はないだろうか。歯の健
康のためには,飲食後を含めて,毎日の生活の中
でこまめなガム摂取を推奨したい。そこで我々は
ガムの機能性だけでなくパッケージの利便性にも
着目した。そこで,簡単にガムを取り出せて,持
ち運びに便利でストレスを与えない形態のパッケ
ージを考案した。それが第9図に示す「フラット
第9図 商品パッケージ(カラー図表をHPに掲載 C004)
スタイル」というデザインである。ガムが散らば
㪌㪇
㪌㪇
*
*
ౣ⚿᥏ൻ
ൻ₸ 䇭㩿㩼㪀
ౣ⍹Ἧൻ
ൻ₸䇭㩿㩼㪀
㪋㪇
㪋㪇
㪊㪇
㪉㪇
㪊㪇
㪉㪇
㪈㪇
㪈㪇
㪇
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㪧㪦㫊㪄㪚㪸㈩ว䉧䊛
㪧㪦㫊㪄㪚㪸㈩ว䉧䊛
㪧㪦㫊㪄㪚㪸㕖㈩ว䉧䊛
㪧㪦㫊㪄㪚㪸㕖㈩ว䉧䊛
第10−A図 POs-Ca®配合ガムの再石灰化効果
第10−B図 POs-Ca®配合ガムの再結晶化効果
ヒト口腔内試験において,POs-Ca®配合ガムあるいはPOs-Ca®
ヒト口腔内試験において,POs-Ca配合®ガムあるいはPOs-Ca非配
非配合ガムを1回2粒,1日3回,14日間咀嚼した場合の初期
合ガムを1回2粒,1日3回,14日間咀嚼した場合の初期むし歯にお
むし歯の再石灰化効果をTMRにより得られたミネラル回復率
けるハイドロキシアパタイト結晶回復率を放射光を用いた広角X線回
で評価した。Means±SD, n=10, *;
折より計測,評価した。Means±SD, n=10, *;
食品と容器
< 0.05.(t 検定)
212
< 0.05.(t検定)
2011 VOL. 52 NO. 4
リン酸化オリゴ糖カルシウム(POs-Ca®)∼オーラルヘルスケアへの応用例を中心に∼
らないようにチャック付きになっており,捨て紙
について,
「歯に悪くないガム」というレベルで
ポケットも備えて環境にも配慮している。
認識していた人々に対し,実はむし歯になりにく
いだけでなく,健康な歯エナメル質と同じ結晶構
◆8.まとめ◆
造を取り戻す,つまり再結晶化を促進する「歯の
昔,ガムはシュガーガムであり,むし歯の原因
健康に積極的に貢献できるガム」という認識へ刷
になる食べ物というイメージがあった。近年は,
新するに十分な証拠といえる。さらに,本エビデ
マルチトールやキシリトールのような糖アルコー
ンスをもとに,POs-Ca® 配合ガムの特定保健用
ルの代替甘味料の登場により,多くのガムがシュ
食品(トクホ)の表示許可を得た(第1表)
。我々
ガーレスガムへと移行し,ガムは歯に悪くないと
江崎グリコ
(株)では大正 11 年の創業以来「おい
いう概念が浸透してきている。しかし,代替甘味
しさと健康」という企業理念の下,国民の健康の
料はあくまでむし歯の原因とならない甘味料に過
向上に役に立ちたいという創業者の気持ちを受け
ぎず,濃度依存的にその効果が得られるものでは
継ぎ,企業活動を進めている。特にヒトは,頭脳
ない
14)
。そこで本研究では,唾液に溶けやすい
で理論的に考えることと同時に,五感により「楽
®
カルシウム素材「POs-Ca 」を用いて,初期む
しさ」「おいしさ」を感じとり,毎日の食生活を
し歯部位に効果的にカルシウムを浸透させ,再石
はじめとする生活全般を豊かにしている。高齢化
つな
灰化を促進させるガムの研究開発に繋げた。その
社会を迎えた現在,人々はいつまでも自分の歯で
結果は,単に再石灰化促進を促した(図 10-A)
何でも食べて,健康な生活をより長く続けたいと
だけでなく,健康なヒト歯エナメル質を構成する
いう思いを抱えている。我々は今後も,ポスカ
同じカルシウム結晶であるハイドロキシアパタイ
のように「情緒面に対するおいしさ」と「確か
トの構造をその配向性を含めて取り戻せることを
なエビデンスに基づいた健康機能」の両方を兼ね
定量的に 測 定 す る こ と に 初 め て 成 功 し た( 第
備えた商品を研究開発し,多くの人々に届け続け
10-B 図)
13)
。この事実は,今までガムの効果
たいと考えている。
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(1994)
213
2011 VOL. 52 NO. 4
食べもの随想 協騒曲・春らんまん
―そよ風・春風・南風―
た
むら
しん
ぱち
ろう
田 村 真 八 郞
(元農水省食品総合研究所長)
「…春よ春 春らんまんの ロ−マンス…」こ
にムラサキ 春の色…」
「…そよ風が 僕にくれた
れは今ではもう大昔というか,100年も前の無声
スバラシイ この恋を いつまでも いつまで
映画時代,活弁の話はじめのセリフだそうです。
も 忘れられない いつまでも…」
「…春のウララ
ずいぶんいい加減で,出てくる悪人は全てロバー
のスミダ川 上り下りの 舟人が…」
「…ラララ トだったということです。
赤い花束 車に積んで 春がきたきた 村から町
でも何といっても春は待ち遠しいものです。
「…
へ スミレ買いましょ あの花売りの 若いヒト
春はただ ひとえに花の 咲くばかり 物のあわ
ミに 春の色…」
「…スミレの花 咲く頃 はじめ
れは 秋ぞまされる…」と言われようと,「…冬
て恋を知りぬ…」
「…咲いた咲いた チューリップ
来たりなば 春 遠からじ…」となぐさめられ
の花が 並んだ並んだ 赤・白・黄色 どの花見
ようと,暖かい春,らんまんの春の到来は待たれ
ても きれいだな…」
「…スミレ タンポポ レン
ます。以下は出所も文の形も,支離滅裂,無茶苦
ゲ草 三色そろって きれいです…」
「…開いた ●
茶な春らんまんのオンパレード,協騒曲春らんま
開いた レンゲの花が 開いた…」
「…春の小川は
んと題したユエンです。
さらさら流る 岸のスミレや レンゲの花に 「…囲炉裏のはたで 衣ぬう母は 春の遊びの
においやさしく 色美しく 咲けよ咲けよと さ
楽しさ語る…」
「…春よこい 春よこい 歩きはじ
さやく如く…」
「…菜の花ばたけに 入日うすれ めのミイちゃんが 赤いはなおのジョジョはいて
見渡す山のは かすみ深し 春風 そよ吹く 空
おんもに出ようと待っている…」
「…春は名のみ
を見れば 夕月かかりてにおい淡し…」
「…菜の花
の 風の寒さよ…」
「…春になれば シガコもとけ
や 月は東に 日は西に…」
「…春風 たいとう…」
て ドジョッコだのフナッコだの 夜が明けたと
「…春はうれしや 二人そろっ
「…春日 遅遅…」
しゅんぷう
しゅんじつ
シャンチュウホウ
思んべな…」
「…春の三月 雪どけに 雪中花が
て 花見の酒…」
「…春がきたきた ○○のお庭に
咲いたなら お嫁に行きます 隣村 ワンさん待
よ サクラ咲いた咲いた ステテコ シャンシャ
っててちょうだいね…」
「…スプリング ハズ カ
ン ドンブリバッチヤ 浮いた浮いた ステテコ
ム イッツ ノウ モア コールド…」
「…吹け シャンシャン…」
「…春の海 ひねもす のたり そよ風 吹け 春の風…」
「…白カバ 青空 南風
のたりかな…」
「…子供らと 手まりつきつつ こ
コブシ咲く 北国の 北国の春…」「…野辺は
の里に 遊ぶ春日は 暮れずともよし…」「…国
春風 そよそよ吹いて ツクシすいすい ヨメナ
破れて 山河あり 城春にして 草木深し…」
「…
も混じる ひとつ見つけた スミレを摘めば 籠
春 風 の薫ずるや 民の憂を安んずべし…」「…
食品と容器
214
2011 VOL. 52 NO. 4
しゅんみん
春眠 あかつきを覚えず…」
「…春はあけぼの…」
48文字は,7プラス5が12ですから7・5調で
「…時は春 日はあした 朝は八時 カタツムリ
4行に書けます。
「トリナクコヱス ユメサマセ
枝にはい すべて世はこともなし…」
…」はその意味で7・5調で上手にまとめられて
次も春の朝のように思われます。
います。
この難しいコンクールに入選したかたは,ずい
トリナクコヱス ユメサマセ
分よく考えて応募したのでしょう。そんな努力と
(鳥なく声す) (夢さませ)
作品に感嘆の念を禁じ得ません。
ミヨアケワタル ヒンガシヲ
岩手県・花巻出身の宮沢賢治に『春と修羅』と
(見よ明け渡る) (東を)
いう詩があります。
ソライロハエテ オキツヘニ
(空色はえて) (沖つへに)
心象のはひいろはがねから
ホフネムレヰヌ モヤノウチ
あけびのつるはくもにからまり
(帆舟群れゐぬ)
(靄のうち)
のばらのやぶや腐植の湿地
てんごく
いちめんのいちめんの詔曲模様
くわんがく
これはとても難しいコンクールに当選した文章
(正午の管楽よりもしげく
です。私も定かには覚えていないのですが,この
琥珀のかけらがそそぐとき)
コンクールは太平洋戦争(昭和16 ∼ 20)が終っ
いかりのにがさまた青さ
て数年たって,社会がそれなりに落ちついた頃だ
四月の気層のひかりの底を
ったと思います。
唾し はぎしりゆききする
とても難しいというのは以下のようだったから
おれはひとりの修羅なのだ
です。つまり,
「イロハニホヘト チリヌルヲ…」
(風景はなみだにゆすれ)
と同じような文章をつくれというのです。イロハ
‥‥‥
47文字を1字1回だけづつ使って文章をつくれと
あたらしくそらに息づけば
いうわけです。1点だけ違う点があります。それ
ほの白く肺はちぢまり
はイロハは47文字ですが,今回のは「ン」を加え
(このからだそらのみぢんにちらばれ)
て48文字になっている点です。
いてふのこずゑまたひかり
「アイウエオ」の5行,
「アカサタナハマヤラワ」
ZYPRESSENいよいよ黒く
の10列,そのマトリックスの50音図との関係はど
雲の火ばなは降りそそぐ
こはく
つばき
うでしょうか。このマトリックスでは,
「アイウ
エオ」の中の「イ」は,
「ワヰウヱヲ」の中の「ヰ」
『雨ニモマケズ』のように病気になって心劣え
とはダブりません。 しかし「ヤイユエヨ」の「イ」
た時のものではなく,心が外に向けて高まってい
とダブっています。また「ウ」は「ワヰウヱヲ」
る時の詩,なにせこの詩を自費出版の詩集の題名
の「ウ」とダブリます。さらに「エ」は「ワヰウ
にも使用したぐらいですから,多くの人々に読ん
ヱヲ」の「ヱ」とはダブりませんが,
「ヤイユエヨ」
でもらいたかった自信作のようです。さすがにユ
の「エ」とダブリます。結局,「イウエ」の3文
ニークとも言え,絢爛・豪華とも言える言葉を使
字がダブっていますので,50マイナス3で「イロ
っています。私たちも賢治にならって春を歩いて
ハ…」は47文字となります。そして「トリナクコ
みたらどうでしょう。
けんらん
ごうか
ヱス…」のほうは「ン」を加えて48文字となります。
食品と容器
215
2011 VOL. 52 NO. 4
ザクロとベリー類(ブルーベリー,ブラックベリー,ラズベリー)
とのブレンドジュースの官能特性・物理化学的特性
(
)32( 10・9)文献 №5626
ザクロは健康機能が注目されている果実であり,
有しているほかの果実ジュースとの混合である。
その特性を保持した関連商品の開発が急がれて
レモンとザクロを混合した飲料も開発されている
いる。ザクロやザクロジュースの抗酸化活性は,
が,レモンを加えるとザクロ由来の濃い色調,フ
フェノール含量と密接な関連がある。ザクロジ
ェノール含量,抗酸化活性が低減することが問題
ュースの抗アテローム動脈硬化作用,抗酸化作用,
である。
抗高血圧作用,抗炎症作用等の健康機能は,高い
この報告では,ザクロジュースの健康機能の低
抗酸化活性と関連している。このほかザクロジュ
減を最小限にとどめ,官能特性の改良,消費者の
ースは心臓病予防作用や,一部の前立腺ガン,大
受容性向上を目的とした。ブルーベリー,ブラッ
腸ガンにおいて遺伝子発現を抑制するとの報告も
クベリー,ラズベリーの果汁と,ザクロ果汁とを
ある。
混合したジュースにおける可溶性固形物,酸度,
ザクロ果実や果汁のフェノール含量はさまざ
pH,香気特性,フェノール含量等の主要特性も
まな報告がある。トルコ種では2,380∼9,300mg/
解析した。3種類のベリーは,米国の食料品店で
L,イラン種では990∼2,260mgピロガロール等量
市販されていること,好ましい色調,高い抗酸化
/L, 米 国 の 市 販 ジ ュ ー ス で は2,566mg/L,
活性,ならびに健康機能特性がザクロに類似して
ト ル コ 産 ジ ュ ー ス で は2,602∼10,086mg没 食 子
いることから選定した。
酸等量/Lである。市販ジュースにおける高い抗
果汁の調製法
酸化活性は外皮に含まれるプニカラギンやエラグ
市販の有機ザクロジュース(フロリダ州産ザク
酸誘導体であり,種衣由来の加水分解性タンニン
ロ使用)44本(約1リットル/本)を用いた。冷
よりも多いことが明らかにされている。苦味や収
凍の市販ブルーベリー,ブラックベリー,ラズベ
れん味が増加するものの,高い抗酸化活性を得る
リーを各12kg購入し−22℃で冷凍保存し,ブレ
ためには外皮を含む果実全体を搾汁することが推
ンダー処理によりベリージュースを調製した。ザ
奨される。
クロとの混合ジュースには安定剤は添加せず,調
市販のザクロジュースには,濃縮果汁,濃縮還
製後4℃で保存し,36時間以内に分析した。
元果汁,ストレート果汁がある。輸出の際,シェ
消費者による官能検査
ルフライフの増加,輸送簡便化を目的に果汁が濃
米国に3年以上滞在し,1カ月に少なくとも1
縮される。この濃縮工程は,色調の悪化,香気成
回以上ジュースを飲んでいる者,100名をマンハ
分低減の要因となっている。フェノール物質の減
ッタン近郊から選定した。女性が64%,男性が36
少,色調,濁度,総合的な外観,苦味といった官
%,18∼24才が16%,25∼40才が29%,41∼55才
能特性の向上を目的に果汁清澄工程があるが,こ
が34%,56∼69才が21%であった。約8℃のジュ
の工程は果汁の健康機能を低減している。
ース30mlを5分おきに試飲し9段階スケールで
ザクロは香気に乏しく,搾汁工程を経るため,
評価した。また,ジュース消費量と健康機能への
市販商品のフレーバーはザクロ果実そのものと類
関心についても調査した。
似していないことがあり,このことは消費者のザ
消費者による官能検査結果
クロジュース受容性に大きな影響を与えている。
ザクロ/ブルーベリーの混合ジュースが好評で
品質向上やシェルフライフ向上のため最も多用さ
あった(第1表)。ブラックベリージュースある
れる手法は,糖の添加や,好ましい色調や香気を
いはラズベリージュースの混合割合が増加する
食品と容器
216
2011 VOL. 52 NO. 4
第1表:ザクロ混合ジュースの官能検査結果(9段階スケール)
ーで4.2∼14.5%,ザクロ/ブラックベリーで7.1
混合割合
総合評価 甘味度 酸味度 パルプ含量
ブルーベリー混合割合
10%
5.06ab
4.08ab 5.29cd 4.36fg
20%
5.37a
4.40a 4.99cde 5.02ef
30%
4.89abc 4.15ab 5.26cde 5.51cde
40%
5.09ab
4.43a 4.52de 5.99bcd
50%
5.49a
4.39a 4.39e
6.32bc
ブラックベリー混合割合
10%
5.34a
4.27a 5.31cd 4.80ef
20%
5.08ab
4.03ab 5.49bc 6.32bc
30%
4.88abc 4.41a 5.06cde 6.41b
40%
4.26bcd 4.13ab 5.87abc 7.62a
50%
3.51de
3.77ab 5.74bc 8.21a
ラズベリー混合割合
10%
5.27a
4.19a 5.25cde 3.47b
20%
4.74abc 3.88ab 5.75bc 3.70gh
30%
4.78abc 3.98ab 5.80abc 4.33fgh
40%
4.07cde 3.78ab 6.36ab 4.84ef
50%
3.26e
3.33b 6.65a
5.31de
縦の列で異なるアルファベット記号は有意差あり(P<0.05)
官能検査パネラーは 100 名
∼41.0%,ザクロ/ラズベリーで7.7∼35.4%で
あった。
機器測定
各 種 混 合 ジ ュ ー ス のpHは3.1∼3.3で 有 意 差
は認められなかった。ザクロジュースでは可溶性
固形分が,ほかのベリージュースよりも高かった
(第2表)
。ブルーベリージュースの滴定酸度は
ザクロジュースよりも低かった。
PLS2プロットに示されるように,官能検査の
酸味度は滴定酸度とよく一致していた(第1図)
。
一方,甘味度に関しては,可溶性固形分よりも熟
成指数(可溶性固形分÷滴定酸度)と関連して
いた。ジュース中に有機酸が含まれることから,
可溶性固形分と甘味度とが関連しないものと推察
された。総合評価は,甘味度と熟成指数と相関が
高かった。消費者の受容は国により異なることが
と,嗜好度は有意に減少した。大半の消費者
(90%)
緑茶で報告されており,こうした結果の解釈は慎
は食品を購入する際,おいしくて栄養豊富で健康
重を要する。
に良い商品を求めていることが明らかとなった。
