特集03-31 10.9.30 14:52 ページ28 TRAINING CENTER 聖隷浜松病院 研修センターの取り組み 地域の中核病院である聖隷浜松病院は、院長直轄の研修センターを設置し、充実した研修プログラムの提供はも ちろんのこと、研修医が安心して働ける環境づくりにも気を配っている。同院副院長の清水貴子・センター長 と 由見子・専任看護師に話を聞いた。 その修得の場として研修医受け入 れの中心となっているのが総合診療 2 年 次 の 総 合 診 療 内 科の 研 修で 内科と救急科だ。総合診療内科に は、1年次研修医を指導する役目を 「研修医の育成と確保は、この地域 所属する医師は、患者の診察だけで 負う。自分が学んだことを人に教え のみならず日本の医療の維持、充実 なく、研修医の育成・指導も担う。午 ることで知識を深める 「屋根瓦体制」 に不可欠です。そのためには、研修 前の外来は総合診療内科専門医が だ。その頂上に病院長を置き、順に 医が『この病院で頑張って働きたい』 担当するが、午後の時間外外来は指 指導医・上級医、2年次研修医、1年 と思い、集まってくれるような研修プ 導医・上級医と組んだ1年次研修医 次研修医が支える。1年次研修医は ログラムを構築し、安心して働ける が週1回担当する。 病院見学に来る学生たちに治療方 環境づくりが大事だと考えています」 同院の研修プログラムは2年間で 法や研修内容などを説明する。こう 10∼11の科を回るというもの。3カ月 して「指導し、指導され」の関係をつ 具体的には、①実践が多く積める 以上関わるのは総合診療内科、救 くるのだ。 研修プログラムを提供②院長直轄部 急科、外科の3科。1年次に4カ月間 「2年次の研修医は患者への視点も 署として研修センターを設置し、清水 籍を置く総合診療内科では、症状か 1年次とは明らかに異なります。成長 センター長ほか5名のスタッフが研修 らどんな病気が疑われ、どんな検査 を自ら実感することが自信につなが 医を見守る、の2つを軸に研修制度 が必要かを研修医が考える。方針を ります。1年次の研修医にとっても、 を運営している。 上級医とすり合わせながら、主治医 最も身近な先輩の指導は頭に入りや 「 研 修 医 は 非 常 に ハード な スケ として検査のオーダーを出したり、治 すいはず」 と清水センター長はその狙 ジュールをこなしています」 と 療したりする。 いを語る。 と清水貴子・センター長は言う。 由 見子・専任看護師は言うが、2004年 「研修医自身が考えることが多く、 の新制度スタート時から1人の脱落 基礎がみっちり学べるはずです」 と清 者も出すことなく、全研修医が研修 水センター長。自ら勉強の必要性を 1年次研修医12人を対象に アンケート調査を実施 を修了している。 感じ、学習時間も増えるという。2年 研修医に間近で接している さ 次の1カ月と合わせ、総合診療内科 んは、 「研修医は研修開始直後から、 で5カ月間という長期の研修を行う 社会人としての責任に加え、医師と 病院は稀有で、 「総合診療内科で研 しての責任も果たさなければなりま 「多くの研修医は臓器別専門医の道 修できるからここに決めた」 という研 せん。日常の業務とともに自己学習 に進みますが、その前の段階として、 修医は多い。「本人たちのモチベー や当直業務などもあり、身体的にも 初期研修ではプライマリ・ケア修得を ションが高く、指導も丁寧にやります 精神的にも想像以上に高いストレス 目指しています」 と清水センター長は から、1年目に総合診療内科で4カ月 を抱えているのではないか」 と感じて 語る。 過ごすと医師として大きく成長します いたという。そこで、2008年度の1年 総合診療内科を設置し プライマリ・ケア教育 28 ね」 と清水センター長が認める。 研修センターを設置し 新たな制度をスタート DOCTOR'S NETWORK 特集03-31 10.9.30 14:52 ページ29 次研修医12人を対象に、ストレス要 図1.ストレスレベルの結果 因に関するアンケート調査を2週間∼ レベル1 10% 1カ月おきに1年にわたって実施した。 その結果、年間を通して研修医の4 割以上が自分のストレスレベルを「非 常に高い」 と感じていることがわかっ レベル4 45% 的には総合診療内科では業務に関 することが多く、対して救急科では 「睡眠不足」 、 「勉強時間がない」など 【総合診療内科】 30 レベル3 33% 16 25 14 12 答 15 数 10 10 6 8 4 5 0 レベル1 低いと考える レベル2 やや高いと考える レベル3 高いと考える レベル4 非常に高いと考える 【救急科】 18 レベル2 20 12% 回 た。