2. 迷宮としての都市

2014/5/19
社会学II 5章 都市
1. 自由の空間としての都市
近代化=都市的空間の全域化
「都市の空気は自由にする」
「社会は、それ自身、城壁内に全民衆を包含している
大都市に類似したものとなった」(E.デュルケーム『社会分業論』)
(ドイツ中世都市における慣習法)
封建領主の所領
政治的自由
村落共同体や封建領主の所領に対して
自立した=自律的な政治的単位
国民国家
社会的自由
城 壁
村落共同体的な一次的社会関係
(地縁・血縁)ではなく、見知らぬ
他者どうしの二次的社会関係
近代都市
近代市民社会
商品・情報
村落共同体
経済的自由
資本主義市場経済
共同体の外部、共同体のあいだの
自由な商品交換の場(=市場)
M.ウェーバー『都市の類型学』
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遊歩者とパサージュ*
2. 迷宮としての都市
• 遊歩者
• 近代都市の迷宮
– 19世紀初頭 パリの街路に登場した有閑ブルジョワジー
– 「見知らぬ人々」の集合
「遊歩者は、市民が自宅の四方の壁の中に住むように、
家々の正面と正面のあいだに住む」
• 19世紀: 匿名的な群集/遊歩者の出現
– 精神的疎遠と自由
– 近代都市とアルカイックな神話的世界との照応
• 公共空間と私的(private / intimate)空間との分割
「都市は古代の人間の夢が実現されたもの、すなわち迷宮である。
こうして実現される現実に、それと知らないままに遊歩者は没頭する」
• 遊歩者の両義性 (W.ベンヤミン)*
• パリのパサージュ
– 批判的な観察者
– 19世紀初頭、パリに登場したガラス屋根の商店街
• 迷宮を解き明かす理性 (⇒「探偵」のまなざし)
「ひとつの都市、いやそれどころか縮図化されたひとつの世界」
初期資本主義時代の未来への夢を凝縮
– 受動的な陶酔者
• 迷宮への没頭・陶酔(⇒ノスタルジア)
– オスマンのパリ改造(都市空間の合理化・均質化)とともに衰退
* 近森高明 2007 『ベンヤミンの迷宮都市―都市のモダニティと陶酔経験』
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*W.ベンヤミン『パサージュ論』1‐5 (岩波現代文庫)
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社会学II 5章 都市
「迷宮としての都市」の原像
江戸川乱歩と東京* (1)
• 群集と遊歩者
– 私は浅草の映画街の人間の流れの中を歩いていて、それ
となくあたりの人の顔を見廻しながら、この多勢の中には
きっと一人や二人の犯罪者が混っているに違いない、もし
かしたら今人殺しをしてきたばかりのラスコリニコフが何食
わぬ顔をして歩いていないとも限らぬ、ということを考えて
見て、不思議な興味を感じることがある。……
– それは恐ろしいけれども、又異様に潜在願望をそそるとこ
ろの気持である。
クレタ島クノッソスの宮殿
(左:想像図/右:見取図)
(「群集の中のロビンソン・クルーソー」 1935)
– 「見通し難い空間」としての都市
の神話的・隠喩的形象
* 松山巌 1984 『乱歩と東京――1920 都市の貌』
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3. 美的空間としての都市
江戸川乱歩と東京* (2)
• 故郷喪失者たちの出会い
• 田園都市 (garden city) 構想(E.ハワード)
(「D坂の殺人事件」 1925)
– 君は僕たちがどんなふうな幼馴染みだったかということを、
内面的に心理的に調べてみましたか。……
– あの晩、なぜ彼女を知っていることをいわなかったか、そ
のわけは簡単ですよ。僕は何も参考になるような事柄を
知らなかったのです……
• プライベートな空間
(「屋根裏の散歩者」 1925)
– よく注意してみますと、ある人々は、そのそばに他人のい
る時と、ひとり切りの時とでは、立ち居ふるまいはもちろん、
その顔の相好までが、まるで変るものだということを発見
して、彼は少なからず驚きました。
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– 郊外へ移住する新興中産階級のための理想的住宅地建
– 都市問題への解決策
• 「アメニティ」(amenity)概念の登場
– 1909 イギリス都市計画法
• 私権への行政介入・公的規制を支える法理論の必要
– 衛生・利便性と並ぶ、都市計画の第三の目的
– 美観・快適性・歴史的継続性 ⇒より望ましい生活世界
ル・コルビュジエによる
田園都市計画のスケッチ
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社会学II 5章 都市
近代建築の挫折
近代建築の理念
「機能主義」の変質
機能主義 (functionalism)
コミュニティ・生活者
にとっての機能性
• モダニズム運動の一環
• 美的形式と社会的機能との一致
経済・政治システムに
とっての機能性
• 機能連関の不可視化
「機能的なものは美しい」(B.タウト)
– かつて都市は見渡すことのできる生活世界として、建築的
に造形し、感覚的に表象することができた。……
– しかし19世紀後半、都市は別の種類の機能的諸連関の
交点になる。……
社会環境の総体を芸術作品として構築
普遍的な形成要素となった芸術は、社会環境にひとつの
統一を与えることができる。この統一は、単純な椅子から
礼拝堂まであらゆるものを含む、ひとつの文化の純粋な
基礎となるものである。(W.グロピウス)
– 都心部を支配する顔のないオフィス群から、それらが結節
点となっている機能連関を見てとることはできない。
(J.ハーバーマス 1995 「近代建築とポストモダン建築」
『新たなる不透明性』[松籟社] 所収)
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美的空間の再構築の可能性の条件*
① 参加
• リアリゼーション[現実化]の段階での市民参加
② コラボレーション(共同作業)
• コミュニケーションのビジュアル化
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第5章のキーワード
自由の空間としての都市
迷宮としての都市
遊歩者
美的空間としての都市
アメニティ 近代建築
機能主義
③ 建築の外部化
• 内部空間と外部空間との連続性の追求
④ 私有の打破
• 公共空間の構築
*隈研吾「都市のデザインコラボレーション」
(http://www.academyhills.com/aboutus/gijiroku/20/20_11.html)
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参考文献[追加]
• 若林幹夫 1996 「社会学的対象としての都市」(岩波講座現代社会
学18 『都市と都市化の社会学』岩波書店)
• 吉田純 2005 「都市の変容――工業社会から情報化社会へ」
(岩波講座「都市の再生を考える」I 間宮陽介編 『都市とは何か』岩波書店)
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