全フェノール含量
ブルーベリーやラズベリーとの混合ジュースの
ザ ク ロ ジ ュ ー ス の フ ェ ノ ー ル 含 量 は144∼
色調に関しては,80%の消費者が「ちょうど良
10,086mg没食子酸等量/Lと大きく変動すること
い」と回答した。ブラックベリーとの混合ジュー
が報告されている。皮部分を含んだままの果実
スでは混合割合が30%以上となると「暗すぎる」
から調製したジュースは,皮をむいて調製した
という回答であった。ブラックベリー40%以上,
ものよりも,2倍(圧搾搾汁)∼20倍(果実全
ラズベリー20%以上を混合したジュースは,酸味
体をすり潰し)高い抗酸化活性を示す。本試験
がかなり強いとする回答であった。ベリー類の混
で用いたザクロジュースは3,429mg没食子酸等量
合割合が増加すると,酸味が非常に強いと判定さ
/Lであった。推奨摂取量を1g/日とする報告
れた。ザクロ/ブラックベリーの総合評価は,暗
もあり,ザクロジュース300mlで十分な量となる。
い色調とパルプ含量を反映した結果であった。ザ
これまでの報告と同様に,全フェノール量は全パ
クロ/ラズベリーでは酸味度が嗜好性低下の主要
ルプ量と関連していた。本試験では,全フェノー
因であった。
ル量は,全パルプ量と総合評価とには関連が認め
甘味度は全てのジュースで低かった。9段階ス
られなかったが,フェノール量が増加すると苦味
ケールで最も高い甘味度を示したのは,ザクロ/
が増加し総合評価が低下するとの報告もあり,再
ブルーベリー6:4,5:5の4.4であった。米国
検討を要する。
においては,消費者受容性を向上させるためには,
第2表 ジュースの機器測定値
甘味度を上げる必要がある。30%以上の消費者は,
可溶性固形物 滴定酸度 フェノール含量
Brix 値 gクエン酸 /100ml mg 没食子酸等量 /L
全てのジュースでパルプ量が過剰であると判断し
ザクロ
16.5
1.02
3429
た。例えば,ザクロ/ブラックベリー5:5のジ
ブルーベリー
10.4
0.58
994
12.9
1.27
3664
ュースでは,87%がパルプが多すぎると判定した。 ブラックベリー
ラズベリー
10.8
1.65
1489
重量ベースのパルプ含量は,ザクロ/ブルーベリ
食品と容器
217
2011 VOL. 52 NO. 4
第1図 消費者による官能検査スコア値と機器測定データとのPLS回帰マップ
▲混合ジュース(Bl:ブルーベリー,Bk:ブラックベリー,Rp:ラズベリー,数字は混合%)
■官能評価項目,◆機器測定項目(A1∼A40の一部の記号は第3表を参照)
揮発性成分
揮発性成分としては,6-メチル-5-ヘプテン-2-
テルペンやその誘導体を中心に40種類の揮発性
オン(油香,ハーブ香),α-テルピネオール(ラ
成分が検出された。そのうち,ザクロジュースに
イラック香),E-ネロール(柑橘香)であった。
見いだされた化合物は10種類であり,酢酸エチル,
結論
2-メチル-1-ブタノール,フルフラール,3-ヘキ
ザクロ/ブルーベリー8:2と5:5,ザクロ
セン-1-オールの4種の化合物が全体の95%を占
/ブラックベリー9:1,ザクロ/ラズベリー9:
めた(第3表)。3種類のベリーに共通の化合物は,
1の4種類の混合ジュースが,高い総合評価であ
酢酸エチル,3-メチルブタナール,ヘキサナール,
った。総合評価は,高い熟成指数,低い酸度,低
リナルールであった。リナルールはブルーベリー
いパルプ含量,6-メチル-5-ヘプテン-2-オン,
(45.8%),ブラックベリー
(64%)
第3表 ジュース中の芳香化合物量(面積%)
における主要成分であり,柑橘系
の香り,花のような香りの成分で
ある。3種のベリージュースはい
ずれも果実香や新鮮な芳香をザク
ロジュースにもたらすにもかかわ
らず,混合ジュースでは好ましい
結果につながらなかった。その原
因として,ザクロジュースに期待
された香りではなかったことが推
察される。消費者の嗜好性と高い
相関が認められたブルーベリーの
食品と容器
コード
A2
A3
A7
A8
A9
A12
A18
A22
A25
A29
A31
ザクロ ブルーベリー ブラックベリー ラズベリー
芳香化合物
酢酸エチル
50.00
2.70
0.69
1.70
3- メチルブタナール
0.56
0.26
0.33
0.09
2- メチルブタノール
10.20
ヘキサナール
0.49
7.90
2.70
5.40
フルフラール
13.90
3- ヘキセン -1- オール
20.60
2.32
0.55
6- メチル -5- ヘプテン -2- オン
0.99
リモネン
10.90
1.40
リナルール
45.80
64.00
0.51
α - テルピネオール
3.70
0.50
E- ネロール
9.80
面積値の合計
700,851 1,892,768
2,372,515 2,659,171
218
2011 VOL. 52 NO. 4
α-テルピネオール,E−ネロール等の香気成分
ーベリー混合ジュースと有意な差が認められなか
との関連が認められた。10%ラズベリー混合,10
った。そのフェノール含量は3,510mg没食子酸等
%ブラックベリー混合でも有意な差は認められな
量/Lであり,20%ブルーベリー混合ジュースの
かったが,一般的に,ザクロジュースに混合する
1.4倍,50%ブルーベリー混合ジュースの2倍,
にはブルーベリージュースが最も高い受容性が認
10%ラズベリー混合ジュースの1.1倍であり,ブ
められた。ブラックベリーを10%以上混合したザ
ラックベリー10%混合ジュースが健康メリットに
クロジュースは,色調が暗く,パルプ含量が多す
関心を持つ消費者(本調査では全体の90%)にと
ぎるとの結果であったが,一方で,フェノール含
って最適な選択であろう。
量が最も高く,抗酸化能が最も高かった。ブラッ
(林 清)
クベリー10%混合ジュースの総合評価では,ブル
海外技術情報
バイオポリマーの堆肥化とリサイクルの問題点
(
)32( 10・9)文献 №5628
大手メーカーはサイクルの終末でなく始点を重
は言う。
視しているので,堆肥化やリサイクルはまだ問題
特にリジット容器の形態でバイオポリマーを堆
がある。バイオプラスチック包装が完全グリーン
肥化するためには,粉砕した材料を加熱や加圧,
化を達成するには,リサイクル性の問題を克服す
加湿できる容器などの特殊な堆肥化装置が必要で
る必要がある。
あり,そうした設備は比較的少ない。
主要な植物由来樹脂であるポリ乳酸(PLA)
米国には堆肥化の商業施設が約3,400あるが,
はリジット容器や軟包装に用途を伸ばしている。
大多数のものは農業や埋め立てゴミだけを受け入
昨年(2009年)
,Frito-Lay社がSunChipsのシング
れ て い る。Sustainable Packaging Coalitionの 最
ルサーブパウチにPLAの使用を決めたことによ
近のレポートによると,それらの施設の267が食
って,PLAの使用量が大きく増え市場で消費者
品ゴミや食品ゴミと一緒に運び込まれる容器を処
の目にとまりやすくなった。
理している。
NatureWorks社(Ingeoブランドで,PLAの世
NatureWorks社がエンドユーザーとの堆肥化
界最大の生産業者)は,年間生産能力を3億ポン
で成功したのは,唯ーフードサービス器具である。
ドに増強するため,最近NebraskaにPLAの生産
これは,多くのレストランが堆肥化施設へ食品廃
設備を増設した。
棄物を送り込んでいて,PLA由来のナイフやフ
PLAなどバイオポリマーのアピール点は堆肥
ォーク,皿を入れるのが比較的簡単だからだと
化可能能力(土に戻すと自然の連鎖を完成すると
Davis氏は言う。
いう論理)である。しかし,NatureWorks社自
小売の包装は別の話で,堆肥化の間題ではない。
身は顧客に材料の堆肥化可能性を誇大に宣伝する
問題の大半は,バイオポリマー包装品だけを確実
のを避けている。
に回収することである。
「どの用途でも,ブランドや小売業者が話した
PLAは堆肥化と同様にリサイクルすることが
いことは堆肥化可能性や生分解性に関する魅力的
できる。ベンチャーのBioCor社は今年(2010年)
な話である。しかし,それは信頼できなくてしば
の初め,使用済みPLAを買って再販することを
しばグリーンに名を借りた作り話なので,率直な
始めた。しかし社長のM.Centers氏によると,リ
ところ最も危険なものの1つである」と,同社の
サイクルしているPLAの大部分は産業廃棄物で
マーケティング兼公共問題担当役員のS.Davies氏
ある。
食品と容器
219
2011 VOL. 52 NO. 4
汚染問題
いるかに関係なくただ売るのは道理にかなってい
問題は既存のリサイクル機構に集中している。
ない。当社がこの2年間,
“潜在的なクライアント”
米国における硬質プラスチック容器の大多数は,
に対して,『PLAはユニークな用途であり,最
ポリエチレンテレフタレート(PET)か高密度
終の品物を作るためにプラスチックを売っている
ポリエチレン(HDPE)である。リサイクル業者
のではない。当社はあなた達“ボトラーさん”の
は,大量に扱っているPETやHDPEが汚染される
ビジネスを追い込もうとしているのではなくて,
のを危惧して融点が異なる樹脂を取り扱いたがら
使用後にしようとしていることを理解したいので
ない。これは,汚染の可能性がより高いPLAに
す』と言ってきた」と同氏は言う。
対して特に顕著である。
しかし,現在までPLAの最も目に付く利用は
「PLA自体はリサイクルできるが,PLAは融
堆肥化(Frito-Lay社のSunChips用バッグ)に依
点が低いのでPETやほかのリサイクル樹脂を汚
存しない用途である。広告で,Frito-Lay社はバ
染 さ せ な い と い う 確 証 が な い 」 とPost
ッグが生分解可能であることを宣伝していて,バ
Consumer Recyclers協 会 の 専 務 取 締 役 のS.
ッグが実際に土に戻るのを示すために低速度撮影
Alexander氏は言う。
写真を使用している。
ほかの樹脂と同様に,PLAは手動や分別装置
「他ブランドと比較してかなりユニークなこと
でリサイクルの流れから除去することができる。
をFrito-Lay社が行ったことは,実際に完全に宿
しかし,リサイクル業者はそのためにお金をかけ
題をしたことである。バッグのユニークな構造が
たくない。「市場に新製品を導入したことに起因
どう堆肥化されるかを実際に理解するために,同
するイノベーションや問題に対して,なぜリサイ
社は第三者の堆肥化証明機関や大学と膨大な仕事
クル業者が費用を出さなければならないのか?」
を行った」とDavies氏は言う。
とAlexsander氏は言う。
いずれにしても,製品消費後に起こることに関
同協会の技術担当役員D.Cornell氏によると,
係なく,バイオポリマー包装が環境に優しいこと
非主流プラスチック“ poly X ”はどれも費用が
をアピールすることができる。PLAやほかのバ
かかる。「1カ月に1個のpoly Xボトルを分別
イオポリマーの使用者は,製品が再生可能資源由
するために高価な機械を設置した場合,もし機械
来であることを消費者に気づかせることによって
が10万ドルすれば,分別したボトルは本当に高
最前線で消費者と繋がる可能性を持っている。
価なものになる」。つまり,リサイクルする価値
PLAなどの代替樹脂は従来の樹脂と同様に製
に見合う十分なPLAやほかのバイオポリマーが
品を保護する役目をしなげればならないと
市場にないということである。
「リサイクルを行
Davies氏は力説する。
うためには,容易に同ーと確認できる材料がー定
「環境保全上の利点は間もなくタイブレーク
量以上必要であり,PLAは現時点では十分な量
(同点決勝ゲーム)である」とDavies氏は言う。
がない」とCornell氏は言う。
「PLAは包材としてよい機能を持ち,カーボン
NatureWorks社はそうした懸念を共有してい
フットプリントが低く,そして使用後いくつかの
る。だから,PLAを選択するボトル成形業者を
新しい選択肢を持っている。PLAを使用するこ
選別し,実際にこの3,4年間,新しい顧客を開
とに関心のあるブランドには,これらの2つの要
拓していない,と同氏は言う。
素に加えて,環境負荷の大きい石油由来の包装を
「当社のビジネスモデルはより信頼できるプラ
使っていないので何か正しいことをしているとい
スチックを売ることだった。それがどう使われて
う感情的なものがある」。
食品と容器
220
(佐藤 歩)
2011 VOL. 52 NO. 4
海外技術情報
食品産業におけるナノマテリアルの研究調査報告
(
ナ ノ テ ク ノ ロ ジ ー に 関 す る 発 明 は エ ネ ル ギ
)44( 10・10)文献 №5635
⎇ⓥା㗬ᕈ⹏ଔ
⎇ⓥ䉴䉮䉝䋺㪢㪈䌾㪢㪊
ー・防衛・医療・薬品といった様々な業界に影響
を与えている。また,応用の展望が急速に開けて
䊅䊉⎇ⓥ䉴䉮䉝
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きたこと,ヒトの健康や環境における安全性およ
第1図 ナノ研究スコアはナノマテリアル毒素学的
研究の観点からのデータ妥当性判定に役立つ
びリスク研究が進んだことから,食品産業につい
ても同様である。
参照
総合
3 4 5 6
1. 凝集度
x x x x 6
2. 化学的構成
x x x x 6
3. 結晶構造/結晶化度
x x x
5
4. 粒子サイズ/分布
x x x x 6
5. 純度
x x x x 4
6. 形状
x x x
3
7. 表面積
x x x x x a 6
8. 表面帯電度
x x x
a 4
9. 表面化学組成 ( 構成・反応性含む ) x x x x x a 6
10. 関連実験媒体におけるナノ粒子特徴(細胞培養媒体,投与溶液)
世界中の規制当局がヒトの健康・環境を守り,
指 標
ナノテクノロジー応用製品に対する消費者の信頼
確保と業界における発明促進のための法規制定に
向けた動きを強めている。研究開発への投資も拡
大している。
このほど行われた第5回IFT国際食品ナノサ
イエンス学会では,最近の食品関連ナノマテリア
ルに関する安全性や毒素学的評価の進展,現在欧
米における関連法規が業界に与える影響および世
1
x
x
x
x
2
x
x
x
x
界のナノテクノロジー研究開発投資情勢などが議
第2図 主要な生理化学的指標によるナノマテリアル特徴づけ
論の的となった。
分かつ上質のデータを収集するよう求めている。
安全性研究の現状
FDA国 立 毒 性 研 究 セ ン タ ーP.HOWARD氏 は,
上 記 学 会 で はCantox Health Sciences Inter-
FDA認証ナノテクノロジー応用食品が採用して
national社B.MAGNUSON氏が基調講演を行い,食品
いるリスク評価について述べた。この方法は数値
応用ナノマテリアルの安全性および毒性学的評価
化可能なリスクと臨床実験を組み合わせている。
の現状について述べた。同氏の講演はIFT支援,
毒性学的研究において,ナノマテリアルの特徴
食品製造者協会および国際生命科学協会協力研究
づけおよびナノテクノロジー応用食品中の検知能
成果に基づく。
力は安全性/リスク評価の中でも重要視されてい
当該IFTリポートは,研究の総合的な質をラン
る。在オランダWageningen大学食品安全研究所
ク付けする2段階評価手法に基づいて選ばれたナ
S.Weigel氏によると,こうした特徴づけ事項のう
ノマテリアルの経口毒性に関する30の研究例を
ち,特にナノマテリアル粒子サイズ/分布・化学
検証したものである。評価手法は「研究スコア」
的構成・表面活動などは研究分野が多岐にわたり,
「ナノマテリアルスコア」の2通りを採用した。
同じ物質でも製造のたびに値が全く異なるのが厄
前者は毒素学的研究としての構想の妥当性評価を
介だという。
含む(第1図)
。後者はナノマテリアルの生理学的
食品研究に特有の事情として,ナノマテリアル
特徴の結論づけを評価する(第2図)。リポートは,
と相互作用を起こす可能性のある素材がひとつの
ナノマテリアルの完全な特徴付けとヒトにおける
食品中に同居するということがある。物質ごとに
安全性評価に際して十分な実験期間を取るよう勧
精密な分析が求められる所以である。Weigel氏は
告している。加えて安全性研究への投資を大幅に
分析手法を数例挙げ,サンプルの準備から検知ま
拡大し,特に経口毒性関連実験の精度を上げて十
で,純正非有機ナノ粒子とそれを含む食品の分析
食品と容器
221
2011 VOL. 52 NO. 4
に現在採用されている方法を解説した。
素性・安全性および法規制への影響である。
上記IFT学会セッションの締めくくりに,豪・
2007年12月,FDAは食品接触物質に関する指
ニ ュ ー ジ ー ラ ン ド 食 品 基 準 機 関 のA.
