日消外会誌 29(10):1964∼ 1967,1996年 下部直腸手術 における腰部高位 の体位 の有用性 についての検討 藤田保健衛生大学医学部消化器外科,社 会保除埼玉中央病院外科 キ 前 田耕太郎 丸 田 守 人 橋 本 光 正 * 山 本 修 美 * 洪 淳 一本 中 島顕一郎 率 細 田洋一郎 キ 手術操作 の困難 な下 部直腸手術 において,よ り良好 な視野 を得 るた めの体位 の工夫 を し,X線 学 的 に視野 の展 開 の程度 を検討 した。対 象 は,直 腸 の手術 を施行 した 7例 で,病 変 の部位 は Rs 2例 ,Ra 2例 ,Rb 3例 で あ る。方法 は,術 前直腸 を造影 し,耳芯 骨上縁 を金属片 で マ ー キ ング後 ,患 者 の側面 よ り仰 臥位,砕 石位,腰 部 高位 の砕石位 で骨盤部 の X線 撮影 を し,術 者 の視野 の位置 とな る天側 よ りみ た直腸肛 門側下瑞 と恥骨上縁,第 5腰 椎体後縁 との位置関係 を検討 し,視 野展開 の指標 とした。手術 は腰 部 立位 の砕石位 で行 い,術 者 に これ まで行 っていた砕石位 と比 較 して,視 野 の展 開 につ き質問 し, 体位 につ い ての評価 を行 った。実際 に視野 の指 標 とな る恥骨上縁 と直腸 下端 の距離 は,仰 臥位 で平均 4.8cm,砕 石位 で8,4cm,腰 部 高位 の砕石位 で5 5cmと な り,術 者 の評価 で も Rs直 腸 の手 術以外 の全 例 で視野 の展 開 が 良好 になった と評 価 され ,腰 部 高位 の体位 の有用性 が示 唆 された。 Key words: position for rectal surgery, operation for rectal cancer, operation in the lower rectum は じめ に Fig. I Lithtomy position with the back stretch これ まで直腸 の手術 にお ける体位 は砕石位 もし くは 骨盤高位 の砕 石位 が 広 く用 い られ て い るll 7)が 下部 直 腸 の手術 においては骨盤腔深部 の手術 で あ るた め,視 野 の展 開 が十分 でない こ とが 多 く手術 に困難 を要 して い た。 このため手術 時間 が長 くな り,出 血量 も多 くな る こ とが 多 か った.骨 盤高位 の体位 で は,恥 骨 が頭側 に移動す るた め,術 者 の位 置 か ら見 る と下部直腸 は よ り深部 に移動 す るかたちにな り,手 術野 の展 開 が 困難 になってい るのが実際で ある。 われわれ は,骨 盤 高位 で はな く,腰 部 高位 にす る ことに よって砕石位 にお け る視野 の展開 を良好 にす る ことを目的 に,X線 学的 に 視野 の展 開 の程度 を検討 した。 研究対象 お よび方法 40mlを 勝眺 内 に,肛 門 よ リガ ス トロ グ ラ フ ィ ン50ml を直腸 内 に注入 した。恥骨 の上 縁 を金属片で マ ー キ ン 直腸 の手術 を施行 した直腸癌 6例 ,憩 室炎 1例 の合 グ した後,患 者 の側面 よ り骨盤部 の X線 写真 を撮影 し 計 7例 を対 象 とした。平均年齢 は56歳 (38∼84歳)で , た。撮影 は仰 臥位,砕 石位 な らびに第 4腰 椎 の後部 に 男女比 は 5:2で 縦 15cm,横 32cm高 さ6cmの ク ッシ ョンの腰枕 を置 い あ る。病変 の局 在部位 は,Rs 2例 , Ras l例 ,Rab l例 ,Rb 3例 で,術 式 は 3例 に高位前 た腰 部 高位 の砕石位 (Fig,1)の 3体 位 で行 った。 X線 方切 除術, 1例 に低位前方切 除術, 2711に腹会陰式直 腸切 断術, 1例 にハ ル トマ ン手術 が行 われた。 写真上 で術者 の視野 の位 置 とな る天側 よ りみた直腸肛 方法 は,全身麻酔 を行 った後,勝批 にバ ル ー ンカテ ー テル を挿入後排尿 し,カ テ ー テル よ リオム ニパ ー ク, <1996年 5月 8日 受理>別 刷請求先 :前 田耕太郎 〒47011 豊 明市沓掛町田楽 ケ窪 1-98 藤 田保健衛 生大学医学部消化器外科 L),恥 骨上縁 門側下端 と第 5腰 椎体後縁 との距離 (R― と第 5腰 椎体後縁 の距離 (PL),直 腸肛門側下端 と恥 骨上縁 の距離 (RP)を 測定 し,視 野展 開 と恥骨,直 腸 下端移動 の指標 とした (Fig.2).