Vol. 92 特 集 選挙権は回復したけれど 洛西支部 田 尻 世津子 平成25年9月15日、台風上陸の予報にも関わら が確認できた被後見人の投票率は7.56%、投票が ず、東京都港区の障害保健福祉センターに全国か 困難な重度の障害者や認知症の人もいることを考 ら多数の研究者や支援者が集まり、 「ありがとう集 えると、低くない数字です。選挙権は回復しまし 会(選挙権回復の軌跡 そして今後に向けて) 」が たが、このような投票を希望する人たちの投票行 開催されました。 動を支援するとともに、よりわかりやすく、理解 この「ありがとう集会」は、平成23年2月1日 して投票できる仕組みを作るための努力も、また 東京地方裁判所に、48歳の成年被後見人である女 始めなければなりません。 性が「選挙権のあることを確認せよ」という訴訟 また、成年被後見人と被保佐人には、法令でま を提起したことに始まります。公職選挙法第11条 だ多くの制限が課されています。選挙権訴訟は、 第1項第1号で成年被後見人の選挙権を制限する 本人だけでなく、本人を守るために成年後見制度 のは、憲法違反であるというのです。実は、成年 を利用したところ、逆に国民主権の根幹である選 被後見人の選挙権の制限の問題は、憲法学者も気 挙権という、より重要な権利を失わせてしまった づいていなかったといわれており、行政訴訟の勝 ことに対する、「このままでは死に切れない」とい 率は10%、ましてや違憲訴訟となると、提訴にあ う親族の決死の思いに支えられた訴訟でもありま たっての代理人弁護士の逡巡は相当なものであっ した。ある母親は集会で、本人に「 (大事な選挙権 たようです。 を奪うことになる成年後見の申立てをする)親ほ その後、さいたま、札幌、京都で同じような裁 ど怖いものはない」と言われたという、辛い体験 判が起こされ、訴訟提起から約2年後の平成25年 を語っておられました。 3月14日、東京地方裁判所において、定塚誠裁判 (公社)成年後見センター・リーガルサポートで 長が違憲と判断し、 「原告は選挙権を行使する地位 は、選挙権訴訟提起の前から、成年後見制度が他 にあることを確認する」という原告勝訴の判決を の法令で成年被後見人等の権利制限や、後見人に しました。 義務を課すのに安易に転用されているのは問題が 国側は東京高等裁判所に対し控訴しましたが、 あるのではないかとの研究を続けていたため、こ 40万人以上の署名を集めて裁判を支援してきた の訴訟に対しても署名活動等で支援してきました。 「 (社福)全日本手をつなぐ育成会」が院内集会を その研究成果を昨年11月16日の市民公開シンポジ 行うなど、国会に対し働き掛けることにより、ま ウム「成年被後見人が受ける170を超える権利制限」 た、参議院議員選挙が迫っていたこともあり、異 において報告し、続いて「実践成年後見」 (㈱民事 例の速さで、5月27日には法改正がなされ、約 法研究会発行)でも報告します。 13万6000人の選挙権が回復されたのです。そして、 選挙権の問題は解決し、日本は本年1月20日、 「障 すべての裁判で国側と和解が成立しました。そこ 害者の権利に関する条約」の批准書を国連に提出 で開催されたのが、この「ありがとう集会」でした。 し、140番目の締約国となりましたが、これからも さて、 (公社)成年後見センター・リーガルサポー 成年被後見人・被保佐人等に課されている権利制 トの会員に対するアンケートによると、選挙権回 限の問題に関心を持ち続けたいと思います。 復後最初の国政選挙である参院選で、投票の有無 − 11 −
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