針を発表した。ナノサイズ食品素材のGRAS認定
B ARTHOLOMAEUS 氏 が こ の ほ ど 出 版 さ れ たFAO/
は十分な毒性データがなければ困難であり,地方
WHO専門家によるナノマテリアル応用食品の安
および連邦当局も独自の法規制に動き始めている。
全性および将来の安全性評価計画に関する諮問リ
EUは食品へのENMs使用について特定の条例
ポート(2009年)の要点を説明した。諮問の結論は,
や規制を設けていない。Keller and Heckman社
現在FAO/WHOおよびCodexが採用しているリ
K.STAROSTA氏 は, 現 行 法 規 でENMsを 規 制 で き
スク評価が食品・農産物応用遺伝子組み換えナノ
るか,関連修正を必要とするか検討中であると指
マテリアル(ENMs)にも適用可能であるとした。
摘する。
勧告は3つの主要分野として(1)将来のナノマ
国際生命科学協会・ヒトへの健康影響評価セン
テリアル使用に向けた開発の監視,(2)現在の
タ ー R.CANADY氏 とMcKnna Long & Aldridge社
安全性評価手続きの効果,
(3)利害関係者の関わ
A.GRIMALDI氏は米連邦・地方および国際的法規/
り方,に焦点を合わせている。
指針の分析を行った。両氏は現在具体的な法規が
規制更新と法的暗示
不在であるため,業界が自ら消費者に受け入れら
世界中の規制当局は現行の枠組み内でナノテク
れる方法で安全性データの収集に努め,環境への
ノロジー応用製品を十分規制できると考えている。
影響も視野に入れて製品分析を行う必要性を強調
しかし消費者に示すことのできるデータが十分に
した。
ないため,製品安全性を「その場限り」で評価す
ナノテクノロジーへの投資
ることになる。ナノテクノロジー開発のための指
ナノテクノロジーの急速な発展は,研究開発へ
針作成を目指す一方で,発明者が研究で得たデー
の世界各国政府・私企業双方からの投資拡大に支
タを共有するよう呼びかけている。
えられている。米政府は国家ナノテクノロジー戦
FDA所属CFSANのA.MCCARTHY氏は,既に市場
略(NNI)を通じた投資によって世界をリードして
導入されている食品素材を使った製造工程の変更
いる。NNIは25の部局活動を企画する連邦プロ
について,当局が現在どのように考えているか,
グラムである。農務省NIFAのH.CHEN氏によると,
最新の動向を示した。鍵となるのは,粒子サイズ
ナノテクノロジー研究資金は年々増加し,一方資
をナノ単位まで大幅に下げることの,食品素材の
金の全体的な増大にかかわらず食品/農産物研究
部局名
2009 年実績 2010 年見通し 2011 年案
DOE
$332.6
$372.9
$423.9
NSF
408.6
417.7
401.3
HHS/NIH
342.8
360.6
382.4
DOD
459.0
436.4
348.5
DOC/NIST
93.4
114.4
108.0
EPA
11.6
17.7
20.0
HHS/NIOSH
6.7
9.5
16.5
NASA
13.7
13.7
15.8
HHS/FDA
6.5
7.3
15.0
DHS
9.1
11.7
11.7
USDA/NIFA
9.9
10.4
8.9
USDA/FS
5.4
5.4
5.4
CPSC
0.2
0.2
2.2
DOT/FHWA
0.9
3.2
2.0
DOJ
1.2
0.0
0.0
合計
1,701.5
1,781.1
1,761.6
は低迷している(第3図)。
EUでもナノテクノロジー研究開発への投資が
年々拡大している。Lux Research社 C.SINTUU氏
によると,EUの投資は公的/私的セクターから
ほぼ同額ずつ出ていることがアメリカとの大き
な違いだという。こうした投資傾向はアジア各国
にも見られ,総計額では欧米を追い越した(第4
図)。
業界が求めるもの
上記学会冒頭の座談会では食品産業におけるナ
ノテクノロジーの将来について議論が行われ,業
界ニーズと課題解決にナノテクノロジーが果たす
役割・応用を容易にする方法・一般消費者の見方
第3図 2009-2011年連邦当局による国家ナノテクノロジー
戦略(NNI)資金予算 [数値は全て百万米ドル単位]
食品と容器
などの テーマが取り上げられた。総会ではペン
222
2011 VOL. 52 NO. 4
シルベニア州立大学J.FLOROS
氏によるプレゼンテーショ
ࠕࠫࠕ
ンが会場を盛り上げた。
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ナノテクノロジー関連の
業界ニーズは生産・持続可能
性・安全性にある。直接的な
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利点として水質改良・健康と
᰷‫ޓ‬Ꮊ
生活の改善を挙げることが
でき,後者は食品の生物学的
利用能向上・風味改良・生鮮
食料品の保存などを含む。こ
うした利点の実現のため,研
第4図 世界的なナノテクノロジー投資−政府,企業研究,ベンチャーなど
[数値は全て百万米ドル単位]
究資金の増加・発明の費用対効果分析・特定法規
係者相互の情報共有促進などの課題がある。
(ラベル表示など)・消費者の参加促進・利害関
(力丸みほ)
海外技術情報
食品包装の最新技術動向
(
)35( 10・9)文献 №5632
従来の食品パッケージは,外部の汚染から内容
熟度を色の変化で知らせるインジケーターがあり,
物を保護するために設計されたパッシブバリアー
消費者は,どのような成分が製品の中に含まれて
である。対照的に,アクティブパッケージは食品
いるか,どのように保存され使用されるべきであ
と環境に相互作用させて,食品保存に能動的な役
るかを知ることができる。
割を果たしている。
スマートパッケージには,特定の化学物質や温
スマートパッケージは特定の化学物質の放出を
度,光の変化を検出するナノセンサーを使用する
検出するナノセンサーの使用を必要とするが,最
ことができる。
近のアクティブパッケージの開発は,酸化速度,
酸素の除去や酸化反応を遅らせるために脱酸素
吸収率,微生物の成育,水蒸気の透過を抑制する
剤を用い,オフフレーバーや変色,栄養価の減少
ことを可能としている。また,多くの食品は可食
を防ぐことができる。酸化第1鉄は最も一般的な
フィルムやラップで保護されて供給されている。
脱酸素剤であるが,アスコルビン酸,亜硫酸塩,
食品の安全と品質は,製品保護の立場から重要
ブドウ糖酸化酵素などの酵素もある。
だと認められ,外部からの汚染防止は,現在の包
生鮮食品の呼吸を減らす目的で,二酸化炭素を
装開発優先リストの中で極めて高い位置にある。
用い,肉,家禽肉,チーズなどの微生物成育を抑
パッケージは,単純に製品を包んだり,保護した
制することができる。また,二酸化炭素を封入す
り,消費者に情報を提供するだけでなく,アクテ
ることにより,脱酸素剤による容器のつぶれも克
ィブで,知的な特徴を付加することもできる。製
服できる。
品のパッケージはマーケティング上不可欠な手段
粉末製品,クラッカーやスイーツ,キャンデー
でもあり,ブランドの販促,陳列棚のアピール性
のような吸水性があり湿気に敏感な食品に関して,
の改善をもたらす。
過剰な湿気は有害である。逆に,食品からの過大
スマートパッケージ
な水分の損失は乾燥をもたらす。湿度制御剤は水
スマートパッケージの1つの例として,果物の
分活性をコントロールし,微生物の成長を遅らす
食品と容器
223
2011 VOL. 52 NO. 4
ことができる。そして冷凍食品や肉製品から溶け
品毒素を検出する抗体などがある。
た水分や血を取り除き,生鮮食品の結露を防ぎ,
揮発性のフレーバーとアロマの制御
脂質の酸化速度を制御する。
揮発性のフレーバーやアロマのロスは,包材を
包装材料や多孔質の内袋に入れられたシリカゲ
通過して成分が移行するもので,パッケージに起
ル,天然クレイ,酸化カルシウムなどの乾燥剤は,
因する。また,食品中にパッケージの成分が移行
乾燥食品に使用される。
することもある。特に高脂肪食品や真空包装食品
加工食品の表面の汚染を減らすために抗菌剤が
が同じ容器や保管庫,トレーラーで貯蔵,流通さ
使用され,包装材料の表面に組み込まれるか,蒸
れる時,隣接した強い臭いがする食品から臭いを
気の形態で使用される。
拾うこともある。フレーバーの移行や吸着対策と
エチレンは,熟成過程で作り出された天然植物
しては,揮発性成分,微生物の代謝物質,悪臭な
ホルモンであるが,このエチレンを除去すること
どの不必要なガス状微粒子を吸収あるいはバリア
により成熟を押さえ,シェルフライフを伸ばせる。
ーコントロールできるようなパッケージの使用な
最も一般的なエチレン除去剤は,過マンガン酸カ
どがある。ハイバリアーパッケージは,酸素,加
リウムである。
圧したガスや液体,水蒸気などの分子の侵入を防
食品包装におけるデータ記憶媒体
ぐ。バリアー特性を高める方法としては,基材に
バーコードはあらゆる食品包装に不可欠であり,
ポリマーをブレンド,コーティング,ラミネート
多くの消費者に認められている。
や金属蒸着することなどがある。商業例としては,
・RSS-14:拡張型バーコードは最大74の英数字
OPPにポリ塩化ビニリデンのコーティング,PP/
をコード化して,ロット番号,製造年月日,製品
PEの共押出フィルム上にPETのラミネート,ア
重量などのより大きな追加情報量を扱う製品(例
ルミ蒸着PETなどがある。
えば,重さで販売される肉やシーフード)に使用
フードサービスパッケージ
できる。
フードサービス製品の消費が増え,この分野の
・PDF417:最大1.1キロバイトのデータを伝える
パッケージの役割は増加している。例えばシェル
二次元の標識記号で,調理説明,栄養成分,食品
フライフを延ばすように設計されたパッケージを
メーカーのウェブサイトや画像などの追加情報を
使用して,食中毒の危険性を減らしたり,熱と保
含めることができる。
温技術の改革により調理不良によるリスクを低減
・RFID:タグを読み取ることにより,価格,色,
することができる。消費者の20%は車で移動中に
購入日などの識別情報や製品情報を提供できる。
食事をしており,外食用パッケージは,そのよう
・TTls:温度履歴を目視で提供するためにパッケ
な要求に対応するように設計されている。可食性
ージに付けられるタグで,冷蔵,冷凍食品や腐り
フィルムやラップ,またモジュラー式折りたたみ
やすい食品のシェルフライフを推定するのに役立
カートンや運転しながら食事ができる折りたたみ
つ。
蓋なども開発された。
・ガスインジケーター: CO2やO2ガス組成の変
グリーンパッケージ
化を監視できるので,食品の品質と安全性をチェ
食品用パッケージのトレンドはサステナブルパ
ックできる。処理工程や品質監視をする際,ガス
ッケージである。パッケージの持続性は主に使用
インジケーターの情報を,RFIDタグやバーコー
される材料で決まり,企業と環境保護団体は,世
ドラベルに組み込んで,中央コンピューターに伝
界的な資源の枯渇に対するパッケージの影響を減
えることができる。
少させるよう活発に協力している。さらに,監視
・バイオセンサー:生化学反応に関する情報を記
機関,世界中の小売業者や企業は,パッケージの
録,検出するコンパクトな分析機器である。バイ
持続性のための材料とデザインを選択する取り組
オセンサーによる食品分析例として,病原体や食
みを行っている。
食品と容器
224
2011 VOL. 52 NO. 4
食品包装におけるナノテクノロジー
ケージの内面を覆っている極薄アルミ層(nm)は,
ナノテクノロジーで最も有望なものとして,ナ
ナノテクノロジーが食品包装で既に使用されてい
イロンの機械的性質や熱特性を改良するためにナ
る代表的な例である。
ノサイズの粘土を用いたナノコンポジットがあり,
結論
トヨタが最初に導入した。食品パッケージではこ
革新的な技術を使用した食品用スマートパッケ
のモンモリロナイトをベースとして,ポリエチレ
ージは,製品のシェルフライフの延長,食品の品
ン,ポリエステル,ナイロンおよびデンプンなど
質と安全性の強化,食品分野のトレーサビリティ
さまざまなポリマーが調査されている。
ーの改善などの分野で急速に発達している。ナノ
ナノセンサーでアレルゲンを検出して,ピーナ
テクノロジーは,病原体検出,アクティブパッケ
ツやナッツ,グルテンなどによるアレルギー反応
ージ,およびバリアー形成などで包装分野に大き
を防止できる可能性がある。多くのスナックパッ
く影響を及ぼす可能性がある。
(田嶋一雄)
海外技術情報
抗菌性食品包装を目的とした生分解性フィルムの物理的特性
(
)E502( 10・10)文献 №5638
アルギン酸フィルム,ポリビニルアルコール
ける。ゼインフィルムはもろいためフィルム形成
(PVOH)フィルム,ゼインフィルムにエンテ
には可塑剤が必要であるが,食用のコート剤およ
ロシンを添加して抗菌性フィルムを調製し,それ
び包装材として優れている。PVOHはポリビニ
ぞれについて,色,微細構造(SEM),水分蒸気
ルアセテートの加水分解または部分的加水分解か
透過性(WVP),張力特性など物理的特性を測定
ら得られる合成可溶ポリマーであり,優れた張力
した。その結果,エンテロシン添加はこれらバイ
強度,柔軟性,酸素や香気に対するバリアー特性
オポリマーの物理的特性を阻害せず,新しい抗菌
等,優れたフィルム形成特性を有している。
性生分解性包装資材の開発および食品安全に役立
USDA(米国農務省)とEFSA(欧州食品安全機
つことが示唆された。
関)は,食品コーティングとしてのPVOHの利
イントロダクション
用は安全性でリスクはないと報告している。
食習慣の変化によって,包装されすぐに食べら
生分解性に加え,抗菌性を追加した包装はさら
れる食品への要求が増大しているが,食品産業に
に有用であり,病原菌および腐朽菌の生育阻害に
おけるプラスチック製品の環境影響が懸念される
よって,食品のシェルフライフおよび安全性を延
ことから,包装産業における生分解性包装資材の
ばすことが可能である。バクテリオシン添加生分
開発が強く求められている。生分解性包装資材は
解性フィルムの抗菌性効果については既に,エン
自然材料からの直接抽出(アルギン酸やゼイン等)
テロシンAおよびBを含む抗菌性アルギン酸フィ
や化学合成(PVOH等),または微生物作用(ポ
ルム,ゼインフィルム,PVOHフィルムに関して
リヒドロキシアルコン酸等)を通じて得られる。
スライス調理ハムの安全性を改善する効果がある
アルギン酸は海藻由来の親水性ポリサッカライ
という報告がある。エンテロシン添加の物理特性
ドであり,食品利用に優れたフィルム形成特性を
への影響を調べることはフィルムの実用化に重要
有している。陰性基を持っているため,カルシウ
であることから,本研究では,アルギン酸,ゼイ
ムのような多価のカチオンと反応することで3次
ン,PVOHのそれぞれのフィルムについてエンテ
元ネットワークを構築できる。ゼインはトウモロ
ロシン添加の物理的特性への影響を評価した。
コシの主要な貯蔵タンパク質であり,極性の低い
結果および議論
アミノ酸を含むため水に溶けずアルコールには溶
フィルムに添加できるエンテロシン濃度を決め
食品と容器
225
2011 VOL. 52 NO. 4
るために予備実験した結果,2000AU/cm2のエンテ
水素結合やOH基を多く含んで湿気のバリアー
ロシン添加により,すべてのバイオポリマーを用
機能は低い。3種のフィルムの中では合成ポリマ
いて均質なフィルムができることが確認された。
ーPVOHフィルムが最も良い,つまり低い値を
さらに,これらのフィルムはリステリア・モノサ
示した。これは密な3次元ネットワーク形成に基
イトゲネス(Listeria monocytogenes)に対して
づき,SEM観察で最もコンパクトで均一な構造
抗菌作用を示すことが確認されたことから,この
が観察されたことからもわかる。ゼインフィルム
濃度で添加することとした。
は中程度のWVPを示すが,ゼインは自然由来の
色測定
アルコール可溶性タンパク質であり,主としてそ
色は消費において重要な性質であるが,アルギ
の疎水性のため比較的低いWVPを示すと考えら
ン酸フィルムは白く不透明,PVOHフィルムは
れる。自然由来の親水性ポリサッカライドである
透明,ゼインフィルムは黄色で不透明である。エ
アルギン酸のフィルムは最も高いWVPを示した。
ンテロシンを添加したアルギン酸フィルムと
エンテロシン添加によりこれらのフィルムの
PVOHフィルムは茶色っぽい外見を示し,ミノ
WVPは破壊されず,かえってわずかにWVPを
ル タChromameter CR200で 測 定 し た と こ ろ,
減少させ,フィルム特性の改善につながった。透
エンテロシン添加によって両フィルムで,L* 値
過性は物質の疎水性または親水性による間隙や亀
*
(明るさ)の有意な減少およびb 値(黄色さ)
裂,また構造中の立体障害やねじれの影響を受け
の増加を示した。一方,ゼインフィルムでは,自
るとされているが,エンテロシン含有フィルムに
然色が強いため色の変化は見られなかった。
おける間隙や穴の増加はWVP変化にはつながら
走査電子顕微鏡(SEM)
なかったと推定される。
走査電子顕微鏡(SEM)による形態観察にお
水蒸気移動はフィルムの親水性部分を通じて起
いて,フィルム表面は比較的スムーズで連続した
こり,ポリマー中の利用できる極性(−OH)基
表面を示しエンテロシン添加による大きな変化は
の数に依存すると考えられている。エンテロシン
見られなかったが,切断面では,エンテロシン添
がPVOH中 の 利 用 可 能 なOH基 と 反 応 し て ク ロ
加による変化が見られた。コントロール(エンテ
スリンクを改善することで,WVPを減少させて
ロシン無添加)のアルギン酸フィルムはSEMで
いるという報告がある。
コンパクトな構造を示し,これは細網化のために
張力特性(tensile特性)
加えられたカルシウムイオンとアルギン酸ポリマ
張力特性は,パックした物質の食品加工工程,
ー中のCOOH との相互作用で構成される。しか
取り扱い,保存中,等におけるストレス下でのフ
し,カチオンペプチドであるエンテロシンが加わ
ィルムの完全性を維持するためのフィルムの重要
るとクロスリンクによるネットワーク形成が阻害
な機械特性である。「TS(張力強度)」は張力検
され,アルギン酸フィルムの微細構造が破壊され
査時,フィルムに生じる最高ストレスを示し,
る。PVOHフィルムにおいても,コントロール
「SB(破断伸び)
」はフィルムの柔軟性と伸長性
フィルムの切断面が密で均質な構造を示すのに対
を示しフィルムの造形に重要であり,両パラメー
し,エンテロシン添加フィルムでは複数の穴が見
ターは相互に有意かつポジティブな関連性がある
られた。ゼインフィルムの横断面では典型的な多
(r=0.634, P<0.01)
。ゼインフィルムとアルギン
孔性構造を示すが,エンテロシン添加により穴の
酸 フ ィ ル ム は い ず れ も10MPa以 下 のTS値 と
数とサイズが増大し,同様な変化はチモール添加
10%以下のSB値を示し,機械特性が劣ることを
やリゾチーム添加において既に報告がある。
示している。一方,PVOHフィルムは中程度の
水蒸気透過性(WVP)
張力特性を示し,これまでも,自然のバイオポリ
バイオポリマーフィルムは一般的にタンパク質
マーを混合したPVOHフィルムは,物理的特性
やポリサッカライドのような極性ポリマーであり,
が向上することが示唆されてきた。
食品と容器
226
2011 VOL. 52 NO. 4
エ ン テ ロ シ ン 添 加 はPVOHフ ィ ル ム の 張 力
関係しているが,エンテロシン添加によって吸収
特性を改善し,TSの減少とSBの増加はエンテ
バンドのシフトとO-Hストレッチングに関連し
ロシンが可塑剤として働くことを示唆している。
たピーク強度の変化が観察された。これらの変化
可塑剤は隣接するポリマー鎖間の分子間力を弱め,
はクロスリンキングにおける水素結合の変化を示
それによりTSを減少させ,フィルムの柔軟性を
しており,エンテロシン添加によるネットワーク
増加させる。エンテロシン含有ゼインフィルムで
形成障害が示唆された。また遊離カルボン酸の吸
はTSとSBの両方で有意な増加が見られる。ゼ
収ピーク(1410cm-1)の増大も見られ,この増大
インフィルムはもろく取り扱いが難しいため,エ
はエンテロシンによってクロスリンキングする際
ンテロシン添加による柔軟性の飛躍的改善は注目
の相互作用の減少が引き起こされることを示唆し
に値する。アルギン酸フィルムでは,エンテロシ
ている。また,エンテロシン添加PVOHフィル
ン添加による張力特性の変化は最も小さかったが,
ムでは,主として3600から3200cm-1 の領域に位
TSの 減 少 は わ ず か で あ っ て も 有 意 で あ っ た
置する,O-Hストレッチングに関連した吸収バ
(P<0.05)
。これは,エンテロシンがアルギン酸
ンドにおいて,O-Hピーク強度のかなりの増大
中のクロスリンクネットワーク形成をある程度邪
とシフト変化が見られた。一方,ゼインフィルム
魔していることを示唆している。
においては,エンテロシン添加によって顕著な吸
フーリエ変換赤外分光法(FTIR)
収スペクトル変化は見られなかった。
PVOHフィルムまたはアルギン酸フィルムの
結論
それぞれについて,コントロールフィルムおよび
アルギン酸,PVOH, ゼインフィルムへのエン
エンテロシン添加フィルムのフーリエ変換赤外分
テロシン添加は物理的成績について悪い影響はな
光法(FTIR)スペクトルを比較すると,違いが
かった。かえって,PVOHとゼインフィルムに
-1
見られた。アルギン酸は3600と3200cm の間に
おいては水蒸気透過性と張力特性が改善された。
吸収バンドを示し,これらのバンドは分子間また
これらの結果は,エンテロシン添加バイオポリマ
は分子内水素結合からのO-Hストレッチングに
ーの利用を奨励するものである。(矢部希見子)
ご案内
フード・フォラム・つくば 20周年記念講演会
「これからの食戦略を考える」
◇日時:平成23年5月13日(金)13:00∼17:25
◇場所:つくば国際会議場 大ホール
〒305-0032 茨城県つくば市竹園2-20-3
◇主催:フード・フォラム・つくば
◇共催:(独)農研機構 食品総合研究所(予定)
◇プログラム
挨拶 フード・フォラム・つくば幹事長
(独)
農研機構 食品総合研究所 所長 基調講演 13:15∼14:15
「低炭素社会を目指して−プラチナ構想ネットワー
クの戦略−」
小宮山 宏
講演 14:15∼17:25
①「氾濫する食情報を見極める−メディアが煽る食
への期待と不安−」
高橋久仁子
②「我が国のフードビジネスの突破口」 宮田 満
③「中国における食ビジネスの取組−
「黄金の20年」
の発展チャンスをつかめー」
鶴島孝保
食品と容器
④「商品開発に直結する香りの新しい捕らえ方−賞
味期限設定に活用できる香気成分定量化への新し
いアプローチ−」
喜多純一
⑤「食品産業を取り巻く環境変化をどのようにとら
えるか」
西藤久三
交流会 17:30∼(つくば国際会議場内)
◇参加費:事前登録 先着順 800名
会員:無料 会員外:資料代
◇交流会:事前申し込み
会員:3,000円 会員外:5,000円
【参加申し込み・お問い合わせ先】
フード・フォラム・つくば事務局
五十部(いそべ)
・高松(たかまつ)
E-mail:takama@affrc.go.jp(高松)
