お疲れ様です。バニュルス銀座店の鈴木です。 今回のワイン課通信は

 お疲れ様です。バニュルス銀座店の鈴木です。
今回のワイン課通信は、私の去年の旅の体験記とともに日本のワイナリーとそこで働く人々に
ついて書きたいと思います。
日本のワイン、というと皆さんは何をイメージしますか?私は以前は漠然としたイメージしかなく、
実際ワイナリーを訪れて、そこで働く人を見て、話を聞いて、驚く事や新たな知識を得ることが
できました。例えば自分の好きなフランスワインの造り手を訪れるのは難しくても、せっかく日本
にいるのだから、ほんの少し時間を割いて、訪れてみてはいかがでしょうか??
昨年、私が訪れたのは勝沼ぶどう郷。短時間でより多くの
ワイナリーに行きたかったので、ワイナリーが集中している
勝沼に決めました。
駅を降りて一面に広がる
ぶどう畑は本当に圧巻です。
一人で歩いていると、色んな人がぶどうをくれます。(笑)
勝沼の人はとても温かく、歩いているうちにもらったぶどうで荷物が
いっぱいになってしまいました。左の写真はちょうど食用ぶどうの
選別をして箱詰めしているところで、お手伝いをさせて頂きました。
お手伝いのお礼にとお昼ごはんまでご馳走になって、さらにお土産
用のぶどうまで頂きました。
勝沼の気候は、夏は暑く、冬は寒い。
昼と夜の寒暖の差が激しいこと、他の国に比べて降水量が多い
ことから、写真右のような傘をぶどうにかぶせます。
まず最初に訪れたのがオザミワールドもお世話になっております、中央葡萄酒です。
ここではワインのテイスティングと、
畑、樽熟成庫などを
見学させて頂きました。
中央葡萄酒は、それぞれの産地の個性をエリア内で仕込むという姿勢
から、勝沼、北海道千歳、山梨明野と3つのワイナリーをもちます。
ちなみに明野には我がバニュルスを卒業した私の先輩が2名、働いて
おります。1人は醸造スタッフ、もう1人はミサワワイナリー内の
レストランのマダムとして。
剪定やヴァンダンジュで明野を訪れる際には、是非宜しくお伝え下さい。
今回はたまたまグレイスワイナリーに来ていた三澤オーナーの娘さん
の彩菜さんと色々な話をすることが出来ました。オリジナルブランドを
立ち上げるという話、完全ドメーヌ化の話など、とても私と同い年とは
思えないようなずっと先を見据えたビジョンに驚かせられました。
ちなみに先日、彩菜さんプロデュースのブランドが発売される
という記事を雑誌で読んで、昨年の今頃話していたのはこのことだった
のだろうと驚きました。
日本では実質的に稼働中のワイナリー130軒の中で、ドメーヌと言えるワイナリーは1割未満です。
ドメーヌとは自社畑のぶどうのみでワインを造るワイナリーのことで、9割強のワイナリーは買い付けぶどうも使って
ワインを造っています。それどころか現実には自社畑といっても5ヘクタール以下で、自社で造るワインの原料の大半
を買い付けぶどうに頼っている状態です。ドメーヌ化はワインの味わいと密接な関係にある収量制限、収穫時期の変更、
農薬の変更や減少にしても、そのリスクをワイナリーが負わなければならないという危険性があります。
シャトーメルシャン、サッポロワインなどの大手メーカーをはじめ、小布施ワイナリーの曽我さん、タケダワイナリー
ボーペイサージュの岡本さん、金井醸造、ルミエールワイナリー、四恩醸造の小林さん、そしてこの中央葡萄酒も、
他にもたくさんいらっしゃいますが、「ワイン造りはぶどう造り」「決め手は畑」と考え100%ドメーヌ化を目指す
人々が増えています。日本の造り手を知ることは、フランスをはじめとする世界のヴィニュロンを知る手がかりに
なるのではないかと思います。ぶどう造りからワイン造りまでを全て自分でやるということは、それに伴うリスク
があって、またそのメリットもあるということを知っていて欲しいと思います。そのワインを知りたければ造り手
を知ろうと、オザミの皆様が造り手に興味を抱いていただけたらと思います。
次に訪れたのはルミエールワイナリーです。
アポイントもなく、突然訪れてしまい、さらに入り口付近に誰もいない。
「誰かいますか~?」と怪しい声を出しながら詮索していると、何やら
怪しげな下り階段が・・・。「すみませ~ん・・・」と小声を出しながら
恐る恐る階段を下るとそこは・・・。
何と、地下ワイン蔵&貯蔵庫。
ここって立ち入り禁止なのでは!?
