災害リスクの削減は、 開発を持続可能にする。

災害リスクの削減は、
開発を持続可能にする。
行動要請
主要なメッセージ
ポスト 2015 開発枠組みは、世界中で、特に弱者に
とって災害リスクを大幅に軽減するまたとない機会で
ある。
「持続可能な開発と貧困撲滅の実現のため、災害リスクの軽減と災害に対する強靭性の 持続可能な開発に関する
構築に早急に取り組み、必要に応じあらゆるレベルの政策、計画、プログラム及び予算に 国連総会決議
取り入れ、関連する今後の枠組みの中で検討することを要請する。1」
「開発戦略・プログラムにおいて、リスクにさらされている人々と社会の強靭性の構築を 効果的な開発協力のための
優先しなければならない……強靭性の構築とリスク軽減への投資は、 釜山パートナーシップ
我々の開発努力の価値と持続可能性を向上させる。2」
「自然災害が、貧困削減の大きな障害となり、貧困層や社会的弱者に最も深刻な影響を 世界銀行開発委員会
及ぼす可能性がある。そして自然災害の影響は増大しつつある。3」
「……脆弱性を長期的に軽減しながら、現存する災害リスクの管理を支援し、 気候変動に関する
短期的な開発効果をもたらす 4」効果的な適応戦略が必要である。 政府間パネル
「我々は、災害を予防し、人々と財産を守り、災害の経済的影響を金融面で管理するための、 G20(金融世界経済に
災害リスク管理の手法及び戦略の有用性を認識している。5」 関する首脳会合)
「災害リスク軽減手法を開発計画・開発投資に完全に取り入れなければ、 国連事務総長
開発の持続可能性は得られない……災害リスクを考慮しない開発投資は、
さらなるリスクの蓄積につながる。7」
「これらの事象(台風ハイエン)を自然災害と呼ぶのは止めなければならない。 国連気候変動枠組条約
災害は自然に発生するものではない。災害は、物理的要因以外の様々な要因が フィリピン政府代表団
交錯して生じており、経済・社会・環境的な負荷を限界まで積み重ねた結果である。」 イェブ・サノ
Empowered lives.
Resilient nations.
災害の破壊的影響
主要なメッセージ
規模の大小を問わず、
災害は家庭、地域社会、
国家を破壊する。
この 20 年間、災害は
破壊的な影響を及ぼしてきた。
被災者
44 億人
死者
130 万人
経済損失
2 兆ドル
災害には、さまざまな規模がある。
ここ 10 年間に、以下を含む
史上最大規模の災害が発生。
パキスタン洪水(2010 年)
:国土の 20%が冠水、
2000 万人が被災
ハイチ地震(2010 年):数秒のうちに 20 万人
以上が死亡 8
東アフリカ干ばつ(2010 ~ 11 年)
:過去数十年
来で最悪規模。6 カ国が深刻な食糧危機に直面。
ソマリアだけで 25 万 8,000 人が死亡 9
だが、小規模な局地的災害は
見逃されがちである。
小規模災害による疲弊は、貧困世帯に影響を及
ぼし、損壊家屋の 54%、被災者の 80%、負傷者
の 83% 等、災害被害の大きな割合を占める 10。
低 所 得 世 帯・ イ ン
フ ォ ー マ ル 経 済・ 公
的指標に含まれない
人々への影響を含め
ると、損失総額が 1.5
倍に膨らむ可能性が
3兆ドル
ある 11。
災害は国境を越える
近隣諸国
人的被害
2008 年、ネパールのコシ川堤防決壊
2004 年スマトラ島沖地震による津波
で河川流量の 95% が周辺地域に氾濫、
で、15 カ国に 23 万人以上の死者が
2011 年東日本大震災により、タイの
54,000 人が被災。この洪水で、イン
出た。死者の出身国を含めると、さら
自動車生産台数が 20%減少。2011 年
ドでも約 300 万人が避難を余儀なく
に 46 カ国増える。
チャオプラヤ川大洪水を受け、タイ国
された。
グローバルサプライ
チェーン 12
内の日本企業 451 施設が閉鎖、マレー
シア、北米、日本本国の工場も操業停
止を余儀なくされた。
開発を阻む災害
主要なメッセージ
社会、経済、環境という持続
可能な開発の全ての側面が、
災害により損なわれる。
災害は、国によって
異なる形で影響を及ぼす。
9%を占める
経済損失の3%を
経済的影響
増大する災害コスト13
4310 億ドル
3710 億ドル
低所得国は
災害の
占める
2010 年
死亡者数の
下位中所得国は
占める
上位中所得国は
39%を
24%を占める
経済損失の25%を
災害の
占める
42%を
死亡者数の
占める
20%を占める
経済損失の8%を
災害の
占める
12%を
死亡者数の
占める
47%を占める
経済損失の64%を
高所得国は
災害の
占める
死亡者数の
占める
1380 億ドル
7%を
1380 億ドル
2011 年
先進国では、災害損失が
成長ペースを上回る。
2012 年
2030 年
予測
途上国では、災害により
数十年間に積み上げた利益が
喪失。
大型ハリケーン・サンディ:米国24
州の被災総額650億ドル14
•ハ リケーン・イワン(2004年)の
被害額は、グレナダのGDPの200%
東日本大震災:被害総額は史上最多の
以上。ハイチ地震(2010年)の被害
2100億ドル15
額はGDPの120%近くに達した17。
OECD諸国では1980年以降、洪水
•バ ン グ ラ デ シ ュ や モ ザ ン ビ ー ク な
による経済損失リスクが160%以上
どの中規模な国でも、5~10年毎に
増大。熱帯低気圧による損失は265%
GDPの3~5%相当の被害が発生。
増大16。
開発に深刻な累積的影響を与えて
いる18。
社会的影響
災害は格差をあらわにし、貧困からの脱出を困難にする。
低所得国・下位中所得国は、
パキスタン:2000~01年のシンド州