http://www.fft.gr.jp
TEL. 029-838-8010 / FAX. 029-838-8005
〒305-8642 茨城県つくば市観音台2-1-12
(独)農研機構 食品総合研究所内
227
2011 VOL. 52 NO. 4
行ってよかった国ぐに,会えてよかった人びと
(1)東の国から従兄弟が
た
き
やす
ひこ
多 紀 保 彦
( 東 京 水 産 大 学 名 誉 教 授 )
たちに似た風貌もよく見かける。気兼ねがない国
■■■ タキタキ
だ。
南米大陸の北岸にスリナム〈Suriname〉とい
ギアナ地方の最初の入植者は,南米を“発見”
う国がある。このあたり一帯はギアナ地方と呼ば
したスペイン人である。その後オランダが進出し,
れ,植民地時代には東から順にイギリス,オラン
フランス,イギリスと続いた。17世紀中期にはオ
ダ,フランスに統治されて英領・蘭領・仏領ギア
ランダとイギリスのあいだで領有権争いがあり,
ナと呼ばれていた。英領と蘭領は独立して,いま
オランダは当時自国領だったニューアムステルダ
はガイアナ共和国とスリナム共和国になっている。
ム―現在のニューヨーク――と交換してスリナ
スリナムは小さな国だ。それでも面積は日本の
ムを得たのだそうだ。
半分近くあるが,人口は鹿児島市や新潟市などと
オランダがスリナムの開発をはじめたころ,労
同じくらいのものだ。首都パラマリボの市街には
働力は黒人奴隷だった。奴隷解放後は同じオラン
オランダ時代の歴史的建造物が残っているところ
ダの植民地だったインドネシア人,そしてインド
があって世界遺産に登録されているし,私たちが
系,中国系の人たちが到来し,混血も進んだ。
食べているエビの輸出国のひとつなのだが,日本
このように多民族構成の旧植民地では,各国の
ではあまり知られていない。
言葉がまぜこぜになった現地語―クレオール言
東京農業大学南米動植物学術調査隊という長い
語―が生まれ,ひろく使われていることが多い。
名前の調査隊の一員として,そのスリナムを私が
スリナムもそのなかのひとつ,公用語はオランダ
訪れたのはいまから40年も前のこと,当時の日本
語だが,英語を基底とした一種のピジンイングリ
でこの国名を知る人は商社員か水産関係者くらい
ッシュがひろく使われている。スラナン語とかス
のものだった。完全独立前の自治領時代である。
リナム語と呼ばれる言葉である。
スリナムは,人,言葉,食べもの,すべての面
たった2カ月の滞在だったが,いくつかの単語
で居心地のよい国だった。街を歩く人たちはイン
やセンテンスはいまでも耳に残っている。たとえ
ド系,アフリカ系,混血のクレオール,ジャワ人
ば“Me frigiti charry con botla”,英単語に置
と呼ばれるインドネシア系,中国系,ヨーロッパ
き換えれば“I forget carry come bottle”で,清
人等々,後背地には先住民のインディオと奴隷生
涼飲料を売るお店で聞いた言葉だった。空瓶を返
活から逃れてジャングルに住みついた黒人の子孫
せば瓶代をバックしてくれるのだが,あるお客が
マルーン(当時はブッシュネグロと呼ばれてい
“瓶を持ってくるのを忘れちゃったよ”と言って
た),白い人から黒い人までのスペクトラム,私
いるのだ。動詞の過去現在も名詞の単複もなく,
食品と容器
228
2011 VOL. 52 NO. 4
“carry come” で
“bring” に な る と
は楽しい言葉ではあ
りませんか。
地元の人たちはこ
の言語をタキタキと
呼 ぶ。
“talk-talk”か
らきたのだろう。饒
舌の意味にも使われ
る。この“タキタキ”
で私はずいぶん得を
した。そう,いっぺ
んで名前を憶えてく
れるのである。その
上,ここでは現地語
を基底として英語が
奥地の飛行場に到着した調査隊のまわりに集まる人びと。さまざまな顔がある。
かなり通じるのがありがたい。相手がブロークン
リナムに行ったのだが裏切られた”などというも
だから,こちらも気が楽だ。
のがあった。それはそうでしょう。食はそこにす
む人びとの嗜好に合わせてモディファイされるも
■■■ ナシゴレンとチャパティ
のなのだから―。
調査隊は首都パラマリボに本拠を置き,ある中
インドネシア系より人口が多いのはインド系で,
級ホテルを宿舎にした。大きくはないが施設もサ
インド料理を供する店も街のそこここにあった。
ービスもまあ合格だ。問題は食事,オランダ料理
私たちが通ったのは小さな屋台店で,インド式の
はなじみがないし食材も限られているだろうと心
パンであるチャパティにシチュー類をのせクレー
配したのだ。だがこれはまったくの杞憂だった。
プのようにくるんだもの,いつも指差しで注文し,
ホテルの中でも街の軽食屋でも,私たちの口に合
歩きながら食べたものだった。うまかった。その
った料理がふつうに食べられるのである。
頃の日本では,新宿中村屋の“インドカリー”は
ホテルのダイニングルームで隊員に人気があっ
有名だったがインド料理はポピュラーではなかっ
たメニューのひとつは,フライドライスだった。
た。私たちはチャパティもナンも知らず,シチュ
洋風のピラフや日本式チャーハンよりもインドネ
ーをのせたこの料理そのものがチャパティという
シアのジャカルタあたりで食べる“ナシゴレン”
料理だと思っていた。
に近かった。多民族国家スリナムにあって,イン
都市でのこのような食生活は,調査でフィール
ドネシア系の人たちは,労働の質だけでなく食文
ドに出るとがらりと変わる。船外機を付けた大型
化の面でも存在感を示し,その食は“スリナム料
丸木舟での淡水魚類調査の旅であのアルマディロ
理”の基底となっているのだった。
がジャングルの珍味だと知ったことは,以前この
いまインターネットで“スリナム料理”を検索
連載で書かせていただいた。ついでにいうと,カ
してみると,オランダの都市を中心とするヨーロ
ピバラもおいしかった。アルマディロは鶏肉系,
ッパにおけるスリナム料理に関する情報が多い。
カピバラは牛肉系の珍味だ。
記載と写真を見るかぎり,そのベースはしっかり
■■■ 無カタラーゼ症
インドネシア料理である。だが日本人の書き込み
私たちの調査隊は,隊長以下計10名の隊員に加
には,“おいしいインドネシア料理を期待してス
食品と容器
229
2011 VOL. 52 NO. 4
え読売新聞と日本テレビの取材班3名という大所
者はスリナム国の首相にインタビューを申し込ん
帯で,隊員の健康管理と人類学研究を掛け持ちす
だ。独立国である現在の国家元首は大統領だが,
る某大学医学部のO助教授が加わっていた。O医
自治領の当時,国のトップは総理大臣だった。
師の調査主題は無カタラーゼ症で,対象はインデ
すぐに返事がきた。喜んでお受けするが,質問
ィオの人たちだった。Oさんから聞いたところで
事項を文書にして事前に提出してもらいたい,と
は,カタラーゼは過酸化水素を分解する酵素,無
いうのだ。そこでY記者の質問を私が英訳し,ふ
カタラーゼ症はその酵素が欠失する遺伝病で,そ
たりで首相府へ持って行った。
の遺伝子頻度はモンゴロイドで高いという。そこ
書面を受け取って一読した首相の秘書官は,大
で彼は,我われと同じモンゴロイドであるがデー
笑いをしながら言った。“私も長いこと秘書官を
タがないここスリナムのインディオの血液サンプ
やっているが,わが首相にマッサージを頼んだの
ルを集めて分析し,彼らの系統関係などを解析し
はあなたがたが初めてですよ”
。いくつかの質問
ようと計画したのである。
事項に続いて“最後に日本国民に対する首相閣下
しかしインディオの人たちとの交渉はむずかし
のメッセージをお願いいたします”でインタビュ
いにちがいない。血を取るとなればなおさらだ。
ーは終わるのだが,このmessageを私はmassage
彼らは町から離れたところに部落を造り,独自の
とタイプしてしまったのである。
しきたりをもつ生活をしている。まずアプローチ
あわてて引き返しタイプし直して再提出したの
からして困難だ。だがTさんの手助けで事はスム
はもちろんだが,このマッサージ事件をきっかけ
ーズに運んだ。Tさんはロシア系が混じった現地
に私はこの秘書官氏や政府の人たちと仲良しにな
在住の日本人で,日本語から英語,タキタキ語ま
った。そんななかのひとりに農林水産担当のRさ
でペラペラ,その人脈と交渉術で調査隊を全面的
んがいた。アジア系が混じったクレオールの風貌
に助けてくれた人物である。O医師の調査も,彼
をしている。その彼がある日突然言いだした。
がいなければきわめて困難だったろう。
“世界で私がいちばん男らしい顔をしていると思
私は採血には同行できなかったが,Oさんの話
う人物は,ひとりの日本人ですよ”。誰かときく
ではインディオの人たちは協力的で規律正しかっ
とCaptain Gendaだという。軍人らしいが,キャ
た。みな健康で,“血管に針を刺しただけで血が
プテンといっても国により陸海空軍によって位は
吹き出てくるんだよ”と驚いていた。そしてそれ
さまざまだ。そこで飛行機のパイロットかときく
より彼を驚かせたのは,その場に居合わせたオラ
と,そうだという。そう,“源田サーカス”で知
ンダの人類学者の話だった。その人も以前この部
られた旧日本軍のゼロ戦の名パイロット,戦後は
落で血液標本を集めさせてもらったのだが,それ
自衛隊航空幕僚長から参議院議員になったあの源
には2カ月のあいだ何回も足を運んで説得しなけ
田実氏なのだった。彼はいった。
“彼は私の尊敬
ればならなかった,というのである。
する人物です”。
そこでO医師は,日本チームに対してはなぜこ
雑誌などで源田氏を知り,資料を集めたのだろ
んなに協力的なのか,Tさんを通じて部落のキャ
う。この南米の小国には,このRさんやあのイン
プテンに尋ねてみた。その答は,部落の人びとを
ディオのキャプテンがいて,そのうしろには大勢
前にしたキャプテンのひと言だった。
“はるか東
のフレンドリーな人たちがひかえているのだった。
の国から私たちの従兄弟が研究のためやってきた。
インディオの人たちだけではなく,クレオールも
みな協力してやってくれ”。
ジャワ人もインド人もマルーンも,みんなわが従
兄弟のように思えてならなかった。本隊を送り出
■■■ マッサージをお願いします
して数日間の残務整理を終え,ひとりパラマリボ
初期段階の調査が一段落したころ,同行のY記
食品と容器
空港を飛び立つとき,私の心は温かかった。
230
2011 VOL. 52 NO. 4
業
界
ト
ピ
ッ
ク
ス
嗜好変化が激しい缶コーヒーだが,今年もスタ
◇缶コーヒー 巨大地震の影響は甚大
2011年の缶コーヒー商戦が開幕して3カ月が
ンダード,微糖,無糖,カフェオレのうち焦点を
経過した。昨年の市場は,前年比99%で着地。そ
どこに当てるかがポイントになる。無糖の増加は
の背景には記録的な猛暑により,需要の多くがス
今年も間違いなさそうだが,今や微糖からは先進
ポーツ飲料や炭酸飲料など止渇系に移行したこ
的なイメージは薄れ,ポジショニングが変わって
とや,経済回復の立ち後れから工場や事務所など
きたことは免れない事実で,各社の読みの判断が
職域に設置された自販機の売れ行きが振るわず,
注目される。
自販機の比率が高い缶コーヒーが特に影響を受け
一方の無糖市場は,消費者の本格志向や健康志
た。
向の高まりを背景に,缶コーヒー市場全体の約18
カテゴリー別では「スタンダードタイプ(加糖)」
%(約6千500万ケース)を占めるまでに成長。
から「微糖タイプ」
「無糖タイプ」への需要流出
中でも最近注目されているのがリキャップ缶入り
が激しく,着実に甘さ離れが進行。一方,容器別
カテゴリーで,今後も市場規模は順調に拡大する
では無糖タイプにおいてSOT(stay on tab)缶
と期待されている。
が縮小する中でリキャップ缶が拡大するなど大き
秋需次第だがマイナスは確定的
な変化があった。
こうした中で今期見通しだが,各社とも「市場
今年は年初より各社が巻き返しに向けて意欲的
が膨らむことは考えられない」と予想。最終的に
に取り組む姿勢をみせ,少なくとも2月までは順
は「連続してマイナスで着地」というのが大方の
調なスタートを切っていた。だが3月11日に東北
見方だ。売上げの多くを占める自販機に回復気運
関東地方を突然襲った大地震以降は状況が一変。
があっただけに,当初は「良くて横ばい」予想も
福島,仙台を中心に東北,関東の一部メーカーの
あったが,震災が襲ったことで再び節約志向が蔓
製造・物流・倉庫等が甚大な被害を受け,さらに
延する恐れもあり,市場予測は一層難しくなった。
屋外自販機も被災。
最大商戦である9月以降の盛り上がり次第でだ
しかも被災地向け支援物資はミネラルウオータ
いぶ変わってくるはずだが,結果的には毎年,微
ーや茶系飲料などコモディティ−商品が優先され,
増,微減を繰り返しているため,それほど大きく
工場の製造ラインはこれらを中心にフル回転。そ
ぶれることはない。各社とも「自販機チャネルが
こでメーカーの中には缶コーヒーの新製品発売を
ポイントを握る」とほぼ同じ見解を示している。
延期するところもあり,予断は許されない状況と
既に数社が期待の新製品第1弾を発表。4月に
なっている。
第2弾が続く。「ジョージア」を筆頭に「ボス」
「フ
今年に入って景気回復の兆しが叫ばれ,職域の
ァイア」「ワンダ」「ダイドー」「ネスカフェ」「ツ
インドア自販機のパーマシンは底を打ったとの見
ール」「UCC」
「ポッカ」「スターバックス」「タ
方もあっただけに,巨大地震が完全に水を差した。
リ−ズ」など有力ブランドがこぞって新戦略を打
原料高騰でコスト削減迫る
ち出し,春夏商戦で序盤のヤマを迎える。
しかもコーヒー生豆の国際相場高騰に起因して
成熟化が加速する中で,市場は大きな成長が望
原料価格が値上げされ,業界では更なるコストダ
めないだけに,メーカーは広告やキャンペーンな
ウンが求められているだけに,業界は二重,三重
ど販促投資で,何とか市場を活性化させたいと考
の苦しみを抱えこんだ格好だ。
えている。 (業界誌記者 井上拓郎)
食品と容器
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2011 VOL. 52 NO. 4
特別解説
醗酵食品中の微量成分
−豆味噌中の化合物について−
すぎやま・やすまさ
東京大学大学院農学
生命科学研究科博士
課程修了。静岡県立
大学食品栄養科学部
助手,助教を経て,
現在,鹿児島大学水
産学部准教授。
博士(農学)
杉 山 靖 正
を含むことが期待される。味噌の成分に関する研
はじめに
究においては,アミノ酸以外の成分として大豆由
はっ
来のイソフラボンが豊富に含まれることが知られ
大豆醗酵食品とは,微生物を用いて醗酵した大
そ
しょう
豆加工食品のことであり,味噌をはじめ醤油や納
ているが,微量で有用な化合物について,実はま
豆など,われわれ日本人の食生活,日本の食卓に
だあまり知られていないのが現状である。
欠かせない食品の一つといえる。海外に目を向け
これまで筆者らは,豆味噌に関する一連の研究
ると,同様の手法により作られる大豆醗酵食品と
に お い て,11 個 の 化 合 物( -coumaric acid,
してトウチやテンペなどがあり,大豆醗酵食品の
ferulic acid,
生産ならびに消費は国内に限ったことではないこ
acid, vanillic acid, daidzein, genistein,
-hydroxybenzoic acid, syringic
うかが
とが窺える。近年の健康食品ブームもあり,大豆
8-hydroxydaidzein,
8-hydroxygenistein,
醗酵食品は伝統食である以上に機能性食品として
6-hydroxydaidzein, 8-hydroxyglycitein) を 抗
も注目されている。筆者らはこれまでにさまざま
酸化物質として単離および構造決定し(第1図)
,
な大豆醗酵食品について研究を行っているが,紙
こ の う ち 4 個 の 化 合 物( 8-hydroxydaidzein,
面の関係から本誌では豆味噌の研究に限定して紹
8-hydroxygenistein,
介する。
8-hydroxyglycitein)が非常に高い抗酸化活性を
そこでまず,味噌について少し説明しよう。味
有することを明らかにしている。さらに,この4
噌は,その製造方法の違いにより,米味噌,麦味
個の化合物は,製麹段階において大豆イソフラボ
噌,豆味噌に分類され,その最も大きく異なる点
ン(daizein, genistein, glycitein) が 麹 菌 の 作 用
6-hydroxydaidzein,
きく
により変換された化合物であるということを推定
は製麹段階にある。米味噌,麦味噌は,それぞれ
こうじ
あらかじめ作製しておいた米麹,麦麹を用い,蒸
している1,2)。
した大豆に塩と同時期に加えることで醗酵工程を
以上の観点から,筆者らは豆味噌に含まれる化
開始する。これに対し豆味噌は,米麹,麦麹を使
合物の中でも抗酸化活性を有する化合物に注目し,
わず,蒸した大豆を丸めたものに麹菌を生育させ
それらの単離と構造決定を目的に現在も継続して
た後,塩を加えて醗酵工程に入るため,麹を作製
研究を行っている。本誌では,豆味噌からの新た
する過程,すなわち製麹段階で麹菌と大豆成分が
な抗酸化物質の単離・構造決定・抗酸化活性に加
接する唯一の味噌である。さらに,他の味噌に比
え,製造工程の中でこれまであまり焦点が当てら
べ熟成期間が長いことも豆味噌の特徴の一つであ
れてこなかった熟成期間に関しての新しい知見を
る。そのため,豆味噌は他の味噌にはない化合物
解説する。
食品と容器
232
2011 VOL. 52 NO. 4
(BHT)を用いた。
方法
豆味噌からの抗酸化物質の単離
抗酸化活性測定法
まず,豆味噌5kg を8L のメタノールで 24 時
抗酸化活性を測定する方法はいくつかあるが,
間,室温で抽出した。得られたメタノール抽出
本研究では簡便かつ迅速にその活性の有無を判定
液をロータリーエバポレーターで濃縮後,ヘキサ
可能な 2 , 2 - d i p h e n y l - 1 - p i c r y l h y d r a z y l
ンで抽出した。残った水層を塩酸で酸性にした後,
そく
(DPPH)ラジカル捕捉 活性
3)
酢酸エチルで抽出することにより,酢酸エチル抽
を指標とするこ
ととした。DPPH は紫色をしたラジカルであり,
出物を得た。次に,得られた酢酸エチル抽出物を
1個の水素原子と1個のラジカルを供与されるこ
Diaion HP-20,silica gel カラムクロマトグラフ
とにより,無色のヒドラジン体となる(第2図)。
ィー,ODS MPLC(Yamazen BLPC-600-FC),
すなわち,DPPH の退色反応は抗酸化活性を示し
ODS HPLC(Jasco 880-PU, Jasco UV-970),
ており,この退色反
応を観察することに
より抗酸化活性の有
無を判定できること
になる。なお,化合
物の精製途中では,
薄層クロマトグラフ
ィ ー(TLC) の 噴
霧試薬として使用す
ることにより,抗酸
化活性の有無を目視
で判定した。単離し
た化合物の正確な活
性評価を行うために
は,各化合物をエタ
ノールに溶解したも
のに,0.1 M 酢酸緩
衝
液
と 0.5 mM
DPPH エ タ ノ ー ル
溶液を加え試料溶液
とし,一定時間の反
応 後 DPPH の 極 大
吸収である 517 nm
の吸光度(Shimadzu
第1図 これまでに豆味噌から単離されている化合物
UV-160A)を測定した。この結果から
試料溶液中に残存する DPPH の量を明
らかにすることで,各化合物の抗酸化活
性の強さを判定した。この際,試料溶液
中の DPPH が半分になるのに必要な化
合物の量を ED50 値として算出した。な
お,陽性対照には butylhydroxytoluene
食品と容器
第2図 DPPHラジカル捕捉機構
233
2011 VOL. 52 NO. 4
Sephadex LH-20 カラムクロマトグラフィーで
各熟成期間より調製したメタノール抽出物を
精製し,抗酸化活性を有する化合物の単離を行った。
HPLC(Jasco PU-2080 plus, Jasco UV-2077
化合物の構造決定
plus)分析することにより,それぞれの抽出物に
化合物の構造は,高分解能 FAB-MS スペクト
含まれる化合物の定量を行った。
ル(Jeol JMS-700), 各 種 NMR ス ペ ク ト ル
結果
(J e o l J M N - E C A - 5 0 0 ),UV 吸 収 ス ペ ク ト ル
(Shimadzu UV-160A)の解析結果より決定した。
化合物1および化合物2の単離
化合物の生産時期の決定
5kg の豆味噌から調製した酢酸エチル抽出物
まず,化合物の生産時期を特定するため,熟成
を Diaion HP-20 カラムクロマトグラフィーに
期間0,20,40,60,100 日の豆味噌5gをメタ
供し,蒸留水,25% メタノール水溶液,メタノー
ノール 20 mL で室温にて3日間抽出した。続いて,
ルで順次溶出させた。このうちメタノール溶出画
分を濃縮乾固後,silica gel
カラムクロマトグラフィー
に供し,ヘキサン:酢酸エ
チル=4:1,
3:2,2:
3 を 展 開 溶 媒として順次
溶出した。続いて,ヘキサ
ン:酢酸エチル=3:2溶
出 画 分 を,ODS MPLC,
Sephadex LH-20 カ ラ ム
クロマトグラフィー,ODS
HPLC を 用 い て 精 製 し,
daidzein,genistein,
8-hydroxydaidzein,
8-hydroxygenistein に 加
え,新たに化合物1を 1.9
mg 単離した。また,ヘキ
サン:酢酸エチル=2:3
溶 出 画 分 か ら は,ODS
MPLC,ODS HPLC,
Sephadex LH-20 カ ラ ム
クロマトグラフィーを用い
て 精 製 す る こ と に よ り,
-coumaric acid,ferulic
acid, -hydroxybenzoic
acid,syringic acid,
vanillic acid に加え,新た
に化合物2を 1.4 mg 単離
した(第3図)。
化合物1および化合物2
の構造決定
第3図 豆味噌からの化合物1および化合物2の単離方法
食品と容器
234
化合物1は白色粉末とし
2011 VOL. 52 NO. 4
て得られ,高分解能 FAB-MS スペクトルの測定
とが判明した(第5図)。残りの分子組成である
結果から分子式は,C15H10O5 であることが明らか
3個の水酸基の結合位置は,13C-NMR スペクト
になった。1H-NMR スペクトルを測定したところ,
ルにおけるケミカルシフト値から明らかになった。
8.11 ppm にイソフラボンの2位のシグナルに相
以 上 の 結 果 か ら, 化 合 物 2 の 構 造 を 2,4,4 -tri-
当するシングレットのメチンプロトンが観測され
hydroxydeoxybenzoin と 決 定 し た( 第 4 図 )
。
た。また,8.05 ppm にはダブレット,6.93 ppm
2,4,4 -trihydroxydeoxybenzoin が豆味噌に含まれ
にはダブルダブレット,6.83 ppm にはダブレッ
ることは新しい知見であり,本研究により天然物
トのメチンプロトンシグナルが観測され,これら
として初めて単離することに成功した。
のシグナルのケミカルシフト値およびカップリン
化合物1および化合物2の抗酸化活性評価
グコンスタントから 1,2,4-3 置換ベンゼンの部分