と思いながらフラフラしていると後ろから、
「ど~しました??」と1人の男性が。
「ヤバい。見つかった!!」と慌てふためく
から余計に怪しい。
「あの、誰も人がいなかったので・・・」
といいわけがましく弁解していると、
彼は笑顔で、「ご見学ですか?じゃあ
案内しましょう」と、何て感じのいい人
なんだろう・・・怪しみもせずに。
ここが実際私がうろうろしていた所です。
そう、その人こそがルミエールワイナリーの醸造責任者
小山田さんでした。なんとも気さくな方で、しかも私が
銀座のスペインバルで働いているという話をしたら、
「もしかしてバニュルスですか?」と!バニュルスを
ご存じで、しかも何度かいらっしゃった事があるそうで。
突然訪問した私にも、本当に丁寧に、真剣に畑の説明や
醸造の方法など、詳しく話を聞かせていただきました。
こちらがルミエールワイナリーのぶどう畑です。
ちなみにまだ見学コース外の畑も特別に案内して
もらうことができました。驚いたことに、
スペインの主要品種である「テンプラニーリョ」
の畑がありました!ただワインになるのはまだ
まだ先の話ということですが、日本で育った
テンプラニーリョのワインは一体どんな香りで
どんな味わいなのか、とても興味深く思います。
美味しいワインを
造るには、清潔な
事が肝心!
この日、搾ったぶどうのしぼりカスがトラック
で運ばれてきたところに出くわしました。
ものすごい量でした。醸造所も見せて頂いて、今まさにワインが造られている最中のステンレスタンクもあります。
一通り見学が終わると、←こんなところでワインを飲み
ながら色々お話を伺いました。
「このワイナリーでビオのワインを造ったりはしない
のですか?」と質問した私。
「鈴木さん、何をおっしゃる・・・」と不適な笑みを
浮かべる小山田さん。本当に勉強不足で突然訪れて、
大恥をかいてしまいました。ここでは2004年から、
オーガニックのワイン造りを開始し、2006年には全て
の区画で合成農薬の全廃。今では完全ビオディナミ農法によるぶどう造りをしています。
本当に、私の日本ワインに対する知識不足ですが、多くの造り手が、今ビオディナミでワイン造りを
しています。いわゆる自然派の造り手が、こんなにもたくさん日本にいたのだということに、
正直とても驚きました。小山田さんの場合は、ニコラ・ジョリーの講演がきっかけだそうです。
ちなみに小山田さんに誘われて一緒に講演に出向いた、金井醸造の金井一郎さんも、今は完全にビオ
の造り手として定着しているそうです。
そう言えば、畑は下草がのびのびと生えていて
「草、刈らなくていいのかなぁ」と思った私。
数年前から畑は耕さず、草も生えっ放しの状態
なのだとか。自然に枯れた草はしだいに土の
上に層をつくり、自然の循環が繰り返される。
3年目で結果が出始めたそうです。
ぶどうの新梢はむやみに伸びなくなり、実も
いい感じのバラ房になった。草が延びている
ので、虫の種類が増えたが、天敵が増えた為か
害虫は少なくなったと。
日本で、そんな風にぶどう造りをしている人がたくさんいるというのを知れただけでも、嬉しく
思いました。本当に、何から何までお世話になって、小山田さんには感謝しております。
ちなみにこれ以外にも、勝沼醸造、フジッコワイナリー、丸藤ワイナリー、山梨ワイン、
麻屋葡萄酒など、たくさんのワイナリーをまわらせて頂きましたが、全てを紹介するとかなり長く
なってしまうので、今回は省略させて頂きます。
実際その土地に出向かないとわからない事、
経験できないことがたくさんあります。
例えば昼夜の寒暖の差、と文字で見て理解するのと、
実際行って体験するのとでは全く違うと思います。
昼は炎天下の中、汗をかきながら死にそうになって
歩いていたのに、日が落ちた途端本当にびっくりする
くらい寒くなるんです。夏なのに、長袖じゃないと
肌寒いくらい。坂道の多さにもびっくりです。
歩いて色々回ろうと思っていたのに、坂だらけ。
このような土地だから、ぶどうが育つ環境なの
だろうと改めて実感しました。
以前、某ビストロで食事をした際、店長に「こんなワイン飲んだことある?」とオススメされて
飲んだ白ワインがあります。色合いからして普通じゃない。でもフランスのビオのワインなのだろう、
と思っていたら、何と日本の甲州と聞いてびっくり。赤銅色とでもいうのでしょうか。
とにかく「なんじゃこりゃ~!」という不思議なワイン。常識破りの甲州を飲んでみて、日本でも
こんなワインが造れるのかぁ・・・と。そう思ったら造った人に会いに行こう!!と思いまして、今年は
足利、ココ・ファーム・ワイナリーへ行ってきます。
ちなみに飲んだワインは左写真の「甲州FOS」。
甲州からこんな色のワインが造れるなんて。しかもパワフルボディ。
熟成によって、もっと複雑味が増すワインだそうです。
1泊2日でも、日帰りでも行けてしまう日本のワイナリー。
是非ぜひ、足を運んでみて下さい。
造り手さんのお話は、本当に興味深くて勉強になります。
もっともっとワインが好きになって、もっと知りたくなって
しまうと思います。