二揺れる葉山道を散歩していると、不思議なものを目にする。不思議と言っても、特別驚愕するような事ではない。路傍の名も知らぬ草の茂みの葉が、一枚だけ動いている。おいでおいでの、手の動きなのか。他の葉は微動もしない。不思議だ。葉のところだけが、弱い風の通り道になっているのか。植物の成長の過程で起こる現象か。虫などの生き物が葉のうらにいて、揺すっているのか。幾ら考えても、解らない。目を離すのが、不安な気がする。不思議な現象に引き付けられて暫らく立ち止まっていた。いやだいやだのようにも見え、おいでおいでのようにも思われる。一枚の葉に心を奪われてしまう。近づいて顔を寄せ、よく見るが風の気配は無い。葉の裏にも虫など居ない。植物の葉自体が運動しているとしか思われない。ある種の木の葉は刺激を与えると動くようだ。この草の葉は動く種類の植物なのか。何のために動いているのか。食虫植物は甘いかおりで、餌の虫をおびき寄せるらしい。不思議な動きをして、虫をおびき寄せているのか。好奇心旺盛な昆虫が存在するものだろうか。私は、はっと気がついた。身震いするような衝撃を受けた。草の葉に引き寄せられているのは、私なのだ。草は私をさそい、立ち止まらせようとしている。草の動きは罠なのだ。私は急いでその場を離れた。山道は深く迷宮だった。