方 法 の と こ ろ で も 説 明 し た が, 本 研 究 で は
構造が示唆された。さらに,7.01 ppm にはダブ
DPPH ラジカル捕捉活性を抗酸化の指標として
レット,6.85 ppm にはダブルダブレット,6.83
いる。そこで,得られた化合物1および化合物2
ppm にはダブレットのメチンプロトンシグナル
の DPPH ラジカル捕捉活性を詳細に調べた。そ
が観測され,化合物1はもう一つの 1,2,4-3 置換
の結果,30 分間の反応での化合物1の ED50 値は
ベンゼンを含むことが示唆された。13C-NMR ス
22.7μM であり,陽性対照の BHT の ED50 値が,
ペクトルを測定したところ,15 本のシグナルが
36.5μM であったことから,化合物1の活性は非
観測され,これらのシグナルのケミカルシフト値
常に高いことが示された。化合物2の ED50 値は,
とここまでの解析結果から,化合物1は daidzein
3時間の反応で 905μM であった。化合物2の活
の類縁体であることが示唆された。そこで,化合
性は低いようにも思えるが,豆味噌中に豊富に含
物1と daidzein の分子式では酸素原子1個の違
ま れ る daidzein は,48 時 間 の 反 応 で ED50 値 が
いであることを考慮し,化合物1と daidzein の
990μM であるため,比較的高いものと考えるこ
NMR スペクトルデータ4) を比較したところ,
とができる。
化合物1は3 -hydroxydaidzein であることが明ら
化合物1および化合物2の生産時期
かになった。(第4図)3 -hydroxydaidzein が豆
化合物1はこれまでに豆味噌から得られている
味噌に含まれるのは新しい知見であった。
オルトジヒドロキシイソフラボン(8- hydroxy-
化合物2は,化合物1と同様に白色粉末として
daidzein,8-hydroxygenistein,
得られ,高分解能 FAB-MS スペクトルの測定結
daidzein, 8-hydroxyglycitein)の構造とよく似て
6-hydroxy-
果 か ら 分 子 式 は,C14H12O4 で あ る こ と
が 明 ら か に な っ た。1H-NMR お よ び
13
C-NMR スペクトルを測定したところ,
化 合 物 2 に は 1,2,4-3 置 換 ベ ン ゼ ン,
1,4-2 置換ベンゼン,メチレン,ケトン
がそれぞれ1個ずつ含まれることが示唆
第4図 化合物1および化合物2の構造
された。続いて,HMBC スペクトルを
測定したところ,メチレンプロトンから他の3個
の 部 分 構 造 す べ て に 相 関 が 観 測 さ れ た こ と,
1,2,4-3 置換ベンゼン上のプロトンからケトンへ
の相関が観測されたこと,1,4-2 置換ベンゼン上
のプロトンからメチレンカーボンに相関が観測さ
れたことより,メチレンに対して 1,4-2 置換ベン
ゼンの部分構造は直接結合し,1,2,4-3 置換ベン
ゼンの部分構造はケトンを介して結合しているこ
食品と容器
第5図 化合物2の構造解析−HMBC相関−
235
2011 VOL. 52 NO. 4
おり,daidzein の B 環の水酸基に対してオルト
製造過程において製麹段階であることが分かって
位(隣の炭素)に水酸基が導入されたものである。
いることから,化合物1も同時期に同様の反応に
これまでの研究により,イソフラボンからオルト
より作られるものと考えられた。
ジヒドロキシイソフラボンが生ずるのは,豆味噌
しかし,化合物2の生産時期はその構造からは
判断できず,詳細な解析が必要となった。
そこでまず,熟成開始時点を境としその
前,すなわち製麹段階で化合物2が生産
されるか否かを調べるため,熟成0日目
の豆味噌の HPLC 分析を行うこととし
た。その結果,化合物2は熟成0日目の
豆味噌から調製した抽出物中には存在せ
ず,熟成期間に生産させる可能性が示唆
された。そこで次に,熟成期間 20,40,
60,100 日 目 の 豆 味 噌 を 同 様 に 調 製 し
HPLC 分析を行ったところ,20 日目か
ら調製した抽出物中には豆味噌1gあた
り 化 合 物 2 は 4.4μg,40 日 目 で は
第6図 熟成期間における化合物2の生産量
10.2μg,60 日 目 で は 13.6μg,100 日
目では 23.2μg 存在し,時間の経過と
ともに生産量の増加がみとめられた
(第6図)。すなわち,化合物2はオ
ルトジヒドロキシイソフラボンとは異
なり製麹段階ではなく,熟成期間に生
産される化合物であることが示された。
考察
本 研 究 で は, 豆 味 噌 中 に 3 hydr oxydaidzein および 2,4,4 -trihydroxydeoxybenzoin が 含 ま れ る こ
とを明らかにした。
3 -hydr oxydaidzein は,ヒトの
尿中に daidzein の代謝物として存在
すること,ラットの肝ミクロソーム
を用いた培養で生産されることが報告
されている5,6)。また,筆者らはこれ
までに,豆味噌と同様の製造過程で作
ら れ る ト ウ チ か ら も 3 -hydroxydaidzein を単離している。豆味噌製造
中 に 麹 菌 の 作 用 に よ り daidzein が
3 -hydroxydaidzein へ と 変 換 さ れ る
わ け だ が, 3 -hydroxydaidzein の 抗
酸化活性は daidzein に比べはるかに
第7図 化合物2の推定生成機構
食品と容器
236
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高いことは,豆味噌が万能調味料であることに加
食品の機能性に関する研究では,物質レベルでの
え,機能性食品であることの一つの根拠となるで
解析が不可欠なのである。さらに,食品中に含ま
あろう。
れる化合物を明らかにすることは,食の安全・安
2,4,4 -trihydroxydeoxybenzoin は, 天 然 物 と
心の観点からも大変重要なことと私は考える。
しては初めて筆者らが単離した化合物であり,そ
われわれが普段食している昔からの食品にも,
の生産機構の詳細は未解明のままであるが,製麹
解明されていない微量成分がたくさん含まれてい
段階ではなく熟成期間に生産されることが明らか
る。この世の中は新規化合物,まだ知られていな
になった。これまでに,嫌気性腸内細菌が daid-
い未知のものであふれているのである。
zein を
-desmethylangolensin へ と 変 換 す る こ
と が 知 ら れ て い る 7)。2,4,4 -trihydroxydeoxybenzoin と
参考文献
-desmethylangolensin の構造の違い
1)Hirota A., Taki S., Kawaii S., Yano M., and Abe N.,
はメチル基1個であることから,2,4,4 -trihydroxy-
1,1-Diphenyl-2-picrylhydrazyl radical-scavenging
deoxybenzoin の 前 駆 体 は
compounds from soybean miso and antiproliferative
- d e s m et hyl-
activity of isoflavones from soybean miso toward the
angolensin であると考えることができる。さら
cancer cell lines.
に, -desmethylangolensin は daidzein か ら
64,
1038-1040(2000).
dihydrodaidzein を経由してできること8)が知ら
2)Hirota A., Inaba M., Chen Y-C., Abe N., Taki S., Yano
れており,dihydrodaidzein は豆味噌からは見つ
M., and Kawaii S., Isolation of 8-hydroxyglycitein
かっていないものの,同様の製造過程を経るトウ
and 6-hydroxydaidzein from soybean miso.
68, 1372-1374(2004)
.
チからはすでに単離されていることを考慮すると,
3)Blois M. S., Antioxidant determinations by the use of
次の3段階の変換反応により 2,4,4 -trihydroxy-
a stable free radical.
deoxybenzoin が生成すると推定できる。まず,
181, 1199-1200(1958)
.
4)Chen Y-C., Sugiyama Y., Abe N., Kuruto-Niwa R.,
daidzein が 還 元 さ れ dihydrodaidzein へ と 変 換
Nozawa R., and Hirota A., DPPH radical-scavenging
さ れ る。 続 い て dihydrodaidzein の C 環 が 開 環
compounds from dou-chi, a soybean fermented food.
し
に
69, 999-1006(2005).
-desmethylangolensin に変換される。最後
5)Kulling S. E., Honig D. M., and Metzler M., Oxidative
-desmethylangolensin が 脱 メ チ ル 化 さ れ
2,4,4 -trihydrox-ydeoxybenzoin へ と 変 換 さ れ る
(第7図)
。酵母などさまざまな微生物が豆味噌
の熟成に関与していることが知られているものの,
現時点では熟成期間に作用する微生物がすべて明
らかになっているわけではない。また,ある一連
の反応によって生産されたかのように見える化合
物も,複数の微生物の作用によるものかもしれな
い。謎は多いものの,以上のことに加え 2,4,4 trihydroxydeoxybenzoin が製麹段階ではなく熟
成期間に生産されることは,この推定生成機構の
可能性を支持するものかもしれない。今後,微生
物と化合物の関係を明らかにする必要がある。
metabolism of the soy isoflavones daidzein and
genistein in humans in vitro and in vivo.
., 49, 3024-3033(2001)
.
6)Heinonen S. M., Wähälä K., Liukkonen K. H.,
Aura A. M., Poutanen K., and Adlercreutz
H., Studies of the in vitro intestinal
metabolism of isoflavones aid in the
identification of their urinary metabolites.
., 52, 2640-2646(2004)
.
7)Hur H. G., Beger R. D., Heinze T. M., Lay J.
O. Jr, Freeman J. P., Dore J., and Rafii F.,
Isolation of an anaerobic intestinal bacterium
capable of cleaving the C-ring of the
isoflavonoid daidzein.
., 178,
8-12(2002).
8)Joannou G. E., Kelly G. E., Reeder A. Y., Waring
おわりに
M., and Nelson C., A urinary profile study of
食品には一次機能(栄養)
,二次機能(味覚),
dietary phytoestrogens. The identification and
三次機能(生体調節)があるが,そのすべてにお
mode of metabolism of new isoflavonoids.
いて何らかの化合物がかかわっている。そのため,
食品と容器
237
., 54, 167-184(1995).
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特別解説
腸管機能を指標とした食品等成分の
機能性の探索と評価
ほ ん ま・ と も お
東京農工大学大学院工学研究
科修士課程修了。東京農工大
学工学部助手,農水省野菜・
茶業試験場茶栽培部主任研究
官,東京医科歯科大学難治疾
患研究所助手,千葉科学大学
危機管理学部准教授を経て,
現在,前橋工科大学工学部生
物工学科教授。博士(医学)
本 間 知 夫
影響がないのか,腸管においてどのように取り込
1.はじめに
まれるのか,取り込まれた後に対象となる組織で
食品には,生命現象を営むために必要不可欠な
はどのような形態でどのように作用しているのか
エネルギー源や生体構成成分の補給に必要な栄養
(体内動態),など,多くの点が不明なままの場
素としての一次機能,味,色,食感など感覚機能
合が多い。
し
に作用して嗜好性を生み出す二次機能,そして健
筆者はこれまで腸管における吸収や運動などの
康維持や向上に関係するさまざまな生体調節機能
機能,またそれら機能を制御する腸神経系の研究
としての三次機能が備わっている。最近,この食
に携わり,これら機能を指標として,天然物から
品の三次機能に関する研究報告が数多く出される
の機能性成分の探索や合成により修飾を施した機
ようになり,これまで普通に食していた食材や天
能性物質の機能性評価を行ってきた。本稿では腸
然物素材にもさまざまな生体調節機能を示す成分
管に備わるさまざまな機能や構造の特徴について
が含まれていることが明らかにされてきた。機能
簡単に説明した後,筆者が行ってきた研究例を紹
性成分を付加したり増やしたりすることで三次機
介し,そして腸管機能に着目することの特徴や意
能を強化した付加価値の高い機能性食品を開発す
義などについても述べる。
ることで,他との差別化を図ろうとする取り組み
2.腸管の構造と機能に関する特徴
も増えている。
機能性成分の探索や機能性の有無を評価する時,
1)構造
実験動物やヒトにおいて,細胞レベル,組織レベ
腸管は口から肛門に至る体内を貫く1本の管で,
ル,個体レベルとさまざまなレベルで,さまざま
その全長は約9mにも及ぶ。腸管は食道∼胃∼小
な機能性(抗酸化作用,抗がん作用,抗アレル
腸∼大腸と分かれ,小腸はさらに十二指腸∼空腸
ギー作用,血圧降下作用,抗肥満作用,抗菌作用,
∼回腸に,大腸は盲腸,虫垂,結腸(上行結腸∼
その他)についての検討が行われている。食品と
横行結腸∼下行結腸∼S状結腸),直腸に分かれ
して摂取した場合,摂取された食品成分は必ず腸
る。長い腸管は各部によってその構造と機能に特
管で消化・吸収されて体内に取り込まれた後,各
徴的な違いがあり,食べたものを順次輸送しなが
機能がそれぞれの細胞や組織において発揮される
ら効率よく消化し吸収できるようになっている。
と考えられるが,摂取された成分が腸管に対して
しかし消化・吸収はこの腸管だけでは行えず,消
こう
食品と容器
238
2011 VOL. 52 NO. 4
すい
臓と膵臓の分泌物に含まれる重炭酸塩(HCO3−:
化液(消化酵素)を製造して腸管内に出す膵臓,
のう
脂肪の消化・吸収を助ける胆汁を出す胆嚢,腸管
胃において酸性になった内容物を中和する)の大
で消化・吸収した各成分を貯蔵・代謝する肝臓と
部分は空腸を通過するまでに吸収される。Cl−は
いった各臓器の働きも必要である。腸管のことは
空腸で大量に吸収されるが,回腸では重炭酸塩と
消化管とも呼び,これら各臓器を加えて消化器系
の交換(HCO3− の分泌)で吸収される。ほかに
と呼んでいる。
も各種イオンは腸管の各部位で起こるが,その輸
送は部位によって異なる。
腸管の構造を,腸管を構成する各組織別に模式
1)
的に分かりやすく第1図に示した 。内側(食べ
各種イオンが腸管内外にて輸送されると,それ
たものが通る管内部)から順に,食べたものを消
に伴って電気的な変化が起こることになるが,こ
化・吸収する粘膜組織,輪走筋(腸管をぐるりと
の電位変化を輸送電位と呼ぶ。すなわち,腸管内
囲むように走行している筋層),縦走筋(腸管に
外の電位差を測定し,何か物質を投与したときに
沿って走行している筋層)
,そして腸管を保護す
電位変化が起これば,その時何らかの物質輸送(吸
しょう
る漿膜から成っている。さらに粘膜組織と輪走筋
収あるいは分泌)が起こっていることを意味する。
そう
,輪
の間には粘膜下神経叢(マイスナー神経叢)
何がということの同定のためには,いろいろ条件
走筋と縦走筋の間には筋層間神経叢(アウエルバ
を絞ってさらに実験を行う必要があるが,この方
ッハ神経叢)と呼ばれる神経組織が,それぞれ腸
法により簡易に腸管における輸送(吸収や分泌)
管全域にわたって存在しネットワークを形成して
に影響がある成分を見いだしたり,吸収等の機能
いる。またこれら神経組織のほかに,粘膜下には
性評価を行うことができる。輸送電位の測定は,
腸管に内容物が入ってきたことを物理的・化学的
摘出した腸管の内外を反転させた標本(反転標本)
刺激として検知したり,刺激を伝えて運動を起こ
を作製し,腸管内外の電位差を測定しながら各種
すための中間的なつなぎの役目を果たすような神
物質を添加した際の電位変化を調べる(第2図)
。
経組織も存在する。こうした腸管内の神経組織は
電位測定には電位増幅器と一対の電極を使うが,
腸神経系と呼ばれ,体調調節にかかわる自律神経
市販品でも自作品でも対応可能である(筆者は自
系の一つに分類される。
作品使用)。
粘膜組織は多数の突起状の構造を成しており,
3)消化・運動に関する機能4)とその測定5)
さらに粘膜組織には粘膜上皮細胞が並び,その細
腸管の運動に関する機能は,摂食したものを腸
じゅう
胞表面には微 絨 毛が並んでいる。このように立
管内で物理的に混和することで消化を助けると共
体的に複雑な構造を取ることで,内容物と接触で
に,その内容物を下部腸管に輸送することである。
きる表面積が大きくなり,内容物が通過する間に
この腸管における運動には,輪走筋・縦走筋とい
万遍なく効率的に消化・吸収できるようになる。
った平滑筋の収縮・弛緩がかかわり,蠕動運動と
ヒトの小腸の表面積はテニスコート一面分にも相
呼ぶ。内容物が腸管に入るとそれが刺激となり,
し
当すると言われている。
注)
2)
2)消化・吸収等に関する機能
とその測定
3)
ぜん
2L06
8B2
腸管においては,摂取した食品等が消化・吸収
(<
されるが,特に小腸各部位においては,消化酵素
の働きによって炭水化物(多糖類)がグルコース
CB2
4<06
(ブドウ糖)やフルクトース(果糖)などに,タ
4<
ンパク質が小ペプチドやアミノ酸に分解され,粘
膜から吸収される。糖やアミノ酸は輸送担体によ
って吸収が行われ,
この時ナトリウムイオン(Na+)
注)腸管の縦方向を示す。漿膜側から層状に剥がし
た状態を示す。
の吸収が促進される(同時に輸送される)
。また肝
第1図 腸管の構造(小腸の横断面)
(カラーはHP参照C005)
食品と容器
239
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腸管の口側の筋では興奮(収縮)
,肛門側の筋で
る(第4図)。
は抑制(弛緩)が順次起こり,内容物は逆送する
4)腸管機能の制御系
ことなく口側から肛門側へと送り出される(第3
腸管内には脳に匹敵すると言われるほどの数の
1)
図) 。この腸管の反応(動き)は「腸の法則」
神経細胞が存在し,また脳において神経の情報伝
と呼ばれ,腸管に入る外からの(中枢からの)神
達に利用されているペプチド等の伝達物質が,腸
経をすべて切除しても,また体外に摘出した状態
管においても多数発見され,脳腸ペプチド(脳,
の腸管でも起こる。
神経系,腸管もしくはその誘導器官に共通して存
腸管の運動の測定は,摘出腸管を用いる実験法
在するペプチドを指す)とか脳腸ホルモンと呼ば
の創始者の名前を取ったマグヌス法が適用されて
れている。長い腸管の運動,そしてその間に起こ
いる。マグヌス装置という名称で市販されており,
る消化・吸収を,腸管内の独自の神経組織によっ
固定した腸管(平滑筋)の収縮・弛緩の動き(張
て複雑かつ効率的に制御する一方,腸管の機能は
力)をトランスデューサーにて記録するものであ
脳や中枢神経系の影響も受けて複雑に変化する。
脳が受けるストレスは腸管に多大な影響を及ぼす
一方,腸管における異常がストレスとして脳にも
伝えられ,このような脳と腸の間の密接な関係は
脳腸相関と言われている。これが繰り返し起こる
と,悪循環からストレスが蓄積され,さらにさま
ざまな悪影響が各部位に出てくるようになり,疾
患の発症が起こることになる。このような腸管の
機能的な特徴から,腸管は「第二の脳(セカンド・
ブレイン)」とも言われている6)。
2)および3)に関する実験では,神経毒であ
るテトロドトキシンを利用して神経伝達機能を遮
断したり,腸管全体に電気刺激を加えて神経組織
を人為的に興奮させたりすることで,消化・吸収・
運動における腸管内の神経組織(腸神経系)の関
与を調べることができる。
3.腸管機能を指標とした
健康食品の機能性評価例7)
第2図 輸送電位測定概略図
1)背景
:K
うた
ダイエットや減量に効果があるという謳い文句
ちまた
はん
を掲げた健康食品が巷に氾濫している。しかし,
健康食品の有効性や安全性については科学的根拠
が乏しいものも少なくなく,効果がないものがあ
る一方,逆に健康食品の摂取による体調不良など
の健康被害がしばしば起こり,最悪のケースとし
て死に至ってしまった事例も報告されている。
2006年にはテレビの健康情報番組で白インゲン豆
を使った減量方法が紹介され,その方法を試した
視聴者に多くの健康被害が発生している。白イン
第3図 腸管の運動(蠕動運動)
食品と容器
240
2011 VOL. 52 NO. 4
ゲン豆に含まれるファセオリンはデンプンの消化
響を受けずに腸管に達して作用すると考えられた。
酵素を阻害することが知られており,ごはんやパ
糖輸送に対する影響,腸管運動に対する影響は見
ンなどのデンプン質を食べる時,白インゲン豆も
られなかった。今回の白インゲン豆抽出物中にど
一緒に摂取するとデンプンの分解が妨げられるこ
のような成分が含まれているのかを販売元に尋ね
ととなり,その結果として糖が生成されない→糖
たが分析されておらず不明であった。植物からの
吸収がない→ダイエット効果ありと謳われている。
抽出物ということで,糖やアミノ酸なども含まれ
健康食品の有効性や安全性については(独)国立
ていると思われ,ここで得られた輸送電位はおそ
健康・栄養研究所ホームページの「健康食品」の
らくこうした成分によるものと考えられた。また,
安全性・有効性情報
8)
に公開されており,白イ
白インゲン豆抽出物はグルコースの吸収には影響
9)
ンゲン豆も取り上げられている 。有効性や安全
を与えなかったことから,デンプンの消化酵素阻
性については一部の作用については報告があるも
害作用があるのかもしれないが,他の食品等で一
のの,それ以外については調べた文献が見当たら
緒に摂取している糖などはそのまま吸収されるた
ず,十分なデータが見当たらない状況にあるとさ
kqshjptft
れている。そこで筆者らは,市販の白インゲン豆
@J?
