*『東京新聞』2004年4月11日付、山本純一著『メキシコから世界が見える』 著者の意図は、グローバリゼーションとは「グローバルとローカルが緊張関係をはらみ ながら結合もしくは激しく衝突する、″グローカリゼーション″とでもいえるような現象であ る」との問題意識から、米国に隣接するメキシコにおいてグローバリゼーションがどのよ うな影響を及ぼしているかを描き出すことにある。 本書は二部から構成されており、北部の米墨国境地帯におけるマキラドーラ(保税加工 輸出区)に設置された外資企業の実態、及び南部チアパス州の先住民社会における「連帯 経済」の可能性を、それぞれ現地調査の結果に基づいて論じている。 マキドーラ企業の実態も世界経済の再編成という意味から興味深いが、特に注目される のは、先住民社会で進められている「連帯経済」の試みである。 「連帯経済」とは、新自由主義的な「経済のグローバル化」が進展している中で、市場 競争において弱者の立場を強いられる先住民が模索している生き残り戦略であると同時に 新自由主義を克服する可能性をも秘めた選択肢である。具体的には、先住民が経済危機の 中で自主的に形成した有機コーヒー生産者の共同労働に基づく小規模協同組合を基盤とし て展開されている。また、協同労働を通じて「何処に向かって、何のために、なぜ働くの かとういうビジョンをもった″新しい労働者″」の主体形成が目指される。すなわち、グロー バリゼーションの下で新たな集団的な主体形成が実現しつつある。 著者は、弱者の立場を強いられた人々と「どのように連帯すれば、経済的合理性と効率 性を至上の原理とする市場メカニズムと併存する、もしくはそれを乗り越える共生の場を 切り開くことができるのか」と問いかけ、「日常レベルに根ざした連帯、共生を考える必要 がある」との立場から、 「連帯経済」との連携を提起する。弱肉強食の新自由主義モデルを 乗り越える方策を考える上で貴重な示唆を与えられる書である。
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