さ らに,手 術 は腰 部 高位 の砕石位 で行 い,手 術 を施行 した 5人 の術者 に, これ まで行 っていた砕石位 と比 較 した視野 の展 開 につ 35(l965) r996+10tr Fig. 4 Distancebetween upper end of the pubic bone and posterior edge of the Sth vertebra (P-L). Supine: supine position Lithotomy: lithotomy positionL*BS: Lithtomy positionwith the back stretch Fig. 2 Measurement of distance between distal end of the rectum and upper end of the pubic bone (R-P), upper end of the bubic bone and posterior edge of the 5th vertebra (P-L), and distal end of the rectum and posterioredgeof the Sth vertebra (R-L). T(Mcanis弱 g 富 8 Fig. 3 Distance between distal end of the rectum and posterior edge of the 5th vertebra (R-L). Supine: supine position Lithotomy: lithotomy position L*BS: lithtomy position with the back stretch 20 Fig. 5 Distance between distal end of the rectum and upper end of the pubic bone (R-P). Supine: supine position lithotomy: Lithotomy position L*BS: lithtomy position with the back stretch f 0,r**so) I (Med+sD) g 15 畳 10 5 0 L■BS L+BS 骨上 す るこ とによ り R‐Lに 変化 はみ られ なか った.軒心 き質 問 し,腰 部高位 の体位 についての評価 を行 った, この検討 を行 うにあた り,術 前 にす べ ての患者 に検 L)は ,仰 臥位 で16.2土 縁 と第 5腰 椎体後縁 の距離 (Pヽ 査 の主 旨を説 明 し患者 の同意 を得 た。 1.5cm,砕 石位 で は145± 1,9cm,腰 部高位 の砕石位 で な お 有 意 差 の 検 定 は t 検 定 に て 行 い, 数 値 は 結 は17.3±1.6cmで あ り(ng,4),御 臥位 を砕 石位 にす Lの 短 縮 が み られ た が 有 意 差 は な る こ とで や や P‐ Mean± SDで 表示 した。 果 か った。 しか しなが ら,砕 石位 の まま腰 部 高位 にす る L) 直腸肛 門側下端 と第 5腰 椎体 後縁 との距離 (R‐ こ とに よ り P‐ Lは 有 意 に延 長 した.実 際 の手 術 の際 は,仰 臥位 で20。9±2.6cmで ,砕 石 位 で は22.9±3.5 に,視 野 の展開の指標 にな る と考 え られ る直腸肛 門側 cm,腰 部 高位 の砕石位 で は22.7±3 2cmで あ り(Fig. 3),仰 砕位 を砕石位 にす る ことで,や や R,L間 の延長 P)ヤま,仰 臥位 で4.8上2.2 下端 と恥骨 上 縁 の距離 (R‐ cm,砕 石位 で は84± 2.5cm,腰 部 高位 の砕 石位 で は が み られたが有意差 はなか った。砕 石位 で腰 部 高位 に 55± 2,2cmで あ り (Fig.5),仰 臥位 を枠石位 にす る 36(1966) 下部直腸手術 における腰部高位の体位の有用性 についての検討 ことで有意 に P、Rが 延長 した。 しか しなが ら,砕 石位 日 消外会誌 29巻 10号 動 に よ り有 意 に延 長 し,視 野 の 展 開 は よ り不 良 に な る の ま ま腰 部 高位 にす る こ とに よ り R‐R間 は有 意 に短 と考 え られ た 。 しか しなが ら,砕 石 位 の ま ま腰 部 高位 縮 した。仰 臥位 と腰部 高位 の砕 石位 で は,P‐ Rに 有意 にす る こ とに よ り,R‐ Pは 有 意 に短 縮 し,R‐ Pは 仰 臥 差 はなか った. 位 と同程 度 に 良好 に な る と考 え られ た 。以 上 の よ うに, 術者 に よる砕石位 と腰 部高位 の砕石位 と比 較 した視 X線 学 的 な検 討 で は,仰 臥位 を砕 石 位 にす る こ とに よ 野 の展 開 についての質問 で は,Rs直 腸 の病変 に対 して り直腸 下端 は尾側 に移 動 す るが ,腰 部 高位 の 砕 石 位 に 高位前方切 除術 を施行 した 2例 で は砕石位 で行 って い す る こ とで 恥 骨 が 尾側 に移 動 し,視 野 の 展 開 が よ り良 た時 と比 べ て視 野 に変化 はみ られ なか ったが,Ras, 好 に な る こ とが示 唆 され た 。 実 際 の 臨 床 にお い て は, Rab,Ra3の 頭 側 を全 体 に挙 上 す るな どの工 夫 も行 わ れ て い るが , 直腸 の病変 に対 す る,高 位前方切 除術,低 位前方切 除術 ,腹 会陰式直陽切 断術,ハ ル トマ ン手術 この体 位 を加 え る こ とに よ り,さ らに良 い視 野 が 得 ら において は,全 て視野 が 良好 になった との 回答 が得 ら れ る と考 え られ た . れた。 