抽出物を用い,特に腸管機能に対する作用を調べ
1!
た。
crmh7>&
2)白インゲン豆抽出物の
;3
腸管機能に対する作用
白インゲン豆抽出物の粉末を濃度0.05mg/㎖,
0.10mg/㎖,0.25mg/㎖になるよう蒸留水に懸濁
&
させたものをサンプルとして調製し,そのままあ
第4図 マグヌス法概略図
るいは一度酸性処理したもの(胃内で酸性になる
ことを想定)を,マウスから摘
,)}1.0
mg/mL
作用濃度:1.0㎎/㎖
出した小腸の反転標本に対して
1
投与することで,サンプルの吸
収,分泌など輸送に対する作用
を輸送電位から調べた。また,
0.1 mV
グルコース投与により発生する
L\$`
輸送電位を指標としてサンプル
投与が糖輸送に与える影響も調
べた。腸管運動に対する作用は
第5図 白インゲン豆抽出物投与による輸送電位の発生 (回腸上部,作用濃度:1.0mg/㎖,矢印にてサンプル投与)
果,サンプル投与により,小腸
すべての部位で輸送電位の発
生が観察され(第5図)
,その
変化には濃度依存性が認めら
れた(第6図)
。また酸性処理
M(mV)
マグヌス法で調べた。その結
したサンプルにおいても同様
に輸送電位の発生が認められ
,)(mg/mL)
作用濃度(㎎/㎖)
たことから,今回のサンプルは
実際に摂取した際にも胃液の影
食品と容器
第6図 輸送電位の濃度依存性(回腸上部)
241
2011 VOL. 52 NO. 4
め,糖吸収がないということにはならない。
2)カプサイシンおよび配糖体の
腸管機能に対する作用
4.腸管機能を指標とした機能性成分
誘導体の機能性評価例10),11)
カプサイシンおよび配糖体の吸収・分泌など輸
送に対する影響は,ラット摘出腸管(小腸)を使
1)背景
用し,上記で説明した輸送電位ではなく短絡電流
という腸管内外をよぎる電流の測定18) を行うこ
トウガラシの辛味の主成分であるカプサイシン
こう
には,体熱産生,発汗作用,脂質代謝亢進作用,
とにより調べた(詳細は省略,参考文献10)参照)。
鎮痛作用などの生理作用があることが知られてお
腸管部位(空腸,回腸),作用部位(粘膜側,粘
12)
り ,このような作用から減量効果,肥満防止な
膜下組織側)により,またカプサイシンおよび配
どの効果を期待したカプサイシンを含有する健康
糖体により作用様式が異なりさまざまで,カプサ
食品がいろいろと出ている(しかし有効性に関す
イシンで見られた応答が配糖体で見られない場合,
るヒトでの信頼できるデータは見当たらないとさ
またその逆の場合もあった。
13)
。多様な生理作用を期待して摂取す
れている )
腸管全体を30秒間ごとに電気刺激によって収縮
るにしても,カプサイシンは脂溶性で冷水にはほ
を誘導させた状態で,カプサイシンおよび配糖体
とんど溶けず,また辛味が強いため,多量に摂取
の作用を調べたところ,カプサイシンは収縮を抑
することは極めて難しい。著者の共同研究者であ
制したが配糖体は収縮に影響を及ぼさなかった
る岡山理科大学・濱田教授らは,植物培養細胞に
(第7図)
。カプサイシンは受容体を介してさま
よる生物変換でさまざまな機能性成分に糖鎖を付
ざまな応答を引き起こすが,配糖化による立体構
加した配糖体の合成を行い,これら誘導体を利用
造の変化が影響しているものと思われた。配糖体
した機能性食品の開発に関する研究を行っている
は腸管機能に対する作用がカプサイシンに比べて
が,カプサイシンを配糖化することで水溶性の向
小さい,すなわち影響が少ない傾向にあった。配
14),15),16)
。また,
糖化することで辛味が減り,水に溶けやすくなっ
カプサイシン配糖体(以下,配糖体と記す)を高
たカプサイシン配糖体を多量に摂取することで,
脂血症ラットに投与したところ,血清脂質の低下
より大きなカプサイシンの生理的効果を期待でき
効果がカプサイシン同様に得られていることが報
るのではないかと考えた時,筆者らの腸管機能に
上,辛味の減少を実現している
17)
ことから,カプサイシンで見ら
対する配糖体の作用に関する結果は,この考えを
れる生理作用の一部は配糖化によっても維持され
支持することができると思われた。しかし,大量
ると考えられる。そこで,カプサイシンおよび配
に摂取した場合の体内動態やその影響については,
糖体の腸管機能に対する作用について評価するこ
別に調べる必要があり,安全性についての評価は
ととした。
まだできていない。
告されている
bnfags(50μM)
#%
1g
1min
5.問題点と今後について
筆者らは,実験動物の摘出腸管を用
いて,腸管の吸収・分泌といった輸送
bnfagsI5(50μM)
機能と消化にかかわる運動機能を指
#%
標として,天然物や食品に含まれる成
分の機能性の探索や評価を行ってお
り,その研究例を紹介した。我々が食
品として摂取することを考えたとき,
第7図 腸管収縮に対するカプサイシンおよび
カプサイシン配糖体の作用(ラット回腸)
食品と容器
242
当然動物とヒトとの違い,摘出した系
での状態と生体内環境下にある状態と
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の違いなどがあるため,ヒトでの機能性の有無や
っている。さらに,腸管内には腸内細菌が生息し,
安全性を考えた場合,筆者らの方法で得られた結
小腸で消化・吸収しきれなかった内容物や多糖類
果をそのまま当てはめることはもちろんできない。
などの食物繊維の消化を助けたり,ビタミンK等
また,最近は使用する実験動物を減らし,培養細
の合成を行ったり,また免疫系を強化するような
胞などできるだけ代替実験にすべきということも
働きがある。食品等の機能性や安全性を調べて評
言われている。実際,腸管粘膜組織由来の培養細
価する上で,こうした免疫系や腸内細菌との関係
胞を使った研究例もある19) が,2の腸管の特徴
についても同時に調べていくことは極めて興味深
のところで述べたように,腸管は,消化・吸収・
く,また今後更に重要になると思われ,その実施
物質輸送・運動,そしてその制御系である神経系
の意義は深いと考える。現在筆者らの実験系では
が複雑に関係して機能する自律的な組織であり,
摘出した状態で実験を実施しているため,機能・
各機能の関係や制御系との関係を調べるためには,
環境が大きく変わってしまって調べることができ
腸管そのものを使う必要がある。また腸管には,
ないが,今後は更なる協力関係を築いて新たな評
体内で最大と言われる免疫系(腸管免疫系)が備
価系を構築し,食品等の機能性や安全性の評価が
わり,外部から食品と共に体内に取り込まれる病
できるようにしていきたいと考えている。
原菌などから身体を守る役割を果たす機能が備わ
参 考 文 献
1)片山芳文,代謝,27,目で見るページ320(1990).
Hamada and Y. Katayama,
2)第34章:消化と吸収,
「基本生理学」
,バーン/レヴィ
, 2, 119-122(2009).
12)辛味成分の生理作用,
「トウガラシ−辛味の科学」
,岩
著(板東武彦,小山省三:監訳)
,西村書店(2003).
3)7章:消化器,「新・生理学実習書」,日本生理学会編,
南江堂(2001).
井和夫・渡辺達夫編,幸書房,pp.148-228(2000).
13)トウガラシ,「健康食品」の素材情報データベース,
4)第32章:消化管運動,
「基本生理学」
,バーン/レヴィ
http://hfnet.nih.go.jp/contents/detail507.html
著(板東武彦,小山省三:監訳)
,西村書店(2003).
14)H. Hamada, S. Ohiwa, T. Nishida, H. Katsuragi, T.
5)1.総論:1-3-5.マグヌス装置および4.自律神経系の薬
Takeda, H. Hamada, N. Nakajima and K. Ishihara,
理:4-1.消化管に対する作用,
「基礎薬理学実験」
,久
., 20, 253-255(2003).
保田和彦他3名編,南江堂,pp.17-18,84-93(1991).
15)K. Shimoda, S. Kwon, A. Utsuki, S. Ohiwa, H.
6)マイケル・D・ガーション,「セカンド・ブレイン
Katsuragi, N. Yonemoto, H. Hamada and H.
腸にも脳がある!」,小学館(2000).
Hamada,
7)西沢光喜子,
「白インゲン豆抽出物の腸管機能に対
する作用」,千葉科学大学卒業論文(2008).
17)Y. Tani, T. Fujioka, H. Hamada, M. Kunimatsu and
8)(独)国立健康・栄養研究所ホームページ,
「健康食
Y. Furuichi, J.Jpn.Soc.Nutr.Sci.,56, 181-187(2003).
品」の安全性・有効性情報,http://hfnet.nih.go.jp
18)唐木晋一郎,鈴木裕一,II-2-3:イオンチャネル・起
9)インゲン豆抽出物,
「健康食品」の素材情報データベ
電性トランスポーター機能測定法,
「生物化学実験法50
ース,http://hfnet.nih.go.jp/contents/detail749.html
腸管細胞機能実験法」,上野川修一他3名編著,学
10)T. Homma, K. Hirai, S. Kwon, H. Katsuragi, H.
Hamada and Y. Katayama,
会出版センター,pp.54-65(2005).
, 76,
19)薩秀夫,II-1-3: 株化細胞(上皮細胞)
,
「生物化学実験
583-585(2008).
法50 腸管細胞機能実験法」
,上野川修一他3名編著,
11)T. Homma, K. Hirai, S. Kwon, H. Katsuragi, H.
食品と容器
, 68, 1391-1396(2007).
16)S. Kwon and H. Hamada, 私信(2008).
学会出版センター,pp.35-40(2005).
