1 「どうしてダイシャクシギは庭に来ようとしないの?」 「安全な場所にいることが好きなんだよ。自分達の居場所にとどまっているんだ。 」 彼らが進み続けているうちに、周りの空気がさらに押し迫ってくるようになり、息をするのが苦しくな り、沼地のある前方をはっきりと見ることができなくて、霧は空に溶け込んでいった。あちこちに、小 川が小さくて濁ったため池やくぼ地に流れ込み、その中の水は、そこに捨てられて何年も経った古い缶 や金属でできたわく箱から出たさびによって赤くなっていた。広がったさびは、古い血のように見えた。 ハエが群れをなして水の上で止まっていた。 「僕たち浜辺に行くの?」 「そうだよ。 」 「浜辺で何か見つけるかもしれない。 」 よく、彼らは小石の間を、琥珀や黒玉のかけらや、古い留め金やボタンや海できれいになったなめら かなコインを探した。少年は自分の部屋で、ダンボールの中にそれらを入れコレクションしていた。 彼らは歩き続け、それから彼らにまとわりついていた深い沈黙から抜け出し、羽のきしむ音が、だん だん近く聞こえてきて、2つの薄い木の板が踏みならされたような音とゆっくり調和した。ワシと同じ くらい大きいハクチョウが、低く飛びながら彼らの頭の上にやってきたため、少年は息をのんで、ハク チョウの大きさと近さに恐れながら、少しの間見上げた。 2 男の子は差し迫って言った。 「白鳥は人に襲いかかる。もしぶつかってきたら、もし羽でたたいてきたら、 腕が引きちぎられるよ。そうじゃないよね?」 「だけど、白鳥たちは何も気づいてないよ。さあ、おいで。 放っておこう。 」 「けどそうなんだ。そうじゃないの?」 「うーん、そうかもしれない。 」老人は、大きく て grey-white の形をしたものが、海のほうへと無様に飛んでいくのを見た。 さらなる100年もの間に、沼地を横切る2つの小道の合流点では、5年前の後に休業宣告をした廃 墟の水車場があり、半分故障していて、帆は引きはがされていた。アーチ形に曲がった出入り口の下、 中は暗くてじめじめしていたし、壁は黄色っぽいコケで覆われていたし、フロアの泥のくぼ地には塩気 のある水があった。 暑い夏の盛り、青空の日々がちらちら光る中、老人と男の子は、昼食のための食べ物をいっぱいに入 れた網目の買い物袋を持ってビーチへと向かう途中ここを通り過ぎた。そのとき水車場は聖域で、涼や かで静かなようだった。男の子は中へ入り、そこに立って、柔らかく叫び、自分の声のこだまが壁をぐ るぐる回って軽やかに鳴るのを聞いた。いま、男の子は多少離れてその小道で突然止まった。 3 「行きたくないよ。 」 「浜辺に向かっているところなんだ。 」 「あのそばを通りたくないよ。 」 「水車場かい?」 「ネズミがいるんだ。 」 「いないさ。 」 「それに、飛んでいるものもいる。黒くて逆さまにぶら下がっている。 」 「コウモリかい?何をコウモリで恐れることがあるんだい?モードランの納屋にいる時に見たことがあ るだろう?あいつらは害はないよ。 」 「戻りたいよ。 」 「水車場の中へ入っていく必要はないんだ。だれがそうするように言ったかい?今は海のあるところに 向かっているところなんだ。 」 「今すぐ戻りたいよ。 」 彼はめったに怖がることはなかった。しかし、沼沢地の静かな広々した土地の真ん中のそこに立って いると、老人は再び不安を感じた。何かがここで起こるかもしれない。何も動くものはなく、鳥が姿を 隠したまま、ただ不気味な声で泣き叫んでいるここで、また流れのない水と空気が圧迫しているもとに 生き物がいるここで。そんな恐怖で彼の背中に汗が流れた。何かが自分たちに起こるかもしれない、何 かが… 何が起こるというのだろう? 4 その時、さほど遠くない前方で、彼ら両方が共に同じ時間彼を見ていた。一人の男性は、腕の下に銃を 所持していて、長身・黒人で、そして薄暗くはっきり見えない地平線を背にして飛んで来るカラスのよ うで、彼を見るように、彼らは同様にアシの巣からパニックを突然起こして出てきた二羽のマガモを見、 銃声を聞いた。三つの銃声は鋭い音をたて、かなりの距離に響き渡った。空気は不愉快な音の波と共に 反響し続けた。そのマガモらはすぐに落下し、飛んでいる最中に撃ったため、マガモらは逸れ、転倒し、 まっすぐに落ちた。 銃を所持していた男性は、急いで前進し始め、犬がするように、獲物を探して取るために草と曲がっ たアシ、巣をかき回した。 「私は帰りたい、帰りたいんだ」 言葉なしで、老人は彼の腕を掴み、彼らは引き返し、足早に来た道を戻り始めた。あたかも彼らは怖 がっていたが、ついてきて、倒れ、息を切らして暑苦しくて汗が出ても彼らを支えたりしなかったが、 家に向かってまっすぐ進むため、小道の隠れ場や木に着くためには欠けていた。 どうでもいい事や持ち合わせている気持ちは、沼地を横切る時に絶対に言うが、少年は銃を所持して いる男性や、生きて飛んでいたマガモらが突然死んでしまったことを話に出さなかった。晩方、老人は 彼が本に絵を置いて、心を悩ませてウサギにギシギシの葉を与え、食べ物を残しているサインを見た。 5 しかし男の子は、いつもより口数が少ないだけのようで、表情がややかたく、物思いにふけっていた。 彼は夜中に目覚めて起き上がり、男の子が怖い夢を見て目を覚ましているのではないかと心配し、男 の子のところへ行って暗闇の中で目を凝らした。しかし、寝息が聞こえてくるだけで、男の子はまった く動かず、長くまっすぐに伸びてベッドに横たわっていた。 彼はこれから先のことを考え、今後起こり得る恐ろしいことの数々――男の子に衝撃や悲しみ、苦し みをもたらす様々なこと、そして今日、二羽のカモが殺される光景から男の子を庇えなかったように、 自分がその子を守ってやれそうにない様々なこと――を想像し、頭がいっぱいになった。彼は絶望した。 翌朝になってやっと、なにしろあの冬を生き延びたのだし、これから二人の先にあるのはただ太陽の光 と暖かさと緑だけだということを思い出して、気が楽になった。 それにもかかわらず、彼はまだ何かが起き、二人の平穏が乱されるのではないかと半ば恐れていた。一 週間以上何も起こらず、彼の不安は治まった。そして春になり、りんごとナシの花は、クリーム色の大 きなかたまりになって枝をたわませ、果樹園の草は男の子の膝の高さまで伸び、太陽は湿地の向こうに さんさんと輝き、川の水は紺碧で、流れはガラスのように透き通り、吹く風は暖かく、かすかに塩と土 の匂いがした。
© Copyright 2024 Paperzz