しか しなが ら,腹 会陰式直腸切 断術 を施行 した 術 者 に よ る,直 腸 の 視 野 に対 す る回答 で も,よ り上 2例 の うち 1例 で は,会 陰部 の視野 がやや不良 であ っ 部 の 直 腸 に対 す る手 術 で は,腰 部 高位 の砕 石 位 を とっ た と回答 された。 て も,こ れ まで行 って い た砕 石 位 にお け る手 術 と比 較 して視 野 の 改 善 はみ られ なか ったが ,中 ・下部 直 腸 の 考 察 これ まで,前 方切 除術 や腹会 陰式直腸切 断術 な どの 小骨盤腔 内 の直腸 の手術 で は,砕 石位 もし くは骨盤 高 位 の砕石位 な どの体 位 が広 く用 い られ て い た ll 乃 。し か しなが ら,下 部直腸 の手術操作 において は骨盤腔深 手術 で は視 野 の改 善 が み られ た 。 これ は,上 部 直 腸 の 手 術 で は,骨 盤 腔 深 部 の手 術 操 作 が 不 必 要 な た め視 野 の 展 開 に苦 労 しなか った た め と考 え られ た 。し か しな が ら,会 陰 部 の操 作 の時 に は,腰 部 高位 の砕 石位 に よ 部 の手術 であ るため視野 の展開 が十分 でない こ とが 多 り会 陰 部 の 視 野 が や や 不 良 に な る こ と もあ り,会 陰 部 か った。 そ こで肛 門狽1よ り直腸 をよ り回側 に圧迫 す る クマ コー ンな どの補助手術具 に よる骨盤腔深部 の視野 の展 開 のた めの工 夫が報 告 され て きたゆ.下 部直腸 の の 操 作 の 際 に は腰 部 の 枕 を抜 去 して手 術 を行 った 方 が 良 い こ と も示 唆 され た。 手術 において は,勝 脱 は圧排 で きて も恥骨 のた めに視 玉中央病院放射線科 な らびに手術室 の皆様 に深謝 いた しま 野 が妨 げ られ る ことが 多 く,骨 盤高位 の体位 で は,恥 す。 骨 が頭側 に移動 す るため,術 者 の位 置 か ら見 る と下部 直腸 よ り深 部 に移動 す るかた ちにな り,手 術野 の展 開 が さ らに困難 になってい るのが 実際で あ る.そ こで恥 骨 を よ り尾側 に移動 させ るために,腰 部 に枕 を置 き腰 部 高位 の砕 石位 を とるこ とによ り,下 部直腸 の視野 の 展開 を良好 にす る工夫 を行 った。 X線 学 的 な検 討 で は,仰 臥位 を砕 石 位 にす る こ と で,有 意差 はなか った ものの直 腸肛 門側下端 と第 5腰 椎後縁 との距離 (R―L)の 延長が み られ,直 腸下端 が よ り尾側 に移動す る ことが 明 らか になった。砕石位 の ま ま腰 部高位 に して も R‐Lに 変化 はみ られず,直 腸下端 の尾側 へ の移動 は砕石位 に よる影 響 で あ る と考 え られ た。恥 骨上縁 と第 5腰 椎体後縁 の距離 (P‐ L)は ,仰 臥 位 を砕 石位 にす る ことで,有 意差 はなか った もののや や短縮 し,恥 骨 が頭側 に移動 す る こ とが明 らか になっ た。砕石位 の まま腰 部 高位 にす る と,PLは 有意 に延 長 し恥 骨 が 尾側 に移動 した。直腸肛 門側下端 と恥骨上縁 の距離 (R‐P)は ,仰 臥位 を砕石位 にす る ことで,前 述 の ような直腸下端 の尾側 へ の移動 と恥骨 の頭側 へ の移 稿 を終 えるにあた り,本 検討 にご協力頂 いた社会保険埼 本論文の要 旨は,第 47回日本消化器外科学会総会 (1996年 2月 ,大 阪)に て発表 した。 文 献 1)Keighley MRB,Williams N: Surgery of the Anus,Rectum and colon v01 l B Saunders Co, London,1993,p897-924 2)Heald R」,Goligher JC: Anterior resection of the rectum Edited by Fielding LP, Goldberg SM Rob & Simth's operative surgery surgery of the cO10n, rectul■l and anus Fifth ed. ButterwOrth‐Heinemann Ltd, Oxford, 1993, p456-471 3)Fry RD,Fleshman JWヽ 竹Kodner IJ: Sphincter saving procedures for rectal cancer Edited by Seymour IS,Har01d E,Wedney CH.NIaingOt's abdominal operations v01 11 Prentice― Hall lnternational lnc,London, 1990,pll19-1130 4)GordOn PH, Nivatvongs S: Principles and practices of surgery for the colo■ ,rectum,and anus Quality酌 Iedical Publishing,Inc,St Louis, 1992, p598--600 5)Goligher JC: Surgery of the anus,rectum and 37(1967) 1 9 9 6 年1 0 月 colon,5th Ed Bailliere Tindall, London, 1984, p619-622 6)上 屋周 二,大 木繁男 :直 腸 ・ 肛門の外科 II.