243
2011 VOL. 52 NO. 4
ただし,内圧強度試験の最大圧力20(kPa)以上
技術コーナー
の破裂強さをクリアする必要があり,易開封のパ
ーシャルオープン機構との両立は技術的ハードル
が一気に高くなる。
今回紹介するパーシャルオープン蓋(写真1)
パーシャルオープン蓋
は,レトルト殺菌が可能であることを最大の特長
とする。ポリプロピレン製容器とのヒートシール
で,125℃ 50分の熱水殺菌を行い,ホット販売チ
ョコレートドリンク製品を上市した実績を持つ。
プラスチック容器は基本的にワンウェイであり,
環境に配慮した容器とするためには樹脂材料の使
用量を極力減らすことが望まれる。そこで当社(大
和製罐㈱)ではシンプルな形態で,飲み口となる
1.はじめに
部分だけを開封できる蓋材の開発に取り組んだの
は
蓋やタブ類をつまんで剥がす,あるいはシール
で紹介する。
をめくると部分的に穴が開く市販製品というと,
2.特長
みなさんは何を思い浮かべるだろうか。即席カッ
①レトルト殺菌が可能であり,125℃殺菌の商品
プ焼きそばの湯きり蓋,みつ豆・あんみつ・フル
化実績がある。
ーツ類のシロップ漬けの水きり蓋,消臭剤・芳香
はく
②十分なヒートシール強度と剥離のイージーピー
剤など使い始めにシールをめくると現れる揮散孔
ル性をあわせ持っている。
など,食品やトイレタリー容器に「部分開封機構」
=「パーシャルオープン機構」が使われているこ
③形態はシンプルであり,蓋を剥がすと飲み口の
み開口される。
とに気づく。蓋やシールは易開封できるものであ
り,使い勝手は日々向上している。パーシャルオ
④レトルト対応カップとの組み合わせで,内容物
ープン機構の採用商品が増え,適用範囲が今後ま
にマッチした販売形態をとることができ,殺菌
すます広がりを見せると思われる。
後に常温販売はもちろん,ホットやチルドでの
ところがこれら容器は基本的にレトルト殺菌に
販売も可能である。
は非対応である。このしくみがレトルト食品用の
ヒートシール半剛性容器にも使えるようになれば,
3.機構・基本性能
第1図に蓋の開口機構,第2図に蓋の開封方法
長期保存容器としてのバリエーションが増える。
ၮ᧚ጀ
᦭ᯏ᮸⢽⊹⤑ጀ
䉲䊷䊤䊮䊃ጀ
䉲
䊤
ጀ
⬄䈱
ጀ᭴ᚑ
㐿ኽ೨
㐿ኽᓟ
䉺䊑
⬄
䊐䊤䊮䉳
写真1 パーシャルオープン蓋
食品と容器
㘶䉂ญ
㘶䉂ญ
㘶䉂ญ㩿಴⃻䋩
䉦䉾䊒
第1図 開口機構
244
2011 VOL. 52 NO. 4
はく
を示した。蓋はトップフィルムとアルミ箔からな
5.剥離抵抗(剥離荷重)
る基材層,次に有機樹脂皮膜層,カップとヒート
シールするシーラント層で構成されている。タブ
第4図,第5図に,蓋を剥がすときの剥離抵抗
をつまんで剥がすと,飲み口だけが開口される,
を引張り試験機で追跡したパターンを示した。第
シンプルな構造である。開封のためにストローな
4図は蓋をすべて剥がすフルオープン方式の蓋の
第1表 充填品の基本性能
どの特別な道具を必要としない。
次に,蓋の基本性能について,衛生試験として
厚 生 省 告 示 第370号 の 使 用 温 度100 ℃ を 超 え る
条件に合格している。第1表に基本性能を示した。
ポリプロピレン製のφ71mm径圧空レトルトカッ
てん
項目
性能
破裂強さ
*20 kPa以上(実測 70 kPa以上)
落下強度
*50 cmで漏洩なし
** 輸送試験
約 2,000 km 輸送 問題なし
** 振動試験
1G× 30 分 水平・垂直振動 問題なし
*JIS Z 0238 ** 製品カートン(3×4列)に箱詰め時
プに水を充填しヒートシール後,125℃ 50分の熱
水殺菌処理を行ったサンプルとして,破裂強さと
第2表 ヒートシール強度・剥離強度
落下強度はJIS規格を満たしており,輸送試験お
項目
目標値
実測値
開封の剥離強度
7 ∼ 15
18 以下
(最大値 N/カップ)
(イージーピール)
接着のヒートシール強度
35 以上
23 以上
(N/ 15 mm)
(ハードシール)
剥離強度(常温、60℃):角度 45° 速度 50 mm/分
ヒートシール強度:T型 300 mm/分
よび振動試験も問題ない。
4.接着のヒートシール強度と剥離強度
第2表にヒートシール強度・剥離強度,第3図
にカップと蓋の断面を示した。ヒートシール強度
が強いことと,剥離がイージーピールであること
は相反し,両立は本来難しい。本開発蓋では,ヒ
ートシール接着部とは別の層から開封する。シー
䉺䊑
ル強度を剥離強度よりも十分強くしておき,蓋の
剥離をイージーピールレベルに設計することで,
⬄
㘶䉂ญ
䉲䊷䊤䊮䊃
蓋を簡単に剥がす仕組みが成り立っている。シー
䊐䊤䊮䉳
ル強度と剥離強度の目標値と実測値について,剥
離強度の最大値が,目標値として18(N/カップ)
䉦䉾䊒
以下,実測値は7∼ 15(N/カップ)である。シ
ール強度は,目標値として23(N/15mm)以上,
実測値は35(N/15mm)以上のハードシール仕様
第3図 カップと蓋の断面
である。
䇼䊐䊦䉥䊷䊒䊮⬄䇽
䉦䉾䊒 㱢䋷䋱䌭䌭
䋲䋰
䋱䋰
೸㔌〒㔌
第2図 開封方法
食品と容器
䋰
第4図 開封の剥離強度−1
245
2011 VOL. 52 NO. 4
一例,第5図はパーシャルオープン蓋のパターン
抗が強くなるので,フルオープン方式では剥がし
である。剥離抵抗は同時に剥がす巾が広いほど抵
始めと剥がし終わりに抵抗の最大値が出現し,中
央部にいくほど剥がす巾が狭く,抵抗は小さくな
䇼䊌䊷䉲䊞䊦䉥䊷䊒䊮⬄䇽
る。しかし,パーシャルオープン蓋では飲み口部
䉦䉾䊒 㱢䋷䋱䌭䌭
以外がすべて剥離部となるため,異なったパター
ンをとる。剥がし始めは5(N/カップ)程度で,
ᦨᄢ୯
䋲䋰
抵抗の最大値は剥がす巾が最も広くなる中央部周
辺に出現する。この最大値が実測値で7∼ 15
(N/
㸣
カップ)であり,全体を通してイージーピール性
䋱䋰
が確保されている。
೸㔌〒㔌
以上,前半でパーシャルオープン蓋の機構と性
䋰
能について説明した。
第5図 開封の剥離強度−2
6.開発の経緯
䠝
後半はまず,蓋の開発の経緯と構
䠝᱌䠅 㛤ཱྀ䜻䝱䝑䝥
䠞᱌䠅 䜸䞊䝞䞊䜻䝱䝑䝥
䠇 ✺่䛧䝟䞊䝒
想について触れたい。今までに上市
䠞
されたレトルトカップ入りの主な飲
料商品について,開口方法別に大別
すると,①フルオープン方式,つま
り蓋をすべて剥がしてカップに口を
䠟
䠟᱌䠅 㛤ཱྀ䝣䜱䝹䝮
䞉䝅䞁䝥䝹䠄┬㈨※䠅
䞉᪂つᛶ
䞉䜸䝸䝆䝘䝸䝔䜱
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䝟䞊䝅䝱䝹
䜸䞊䝥䞁⵹
つける方式,②蓋にストローを突き
刺す方式,③開口キャップ方式(ヒ
ートシールした蓋の上にかぶせたオ
ーバーキャップの一部を押し,蓋を
突き破ると飲み口が確保されるも
の:他社にて商品化実績有り)の3
種類に分けられる。
第6図 新たな開口機構案(カラー図表をHPに掲載 C006)
弊社では①,②の方式で商品化し
䇼⵾ㅧᎿ⒟䇽
ているが,何か新しい機構の蓋を開
䊃䉾䊒
䊐䉞䊦䊛
発して,お客さまにぜひ使っていた
䊤䊚䊈䊷䊃
䊤䊚䊈䊷䊃
だきたいという気持ちから,新しい
開口機構の開発に着手した。
開発の初めに,新しい開口機構に
関して必要事項と要求事項を整理し
た。当然必要となるのは,レトルト
䉝䊦䊚▗
㘶䉂ญടᎿ
䉲䊷䊤䊮䊃
䊊䊷䊐䉦䉾䊃
殺菌に耐えうること,飲み口が用意
㘶䉂ญടᎿᓟ
䊤䊚䊈䊷䊃
されることであった。また,容器を
ひと目見て,開口するものであると
認識できること,誰にでも使いやす
いこと,開口に必要な動作が少ない
第7図 製造方法概略図
食品と容器
こと,低価格であることが要求され
246
2011 VOL. 52 NO. 4
た。
部のハーフカット技術導入案は不採用となった。
このほか,数点のアイデアに対する試作テスト
7.開発の構想
を実施したが芳しくなく,結局飲み口加工は次に
新たな開口機構について,弊社社内の関係部署
示す方法に決定された。
でアイデアを出しあった。
9.蓋の製造方法
ここでは3例を紹介する。そのイメージを第6
図に示した。
第7図に,パーシャルオープン蓋の製造方法概
A案)開口キャップ案。方式は前述の通り。
略図を示した。飲み口加工の詳細な説明は別の機
B案)オーバーキャップ+突き刺しパーツ案。
会に譲り,本報では概略化した図で説明する。ま
飲む際にキャップに突き刺しパーツをはめると蓋
ずトップフィルムとアルミ箔をラミネートしてお
を突き破り,飲み口が確保される。
く。シーラントは飲み口加工を行い,最後にすべ
社内討議の結果,A案およびB案は,キャップ
ての層をラミネートし完成する。つまり,全層を
や突き刺しパーツに必要な樹脂の使用量が多くな
ラミネートしてから飲み口をハーフカット技術で
ることから,別な方式が求められた。
加工するのではなく,飲み口を加工してからラミ
ネートする方法で製造している。
C案)開口フィルム案。オーバーキャップに頼
らず蓋のラミネートフィルムのみで開口できるよ
10.まとめ
うな方式。形をシンプルにし,A案およびB案で
問題とした樹脂使用量を少なくし,新規性とオリ
以上,パーシャルオープン蓋の開発についてま
ジナリティーを求めたいという意見から,新しい
とめる。
開口機構の開発はC案(のちにパーシャルオープ
①飲み口加工後にラミネートする製造方法によっ
て,レトルト殺菌可能な蓋に仕上げた。
ン蓋となった方式)に決定した。
②シール部と剥離部を分ける機構の開発により,
8.飲み口加工の試行錯誤
十分なヒートシール強度とイージーピール性能
を両立させた。
最初の構想では,飲み口加工に全層ラミネート
後ハーフカットする技術の導入を考えた。ハーフ
③単独で飲み口を開口することができる。樹脂使
カット技術とは,身近な例をあげるとシールやス
用量を少なくシンプルに仕上げ,新規性とオリ
テッカーがあげられる。シールやステッカーだけ
ジナリティーを持たせた。
つな
にスリットが入っているので,裏紙が繋がった状
④レトルト対応カップとの組合せで,殺菌後に常
態で剥がすことができる。食品容器の例では,即
温販売はもちろん,ホットやチルドでの販売も
席カップ焼きそばの湯きり蓋もこの技術が使われ
可能なパーシャルオープン蓋を開発できたこと
ている。
を強調したい。
しかし,パーシャルオープン蓋をこの方法で試
新しい飲用シーンの提案ができたことをうれし
作する段階で,問題に突き当たった。レトルト殺
く思っている。
菌に耐えうるという条件が,一気に技術確立のハ
飲み口加工の形状を変えれば,食品惣菜のカテ
ードルを高くした。ラミネート試作した層構成に
ゴリーでの新しい食シーンも提案できると考える。
対し,狙った層へ刃を確実に入れることができな
皆様のご意見,ご要望をいただき,今後さまざま
かった。レトルト殺菌後も開封性と密封性を維持
な形で用途展開を図りたい。
※特開2010-13116
できるか,また内容物と接する部分へのドライラ
(大和製罐株式会社 総合研究所 ミネート接着剤の使用がお客さまにご理解いただ
第2研究室 橋本香奈)
けるかという不安材料もあり,できれば避けたい
と思った。結局,全層ラミネート後の飲み口加工
食品と容器
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∼∼∼∼ 技術用語解説 ∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
射出成形 〔injection molding〕
賞味期限 〔best-before〕
成形材料を加熱溶融させて,あらかじめ閉じら
賞味期限とは,
「定められた方法により保存し
れた金型のキャビティー(cavity)に射出充填し
た場合において,期待されるすべての品質の保持
た後,金型内で固化または硬化させて成形品とす
が十分に可能であると認められる期限を示す年月
る成形法で,金型への溶融材料の供給は射出プラ
日をいう。ただし,当該期限を超えた場合であっ
ンジャーまたはスクリューの前進圧力によって,
ても,これらの品質が保持されていることがある
ノズル,スプール,ランナー,ゲートを経て金型
ものとする」と定義される。一方,消費期限(use
内に注入される。射出成形の工程は,①型締め,
by date)は,
「定められた方法により保存した場
②射出,③保圧(キャビティーに充填された材料
合において,腐敗,変敗その他の品質の劣化に伴
の逆流の防止と冷却による体積収縮を防止する)
,
い安全性を欠くこととなるおそれがないと認めら
④冷却(固化),⑤型開き,⑥成形品の取り出し
れる期限を示す年月日をいう」である。
の一連の工程が1サイクルとして繰り返される。
賞味期限は,おいしく食べることのできる期限
複雑な形状のものでも大量生産が可能なので,
であり,この期限を過ぎてもすぐ食べられないこ
プラスチック加工法の中で最も普及している成形
とではない。表示は,3カ月以内のものは年月日
法の一つである。使用材料は熱可塑性樹脂が主体
表示であるが,3カ月を超えるものは年月で表示
であるが,熱硬化性樹脂,ゴム,セラミックおよ
される。
びメタル粉末なども成形可能である。
射出成形の中で重要なアキュムレーターおよび
ランナーについて説明する。
①アキュムレーター(accumulator):一口にい
安全に食べ
られる限 界
えば,溶融した樹脂を蓄積する装置で,射出成形
機のスクリューで溶融した材料を貯留して金型内
に高速・高圧で射出を行うための射出室をいう。
大型容器のブロー成形においても必要な時点でプ
ランジャーを動かしてパリソンを押し出すアキュ
塩水噴霧試験 〔salt spray test〕
ムレーターがある。
②ランナー:熱可塑性樹脂の射出成形でランナー
金属,めっき,無機皮膜・有機皮膜を施した金
部の温度を溶融状態が保持できるように制御し,
属材料の耐食性を評価する試験法の1つ。
ランナーを固化させないで次のショットに利用す
JIS J 2371「試験法そのものに対する規定」に
る。これをホットランナー(hot runner)という。
記載。純水にて溶解した濃度50g/Lの塩化ナトリ
ま た, こ の 成 形 方 法 を ラ ン ナ ー レ ス 金 型
ウム水溶液を水酸化カリウムまたは塩酸によって
(runnerless mold)という。これに対して固化
pH6.5となるように調整した溶液を35℃の槽内に
した製品とともに取り出す標準のランナーをコー
噴霧して試験を行う。
ルドランナー(cold runner)という。
新刊のご案内
缶詰技術研究会設立50周年記念として『容器の事典』を出版しました。
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食品と容器
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2011 VOL. 52 NO. 4
業界の話題
業界の話題 日本食糧新聞社・食サーチ(http://news.nissyoku.co.jp/)より
新日本製鐵,国内鉄鋼業初の HACCP 認証取得
ている。特に飼料用の消費量は7億 3700 万 t か
(日食 2011/02/18 日付)
ら9億 4900 万 t と大きく伸びる。特にアジア,
新日本製鐵は飲料缶や食缶の素材である容器
アフリカ,中東での消費の伸びに生産が追いつか
用鋼板(ブリキ,ティンフリースチール,ラミ
ず,3地域とも純輸入量が増え,北米,欧州の輸
ネート鋼板)について,国内鉄鋼業としては初の
出量が増加,食料の偏在化が拡大していく傾向に
HACCP 認証を八幡,名古屋,広畑の3製鉄所で
ある。偏在化によって米国などが天候不順になれ
同時取得した。食の安全・安心に対する関心の高
ば世界の食料市場に大きな影響が出る。また,ア
まりから海外飲料・食品メーカーを中心に食品容
ジアでは穀物の輸入量が増え,その中で中国は搾
器・素材に対しても食品製造時の安全管理水準に
油用に大豆を 5000 万 t 近く輸入し,その量は世
沿ったレベルが求められている。これに応えるた
界貿易量の半分近くになる。
め,食品安全管理の専門家を起用し,製造・製品
国際価格は 11 年1月段階でtあたりコメが 544
管理レベルの向上に取り組んでいた。認証機関は
ドル,大豆 517 ドル,小麦 284 ドル,トウモロコシ
日本検査キューエイ(JICQA)
。認証取得を機に
255 ドルだったものが,20 年にはそれぞれ 710 ドル,
海外から複数の取引拡大の問い合わせがあり,同
510 ドル,300 ドル,220 ドルとなると予測した。
社は「今後ともユーザーから求められる厳しい食
この見通しは農水省と農林水産政策研究所が
品衛生管理レベルに応えられる高級製品を通じて
08 年度から毎年実施,人口増加率や経済成長率
世界の食品産業に貢献したい」としている。
について一定の前提をおいて 10 年後の状況を予
2020 年食料需給見通し,穀物需給さらにひっ迫
測している。
価格も上昇傾向で推移 農水省
食品ヒット大賞,新技術・食品開発賞特集:第
(日食 2011/02/21 日付)
29 回(平成 22 年度)食品ヒット大賞
農林水産省は 18 日,
「2020 年における世界の食
(日食 2011/02/25 日付)
料需給見通し」を公表した。世界的な人口増加,
日本食糧新聞社制定の平成 22 年度(第 29 回)
「食
新興国・途上国の経済成長を背景に穀物と大豆の
品ヒット大賞」受賞商品が決まった。長引く政経
食用・飼料用,バイオ燃料用の増大で需要が供給
不安,不況の中,生活者の節約志向は依然続いて
を上回ると予測,価格も 07 年以前に比べ高い水準
おり,消費方向は「プレミアム消費」と「極限低
の上昇傾向で推移する見通し。指標となる全穀物
価格志向型」に分散,消費の多極化が目についた。
の期末在庫率は,19 年末で 13.3%と国連・食糧農
食品界全体では残念ながら“大型商品不在の年”
業機関(FAO)が定めている安全在庫水準 17 ∼
だったが,各論・各場面では技術を駆使した高付
18%を大きく下回り,世界同時不作のあった 1972
加価値をもった商品が散見された。その中で業界
年の 15.4%よりも低く,厳しい見通しとなった。
をリードしたのが,今年度のヒット大賞受賞商品
1960 年代以降,穀物の生産量は主に面積当た
だった。平成 22 年度の「食品ヒット大賞」贈呈式・
りの収穫量(単収)の伸びで増加してきたが,中
祝賀会は2月 25 日午後2時から,東京・「明治記
長期的には需要量の増加に生産量が追いつかない
念館」で挙行される。
状態だ。世界的な人口増加,所得の向上に伴う畜
平成 22 年度(第 29 回)
「食品ヒット大賞」選
産物の需要増加などに加えて,投機資金の流入で
考委員会は昨年 11 月 29 日,東京・明治記念館で
穀物価格は高騰する可能性が高い。
各選考委員が出席し開催された。全国の有力小売,
穀物の生産量は 08 年が 21 億 6500 万 t で 20 年
卸など 112 社のモニター企業に推薦を依頼,80
には 26 億 4700 万 t と増えるが,消費量はそれぞ
社(回答率 71.1%)からの回答を得た。
れ 22 億 t,27 億 t で生産を上回る増加率となっ
ノミネートされた商品について,慎重・厳正な
食品と容器
249
2011 VOL. 52 NO. 4
業界の話題
選考審査が行われた結果,大賞は 10 年の「食」を
売)
盛り上げたサントリー酒類「サントリーオールフ
サトーと東京理科大阿部教授グループ,世界初・
リー」
,日清食品「日清ラ王」
,桃屋「辛そうで辛
焼却時に発生する CO 2吸収剤のラベル化に成功
(日食 2011/03/07 日付)
くない少し辛いラー油」の人気3商品が受賞した。
○(第 29 回)「食品ヒット大賞」受賞商品(部
自動認識システムとシール・ラベル製造・販売
門別社名五十音順)
のサトーと阿部正彦東京理科大学教授を中心とす
◆食品ヒット大賞
るベンチャー企業アクテイブは,世界で初めて焼
・「サントリー オールフリー」 サントリー酒類
却時に発生する CO 2 を吸収するラベルの開発に
・「日清ラ王」 日清食品
成功した。阿部教授の研究グループが開発した
「NVC(ナノベシクルカプセル)技術」で,
「CO
・「辛そうで辛くない少し辛いラー油」 桃屋
◆優秀ヒット賞(社名五十音順)
2
吸収剤」を粘着剤に添加してラベル化したこと
〈一般加工食品部門〉
で,焼却時にラベル自体の CO 2 発生量を減らす
・「JANJAN ソース焼そば」 エースコック
だけでなく,周囲の CO 2 も吸収していることが
・「トマぽん」 カゴメ
実証実験で確認された。現在,NVC 技術による
・
「キユーピー 具のソース」シリーズ キユーピー
CO 2吸収剤は,ショッピングバッグやプラスチッ
・「キリン 午後の紅茶 エスプレッソティー」 ク製ダンボールに応用され製品化されているが,
キリンビバレッジ
ラベルとしての製品化は世界で初めて。
・ハウス「ふうふうシチュー」 ハウス食品
今後,サトーはこの CO 2 吸収剤を使用した粘
・「ふじっ子煮 生姜こんぶ」 フジッコ
着剤を,台紙のない「ノンセパ」ラベルに応用し,
・「味ぽん MILD」 ミツカン
製品化する予定だ。
・「ヤマサ 鮮度の一滴」 ヤマサ醤油
NVC 化された CO 2吸収剤を粘着剤に使用したラ
〈酒類部門〉
ベルは,添加していないラベルに比べ,焼却時に発
・「JINRO マッコリ」 眞露ジャパン
生する CO 2を 20%以上削減する効果があると,東
〈チルド食品・フローズン食品部門〉
京理科大学の TG/DTA 分析で確認されている。
・「ベルガヴルスト」シリーズ 伊藤ハム
ノンセパは,産業廃棄物となるシール・ラベル
・「meiji Yoplait グルト!」 明治乳業
の台紙を省いた環境保全に貢献する製品であるこ
・「ミルミル」 ヤクルト本社
とから導入企業が増加し,今回 CO 2 吸収剤を添
・「ザクリッチ」 ロッテアイス
加したノンセパを新たに商品化することで,環境
〈菓子・パン部門〉
保全製品の一層の充実を図る。
・「ストライド」 日本クラフトフーズ
NVC 技術の特徴は,CO 2吸収剤は 100nm(1n
〈ナノ〉= 10 億分の1)以下のカプセル状の物質で,
・「ネスレ キットカット オトナの甘さ」 ネス
レ日本
CO 2吸収剤をナノ分散させることで反応する面積
・「アーモンドラッシュ」 ブルボン
が増加し,効果がアップする。この吸収剤にはナ
・「ガルボボール」 明治製菓
ノサイズの穴が開いていて,高温でも融解したり
◆ロングセラー賞(発売順)
気化したりすることなく,焼却時に発生する CO 2
・「プッチンプリン」 グリコ乳業(昭和 47 年発
と反応して固定し,結果的に CO 2排出量を大幅に
売)
抑制できるメカニズムを構築している。
・「ベビーチーズ」 六甲バター(昭和 47 年発売)
さらにサトーでは,この CO 2吸収剤をシール・
・「カルピスウォーター」 カルピス(平成3年発
ラベル製品だけにとどまらず,チケットやリスト
食品と容器
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2011 VOL. 52 NO. 4
業界の話題
バンド,カーボン・リボンなどのサプライ製品全
告。原材料の入手先による帳票など情報そのもの
般に応用可能であることをすでに確認しており,
を保証する情報のやり取り量を減らすには,品質
特許を出願している。
情報を管理する体制の情報のやり取りが有効とす
共同印刷,簡単開封の新型容器「バナナオープン」
る結論を示した。4月以降に情報管理体制に求め
開発 (日食 2011/03/09 日付)
られる条件などを検討していく。
共同印刷は,バナナの皮をむくように容器を開
食品メーカー,卸,小売の間での商品情報のや
封する新型フレキシブルパッケージ「バナナオー
りとりは商品規格書(商品カルテ)などが使われ
プン」を開発し,3月から本格的な提案を進める。
ている。商品カルテは小売業によって書式,網羅
1枚のフィルムから容器とふたを作る特殊な形状
すべき項目の定義などが異なり,メーカー,卸売
のため,軟包装でありながら内容物の型崩れを防
業の業務が煩雑になっていた。
ぐことができる。サンプル出展した展示会でも高
研究会は7月から5回にわたって検討。メー
い評価を受け,菓子や珍味業界を中心に提案を進
カー,小売などの企業が参加しているため,利害
める。今秋にも量産体制を整え,11 月から納品を
関係で対立する可能性もあったが,消費者を起点
開始する。初年度は3億円の売上げを目指す。
とすることで意見調整を進め,どういった情報が
「バナナオープン」は名前の通り,バナナの皮を
必要なのか,その情報はお客様相談室,店頭の
むくように軽い力で開封できるパッケージ。フィ
POP,商品の表示の確認などどの状況で使われる
ルムの上端をつまんで引くと,シール部分が剥が
のかを整理してきた。
れて内容物が取り出せる。誰でも簡単に開封でき
その中でやりとりする情報は(1)消費者か
るユニバーサルデザインに配慮した新型容器だ。
らの問い合わせに必要な情報(2)情報の信頼
1枚のフィルムで容器とふたを構成するため,
性を保証する情報(3)消費者に発信したい情
内容物が型崩れせず,スナック菓子やブロックタ
報(4)法令順守のために必要な情報 -- に分類
イプのチーズなどに適する。オプションでトレー
してきた。その中で,信頼性を保証する情報は
を付加することもでき,強度アップに対応。内容
原料の原産地やアレルギー物質の不使用などで,
物に合わせた仕様に,カスタマイズした専用の高
取引の中でやり取りされる項目数として二番目