中でもストレスレベルが高かった のが総合診療内科と救急科で、具体 図2.ストレスの内容 2 勉 強 時 間 が な い 睡 眠 不 足 休 夜 業 当 学 人 能 疲 過 特 そ み 遅 務 直 生 間 力 れ 食 に の が い 関 気 な 他 な 係 味 し い 0 勉 強 時 間 が な い 睡 眠 不 足 休 み が な い 仕 事 が 長 い 家 業 当 救 人 能 疲 特 そ に 務 直 急 間 力 労 に の 帰 感 な 他 車 関 し れ 、 対 係 し な 応 ん い ど い 出典:聖隷浜松病院研修センター (調査チーフ 由見子専任看護師) 「研修医のストレス要因を考える」 、日本病院会雑誌Vol.57, No.3 76(312)-80(316) 時間に関する内容が多かった。また、 くて……買っておいていただけません 両科とも自分の能力不足をストレスだ か」 といった相談事が持ち込まれる。 『常に見守ってるよ』、 『困ったときは と感じているという回答が多く見ら 結婚式の招待状の出し方など、人生 相談に乗るよ』 という姿勢を伝える れた(図) 。 の先輩として頼られることもある。 ことが重要です」 と清水センター長。 か ら声 をかけるようにして いま す。 「ストレスの感じ方には個人差があ センターのドアは開放され、 「ちょっ 「新人の入職で院内に新しい風が るので、直接話を聞いて状況を把握 と話しに」、 「お菓子をつまみに」 と立 吹き、活性化することを実感してい し、タイミングを逃さずに支援するこ ち寄る研修医も多い。何でも気軽 ます。横 断 的 に各 病 棟 をローテー とが目標です。環境改善に関する働 に話せる雰囲気づくりを心がけた結 ションする研修医の存在によって、感 きか け も 重 要 だと 感じて いま す」 果、 「話しているうちにすっきりした 染 予 防 の 院 内 統 一 基 準の 設 定や、 と 表情になって、仕事場に戻る研修医 医療安全基準の導入が一挙に進ん ただし、 「ストレスを全て取り除くこ も多いですよ」と2人は口をそろえ だのです」 とが、最良の方法だとは考えていな る。「ちょっとした出来事を普段か 聖隷浜松病院研修センターの取り い」 とも指摘する。というのも、ストレ ら話してくれるからこそ、仕事や患 組みは病院の将来まで見据え、研修 スレベルが高い研修医の自己学習 者さんについての重要な相談もし 医はもちろんのこと、患者さんや病 時間が長いことがわかったからだ。 てくれるのだと思います」と清水セ 院全体に、よりよい成果をもたらす 「プレッシャーがあるからこそ、勉強 ンター長。 ことになるだろう。 さん。 の必要性を感じることもあります。ス トレスがモチベーションにつながって いるのです」 と説明する。 研 修 医 の ス ト レ ス 対 策 研修医が院内を 活性化することを実感 さんは、院内をラウンドする 研修センターで 研修医を見守る 際、疲れた顔の研修医を見つけると、 「時間ある?」と切り出す。時間があ 研 修 センター は 、研 修 医 がモチ れば、 「その顔で患者さんのところ ベーションを維持し続ける環境づく に行ったらまずいよね」と研修セン りにも力を入れている。センターがス ターに誘う。すると、ポツリポツリと トレス緩和の駆け込み寺、知恵袋と 話し出す研修医も珍しくない。 なっているのだ。 「誰に話したらいいか、どう表現し 研修医は、慣れない土地で生活し、 たらいいかわからないという研修医 市役所への届け出など仕事以外の手 もいます。一人で悩みを抱えて、頑 間も多い。そんなとき、書類の書き方 張っている。研修医たちの様子に気 や、 「目覚まし時計の乾電池を買えな を配って、落ち込んでいたらこちら 右(しみず・たかこ) 浜松医大卒。同大病院第一内科で1年間研修後、国 立療養所天竜病院、国立病院医療センター(現国立 国際医療センター)神経内科、浜松医大第一内科を 経て、94年聖隷浜松病院神経内科勤務。2002年総 合診療内科部長、 03年副院長・研修センター長兼任。 左(やまざき・ゆみこ) 育児休業明けの2007年、専任看護師として研修セン ターに配属される。指導医や研修現場との連携を図 り、研修医が担当する患者さんの医療の安全を担保 する。研修医と病棟の橋渡し役として、研修の質を高 めることを支援する。 DOCTOR'S NETWORK 29
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