災害全体の 33%にとどまる一方、 干ばつで、貧困層が最大15%増加21。
全死亡者数の 81%を占める。
フィリピン:台風オンドイとペペン
2004 年の津波では、全死亡者数
の 3 分の 1 が子供だった 19。
災害は貧困層を追い込む。
ハイチ:2001~2010年に貧困層が
8%減少。だが2010年の地震後は
2001年の水準に戻り、進歩が帳消し
になった20。
により、わずか3年でリサール州の貧
困層が5.5%から9.5%へとほぼ倍増
した22。
行動を起こさなければ、
貧困層の未来に希望はない。
2030年には、最大3億2500万人の最
貧困層が49の災害多発国に暮らす23。
災害リスク軽減への投資不足が、災害時の緊急対応費用の増大につながっている。
この 20 年間に国際社会が防災に投じた費用は、
災害発生後にかかった費用の 10 分の 1 に過ぎない 24。
緊急対応 699 億ドル
復興再建 233 億ドル
災害リスク
軽減
135 億ドル
増大するリスク
主要なメッセージ
リスクが大幅に軽減されない限り、災害の影響は拡大し続ける。多くの命や生活、将来の成長が
失われるのを防ぐため、開発はリスクを排除しながら行われなければならない。
災害リスク
災害に対し
脆弱な多数の人々
急増する被害対象
12 億 9000 万人が
世界人口は 70 億人から
1 日 1.25 ドル未満で生活
93 億人に増加
(2008 年)
2050 年までに、
2030 年までに、
11 億 5000 万人がスラムで
都市人口が 33 億人から
暮らす(2010 年)
49 億人に増加
9 億 2500 万人が栄養不良
2030 年には、
(2010 年)
世界の都市人口の 80% を
途上国が占める
自然ハザード
(災害原因事象)の
増加とグローバル化
ハザードのグローバル化
2006 ~ 2010 年に、
179 カ国で自然ハザードが
自然災害に発展
気候ハザードの深刻化
全災害事象の 4 分の 3 が
気候に由来。
「極端な現象に関する
特別報告書」は、気候変動が
「過去に例のない極端な
気候現象」を招く可能性を
示唆している。
気候に起因するリスクが被害を拡大
2010 年 6940 万人 25
2009 年 1 億 2250 万人 26
1970 年 3240 万人
1970 年 6590 万人
洪水被害
サイクロン被害
ここ 10 年に 3 回の
食糧危機が発生。
以前は 10
年に 1 回。
サヘルの食糧危機
災害リスク軽減は、
開発の実現につながる
主要なメッセージ
開発は、災害と無縁ではない。
開発によりリスクが発生し増大すること
もあるが、軽減もできる。
災害リスク軽減は、生命や財産、学校、
企業、雇用を守る有益な投資である。
災害リスク軽減は、無数の命と生活を救う。
バングラデシュ
インド
1991年南部で地滑りが発生。13 万 8,000 人が
1999年上陸。15,000 人が死亡
リスク軽減:
盛土・マングローブ植林、早期警報・リスクに関する普及活動・
危機管理計画の策定、サイクロンシェルター建設に、多額の投資。
リスク軽減:
州レベルで国内初の専門の災害管理機関を設置。 サイクロン
シェルター建設、避難経路の確保、護岸工事を実施。 毎年、
危機管理計画に基づく訓練を行う。
2007 年 たが、死者は 5,000 人未満に留まった。
2013年インド北東部に上陸。死者 38 人
カテゴリー 4 のサイクロンにより、チッタゴン
死亡。
カテゴリー 5 のサイクロンが西部低地を襲っ
災害は、ミレニアム開発目標の
対象となる生活の全側面に
影響を及ぼす
アチェ州では、2004年津波により
貧困ライン以下人口が30%から50%に増加
2008年四川大地震で7000の教室が
損壊
ミャンマーのサイクロン・ナルギスでは、
死者の61%が女性
「アフリカの角」
地域では、2005~06年の
干ばつで子どもの衰弱が8%、遊牧民社会では
25%も増加29
2005年パキスタン地震の際、
被災地域にいた妊婦は推定4万人
2004年バングラデシュ洪水後、
17,000件以上の下痢性疾患が発生
サイクロン・ナルギスは、天然林16,800ha、
人工林21,000haに被害をもたらした30
カテゴリー 4 のサイクロンがオリッサ州に
27
。
ミレニアム
開発目標
カテゴリー 5 のサイクロン・ファイリンが
28
。
災害リスク軽減は生活を守り、
開発目標達成に欠かせない
貧困と
飢餓の撲滅
土地利用計画の改善による、食料生産性向上と
持続可能性の強化
普遍的な
初等教育の達成
地震多発国・地域は、耐震性の高い学校建設を
通じてのみ、児童と教育を保護できる
ジェンダー平等の
推進と女性の
地位向上
参加型災害リスク削減を通じ、女性を地域社会
維持・保護活動の前面に立たせる
乳幼児
死亡率の削減
災害リスク、応急処置、救急救命に関する知識を
学童に教え、子どもと大人双方の命を救う
妊産婦の
健康状態の
改善
自然災害から地域を守るシェルターは、
災害発生時に医療施設や学校として機能しうる
HIV/エイズ、
マラリア、他の
疾病の蔓延防止
災害に耐えられる水道・衛生システムを構築し、
疾病の温床になるのを防止
環境の
持続可能性の
確保
干ばつ多発地域での、伝統的な木材取引から
持続可能な農業への転換により、森林破壊減少と
収入安定化を実現
今後の方向性
リスク軽減を開発の中心に
主要なメッセージ
災害リスク軽減は、開発課題である。リスク軽減を今後の開発アジェンダの中心に据えることこそ、
災害により開発を頓挫させない唯一の方法と言える。
政策立案者へのメッセージ
1
2
ポスト 2015 枠組みにおける、
災害リスク軽減・管理を求める具体的な
目標設定は、持続可能で公平な開発を
促す。
災害リスク軽減は、多くのセクターに