機能フィルムと量産機を販売する。
に多いため,削減できれば効率的な情報のやり
同製品は,昨年 10 月に開催されたアジア最大
取りが可能になると仮説をたて,原材料の配合
級のパッケージ総合展「東京パック」に参考出展
割合,原料原産地を選んで他の手法を使ってシ
され,食品業界を中心に高い評価を得ていた。今
ミュレーションした。
後は菓子や珍味類,健康食品を取り扱うメーカー
その結果,信頼性を保証する情報はメーカー
を中心に積極的に提案する。
の情報管理体制に関する情報をやり取りするこ
FCP 成果報告会,情報管理体制の構築で商品情
とで,実際にやり取りする情報項目の量,回数
報の効率的やりとりを (日食 2011/03/14 日付)
を減らす可能性があることがわかった。情報の
農林水産省が事務局となっているフードコミュ
一元管理,商品カルテなどを整備することでや
ニケーションプロジェクト(FCP)は8日,東京・
り取りしなくても済むのだ。4月以降,さらに
文京区の東京大学で 10 年度の成果報告会を開い
ケーススタディーを広げて深掘りしながら,信
た。製造業,卸売,小売,消費者の間での情報の
頼性を保証する情報以外でも功利的な方法を検
共有方法について検討してきた FCP の分科会で
討していく。
ある「商品情報の効率的なやりとり研究会」も報
食品と容器
251
2011 VOL. 52 NO. 4
今月の統計
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今月の統計
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食品と容器
253
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ɜព៥ɝ特集 ―抗加齢(アンチエイジング)医学の実践―
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ɜព៥ɝ特集―食物アレルギーの現況―
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ɜព៥ɝ明るい兆しも見え始めた10年清酒市場∼上位銘
ɜព៥ɝ特集―有用成分ポリアミン―
柄の出荷動向∼/課税移出は厳しさ増し15年連続減
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ɜព៥ɝ数字で見る10−11年のビール類市場∼計画達成
ɜព៥ɝ市場動向―健康食品の市場動向と素材・技術研
食品と容器
でも7年連続の市場縮小∼
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最近の技術雑誌から
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ɜព៥ɝ3年ぶりに拡大,10年の清涼飲料市場/天候要
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因は5,000万箱超へ
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た?!/菓子業界の販売促進策/春の企画で巻き返
ɜព៥ɝ特集─2010年清涼飲料市場総括と2011年の戦略
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/特需に沸いた2010年,“両極化”に向かう飲料産業─
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ɜព៥ɝ統計データに見る食市場環境の変化
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ɜព៥ɝ特集―食品の殺菌・滅菌技術―
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ɜព៥ɝ特集―清涼飲料製造の技術動向―
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ɜព៥ɝ特集―サニタリーポンプ・バルブ・配管機器と
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ɜព៥ɝサンマ缶詰,漁獲減で供給タイト/値上げ浸透
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ɜព៥ɝ特集 ―HACCP成功のための衛生教育&トレ
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報(日刊経済通信社調)
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ɜព៥ɝ好循環で需要を支える即席めん市場/コストア
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・フォラム・つくば」より)―
食品と容器
255
2011 VOL. 52 NO. 4
最近の技術雑誌から
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ɜព៥ɝ段ボール市場,2年連続成長に期待/需要喚起
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策と加工食品の活性化がカギ
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ɜព៥ɝ特集2―食品包装の“新たな10年”を展望する
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点」―
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ɜព៥ɝ特集―排水処理と汚泥減容化―
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〔解説〕特集─第48回全日本包装技術研究会/優秀発表─
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ɜព៥ɝ2010年度工場における環境問題対応に関する調
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査結果
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ɜព៥ɝ食品ロス(缶びん詰,レトルト食品)とフード
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バンクへの無償提供について−平成21年度フードバ
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ンク活動実態調査報告書と最近のフードバンク団体
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食品と容器
活動から−
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256
2011 VOL. 52 NO. 4
最近の技術雑誌から
……………………………………… 59∼60,62
海
外
○ゼラチンとそのハイドロコロイド代替手段
編
Gelatin and Its Hydrocolloid Alternatives
A.A.Karim and R.Bhat ……………………………67∼78
○脂肪と油:WOW(Water-in-Oil-in-Water)エマルジョン
邦文の題名は内容に従って付けてありま
すので,原題と異なる場合があります。
の特性と用途 Fat and Oil Functionality : A Little Wow Goes a
Long Way
B.Dieroff ……………………………………… 81,83∼84
○フルーツの健康効能
Beverage Industry (U.S.A.) Vol.102 Jan.(2011)
Fruitful Health Benefits
○果汁飲料の新しい試み
………………………………… 87∼88,91∼92
Smaller Sectors Growing for Juice Drinks
J.Jacobsen ……………………………… 16,18,20∼22
Food Manufacture(U.K.)Vol.86 Jan. (2011)
○自動販売機の機能強化
○持続可能な食品のサプライチェーン会議概要
Vending Channel Changes with the Times
A Good Climate for Bright Ideas
M.V.Strzelecki ……………………………… 42,44∼45
R.Addy ……………………………………………27∼28
○キャップとクロージャーの合理化と差別化
○生物多様性とニューカーボンフットプリント
Caps and Closures Shrink in Size
How to Beat the Growing Pains
R.Pas ………………………………………………46∼48
D.Burrows …………………………………………31∼32
○2011年,新製品の開発トレンド調査 ○スープとソースの市場動向
2011 New Product Development Survey
Soup It Up
J.Zegler ……………………………………………52∼62
A.Bruce ……………………………………………35∼36
○製品品質と生産性向上に優れる缶の充填と巻締
○冷凍・冷蔵施設の防災対策
システム
Blow Hot and Cold
Maximizing Can Seaming and Filling Efforts
M.Knott ……………………………………………39∼40
J.Popp …………………………………………… 72,74
Food Technology (U.S.A.)Vol.65 Jan. (2011)
Prepared Foods (U.S.A.) Vol.180 Jan. (2011)
○ニューアメリカンファミリーの「食」事情
○健康と天然に焦点を当てたシリアル製品
The New American Family
Cereals Target Health and Natural
A.E.Sloan …………………………………………22∼31
W.A.Roberts ………………………………………13∼14
○基本に返る健康飲料
○甘味料と体重管理
Healthy Beverages : Back to the Basics
Sweeteners and Weight Management
T.Tarver ……………………………………………32∼39
Opportunities
○米国におけるFOPラべリングシステム
L.Loving ……………………………………… 25∼26,28
Being Upfront with Front-of- Pack Labeling
○段階的塩削減と塩代替による減塩市場の動向
K.Frederick ………………………………………40∼46
Salt Reduction ○原料開発によるパンカテゴリーの刷新
C.Beeren ……………………………… 31∼32,33∼34
Breads and Beyond ○伝統的な栄養素と健康効能
D.E.Pszczola ……………………………………50∼65
Emerging Health Benefits for Traditional Nutrients
○マイクロカプセル化技術と課題
K.Fitzpatrick ……………………………… NS3∼NS12
Measuring Encapsulation Efficacy
○メキシコの味:チリソース
N.H.Mermelstein …………………………………72∼76
Chiles:The World’s Most Versatile Fruit
○食品の非熱高圧処理の効果
食品と容器
257
2011 VOL. 52 NO. 4
最近の技術雑誌から
Functionality Effects of Nonthermal Processes on
Journal of Food Science (USA) Vol.76
Jan./Feb.(2011)
Foods
J.P.Clark …………………………………………77∼78
○天然および養殖魚の初期処理工程と品質
First Processing Steps and the Quality of Wild and
Food Processing(U.S.A.) Vol.72 Jan.(2011)
Farmed Fish ○2011年の米国食品業界の展望
A.J. Borderias and I. Sanchez-Alonso ……… R1∼R5
Food is Changing in 2011
○日本の食用褐藻類の抗酸化活性比較
D.toops and D.Fusaro ……………………………22∼30
Comparative Antioxidant Activity of Edible Japanese
Brown Seaweeds
○2011年のフレーバートレンド
New Year, New Flavors
M. K. Widjaja-Adhi et al. ……………… C104∼C111
M.Anthony …………………………………………33∼38
○缶の自然対流加熱中における水およびエアーの速度と
温度の特性
○2011年の食品製造業のトレンド調査
Annual Manufacturing Trends Survey :
Velocity and Temperature Field Characteristics of
1 Percent Better
Water and Air during Natural Convection Heating
……………………………………………44∼49
in Cans
F. Erdogdu and M. Tutar ……………… E119∼E129
○膜技術を利用したオカラおよび大豆タンパク濃縮食品
Food Engineering(U.S.A.)Vol.83 Jan.(2011) の製造
○食品工場のセキュリティー対策 Production of Okara and Soy Protein Concentrates
Plant Security Access Granted
Using Membrane Technology
K.T.Higgins ………………………………………70∼80
○食品の安全と品質に関する自動データ収集システム
K. H. Vishwanathan et al. ……………… E158∼E164
Rapid Reporting on Demand
○サルモネラ菌のバイオフィルム形成に対する栄養およ
び環境条件の影響 K.T.Higgins ………………………………………83∼93
Effects of Nutritional and Environmental Conditions
○食品の高圧非熱処理システム on Salmonella sp. Biofilm Formation
The Heat May be off, but the Pressure is on
B. Speranza et al. ………………………… M12∼M16
W.Labs …………………………………………123∼136
○選定農産物における残存二酸化塩素ガスの評価
Beverage Worlds (U.S.A.) Vol.130 Jan.(2011)
Evaluation of Chlorine Dioxide Gas Residues on
○各種飲料カテゴリーの将来展望
Selected Food Produce
The 2011 Forecast
V. Trinetta et al. …………………………… T11∼T15
……………………………………………25∼38
International Bottler & Packer(U.K.) Vol.85 Feb.(2011)
Packaging Digest (U.S.A) Vol.48 Jan.(2011)
○革新的な低温殺菌システム
○パネルディスカッション:2011年パッケージトレンド
An Innovative Pasteurisation System
Packaging Trends 2011
…………………………………………………14
L.M.Pierce …………………………………………34∼36
The Canmaker (U.K.) Vol.24 Feb.(2011)
Food & Beverage Packaging(U.S.A.) Vol.75
Jan./Feb.(2011)
○世界の飲料缶製造ラインの勢力図
○ペットフード包装のトレンド
J.Nutting …………………………………… 26∼27, 29
Pet Food: Packaging that’s Fetchingly Flexible
○製缶の歴史:コンビーフ缶とエアゾール缶
R.Lingle ……………………………………… 28,30∼31
Shape of Things to Come
○グリーン化に向かうクロージャー
J.Nutting …………………………………………36∼37
Closures: Taking A Turn on‘Green’
○伸長著しいブラジルのビール市場
R.Lingle …………………………………………… 32,34
Brazilian Boom
Global Contrasts
T.Woerndl …………………………………………38∼39
食品と容器
258
2011 VOL. 52 NO. 4
とっては有難いことであり,特に現在の若い女性
野菜・果物を巡って
に要求される条件である。
スプラウトの歴史はかなり古く5000年前の古代
中国で,マメ科のスプラウトであるもやしが栽培
されていたといわれている。その他18世紀後半に
南太平洋などをエンデバーで航海したキャプテン
・クックは船上で大麦のスプラウトをつくり,船
(第二十八話)
スプラウトを活用する
乗りたちの栄養補給に用いたといわれている。こ
れは大麦麦芽であるから,わずかに甘味もあり味
がよかったと推察される。
かいわれ大根は1970年代に水耕栽培が普及する
までは高級食材的存在であった。この時期に水耕
吉田 企世子
栽培方式によってかいわれ大根を栽培する生産者
(女子栄養大学名誉教授)
が多く誕生したのである。しかし,先に記したよ
うにO-157汚染による食中毒事件の際,当時の厚
生省の調査によりかいわれ大根が汚染源の可能性
が高いと報道された。そのための風評被害で壊滅
1996年(平成8年)岡山県で学校給食による食
的打撃を受け,倒産・破産する生産者が増加する
中毒事件が発生し,その後大阪府その他で同様の
という事態となったのである。原因については,
症状を呈する食中毒が続発した。これは腸管出血
近くに屠畜場があり,それが関係しているとの説
性大腸菌O-157に起因するものと判明されたので
もあったが,特定できなかったと記憶する。
ある。はじめてそのような大腸菌の存在を知った
一時期は店頭で見かけることが少なくなったが,
出来事であったので,よく記憶している。その原
現在は食中毒事件など関係なく,かつて活用され
因食品がかいわれ大根であるとのことで,かなり
たように手軽に用いられているようである。緑色
話題になり,少々パニック的事件であった。それ
の小さな葉と白色部が料理の彩として具合がよい
まで日常的に用いていた野菜なので,不安感がつ
ことやピリッとした味にポイントがあって引き締
のったのである。しかし,結果としてはかいわれ
まることなどで好まれているのである。
大根ではなく,原因は不明のようである。
五訂増補食品成分表によるとβ−カロテン,葉
かいわれ大根は代表的なスプラウトである。か
酸,ビタミンCなどが多く含有される。形態上,
つて,スプラウトとは表現しなかったので,いか
白色部に対して緑葉の割合が多いことでこのよう
にも新しい野菜のような錯覚をもつが,植物の新
な成分特徴となっているのであろう。軽量の野菜
芽の総称がスプラウトであるから,日本では古く
なので,生食する場合には1回に用いる量はせい
から活用していたことになる。たらの芽,ぜんま
ぜい30g程度であるから,栄養的にはあまり期待
い,ふきのとう,もやし等々。しかし,これらの
できないと予想され勝ちであるが,実は,ビタミ
他に,アルファルファやブロッコリー,紫キャベ
ン類の含量が多いので,その供給源としての働き
ツ,そばなどの新芽が登場し,新野菜として関心
も大きいのである。特に葉酸の供給源になること
が高まったのである。
は注目してよい点である。日本人はもっと多くの
人気があるのは,簡便に利用できる野菜である
葉酸を摂取する必要があるとされている。脳梗塞,
こと,味もそれぞれに特徴があり,それなりに美
奇形児,認知症などの発症を予防するには現在の
味しいこと,栄養成分が豊かなことなどが魅力的
推奨量では不足であると一部の専門家は提唱して
なのである。簡便性は食事づくりを担当する者に
いる。遺伝子的に日本人は葉酸利用率が低いとの
食品と容器
259
2011 VOL. 52 NO. 4
こと。また食品中の葉酸の多くは吸収されにくい
は緑豆が用いられている。かつて日本でも緑豆を
ポリグルタミル葉酸であるとされている。ブロッ
輸入して用いられたが,中国でも生産量が少なく
コリー,ほうれんそう,なばな,しゅんぎく,ク
なり,その後はブラックマッペと呼ばれる黒褐色
レソン,ふきのとうなど一般に緑色野菜は葉酸を
の小粒の豆が原料になった。現在も用いられてい
多く含有するので,これらを上手に活用すること
る。大豆もやしがとくに美味しいと感じるのは偏
が望ましいのである。クレソンやふきのとうはス
見であろうか。元来,大豆は好物の食べ物なので,
プラウトである。多くのスプラウトはビタミンC
どのような食べ方でも美味しいと感じてしまう。
や葉酸の含量が多いのである。かつて,ブロッコ
もやしの先端についている大豆が大変美味しいの
リースプラウト,マスタードスプラウト,クレス
である。もやしは他のスプラウトと異なって加熱
スプラウト,紫キャベツスプラウトなどのミネラ
料理に用いられるのが主体であるが,味噌汁の具,
ル,ビタミン含量を測定したことがあるが,いず
各種の野菜と組み合わせた炒め物,煮込み料理な
れも葉酸を多く含有し,100㎍/ 100g以上とい
どと広く活用できる。
う結果であった。
“もやし”とは,本来,各種穀類や豆類の種子
葉酸は加熱調理による変化で,栄養効果が落ち
を発芽させたものの総称であるが,一般には豆
るとされているので,生食が主体のスプラウトは
類のもやしが野菜として扱われている。水洗し
大変具合のよい供給源である。
た豆を温水に浸け,暗所で十分に水浸させると
かいわれ大根と比較するとアルファルファは外
発芽してくる。大豆もやしは8㎝程度に発芽した
観も味も劣るので,ひとつ人気はないが,最近は
状態で市販されている。もやしには葉酸は含有
サプリメントとしても販売されている。中央アジ
されないが,ビタミンCの供給源となる野菜であ
ア原産の植物で頑丈な根から多数の茎を叢生し,
る。発芽過程でのビタミンC含量の変化を測定し
伸びると1m程になるようである。夏に濃紫色か
たことがあるが,芽が2㎝程度に伸びた時が最
ら白色の蝶型の花をつけるのであるが,スプラウ
も含量が多かった。しかし,この程度の発芽で
トとして用いるのはやわらかい新芽である。アル
は容量が小さいので,価格は少々高く設定する
ファルファは牛などに与える牧草として使われる
ことになる。
と認識していたので,食用とされることに少々お
味が良好で栄養成分が多いのはブロッコリース
どろいた記憶がある。
プラウトである。料理づくりを得意としない女性
広く活用されているスプラウトはもやしであろ
は普通のブロッコリーは調理に時間がかかって使
う。日本では大豆もやしが主体であるが,中国で
いにくいという。スプラウトの活用を勧めたい。
未曾有の大震災で被災された多
昨今の経済,自己中心にぶれた日本が,この大震災を
くの方々に,心よりお悔やみとお
契機に劇的に変わり,希望が持てる日本を築いていく歴
見舞いを申し上げます。
史的な転換点であってほしいと心から願う。
(輝)
連日の報道を見て,考えさせら
れることが多く,一つは危機管理
食 品 と 容 器 第 52 巻 第
に対するリーダーの実行力の重要
性,もう一つはどんな困難に遭遇しようと,助け合い,
立ち向かおうとする人々の振る舞い(無念,絶望など,
とても言葉で言いつくせないが)である。海外メディア
の念で受け止められているという。日本人が失ってはな
らないものはこの忍耐と互助の精神でなかったか。私心
−禁無断転載−
を捨て,隣人を愛するとともに,広く,深い視野に立っ
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乱丁・落丁本はお取り替えいたします。
た心構えを自らも持ちたいと自戒を込めて思う。
食品と容器
発行所 缶
定 価
1部 800円
年間 8,000円
(送 料 共)
によるとこうした日本人の沈着冷静な行動が驚きと畏敬
4 号
FOOD & PACKAGING 平成23年 4 月 1 日発行
260
2011 VOL. 52 NO. 4