自動運転と損害賠償 ~自動運転者事故の責任は誰が負うべきか~ 2016年12月16日 一般社団法人 日本損害保険協会 大坪 護 (おさらい)自動運転とは レベル 定義 レベル1 加速・操舵・制動のいずれかの操作をシステムが行う。 レベル2 加速・操舵・制動のうち複数の操作を一度にシステムが行う。 (自動運転中であっても、運転責任はドライバーにある。) レベル3 加速・操舵・制動をすべてシステムが行い、システムが要請した ときのみドライバーが対応する。(自動運転中の運転責任はシ ステムにあるが、ドライバーはいつでも運転に介入することがで き、ドライバーが介入したときは手動運転に切り替わる。) レベル4 加速・操舵・制動をすべてシステムが行い、ドライバーが全く関 与しない。(無人運転を含む。) (※)「官民ITSロードマップ2016」に基づき作成 1 技術の現状① • 米国「テスラ社」の自動車を走行中(オートパ イロット機能作動中)に事故が発生し、ドライ バーが死亡(2016年5月 米国フロリダ州) – 直進中の車両が、対向車線から左折してきたトレーラーを認知 できずに衝突 – 強い逆光のためトレーラーを認知できず(テスラ社コメント) – ドライバーはDVD鑑賞していた?(自動運転を過信?) – 国土交通省は、「現在実用化されている『自動運転』機能は、 運転者が責任を持って安全運転を行うことを前提とした「運転 支援技術」であり、運転者に代わって車が責任を持って安全運 転を行う、完全な自動運転ではありません。」とのコメントを 発表(2016年7月) 2 技術の現状② • 日産「セレナ」に自動運転技術(プロパ イロット)を搭載 – 高速道路の単一車線にて、渋滞走行や長時間 巡航走行時に、アクセル、ブレーキ、ステア リングのすべてを自動的に制御し、ドライ バーの負担を軽減 – 「プロパイロットはドライバーの運転操作を 支援するためのシステムであり、自動運転シ ステムではありません。安全運転を行う責任 はドライバーにあります。」(日産自動車) 3 技術の現状③ • DeNAが「無人運転バス」の運用開始 – 2016年8月に千葉市の豊砂公園敷地内で、隣接す るショッピングモールの顧客向けに運用を開始 – フランスのEasyMile社が開発した車両を利用 (最高速度40km/h、乗車定員12名) →20km/h 程度での走行を想定 – あらかじめ設定されたルートをカメラ、センサー、 GPSを使って走行 – 障害物を検知した場合は自動的に減速・停止し事 故を回避 4 自動車事故の法的責任 • 刑事責任 (自動車運転死傷行為処罰法) – 運転者 – 懲役、罰金 • 行政責任 (道路交通法) – 運転者 – 反則金、免許取消・停止、減点 • 民事責任 (自動車損害賠償保障法、民法) – 運行供用者(≒保有者) – 被害者に対する損害賠償 5 自動運転の法的課題~報告書 報告書概要 報告書(全9ページ) 2016年6月9日に「自動運転の法的課題について(報告書)」を公表 http://www.sonpo.or.jp/news/release/2016/1606_05.html 自動運転車の事故と損害賠償責任の考え方を整理 6 自動運転の法的課題 現行法における損害賠償責任(対人事故)① • 民法第709条(基本原則) 『故意又は過失によって他人の権利又は法律上 保護される利益を侵害した者は、これによって 生じた損害を賠償する責任を負う』 (過失責任) • 自動車の対人事故に関しては、被害者救済を目 的として、自動車損害賠償保障法(自賠法)に より修正。 – 自賠法は1955(昭和30)年に公布・施行 7 自動運転の法的課題 現行法における損害賠償責任(対人事故)② • 自賠法第3条(本文) 『自己のために自動車を運行の用に供する者は、 その運行によつて他人の生命又は身体を害した ときは、これによつて生じた損害を賠償する責 に任ずる。』 → ポイント① 損害賠償責任主体は「自己のために自動車の運 行の用に供するもの(運行供用者)」 =運行供用者責任 8 自動運転の法的課題 現行法における損害賠償責任(対人事故)③ • 「運行供用者」 通常は、「保有者」すなわち「自動車の所有者 その他自動車を使用する権利を有する者で、 自己のために自動車を運行の用に供するもの」 (自賠法第2条第3項) • 判例により、「自動車の使用についての支配権 を有し、かつ、その使用により享受する利益が 自己に帰属する者を意味する」として、「運行 支配」し、かつ、「運行利益」を得ている者と 解されている。 9 自動運転の法的課題 現行法における損害賠償責任(対人事故)④ • 自賠法第3条(ただし書き) ・・・ 免責3要件 『ただし、 ①自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなか つたこと ②被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があつ たこと 並びに ③自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたこと を証明したときは、この限りでない。』 → ポイント② 運行供用者に無過失責任に近い損害賠償責任を課す。 (免責3要件の証明は極めて困難) 10 自動運転の法的課題 現行法における損害賠償責任(対人事故) まとめ 自賠法によれば・・・ • 交通事故の責任主体は「運行供用者」であり • 運行供用者とは運行を支配し、運行利益を享受し ている者 • この者が(一定の挙証ができない限り)無過失責 任を負う 11 自動運転の法的課題 自動運転と損害賠償責任の考え方(レベル3)① • システム責任による自動運転となり、道路 交通法上もドライバーの運転責任が一定免 除されることも想定される。 → ドライバーの運転責任が免除されてい る自動運転中に発生した事故の損害賠償 責任を誰が負うべきか? 12 自動運転の法的課題 自動運転と損害賠償責任の考え方(レベル3)② • レベル3における運行供用者(「運行支配」し、 かつ、「運行利益」を得ている者)の考え方 – 「運行利益」を得ている者は、ドライバーや当該自 動車を事業のために使用している事業者等である。 (現行と同じ) – 「運行支配」については、システム責任による自動 運転であるので、システムが「運行支配」している とも考えられるが、システムの機能限界時などは、 システムからドライバーに運転責任が移譲されるこ と、自動運転中であっても、ドライバーはいつでも 運転に介入できることから、ドライバー等が「運行 支配」していると解することが可能と考えられる。 13 自動運転の法的課題 自動運転と損害賠償責任の考え方(レベル3) まとめ • レベル3であっても自賠法の「運行供用者責 任」の考え方を適用することは可能 • 自動運転であってもドライバー等の運行支配可 能 • よって免責3要件に該当しない限り、自動運転 以外と同様の者が責任を負う 仮に自動車に構造上の欠陥があったとすればそ れをもって免責要件に該当しないことになると いうジレンマ 14 自動運転の法的課題 自動運転と損害賠償責任の考え方(レベル4)① • レベル4が”Driverless Car”だとすれば、ドライバーは運 転に全く関与せず、すべてシステムによって運転される。 • よってレベル4において「ドライバー」という概念はない。 • であれば、ドライバーによる運行支配もない。 • となれば、レベル4に自賠法をそのまま準拠させることは 難しい。 ⇒自動車安全基準、利用者義務、免許制度、刑事責任のあり 方など、 自動車に関する法令等の全体の見直しの中で議論 する必要がある。 15 自動運転の法的課題 自動運転と損害賠償責任の考え方(レベル4)② • 見直しにあたっては、以下の観点から検討が 必要である。 – 自動運転に関する国際的な議論の動向 – 新たなリスクとして、「誰が責任を負うべきか」 新たな社会的コンセンサスが必要 – さらに一般交通下において、自動運転車と従来型 の自動車が協調して円滑な交通社会を実現するた めの制度のあり方も検討を要する。 16 諸外国での議論 • ドライバレスはイリーガル • ドライバーが関与する限り現行法制を変 えるべきではない • ドライバレスになればPL対応 • 問題は関与する誰が責任を負うべきか (メーカー、ソフト、道路) 17 自動運転の法的課題 ① 事故原因の分析 ・「人」が原因か「システム」が原因か? ・「システム」の欠陥か、機能限界(不可避)か? ② 製造物責任 ・自動車メーカーの責任は?(欠陥の範囲、予見可能性) ・被害者の負担大(挙証責任は被害者に) ③ サイバーリスク ・誰が責任を負うのか?(相手が特定できない) 18 自動運転の法的課題(民事以外) • 刑事責任のあり方 – 誰が責任をとるのか? • 免許制度のあり方 – 自動運転(レベル4)に運転免許は必要か? • 運転者の義務のあり方 – 事故回避義務は?(道路交通法第70条) – セカンドタスク(例:スマホ操作・・・)は許容さ れるのか? 19 自動運転と保険のあり方(議論) <レベル3まで> ・対人:自賠法に基づく補償 ・対物・車両:民法に基づく →自動車保険で補償できるか? <レベル4> ・対人:自賠法で補償可能か? ・対物・車両:民法に基づく →自動車保険では補償できない? 20 自動車保険に関する最近の話題 • 大手損害保険会社が「被害者救済費用等補償 特約」を開発、2017年4月以降、自動車保険 契約に自動セット(追加保険料なし) – 事故発生時に「事故原因がわからない」「誰が責 任を負うべきなのか確定しない」といったケース で、被害者への損害賠償に時間を要するような ケースにおいても、本特約において、被保険者が 被害者の損害を負担する。 – 被保険者に賠償責任がある場合は、通常の自動車 保険で補償される。 – 本特約で保険金を支払った場合は、損害保険会社 が賠償義務者に対する損害賠償権を取得する。 21
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