わたる横断的課題であり、持続可能な
開発に統合されて初めて完全に
実現できる。
3
4
持続可能な開発目標を通じて、
災害・その他の極端な事象に伴う
リスク評価や損失把握の実施を各国に
約束させる必要がある。
公平性を確保するため、(年齢・性別・
障害等の理由で)災害・その他の
ショックに最も脆弱な集団を特に保護し、
その地位を向上させねばならない。
21 A Shepherd et al (2013) Geography of Poverty,
Disasters and Climate Extremes in 2030, ODI
United Nations Declaration Rio (2012) The Future We
Want
11 UNISDR, 2013. Global Assessment Report
2
Busan Partnership (2011) outcome document of the
Fourth High Level Forum on Aid Effectiveness
22 Ibid
3
World Bank (2012) IMF Development Committee
Communique
4
IPCC (2012) Special Report on Climate Extremes
5
G20 Leaders Declaration (2012)
13 Figures from 2010, 2011 and 2012 come from
UNISDR Press Release (2012) Economic Losses from
Disasters Set New Record in 2012. 2030 is based
upon calculations that economic losses will double by
2030, from (United Nations 2013) Secretary General’s
Report on the Implementation of the International
Strategy for Disaster Reduction
6
UN System Task Team on the Post-2015 UN
Development Agenda, 2013 Realizing the Future We
Want for All
14 http://www.ncdc.noaa.gov/billions
26 Ibid
15 http://wbi.worldbank.org/wbi/Data/wbi/wbicms/files/
drupal-acquia/wbi/drm_exsum_english.pdf
27 Swiss Reinsurance Company (2009) Natural
catastrophes and man-made disasters in 2008: North
America and Asia suffer heavy losses
1
7
UN Secretary-General’s report into the Implementation
of the International Strategy for Disaster Reduction
8
Centre for Research on the Epidemiology of Disasters,
mortality figure given as 222,570
9
FEWS NET (2012) Mortality among populations of
southern and central Somalia affected by severe food
insecurity and famine during 2010-2012
10 UNISDR, 2011. Global Assessment Report
12 Ibid
16 UN System Task Team on the Post-2015 UN
Development Agenda: Disaster Risk and Resilience
17 Ibid
18 Ibid
19 http://www.savethechildren.org.uk/sites/default/files/
docs/legacy-of-disasters_1.pdf
20 Government of the Republic of Haiti (2010)
本文書はUNDPの委託によりジャン・ケレットが作成した。デザイン協力PlainSense。
詳細はUNDPまでお問い合わせ下さい
([email protected])
。
2014年1月作成、
2014年3月改訂。
23 Ibid
24 J Kellett and A Caravani (2013) Financing disaster
risk reduction: a 20 year story of international aid.
ODI, GFDRR
25 UNISDR (2011) Global Assessment Report
28 World Bank (2012) Managing Disaster Risks for a
Resilient Future
29 Chotard et al, (2010) Fluctuations in wasting in
vulnerable child populations in the Greater Horn of
Africa
30 Adapted from ADPC, (2010) Disaster Proofing the
Millennium Development Goal