和田達 雄 監修.新 外科学大系.24巻 B。 中山書店,東 京, 1992, p73--74 武藤徹 一郎 :腹 会陰式直腸切断術.消 外 11:974 --981, 1988 神代龍 之介 :直 腸癌 に対 す る低位前方切除術 の新 しい工 夫.手 術 47:1959-1963,1993 The Usefulness of Lithotomy Position with the Back Stretch for Operation in the Lower Rectum Koutarou Maeda, Morito Maruta, Mitsumasa Hashimoto*, Osami Yamamoto*, Junichi Koh*, Kenichirou Nakajima*a nd Youichirou Hosoda* Department of Surgery, Fujita Health University School of Medicine +Department of Surgery, Social Insurance Saitama Chuo Hospital A radiological study was performed to assess the newly devised lithotomy position with the back stretch for obtaining a better surgical field in lower rectal operations. Seven patients undergoing rectal surgery for 2 lesions inthe rectosigmoid colon, 2 in the middle rectum, and 3 in the lower rectum were entered in this study. Plain lateral film photographs of the pelvis were taken in three different positions; supine, lithotomy and lithotomy with the back stretch after marking the pubic bone and introducing the medium into the rectum. Movement of the pubic bone and the distal end of the rectum, and the distance between the distal end of the rectum and the upper end of the pubic bone were evaluated. The operation was performed with the patient in the lithotomy position with the back stretch. The surgeon was interviewed to compare the operative field in the lithotomy position with the back stretch with that of the lithotomy position which had been the standard position. The distance between the distal end of the rectum and the upper end of the pubic bone which can be an indicator of the surgical field was 4.8 cm in the supine position, 8. 4 cm in the lithotomy position, and 5 . 5 cm in the lithotomy position with the ack stretch. The conclusion from the interviews was that the operative field was improved by the new position except in two patients with rectosignoid colon. The lithotomy position with the back stretch was considered to be a useful position for lower rectal surgery. Reprint requests: Koutarou Maeda Department of Surgery, Fujita Health University School of Medicine 1-98 Dengakugakubo, Toyoake, 470 11 JAPAN
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